JP4160464B2 - 制動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動装置に関し、特に、パッドクリアランス自動調整手段を備えた制動装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在知られている車両の電気制御ブレーキシステムで、完全な電気式は未だ市場に現れていない。他方、油圧を利用したタイプの電気制御ブレーキシステムは例えばダイムラークライスラー車に採用されている。そのシステムの構成としては、基本的に、(1)運転者の制動要求を検出するセンサ(油圧、圧力、ストローク等を利用したセンシング部)とその検出信号取出し部、(2)運転者の制動要求から各輪の制動力を算出する中央演算部、(3)中央演算部から制御指令を受けて動作するブレーキ駆動用アクチュエータ(油圧駆動方式または電動駆動方式)を備えている。電動制御ブレーキシステムは、従来のブレーキ装置の仕組みと異なり、運転者の踏力に依存することなく四輪車両の四輪の総ブレーキ力を必要に応じて自在に変えることができ、四輪の各ブレーキ力を各車輪に取り付けた荷重センサの値に比例させた値に変更して車両の制動時の安定性を図ることができる。さらに電動制御ブレーキシステムについては、従来、上記の油圧の代わりに、モータと減速機を組み合わせた構成を利用して成る電気モータブレーキ装置(EMB:Electric Motor Brake)も知られている。(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−18293公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、現在使用されている油圧式のブレーキでは比較的低速で転舵をくりかえした後パッドクリアランスの増加により、ブレーキング時の無効ストロークが増えるノックバック(タイヤの転舵によりローターがふれてパッドを押し戻す状態)傾向があり、ブレーキの応答やフィーリングに悪影響を及ぼしている。また、電動ブレーキ装置においては、油圧によるダンピング効果がないため、ノックバックが起きるような転舵時に電動ブレーキ装置の減速機等に過大な負荷がかかり装置の劣化や耐久性に問題が生じる恐れがある。なおかつそのためにパッドクリアランスを大きくすると制動初期レスポンスが不足する。
【0005】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、耐久性に優れ、制動初期レスポンスが不足しない制動装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明に係る制動装置は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0007】
第1の制動装置(請求項1に対応)は、電子制御装置からの信号に基づき摩擦部材を回転体に対して相対的に移動させるアクチュエータを備えた制動装置において、電子制御装置は、アクチュエータを駆動して回転体の非制動時における摩擦部材と回転体とクリアランスを車両の舵角速度が速くなるほど少なくなるように調整するクリアランス調整手段を備えたことで特徴づけられる。
【0008】
第1の制動装置によれば、電子制御装置からの信号に基づき摩擦部材を回転体に対して相対的に移動させるアクチュエータを備えた制動装置において、電子制御装置は、アクチュエータを駆動して回転体の非制動時における摩擦部材と回転体とのクリアランスを車両の舵角速度が速くなるほど少なくなるように調整するため、舵角によりパッドクリアランスを増加する手段と車速によってその増加量を少なくする手段によって、低速の大舵角では電動ブレーキ装置の減速機構等の負担を低減できるようになり耐久性に優れ、制動初期レスポンスが不足しないようにすることができる。また、舵角速度が速くなるほど、パッドクリアランスを少なくすることにより、高速時や低速時でも回避操作時のブレーキの応答性を高くできる。
【0009】
第2の制動装置(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくはクリアランス調整手段は、車両の車速が高車速になるほど舵角速度に対するクリアランスの変化量が大きくなるように調整することで特徴づけられる。
【0010】
第2の制動装置によれば、舵角によりパッドクリアランスを増加する手段と車速によってその増加量を少なくする手段によって、低速の大舵角では電動ブレーキ装置の減速機構等の負担を低減できるようになり耐久性に優れ、制動初期レスポンスが不足しないようにすることができる。また、高車速になるほど舵角速度に対するパッドクリアランスの変化量を大きくすることにより、高速時や低速時でも回避操作時のブレーキの応答性を高くできる。また、舵角の代わりにヨーレートや左右の車輪速度、横Gを用いても同様の効果が得られる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る制動装置10の全体構成図である。左右前後の車輪の各々に設けられた電動ブレーキ11,12,13,14と、これら各ブレーキの作動状態を制御する主制御装置(中央ECU:主制御部)15,16と各ブレーキのアクチュエータである電動モータを制御する副制御装置(電動モータECU:副制御部)17,18,19,20とからなるブレーキ制御装置を備えている。電動ブレーキ11,12,13,14はディスクブレーキであり、左右の前輪・後輪と共に回転するブレーキディスク21,22,23,24の両側面に摩擦パッド(摩擦部材)25,26,27,28が電動モータ(アクチュエータ)29,30,31,32の駆動により押し付けられることにより回転が抑制される。また、各ブレーキには、ブレーキディスク21,22,23,24の回転速度を検出する回転速度センサ33,34,35,36を備えている。
【0013】
上記の電動モータ29,30,31,32の動作はブレーキ制御装置によって制御される。ブレーキ制御装置は、電気制御ブレーキシステム全体を制御する主制御装置15,16と、電動モータ29,30,31,32をそれぞれ制御するモータ駆動回路(図示せず)を有する副制御装置17,18,19,20とを含むものであり、これらは、電源として用意された2つのバッテリ37,38から供給される電力によって作動させられる。また、主制御装置15,16のそれぞれには実線で示された3重系の信号線39を介してブレーキペダル40の踏力センサ(ペダル操作量検出部)41から出力される踏力信号が入力される。さらに副制御装置17,18,19,20には、バックアップ系としての破線で示された信号線42によって踏力センサ41からの踏力信号が入力される。踏力センサ41から主制御装置15,16への踏力信号は例えばアナログ信号形式で3重にして送っている。なお踏力信号はこれに限定されず、踏力センサ41にコントローラを付設してディジタル信号形式に送ることも可能である。また踏力センサ41から副制御装置17〜20への踏力信号は、1本の信号線42で送られ、アナログ信号形式である。この場合にも踏力信号をディジタル信号形式とすることも可能である。
【0014】
さらに、図1において、2つのブロック201,202は、インジケータランプに係るユニットを示すものである。ユニット201からはヨーレート信号、横G信号、舵角信号などの車両の状態を示す信号が出力される。これらの信号は信号線43と信号線44を介して主制御装置15,16と副制御装置17〜20に入力されるようになっている。またユニット202からはABS(アンチロックブレーキシステム)信号、VSA(車両挙動安定化センサ)信号が出力される。これらの信号は、同じく、信号線43と信号線44を介して主制御装置15,16と副制御装置17〜20に入力されるようになっている。
【0015】
主制御装置15,16と副制御装置17〜20をつなぐ上記の信号線43と信号線44は、本実施形態に係る電気制御ブレーキシステムにおいては、フェイルセーフのための2重系の信号伝達系として形成されている。上記の主制御装置15と各副制御装置17〜20は信号線43を介して信号の送受を行い、主制御装置16と各副制御装置17〜20は信号線44で信号の送受を行うように構成されている。例えば2つの主制御装置15,16のいずれか一方でトラブルが生じたときには、正常に動作する主制御装置およびそれに関連する信号線によって各副制御装置17〜20に制御指令信号を送り、電動ブレーキ11〜14の制動動作を制御することになる。
【0016】
ここで、主制御装置15,16と副制御装置17〜20との間の信号線43,44を経由した通信に係る信号形式について説明する。信号線43,44ではディジタル通信形式の信号送受が行われ、信号線43,44はバスラインとして形成される。通信形式としてCANバスを用いる場合には、相互通信形式であるので、信号線43,44はフェイルセーフ判断のため2重の信号線構造となっている。この構造の場合、最終的に制御指令信号を送るための他の信号線が必要となる。通信形式としてTTP(Time Triggered Protocol)バスを用いる場合には、通信の時間が設定された通信形式であるので、信号線43,44はフェイルセーフ判断のため1重の信号線構造となっている。この構造の場合、最終的に制御指令の信号を送るためには他の信号線が必要となる。
【0017】
上記の実施形態では、主制御装置15,16の各々による本来の制動制御のための処理に対して、踏力センサ41から副制御装置17〜20の各々へのバックアップ用の信号線42を設けて各副制御装置で補助的な制動制御のための処理を行わせるようにしたため、主制御装置15,16と各副生制御装置17〜20の間の通信の構成を簡素にすることが可能となる。
【0018】
電源については、上記のごとく、2つのバッテリ37がフェイルセーフのために2重系として設けられている。バッテリ37からの電力は、電力線45によって、主制御装置15を経由して副制御装置17,18および電動モータ29,30に供給されるようになっている。バッテリ38からの電力は、電力線46によって、主制御装置16を経由して副制御装置19,20および電動モータ29,30に供給されるようになっている。
【0019】
また、電動モータ29,30,31,32を備えた各モータ部からは、図示しない押圧センサからの押圧信号と、図示しない位置検出部からのシリンダ位置信号が副制御装置17,18,19,20と主制御装置15,16にフィードバックされる。
【0020】
制動制御信号の伝達経路は、図1に示すように、メインの伝達系統である信号線39とバックアップ用にもう1系統の信号線42が備えられる。ブレーキペダル40での制動操作に基づく制動制御指令は、通常、踏力センサ41、主制御装置(中央ECU)15,16、副制御装置(モータ駆動ECU)17〜20という経路を通るために、通信による時間的なロスが発生する。
【0021】
図2は、電動ブレーキ11,12,13,14のうちの1つ、例えば電動ブレーキ11の内部の機械的な構造を示した断面図である。図2で、(A)は縦断面図であり、(B)は(A)におけるA−A線断面図である。
【0022】
電動ブレーキ11は、ブレーキディスク21の両側に配設された一対の摩擦パッド25と、円板状のブレーキディスク21の中心軸の軸線方向に移動自在となるように設けられ、外側と内側に配置された一対の摩擦パッド25によって両側からブレーキディスク21を挟持させるキャリパ60とを備える。外側と内側の一対の摩擦パッド25は、それぞれ、キャリパ本体すなわちハウジング61に、その軸線61aの方向にスライドする構造で取り付けられている。
【0023】
キャリパ60はハウジング(キャリパ本体)61を有しており、ハウジング61は車両の支持取付け部(図示せず)に固定されている。このハウジング61は、円筒状の出力部材(モータロータ)62を回転させる電動モータ29を固定するための機構部の一部を構成している。電動モータ29は、固定されたハウジング61と、ハウジング61の内周部に固定されたコイル63と、コイル63の両側に配置されたベアリング65,66を介して回転自在に支持された円筒状の出力部材62と、コイル63の内側に位置するように出力部材62の外周面に固定されたマグネット67とを有している。ここで、ベアリング66の付近には、出力部材62の回転位置を検出する位置検出器(図示せず)が設けられている。なお電動モータ29はブレーキ制御装置からの指令信号でトルクを発生させる。
【0024】
円筒状の出力部材62の内部には、前述のベアリング65,66を介して有底円筒状の回転伝達部材71が回転自在に設けられている。回転伝達部材71は図中右端の軸部71aで回転自在になるようにハウジング61によって支持されている。回転伝達部材71の軸部71aには遊星アーム301が固定されており、さらにこの遊星アーム301には3つの遊星歯車302が取り付けられている。また上記出力部材62の右端部には外歯を有する歯車部材303が固定されると共に、ハウジング61の内部には内歯を有する歯車部材304が固定されている。以上において、歯車部材303,304はそれぞれ太陽歯車であり、上記3つの遊星歯車302と共に遊星歯車機構を形成する。一方の太陽歯車である歯車部材304はハウジング61によって固定された状態にあるので、電動モータ29で出力部材62を回転させると、上記の遊星歯車機構を介して、その動力が回転伝達部材71に伝達され、回転伝達部材71が回転させられる。
【0025】
回転伝達部材71の内側にはボールネジ機構72を介してロッド状のボールネジスピンドル(移動部材)69が設けられている。ボールネジスピンドル69の先端部にはパッド押圧部76が設けられている。内側の摩擦パッド25はキャリパブラケット78等の部分で軸線61aの方向にスライド自在に取り付けられ、外側の摩擦パッド25はハウジング61の爪部77に軸線61aの方向にスライド自在に取り付けられている。両側の摩擦パッド25とブレーキディスク21との間には、通常、制動動作が行われない場合には所要のクリアランスが設定される。制動動作が行われるときには、図2に示すごとく、ボールネジスピンドル69がブレーキディスク方向に移動しパッド押圧部76が押圧作用を生じて両側の摩擦パッド25でブレーキディスク21を挟み込み、クランプする。
【0026】
上記において、両側の摩擦パッド25の各々とブレーキディスク21との間に形成されるクリアランスは、上記ボールネジスピンドル69の位置に応じて任意に調整することができる。従って、車両の条件に応じて電動モータ29の動作を制御し、ボールネジスピンドル69の位置を適宜に設定することにより上記のクリアランスは適宜に設定することができる。
【0027】
なお、パッド押圧部76の周面部とハウジング61との間にはリング形状を有した径方向に蛇腹状の弾性バネ79が設けられ、パッド押圧部75を支持している。
【0028】
なお、ハウジング61内には、摩擦パッド25によるクランプ力を測定する押圧センサ(図示せず)が備えられている。
【0029】
以上の構成により、電動モータ29がその出力部材62を例えば正回転させると、上記の遊星歯車機構を介して回転動力が伝達され、回転伝達部材71が正回転する。そうすると、ボールネジ機構72が、ボールネジスピンドル69をブレーキディスク21の方向に移動させ、一対の摩擦パッド25がブレーキディスク21の方向に押圧され、ブレーキディスク21に接触して制動力を発生させる。このとき押圧センサによりクランプ力を測定し、主制御装置15と副制御装置17に入力される。また位置検出器からの信号も主制御装置15と副制御装置17に入力される。電動モータ29がその出力部材62を逆回転させるときには、上記の動作と反対の動作が生じる。
【0030】
図3は、主制御装置15,16の内部構成の一例を示したブロック構成図である。主制御装置15,16は、踏力センサ41からの踏力信号Fを入力として、電動モータ29,30,31,32を制御する目標電圧を副制御装置21,22,23,24に出力する装置であり、目標クランプ力決定部80と偏差演算部81とPI設定部82とクランプ力検出部83と、舵角センサ84、車速センサ85からの信号を入力してクリアランスを調整するクリアランス調整部86を有している。
【0031】
目標クランプ力決定部80は、踏力信号Fに基づいて目標クランプ力Fcmを計算し偏差演算部81とクリアランス調整部86に出力する。偏差演算部81は、目標クランプ力Fcmからクランプ力検出値Fdを減算することにより偏差DFを計算して、PI設定部82に出力する。PI設定部82は偏差DFを用いた演算の実行により、クランプ力検出値Fdが目標クランプ力Fcmに追従するように目標電圧Vtを計算する。そして、その目標電圧信号Vtを副制御装置21,22,23,24に出力する。クランプ力検出部83は、電動モータ29,30,31,32の押圧センサ75からの信号に基づいてクランプ力Fdを検出し、その値を偏差演算部81に出力する装置である。
【0032】
クリアランス調整部86は、アクチュエータである電動モータ29,30,31,32を駆動して回転体であるブレーキディスク21,22,23,24の非制動時における摩擦部材である摩擦パッド25,26,27,28と回転体であるブレーキディスク21,22,23,24のクリアランスを車両の旋回状態に基づき調整する装置であり、目標クリアランス決定部87と偏差演算部88とPI設定部89とクリアランス検出部90を備えている。
【0033】
目標クリアランス決定部87は、舵角センサ84からの舵角信号、車速センサ85からの車速信号に基づいて目標クリアランスCtを計算し、偏差演算部88に出力する。偏差演算部88は、目標クリアランスCtから、クリアランス検出部90による検出クリアランスCdを減算することにより偏差DCを計算して、PI設定部89に出力する。PI設定部89は偏差DCを用いた演算の実行により、検出クリアランスCdが目標クリアランスCtに追従するように目標電圧Vcを計算し、副制御装置21,22,23,24に出力する。クリアランス検出部90は、モータの位置検出部68からの信号に基づいてクリアランスを検出し、偏差演算部88に出力する。
【0034】
図4は、クリアランス調整部86を説明するためのブロック構成図である。クリアランス調整部86は、入力部100、出力部101、CPU102、記憶部103を備えている。このクリアランス調整部86では、記憶部103内の記憶領域104に舵角、車速に基づいてクリアランスを調整するクリアランス調整プログラムが記憶されている。記憶部103内の記憶領域105には、図5(a)で示す低車速での舵角に対するパッドクリアランスtPのテーブルが記憶されており、記憶領域106には、図5(b)で示す中車速での舵角に対するパッドクリアランスtPのテーブルが記憶され、記憶領域107には、図5(c)で示す高車速での舵角に対するパッドクリアランスtPのテーブルが記憶されている。また、記憶領域108には、図6(a)で示す低車速での舵角速度に対する舵角速度係数kdSWのテーブルが記憶されており、記憶領域109には、図6(b)で示す中車速での舵角速度に対する舵角速度係数kdSWのテーブルが記憶されており、記憶領域110には、図6(c)で示す高車速での舵角速度に対する舵角速度係数kdSWのテーブルが記憶されている。
【0035】
次にクリアランス調整部86の記憶領域104に記憶される処理プログラム(クリアランス調整プログラム)を図7のフローチャートを用いて説明する。処理プログラムはイグニッションスイッチオンとともにスタートし、踏力センサ41からの踏力信号Fに基づいて、目標クランプ力決定部80で目標クランプ力Fcmが決定され、その目標クランプ力Fcmが入力部100から入力される(ステップS10)。その目標クランプ力Fcmと記憶部103の記憶領域111に記憶された所定値とCPUにより比較する(ステップS11)。その結果、目標クランプ力が所定値より大きいときは、クリアランスはその時点の値を維持し、ピストン位置を維持し(ステップS12)、リターンしステップS10が実行される。また、目標クランプ力Fcmが所定値以下のとき、入力された舵角、車速に基づいて、記憶部103に記憶されるパッドクリアランステーブルからパッドクリアランスtPを決定する(ステップS13)。舵角速度と車速により、記憶部103に記憶される舵角速度係数kdswが求められる(ステップS14)。次に、(1)式に従って目標パッドクリアランスtPPが演算される(ステップS15)。ここで、tPMINは、パッドクリアランス最低値である。
【0036】
【数1】
Figure 0004160464
【0037】
位置検出器68からの値に従ってクリアランス検出部90からのクリアランス値との目標クリアランスとの偏差から目標電圧を求め、その目標電圧信号を副制御装置に送り電動モータが制御され、スピンドル位置(ボールネジスピンドル69の位置)が制御されパッドクリアランスが調整される(ステップS16)。そして、再び、ステップS10に戻り、処理を行う。
【0038】
このように、舵角、車速などの車両の状態によりパッドクリアランスが調整される。
【0039】
図8は、副制御装置17,18,19,20のブロック構成図である。副制御装置17,18,19,20は、主制御装置15,16からの目標電圧Vtに従って電動モータ29,30,31,32を制御する装置であり、また、踏力センサ41からの踏力信号Fを入力として、電動モータ29,30,31,32を制御する装置であり、目標クランプ力演算部120とモータ駆動演算部121とモータ駆動回路123と実クランプ力変換部124と目標クランプ力判定部およびバックアップ判定部(以下「バックアップ判定部」という)125を有している。
【0040】
目標クランプ力演算部120は、踏力信号Fに基づいて目標クランプ力Fcbを計算しバックアップ判定部125に出力する。バックアップ判定部125でバックアップ判定がなされたとき、目標クランプ力Fcbがモータ駆動演算部121に出力され、モータ駆動演算部121内の図示しない偏差演算部は、目標クランプ力Fcbからクランプ力検出値Fdを減算することにより偏差DFを計算して、モータ駆動演算部121内の図示しないPI設定部に出力する。PI設定部は偏差DFを用いた演算の実行により、クランプ力検出値Fdが目標クランプ力Fcbに追従するように目標電圧Vt2を計算し、モータ駆動回路123に出力する。バックアップ判定部125でバックアップしないと判定されたときは、主制御装置15,16から入力された目標電圧Vt1をモータ駆動演算部121に出力する。モータ駆動回路123は、目標電圧Vt1あるいはVt2に基づいてモータ29(30,31,32)を駆動するためのモータ駆動電流を流す装置である。実クランプ力変換部124は、押圧センサ75からの信号によってクランプ力Fdを検出し、モータ駆動演算部121に出力する装置である。
【0041】
バックアップ判定部125は、主制御装置15(16)からの目標クランプ力Fcmに基づいて電動モータ29(30,31,32)を駆動するか、または副制御装置17(18,19,20)内で演算した目標クランプ力Fcbに基づいて電動モータ29(30,31,32)を駆動する(バックアップをする)かを判定し、上記のいずれかの目標クランプ力を出力する装置である。バックアップ判定部125は、その内部に、タイマーと目標値判定部と主判定部を備えている。タイマーは、踏力センサ41から踏力信号が入力された時点からの経過時間のカウントを行い、その経過時間に係るカウント値が上記主判定部に出力される。また目標値判定部は、メイン系の目標クランプ力決定部80とバックアップ系の目標クランプ力演算部120からの出力信号に基づいてバックアップを行うか否かの判定結果を主判定部に出力する。さらに主判定部は、目標値判定部からの信号とタイマーからの信号に基づいて、タイマーで指定される所定時間経過前にはバックアップ系の目標クランプ力演算部120からの目標クランプ力Fcbをモータ駆動演算部121に出力する。上記の所定時間が経過したときは、主制御装置15(16)からの信号をモータ駆動演算部121に出力する。以上のごとく、主判定部は、タイマーで指定される時間の経過前はバックアップ系の制御指令値でクランプ制御を行い、当該指定時間の経過後にはメイン系の制御指令値に置き換えてクランプ制御を行うという機能を有している。なお、このバックアップ判定部125は、目標クランプ力に所定の大きさの力を増加させるようにして出力するブレーキアシストロジックも有している。
【0042】
次に副制御装置17(18,19,20)の通常時の動作を図9のフローチャートを用いて説明する。踏力センサ41からの信号に基づいて目標クランプ力Fcbが目標クランプ力演算部120で決定され、バックアップ判定部125に入力され、また、主制御装置15,16の目標クランプ力決定部80からの目標クランプ力Fcmがバックアップ判定部125に入力される(ステップS20)。その目標クランプ力Fcbとバックアップ判定部125の記憶部に記憶された所定値kBと比較し、また、目標クランプ力Fcmとバックアップ判定部125の記憶部に記憶された所定値kMと比較し、目標クランプ力Fcbが所定値kBより大きくかつ目標クランプ力Fcmが所定値kMより大きいか判断する(ステップS21)。その結果、目標クランプ力Fcbが所定値kBより大きくかつ目標クランプ力Fcmが所定値kMより大きいときは、主制御装置からの目標電圧Vt1を通すように切り換えられ、タイマークリアされる(ステップS22)。そして、目標電圧Vt1がモータ駆動回路123に信号が送られ、クランプ力が制御される(ステップS23)。そして、リターンしステップS20が実行される。また、目標クランプ力Fcbが所定値kBより大きくかつ目標クランプ力Fcmが所定値kMより大きいことが満たされないとき、タイマーがカウントされる(ステップS24)。タイマーのカウントが指定時間経過したかどうか判断する(ステップS25)。タイマーが指定時間経過しないならば、バックアップ判定部125は、副制御装置からの目標クランプ力Fcbを出力するように制御される(ステップS26)そして、モータ駆動演算部121には目標クランプ力信号Fcbが送られ、クランプ力が制御される(ステップS23)。そして、リターンしステップS20が実行される。タイマーが指定時間経過したならば、主制御装置からの目標クランプ力Fcmを出力するように制御される(ステップS27)。そして、目標クランプ力信号がモータ駆動演算部121に送られ、クランプ力が制御される(ステップS23)。そして、リターンしてステップS10が実行される。
【0043】
次に副制御装置17(18,19,20)のブレーキアシスト時の動作を図10のフローチャートを用いて説明する。踏力センサ41からの信号に基づいて目標クランプ力Fcbが目標クランプ力演算部120で決定され、バックアップ判定部125に入力され、また、主制御装置15,16の目標クランプ力決定部80からの目標クランプ力Fcmがバックアップ判定部125に入力される(ステップS30)。このときブレーキアシストロジックによりその目標クランプ力Fcbとバックアップ判定部125の記憶部に記憶された所定値(バックアップ系BA判定しきい値)kBABと比較し、また、目標クランプ力Fcmとバックアップ判定部125の記憶部に記憶された所定値(メイン系BA判定しきい値)kBAMと比較し、目標クランプ力Fcbが所定値kBABより大きくかつ目標クランプ力Fcmが所定値kBAMより大きいか判断する(ステップS31)。その結果、目標クランプ力Fcbが所定値kBABより大きくかつ目標クランプ力Fcmが所定値kBAMより大きいときは、主制御装置からの目標クランプ力を通すように切り換えられ、タイマークリアされる(ステップS32)。そして、目標クランプ力がモータ駆動演算部121に信号が送られ、クランプ力が制御される(ステップS33)。そして、リターンしステップS30が実行される。また、目標クランプ力Fcbが所定値kBABより大きくかつ目標クランプ力Fcmが所定値kBAMより大きいことが満たされないとき、タイマーがカウントされる(ステップS34)。タイマーのカウントが指定時間経過したかどうか判断する(ステップS35)。タイマーが指定時間経過しないならば、副制御装置は、ブレーキアシストを判定し、目標クランプ力演算部からの目標クランプ力Fcbに所定の値αの大きさの力が加えられ、その増加させた目標クランプ力(Fcb+α)を出力するように制御され(ステップS37)そして、モータ駆動演算部には増加させた目標クランプ力信号(Fcb+α)が送られ、クランプ力が制御される(ステップS33)。そして、リターンしステップS20が実行される。タイマーが指定時間経過したならば、簡易ブレーキアシストを禁止するように判定され、主制御装置からの目標クランプ力Fcmを通すように制御される(ステップS36)。そして、目標クランプ力がモータ駆動演算部に送られ、クランプ力が制御される(ステップS33)。そして、リターンしステップS10が実行される。
【0044】
通常時は図9のように踏力センサからの直接指示値でモータの駆動開始を行うが所定時間(パッドクリアランスにより可変する。)経過してもメイン系の指示がない場合は簡易BA判定および先行のモータ駆動を停止することにより、通常は制動力が速く立ち上がるが、ノイズやセンサずれの時の不要な制動を禁止できる。
【0045】
バックアップ時は図10のように踏力センサからの直接指示値でBA(ブレーキアシスト)簡易判定を行うが所定時間(上記通常時とは異なる。)経過してもメイン系のBA指示またはBA相当のクランプ力指示値がない場合は簡易BA判定禁止することにより、BA時の制動力が速く立ち上がるが、メイン系でBA判定しなかった場合の不必要なBAを速やかに禁止できる。表でFcmは指示クランプ力、kMはしきい値であるが、単なるBAフラグでも良い。
【0046】
このように、緊急時のブレーキの応答性を向上させることができる。なお、本実施形態においては、クリアランス調整部への車両の状態の信号を舵角と車速に係る信号としたが、その他に、ヨーレート、車輪速度、横G等に係る信号を用いるようにしても良い。
【0047】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、次の効果を奏する。
【0048】
電子制御装置からの信号に基づき摩擦部材を回転体に対して相対的に移動させるアクチュエータを備えた制動装置において、電子制御装置は、アクチュエータを駆動して回転体の非制動時における摩擦部材と回転体とのクリアランスを車両の旋回状態に基づき調整するための舵角によりパッドクリアランスを増加する手段と車速によってその増加量を少なくする手段によって、低速の大舵角では電動ブレーキ装置の減速機構等の負担を低減できるようになり耐久性に優れ、制動初期レスポンスが不足しないようにすることができる。また、高車速や舵角速度が速いときには、パッドクリアランスをさらに少なくすることにより、高速時や低速時でも回避操作時のブレーキの応答性を高くできる。
【0049】
また、舵角によりパッドクリアランスを増加する手段と車速によってその増加量を少なくする手段によって、低速の大舵角では電動ブレーキ装置の減速機構等の負担を低減できるようになり耐久性に優れ、制動初期レスポンスが不足しないようにすることができる。また、高車速や舵角速度が速いときには、パッドクリアランスをさらに少なくすることにより、高速時や低速時でも回避操作時のブレーキの応答性を高くできる。また、舵角の代わりにヨーレートや左右の車輪速度、横Gを用いても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る制動装置の全体構成図である。
【図2】電動ブレーキの断面図である
【図3】主制御装置のブロック構成図である。
【図4】クリアランス調整部を説明するブロック構成図である。
【図5】パッドクリアランステーブルである。
【図6】舵角速度係数テーブルである。
【図7】クリアランス調整プログラムのフローチャートである。
【図8】副制御装置のブロック構成図である。
【図9】副制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】副制御装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
10 制動装置
11,12,13,14 電動ブレーキ
15,16 主制御装置
17,18,19,20 副制御装置
21,22,23,24 ブレーキディスク
25,26,27,28 摩擦パッド
29,30,31,32 電動モータ
33,34,35,36 回転速度センサ
37,38 バッテリ
39 信号線
40 ブレーキペダル
41 踏力センサ
42 バックアップ系信号線
43,44,45,46 信号線
47,48,49,50 信号線
60 キャリパ
80 目標クランプ力決定部
81 偏差演算部
82 PI設定部
83 クランプ力検出部
84 舵角センサ
85 車速センサ
86 クリアランス調整部
87 目標クリアランス決定部
88 偏差演算部
89 PI設定部
90 クリアランス検出部

Claims (2)

  1. 電子制御装置からの信号に基づき摩擦部材を回転体に対して相対的に移動させるアクチュエータを備えた制動装置において、
    前記電子制御装置は、前記アクチュエータを駆動して回転体の非制動時における摩擦部材と回転体とのクリアランスを車両の舵角速度が速くなるほど少なくなるように調整するクリアランス調整手段を備えたことを特徴とする制動装置。
  2. 前記クリアランス調整手段は、前記車両の車速が高車速になるほど前記舵角速度に対する前記クリアランスの変化量が大きくなるように調整することを特徴とする請求項1記載の制動装置。
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