涎掛けは、涎で衣服が汚れるのを防止するために幼児の顎の下に掛けられ布で、一般に矩形状の布と、上端部に当該布を幼児の首に固定するための紐やマジックテープなどの固定部材とで構成されている。
図9〜図11は、従来の涎掛けの構成を示す正面である。
図9に示す涎掛け100は、縦長長方形状の布101の上辺中央にU字状の切欠き部102を形成するとともに、この切欠き部102の両端に輪102A,102Bを形成し、これらの輪101A,101Bにゴム紐103を通した後、両端部に結び目若しくは飾りからなる抜け防止部材104が取り付けられている。また、布101の両側辺の略中央部に当該布101を幼児の胸部に固定するためのゴム紐105が取り付けられている。
涎掛け100は、切欠き部102とゴム紐103とで涎掛け100を幼児の首に固定する第1固定部が形成され、ゴム紐105により涎掛け100を幼児の胸部に固定する第2固定部が形成されている。涎掛け100は、ゴム紐105を伸ばして当該ゴム紐105と布101とで形成される輪に幼児の頭及び胸部を通した後、ゴム紐103を伸ばして切欠き部102とゴム紐103とで形成される輪を大きくし、この輪に幼児の頭を通すことにより、当該涎掛け100が幼児の首に取り付けられる。
ゴム紐103の長さは、ゴム紐103の抜け防止部材104が輪102A,102Bに当接する状態では切欠き部102とゴム紐103とで形成される輪の長さが幼児の首回りの長さよりも若干短くなるように設定されており、これにより涎掛け100が幼児の首に取り付けられたときは、ゴム紐100の収縮力で涎掛け100が幼児の首に固定されるようになっている。
図10に示す涎掛け200は、縦長長方形状の布201の上辺中央にU字状の切欠き部202を形成するとともに、この切欠き部202の両端に延長して当該涎掛け200を幼児の首に固定するための紐203A,203Bを形成し、布201の両側辺の略中央部に当該布201を幼児の胸部に固定するためのゴム紐204を取り付けたものである。
涎掛け200は、紐203A,203Bにより涎掛け200を幼児の首に固定する第1固定部が形成され、ゴム紐204により涎掛け200を幼児の胸部に固定する第2固定部が形成されている。涎掛け200は、ゴム紐204を伸ばして当該ゴム紐204と布201とで形成される輪に幼児の頭及び胸部を通した後、布201のU字状の切欠き部202を幼児の顎の下の首に当て、首の後ろで紐203Aと紐203Bとを結ぶことにより、当該涎掛け200が幼児の首に取り付けられる。
また、図11に示す涎掛け200’は、図10に示す涎掛け200の変形例で、紐203A,203Bを布201の上辺を延長した適宜の長さを有する帯201A,201Bとし、両帯201A,201Bの先端部にマジックテープ205A,205Bを形成したものである。この涎掛け200’は、紐203A,203Bに代えてマジックテープ205A,205Bを利用することにより涎掛けを幼児の首に固定させる操作を簡単にするとともに、涎掛けのデザイン性の向上させたものである。
なお、上述した涎掛けは、幼児用のものであるが、身体の上半身に障害を有する人や高齢者の介護用品としても同様の構成の涎掛けが知られ、実用されている。
実公昭52−117030号公報
実公昭60−16707号公報
従来の幼児用の涎掛けは、基本的に大人が幼児に涎掛けを付けることを前提としている、すなわち、被装着者とは別の人によって涎掛けが取り付けられることを前提としているため、涎掛けの固定部の構造については、被装着者が自分で涎掛けを取り付けることを考慮した工夫は何らなされていなかった。
また、近年、身障者や高齢者の介護のための介護用品の需要が高まる中、身障者用や高齢者用の涎掛けも知られるが、かかる涎掛けの構造は、基本的に幼児用の涎掛けを大人用に形状等を改良したものに過ぎず、涎掛けの固定部の構造についても介護者が被介護者に取り付けることを前提とし、被介護者自身が自分で涎掛けを取り付けることを配慮した工夫はなされていなかった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、介護を要する障害者や高齢者などが介護者の手を借りることなく、自分自身で簡単に自己の身体に取り付けることのできる涎掛けを提供するものである。
本発明は、少なくとも被装着者の胸部を覆い、当該被装着者の衣服の汚れを防止するための布部材と、上記布部材の上部に取り付けられ、上記被装着者の首に巻き付けて上記布部材を固定するための紐部材と、上記紐部材の両端を貫通させて当該紐部材に取り付けられ、ロック解除ボタンを押すと、当該紐部材に対して相対移動が可能になり、ロック解除ボタンを離すと、当該紐部材に対して相対移動が不能になる紐ストッパ部材と、を備えた涎掛けであって、上記布部材の上記紐部材が取り付けられる部分は上記被装着者の略首回りの長さを有する直線状をなし、上記紐部材の先端部の、当該紐部材の輪の最大サイズが上記被装着者の首回りの略2.5〜3倍となる位置に、上記紐ストッパ部材の相対移動を規制する規制部が形成されていることを特徴とする(請求項1)。
なお、上記布部材の上部の直線状部分は、35cm〜45cmにするとよい(請求項2)。また、上記布部材の上部の直線状部分に、上記紐部材を保持して上記布部材を吊るした際、当該直線状部分をV字状の屈曲状態に保持させる可撓性部材を設けるとよい(請求項3)。更に、上記紐部材の両先端に当該両先端を結合する球状若しくは半球状の紐保持部材を設けるとよく(請求項4)、この場合、上記紐部材の規制部と上記紐保持部材との間は少なくとも3本の指が嵌入し得る輪が形成可能な距離に設定するとよい(請求項5)。また、紐部材は、ゴム紐にするとよい(請求項6)。
上記構成の涎掛けによれば、ロック解除ボタンを押した状態で紐ストッパ部材を保持すると、布部材の重みで当該布部材と紐部材とが落下し、紐ストッパ部材は紐部材に対して相対的に上に移動し、規制部の位置で停止する。このとき、紐部材は、紐ストッパ部材の真下に垂下しようとするため、布部材の上部の直線状部分(紐部材の布部材への取付部分。以下、紐取付部分という。)の両端に内側の力が作用し、これにより布部材がV字状に屈曲し、紐取付部分は布部材の可撓性に基づいて収縮する。また、紐の輪の最大サイズは、布部材の紐取付部分の長さ(涎掛けの被装着者の略首回り)の略2.5〜3.0倍となるから、紐ストッパ部材を保持して布部材を吊るした状態では、紐ストッパ部材から布部材までの紐部材の長さは、被装着者の首回りの略半分の略1.5〜2倍の長さとなっている。例えば被装着者の肩幅を凡そ40cmとすると、紐ストッパ部材から布部材までの紐部材の長さは凡そ30〜40cmとなっている。
すなわち、ロック解除ボタンを押した状態で紐ストッパ部材を保持すると、当該保持位置から凡そ30〜40cm下がった位置に布部材がV状に屈曲し、かつ、その屈曲部を下方向に傾斜させた状態で吊り下げられる状態となる。
従って、被装着者は、片方の手で紐ストッパ部材を保持し、ロック解除ボタンを押せば、布部材が自重で下方に落下し、紐ストッパ部材から凡そ30〜40cm下がった位置に当該布部材がV状に屈曲し、かつ、その屈曲部を下方向に傾斜させて吊り下った状態となるから、布部材のV字状の屈曲部を自分の顎に引っ掛け、紐ストッパ部材を保持している手をそのまま頭の後ろに移動させると、当該頭が布部材の紐取付部分とこの部分から露出した紐部材とで形成される輪を自然に潜り抜け、被装着者はその輪を自分の首の部分に簡単に嵌めることができる。この後は、紐部材の先端を他方の手で固定し、ロック解除ボタンを押した状態で紐ストッパ部材を首に当接する位置まで移動させ、布部材が胸部を覆う位置まで当該布部材を回転させることにより、涎掛けが取り付けられる。
布部材の紐取付部分に可等性部材を設けたものでは、布部材が吊るされたとき、当該布部材が確実に適度にV字状に開いた状態に保持されるので、布部材の屈曲部を確実に顎に引っ掛けることができる。また、紐部材の先端に球状若しくは半球状の紐保持部材を設けておくと、例えば被装着者の他方の手の五指が不自由であっても親指と人差し指の間に紐部材の先端部を通し、球状若しくは半球状の紐保持部材を掌に納めるようにすれば、簡単に紐部材の先端部を固定することができ、首に紐部材を嵌めた後の紐ストッパ部材の移動を確実に行うことができる。
同様に、紐部材の規制部と紐保持部材との間を少なくとも3本の指が嵌入し得る輪が形成可能な距離に設定しておくと、例えば被装着者の他方の手の五指が不自由であっても人差し指から薬指までの3本の指の部分を紐部材の規制部と紐保持部材との間に形成される輪に嵌入させれば、簡単に紐部材の先端部を固定することができ、首に紐部材を嵌めた後の紐ストッパ部材の移動を確実に行うことができる。
また、紐部材をゴム紐で構成すれば、ゴム紐の伸縮性を利用して布部材の直線状部分(紐取付部分)とこの部分から露出した紐部材とで形成される輪に頭を潜らせることが容易になるとともに、首に固定したときに布部材が容易に回転移動することがなく、涎掛けの位置を安定させることができる。
請求項1又は2記載の発明によれば、片手で容易に涎掛けを自己の身体に装着することができる。従って、身障者や高齢者などの介護を要する人に対して好適な涎掛けを提供することができる。
請求項3記載の発明によれば、片手で涎掛けを自己の身体に装着する際、布部材の直線状部分(紐部材の布部材への取付部分)を確実に顎に引っ掛けて涎掛けの紐部材を首に巻き付けることができる。
また、請求項4又は5記載の発明によれば、涎掛けの紐部材を首に巻き付けた後、当該紐部材の先端部を他方の手で確実に固定することができ、紐ストッパ部材の移動を容易に行うことができる。
また、請求項6記載の発明によれば、より容易に片手で涎掛けを自己の身体に装着することができる。
図1は、本発明に係る涎掛けの正面図である。
同図に示す涎掛け1は、主として身障者や高齢者などの介護を要する人(以下、被介護者という。)の使用に適したもので、特に被介護者(大人)が片手の不自由な場合であっても一人で涎掛け1を取り付けることができるように工夫されたものである。
涎掛け1は、被介護者の胸部を覆い、食事をする際などに衣服が汚れるのを防止する縦長長方形状の布2と、この布2の上辺に取り付けられる紐3と、この紐3の中間部に当該紐3に沿って移動可能に取り付けられた紐ストッパ4と、この紐3の先端に取り付けられた球状の紐保持部材5とで構成されている。
布2には伸縮性を有し、吸水性の良好なタオル地等の生地が用いられている。布2は、凡そ38cm(幅)×45(長さ)の長方形状をなし、下辺の両隅は丸みを帯びるように面取りがなされている。布2の上辺は所定の寸法だけ裏側に折返して先端を縫合することにより筒状の紐通し穴21(直線状部分に相当)が形成され、この紐通し穴21に紐3を通すことにより当該紐3が布2の上辺に沿って移動可能に取り付けられている。なお、本実施形態では被介護者用ということから、可及的単純な形状及び構造が好ましいため、布2は長方形状の1枚布としているが、布2の形状は上辺に直線状の紐通し穴21が形成されたものであれば、長方形状から多少変形したものであってよい。また、紐3を布2に取り付ける部材も紐通し穴21に代えて、布2の上端部の裏面に幅方向に所定の間隔で複数の紐通し帯を縫い付けたものであってもよい。
布2の上辺の長さを凡そ38cmとしているのは、紐3によって涎掛け1が被介護者(大人)の首に取り付けられたとき、布2の上辺が被介護者の首の回りに巻き付けられるように、布2の上辺の長さを被介護者の首回りの寸法程度に合わせたものである。日本人の大人の標準的な首回りの寸法範囲が凡そ35cm〜45cmであることを考慮すると、布2の上辺の幅寸法は凡そ35cm〜45cmに設定される。また、布2の縦方向の長さを約45cmにしているのは、涎掛け1が被介護者の首に取り付けられたときに布2が被介護者の胸から胴の部分を覆い得る寸法としたものである。本実施形態では、大人の胸から胴の部分が首回りに対して約1.2倍の長さを有していると仮定して、布2の縦方向の長さを幅方向の長さ38cmの約1.2倍の長さ45cmにしている。なお、被介護者が子供や大人の標準的なサイズを有していない場合は、当該被介護者の体のサイズに応じて布2のサイズを適宜設定すればよいことは言うまでもない。
紐3はゴム紐からなり、両先端は紐保持部材5に固定されている。なお、紐3は伸縮性の少ない通常の紐部材であってもよい。紐3の長さは、約112cmで、図2に示すように、この紐3の両端を合わせて2つに折り返したとき、その折返点Pから約48cmの位置に紐ストッパ4の移動を規制する規制部31が形成されている。従って、規制部31から先端の紐保持部材5までの間に約8cmの隙間部分Rが生じている。規制部31は紐3の両端部を互に縫い合わせて紐ストッパ4が当該規制部31から紐3の先端側に移動できないようにしたものである。なお、規制部31は紐ストッパ4の移動を規制できるものであれば、縫合以外の構成であってもよい。例えば紐3の両端部に結び目を形成して規制部31としてもよい。紐3の折返点Pから約48cmの位置に紐ストッパ4の移動を規制する規制部31を形成する意義と規制部31から紐保持部材5の間に約8cmの隙間部分Rを設ける意義については後述する。
紐ストッパ4は、紐3の両端部を結合することによって輪を形成するとともに、その輪の大きさを調節する機能を果たす部材である。紐ストッパ4は、図3に示すように、本体41、ロック解除ボタン42及びこのロック解除ボタン42をロック位置に付勢する付勢部材43とからなる。本体41は上面に開口部を有する円筒体を成し、側面の上部に紐3を貫通装着させるための一対の孔41a,41bが形成され、これらの孔41a,41bの下方位置にロック解除ボタン42の抜けを防止するための一対の孔41c,41dが形成されている。また、本体41の内側面の適所には一対のガイドピン411a,411bが形成されている。
一方、ロック解除ボタン42は、本体41に嵌入装着可能な円筒体からなり、円筒体の上面に指で押圧操作するための頭部421が形成されている。円筒体の側面適所にガイドピン411a,411bが嵌入される凹溝422a,422b(422bは見えていない)が形成されるとともに、当該凹部422a,422bにガイドピン411a,411bをそれぞれ嵌入させて円筒体を本体41内に装着した際、孔411a,411bに臨む側面位置に一対の貫通孔42a,42b(42bは見えていない)が形成され、更に貫通孔42a,42bの下方位置に本体41の抜け防止用孔41c,41dに係合可能な一対の爪42c,42d(42dは見えていない)が形成されている。
付勢部材43は、スプリングバネからなり、ロック解除ボタン42を本体41内に装着した際、当該ロック解除ボタン42の下面と本体41の底面との間に設けられている。このスプリングバネ43の伸張力によりロック解除ボタン42は常に本体41に対して上方(開口部側)に移動するように付勢されるが、本体41に対して上方に移動すると、一対の爪42c,42dがそれぞれ本体41の抜け防止用孔41c,41dに係合するため、ロック解除ボタン42が本体41から抜け落ちることはない。ロック解除ボタン42が抜け防止位置にある状態では、貫通孔42a,42bの中心は本体41の孔41a,41bの中心とずれた状態(紐3をロックする状態)となっている。
紐ストッパ4は、ロック解除ボタン42を本体41に押し込み、貫通孔42a,42bの中心と本体41の孔41a,41bの中心とを合わせた状態で紐3の両端を孔41a,42a,41b,42bにより形成される貫通孔に通すことにより当該紐3に取り付けられる。紐3を紐ストッパ4に通した後、ロック解除ボタン42の押込操作を解除すると、スプリングバネ43によりロック解除ボタン42は本体41に対して上方に移動する力を受けるため、貫通孔42a,42bの中心が本体41の孔41a,41bの中心からずれ、これにより紐3がロック解除ボタン42により引き締められて紐ストッパ4は紐3に対して移動不能となる(以下、この位置をロック位置という。)。すなわち、紐3の両端部が紐ストッパ4により結合される。
一方、ロック解除ボタン42を本体42に対して押し下げ、貫通孔42a,42bの中心と本体41の孔41a,41bの中心とを略一致させた状態にすると(以下、この位置をロック解除位置という。)、紐3のロック状態が解除され、紐ストッパ4は紐3に対して移動可能となる。従って、ロック解除ボタン42をロック解除位置に設定した状態で、紐ストッパ4を紐3に沿って移動させることにより紐3の輪の長さが調節される。
涎掛け1を被介護者の首に取り付けたり、首から外したりする場合は、通常、紐3の輪を最大サイズにした状態で当該輪に首を通したり、当該輪から首を抜いたりする動作が行われる。従って、この場合は、紐3の輪のサイズを調節する必要はない。そこで、本実施形態では、被介護者自身が片手で自分の首に涎掛け1を取り付けたり、首から涎掛け1を取り外したりするときに紐3の輪の最大サイズが適切な大きさとなるように紐3に規制部31を設けている。すなわち、紐3の輪の最大サイズが紐3の輪に頭部を通したり、紐3の輪から頭部を抜いたりするのに適した大きさとなるように紐3に規制部31を設けている。
この規制部31の存在により、被介護者が涎掛け1を自分の首に取り付けるときは、紐ストッパ4を持ち、ロック解除ボタン42を押し込んだ状態で布2を上下に振れば、布2が下方に移動するのに伴って紐3も紐ストッパ4に対して相対的に下方に移動し、簡単に紐ストッパ4を紐3の規制部31の位置に移動させることきができる。すなわち、紐3の輪の大きさを、自分の頭部を通すのに適切な大きさに設定することができる。また、涎掛け1を自分の首から取り外すときは、ロック解除ボタン42を押し込んだ状態で紐ストッパ4を略水平方向に移動させると、紐3は首に固定されているため、当該紐3に対して紐ストッパ4を簡単に先端側の規制部31の位置まで移動させることができ、紐3の輪の大きさを、自分の頭部を抜くのに適切な大きさに設定することができる。
ここで、涎掛け1を被介護者自身が自己の首に取り付けたり、首から取り外したりするときの紐3の輪の適切な大きさについて説明する。
本実施形態に係る涎掛け1は、図4に示すように、片手で紐ストッパ4を保持した際、布2が紐3によって吊り下げられると、紐通し穴21の両端が紐3によって紐ストップ4の真下の位置に来るように引っ張られ、これにより布2が自然にV字状に屈曲するとともに、その屈曲部Qが前方下方に少し傾斜した状態になる性質を利用し、紐通し穴21の屈曲部Qを自己の顎に引っ掛け、この状態で紐ストッパ4を保持している手を頭の上方を後方に移動させることにより自己の頭部を簡単に紐3の輪に通して首に取り付けられるようになっている。なお、逆に紐3の輪を最大サイズにした状態で紐ストッパ4を保持している手を首の後方から上方に移動させた後、頭の上部後方から前方に移動させることにより、首に取り付けられた涎掛け1を取り外すことができる。
この涎掛け1の取付け方法から明らかなように、涎掛け1を自己の首に片手で簡単に取付けられるようにするには、紐通し穴21の屈曲部Qを自己の顎に引っ掛けた後、紐ストッパ4を保持している手を頭の上方を後方に移動させた際、紐通し穴21の両端部分やこの部分から露出して垂直上方に伸びる紐3の部分が顔の両側を滑り、両耳の部分を可及的滑らかに乗り越えることが必要である。紐3の輪に頭部を通すときは、紐通し穴21の両端から露出した紐3には内側に閉じようとする力が作用しているから、紐通し穴21の両端部分が顔に接触するときはできるだけ顔の両端に近い部分に接触することが好ましい。すなわち、図5に示すように、V字状に屈曲した紐通し穴21の全体が顔に当たるとき、紐通し穴21の両端a,aはできるだけ顔の両耳に近い部分に当たるようにし、紐通し穴21の両端から露出する紐3の顔に接触する部分の長さもできる限り短くすることが好ましい。
V字状に屈曲した紐通し穴21の両端を顔の両耳に近い部分に当たるようにするには、紐通し穴21の両端の距離が、例えば人の顔の両眦の間の距離以下とならないように、紐通し穴21に適度の剛性を持たせればよい。これには、例えば布2の紐通し穴21の部分の布地の厚みを適当に厚くする、紐通し穴21の屈曲部Qが形成される部分に樹脂などからなる弾性部材を挿入するなどして可及的に紐通し穴21の両端が開くようにすればよい。一方、紐通し穴21の両端から露出する紐3の顔に接触する部分の長さを短くするには、紐通し穴21の両端から紐ストッパ4までの距離を長くし、紐ストッパ4を保持して布2を吊り下げたとき、紐通し穴21の両端から上方に伸びる紐3の部分ができるだけ垂直に近くするようにすればよい。しかし、この場合は、被介護者が自分の手で紐ストッパ4を保持した状態で紐通し穴21の屈曲部Qを自分の顎に引っ掛ける動作をすることから、紐通し穴21の両端から紐ストッパ4までの距離はこの動作が可能な範囲に限定されることになる。
以上から、総合すると、紐3の輪の最大サイズは、紐ストッパ4を保持して布2を吊り下げたときの紐3の輪の部分の形状と被介護者の顔の大きさとを比較して決定される。例えば被介護者の顎から頭の頂点までの垂直距離を20〜25cmとし、涎掛け1を取り付けるとき、紐ストッパ4を保持した手が頭の頂点から15cm程度上方の位置を後方に移動するとすれば、紐ストッパ4を保持して布2を吊り下げたときに生じる紐3の輪の形状を、図6(a)に示すようにモデル化すると、紐3の輪の最大サイズは、同図(b)に示すように、紐通し穴21の屈曲部Qから紐ストッパ4までの垂直距離Lが凡そ35〜40cmで、屈曲した紐通し穴21の両端の水平距離Wが凡そ15〜25cmとなるようにすればよい。
例えばL=35cm、W=15cmとすると、紐3の輪の長さは約92.6cmとなり、L=35cm、W=25cmとすると、紐3の輪の長さは約99.1cmとなる。また、例えばL=40cm、W=15cmとすると、紐3の輪の長さは約102.3cmとなり、L=40cm、W=25cmとすると、紐3の輪の長さは約108.3cmとなる。従って、紐3の規制部31の位置は、紐3の輪の最大サイズが凡そ92〜110cmになる位置(折返点Pから凡そ46〜55cmの位置)に設定すればよい。
なお、上記モデル化による紐3の輪の最大サイズの算出は、上半身の体形が首回り約38cmの被介護者を想定して行っているので、この体形と異なる被介護者に対する涎掛け1の紐3の輪の最大サイズは、首回りと紐3の輪の最大サイズの比例関係から算出すればよい。すなわち、紐3の輪の最大サイズは首回りの約2.5(=92/38)倍〜3倍(=110/38)に設定するとよい。また、本実施形態では、ゴム紐の伸縮性により涎掛け1の装着脱時に紐3が伸びることを考慮して、紐3の全体長を約112cmとし、紐ストッパ4の規制部31の位置を紐3の輪の最大サイズが約96cmとなる位置(折返点Pから凡そ48cmの位置)に設定している。
図1に戻り、紐保持部材5は、被介護者が涎掛け1を取り付ける際、紐3の輪に自己の頭部を通した後、紐ストッパ4を首側に移動させて紐3の輪の径を小さくするときに紐ストッパ4を保持していない手(不自由な方の手)で当該紐3の先端を保持したり、逆に涎掛け1を取り外す際、紐ストッパ4を規制部31側に移動させて紐3の輪の径を大きくするときに紐ストッパ4を保持していない手(不自由な方の手)で当該紐3の先端を保持したりするための部材である。本実施形態では、紐保持部材5を保持する手に指が動き難くいなどの障害がある場合を想定し、例えば五指が硬直している場合にも不自由な手に容易に紐3の先端部を固定できるように、直径15〜30mmの球状若しくは半球状の紐保持部材5を設けている。
紐保持部材5は、図7に示すように、例えば親指と人差し指の指股の部分に紐3を通し、手を首から引き離す方向に移動させることにより簡単に当該指股の部分に係止させることができるようなっている。特に形状を直径15〜30mmの球状若しくは半球状にしているので、五指が丸まって不自由な場合にもその丸まった掌の部分に紐保持部材5が安定して収まり、容易に不自由な手から抜けることがないので、紐ストッパ4を移動させる際の紐3の先端部の固定を安定して行うことができる。なお、球状若しくは半球状の直径の範囲は上記範囲に限定されるものではなく、紐保持部材5を安定して保持できるものであれば、多少の広狭があってもよい。
紐保持部材5は、特に五指が丸まって不自由になっている場合を想定したものであるが、五指が真直ぐに伸びた状態で硬直している場合には、不自由な手で紐保持部材5を安定かつ容易に保持することは困難であるので、このような不自由な手を有する被介護者に対して紐3の先端部を安定かつ容易に保持できるように、上述した隙間部分Rが設けられている。図8に示すように、この隙間部分Rによって形成される輪に五指が真直ぐに伸びた状態の手を挿入することにより、紐3の先端部分を容易かつ安定して保持できるようにしている。そして、隙間部分Rによって形成される輪に五指が真直ぐに伸びた状態の手を挿入し易くするため、隙間部分Rの長さを少なくとも人指し指から薬指までの3本の指が挿入可能なサイズとしている。本実施形態では、大人の標準的な掌のサイズは10cm前後であることとゴム紐の伸縮性を考慮し、隙間部分Rの長さを約8cmに設定している。なお、隙間部分Rの長さは上記サイズに限定されるものではなく、その目的及び機能を果たすものであれば、多少の広狭があってもよい。
次に、本実施形態に係る涎掛け1の装着脱方法について簡単に説明する。
被介護者が涎掛け1を自分の首に取り付けるときは以下の手順で行われる。
(a) 一方の手(不自由でない方の手)で紐ストッパ4を保持し、ロック解除ボタン42を押し込んだ状態で布2を上下に振り、紐3の輪を最大サイズにする。
(b) このとき、紐3に吊り下げられた布2が縦方向に二つに折り畳まれ、布2の上部の紐通し穴21の部分がV字状に屈曲するので、この屈曲部Qに自己の顎を引っ掛け、その状態で紐ストッパ4を保持している手を頭の上方を移動するように後方に移動させる。
(c) 紐ストッパ4を保持している手の移動によって紐3の輪が頭部を潜ると、その後紐3の輪に頭部が完全に抜けるまでその手を下方に移動させる。
(d) 紐ストッパ4を保持している手を胸の前方に移動させ、他方の手に紐保持部材5を係止させるか、他方の手を隙間部分Rの輪に挿入するかして紐3の先端部を固定する。
(e) 紐3の先端部を固定し、ロック解除ボタン42を押し込んだ状態で紐ストッパ4を首側に移動させて適当な位置でロックした後、胸を覆う位置に布2を移動させて涎掛け1の取付け作業を終了する。
被介護者が涎掛け1を自分の首から取り外すときは以下の手順で行われる。
(a) 紐3の先端部を胸の前に持ってきて、一方の手(不自由な方の手)を紐保持部材5に係止させるか、隙間部分Rの輪に挿入するかした後、その手を胸の前方に移動させて紐3を直線状に張る。
(b) 他方の手で紐ストッパ4のロック解除ボタン42を押し込み、その状態で紐ストッパ4を紐3の規制部3の位置まで移動させる。
(c) 紐保持部材5または隙間部分Rで紐3を固定していた一方の手を外し、紐ストッパ4を保持している手を首の後ろに移動させ、その後上方に移動させた後、頭の上方を前側に紐3の輪から頭部が抜けるまで移動させて涎掛け1の取外し作業を終了する。
なお、上記説明では、被介護者が一人で自分の体に涎掛け1を装着脱する場合について説明したが、介護者が被介護者に涎掛け1を装着脱する場合も同様の方法で簡単に涎掛け1を被介護者に取り付けたり、取り外したりできることはいうまでもない。また、本発明に係る涎掛け1を3歳〜7歳の幼児用涎掛けに適用にしてもよい。