JP4161251B2 - 白色被覆ポリエステルフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷鮮明性が良好で、インキの種類に関わらず、紫外線硬化タイプ及び酸化重合(あるいは溶剤)タイプ等の種類の異なるインキであってもインキ密着性に優れ、かつオフセット印刷時の湿し水適性(水負け性)、帯電防止性、傷の付きにくさにも優れた、テレホンカード、キャッシュカード、各種クレジットカード、磁気乗車券、IDカード、磁気カード、ICカード等の各種カード、ラベル等の印刷材料、グラフィック材料等の工業材料などの基材として好適な、白色被覆ポリエステルフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性等の優れた特性を有することから、磁気記録材料、包装材料、電気絶縁材料、感光材料、製図材料、写真材料等多くの分野の基材フィルムとして使用されている。
【0003】
しかしながら、二軸延伸フィルム表面は高度に結晶配向されているため、各種塗料、接着剤、インキ等との接着性が乏しい等の欠点を有している。特に、ラベル用途や磁気記録カード用途等では、その最終製品の使用状態や保管状態が各個人によって大きく異なり、例えば保管中にラベルや磁気記録カードが一時的にではあるが、折れ曲がる状態を経ることがある。この時、基材フィルムと被覆物(装飾層や磁気記録層等)との接着性が乏しいと、界面で剥離し製品外観を損なう、あるいは磁気記録カードとしての機能を失うことになる。そのため、従来からポリエステルフィルム表面に種々の方法により接着性を付与する検討がなされてきた。
【0004】
フィルム表面に接着性を付与する方法としては、基材のポリエステルフィルム表面にコロナ放電処理する方法、紫外線を照射する方法、プラズマ処理を行う方法等による表面活性化法、酸、アルカリ、アミン水溶液等による表面エッチング法、フィルム表面にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂を塗布層として設ける方法が知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開昭55−15825号公報
【特許文献2】
特開昭58−78761号公報
【特許文献3】
特開昭60−248232号公報
【0006】
特に、塗布法によって被覆層を設け、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムに上記樹脂成分を含有する塗布液を塗布し、乾燥後、少なくとも一方向に延伸し、熱処理を施して結晶配向を完了させる方法(インラインコート法)が一般的に行われている。
【0007】
ポリエステル樹脂の水性塗剤をポリエステルフィルム上に塗布する方法に関しても多数知られている(例えば、特許文献4、5)。
【0008】
【特許文献4】
特開昭50−39375号公報
【特許文献5】
特開昭60−11358号公報
【0009】
しかしながら、従来のポリエステル樹脂の水性塗剤より形成された被覆層は、基材のポリエステルフィルムとの接着性は優れるが、印刷インキ等の被覆物との密着性、さらには折り曲げた際の接着性に乏しいという欠点があった。
【0010】
従来の各種インキ密着性タイプのポリエステル系被覆フィルムにおいても、基材ポリエステルフィルムの表面に、特定の樹脂からなる被覆層を設けた方法が多く見られる。前記被覆層の構成樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びアクリル系樹脂等を、単一あるいは2種以上混合したもの、また前記樹脂と特定の架橋剤(メラミン、イソシアネート等)とを混合したものなどが挙げられる。
【0011】
しかしながら、前記被覆層の多くは、酸化重合(あるいは溶剤)タイプのインキとの密着性は良好であるが、紫外線硬化タイプのインキ(以下、UV硬化インキと略す場合がある)の密着性に劣ったり、逆にUV硬化インキとの密着性は良好であるが、酸化重合(あるいは溶剤)タイプのインキの密着性に劣ったりなど、いずれのインキに対しても密着性に優れた被覆層は得られていないのが現状である。
また、インキとの密着性に優れた被覆層はインキとの親和性を高めるために被覆層のガラス転移温度を室温以下としたものが多く、このため、一般には傷などが入りやすくなる等の問題がある。さらに白色ポリエステルフィルムの場合には白色顔料等が添加されており、通常の透明フィルムと比較すると、最終的に得られるフィルム表面が硬く脆くなる傾向があり、柔らかい、または、脆い通常の被覆層では特に傷が付きやすくなる問題があった。
【0012】
さらに、ラベルやカード基材として用いる場合には、どのような流通時の保存環境や使用環境下においても、インキ密着性ができるだけ変化しないことが要求される用途もある。その用途で使用する場合、被覆層には高温高湿下でのインキ密着性にも優れていることも要求されるが、インキの種類に関わらずインキ密着性に優れ、且つ高温高湿下でのインキ密着性にも優れるという被覆ポリエステルフィルムは従来の易接着性ポリエステルフィルムでは得られていない。
【0013】
また、基材のポリエステルフィルム、及び接着性改良のために被覆層を設けた被覆ポリエステルフィルムは、いずれも帯電しやすく、製膜工程でのトラブルのみならず、加工工程における静電気障害を引き起こし易いという欠点もあった。
【0014】
これらの静電気による問題を改善するために、アルキルベンゼンスルホン酸塩基やアルキルリン酸塩基などの低分子量化合物や界面活性剤タイプ等の帯電防止剤を基材フィルム中に含有させたり、塗剤中に帯電防止剤を配合して基材フィルムに塗布させたりすることが一般に行われている。しかしながら、上記の低分子量化合物は、その含有量が少ないと帯電防止性に劣り、また良好な帯電防止性を得るために含有量を多くすると、逆に低分子量化合物がフィルム表面や界面にブリードアウトして接着性が悪化するという問題があった。
【0015】
また、上記被覆フィルムのプライマー層に印刷する場合、印刷方法は任意に選択されるが、特にオフセット印刷などの湿し水適性(水負け性)が重要視される印刷工程では、かすれ、にじみ、汚れ等の問題があった。
【0016】
オフセット印刷は、水に濡れやすく油をはじく部分(非画像部)と、逆に水をはじき油に濡れやすい部分(画像部)を平らな版の上に作り、そこに最初に湿し水を塗布し、次に油性のインキを塗布すると親油性の部分だけにインクがのり、インキが塗られた版から別のゴム版に印刷部が転写され、再度転写部を被印刷材に転写させる、水と油の分離性を利用した印刷方式である。
【0017】
印刷機に湿し水を供給する方式としては、湿し水を版面に供給する方式、あるいは湿し水をインキ搬送用ローラー上に供給する方式が一般に用いられている。しかしながら、これらの汎用の湿し水供給方式を用いて、汚れがなく画像再現性の良い印刷物を得るには、インキと湿し水の供給量や印刷物の水との接触角を適切な範囲に調整することが必要であるが、従来の被覆ポリエステルフィルムではインキ密着性及び帯電防止性を維持しながら、湿し水適性(水負け性)を改善するための適切な範囲は存在しなかった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記従来の問題点を解消し、印刷鮮明性が良好で、インキの種類に関わらずインキ密着性に優れ、さらに帯電防止性及びオフセット印刷時の湿し水適性(水負け性)にも優れる白色被覆ポリエステルフィルムを提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明における第1の発明は、ポリエステル樹脂と白色顔料を含有する基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも片面に被覆層を設けた白色被覆ポリエステルフィルムであって、前記被覆層は変性樹脂及びスルホン酸塩基含有帯電防止剤から主として構成され、前記変性樹脂が疎水性ポリエステル系樹脂に二重結合を有する酸無水物を含有するモノマーを少なくとも1種含有する重合性不飽和単量体およびスチレンがグラフトされた自己架橋性ポリエステル系グラフト共重合体であり、前記スルホン酸塩基含有帯電防止剤がポリスチレンスルホン酸塩を主成分とする高分子化合物であり、前記被覆層は破断強度が10〜100MPaであり、25℃で65%RHにおける表面固有抵抗値が1×106〜1×1013Ω/□であり、水との接触角が60〜80度であることを特徴とする白色被覆ポリエステルフィルムである。
【0020】
第2の発明は、前記変性樹脂のガラス転移温度が10〜100℃であることを特徴とする第1の発明に記載の白色被覆ポリエステルフィルムである。
【0021】
第3の発明は、前記被覆層側から測定した色調b値が−5.0〜2.0であることを特徴とする第1または2記載の白色被覆ポリエステルフィルムである。
【0024】
第4の発明は、前記第1〜第3の発明の白色被覆ポリエステルフィルムを用いることを特徴とするカードである。
【0025】
【発明の実施の形態】
[基材]
本発明におけるポリエステル樹脂とは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸又はそのエステルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどのグリコールとを重縮合させて製造されるポリエステル樹脂である。これらのポリエステル樹脂は、(1)芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化反応させ、次いで重縮合反応を行う方法のほか、(2)芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応させ、次いで重縮合反応を行う方法、あるいは(3)芳香族ジカルボン酸のジグリコールエステルを重縮合させる方法、などの公知の方法によって製造することができる。
【0026】
かかるポリエステル樹脂の代表例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートあるいはポリエチレン−2、6−ナフタレートなどが挙げられる。前記ポリエステル樹脂はホモポリマーであってもよく、第三成分を共重合したものであっても良い。本発明においては、エチレンテレフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位あるいはエチレン−2、6−ナフタレート単位が70モル%以上、好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であるポリエステル樹脂が好ましい。
【0027】
前記ポリエステル樹脂には、隠蔽性及び印刷鮮明性の点から、白色顔料を含有させることが必要である。そのほかに、必要に応じて、不活性無機粒子、耐熱性有機粒子、酸化防止剤、帯電防止剤、白色顔料以外の着色顔料、蛍光増白剤、架橋剤、紫外線吸収剤等を含有させることができる。
【0028】
本発明の基材ポリエステルフィルムに含有させる白色顔料としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸カルシウム等が好適である。また、これらの白色顔料には、分散性向上等の目的のため各種有機、無機表面処理を施すことができる。前記白色顔料の中でも屈折率の高い酸化チタンが特に好ましく、少量でもポリエステルに高い白色性を発現させることが可能である。
【0029】
白色顔料の含有量の下限は、隠蔽性及び印刷鮮明性の点から、ポリエステルに対して10質量%であることが好ましく、より好ましくは12質量%、特に好ましくは15質量%である。一方、製膜安定性の点から、上限は45質量%が好ましく、より好ましくは35質量%であり、特に好ましくは25質量%である。
【0030】
また、白色顔料として特に酸化チタンを用いた場合、酸化チタンは紫外線の波長領域に吸収を有する。そのため、白色性をさらに高めるために蛍光増白剤を併用する場合、蛍光増白剤による増白効果を発揮するに必要な紫外線を酸化チタンが吸収し白色度が低下する。この傾向は、酸化チタンの含有量が多くなると顕著になる。この理由からも、酸化チタンの含有量の上限は45質量%とすることが好ましい。
【0031】
また、基材ポリエステルフィルム中には白色顔料と該白色顔料より平均粒子径が大きい少なくとも1種の無機粒子を併用させることが好ましい。無機粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸カルシウムなどの白色顔料でもよいし、シリカなどのようなポリエステルとの屈折率の差が小さい無機粒子でもかまわない。また、2種類の平均粒径の異なる白色顔料を用いる場合、該白色顔料は同種でも良いし、異種でもかまわない。要するに、平均粒子径の異なる2種類の無機粒子を用い、平均粒子径の小さい無機粒子が白色顔料であることが、隠蔽性とハンドリング性の点から必要なのである。平均粒子径の大きな無機粒子としては、コスト、取扱い性の点からシリカが好ましい。
【0032】
白色顔料より平均粒子径が大きい無機粒子を併用させることにより、後加工で印刷層などを設ける際に、被覆層表面に適切な表面凹凸を形成させることができる。その結果、インキの発色性を向上させ、かつフィルム製造工程及び後加工工程でのハンドリング性を良好にすることができる。基材フィルム中に含有させる無機粒子の平均粒子径は、1.0μm以上とすることが好ましく、粒子含有量は平均粒子径の大きな無機粒子よりも平均粒子径の小さな白色顔料のほうを多くすることが好ましい。
【0033】
また、本発明で用いる基材フィルムは、ポリエステル樹脂と該ポリエステル樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂を空洞形成剤として含有させ、次いで少なくとも一方向に延伸することによって空洞を形成させた空洞含有ポリエステル系フィルムでもよい。
【0034】
ポリエステル樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等が例示されるが、これらに限定されるものではない。なお、前記の非相溶な熱可塑性樹脂のなかでも、ポリオレフィン系樹脂とポリスチレン樹脂を必須成分として含むことが好ましい。
【0035】
基材フィルムとして前記空洞含有ポリエステル系フィルムを用いる場合、フィルムの見かけ密度は、フィルム強度の点から、0.5g/cm3以上とすることが好ましい。特に、磁気カードやICカードなどの情報記録材料や印刷材料として使用する際には、フィルムの腰感(剛性)の点から、見かけ密度の下限値を好ましくは0.8g/cm3、より好ましくは0.9g/cm3、特に好ましくは1.0g/cm3とすることが好ましい。
【0036】
また、基材ポリエステルフィルムの層構成は単層構成でも、積層構成でもよい。積層構成の基材フィルムの場合、中心層にフィルム製造時に屑となったフィルム片を回収し、フィルム原料として再利用することができる。このような屑フィルムの再利用は工業的に生産する上でコスト削減の点から極めて意義がある。
【0037】
[被覆層]
本発明の白色被覆ポリエステルフィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に被覆層が形成されている。前記被覆層は変性樹脂及びスルホン酸塩基含有帯電防止剤から主として構成され、前記被覆層に対してそれらの総量が好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上とする。
【0038】
接着性改質樹脂成分として用いる変性樹脂に関し、以下に詳しく説明する。
【0039】
(変性樹脂)
本発明において、樹脂を変性する目的は、被覆層を構成する樹脂の破断強度を10〜100MPaに高めることにある。具体的な変性方法としては、ベース樹脂をウレタン変性、カーボネート変性、アクリル変性、ビニル変性などによるブロック化、グラフト化等のほかに、ベース樹脂に硬化剤との反応性を有する官能基を導入し、硬化後の破断強度を効果的に高めることも挙げられる。本発明では、これらの方法を一種または二種以上用いる。
【0040】
前記硬化剤との反応性を有する官能基の量は、反応効率にもよるが、50〜5,000eq/106gとすることが好ましく、特に好ましくは100〜5,000eq/106gである。前記官能基量が50eq/106g未満の場合には反応効率が低くなりやすく、変性の効果が不十分となる場合がある。また、反応基量が5,000eq/106gを越える場合には、変性により逆に樹脂が脆くなりやすい。
【0041】
被覆層に用いる樹脂を変性して樹脂の破断強度を高めることにより、前記白色ポリエステルフィルム(積層フィルムの場合は白色顔料を有する表面層)と被覆層との破断強度の差を小さくすることができ、フィルムの加工工程における傷などが発生しにくくなる。また、各種印刷物、磁気カードやICカードなどのカード用フィルムとしたときに、傷つきによる印刷品位の低下や剥離を抑制することができる。特に、表面層および表面層付近に白色顔料を有し、表面層が脆くなっている白色ポリエステルフィルムを基材フィルムとして用いた場合に顕著な効果が見られる。
【0042】
変性されるベース樹脂としては各種の樹脂を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。本発明では、変性樹脂としてこれらの樹脂に限定されるものではないが、樹脂の変性にあたっては、溶剤に溶解した状態で行うことが望ましいことから、ベース樹脂としては溶剤に可溶であることが望ましい。これらのなかで、基材であるポリエステルフィルムとの密着性や被覆層上の印刷層、磁気記録層や接着剤層との接着性の面で、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂やこれらの混合物が好ましい。
【0043】
(変性方法)
樹脂の変性方法としては、破断強度を高めることが可能な手法であれば、前記方法以外にも公知の手法を用いることが可能である。磁気カードやICカード用に、印刷層や磁性層などとの密着性を高めたり、帯電防止機能を付与した被覆層を設けた白色被覆ポリエステルフィルムには、特に、剥離や傷が起こりやすいという問題点があった。本発明者らは、被覆層中の樹脂の破断強度を高めることにより、前記問題点が改善できることを見出した。これは白色ポリエステルフィルム表面の白色顔料含有層との強度差を小さくすることにより改善されたためと考えられる。
【0044】
被覆層に用いる樹脂の破断強度を高める方法としては、ウレタン化やエステル化により硬い骨格を有するセグメントをベース樹脂中に導入するブロック化のほかに、ベース樹脂分子鎖の動きにくさを高めるグラフト化や架橋剤と反応性を有する官能基の導入が挙げられる。
【0045】
ウレタン化についてはベース樹脂中のヒドロキシル基、アミノ基などの官能基を多官能イソシアネート化合物または多官能イソシアネート化合物と鎖延長剤により分子中にウレタン結合を導入するものであり、用いる多官能イソシアネート化合物や鎖延長剤の種類や量により破断強度を高めることができる。
【0046】
好ましい多官能イソシアネート化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知の化合物を用いることが可能である。また、鎖延長剤としては、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメチロール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメチロール、1,2−プロピレングリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の多価ヒドロキシ化合物や、ネオペンチルジアミン、エチレンジアミン等の多価アミン化合物等を用いることが可能である。
【0047】
エステル化については、ベース樹脂中のカルボキシル基やヒドロキシル基をエポキシ化合物やカーボネート化合物によりエステル化するものであり、各種の化合物を用いることができる。
【0048】
グラフト化については、ベース樹脂に側鎖を(または、ベース樹脂を側鎖として)化学的に結合させるものであり、公知の方法を用いることが可能である。反応性官能基の導入については、共重合を含めて各種の方法が利用可能である。
【0049】
これらの方法の中で、ポリエステルフィルムとの密着性、各種インキ、磁気塗料や接着剤との密着性、耐水性、耐熱性、耐ブロッキング性の面で、グラフト化ポリエステル樹脂及びグラフト化ポリウレタン樹脂が好ましい。特に好ましくは、疎水性ポリエステル系樹脂に二重結合を有する酸無水物を含有するモノマーを少なくとも1種含有する重合性不飽和単量体がグラフトされた自己架橋性ポリエステル系グラフト共重合体である。
【0050】
以下に、前記グラフト化ポリエステル樹脂について説明する。なお、グラフト化ポリウレタン樹脂はポリエステル樹脂の代りにポリウレタン樹脂を用いたものであり、変性の方法についてはグラフト化ポリエステル樹脂と同様である。
【0051】
(グラフト化ポリエステル樹脂)
グラフト化ポリエステル樹脂は、一般には、疎水性共重合ポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解させた状態において、ラジカル開始剤およびラジカル重合性単量体混合物を反応せしめることにより製造することができる。グラフト化反応終了後の反応生成物は、疎水性共重合ポリエステルとラジカル重合性単量体とのグラフト重合体以外に、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル及び疎水性共重合ポリエステルにグラフト化しなかったラジカル重合体をも含有している。本発明の被覆層における主たる構成成分の1つであるグラフト共重合体とは、これらすべてが含まれる。
【0052】
なお、前記の「グラフト化」とは、幹ポリマーを主鎖とした際に、主鎖とは異なる重合体からなる枝ポリマーを側鎖に導入することを意味する。
【0053】
本発明において、被覆層には印刷層などの後加工処理が施される。そのため、被覆層と後加工処理層との接着性の点から、疎水性共重合ポリエステル樹脂にラジカル重合性単量体をグラフト重合させた反応物の酸価は600eq/106g以上であることが好ましい。より好ましくは、反応物の酸価は1200eq/106g以上である。
【0054】
疎水性共重合ポリエステル樹脂(a)とラジカル重合性単量体(b)との質量比率(a/b)は、接着性の点から40/60以上であることが好ましく、さらに好ましくは55/45以上であり、特に好ましくは60/40以上である。また、前記質量比(a/b)は、ブロッキング性の点から、95/5以下であることが好ましく、さらに好ましくは93/7以下であり、特に好ましくは90/10の範囲である。
【0055】
前記グラフト化ポリエステル樹脂は、有機溶媒の溶液または分散液、あるいは、水系溶媒の溶液または分散液の形態になる。特に、水系溶媒の分散液つまり、水分散性樹脂の形態が、作業環境、塗布性の点で好ましい。このような水分散性樹脂を得るには、通常、有機溶媒中で、前記疎水性共重合ポリエステル樹脂に、親水性ラジカル重合性単量体を含むラジカル重合性単量体をグラフト重合し、次いで、水添加、有機溶媒留去により達成される。
【0056】
前記水分散性樹脂は、水系溶媒中で微粒子状に分散し、レーザー光散乱法により測定される平均粒子径は500nm以下であり、半透明ないし乳白色の外観を呈する。重合方法の調整により、多様な平均粒子径の水分散性樹脂が得られるが、平均粒子径は10〜500nmの範囲が好適である。また、分散安定性の点で400nm以下が好ましく、より好ましくは300nm以下である。平均粒子径が500nmを越えると被覆層表面の光沢が低下し、被覆フィルムの透明性が低下しやすくなる。一方、平均粒子径が10nm未満では、接着性や耐水性が低下しやすくなり好ましくない。
【0057】
前記水分散性樹脂の重合に使用する親水性ラジカル重合性単量体とは、親水基を有するか、後で親水基に変化することができる基を指す。親水基を有するラジカル重合性単量体としては、カルボキシル基、水酸基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、アミド基、第4級アンモニウム塩基等を含むラジカル重合性単量体などが例示できる。
【0058】
一方、親水基に変化することができるラジカル重合性単量体としては、酸無水物基、グリシジル基、クロル基などの官能基を有するラジカル重合性単量体が例示できる。これらの中で、水分散性の点から、カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。すなわち、カルボキシル基を有するか、カルボキシル基を発生することができる官能基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。
【0059】
また、前記グラフト化ポリエステル樹脂を含む変性樹脂は、傷の入りにくさの点から、破断強度の高いものが好ましい。具体的には、変性樹脂、スルホン酸塩基含有帯電防止剤、架橋剤などの他の成分を配合した樹脂組成物をフィルム化した際の破断強度が10MPa以上であることが必要である。そのためには、変性樹脂単独でフィルム化した際の破断強度が10MPa以上であることが好ましい。破断強度は各種の測定方法により求めることができる。しかしながら、破断強度が高すぎる場合には、基材フィルムの被覆層側表面近傍で劈開が起こりやすくなるため、破断強度の上限は100MPaとする。
【0060】
一方、変性を行うベース樹脂は、他の被対象物との接着性の点から、ガラス転移温度が低いことが望ましく、高温高湿環境下でのインキ密着性の面から、ベース樹脂のガラス転移温度は10〜100℃の範囲にあることが好ましい。これらの樹脂を変性し破断強度を高めることで、接着性、インキ密着性、耐傷付き性、耐ブロッキング性のすべての特性を満足させることが可能となる。
【0061】
(ポリエステル樹脂)
グラフト化ポリエステル樹脂において、疎水性共重合ポリエステル樹脂とは、本来それ自身で水に分散または溶解しない本質的に水不溶性である必要がある。水に分散するか、あるいは水に溶解するポリエステル樹脂を、グラフト重合の際の幹ポリマーとして使用すると、接着性や耐水性が悪化し好ましくない。
【0062】
疎水性共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸が60〜99.5モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が0〜39.5モル%、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸が0.5〜10モル%であることが好ましい。より好ましくは、芳香族ジカルボン酸が68〜98モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が0〜30モル%、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸が2〜7モル%である。
【0063】
前記芳香族ジカルボン酸が60モル%未満である場合、あるいは前記脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が40モル%を越える場合には、接着強度が低下する傾向にある。また、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸が0.5モル%未満の場合には、ポリエステル樹脂に対するラジカル重合性単量体の効率的なグラフト化が行われにくくなり、逆に10モル%を越える場合には、グラフト化反応の後期に粘度が顕著に上昇し、均一な反応の進行を妨げられるので好ましくない。
【0064】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等を例示することができる。なお、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の親水基含有ジカルボン酸は、耐水性が低下するため、使用しない方が好ましい。
【0065】
脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等を例示することができる。また、脂環族ジカルボン酸としては、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、1、3−シクロヘキサンジカルボン酸、1、2−シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物等を例示することができる。
【0066】
重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸としては、(1)フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、などのα、β−不飽和ジカルボン酸、(2)2、5−ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸などの不飽和二重結合を含有する脂環族ジカルボン酸、などを例示することができる。これらの重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸のうち、重合性の点から、フマル酸、マレイン酸、2、5−ノルボルネンジカルボン酸が好ましい。
【0067】
一方、グリコール成分としては、炭素数2〜10の脂肪族グリコール、炭素数6〜12の脂環族グリコール、エーテル基含有グリコール、などが例示できる。これらのグリコール成分は、2種以上併用してもかまわない。
【0068】
炭素数2〜10の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1、6−ヘキサンジオール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール、1、9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等が挙げられる。また、炭素数6〜12の脂環族グリコールとしては、1、4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0069】
エーテル基含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらにビスフェノール類の二つのフェノール性水酸基に、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを付加して得られるグリコール類、例えば2、2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどを挙げることができる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールも必要により使用することができる。
【0070】
また、これらのグリコールの中でも、破断強度を高くするために好適なグリコールとして、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、シクロヘキサンジメチロール、トリシクロデカンジメチロール、シクロヘキサンジオールを含むことが好ましい。これらのグリコールは、全グリコール成分に対して、5〜80モル%共重合させることが好ましい。共重合組成比は、NMRなどにより分析可能である。前記グリコールは、全グリコール成分に対して5モル%未満では、導入の効果が小さい。一方、80モル%を越えると、重合中の溶融粘度が高くなりやすい。そのため、高分子量化が困難になり、逆に樹脂が脆くなる場合がある。
【0071】
前記疎水性共重合ポリエステル樹脂中には、0〜5モル%の3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを共重合することができる。
【0072】
3官能以上のポリカルボン酸としては、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、(無水)ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等が使用される。
【0073】
また、3官能以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が使用される。
【0074】
3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールは、全酸成分あるいは全グリコール成分に対し0〜5モル%、好ましくは0〜3モル%の範囲で共重合される。しかしながら、5モル%を越えると重合時のゲル化が起こりやすく、好ましくない。
【0075】
また、疎水性共重合ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、接着強度の点から下限が5、000であることが好ましい。また、重合時のゲル化などの点で、上限は50、000であることが好ましい。
【0076】
(重合性不飽和単量体含有ポリマー)
重合性不飽和単量体としては、各種のものが使用できる。例えば、各種(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエステル、ビニルエーテル、スチレンおよびスチレン誘導体、マレイン酸およびその無水物やエステル、フマル酸およびそのエステル、イタコン酸およびその無水物やエステルなどが挙げられる。
【0077】
これらの中でも、グラフト化ポリエステル樹脂の破断強度を高める点から、(1)フマル酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチルなどのフマル酸のモノエステルまたはジエステルマレイン酸とその無水物、(2)マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸のモノエステルまたはジエステル、(3)イタコン酸とその無水物、イタコン酸のモノエステルまたはジエステル、(4)フェニルマレイミド等のマレイミド、(5)スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロメチルスチレンなどのスチレン誘導体、(6)ビニルトルエン、(7)ジビニルベンゼンなどが好ましい。
【0078】
また、上記の成分に対して、各種(メタ)アクリル酸エステルも使用することができる。例えば、(1)アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等)、(2)2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのヒドロキシ含有アクリル単量体、(3)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N、N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドのアミド基含有アクリル単量体、(4)N、N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N、N−ジエチルアミノエチルメタクリレートのアミノ基含有アクリル単量体、(5)グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートのエポキシ基含有アクリル単量体、(6)アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等のカルボキシル基またはその塩を含有するアクリル単量体、などが挙げられる。
【0079】
これらの重合性不飽和単量体のなかで、マレイン酸無水物またはそのエステルは、グラフト化ポリエステルの破断強度を高める点で好ましい。上記単量体は1種もしくは2種以上を用いて共重合させることができる。
【0080】
(重合開始剤及びその他添加剤)
グラフト重合開始剤としては、当業者には公知の有機過酸化物類や有機アゾ化合物類を用いることができる。
【0081】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、有機アゾ化合物として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルパレロニトリル)などを挙げられる。グラフト重合を行うための重合開始剤の使用量は、重合性単量体に対して、少なくとも0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。
【0082】
重合開始剤の他に、枝ポリマーの鎖長を調節するための連鎖移動剤、例えばオクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールなどを必要に応じて用いることができる。この場合、重合性単量体に対して0〜5質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0083】
(反応溶媒)
グラフト化反応溶媒は、沸点が50〜250℃の水性有機溶媒から主として構成することが好ましい。ここで、水性有機溶媒とは20℃における水に対する溶解性が少なくとも10g/L以上、好ましくは20g/L以上であるものをいう。沸点が250℃を越えるものは、余りに蒸発速度がおそく、塗膜を加熱処理しても充分に除去することができないので好ましくない。一方、沸点が50℃未満では、それを溶媒としてグラフト化反応を実施する際に、50℃未満の温度でラジカルに解裂する開始剤を用いなければならず、取扱い上の危険が増大するため好ましくない。
【0084】
前記水性有機溶媒としては、疎水性共重合ポリエステル樹脂をよく溶解でき、かつカルボキシル基含有重合性単量体を含む重合性単量体混合物およびその重合体を比較的良く溶解できる、下記の第一群の水性有機溶媒が挙げられる。
【0085】
第一群の水性有機溶媒としては、(1)酢酸エチルなどのエステル類、(2)メチルエチルケトンなどのケトン類、(3)メチルイソブチルケトン、(4)シクロヘキサノン、(5)テトラヒドロフラン、ジオキサン、1、3−ジオキソランなどの環状エ−テル類、(6)エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコ−ルメチルエ−テル、プロピレングリコ−ルプロピルエ−テル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコ−ルブチルエ−テルなどのグリコ−ルエ−テル類、(7)メチルカルビト−ル、エチルカルビト−ル、ブチルカルビト−ルなどのカルビトール類、(8)エチレングリコ−ルジアセテ−ト、エチレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコ−ル類あるいはグリコ−ルエ−テルの低級エステル類、(9)ダイアセトンアルコールなどのケトンアルコール類、(10)ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのN−置換アミド類、などを例示することができる。
【0086】
また、前記水性有機溶媒として、共重合ポリエステル樹脂をほとんど溶解しないが、カルボキシル基含有重合性単量体を含む重合性単量体混合物およびその重合体を比較的よく溶解することができる、第二群の水性有機溶媒を用いることもできる。
【0087】
第二群の水性有機溶媒としては、水、低級アルコール類、低級カルボン酸類、低級アミン類などを挙げることができるが、これらの中でも炭素数1〜4のアルコール類およびグリコール類が特に好ましい。
【0088】
グラフト化反応を単一溶媒で行う場合は、第一群の水性有機溶媒からただ一種を選んで行うことができる。混合溶媒で行う場合は、第一群の水性有機溶媒からのみ複数種選ぶ場合、あるいは第一群の水性有機溶媒から少なくとも一種を選びそれに第二群の水性有機溶媒から少なくとも一種を加える場合がある。
【0089】
グラフト重合反応溶媒を第一群の水性有機溶媒からの単一溶媒とした場合と、第一群および第二群の水性有機溶媒のそれぞれ一種からなる混合溶媒とした場合のいずれにおいてもグラフト重合反応を行うことができる。しかし、前者の場合、グラフト化反応の進行挙動、グラフト化反応生成物およびそれから導かれる水分散体の外観、性状などに差異がみられるため、後者の第一群および第二群の水性有機溶媒におけるそれぞれ一種からなる混合溶媒を使用する方が好ましい。
【0090】
溶液中の共重合ポリエステルの粘度測定から、第一群の溶媒中では、共重合ポリエステルの分子鎖は広がりの大きい鎖が伸びた状態にあり、第一群/第二群の混合溶媒中では、広がりの小さい糸まり状に絡まった状態にあることが、確認された。
【0091】
共重合ポリエステルの溶解状態を調節し分子間架橋を起こりにくくすることがゲル化防止に有効である。効率の高いグラフト化とゲル化抑制の両立は後者の混合溶媒系において達成される。
【0092】
第1群/第2群の混合溶媒の混合比(質量比)は、95/5〜10/90の範囲が好ましく、さらに好ましくは90/10〜20/80の範囲、特に好ましくは85/15〜30/70の範囲である。最適の混合比は、使用するポリエステルの溶解性などに応じて決定される。
【0093】
(水分散化)
グラフト化反応生成物は、塩基性化合物で中和することが好ましく、中和することによって容易に水分散化することができる。塩基性化合物としては、塗膜形成時、あるいは硬化剤配合による熱硬化時に揮散する化合物が望ましく、アンモニア、有機アミン類などが好適である。
【0094】
好ましい化合物としては、トリエチルアミン、N、N−ジエチルエタノールアミン、N、N−ジメチルエタノ−ルアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル-N、N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げられる。
【0095】
塩基性化合物は、グラフト化反応生成物中に含まれるカルボキシル基含有量に応じて、少なくとも部分中和、あるいは完全中和によって水分散体のPH値を5.0〜9.0の範囲となるように調整することが好ましい。
【0096】
沸点が100℃以下の塩基性化合物を使用した場合であれば、乾燥後の塗膜中の残留塩基性化合物も少なく、金属や無機蒸着膜の接着性や他材料と積層した時の耐水性や耐熱水接着性が優れる。
【0097】
また、100℃以上の塩基性化合物を使用する、あるいは乾燥条件を制御し、乾燥後の塗膜中に塩基性化合物を500ppm以上残留させることにより、印刷インクの転移性が向上させることができる。
【0098】
水系分散体では、ラジカル重合性単量体の重合物の重量平均分子量は、500〜50,000であることが好ましい。前記重量平均分子量を500未満にコントロールすることは一般に困難であり、グラフト効率が低下し、共重合ポリエステルへの親水性基の付与が十分に行なわれない傾向がある。
【0099】
また、ラジカル重合性単量体のグラフト重合物は分散粒子の水和層を形成する。そのため、十分な厚みの水和層をもたせ、安定な分散体を得るためには、ラジカル重合性単量体のグラフト重合物は、重量平均分子量が500以上であることが好ましい。また、前記重量平均分子量の上限は、溶液重合における重合性の点で、50,000が好ましい。この範囲内での分子量のコントロールは開始剤量、モノマー滴下時間、重合時間、反応溶媒、モノマー組成、あるいは必要に応じて連鎖移動剤や重合禁止剤を適宜組合せることにより制御することができる。
【0100】
上記のように変性して得られたグラフト化ポリエステル樹脂は、分子内のカルボキシル基や低級アルコールのエステルを有するが、これらの官能基は加熱により容易に主鎖であるポリエステル樹脂とエステル交換反応を起こすため、自己架橋性を発現し、高度な耐溶剤性を発揮する。マレイン酸やイタコン酸等の分子内に複数のカルボキシル基を有する不飽和単量体やこれらのハーフエステルを側鎖に有する場合には、加熱により脱水や脱アルコール反応を起こし無水物化し、主鎖であるポリエステルとの反応により、自己架橋の効率が更に高くなり、好ましい。
【0101】
被覆層の架橋性については、様々の方法で評価できるが、疎水性共重合ポリエステル樹脂およびラジカル重合体の両方を溶解するクロロホルム溶媒での不溶分率で調べることができる。80℃以下で乾燥し、120℃で5分間熱処理して得られる塗膜の不溶分率は、接着性、耐水性、ブロッキング性の点から、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。
【0102】
(スルホン酸塩基含有帯電防止剤)
本発明において、被覆層の他の主たる構成成分は、スルホン酸塩基含有帯電防止剤である。スルホン酸塩基含有帯電防止剤としては、公知の低分子型スルホン酸塩基含有化合物のほかに、高分子型帯電防止剤であるポリスチレンスルホン酸塩のような分子内にスルホン酸塩基成分を含有する樹脂を用いることができる。これらの中でも、高分子型帯電防止剤であるポリスチレンスルホン酸塩を主成分とする高分子化合物が、親水性のスルホン酸成分が多い点から好ましい。
【0103】
分子内にスルホン酸塩基成分を含有する樹脂としては、ポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などのホモポリマー、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルなどのアクリル系単量体とスチレンスルホン酸単量体との共重合物、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の各種金属/アミン塩と不飽和単量体の共重合体などが挙げられる。本発明において、スルホン酸塩は金属塩とアミン塩の混合物でも可能である。
【0104】
前記スルホン酸塩基含有帯電防止剤は、重量平均分子量が 1,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは 5,000〜1,000,000である。重量平均分子量が1千未満では塗膜の光沢に優れるものの、塗膜の耐水性が得られにくくなる。一方、100万を超えると耐水性は高くなるものの、変性樹脂との均一混合が困難になり、塗膜光沢が低下しやすくなる。
【0105】
本発明の白色被覆ポリエステルフィルムは、印刷時の鮮明性をさらに良好なものとするために、被覆層側から測定した色調b値を−5.0〜2.0とすることが好ましい。さらに好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは0.0以下である。一方、基材に青味が好まれない用途では、被覆層側から測定した色調b値は、下限値を−2.0以上とすることが好ましい。色調b値は黄色みの程度を表わす尺度であり、b値が大きいほど黄色みが強くなり、b値が負に大きくなるほど青味が強くなる。
【0106】
被覆層側から測定した色調b値を2.0以下とするためには、上記ポリスチレンスルホン酸塩を主成分とする高分子化合物の塩基成分として、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩を用いることが好ましい。色調b値が2.0を越えると、被覆層の見かけの白さが不足し、黄色みが目立ちやすくなる。
【0107】
さらに、本発明の白色被覆ポリエステルフィルムは、製膜工程及び加工工程における帯電防止性の点から、25℃で65%RHにおける被覆層表面の表面固有抵抗値が1×106〜1×1013Ω/□であることが必要である。表面固有抵抗値が低いことで、フィルムロールを巻き出し、印刷層を設ける際に、静電気による異物の付着が防止できるため、印刷抜けなどの欠点を無くすことができる。
【0108】
25℃で65%RHにおける被覆層表面の表面固有抵抗値が1×1013Ω/□以下とするためには、前記スルホン酸塩基含有帯電防止剤の含有量を被覆層の樹脂組成物に対して5質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、前記含有量が60質量%を超えると、基材フィルムへの密着力や膜強度、耐溶剤性の性能が不十分になる場合がある。さらに、オフセット印刷時に湿し水適性(水負け性)が悪化し、かすれ、にじみのトラブルを生じやすくなる。また、被覆層表面の表面固有抵抗値を1×106Ω/□未満にしても、実用上効果に差異が見られない。
【0109】
また、本発明の白色被覆ポリエステルフィルムは、被覆層表面の水との接触角は、耐水性の点から60〜80度とすることが必要である。水との接触角が60度未満では、オフセット印刷時に湿し水適性(水負け性)が悪化し、かすれ、にじみのトラブルが生じる。一方、水との接触角を80度を越えるようにしても、実用上、効果に差異が見られない。
【0110】
本発明において、被覆層を構成する樹脂組成物には、耐水性を更に向上させるために、さらに各種の架橋剤を併用することができる。架橋剤としては、メラミン系、エポキシ系、イソシアネート系、アミン系、アミド系、アジリジン系等を挙げられる。架橋剤の種類及び配合量は、変性樹脂とスルホン酸塩基含有帯電防止剤の混合比やそれらの官能基の種類及び含有量に応じて適宜決定すればよい。例えば、メラミン系架橋剤やイソシアネート系架橋剤を用いる場合、通常、上記樹脂成分100質量部に対し、2〜30質量部が好適である。
【0111】
なお、イソシアネート化合物を架橋剤として用いる場合に、ブロック型イソシアネート化合物を用いることも可能である。白色被覆ポリエステルフィルムの製造方法として、被覆層を基材フィルム面に設けた後少なくとも一方向に延伸し、次いで熱固定処理を行う、いわゆるインラインコート法を採用する場合には、ブロック型イソシアネート化合物として、次の条件を満足するブロック剤を有するブロック型イソシアネート化合物を選定することが好ましい。
【0112】
すなわち、イソシアネート化合物の末端のブロック剤が、熱エネルギーにより脱離する脱ブロック化温度は、上限が熱固定温度以下であることが必須であり、下限は延伸温度の後期から熱固定温度までの間であることが好ましい。このようなイソシアネートのブロック剤として、重亜硫酸塩類が好ましい。
【0113】
前記水系塗布液を基材フィルム表面に塗布する際には、該フィルムへの濡れ性を上げ、塗布液を均一にコートするために、公知のアニオン性活性剤およびノニオン性の界面活性剤を必要量添加することが好ましい。
【0114】
被覆層の厚みは特に限定はないが、本発明においては二軸延伸後の乾燥塗布厚みで0.05〜1.0μmが好ましく、より好ましくは0.07〜0.5μm、更に好ましくは0.09〜0.3μmである。
【0115】
二軸延伸後の被覆層の厚みは、例えば、白色被覆ポリエステルフィルムをエポキシ樹脂により埋設させ、フィルム断面をフィルム面に対し直角にミクロトームで切断し、透過型電子顕微鏡(TEM)により写真撮影することで求めることができる。TEM観察は場所を変えて10点写真撮影し、スケールから読み取った被覆層厚みの平均値をもって、白色被覆ポリエステルフィルムの被覆層厚みとする。
【0116】
また、被覆層中を形成するための塗布液中には、隠蔽性をさらに向上させるために、白色顔料を含有させてもよい。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤、例えば界面活性剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機潤滑剤、顔料、染料、無機粒子、耐熱性有機粒子、核剤、抗菌剤等を添加しても良い。
【0117】
[製造方法]
本発明の白色被覆ポリエステルフィルムの製造方法は任意であり、特に制限されるものではないが、例えば以下のようにして製造することが出来る。
【0118】
フィルム原料を十分に真空乾燥した後、押出し機で溶融し、T−ダイより回転冷却金属ロールに静電気を印加しながらシート状に押出し、未延伸フィルムを得る。
【0119】
この際、白色顔料やその他添加剤は押出し機に粉末添加して混練りするのではなく、予めポリエステル樹脂中に白色顔料などをそれぞれ別々に高濃度で含有させたマスターバッチポリマーを作成し、それらをポリエステル樹脂でブレンド希釈する方法が均一混合の点から好ましい。押出し機は各種フィルム原料をさらに十分に均一混合するために、二軸押出し機を用いることが好ましい。また、静電密着性改良のためにポリエステルを重合する際に、アルカリ土類金属塩及び/またはアルカリ金属塩とリン酸またはその塩を添加しておくことが好ましい。また、リン酸またはその塩の添加は色調改善(特に、b値)できるという効果もある。
【0120】
本発明において、基材のポリエステルフィルムは単層構造でも、積層構造でも構わない。積層構造の場合、表面層と中心層の組成を要求される機能に応じて多様に設計することができるという利点がある。基材のポリエステルフィルムを積層構造とする場合には、A層とB層の樹脂を別々の押出し機に供給した後、例えば、溶融状態でA層/B層の2層構造とする、A層/B層/A層の3層構成などに積層して、同一のダイから押出す共押出し法を採用することが最も好ましい。
【0121】
こうして得られた未延伸フィルムは、更に速度差をもったロール間での延伸(ロール延伸)やクリップに把持して拡げていくことによる延伸(テンター延伸)や空気圧によって拡げることによる延伸(インフレーション延伸)などによって2軸配向処理される。
【0122】
未延伸フィルムを延伸・配向処理する条件は、フィルムの物性と密接に関係する。以下では、最も一般的な逐次二軸延伸方法、特に未延伸シートを長手方向次いで幅方向に延伸する方法を例にとり、延伸・配向条件を説明する。
【0123】
まず、第一段の縦延伸工程では、周速が異なる2本あるいは多数本のロール間で延伸する。このときの加熱手段としては、加熱ロールを用いる方法でも非接触の加熱方法を用いる方法でもよく、それらを併用してもよい。次いで一軸延伸フィルムをテンターに導入し、幅方向にポリエステルの融点Tm−10℃以下の温度で2.5〜5倍に延伸する。
【0124】
このようにして得られた二軸延伸フィルムに対し、必要に応じて熱処理を施す。熱処理はテンター中で行うのが好ましく、熱処理温度はポリエステルの融点(Tm)−50(℃)からTm(℃)の範囲で行うのが好ましい。
【0125】
前記被覆層形成用の塗布液をフィルムに塗布する段階としては、フィルムの延伸前に塗布する方法、縦延伸後に塗布する方法、配向処理の終了したフィルム表面に塗布する方法などのいずれの方法も可能である。これらの方法の中でも、基材ポリエステルフィルムの結晶配向が完了する前に塗布し、その後、少なくとも1軸方向に延伸した後、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる、インラインコート法が本発明の効果をより顕著に発現させることができるので好ましい方法である。
【0126】
前記変性樹脂とスルホン酸塩基含有帯電防止剤とは、親水性の差が大きく層分離し易いため、塗布液は塗布直前に1000(1/秒)以上のせん断速度をかけた直後から2秒以内に基材フィルムに塗布し、塗布後2秒以内に70℃以下、風速10〜20m/秒で1〜3秒間の予備乾燥を行った後、90℃以上で乾燥する。このような処理を行うことで、変性樹脂とスルホン酸塩基含有帯電防止剤、前記架橋剤などの他の成分が被覆層形成用樹脂組成物中に均一に分散し、良好な表面抵抗値が得られる。
【0127】
塗布後の乾燥条件は特に規制は無いが、グラフト共重合体のもつ自己架橋性を発現するためには、基材フィルム及び該グラフト共重合体に熱劣化が起こらない範囲内で、熱量を多くする条件が好ましい。具体的には80℃〜250℃、さらに好ましくは150℃〜220℃である。ただし、乾燥時間を長くすることにより、比較的低い温度でも、十分な自己架橋性を発現するため、上記の条件に限らない。
【0128】
塗布層を設ける方法としては、グラビアコート方式、キスコート方式、ディップ方式、スプレイコート方式、カーテンコート方式、エアナイフコート方式、ブレードコート方式、リバースロールコート方式など通常用いられている方法が適用できる。
【0129】
更に、得られた白色被覆ポリエステルフィルム上の所定の面に、磁気記録層を設け、印刷や打ち抜き等の工程を経て、磁気カードを作成する。また、ICチップ及びアンテナを接着剤に包埋させ、所定のサイズに打抜いた2枚以上の印刷インキ層等を設けた前記白色被覆ポリエステルフィルムで挟み込んでICカードを作成する。
【0130】
上記の磁気カードやICカードなどのカード作成工程で、フィルムは擦られたりすることで傷が入りやすい状況にある。フィルムの被覆層に傷がつくと、インキの高速転写時や接着剤の高速塗工時における気泡の巻き込み等によるインキや接着剤と白色ポリエステルフィルムとの界面での微小な空隙が発生し、これにより印刷物としての特性や品位の低下が起こる。しかしながら、変性樹脂等からなる被覆層の破断強度を大きくして表面に傷が入りにくくすることにより、上記の問題を解消することができる。また、溶剤浸漬後や湿熱雰囲気処理後のインキや接着剤の耐久性等も改善される。
【0131】
本発明におけるICカードは、前記白色被覆ポリエステルフィルムに印刷層を設け、次いで所定のサイズに打抜き、接着剤に包埋させたICチップ及びアンテナを2枚以上の前記白色被覆フィルムで挟み込んで作成する。
【0132】
前記接着剤としては、エポキシ系接着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤、オレフィン系ホットメルト接着剤等が挙げられる。接着剤層の厚みは、10〜500μmの範囲が好ましいが、本発明の白色被覆ポリエステルフィルムの厚みを勘案して適宜調整することが好ましい。
【0133】
ホットメルト系接着剤を用いる場合には、ラミネート温度を200℃以下とすることが好ましい。ラミネート温度が200℃以上では、白色被覆ポリエステルフィルムに収縮によるシワや歪が起こりやすい。さらに、貼り合わせた状態でカールなども起こりやすくなる。そのため、射出成型法などの方法を用いて、1分以下の短時間で成型することが好ましい。
【0134】
本発明の白色被覆ポリエステルフィルムの被覆層表面に印刷層を設ける場合、被覆層表面に塗布される印刷インキは特に限定されないが、紫外線硬化型インキ、酸化重合型インキ、一般乾燥型インキ等を使用することができる。例えば、紫外線硬化型インキの場合、樹脂成分としてポリエステル、ウレタン、アクリル樹脂およびそれらの変性物、架橋成分としてエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリオールとアクリル酸とのエステル化物等の不飽和結合を複数有する化合物、及び顔料成分としてカーボンブラック、水酸化アルミニウムあるいはアルミニウム粉を主たる構成成分とし、これらにジエチルアミノベンソフェノン等の重合開始剤が添加されたものを挙げることができる。これらの印刷層を設ける方法は特に限定されず、活版、平版、凸版、スクリーン、平台、輪転、転写等の方法で行うことができる。
【0135】
印刷インキの具体例として、ベストキュア161、VP、VNL、STP(T&K TOKA製)、FD-O、FD-O-G、FD-O-ニューKR2(東洋インキ製)などのオフセットインキなどのほか、一般に知られているものであれば使用可能である。さらに、印刷層の耐久性の面で、OPニスの使用が望ましい。望ましいOPニスとしては、ビデオOPニスY(T&K TOKA製)等が使用可能である。
【0136】
また、本発明の白色被覆ポリエステルフィルムの被覆層表面に磁気記録層を設け、磁気カードを作成する場合、磁気記録層の構成成分は特に限定されないが、例えば、以下のものが磁気記録層の構成成分として挙げられる。すなわち、磁性粉としては、γ−Fe2O3、CrO2、Co−γ−Fe2O3、メタル粉を、又、バインダーとしては酢酸ビニル、PVC等のビニル樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体などのゴム系樹脂、アセチルセルロース、ニトロセルロース等の繊維素、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、単量体のイソシアネート、変性イソシアネートウレタンプレポリマ、ブロックイソシアネート等の形態で用いられるポリウレタン系樹脂、及び必要に応じて添加される分散剤、滑剤、カーボン等の帯電防止剤、安定剤、可塑剤を調合したものを挙げることができる。これらの磁気記録層を設ける方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0137】
【実施例】
次に、本発明の実施例および比較例を示す。また、本発明に用いた測定・評価方法を以下に示す。
【0138】
(1)ポリエステル樹脂の固有粘度
フェノール60質量%と1、1、2、2−テトラクロロエタン40質量%の混合溶媒にポリエステル原料を溶解し、固形分をガラスフィルターで濾過した後、30℃にて測定した。
【0139】
(2)被覆層樹脂の組成分析
試料を重水素化クロロホルム/トリフルオロ酢酸=90/10(容積比)の混合溶媒に溶解し、NMR分光器(バリアン社製、Unity−500)を用いて行った。
【0140】
(3)ガラス転移温度及び融点
示差走査型熱量計(島津製作所(株)社製、DSC−50)、試料10mgをアルミ製のパンに充填し、窒素雰囲気下20℃/分の昇温速度で290℃まで昇温し、同温度で3分間保持した後、アルミパンを液体窒素中に投じ急冷した。急冷したアルミパンを再度示差走査型熱量計にセットし、20℃/分の昇温速度で昇温した時のチャートより、ガラス転移温度及び融点(吸熱ピークのピーク温度)を求めた。
【0141】
(4)破断強度
各実施例および比較例の被覆層に対応する樹脂組成物または樹脂を二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績(株)製、P2161、厚み50μm)上に、乾燥後の塗膜の膜厚が80μmになるように塗布し、120℃、2時間乾燥させた。次いで、前記塗膜を二軸延伸ポリプロピレンフィルムから剥離し、フィルムサンプルとした。このサンプルを幅1cmに片刃カミソリで切り出し、試料原長4cm、クロスヘッドスピード100mm/minで引っ張り試験機により評価した。
【0142】
(5)色調b値
色差計(日本電色工業社製、Z−1001DP)を用いて、被覆フィルムの被覆層側から測定した際の色調b値を用いた。
【0143】
(6)接触角
サンプルを23℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その雰囲気下で接触角計(協和界面科学社製、CA−X)を用い、同様の条件下に保管しておいた蒸留水を用いて、サンプルの被覆層表面と水との接触角を測定した。測定は10点行い、それらの平均値を接触角のデータとした。
【0144】
(7)帯電防止性
サンプルを23℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その雰囲気下で表面固有抵抗測定装置(三菱油化社製、ハイレスタ−IP)を用い、印加電圧500Vにてサンプルの被覆層表面の表面固有抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0145】
(8)密着性−1(酸化重合(あるいは溶剤)インキとの密着性)
酸化重合(あるいは溶剤)インキ(セイコーアドバンス社製、RAM黒)を用いて、サンプルの被覆層表面に250メッシュのスクリーン印刷を行った。1日風乾した後、1mm×1mmのクロスカットを100個入れ、粘着テープ(ニチバン社製、セロハンテープ)をクロスカット面上に貼り付け、指で強く押し付け気泡を取り除いた。次いで、90度方向に急速剥離し、残存したマス目の個数から下記の4段階の基準で密着性を評価し、◎及び○を接着性良好とした。なお、マス目内で一部分でも剥がれているものは剥がれた個数として扱った。
◎:100個
○:80〜99個
△:50〜79個
×:0〜49個
【0146】
(9)密着性−2(紫外線硬化型インキとの密着性)
紫外線硬化型インキとして、T&K TOKA製ベストキュア161を、モデル印刷機としてRIテスターを用いて、サンプルに転写し、UV露光装置により500mJ/cm2のUV露光を与えUVインキを硬化させた。次いで、1mm×1mmのクロスカットを100個入れ、粘着テープ(ニチバン社製、セロハンテープ)をクロスカット面上に貼り付け、指で強く押し付け気泡を取り除いた。次いで、90度方向に急速剥離し、残存したマス目の個数から下記の4段階の基準で密着性を評価し、◎及び○を接着性良好とした。なお、マス目内で一部分でも剥がれているものは剥がれた個数として扱った。
◎:100個
○:80〜99個
△:50〜79個
×:0〜49個
【0147】
(10)密着性−3(高温高湿下での紫外線硬化型インキとの密着性)
紫外線硬化型インキ(セイコーアドバンス社製、UVA黒)を用い、サンプルの被覆層表面に300メッシュのスクリーン印刷を行い、UV露光装置により500mJ/cm2のUV露光を与えUVインキを硬化させる。そのサンプルを70℃、90%RH環境下で48時間放置させた後、1時間風乾させる。次いで、1mm×1mmのクロスカットを100個入れ、粘着テープ(ニチバン社製、セロハンテープ)をクロスカット面上に貼り付け、指で強く押し付け気泡を取り除いた。次いで、90度方向に急速剥離し、残存したマス目の個数から下記の4段階の基準で密着性を評価し、◎及び○を接着性良好とした。なお、マス目内で一部分でも剥がれているものは剥がれた個数として扱った。
◎:100個
○:80〜99個
△:50〜79個
×:0〜49個
【0148】
(11)オフセット印刷時の湿し水適性(水負け性)
酸化重合(あるいは溶剤)インキ(東洋インキ社製、TSP400G墨)を用いて、モデル印刷機RIテスター(株式会社 明製作所製)にて、サンプルの被覆層表面におけるオフセット印刷時の湿し水適性(水負け性)を評価した。1段目ロール表面に三つ折りにした薬方ガーゼを貼り付け、0.01cc/1滴の蒸留水を幅方向に1滴、2滴、3滴、4滴と滴下して湿らせ、予め2段目ロールにて練り終えた上記インキを転移したときのインキの抜け具合を目視にて4段階(◎抜けない、○少し抜ける、△かなり抜ける、×完全に抜ける)で評価した。1滴目及び2滴目は(◎)、(○)、3滴目は(○)、4滴目は(△)で、オフセット印刷時の湿し水適正(水負け性)を良好とした。
【0149】
(12)加工適性
JIS L0849に準拠し、学振型摩擦堅牢度試験機(山口科学産業社製)にサンプルをセットし、荷重200gf(1.96N)、摩耗子として鏡面のアルミ板により10回往復させた。その後、紫外線硬化型インキ(東洋インキ株式会社製、FD O 藍 G)を用い、RIテスターによりインキを転写した。インキを転写後、すぐにUV露光装置により500mJ/cm2のUV露光を与え、インキを硬化させた。上記の摩擦堅牢度試験を行った部分と行っていない部分でのインキ密着性および印刷性(湿し水適性)を前述の方法により比較した。印刷インキの密着性および印刷性の低下が見られないものを○、いずれか一方にのみ低下が見られるものを△、両方が低下しているものを×とした。
【0150】
実施例1
原料として、定法により得られた固有粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット49.9質量%に平均粒径0.3μmのアナターゼ型二酸化チタン粒子(富士チタン社製、TA−300)50質量%、蛍光増白剤(イーストマン・ケミカル社製、OB1)0.1質量%を混合したものをベント式二軸押し出し機に供給して予備混練りした。この予備混練りした樹脂を連続的にベント式単軸混練り機に供給、混練りして押出し、得られたストランドを冷却、切断して二酸化チタン含有マスターペレット(A)を製造した。
【0151】
次に、平均粒径1.4μmのシリカ粒子(富士シリシア社製、サイリシア310)0.7質量%を含有する、固有粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(B)を製造した。
【0152】
140℃で8時間の真空乾燥を行った、固有粘度0.62dl/gの、粒子を含有していないポリエチレンテレフタレート樹脂75質量部と上記の二酸化チタン含有マスターペレット(A)25質量部をペレット混合してフィルム原料(I)とした。また同条件で乾燥を施した、二酸化チタン含有マスターペレット(A)30質量部、シリカ粒子含有ペレット(B)70質量部をペレット混合してフィルム原料(II)とした。
【0153】
[水系塗布剤の調整]
(共重合ポリエステルの調製)
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、テレフタル酸747質量部、イソフタル酸664質量部、セバシン酸202質量部、フマル酸58質量部、エチレングリコール744質量部、ネオペンチルグリコール720質量部を仕込み、160℃から220℃まで、3時間かけてエステル化反応を行った。次いで、テトラ−n−ブチルチタネート0.7質量部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで、255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルは、ガラス転移温度が40℃、重量平均分子量が2,、000であり、淡黄色透明であった。
【0154】
(変性樹脂)
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記共重合ポリエステル樹脂75質量部、メチルエチルケトン56質量部およびイソプロピルアルコール19質量部を入れ、65℃で加熱、撹拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸15質量部をポリエステル溶液に添加した。次いで、スチレン10質量部、およびアゾビスジメチルバレロニトリル1.5質量部を12質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5質量部を添加した。次いで、水300質量部とトリエチルアミン15質量部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散変性樹脂を得た。該水分散変性樹脂は淡黄色透明で、ガラス転移温度が40℃、破断強度が30MPaであった。
【0155】
(塗布液)
上記で得られた変性樹脂及びポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩(日本NSC社製、分子量70,000)を固形分質量比で70/30となるように混合し、全樹脂固形分濃度が5質量%となるように、水/イソプロピルアルコール混合溶媒(=60/40;質量比)で希釈して水系塗布剤とした。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は30MPaであった。
【0156】
これらのフィルム原料をそれぞれ別の押出し機に供給し、フィードブロックを用いて原料(I)からなる層(B層)と原料(II)からなる層(A層)をA層/B層/A層の順に積層し、溶融樹脂を25℃に調温した冷却ロール上にTダイより共押出しした。この際、各押出機の吐出量を各層の厚み比が1対8対1になるように調整し、厚み920μmの未延伸フィルムを作成した。
【0157】
得られた未延伸フィルムを、加熱ロールを用いて66℃に均一加熱し、周速が異なる二対のニップロール(低速ロール:2m/分、高速ロール:6.2m/分)間で3.1倍に延伸した。このとき、フィルムの補助加熱装置として、ニップロール中間部に金反射膜を備えた赤外線加熱ヒータ(定格出力:74W/cm)をフィルムの両面に対向してフィルム面から1cmの位置に設置し、定格の30%で加熱した。
【0158】
得られた一軸延伸フィルムの両面にコロナ放電処理を施し、その処理面に上記に示す水系塗剤をリバースコート法でフィルムの両面に塗布、乾燥した。なお、塗布時にロールギャップ間で1000(1/秒)以上のせん断速度をかけ、2秒以内に基材フィルムに塗布後、65℃、風速15m/秒、2秒間乾燥後、130℃、風速20m/秒で3秒間乾燥し水分を除去した。
【0159】
その後、連続的に端部をクリップで把持しながらテンターに導き、120℃に加熱して3.7倍に横延伸し、幅固定しながら230℃で5秒間の熱処理を施し、更に200℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。
【0160】
実施例2
実施例1の[水系塗布剤の調整]において、変性樹脂のみを下記の方法で得たものに変更すること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は40MPaであった。
【0161】
(共重合ポリエステルの調製)
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、テレフタル酸797質量部、イソフタル酸780質量部、フマル酸58質量部、エチレングリコール744質量部、ネオペンチルグリコール720質量部を仕込み、160℃から220℃まで、3時間かけてエステル化反応を行った。次いで、テトラ−n−ブチルチタネート0.7質量部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで、255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で1時間反応させ、共重合ポリエステルを得た。得られたポリエステルは、ガラス転移温度が65℃、重量平均分子量が18,000であり、淡黄色透明であった。
【0162】
(変性樹脂)
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記共重合ポリエステル樹脂75質量部、メチルエチルケトン56質量部およびイソプロピルアルコール19質量部を入れ、65℃で加熱、撹拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸15質量部をポリエステル溶液に添加した。次いで、スチレン10質量部、およびアゾビスジメチルバレロニトリル1.5質量部を12質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5質量部を添加した。次いで、水300質量部とトリエチルアミン15質量部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散変性樹脂脂を得た。該水分散変性樹脂は淡黄色透明で、ガラス転移温度が65℃であった。
【0163】
実施例3
実施例1の[水系塗布剤の調整]において、変性樹脂のみを下記の方法で得たものに変更すること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は35MPaであった。
【0164】
(共重合ポリエステルの調製)
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、テレフタル酸1245質量部、イソフタル酸332質量部、フマル酸58質量部、プロピレングリコール1216質量部、エチレングリコール248質量部、トリメチロールプロパン8質量部を仕込み、160℃から220℃まで、3時間かけてエステル化反応を行った。次いで、テトラ−n−ブチルチタネート0.7質量部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で2時間30分反応させ、共重合ポリエステルを得た。得られたポリエステルは、重量平均分子量が15,000であり、淡黄色透明であった。
【0165】
(変性樹脂)
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記共重合ポリエステル樹脂75質量部、メチルエチルケトン56質量部およびイソプロピルアルコール19質量部を入れ、65℃で加熱、撹拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸15質量部をポリエステル溶液に添加した。次いで、スチレン10質量部、およびアゾビスジメチルバレロニトリル1.5質量部を12質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5質量部を添加した。次いで、水300質量部とトリエチルアミン15質量部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散変性樹脂を得た。該水分散変性樹脂は淡黄色透明で、ガラス転移温度が80℃であった。
【0166】
実施例4
実施例2の[水系塗布剤の調整]において、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩(分子量70、000)をポリスチレンスルホン酸リチウム塩(分子量10、000)に変更すること以外は実施例2と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は40MPaであった。
【0167】
実施例5
実施例1において、塗布後の乾燥を130℃、風速20m/秒で5秒間乾燥して水分を除去すること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。
【0168】
実施例6
(マスターペレットの調整)
溶融粘度(ηO)が1、300ポイズのポリメチルペンテン樹脂(三井化学社製、DX820)60質量%、溶融粘度(ηS)が3、900ポイズのポリスチレン樹脂(日本ポリスチ社製、G797N)20質量%、および溶融粘度が2、000ポイズのポリプロピレン樹脂(グランドポリマー社製、J104WC)20質量%をペレット混合したものを285℃に温調したベント式二軸押出機に供給し、予備混練りした。この溶融樹脂を連続的にベント式単軸混練機に供給、混練りして押出し、得られたストランドを冷却、切断して空洞発現剤マスターペレット(M1)を調整した。
【0169】
また、公知の方法で製造した固有粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂50質量%に平均粒径0.3μmのアナターゼ型二酸化チタン粒子(富士チタン社製、TA−300)50質量%を混合したものをベント式2軸押出し機に供給して予備混練りした。この溶融樹脂を連続的にベント式単軸混練り機に供給し、混練して押出した。得られたストランドを冷却し、切断して二酸化チタン含有マスターペレット(M2)を調整した。
(フィルム原料の調整)
140℃で8時間の真空乾燥を施した固有粘度0.62dl/gの前記ポリエチレンテレフタレート樹脂81質量%と90℃で4時間の真空乾燥を施した上記マスターペレット(M1)9質量%、及び上記マスターペレット(M2)10質量%をペレット混合して、フィルム原料(C1)とした。
【0170】
[水系塗布剤の調整]
(共重合ポリエステルの調製)
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、テレフタル酸ジメチル485質量部、イソフタル酸ジメチル155質量部、エチレングリコール443質量部、ネオペンチルグリコール404質量部、テトラ−n−ブチルチタネート0.35質量部を仕込み、160℃から220℃まで、3時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、セバシン酸292質量部、フマル酸29質量部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで、255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルは、ガラス転移温度が10℃、破断強度が4MPa、重量平均分子量が20,000であり、淡黄色透明であった。
【0171】
(変性樹脂)
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記共重合ポリエステル樹脂75質量部、メチルエチルケトン56質量部およびイソプロピルアルコール19質量部を入れ、65℃で加熱、撹拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸5質量部、フマル酸ジブチル10質量部をポリエステル溶液に添加した。次いで、スチレン10質量部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.5質量部を12質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5質量部を添加した。次いで、水300質量部とトリエチルアミン15質量部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散変性樹脂を得た。該水分散変性樹脂は淡黄色透明で、ガラス転移温度が10℃、破断強度は35MPaであった。
【0172】
(未延伸フィルムの作製)
前記のフィルム原料(C1)を285℃に温調したB層用押出機に、フィルム原料(C1)に用いたものと同じポリエチレンテレフタレート樹脂70質量%および上記マスターペレット(M2)30質量%を混合したものを、290℃に温調したA層用押出機にそれぞれ別に供給した。B層用押出機より吐出される溶融樹脂はオリフィスを介し、またA層用押出機より吐出される樹脂はスタティックミキサーを介してフィードブックに導き、フィルム原料(C1)からなる層(B層)とポリエチレンテレフタレート樹脂とマスターペレット(M2)からなる層(A層)をA層/B層/A層の順に積層した。
【0173】
この溶融樹脂を、25℃に調温した冷却ロール上にTダイよりシート状に共押出し、静電印加法にて密着固化させ、厚み920μmの未延伸フィルムを作製した。なお、各押出機の吐出量は、各層の厚み比が1対8対1になるよう調整した。
【0174】
(二軸延伸フィルムの作製)
得られた未延伸フィルムを、加熱ロールを用いて65℃に均一加熱し、周速が異なる二対のニップロール(低速ロール:2m/分、高速ロール:6.8m/分)間で3.4倍に縦延伸した。このとき、フィルムの補助加熱装置として、ニップロール中間部に金反射膜を備えた赤外線加熱ヒータ(定格出力:20W/cm)をフィルムの両面に対向してフィルム面から1cmの位置に設置し加熱した。このようにして得られた一軸延伸フィルムの片面に、前記の塗布液をリバースキスコート法により延伸後の樹脂固形分厚みが0.1μmとなる様に塗布した。塗布後テンターに導き、乾燥しつつ150℃に加熱して3.7倍に横延伸し、幅固定して220℃で5秒間の熱処理を施し、更に200℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は30MPaであった。
【0175】
比較例1
実施例1の[水系塗布剤の調整]において、変性樹脂の代わりに、末端のヒドロキシル基やカルボキシル基の和が50eq/106g以下である共重合ポリエステル樹脂A(東洋紡績社製、バイロナールMD−1200)及びブロックイソシアネート樹脂B(第一工業製薬社製、エラストロンH−3)を用い、前記樹脂Aと前記樹脂Bとの混合比が50/50(質量比)となるように混合して用いること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は30MPaであった。
【0176】
比較例2
実施例1の[水系塗布剤の調整]において、変性樹脂のみを固形分樹脂成分として塗布液を調整すること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は40MPaであった。
【0177】
比較例3
実施例1の[水系塗布剤の調整]において、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩の代わりに、低分子界面活性剤であるドデシルフェノキシベンゼンジスルホン酸(重量平均分子量:1,000)を使用すること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は40MPaであった。
【0178】
比較例4
被覆層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、白色ポリエステルフィルムを得た。
【0179】
比較例5
実施例1の[水系塗布剤の調整]において、変性樹脂の代わりに、共重合ポリエステル樹脂A(東洋紡績社製、バイロナールMD1400)を用いること以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は5MPaであった。
【0180】
比較例6
実施例6の変性樹脂の調整において、以下のように変更した以外は、実施例6と同様にして厚さ100μmの白色被覆ポリエステルフィルムを得た。
【0181】
(変性樹脂)
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記共重合ポリエステル樹脂75質量部、メチルエチルケトン56質量部およびイソプロピルアルコール19質量部を入れ、65℃で加熱、撹拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、アクリル酸エチル20質量部、アクリル酸5部およびアゾビスイソブチロニトリル1.5質量部を12質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、水300質量部とトリエチルアミン10質量部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散変性樹脂を得た。該水分散変性樹脂は淡黄色透明で、ガラス転移温度が10℃、破断強度は6MPaであった。
【0182】
なお、この被覆層用塗布液の樹脂組成物を前記の「(4)破断強度」に記載の方法で作成したフィルムの破断強度は7MPaであった。
【0183】
実施例7
実施例1で得られた白色被覆ポリエステルフィルムの両面に、前記「密着性−2」に記載の方法によりUVインキを印刷し硬化させたものを JIS X6311に記載の大きさに切り出し、酢酸水溶液に室温にて24時間浸漬後、表面を爪で擦り、剥離の状況を観察した。表面に傷のないものについては剥離が観察されなかった。
【0184】
実施例8
実施例2で得られた白色被覆ポリエステルフィルムの片面に、前記「密着性−2」に記載の方法により、UVインキを印刷し硬化させたものを二枚準備し、一方のサンプルの非印刷面に二液型エポキシ接着剤(セメダイン製、二液常温硬化型接着剤、1590)を厚み200μmで塗布し、更にもう一方のフィルムの非印刷面を貼り合わせ、50℃、10分の条件で仮接着を行い、その後、25℃、24時間エージングを行った。これを JIS X6311記載の大きさ及び形状に切り出し、評価用サンプルとした。このサンプルを酢酸水溶液に室温にて24時間浸漬後、表面を爪で擦り、剥離の状況を観察した。表面に傷のないものについては剥離が観察されなかった。また、上記のカード状サンプルを50℃、湿度95%の雰囲気下で保持した後、接着剤層の剥離を観察したが、剥離は観察されず、耐湿熱性に優れたカードであることが分かった。
【0185】
実施例9
白色ポリエステルフィルムの表裏の全面に、JIS L0849 準拠の方法に従い、学振型摩擦堅牢度試験機により荷重200gf、摩耗子として鏡面のアルミ板により10回往復させた実施例1において得られた白色ポリエステルフィルムを用いて、実施例8での二液型エポキシ接着剤の代わりに、酸化チタン20質量%を練りこんだ共重合ポリエステル(東洋紡株式会社製、GM980)を200μm厚みのシート状に加工したものを用いて、200kgfの圧力下で、130℃、1分間プレスすることにより評価用サンプルを得たこと以外は、実施例8と同様の方法でカード状サンプルを作製した。共重合ポリエステルのシートは、二枚のテフロン(R)シートに約200μmのギャップを設けたものの間に樹脂を挟み、100℃でシート状に加工することで得た。実施例8と同様の評価を行った結果、剥離が観察されなかった。また、上記のカード状サンプルを50℃、湿度95%の雰囲気下で保持した後、接着剤層の剥離を観察したが、剥離は観察されず、耐湿熱性に優れたカードであることが分かった。
【0186】
比較例7
比較例5において得られたフィルムを実施例7と同様にカード状サンプルを作成した。湿度95%の雰囲気下で保持した後、接着剤層の剥離を観察したが、剥離が観察され、カードとしては不適であった。
【0187】
比較例8
比較例5の被覆層の破断強度が低い白色被覆ポリエステルフィルムを用いて実施例9と同様の評価を行った。これを JIS X6311記載の大きさ及び形状に切り出し、評価用サンプルに関し、酢酸水溶液に室温にて24時間浸漬後、表面を観察したところ、既に印刷層の剥離が観察され、カードとしては不適であった。
【0188】
【表1】
【0189】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の白色被覆ポリエステルフィルムは、被覆層が、変性樹脂及びスルホン酸塩基含有帯電防止剤から主として構成され、かつ特定の破断強度、表面固有抵抗値及び水との接触角を有するため、紫外線硬化タイプ及び酸化重合(あるいは溶剤)タイプ等の種類の異なるインキであっても、インキ密着性及び印刷鮮明性に優れ、かつオフセット印刷時の湿し水適性(水負け性)や帯電防止性にも優れているという効果を有する。また、被覆層を構成する変性されるポリエステル樹脂のガラス転移温度を10℃以上とすることにより、特に各種加工後のインキ密着性が良好となる。さらに、被覆層側から測定した色調b値が2.0以下とすることで、印刷鮮明性が一層良好となる。そのため、本発明の白色被覆ポリエステルフィルムは、テレホンカード、キャッシュカード、各種クレジットカード、磁気乗車券、IDカード、磁気カード、ICカード等の各種カード、ラベル等の印刷材料、グラフィック材料等の工業材料などの基材として好適である。
Claims (4)
- ポリエステル樹脂と白色顔料を含有する基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも片面に被覆層を設けた白色被覆ポリエステルフィルムであって、前記被覆層は変性樹脂及びスルホン酸塩基含有帯電防止剤から主として構成され、前記変性樹脂が疎水性ポリエステル系樹脂に二重結合を有する酸無水物を含有するモノマーを少なくとも1種含有する重合性不飽和単量体およびスチレンがグラフトされた自己架橋性ポリエステル系グラフト共重合体であり、前記スルホン酸塩基含有帯電防止剤がポリスチレンスルホン酸塩を主成分とする高分子化合物であり、前記被覆層は破断強度が10〜100MPaであり、25℃で65%RHにおける表面固有抵抗値が1×106〜1×1013Ω/□であり、水との接触角が60〜80度であることを特徴とする白色被覆ポリエステルフィルム。
- 前記変性樹脂は、ガラス転移温度が10〜100℃であることを特徴とする請求項1記載の白色被覆ポリエステルフィルム。
- 前記被覆層側から測定した色調b値が−5.0〜2.0であることを特徴とする請求項1または2記載の白色被覆ポリエステルフィルム。
- 請求項1〜3いずれかに記載の白色被覆ポリエステルフィルムを用いることを特徴とするカード。
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