JP4152677B2 - カーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法 - Google Patents
カーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、カーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法に関し、さらに詳しくは、カーボンナノファイバーを効率的に後処理することにより高結晶性のカーボンナノファイバーを製造することのできる後処理装置及びその後処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
気相成長炭素繊維は、結晶性が高いほど、炭素六角格子面が年輪状に配向して、優れた特性を示すことが知られている。また気相成長炭素繊維は、黒鉛化すると、結晶性が向上する。
【0003】
気相成長炭素繊維の中で、直径が1〜100nmである細い気相成長炭素繊維は、特にカーボンナノファイバーと称されている。カーボンナノファイバーは、黒鉛網面が年輪状に繊維軸を取り巻いて成り、中空形状である場合には、別にカーボンナノチューブとも称されている。
【0004】
したがってカーボンナノファイバーも、結晶性が大きいほど、好ましい性質を発現すると期待され、特に黒鉛化されたカーボンナノファイバー、すなわち黒鉛化カーボンナノファイバーはその期待が大きい。カーボンナノファイバーは、製造された段階である程度黒鉛化されている場合があるが、その結晶性をさらに高めるために、製造されたカーボンナノファイバーに後処理として黒鉛化処理を施すこともある。黒鉛化されたカーボンナノファイバーは、特に、その繊維径が小さいことから、これを含有する複合材料を形成したときにその複合材料の導電性を著しく向上させたり、先端放電特性を向上させたりするという好ましい性質が発現すると考えられる。
【0005】
ただしカーボンナノファイバーの前記性質を発現させるためには、黒鉛化処理をする場合であっても、しない場合であっても、その純度が高いこと、つまり品質の高いことが条件になる。
【0006】
気相成長炭素繊維の製造方法を利用してカーボンナノファイバーを製造するためには、生成する繊維の径を小さくする必要があり、そのためには繊維の太さ成長を抑制することが必要である。そのようにするには、繊維を形成するに必要な炭素源の分解速度と、繊維生成の核となる金属粒子(金属滴)の生成速度との比較において、前記分解速度を小さくし、前記生成速度を大きくすること、及び反応系内における生成繊維の滞留時間を短くし、生成繊維が大きく太さ成長しないうちにこれを反応系外に排出することが必要である。
【0007】
前記分解速度を小さくするには、反応温度を低くする必要がある。そうするとカーボンナノファイバーの製造時にタール分の生成量が増大する。
【0008】
また黒鉛化処理をする場合であっても、このタールは、製造される黒鉛化カーボンナノファイバーの純度を低下させる。黒鉛化処理は、通常2000〜3000℃で行われるので、この温度ではタールはそのまま炭化し、配向のない黒鉛微結晶になり、これが、製造される黒鉛化カーボンナノファイバー中に残存することになるからである。
【0009】
したがってカーボンナノファイバーを効率的に製造する目的で、前記分解速度を小さくしようとすると、必然的に製造されるカーボンナノファイバー又は黒鉛化カーボンナノファイバーの純度は低下する。
【0010】
一方、前記生成速度を大きくするには、反応に使用される有機遷移金属化合物の量を増やす必要がある。有機遷移金属化合物の量を増やし、反応系内における生成繊維の滞留時間を短くすると、残留する有機遷移金属化合物の量が多くなるので、得られるカーボンナノファイバーの純度は低下する。
【0011】
さらにその後黒鉛化処理をする場合には、黒鉛化処理中に有機遷移金属化合物が分解して鉄等の遷移金属の粒子が生じ、この遷移金属粒子が、黒鉛化工程中に溶融化し、その後気化蒸発する。その際、溶融した鉄等がカーボンナノファイバーを融かすことにより、生成される黒鉛化カーボンナノファイバー中に配向性のない不定形炭素が増加する。
【0012】
したがってカーボンナノファイバーを効率的に製造する目的で、前記生成速度を大きくしようとすると、必然的に製造されるカーボンナノファイバー又は黒鉛化カーボンナノファイバーの純度は低下する。
【0013】
以上から理解されるように、気相成長炭素繊維を製造する方法を利用しても、黒鉛化処理の実施の有無を問わず、高品質のカーボンナノファイバーを製造することは困難であった。従来の繊維径の大きい気相成長炭素繊維においては、使用する有機遷移金属化合物の量が少なかったので、このような問題は小さかったが、繊維径の小さい気相成長炭素繊維であるカーボンナノファイバーを製造する場合に、前記問題は重大であり、その繊維径が小さいほどこの問題は大きくなる。
【0014】
したがって高品質のカーボンナノファイバーを得るためには、黒鉛化処理の実施の有無にかかわらず、後処理として、カーボンナノファイバーに含有される不純物、すなわちタール成分及び残存金属成分を除去する処理をする必要がある。
【0015】
前記残存金属成分には、有機遷移金属化合物が分解して生成した金属粒子等と未分解の有機遷移金属化合物とがある。
【0016】
前記残存金属成分における分解物の除去方法としては、従来、酸洗いがあったが、この方法には、処理に手間がかかる割に除去率が低いという欠点があった。
【0017】
前記残存金属成分の未分解物及びタール成分の除去方法には、従来、溶媒抽出があったが、この方法には、除去率が低く、溶媒抽出という加熱処理以外の工程が必要であるので、コスト高になるという欠点があった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は前記問題点を解決することを目的とする。即ち、この発明の目的は、高結晶化したカーボンナノファイバーを得るために、カーボンナノファイバーを効率的に後処理することのできるカーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法を提供することであり、特に、残存する未反応の有機遷移金属化合物を効率よく除去することのできるカーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法、タール成分を効率的に除去することのできるカーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法、並びに高結晶性の黒鉛化カーボンナノファイバーを製造することのできるカーボンナノファイバーの後処理装置及びその後処理方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するためのこの発明は、有機遷移金属化合物を使用した気相成長法による気相成長カーボンナノファイバー製造装置で製造されたカーボンナノファイバーを、スクリューコンベア又はロータリーキルンを用いて移送する移送手段と、前記カーボンナノファイバーを前記移送手段で移送しながら加熱処理する前記カーボンナノファイバーの後処理として前記有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度であって、前記有機遷移金属化合物の蒸発温度以上の温度に前記カーボンナノファイバーを加熱することにより前記カーボンナノファイバーから前記有機遷移金属化合物を除去する遷移金属除去手段を備える加熱処理手段とを有して成ることを特徴とするカーボンナノファイバーの後処理装置であり、
前記後処理装置の好適な態様として、前記加熱処理手段は、前記カーボンナノファイバーを不活性ガス雰囲気中で600〜1300℃に加熱することにより前記カーボンナノファイバーからタールを除去するタール除去手段を有して成り、
前記加熱処理手段は、前記カーボンナノファイバーを1600〜3000℃に加熱することにより黒鉛化する黒鉛化手段を有して成る。
【0020】
また前記課題を解決するための他の発明は、有機遷移金属化合物を使用した気相成長法による気相成長カーボンナノファイバー製造装置で製造されたカーボンナノファイバーをスクリューコンベア又はロータリーキルンで移送しながら行う前記カーボンナノファイバーの加熱処理として、前記有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度であって、前記有機遷移金属化合物の蒸発温度以上の温度に前記カーボンナノファイバーを加熱することにより前記カーボンナノファイバーから前記有機遷移金属化合物の除去をすることにより後処理を行うことを特徴とするカーボンナノファイバーの後処理方法であり、
前記後処理方法の好適な態様として、前記加熱処理は、前記カーボンナノファイバーを不活性ガス雰囲気中で600〜1300℃に加熱することにより前記カーボンナノファイバーからタールを除去するタール除去工程を有して成り、
前記加熱処理は、前記カーボンナノファイバーを1600〜3000℃に加熱することにより黒鉛化する黒鉛化工程を有して成る。
【0021】
【発明の実施の形態】
1.カーボンナノファイバーの後処理装置
図1、図2及び図3は、この発明に係るカーボンナノファイバーの後処理装置の一具体例である後処理装置1を示す説明図である。後処理装置1は、遷移金属除去部10と、タール除去部20と、黒鉛化部30とを有して成る。図1は、後処理装置1における遷移金属除去部10を示す説明図であり、図2は、後処理装置1におけるタール除去部20を示す説明図であり、図3は、後処理装置1における黒鉛化部30を示す説明図である。後処理装置1のうち遷移金属除去部10は、有機遷移金属化合物を使用して気相成長法により製造されたカーボンナノファイバーから不純物である前記有機遷移金属化合物を除去する遷移金属除去手段の一例であり、タール除去部20は、前記カーボンナノファイバーから不純物であるタールを除去するタール除去手段の一例である。遷移金属除去部10及びタール除去部20は、不純物除去部を形成する。後処理装置1のうち黒鉛化部30は、前記不純物除去部で処理されたカーボンナノファイバーに黒鉛化処理を行う黒鉛化手段の一例である。
【0022】
後処理装置1に使用される原料は、有機遷移金属化合物を用いて気相成長法で製造される粗なカーボンナノファイバーである。このカーボンナノファイバーとしては、前記製造方法についての条件を満たせば特に制限はない。
【0023】
前記カーボンナノファイバーを製造する装置としては、例えば、特開平8−301699号公報に記載された図1、特開平11−107052公報に記載された図1、公開2000−178835公報に記載された図1、特開2001−73231号公報に記載された図2、公開2001−115348に記載された図1等に示される装置を挙げることができる。
【0024】
カーボンナノファイバーを製造する際に使用される有機遷移金属化合物としては、例えば特開昭60−54998号公報の第3頁左上欄第9行〜同頁右上欄最下行に記載の有機遷移金属化合物、特開平9−324325号公報の段落番号[0059]に記載された有機遷移金属化合物、特開平9−78360号公報の段落番号[0049]に記載された有機遷移金属化合物等を挙げることができ、これら有機遷移金属化合物と共に助触媒として使用することができる化合物として、特開平9−78360号公報の段落番号[0051]、並びに特開平9−324325号公報の段落番号[0061]に記載された含硫黄複素環式化合物及び硫黄化合物を挙げることができる。
【0025】
カーボンナノファイバーを製造する際に使用される炭素源化合物として、熱分解により炭素を発生させて炭素繊維質物例えば気相成長炭素繊維、特にカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブを生成させることができる化合物であれば特に制限がなく、特開昭60−54998号公報の第2頁左下欄第4行〜同頁右下欄第10行に記載された炭素化合物、特開平9−324325号公報の段落番号[0060]に記載された有機化合物、特開平9−78360号公報の段落番号[0050]に記載された有機化合物等を挙げることができる。
【0026】
このような反応条件下で製造されたカーボンナノファイバーは、未分解の有機遷移金属化合物、分解後に生成した遷移金属、タール成分等を不純物として含有する。これらの不純物をどのような割合で含有するかは、反応条件により様々である。いずれにしても、このような不純物を含有するカーボンナノファイバーを、便宜上、粗カーボンナノファイバーと称することがある。
【0027】
(1)遷移金属除去手段
遷移金属除去手段は、有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度にカーボンナノファイバーから有機遷移金属化合物を除去する手段である。
【0028】
図1に示されるように、この発明に係る後処理装置における遷移金属除去手段の一具体例である遷移金属除去部10は、原料ホッパー11と、スクリュー回転用モーター12と、炉心管13と、移送手段の一例であるスクリューコンベア14と、電気炉15と、製品排出部16と、廃ガス放出部17aと、廃ガス放出部17bとを有して成る。
【0029】
原料ホッパー11は、処理対象である粗カーボンナノファイバーを収容する部材である。炉心管13は、粗カーボンナノファイバーを加熱処理する管体である。炉心管13は、横方向に延在するように設置され、その入口側上部に原料ホッパー11が装着されており、原料ホッパー11内の粗カーボンナノファイバーが炉心管13内に供給されるようになっている。電気炉15は、炉心管13の延在方向中央部を覆うように設けられている。電気炉15は、炉心管13内に熱を供給し、炉心管13内の粗カーボンナノファイバーを加熱する装置である。
【0030】
移送手段であるスクリューコンベア14は、炉心管13内に収容されている。スクリューコンベア14は、スクリュー回転用モーター12の作用により回転し、原料ホッパー11から炉心管13内に供給されたカーボンナノファイバーをその回転作用により、炉心管13の入口側から出口側に向けて移送する。製品排出部16は、炉心炉13の出口側下部に設けられている。製品排出部16は、炉心炉13内で熱処理されたカーボンナノファイバーを遷移金属除去部10外に排出する部分である。
【0031】
ガス供給部17aは、炉心管13の入口側上部に設けられ、廃ガス放出部17bは、炉心管13の出口側上部に設けられている。17aより供給されたガス、例えば窒素ガスは、炉心管13内での粗カーボンナノファイバーの加熱処理の際に発生した有機遷移金属化合物の蒸気等を含有する廃ガスになる。この排ガスは、遷移金属除去部10外に、廃ガス放出部17bを通して排出される。
【0032】
また遷移金属除去部10は、図示しないガス導入口及びガス導出口を有し、原料ホッパー11、炉心管13及び製品排出部16内を特定のガス、例えば窒素ガスで置換することができる。こうすることにより炉心管13内で発生した遷移金属化合物蒸気の分圧を窒素ガス等により小さくして、その除去効率を大きくすることができる。また、空気(酸素)が存在するとカーボンナノファイバーが燃焼することがあるので、窒素等の不活性ガスを炉心管内に流通させる事が重要である。
【0033】
遷移金属除去部10においては、炉心管13内におけるカーボンナノファイバーの移送をスクリューコンベア14により行う点に特徴がある。
【0034】
遷移金属除去部10においては、粗カーボンナノファイバーを加熱して、その中に含有される有機遷移金属化合物を蒸発除去させる必要があるので、蒸発した有機遷移金属化合物が繊維体外に移行しやすいように、炉心管13内で処理されるカーボンナノファイバーは、その繊維間の空隙が大きいこと、つまり嵩密度が小さいことが望ましい。またカーボンナノファイバーは、その嵩密度が大きいと、炉心管13の内壁との摩擦抵抗が大きくなり、炉心管13内の移行が困難になる。
【0035】
炉心管13内における粗カーボンナノファイバーの移送を、例えばプッシャーで行うと、炉心管13内で処理される粗カーボンナノファイバーは、プッシャーの移動方向と同方向に力を受けるので、移行時に大きな力を受けることになり、またプッシャーとの接触部が特に大きな力を受けるので、局部的に圧縮され、嵩密度の非常に大きい部分を生ずることになる。粗カーボンナノファイバーの嵩密度が増大すると、粗カーボンナノファイバーと炉心管13の内壁面との摩擦が増大し、そのことにより粗カーボンナノファイバーにはさらに大きな圧力が付加されるので、ますますその嵩密度が増大するという悪循環を生ずる。その結果、前記のように不純物である有機遷移金属化合物の蒸発除去を妨げる。また嵩密度が増大すると、繊維表面に沈着したタールや無定形炭素に基づく膠着の発生の可能性を高める。膠着は、後処理後におけるカーボンナノファイバーの分散性を低下させ、最終製品における強度や導電性を低下させる。さらに嵩密度が増大すると、カーボンナノファイバーの坐屈も生じ、カーボンナノファイバーが折れたり、変形したりする。
【0036】
一方、炉心管13内における粗カーボンナノファイバーの移送をスクリューコンベア14により行うと、炉心管13内で処理される粗カーボンナノファイバーは、スクリューコンベア14の移動方向に対して斜め方向に力を受けるので、粗カーボンナノファイバーに作用する力が緩和され、また粗カーボンナノファイバーは、小さな塊を形成して炉心管13内で螺旋軌道を描いて、場合によっては転がりながら移行するので、移行時に局所的に大きな力を受けることもない。したがって前記粗カーボンナノファイバーは、全体として嵩密度が大きくなることがなく、また局所的にも嵩密度が大きくなることがない。例えばスクリューコンベア14により粗カーボンナノファイバーの移送を行うと、粗カーボンナノファイバーの前記塊は、嵩密度が0.1g/cm3以下であり、繊維間の固着は起こらない。
【0037】
したがってスクリューコンベアを用いる前記方式によれば、炉心管内において粗カーボンナノファイバーから遷移金属化合物を効率的に蒸発除去させることができ、さらに粗カーボンナノファイバーを炉心管内においてスムースに移行させることができるという利点を得ることができる。
【0038】
スクリューコンベア14の構造としては、前記機能を有していれば特に制限はなく、図1に示される標準的な一重の羽根スクリューの他、例えば二重羽根スクリュー、パドル付きスクリュー、カットフライトスクリュー又はリボンスクリューであってもよい。
【0039】
スクリューコンベア14において、ピッチtと回転軸径dsと羽根外径dbとの関係が、t/db=0.1〜20、ds/db=0.05〜0.8であり、スクリューコンベア14の最外部と炉心管13との距離が1〜30であると、前記効果が好適に発揮されるので好ましい。
【0040】
遷移金属除去部10における炉心管13は横型であるが、これを縦型にすることもできる。
【0041】
遷移金属除去部10における移送手段は、スクリューコンベア14であるが、この発明に係る後処理装置における遷移金属除去部の移送手段としては、カーボンナノファイバーの繊維塊を前述のように移送することができる手段であればスクリューコンベアに制限されることはなく、例えばロータリーキルンであってもよい。
【0042】
加熱処理される前記粗カーボンナノファイバーは、前記の理由により、その平均嵩密度が、大きくとも0.05g/cm3、特に0.001〜0.01g/cm3であるのが好ましく、またその局所密度が大きくとも0.3g/cm3、特に0.1g/cm3であるのが好ましい。なお、ここで粗カーボンナノファイバーの嵩密度は、一般的な言い方をすると単位体積当たりの重量であるということができるが、この発明においては、処理を加えられる間の全体としての密度であり、(装置内のカーボンナノファイバーの重量)÷(装置の内容積)と言う計算により求めることができる。一方、局所密度は、平均嵩密度測定領域内における部分的密度であって、モデル実験や計算で求められる。例示すると、粗ナノファイバーで直径20mm(体積4.19cm3)の球(毛玉)を作り、その重量が0.10gになるように調整したとすると、その嵩密度(局所密度)は0.024g/cm3である。この毛球を直径100mm、有効加熱長500mmの加熱管(体積3300cm3)に、強制的に圧力をかけて詰め込むのではなく、軽く押し込む程度に詰めて充填する。このときの粗ナノファイバー重量が25gであると、その嵩密度(平均嵩密度)は0.007g/cm3である。
【0043】
遷移金属除去部10は、粗カーボンナノファイバーを有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度であって、有機遷移金属化合物の蒸発温度以上の温度に加熱する。
【0044】
粗カーボンナノファイバー中に含まれる有機遷移金属化合物は、カーボンナノファイバーを製造する際の触媒金属源として使用された化合物であるから、この発明に係る後処理方法における加熱温度は、使用される有機遷移金属化合物の種類に応じて相違することになる。一般的には、前記加熱温度は、粗カーボンナノファイバーを製造する際に使用された有機遷移金属化合物の蒸発温度以上かつ前記有機遷移金属化合物の分解温度未満の温度範囲内にある適宜の温度である、といえる。具体的には、有機遷移金属化合物としてフェロセン等のメタロセンが使用されたときには、前記「有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度」は常圧下において350〜500℃であり、特に400〜450℃である。なお、有機遷移金属化合物によっては、その有機遷移金属化合物が蒸発する前に分解する化合物もあるので、そのような有機遷移金属化合物が使用された場合には、減圧下で蒸発を起こす温度が採用される。つまり、減圧下で加熱処理をするのであり、減圧下においてその有機遷移金属化合物の蒸発温度以上でありその有機遷移金属化合物の分解温度未満に加熱するのである。
【0045】
前記加熱温度に粗カーボンナノファイバーを加熱すると、粗カーボンナノファイバーの表面に付着する有機遷移金属化合物が蒸発して粗カーボンナノファイバーから離脱し、除去される。
【0046】
有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い加熱温度に加熱する加熱処理の雰囲気は、通常、窒素及び希ガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0047】
有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い加熱温度に粗カーボンナノファイバーを加熱する加熱時間は、通常、0.5〜60分、好ましくは1〜30分である。加熱時間が前記範囲よりも短いと、有機遷移金属化合物の除去が不十分になり、前記範囲よりも長いと加熱時間を長くするに比例する技術的効果を期待することができなくなる。
【0048】
この加熱処理をすると、例えば加熱処理前の粗カーボンナノファイバーに5〜10重量%の割合で含有されていた有機遷移金属化合物を、多くとも3重量%、通常は1重量%以下にまでに低減することができる。
【0049】
なお以上においては、粗カーボンナノファイバーを原料として遷移金属除去部を説明したが、前記遷移金属除去部は、タール除去部により粗カーボンナノファイバーを処理して得られた生成物を原料とすることもできる。
【0050】
(2)タール除去部
図2に示されるように、この発明に係る製造装置におけるタール除去手段の一具体例であるタール除去部20は、原料ホッパー21と、原料供給スクリュー回転用モーター22と、炉心管23と、原料供給スクリュー24と、電気炉25と、製品排出部26と、第1不活性ガス供給部27aと、第2不活性ガス供給部27bと、廃ガス放出部27cと、炉心管回転用モーター28と、原料供給管29とを有して成る。
【0051】
原料ホッパー21は、処理対象であるカーボンナノファイバーを収容する部材である。原料供給管29は、原料ホッパー21の下部に取り付けられている。原料供給管29は、原料ホッパー21から落下してくるカーボンナノファイバーを炉心管23内に供給する部材である。原料供給スクリュー24は、原料供給管29内に収容されている。原料供給スクリュー24は、原料供給スクリュー回転用モーター22により回転し、その作用により、原料ホッパー21から原料供給管29内に供給されたカーボンナノファイバーを炉心管23内に移送する。
【0052】
炉心管23は、カーボンナノファイバーを加熱処理する管体である。炉心管23は、横方向に延在するように設置されている。炉心管23は、その入口側開口に原料供給スクリュー24の出口部が挿入されており、原料ホッパー21内のカーボンナノファイバーが原料供給スクリュー24により炉心管23内に供給されるようになっている。炉心管23は、回転したときに、その内部のカーボンナノファイバーの繊維塊が転がりながら重力により入口側から出口側に向かって移行することができる程度に、その出口側が入口側よりも下位になっている。炉心管回転用モーター28は、炉心管23を回転させる。すなわち炉心管23及び炉心管回転用モーター28は、移送手段であるロータリーキルンを形成している。電気炉25は、炉心管23の入口部及び出口部以外を覆うように設けられている。電気炉25は、炉心管23内に熱を供給し、炉心管23内のカーボンナノファイバーを加熱する装置である。
【0053】
製品排出部26は、炉心炉23の出口側に設けられている。製品排出部26は、炉心炉23内で熱処理されたカーボンナノファイバーをタール除去部20外に排出する部分である。
【0054】
第1不活性ガス供給部27aは、原料ホッパー21内に不活性ガス例えば窒素ガスを導入するように形成され、原料ホッパー21に取り付けられる。第1不活性ガス供給部27aから原料ホッパー21内に供給された不活性ガスは、原料ホッパー21の内部及び原料供給管29の内部を流通し、排ガス放出部27cから系外に放出される。第2不活性ガス供給部27bは、製品排出部26内に不活性ガス例えば窒素ガスを導入するように形成され、製品排出部26に取り付けられる。第2不活性ガス供給部27bから製品排出部26の内部に供給された不活性ガスは炉芯管23の内部を流通し、排ガス放出27cから系外に放出されるように成っている。排ガス放出部27cは、炉心炉23の入口部及び原料供給スクリュー24の出口部を収容した状態に設置される。廃ガス放出部27bは、炉心炉23内でのカーボンナノファイバーの加熱処理の際に発生したタール成分蒸気を含有する廃ガスを、第1不活性ガス供給部27a及び第2不活性ガス供給部27bそれぞれから導入された不活性ガスと共に、タール除去部20外に放出する部分である。
【0055】
前記第1不活性ガス供給部27a及び第2不活性ガス供給部27bは、不活性ガスを、原料ホッパー21、炉心管23、原料供給管29、製品排出部26及び不活性ガス供給部27aに導入することにより、これらの内部を不活性ガス例えば窒素ガス又は希ガスで置換することができる。こうすることにより炉心管23内で発生したタール成分蒸気の分圧を窒素ガス等により小さくして、その除去効率を大きくすることができる。
【0056】
タール除去部20においては、炉心管23内におけるカーボンナノファイバーの移送を炉心管23の回転により行う点に、つまりロータリーキルン方式により行う点に特徴がある。ロータリーキルン方式によると、カーボンナノファイバーの繊維塊は炉心管23の内周面を転がりながら移動する。このような移送方式を採用する理由については、遷移金属除去部10においてスクリューコンベア14を採用する理由と同様である。タール除去部20において、カーボンナノファイバーの移送手段としてロータリーキルンを使用することにより、遷移金属除去部10においてスクリューコンベアを使用することにより得られる前記効果と同様の効果を得ることができる。
【0057】
炉心管23の回転数としては、0.1〜100rpmであることが好ましく、勾配としては0.5〜10°であることが好ましい。回転数及び勾配がこの条件を満たせば、前記効果が充分に得られる。
【0058】
タール除去部20における移送手段は、炉心管23及び炉心管回転用モーター28により形成されるロータリーキルンであるが、この発明に係る後処理装置におけるタール除去部の移送手段としては、カーボンナノファイバーの繊維塊を前述のように移送することができる手段であればロータリーキルンに制限されることはなく、例えば遷移金属除去部10と同様のスクリューコンベアであってもよく、スクリューコンベアを使用する場合には、炉心管は横型であっても、縦型であってもよい。
【0059】
タール除去部20で処理する粗カーボンナノファイバーの嵩密度については、遷移金属除去部10の説明において示した粗カーボンナノファイバーの嵩密度と同様である。
【0060】
炉心管23の構造は、前述のようなロータリーキルンを形成することができれば特に制限されることはなく、炉心管23の内部にリフターを設けたり、炉心管23の開口部にリング堰を設けたりすることができる。
【0061】
タール除去部20は、カーボンナノファイバーを、不活性ガス雰囲気中で600〜1300℃まで除々に昇温するように加熱する。この加熱処理により、タールがカーボンナノファイバーから好適に蒸発し、除去される。
【0062】
加熱時間は、0.5〜60分間、特に1〜30分間であることが好適である。前記不活性ガス雰囲気としては、通常、窒素及び希ガス等の不活性ガス雰囲気が好適である。この不活性ガス雰囲気中に酸素が存在するとカーボンナノファイバーが酸化し、つまり焼失してしまうのであるが、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を完全にゼロにすることは極めて困難であるから、不活性ガス雰囲気中の許容することのできる酸素濃度としては多くとも10ppmに、好ましくは多くとも1ppmに抑制することが望まれる。
【0063】
なお以上においては、遷移金属除去部により粗カーボンナノファイバーを処理して得られた生成物を原料としてタール除去部を説明したが、前記タール除去部は、有機遷移金属化合物を使用して気相成長法により製造された粗カーボンナノファイバーをそのまま原料とすることもできる。
【0064】
(3)黒鉛化部
図3に示されるように、この発明に係る製造装置における黒鉛化手段の一具体例である黒鉛化部30は、原料ホッパー31と、スクリュー回転用モーター32と、炉心管33と、スクリューコンベア34と、高周波炉35と、製品排出部36と、原料供給スクリュー37と、原料供給スクリュー回転用モーター38と、原料供給管39と、第1置換室40と、第2置換室41と、スライドゲート弁42aと、スライドゲート弁42bと、スライドゲート弁43aと、スライドゲート弁43bと、黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44とを有して成る。
【0065】
原料ホッパー31は、遷移金属除去部10及びタール除去部20においてカーボンナノファイバーに前記熱処理を施して得られた不純物除去済みカーボンナノファイバーを収容する部材である。第1置換室40は、原料ホッパー31の下端開口に、縦方向に延在するように設けられている。第1置換室40は、その上端部及び延在方向中央部にそれぞれスライドゲート弁42a及びスライドゲート弁42bを有する。第1置換室40は、スライドゲート弁42a及びスライドゲート弁42bを閉ざすことにより、スライドゲート弁42aとスライドゲート弁42bとで挟まれる部分に密閉空間である第1置換室40を形成する。この第1置換室40は、図示しないガス出入口から特定のガスを送入することによって、特定のガス雰囲気にすることができる(一般に、ガス置換に際しては、この第1置換室40内を一旦真空にした後、新しいガス特に不活性ガスを導入する方法が採用される。)。
【0066】
原料供給管39は、第1置換室40の下部に取り付けられている。原料供給管39は、第1置換室40から落下してくる不純物除去済みカーボンナノファイバーを炉心管33内に供給する部材である。原料供給管39は、第1置換室管40から不純物除去済みカーボンナノファイバーが供給される入口部が、出口部よりも上位になるように設置される。原料供給スクリュー37は、原料供給管39内に収容されている。原料供給スクリュー37は、原料供給スクリュー回転用モーター38により回転し、その作用により、第1置換室40から原料供給管39内に供給された不純物除去済みカーボンナノファイバーを炉心管33内に移送する。
【0067】
炉心管33は、不純物除去済みカーボンナノファイバーを加熱処理し、黒鉛化カーボンナノファイバーを生成させる管体である。炉心管33は、縦方向に延在するように設置されている。炉心管33は、その下端部が原料供給管の出口部と結合している。したがって炉心管33内には、不純物除去済みカーボンナノファイバーは、その下端部から供給される。高周波炉35は、炉心管33の延在方向中央部を覆うように設けられている。高周波炉35は、炉心管33に高周波を照射することにより炉心管33を誘導加熱する所謂誘導加熱炉であって、炉心管33内の不純物除去済みカーボンナノファイバーを加熱する装置である。スクリューコンベア34は、炉心管33内に収容されている。炉心管33が加熱された時、スクリューコンベア34の温度は周囲の炉心管温度に準じた温度になる。例えば、炉心管33が2200℃の位置のスクリューコンベアは2200℃か少し低めの温度であり、炉心管33が1500℃の位置のスクリューコンベアは1500℃か少し低めの温度である。移送手段であるスクリューコンベア34は、スクリュー回転用モーター32の作用により回転し、原料供給管39から炉心管33内に供給されたカーボンナノファイバーを、炉心管33の入口側つまり下端側から出口側つまり上端側に向けて移送する。
【0068】
黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44は、炉心管33の上端部に設けられている。黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44は、その入口側が出口側よりも上位になるように設置される。第2置換室41は、黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44の出口側下端部に、縦方向に延在するように設けられている。
【0069】
第2置換室41は、その延在方向中央部及び下端部にそれぞれスライドゲート弁43a及びスライドゲート弁43bを有する。第2置換室41は、スライドゲート弁43a及びスライドゲート弁43bを閉ざすことにより、スライドゲート弁43aとスライドゲート弁43bとで挟まれる部分に密閉空間である第2置換室41を形成する。第2置換室41は、図示しないガス出入口から特定のガスを送入することによって、特定のガス雰囲気にすることができる(一般に、ガス置換に際しては、この第2置換室41を一旦真空にした後、新しいガス特に不活性ガスを導入する方法が採用される。)。
【0070】
製品排出部36は、第2置換室41の下端開口部に設けられている。製品排出部36は、炉心管33内で生成された黒鉛化カーボンナノファイバーを黒鉛化部30外に排出する部分である。
【0071】
また黒鉛化部30は、図示しないガス導入口及びガス導出口を有し、炉心管33、原料供給管39及び黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44内を不活性ガス、例えば窒素ガス又は希ガス、特にアルゴンで置換することができる。このようにすることにより炉心管33等の酸化を防止することができる。
【0072】
黒鉛化部30においては、炉心管33内におけるカーボンナノファイバーの移送をスクリューコンベア34により行う点に特徴がある。黒鉛化部30においてスクリューコンベア34を採用する理由については、遷移金属除去部10においてスクリューコンベア14を採用する理由と同様である。黒鉛化部30において、カーボンナノファイバーの移送手段としてこのようなスクリューコンベアを使用することにより、カーボンナノファイバーを均一に黒鉛化することができ、またカーボンナノファイバーをスムースに移送することができる。
【0073】
スクリューコンベア34の構造としては、前記機能を有していれば特に制限はなく、図3に示される標準的な一重の羽根スクリューの他、例えば二重羽根スクリュー、パドル付きスクリュー、カットフライトスクリュー又はリボンスクリューであってもよい。
【0074】
スクリューコンベア34において、ピッチtと回転軸径dsと羽根外径dbとの関係が、t/db=0.1〜20、ds/db=0.05〜0.8であり、スクリューコンベア3の最外部と炉心管33との距離が1〜30mmであると、前記効果が好適に発揮されるので好ましい。
【0075】
黒鉛化部30における炉心管34は縦型であるが、これを横型にすることもできる。
【0076】
黒鉛化部30における移送手段は、スクリューコンベア34であるが、この発明に係る黒鉛化部における黒鉛化部の移送手段としては、カーボンナノファイバーの繊維塊を前述のように移送することのできる手段であればスクリューコンベアに制限されることはなく、例えばロータリーキルンであってもよい。
【0077】
黒鉛化部30で処理するカーボンナノファイバーの嵩密度については、遷移金属除去部10の説明において示したカーボンナノファイバーの嵩密度と同様である。
【0078】
黒鉛化部30においては、炉心管33は黒鉛製シリンダーであり、スクリューコンベア34が前記黒鉛製シリンダー内に収容された黒鉛製スクリューであることが好ましい。誘導加熱が可能で、1600℃以上の温度で使用できる材料は黒鉛以外にはない。特に強度を高くするために、黒鉛繊維で強化した黒鉛複合材料、高純度黒鉛など、黒鉛の範疇で適当な黒鉛材料を選ぶ事ができる。
【0079】
黒鉛化工程では、不純物除去生成物は1600〜3000℃に加熱される。2500℃以下、好ましくは1600〜2400℃に、さらに好ましくは1700〜2300℃に加熱されると、特に、屈曲した黒鉛化カーボンナノファイバーの生成が少なくなる。屈曲のない黒鉛化カーボンナノファイバーは樹脂と混合して導電性部材を得ようとする場合、導電性の低下と言った問題の発生が少ない。したがって、導電性と言う観点からすると前記加熱温度に調節するのが好ましいと言える。
【0080】
加熱時間は、カーボンナノファイバーの結晶構造が変化できる時間を必要とするので、0.5〜60分間、特に1〜30分間であることが好適である。
【0081】
なおここでいう「黒鉛化処理」とは、完全な黒鉛結晶構造を得ることを目的とする処理ではなく、高結晶化構造を得ることを目的とする処理である。
【0082】
従来の気相成長炭素繊維(直径100nm以上)の黒鉛化には、処理温度として2500℃以上、特に2500〜3000℃が採用されることが多い。
【0083】
(4)作用
後処理装置1の作用を、原料が遷移金属除去部10に供給され、その生成物がタール除去部20に供給され、さらにその生成物が黒鉛化部30に供給される場合を例にして説明する。この場合、この後処理装置1は、図1における遷移金属除去部10における製品排出部20が図2における原料ホッパー21に置き換えられるか、又は図1における遷移金属除去部10の下端開口部が図2における原料ホッパー21の投入開口部に直結され、図2における製品排出部26が図3における原料ホッパー31に置き換えられるか、又は図2における製品排出部26の下端開口部が図3における原料ホッパー31の投入開口部に直結されて成る。
【0084】
まず遷移金属除去部10は次のように作用する。
【0085】
窒素ガスを前記ガス導入口17aから導入し、原料ホッパー11、炉心管13及び製品排出部16内を窒素ガスで置換する。
【0086】
原料ホッパー11内に原料である粗カーボンナノファイバーを入れる。スクリュー回転用モーター12を駆動させてスクリューコンベア14を回転させる。原料ホッパー11から炉心管13内に粗カーボンナノファイバーを供給する。粗カーボンナノファイバーは、スクリューコンベア14の作用により、繊維塊となって、炉心管13内を螺旋状に移動する。粗カーボンナノファイバーは、炉心管13内で、電気炉15から供給される熱により、有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度に加熱される。この熱処理により、粗カーボンナノファイバーに含有される遷移金属化合物は気化し、粗カーボンナノファイバーから離脱する。粗カーボンナノファイバーから遷移金属化合物が除去されて生成された生成物(以下において、金属成分除去粗カーボンナノファイバーと称することがある。)は、スクリューコンベア14により炉心管13内を移動し、炉心管13の出口部に至り、製品排出部16から図2に示す原料ホッパー21に排出される。気化して、粗カーボンナノファイバーから離脱した遷移金属化合物の蒸気は、廃ガス放出部17bから遷移金属除去部10外に排出される。
【0087】
遷移金属除去部10において行われる上記工程が遷移金属除去工程である。
【0088】
遷移金属除去部10における上記工程においては、粗カーボンナノファイバーを有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度に加熱するので、前述のように遷移金属化合物を好適に蒸発除去させることができる。また炉心管13内におけるカーボンナノファイバーは、スクリューコンベア14によりその回転作用によって移送されるので、前述のようにその移送中に嵩密度が大きくなることがないか僅かな増加である。このため遷移金属除去部10においては、粗カーボンナノファイバーから遷移金属化合物を速やかに蒸発除去させて、金属成分除去粗カーボンナノファイバーを効率的に製造することができ、さらに粗カーボンナノファイバー及び金属成分除去粗カーボンナノファイバーを炉心管内においてスムースに移送することができ、前記工程を円滑に行うことができる。
【0089】
また遷移金属除去部10においては、粗カーボンナノファイバーから有機遷移金属化合物及び遷移金属を除去するために、次に示す後処理をすることができる。
【0090】
前記(a)粗カーボンナノファイバーを製造するのに使用された有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い加熱温度に不活性雰囲気中で加熱する加熱処理(以下において、単に(a)加熱処理と称することがある。)に代えて、(b)粗カーボンナノファイバーを製造するのに使用された有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い加熱温度に塩素ガスを含有する雰囲気中で加熱する加熱処理(以下において、単に(b)加熱処理と称することがある。)をする。また前記(a)加熱処理の前後、好ましくは前記(a)加熱処理の後に前記(b)加熱処理をしてもよい。
【0091】
塩素ガスを含有する雰囲気として、塩素ガス100容量%の雰囲気を挙げることができるが、通常、塩素ガス濃度が20〜50容量%の雰囲気であり、残りが不活性ガスである塩素ガス含有不活性ガス雰囲気を挙げることができる。
【0092】
この(b)加熱処理に供される粗カーボンナノファイバーの平均嵩密度及び局所嵩密度は、前記(a)加熱処理の場合と同様である。
【0093】
この(b)加熱処理における加熱温度は、前記(a)加熱処理における加熱温度と同様である。この(b)加熱処理において、塩素ガスを粗カーボンナノファイバーに作用させ、前記加熱温度に粗カーボンナノファイバーを加熱すると、粗カーボンナノファイバーに含まれている前記遷移金属が蒸発可能な化合物に変化して、加熱温度によりこの化合物が蒸発除去されてしまい、また粗カーボンナノファイバーに含まれている有機遷移金属化合物も加熱温度により蒸発して除去される。
【0094】
特に、有機遷移金属化合物の一例であるメタロセン例えばフェロセンから生じた鉄粒子を含む粗カーボンナノファイバーを400〜500℃、好ましくは430〜460℃と言った450℃付近において窒素と塩素との混合ガス雰囲気下で加熱処理すると、例えば鉄が塩化鉄になり、これが蒸発することによって、鉄粒子が除去される。このような塩素含有ガスを使用した場合には、粗カーボンナノファイバーに含有される鉄等の遷移金属を多くとも1%、さらには多くとも0.1%にまで除去することができる。
【0095】
(b)加熱処理は、塩素ガスを使用するので、炉心管13にSUS管をそのまま使用するのでは腐食の問題を生じる。炉心管13にSUS管を使用する必要があるときには、SUS管に塩素に対する耐腐食性の処置を施しておくのが良い。そのために、炉心管及びスクリューコンベアにもセラミック例えば酸化物、炭化物、窒化物、及び炭窒化物、例えば、アルミナ、ムライト、サイアロン等を使用して塩素の接触する表面を塩素に対する耐腐食性にしておくのが、好ましい。
【0096】
なお、前記加熱処理により得られたカーボンナノファイバー中に残存する遷移金属の含有量を更に低減させるには、前記加熱処理の前後においてカーボンナノファイバーを酸性水で洗浄する操作を施すのも有効である。
【0097】
タール除去部20は次のように作用する。
【0098】
予めの操作として、原料ホッパー21に設けられた第1不活性ガス導入部27aから窒素ガスを導入し、原料ホッパー21と原料供給管29との内部を窒素ガスで置換し、また、製品排出部26に設けられた第2不活性ガス導入部27bから窒素ガスを導入し、製品排出部26及び炉心管23の内部を窒素ガスで置換し、導入された窒素ガスは廃ガス放出部27bより系外に放出する。
【0099】
原料ホッパー21内に、遷移金属除去部10で製造された金属成分除去粗カーボンナノファイバーを投入する。原料供給スクリュー回転用モーター22を駆動させて、原料供給スクリュー24を回転させる。原料ホッパー21から原料供給管29内に金属成分除去粗カーボンナノファイバーを供給する。供給された粗金属成分除去粗カーボンナノファイバーは、原料供給スクリュー24の作用により、繊維塊になって原料供給管23内を移動し、炉心管23内に供給される。
【0100】
炉心管回転用モーター28を駆動させて、炉心管23を回転させる。炉心管23内に供給された金属成分除去粗カーボンナノファイバーは、炉心管23内を回転しながら移動する。金属成分除去粗カーボンナノファイバーは、炉心管23内で、電気炉25から供給される熱により、600〜1300℃に加熱される。この熱処理により、金属成分除去粗カーボンナノファイバーに含有されるタール成分は気化し、金属成分除去粗カーボンナノファイバーから離脱する。タール気化物の一部は炭化する。金属成分除去粗カーボンナノファイバーから遷移金属が除去されて生成された不純物除去済みカーボンナノファイバーは、さらに炉心管23内を転がりながら移動し、炉心管23の出口部に至り、製品排出部26からタール除去部20外に排出される。気化して、金属成分除去粗カーボンナノファイバーから離脱したタール成分の蒸気及びその炭化物は、廃ガス放出部27cからタール除去部20外に排出される。
【0101】
タール除去部20において行われる上記工程がタール除去工程である。
【0102】
タール除去部20における上記工程においては、不活性ガス雰囲気中で600〜1300℃にカーボンナノファイバーを加熱するので、前述のようにタール成分を金属成分除去粗カーボンナノファイバーから好適に除去することができる。また炉心管23内におけるカーボンナノファイバーは、ロータリーキルン方式により転がりながら移送されるので、前述のようにその移送中に嵩密度が大きくなることがないか僅かな増加である。このためタール除去部20においては、金属成分除去粗カーボンナノファイバーからタール成分を速やかに蒸発除去させて、不純物除去済みカーボンナノファイバーを効率的に製造することができ、さらに金属成分除去粗カーボンナノファイバー及び不純物除去済みカーボンナノファイバーを炉心管内においてスムースに移送することができ、前記工程を円滑に行うことができる。
【0103】
黒鉛化部30は、次のように作用する。
【0104】
スライドゲート弁42及びスライドゲート弁43を閉じる。図示しない前記ガス導入口から第1置換室41内に不活性ガスを導入して、第1置換室41内の気体を不活性ガスに置換する。
【0105】
不活性ガスを前記ガス導入口(図示せず)から導入し、炉心管33、原料供給管39及び黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44内の気体を不活性ガスで置換し、酸素フリーの状態にする。
【0106】
原料ホッパー31内に、タール除去部20で製造された不純物除去済みカーボンナノファイバーを入れる。スライドゲート弁42aを開け、原料ホッパー31内の不純物除去済みカーボンナノファイバーを第1置換室40内に移行させる。スライドゲート弁42aを閉じる。前記ガス導入口から第1置換室40内に不活性ガスを導入し、第1置換室40内の気体を不活性ガスで置換する。原料供給スクリュー回転用モーター38を駆動させて、原料供給スクリュー37を回転させる。スライドゲート弁42bを開けて、置換室40aから原料供給管39内に不純物除去済みカーボンナノファイバーを供給する。供給された不純物除去済みカーボンナノファイバーは、原料供給スクリュー37の作用により、繊維塊となって、原料供給管39内を螺旋状に移動し、炉心管33内に供給される。
【0107】
スクリュー回転用モーター32を駆動させ、スクリューコンベア34を回転させる。炉心管33の最下部に供給された不純物除去済みカーボンナノファイバーは、スクリューコンベア34の作用により、炉心管33内を螺旋状に上昇する。不純物除去済みカーボンナノファイバーは、高周波炉35からの高周波により加熱された炉心管33により、1600〜3000℃に加熱される。この熱処理により、不純物除去済みカーボンナノファイバーは黒鉛化され、黒鉛化カーボンナノファイバーになる。この黒鉛化カーボンナノファイバーは、さらに炉心管33内を上昇して黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44に至り、黒鉛化カーボンナノファイバー移送管44内を下降し、置換室管41に達する。スライドゲート弁43aを開け、第2置換室41内に黒鉛化カーボンナノファイバーを送る。スライドゲート弁43aを閉じ、スライドゲート弁43bを開け、製品排出部36から黒鉛化カーボンナノファイバーを黒鉛化部30から排出する。
【0108】
黒鉛化部30で行われる上記工程が黒鉛化工程である。この例では、置換室40、置換室41利用によるセミバッチ的な黒鉛化処理を示した。このセミバッチ式で運転をスタートさせ、原料ホッパー31内のガス置換を充分に行ってから、ゲート弁42a、42b、43a及びb43bの全てを開放して、連続運転に以降する事が多い。
【0109】
黒鉛化部30における上記工程においては、1600〜3000℃で不純物除去済みカーボンナノファイバーを加熱するので、前述のように好適に黒鉛化を行うことができる。また原料供給管39及び炉心管33内におけるカーボンナノファイバーは、スクリューコンベアによりその回転作用によって移送されるので、前述のようにその移送中に嵩密度が大きくなることがない。このため黒鉛化部30においては、不純物除去済みカーボンナノファイバーを効率的に黒鉛化することができ、さらに不純物除去済みカーボンナノファイバー及び黒鉛化カーボンナノファイバーを炉心管等内においてスムースに移送することができ、前記工程を円滑に行うことができる。
【0110】
黒鉛化工程においては、炉心管内を前記のような高温に加熱する必要があるので、炉心管が、その材料の弾性率の低下により撓みを生ずることがあるが、黒鉛化部30における炉心管33は縦型であるので、そのような撓みを生ずるおそれはない。
【0111】
本例では、カーボンナノファイバーを炉心管33内をスクリューコンベア34により下から上に移送する場合を示したが、移送方向としては上から下に移送することも可能である。
【0112】
なお黒鉛化部における移送手段としてロータリーキルンを用いた場合には、炉心管は横型となるが、炉心管は回転しているので、炉心管の前記撓みは防止することができる。
【0113】
後処理装置1は、遷移金属除去部10、タール除去部20及び黒鉛化部30を結び付けることによって効率的に実施することができる。
【0114】
カーボンナノファイバーは、黒鉛層が薄い。例えば中空孔径5nm、外径15nmのカーボンナノファイバーの場合、黒鉛層の厚さは5nmである。黒鉛網面間の距離を約0.36nmとすると、黒鉛網面の数は14枚でしかない。したがってカーボンナノファイバーでは、黒鉛化が進行するにつれて、繊維形状が変化する。熱処理温度を高くしすぎると、処理前は滑らかな曲面であった箇所が、繊維長手方向に鋭く折れ曲がり、屈曲点を生じる。鋭く屈曲したカーボンナノファイバーは、樹脂などとの混合時にわずかな力で折れ、短くなるので、導電性の低下という問題を生じる。したがって処理温度としては、前述した温度が好適である。
【0115】
前記温度に加熱することにより、得られる黒鉛化生成物には塊状黒鉛が殆ど含まれず、またタールが変質したと思われる微細黒鉛異物の量が著しく減少する。したがって、この黒鉛化生成物は、殆ど黒鉛化カーボンナノファイバーの集合体である。
【0116】
この黒鉛化カーボンナノファイバーは、通常黒鉛化カーボンナノチューブあるいは黒鉛化極細気相成長炭素繊維と当業者に考えられているものと同じ物である。
【0117】
また、このカーボンナノファイバー黒鉛化処理工程により得られる黒鉛化カーボンナノファイバーは、黒鉛化度が向上しているので、樹脂に混合して複合材料にするとその複合材料の導電性が著しく向上する。
【0118】
2.カーボンナノファイバーの後処理方法
この発明に係るカーボンナノファイバーの後処理方法は、前記の発明に係るカーボンナノファイバーの後処理装置を使用して、上記説明に基づいて実施することができる。
【0119】
【発明の効果】
この発明に係るカーボンナノファイバーの後処理装置においては、遷移金属除去部、タール除去部及びカーボンナノファイバー黒鉛部がそれぞれスクリューコンベア又はロータリーキルンを用いて移送する移送手段を有するので、プッシャーによりカーボンナノファイバーを移送する場合と異なり、各熱処理炉内を移動するカーボンナノファイバーの嵩密度が大きくなることがない。このため遷移金属除去部及びタール除去部においては、不純物を効率的に除去することができ、黒鉛化部においては、均一に黒鉛化を行うことができる。さらに前記炉心管において、カーボンナノファイバーをスムースに移送することができ、安定な熱処理を行うことができる。
【0120】
またカーボンナノファイバーの嵩密度が小さいことから、カーボンナノファイバーの熱処理に要する単位容積当りの熱量が小さく、熱処理後の放熱量も小さい。したがって前記製造装置においては処理量を大きくすることができる。
【0121】
この発明に係るカーボンナノファイバーの後処理方法は、前記製造装置を使用することにより、前記と同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、後処理装置1における遷移金属除去部10を示す説明図である。
【図2】図2は、後処理装置1におけるタール除去部20を示す説明図である。
【図3】図3は、後処理装置1における黒鉛化部30を示す説明図である。
【符号の説明】
1・・後処理装置、10・・遷移金属除去部、11・・原料ホッパー、12・・スクリュー回転用モーター、13・・炉心管、14・・スクリューコンベア、15・・電気炉、16・・製品排出部、17a・・不活性ガス導入部、17b・・廃ガス放出部、20・・タール除去部、21・・原料ホッパー、22・・原料供給スクリュー回転用モーター、23・・炉心管、24・・原料供給スクリュー、25・・電気炉、26・・製品排出部、27a・・第1不活性ガス導入部、27b・・第2不活性ガス導入部、27c・・廃ガス放出部、28・・炉心管回転用モーター、29・・原料供給管、30・・黒鉛化部、31・・原料ホッパー、32・・スクリュー回転用モーター、33・・炉心管、34・・スクリューコンベア、35・・高周波炉、36・・製品排出部、37・・原料供給スクリュー、38・・原料供給スクリュー回転用モーター、39・・原料供給管、40・・第1置換室、41・・第2置換室、42a・・スライドゲート弁、42b・・スライドゲート弁、43a・・スライドゲート弁、43b・・スライドゲート弁、44・・黒鉛化カーボンナノファイバー移送管
Claims (6)
- 有機遷移金属化合物を使用した気相成長法による気相成長カーボンナノファイバー製造装置で製造されたカーボンナノファイバーを、スクリューコンベア又はロータリーキルンを用いて移送する移送手段と、前記カーボンナノファイバーを前記移送手段で移送しながら加熱処理する前記カーボンナノファイバーの後処理として前記有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度であって、前記有機遷移金属化合物の蒸発温度以上の温度に前記カーボンナノファイバーを加熱することにより前記カーボンナノファイバーから前記有機遷移金属化合物を除去する遷移金属除去手段を備える加熱処理手段とを有して成ることを特徴とするカーボンナノファイバーの後処理装置。
- 前記加熱処理手段は、前記カーボンナノファイバーを不活性ガス雰囲気中で600〜1300℃に加熱することにより前記カーボンナノファイバーからタールを除去するタール除去手段を有して成る請求項1に記載のカーボンナノファイバーの後処理装置。
- 前記加熱処理手段は、前記カーボンナノファイバーを1600〜3000℃に加熱することにより黒鉛化する黒鉛化手段を有して成る請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバーの後処理装置。
- 有機遷移金属化合物を使用した気相成長法による気相成長カーボンナノファイバー製造装置で製造されたカーボンナノファイバーをスクリューコンベア又はロータリーキルンで移送しながら行う前記カーボンナノファイバーの加熱処理として、前記有機遷移金属化合物の分解温度よりも低い温度であって、前記有機遷移金属化合物の蒸発温度以上の温度に前記カーボンナノファイバーを加熱することにより前記カーボンナノファイバーから前記有機遷移金属化合物の除去をすることにより後処理を行うことを特徴とするカーボンナノファイバーの後処理方法。
- 前記加熱処理は、前記カーボンナノファイバーを不活性ガス雰囲気中で600〜1300℃に加熱することにより前記カーボンナノファイバーからタールを除去するタール除去工程を有して成る請求項4に記載のカーボンナノファイバーの後処理方法。
- 前記加熱処理は、前記カーボンナノファイバーを1600〜3000℃に加熱することにより黒鉛化する黒鉛化工程を有して成る請求項4又は5に記載のカーボンナノファイバーの後処理方法。
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