JP4161060B2 - 撥水性コーティング剤ならびにこれを用いた高硬度撥水性薄膜の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、とくに硬度、耐擦過性等に優れた撥水性コーティング剤ならびにこれを用いた高硬度撥水性薄膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フッ素化アルキル基(Rf基)を含む物質を固体表面に被覆すると、表面エネルギーが著しく低くなり高度の撥水・撥油性を示し、摩擦係数が小さくなることはよく知られている。このような特徴は、表面だけにRf基を存在させればよいが、基板に市販の撥水剤を塗布するのみでは、撥水層の耐摩耗性が劣る。この問題を解決するために、例えば特開平8−143690号公報に記載されているように、アクリル系光重合硬化塗料とシラノール基を有するポリシロキサン組成物とを含有する未硬化下地層を形成した上に、シリコン系熱重合硬化塗料とパーフルオロアルコキシランとを含有する未硬化上層を形成し紫外線照射+加熱処理すると、シロキサン結合により結合されたフッ素結合基が表面および内部に存在するため、優れた撥水性を有する。また、この薄膜の表面及び内部のほとんどがシリコーン系耐摩耗熱重合硬化組成物の硬化したものであり、優れた耐摩耗性も有する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようにして形成された薄膜は、優れた撥水性と強固な密着力を有するものの、硬度、耐擦過性に問題がある。
本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、従来の技術に比べてとくに硬度および耐擦過性に優れ、さらに撥水性、防汚性、耐摩耗性、密着性に富んだ撥水性コーティング剤ならびにこれを用いた高硬度撥水性薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、紫外線硬化性樹脂とフッ素系表面改質剤とを含有してなる撥水性コーティング剤である。
請求項2の発明は、前記紫外線硬化性樹脂が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂またはそれらを含む樹脂である請求項1に記載の撥水性コーティング剤である。
請求項3の発明は、アクリル樹脂が、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体から構成される請求項2に記載の撥水性コーティング剤である。
請求項4の発明は、前記フッ素系表面改質剤が、水素部分のすべてまたはその一部分をフッ素原子に置換したフッ素化アルキル基(Rf基)と、前記紫外線硬化性樹脂と相溶し得る基と、を一分子中に有するフッ素化合物である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の撥水性コーティング剤である。
請求項5の発明は、フッ素化合物が有機ポリマーであり、そのタイプがランダムオリゴマー系である請求項4に記載の撥水性コーティング剤である。
請求項6の発明は、前記フッ素系表面改質剤が撥水性コーティング剤100重量部に対し0.1〜80重量部含まれてなる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の撥水性コーティング剤である。
請求項7の発明は、前記フッ素系表面改質剤が撥水性コーティング剤100重量部に対し5〜20重量部含まれてなる請求項6に記載の撥水性コーティング剤である。
請求項8の発明は、基板上に、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の撥水性コーティング剤をコーティングして未硬化層を形成する工程と、150℃以下の温度で加熱する工程と、紫外線照射により前記未硬化層を重合させる工程とを有することを特徴とする高硬度撥水性薄膜の形成方法である。
【0005】
本発明の撥水性コーティング剤は、紫外線硬化性樹脂およびフッ素系表面改質剤を含有してなることに特徴がある。以下、図面を用いて本発明を説明する。
【0006】
図1(a)は、本発明の撥水性コーティング剤を基材にコーティングした後の未硬化層を説明するための図であり、図1(b)は、未硬化層を加熱処理し、紫外線照射した後の薄膜の状態を説明するための図である。図1において1は基材、2は塗膜、3はフッ素系表面改質剤である。
【0007】
図1(a)において、基板1上にコーティングされた直後の本発明の撥水性コーティング剤の塗膜2は、紫外線硬化性樹脂およびフッ素系表面改質剤を含む未硬化の状態である。フッ素系表面改質剤3は、塗膜2中でランダムに分散した状態になっている。続いて加熱処理することにより、図1(b)に示されるようにフッ素系表面改質剤3は、フッ素原子を含む基が表面の方向に向くようにブリードして配向し、表面層を形成する。
【0008】
この加熱処理における加熱温度は、好ましくは150℃以下、通常60〜120℃程度で行われる。この加熱処理温度範囲によれば、良好な撥水性をもたらすブリードが得られ、また紫外線硬化性樹脂の硬化性に悪影響を及ぼすことがない。
【0009】
続いて塗膜2を紫外線照射することにより、塗膜2が硬化し、本発明の高硬度撥水性薄膜が得られる。紫外線照射は、従来から公知の手段をいずれも採用することができ、例えば高圧水銀ランプ等を用いることができる。
【0010】
本発明の撥水性コーティング剤に使用されるフッ素系表面改質剤は、水素部分のすべてまたはその一部分をフッ素原子に置換したフッ素化アルキル基(Rf基)と、紫外線硬化性樹脂と相溶し得る基と、を一分子中に有するフッ素化合物を使用するのが好ましい。このようなフッ素系表面改質剤を使用することにより、前記の加熱処理によって表面層にフッ素化アルキル基がブリードし、一層良好な撥水性および防汚性を発現することができる。また紫外線硬化性樹脂と相溶し得る基を分子内に有することにより、紫外線硬化性樹脂との層分離がなくなり、高硬度で優れた耐摩耗性、耐擦過性を発揮することができる。
【0011】
前記のフッ素化合物としては、とくに制限されず、市販されているものをいずれも使用することができる。例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、アクリル系、シリコーン系、エポキシ系、ウレタン系樹脂等を基本樹脂とし、その分子内にフッ素化アルキル基(Rf基)と、紫外線硬化性樹脂と相溶性を有する基とを常法で付与させたものが挙げられる。ポリマータイプとしては、例えばランダムオリゴマー型、グラフトポリマー型、ブロックコポリマー型等のいずれでもよい。この中で、ランダムオリゴマー型が、樹脂相溶性と分子運動性のバランスに優れ、またRf基と樹脂相溶性基の導入が共重合により比較的容易に達成できるため、最も好ましい。
【0012】
本発明の撥水性コーティング剤に使用される紫外線硬化性樹脂としては、とくに制限するものではないが、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂またはそれらを含む樹脂が望ましい。なお、紫外線硬化性樹脂の選択は、フッ素系表面改質剤との相溶性等を適宜考慮して行われる。好適な樹脂として具体的には、アクリル酸エステルとメタクリル酸との共重合体、グリシジルメタクリレートとアクリル酸エステルの共重合体などのアクリル樹脂;ウレタンを主体としたポリウレタンアクリレート、ポリエステルポリオールとメチレンジイソシアネート(MDI)系イソシアネートの組み合わせ、アクリルポリオールとMDI、ポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネート(TDI)アクリルポリオールとTDI、ポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、アクリルポリオールとHMDI、ポリエステルポリオールとイソホロンジイソシアネート(IPDI)、アクリルポリオールとIPDIなどのウレタン樹脂;シリコーンを主体としたシリコーンアクリレート、メチルフェニルシリコーンとシリコーンアクリレートの共重合体、メチルエチルシリコーンとアクリル酸エステルとの共重合体などのシリコーン樹脂;等が挙げられる。この中でとくにアクリル酸とメタクリル酸との共重合体が、低ヘイズで密着性がよく、しかも大きな膜硬度が得られるため、最も好ましい。
【0013】
フッ素系表面改質剤の添加量は、コーティング薄膜の必要とされる撥水性、硬度等に応じて適宜変えられるが、撥水性コーティング剤100重量部に対し0.1〜80重量部、さらに好ましくは5〜20重量部添加されることが望ましい。この範囲によれば、コーティング薄膜の良好な硬度、撥水性等が得られる。
【0014】
本発明に用いられる基材としては、使用目的に応じて自由に選択することができるが、一般的にはガラスや金属等が使用される。とくに基材が硬度の高いものであれば、より高硬度な撥水性薄膜が得られる。
【0015】
また本発明の撥水性コーティング剤には、必要に応じて各種添加剤を適宜添加できることは言うまでもない。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施の形態のみに限定されるものではない。
【0017】
実施の形態1.
アクリル系紫外線硬化性樹脂(例えば大日本インキ化学工業(株)製C1−860)56重量部、フェノン系光重合開始剤の2種類(例えばチバガイギー製のイルガキュアAおよびB)をそれぞれ0.3重量部、フッ素系表面改質剤(例えば大日本インキ化学工業(株)製ディフェンサTR−220K)を加え、撥水性コーティング剤とした。このときフッ素系表面改質剤の添加量は、撥水性コーティング剤100重量部に対し、0.05〜100重量部の間で変化させた。
前記のようにして作製した撥水性コーティング剤をガラス基板あるいは黄銅上に約2μmになるようにコーティングし、80℃で約10分乾燥した。これに80W/cmの出力をもつ高圧水銀ランプで、約10cmの距離から約20秒照射し、高硬度撥水性薄膜を形成した。
前記のようにして得られた高硬度撥水性薄膜の膜硬度、撥水性、防汚性、耐摩耗性、耐擦過性、密着性を次の方法で測定し、評価した。
【0018】
膜硬度は、JIS K5400による鉛筆引っかきテストにより表面傷つきの状態を評価した。
撥水性は、基板上の塗膜の水の接触角を協和界面科学(株)製接触角計で測定した。接触角として100°以上あれば撥水性は良好と判断した。
防汚性は、マジックインク(赤、黒)、ボールペン、コーヒー、口紅等に24時間直接接触させ水あるいはエタノール拭き後、目視にて汚染が全く認められない場合を○、わずかに汚染が認められる場合を△、著しい汚染が認められる場合を×とした。
耐擦過性、耐摩耗性は、基板上の塗膜をワイパ(紙)で擦った後、傷の付き具合と撥水性の変化で評価した。擦り条件は、ワイパと基板との間の押付荷重100gf、摺動速度26.7mm/sで行い、摺動10000回である。
密着性は、粘着テープによる剥離テストにより、剥離度合の状態で5段階に分け評価した。剥離なしの状態が5で良好、かすかに剥離ありの状態を4としてやや良好、わずかに剥離ありの状態を3として普通、かなり剥離ありの状態を2としてやや不良、全面剥離の状態を1として不良とした。
【0019】
その結果を下記表1に示す。表1よりコーティング剤100重量部に対しフッ素系表面改質剤5〜20重量部添加したときが最も良好な結果を示すことが分かる。
【0020】
【表1】
【0021】
実施の形態2.
実施の形態1.において、紫外線硬化性樹脂を(1)アクリル酸メタクリル酸との共重合体(例えば大日本インキ化学工業(株)製のC1−860)、(2)シリコーンを主体としたシリコーンアクリレート重合体(例えば信越化学工業(株)製のX-62-7509)、(3)ウレタンを主体としたウレタンアクリレート重合体(例えば大日本インキ化学工業(株)製のGRANDIC・FC−0612)、(4)ビスフェノール型のエポキシ樹脂(例えば平均分子量1800程度)、(5)シリコーン樹脂の単体(例えば平均分子量2200程度)とした。それぞれにフッ素系表面改質剤(たとえば大日本インキ化学工業(株)製ディフェンサTR−220K)を撥水性コーティング剤100重量部に対し10重量部加え、撥水性コーティング剤とした。
得られた高硬度撥水性薄膜の各特性を上記実施の形態1.と同様の方法で測定した。その評価結果を表2に示す。この実施の形態2.のなかでは、硬度の点でアクリル酸とメタクリル酸との共重合体が最も良好であった。
【0022】
【表2】
【0023】
実施の形態3.
実施の形態1.において、アクリル系紫外線硬化性樹脂(例えば大日本インキ化学工業(株)製C1−860)にフッ素化表面改質剤を(1)ランダムオリゴマー系(例えば大日本インキ化学工業(株)製のディフェンサ)、(2)グラフトポリマー系(例えば東亜合成(株)製 アロンG)、(3)ブロックコポリマー系(例えば日本油脂(株)製 モディパー)をそれぞれ撥水性コーティング剤100重量部に対し10重量部加え、撥水性コーティング剤とした。
得られた高硬度撥水性薄膜の各特性を上記実施の形態1.と同様の方法で測定した。その評価結果を表3に示す。この実施の形態3.のなかでは、ランダムオリゴマー系が最も良好であった。
【0024】
【表3】
【0025】
【発明の効果】
請求項1の発明は、紫外線硬化性樹脂とフッ素系表面改質剤とを含有してなる撥水性コーティング剤であるため、従来の技術に比べてとくに硬度および耐擦過性に優れ、さらに撥水性、防汚性、耐摩耗性、密着性に富んだ撥水性コーティング剤が得られる。
【0026】
請求項2の発明は、紫外線硬化性樹脂が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂またはそれらを含む樹脂であるため、硬度および耐擦過性が一層優れる。
【0027】
請求項3の発明は、アクリル樹脂が、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体から構成されるため、低ヘイズで、しかも大きな膜硬度が得られる。
【0028】
請求項4の発明は、フッ素系表面改質剤が、水素部分のすべてまたはその一部分をフッ素原子に置換したフッ素化アルキル基(Rf基)と、紫外線硬化性樹脂と相溶し得る基と、を一分子中に有するフッ素化合物であるため、紫外線硬化性樹脂との層分離がなくなり、高硬度で優れた耐摩耗性、耐擦過性を発揮することができる。
【0029】
請求項5の発明は、フッ素化合物が有機ポリマーであり、そのタイプがランダムオリゴマー系であるため、樹脂相溶性と分子運動性のバランスに優れ、またRf基と樹脂相溶性基の導入が共重合により比較的容易に達成でき、さらに高硬度で優れた耐摩耗性、耐擦過性を発揮することができる。
【0030】
請求項6の発明は、前記フッ素系表面改質剤が撥水性コーティング剤100重量部に対し0.1〜80重量部含まれてなるため、とくに硬度、耐擦過性、撥水性、防汚性、耐摩耗性に優れた撥水性コーティング剤が得られる。
【0031】
請求項7の発明は、前記フッ素系表面改質剤が撥水性コーティング剤100重量部に対し5〜20重量部含まれてなるため、硬度、耐擦過性、撥水性、防汚性、耐摩耗性が一層優れた撥水性コーティング剤が得られる。
【0032】
請求項8の発明は、基板上に、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の撥水性コーティング剤をコーティングして未硬化層を形成する工程と、150℃以下の温度で加熱する工程と、紫外線照射により前記未硬化層を重合させる工程とを有することを特徴とする高硬度撥水性薄膜の形成方法であるため、従来の技術に比べてとくに硬度および耐擦過性に優れ、さらに撥水性、防汚性、耐摩耗性、密着性に富んだ薄膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は、本発明の撥水性コーティング剤を基材にコーティングした後の未硬化層を説明するための図であり、(b)は、未硬化層を加熱処理し、紫外線照射した後の薄膜の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
1 基材、2 塗膜、3 フッ素系表面改質剤。
Claims (1)
- アクリル酸メタクリル酸共重合体、シリコーンアクリレート共重合体およびウレタンアクリレート重合体から選択される少なくとも1種を含む紫外線硬化性樹脂と、水素のすべてまたはその一部をフッ素原子に置換したフッ素化アルキル基および前記紫外線硬化性樹脂と相溶し得る基を有するランダムオリゴマーからなるフッ素化合物とを含有する撥水性コーティング剤であって、前記撥水性コーティング剤100重量部に対し前記フッ素化合物が5重量部〜20重量部含まれる撥水性コーティング剤を、基板上にコーティングし、フッ素化合物をランダムに分散させた未硬化層を形成する工程と、
150℃以下の温度で加熱し、フッ素原子を含む基が表面の方向に向くように配向させる工程と、
紫外線照射により前記未硬化層を重合して硬化させる工程と
を備えたことを特徴とする高硬度撥水性薄膜の形成方法。
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