JP4152097B2 - 日照シミュレーションシステム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、住宅を建築しようとする敷地に於ける日照状況を、隣設する日照障害物による日影積分値に応じて表現することで、容易に把握し得るようにした日照シュミレーションシステムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
目的の敷地に住宅を建築する場合、この住宅に対する日照の状況が如何なる程度であるかを知ることは、顧客にとって重要な要素の一つである。このため、住宅を設計する際には、南側隣地に存在する建物の高さを基準とし、冬至に於ける正午の太陽の高さに伴う日影位置から目的の住宅の位置を決定するのが一般的である。
【0003】
一方、住宅を建築する場合、北側の敷地に建築される住宅の日照時間を確保するために、建築しようとする住宅が北側の敷地に与える日影が、建築基準法による日影規制を満足する場合、冬至に於ける午前8時〜午後4時の間であって1時間毎に、建築しようとする住宅が形成する日影線を記載した日影図を作成して日影をシミュレーションすることが行われる。
【0004】
上記日影図は建築基準法への対応を目的として作成されるものであり、主として北側の敷地への影響を明確にするものである。このような1時間毎の日影線の計算や作図を手作業で行う場合、煩雑で多くの時間が必要であったが、最近ではコンピュータの普及により、比較的容易に短時間で作成し得るようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の如く、従来の日影シュミレーションは、建築すべき住宅が隣地に対して如何なる日影線を形成するか、を検討して法的な制限を満足させることを目的とするものであり、建築すべき住宅が隣地に存在する建物によって日照環境の上で如何なる影響を受けるかの検討を目的とするものではなかった。
【0006】
このため、住宅を建築しようとする場合、この住宅が受ける日照の影響として、敷地の南側に隣設して存在する建物が冬至の際に如何なる日影を形成するかを考慮する程度であるのが一般的であった。即ち、住宅を建築する際に、目的の敷地に隣設して存在する建物を含む日照障害物が建築しようとする住宅に対して与える日照の影響を考慮しているとはいえないのが実情である。
【0007】
しかし、建築すべき住宅の敷地に於ける位置を設定する場合、最も日照環境の良好な位置を検討することは重要であり、特に、都市型住宅では日照環境に応じて、総合的に1階〜3階の間取りを検討し得ることにつながる。
【0008】
上記の如く、目的の敷地に於ける隣地に存在する日照障害物による日影が1日のうちに如何なる変化をするか、を検討し得る情報を顧客に提供することによって、より良い日照環境を実現し得る住宅を建築することが出来る。従って、本発明の目的は、目的の敷地に隣設する日照障害物の影響を考慮した日照をシュミレーションすることが出来、且つ該敷地に於ける住宅の好ましい建築位置を設定することが出来る日照シュミレーションシステムを提供することにある。
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る日照シミュレーションシステムは、目的の敷地に対して建物の配置を決めるために敷地を複数に分割して日照の度合いをシミュレーションするコンピュータシステムであって、目的の敷地に対応され該敷地に予め設定された基準面に対し各階層の床面の高さを持ち且つ予め建物に設定されたモジュール寸法の単位に従って縦横に区切られた区切り線で複数の格子の領域が示された水平面を設定すると共に、該水平面の複数の各格子の領域を、目的の敷地に隣接する日照阻害物による日影積分値に応じて、日影となる時間数に区別し、該各格子の領域を、異なる表現で表示することを特徴とするものである。
【0010】
上記日照シミュレーションシステムでは、目的の敷地に予め設定された基準面に対し、例えば、建築すべき住宅の1階の床面、或いは2階の床面の高さを持った水平面を設定し、この水平面に対して、敷地に隣設して存在する建物を含む日照障害物による日影の積分値を演算し、演算された日照積分値に応じて区別した異なる表現で表示することによって、瞬時に且つ明確に目的の敷地に於ける所望の高さの水平面の1日の日照状況を認識することが出来る。
【0011】
日照積分値に応じて区別した異なる表現としては、例えば日照積分値を色で表現する場合、色そのものの変化や彩度或いは明度の変化によって区別した異なる表現とすることが可能であり、また日照積分値を数値で表現する場合、数値そのものの変化によって区別した異なる表現とすることが可能である。このように、日照積分値を如何なる指標によって表現するか、に応じて視覚或いは理性に訴えることが可能な異なる表現を実現することが出来る。
【0012】
特に、日影積分値が、前記水平面の予め設定された位置に於ける日照阻害物によって日影となる時間数であることが好ましい。日照シミュレーションシステムに於ける日影積分値をこのように設定することによって、水平面を日影となる時間数の積分値に応じて表現することが出来る。
【0013】
このため、予め設定された水平面を、1日の日影となる時間数を積分値としてこの日影時間の大小に応じて区別した異なる表現することが出来る。即ち、1日の日照環境の変化を容易に認識し得るように表現することが出来る。従って、水平面の高さを所望の高さで設定することで、1階の床面として想定した水平面,2階或いは3階の床面として想定した水平面の1日の日照環境を容易にシミュレーションすることが出来る。
【0014】
更に、水平面を予め設定されたモジュールに従って区切ることで該水平面にモジュール単位の複数の格子を設定して表示することが好ましい。更に好ましくは、前記水平面を建物に設定されたモジュールに従って区切って複数のモジュール単位の格子を設定することが有利である。
【0015】
上記の如く構成した日照シミュレーションシステムでは、予め1階の床面の高さに対応させて設定した水平面に、建物に設定されたモジュール寸法に応じた格子を形成しておき、各格子を日影積分値に応じた指標で表現することで、1階の床に相当する水平面の1日に於ける日照環境を把握することが出来る。
【0016】
上記の如くして日影積分値に応じた指標によって表現された水平面の各格子を参考として、建築すべき住宅の位置と1階の間取りを計画することで、日照条件の良好な住宅を計画することが出来る。特に、都市部のように、隣地に高さの高い日照障害物が存在することが多い場合、モジュールに応じた格子を形成した水平面の高さを適宜変更して日照のシミュレーションを行うことで、目的の住宅の階層毎の間取りの計画を容易に行うことが出来る。
【0017】
また本発明に係る日照表示物は、目的の敷地の表示と、前記敷地に隣設した日照阻害物の表示と、前記敷地の表示に、建物に設定されたモジュール寸法の単位に従って縦横に区切り線で区切られた複数の格子の領域を有し且つ敷地の基準面に対し各階層の床面の高さに設定された水平面の表示、を有し、該水平面の複数の各格子の領域を、目的の敷地に隣接する日照阻害物による日影積分値に応じて、日影となる時間数に区別し、該各格子の領域毎に、異なる表現で表示することで、目的の敷地であって建物の各階層の床面の高さの水平面に於ける日照状況がコンピュータディスプレイに表示され、又は紙その他の媒体に印刷されたものである。
【0018】
上記日照表示物では、目的の敷地に於ける基準面から所定の高さ、例えば1階の床面に相当する高さや、2階或いは3階の床面に相当する高さを持ち、且つ建物に設定されたモジュールに応じた格子を形成した水平面を設定し、これらの水平面に対する隣地に存在する日照障害物による日影積分値に応じて、各格子を異なる表現で区別したので、目的の敷地に於ける1日の日影時間を積分した積分値を極めて容易に認識することが出来る。
【0019】
また上記日照表示物に形成された格子に沿って間取りを自由に書き込むことが出来るため、目的の敷地に建築する住宅を設計するための図面台紙として利用することが出来る。
【0020】
特に、上記日照表示物が、敷地の基準面から1階の床面に相当する高さや、2階或いは3階の床面に相当する高さの水平面に対応し、更に、隣地に存在する日照障害物による日影積分値に応じて各格子を異なる表現で区別してあるため、個々の部屋の日照環境を確認しつつ、夫々の水平面(1階〜3階)に対応する間取りを記入することが出来る。
【0021】
このため、日照表示物が、コンピュータディスプレイや紙或いは他の媒体であっても、各格子に表現された内容によって、敷地をモジュールで分割された面積毎に日照環境を認識することが出来る。従って、建築すべき住宅の敷地内に於ける位置を日照環境を重視して設定することが出来、且つ各階の間取りも日照環境を重視して計画することが出来る。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る日照シミュレーションシステムは、住宅を建築しようとする敷地に隣設した1又は複数の日照障害物が、目的の敷地に対して形成する1日分の日影の状態から日影となる時間数を確認して積分し、この日影積分値に応じて異なる表現で区別することで、敷地に対する日照環境を容易に認識し得るようにしたものである。
【0023】
特に、目的の敷地に設定した基準面に対して、予め所定の高さ(1階の床面高さ,2階或いは3階の床面高さ)を持つ水平面を設定しておき、この水平面に対する日影積分値に基づく日影時間の大小を表示することで、目的の敷地に建築すべき住宅の各階層の床面に相当する水平面に於ける日照環境(以下、予め設定された水平面に於ける1日の日照状況をいうものとする)を容易に認識し、これにより、目的の敷地に対して建築する住宅を最も合理的に設計し得るようにしたものである。
【0024】
日照障害物は、目的の敷地に対して日影線を形成する該敷地に隣設した住宅を含む建築物によって構成される。即ち、日照障害物は、南側に配置された建築物にのみ限定されるものではなく、東側,西側及び南東側,南西側に配置された住宅及び他の構築物を含む建築物によって構成される。
【0025】
上記日照障害物は、必ずしも高さや幅,奥行き寸法を正確に計測し得るものではないが、多くは2階建て、3階建ての建築物であり、寸法を高い確度で計測することは可能である。従って、本発明では日照障害物の寸法は概略値であっても良いこととしている。
【0026】
日影積分値は、日影になった時間数を積分した値であり、1日の中、何時間日影の状態であったかを示す値となる。この日影積分値を計算する場合、先ず、日照障害物による目的の敷地に対する1時間毎の日影線を形成し、1日分の日影線の重なりが確認される。そして敷地の各部位に対し、日影線の重なりによる日影状態となる時間数を計算し、この計算値によって日影積分値が求められる。
【0027】
例えば、日影積分値の対象となる日を太陽の高さが最も低い冬至とし、1日を午前8時〜午後4時としてこの間を1時間毎に区切り、各時刻毎に各日照障害物によって敷地に形成される8本の日影線を形成し、これらの日影線が重なりあった時間数を計算して日影積分値を得るものである。従って、目的の敷地の南側に存在する日照障害物では、該日照障害物の北側の壁面に沿った部位は1日中日影となるため、日影8時間に相当する日影積分値を有することになる。
【0028】
即ち、日影積分値が大きい程、1日のうち日影となる時間が多く、日影積分値が小さい程、1日のうち日が当たる時間が大きいことになる。従って、目的の敷地に設定された水平面に、日影積分値の大小に応じて異なる表現で区別したとき、この区別は同時に日照時間の大小を表現することになる。このため、表示上では、日影積分値を日照時間としても良い。
【0029】
上記の如くして目的の敷地に於ける所定高さの水平面を設定して日影積分値に応じて区別したとき、設定された高さに於ける床面の1日の日照分布が表されることになり、想定された床面の如何なる部位に如何なる機能を発揮させるべきかを検討することが容易になる。
【0030】
即ち、目的の敷地が都市部にあるような場合、1階の床面に対する日照環境と、2階或いは3階の床面に対する日照環境を比較した上で、夫々の階層に如何なる機能を持った部屋を配分すべきか、配分された部屋を如何なる間取りとすべきか、等の検討を行うことが可能となる。
【0031】
日影積分値を区別する際の異なる表現として特に限定するものではない。例えば、色で表現することが可能であり、この場合、日影積分値毎に全く異なる色を用いても、或いは同色で彩度を変化させても良く、更に、線の密度や点の密度を変化させることによる明度の変化でも良い。これらの場合には、水平面をコンピュータディスプレイで表示し、或いは印刷物として顧客に提示したとき、提示された顧客は、目的の敷地に於ける日照環境を直感的に認識することが可能となる。
【0032】
また日影積分値を数値で表現しても良い。この場合、提示された顧客や設計者は数値を認識することで、日照環境を物理的な量として把握することが可能となり、色によって表現した場合と同様に住宅の設計に利用することが可能となる。
【0033】
更に、目的の敷地から所定の高さに設定された水平面に予め建物に設定されたモジュールに応じた格子を形成しておき、各格子毎に日影積分値を表示することで、例えば1階の床面に対応する水平面に対する日照環境をモジュールに応じた格子との関係で表現することが可能となる。このため、水平面に形成された格子を利用して、敷地に対する住宅の配置位置や、1階の間取り計画を立案することが可能である。
【0034】
目的の敷地に隣設した日照障害物は、永久に同一の状態で存在する保証はない。特に、周辺の土地の用途指定は自治体による見直しがあり、この見直しに伴って既に設定されている建ぺい率や容積率が変更されることがある。この場合、建物の建て替えにより日照障害物の高さが変化することが想定される。
【0035】
このため、日照障害物としては、現在、目的の敷地に隣設する日照障害物による日影積分値と、将来にわたって想定し得る最大高さと最大幅の日照障害物による日影積分値とによって建築すべき住宅の床面に対応した水平面の日照環境を検証しておくことが好ましい。特に、建築すべき住宅の寿命が60年、或いはそれ以上であるような場合、敷地の周辺環境は変化するものであるとの認識にたって想定し得る日照障害物に対してシミュレーションしておくことが必要である。
【0036】
そして、上記の如く、現実の或いは将来想定される多数の日照障害物に基づいて、所定の高さの水平面に対する日影積分値に応じた異なる表現で区別することによって、建築すべき住宅の各階層の床面に於ける現在の或いは将来想定される日照環境をシミュレーションすることが可能である。
【0037】
従って、目的の敷地に対して建築すべき住宅に於ける各階層の床面に対する日照環境を将来にわたって認識することが可能となる。このため、建築すべき住宅が所謂ロングライフ住宅であっても、良好な日照環境を確保し得る住宅を設計することが可能となる。
【0038】
また本発明に係る日照表示物では、目的の敷地に応じた所定の高さで且つモジュールに従った格子を形成した水平面を設定すると共に、該敷地に隣設して存在する隣家を含む日照障害物の全てを記載しておき、例えば冬至の午前8時〜午後4時の間を1時間毎に各日照障害物による日影線を形成し、この日影線が重なりあった格子を重なりあっている時間数で積分し、結果の大小に応じて色の違いや数値の違い等の異なる表現で区別して表示される。
【0039】
このため、上記日照表示物を顧客に提示することで、建築の専門家ではない顧客であっても、目的の敷地の周辺環境と、この敷地に建築しようとする住宅の各階層毎の日照環境を把握することが可能となる。従って、建築された住宅に居住する場合、日照環境が予想と大幅に異なるようなことがなく、充分に納得した状況の基に住宅の設計を進行させることが可能となる。
【0040】
次に、上記日照シミュレーションシステム及び日照表示物の実施例について図を用いて説明する。図1は目的の敷地に隣設する日照障害物による日影線を説明する図である。図2は所定の高さを持った水平面を日影積分値に応じた異なる表現で区別した日照環境を示す図である。図3は図2の水平面にモジュールに基づいた格子を形成すると共に該格子を日影積分値に応じた異なる表現で区別した日照環境を示す図である。図4は水平面に形成された格子に基づいて住宅の間取りを計画した図である。図5は住宅に於ける日照環境を比較するために1階の水平面を説明する図である。図6は住宅に於ける日照環境を比較するために2階の水平面を説明する図である。図7は目的の敷地に於ける午前の日影の状態を示す図である。図8は目的の敷地に於ける午後の日影の状態を示す図である。図9は水平面に形成した格子と図7の日影の状態を関連付けて説明する図である。図10は水平面に形成した格子と図8の日影の状態を関連付けて説明する図である。図11は夏至に於ける日照の状態を表現した図である。図12は春分・秋分に於ける日照の状態を表現した図である。
【0041】
本発明に係る日照シミュレーションシステムでは、先ず、目的の敷地に於ける所定高さの水平面が設定され、且つ敷地に隣設する日照障害物による水平面への日影線が午前8時から午後4時の間で1時間毎に形成され、これらの日影線に基づいて日影積分値が計算される。
【0042】
本実施例では敷地Aを、図1に示すように、東西方向の長さが12mで南北方向の長さが15mの略長方形とし、北側に道路Bが配置され、南側に高さ6mの2階建て住宅からなる日照障害物C1が、南西側に高さ6mの日照障害物C2が、西側に高さ6mの日照障害物C3が、東側に高さ6mの日照障害物C4が夫々存在し、南東側には日照障害物が存在しないような条件としている。
【0043】
特に、本実施例では、敷地Aが存在する地点を、東経139度、北緯36度として設定し、また日照シミュレーションを実施する場合、最も過酷な条件を設定しておくことが好ましいため、対象となる日を冬至としている。
【0044】
更に、敷地Aに予め高さの基準となるグランドレベル(GL)を設定し、このGLから所定高さの水平面(1階の床面に相当する水平面1、図6に示す2階の床面に相当する水平面1aとして設定する。本実施例の図1では高さ500mmの1階の床面に相当する水平面1)を適宜設定し、これらの水平面1,1aに対する日照シミュレーションを実施している。
【0045】
尚、水平面1,1aは、敷地Aの平面形状と同一の形状を有しており、該敷地Aの上方に仮想された面である。
【0046】
上記各条件から、時刻と太陽の平面内に於ける方向、及び垂直面内に於ける高さ(角度)の関係は一義的に定まる。従って、日中の時刻を指定することで、指定された時刻に於ける太陽の方向と高さ、及び各日照障害物C1〜C4の高さ,水平面1の高さ等の数値から、各日照障害物C1〜C4による日影線の方向と長さを計算することが可能である。
【0047】
そして、計算された方向と長さから、各日照障害物C1〜C4による敷地Aへの日影線を平行四辺形状に形成することが可能である。指定時刻毎の日影線の方向や長さ、敷地Aに形成された日影線の面積等はコンピュータを用いることで容易に演算することが可能である。
【0048】
従って、水平面1に対し、午前8時から午後4時までの8時間で、1時間毎に夫々の日照障害物C1〜C4による敷地Aへの日影線D(D8〜D16)を形成することで、図1の日影線図を得ることが可能である。同図に於ける日影線自体は、新たに住宅を建築する際に、日影規制を確認する目的で適宜作成されるものである。
【0049】
しかし、通常の日影線図は建築すべき住宅を中心として作成されるため、この住宅が隣地に対して如何なる日影を形成するか、を検証することを目的として作成されるのに対し、本発明では、住宅を建築すべき敷地Aが、該敷地Aに隣設する全ての日照障害物C1〜C4によって如何なる日影が形成されるか、即ち、日照が阻害されるかを考慮することにある点で異なる。
【0050】
上記の如くして各日照障害物C1〜C4による水平面1に対する1時間毎の日影線D8〜D16を形成することによって、図1に示すように各日照障害物C1〜C4による日影線D8〜D16が交錯した図を得ることが可能となる。
【0051】
上記図1から、各日照障害物C1〜C4によって形成された各日影線D8〜D16の重なりを積算することで、日影積分値を演算することが可能である。そして個々の日影積分値を異なる表現で区別することによって、水平面1の冬至に於ける1日の日影となる状況(日照状況、日照環境)を図示することが可能である。尚、日影積分値はコンピュータを利用することで容易に演算することが可能であり、水平面1に於ける日影となる状況はコンピュータディスプレイに、或いは紙に印刷して表示することが可能である。
【0052】
図2は、水平面1の1日の日影の状況を示すものであり、日影積分値が8で全く日照のない領域を0時間日照11とし、日影積分値が7で1時間だけ日照が見込める領域を1時間日照12とし、日影積分値が0で全く陰ることのない領域を8時間日照19とし、夫々の領域を日影線D8〜D16の一部に沿って分割すると共に、各領域に設定された日影積分値に従って異なる表現で区別したものである。
【0053】
同図に示されるように、真南に存在する日照障害物C1の北側では0時間日照11の領域が形成され、この日照障害物C1から北側に離隔するに従って日照時間のながい領域が形成される。そして、同図に明らかなように、敷地Aから所定高さに設定された水平面1を日影積分値に応じて、0時間日照11〜8時間日照19に分割すると共に、各分割領域を日影積分値に応じた異なる表現で表示することによって、図2を提示された設計者や顧客は、1階の床面に相当する水平面1に於ける日照環境を認識することが可能となる。
【0054】
本実施例に於いて、図2に示すように、0時間日照11〜8時間日照19の各領域は、明度の変化によって異なる表現としている。しかし、0時間日照11〜8時間日照19の領域を色の彩度を変化させて表現することも可能であり、色そのものを変化させて表現することも可能である。更に、0時間日照11〜8時間日照19を数値で(例えば日照時間)表現することでも他の領域との区別を行うことが可能である。
【0055】
上記の如く、複数の日照障害物C1〜C4による日影線D8〜D16の重なりから日影積分値を演算し、演算された日影積分値に応じて水平面1を複数の領域に分割し、分割された領域を日影積分値に応じて異なる表現で区別する作業は、コンピュータを利用することで容易に行うことが可能である。
【0056】
図3は、水平面1を建築すべき住宅に設定されたモジュール寸法mで縦横に区切り線21を形成して多数の格子22を形成し、各格子22を日影積分値に応じた異なる表現で区別したものである。従って、各格子22に対する日影積分値は図1の日影線図から計算されるため、表現内容は前述した図2と同様である。尚、水平面1をモジュール寸法mに従って区切り線21を形成することで、多数の格子22を形成する作業は、人手によっても可能であるが、コンピュータを利用することで容易に行うことが可能である。
【0057】
図3に示すように、各格子22は1日の日影積分値に応じた異なる表現で区別される。即ち、各格子22は、夫々の日影積分値が計算され、この計算結果に応じて0時間日照11〜8時間日照19の領域が指定され、更に、0時間日照11〜8時間日照19に応じた異なる表現で区別される。
【0058】
従って、多数の格子22からなる水平面1は各格子22毎に最適に表現で区別されることとなり、図3を設計者や顧客に提示することによって、水平面1に於ける日照環境をモジュール単位で容易に認識することが可能となり、建築すべき住宅を敷地Aに於ける如何なる位置に設置すべきか、水平面1に対応する1階の床面に如何なる間取りを計画するか、等の設計条件を容易に認識することが可能となる。そして図3に示す図が本発明に係る日照表示物となるものである。
【0059】
上記の如く、水平面1をモジュール寸法mに基づく間隔を持って区切り線21で縦横に区切ることで多数の格子22を形成し、且つ各格子22を日影積分値に応じて異なる表現で区別することで、建築すべき住宅の1階に相当する水平面1の日照環境を表したとき、区切り線21,格子22を利用して住宅の位置を間取りの計画を実行することが可能である。
【0060】
即ち、図3によって水平面1に於ける日照環境を認識した後、図4に示すように、敷地Aに於ける住宅Eの位置を決定し、同時に予め形成されている区切り線21を利用して1階の間取りを計画することが可能である。
【0061】
例えば、同図に示すように、住宅Eに於ける1階の南東側に居間31を、南西側にDK32を、北東側に風呂や洗面所を含む水回り33を、北側に階段34を、北西側に玄関35を配置した間取りを計画することによって、居間31,DK32を水平面1に於ける最も日照環境の良好な領域を利用した空間とすることが可能である。
【0062】
上記の如く、予め水平面1に於ける日照環境を把握した上で、1階の間取りを計画することによって、設計者及び顧客は、住宅の建築中に迷ったり、建築後に後悔することがなく、信頼性の高い住宅の設計を行うことが可能となる。
【0063】
次に、図5,図6により敷地Aに異なる高さの水平面(1階の床面に相当する水平面1,2階の床面に相当する水平面1a)を設定すると共に各水平面に住宅の平面を想定して夫々の日照環境を比較する。本実施例では、住宅は南北方向に長い建物として設定されている。
【0064】
図5に示す水平面1はGLからの高さが500mmの1階の床面F1を想定して設定されており、図6R>6に示す水平面1aは2階の床面F2に相当する高さ(本実施例では、GL+3300mm)を想定して設定されている。
【0065】
上記水平面1aに対し、前述の実施例に於ける1階の床面に相当する水平面1に対する手順と同様にして、敷地Aに隣設する日照障害物C1〜C4による日影線(D8〜D16)を形成し、更に、日影積分値を計算して各格子22を異なる表現で区別することによってシミュレーションすることで、水平面1aの日照環境を認識することが可能である。
【0066】
本実施例に於いて、1階F1及び2階F2の各水平面1,1aは南北方向に長い形状を有している。このため、南端では南側に隣設して建築されている日照障害物C1による影響が大きく、1階F1では1時間日照12,2時間日照13の領域がかかる部分が生じるが、2階F2では日照障害物C1の影響は小さく、僅かに3時間日照14の領域がかかる程度である。
【0067】
上記の如く、前述と全く同様の手順で所望の高さの水平面に対する日照のシミュレーションを行うことが可能である。従って、必要に応じて、3階の床面に相当する高さを持った水平面や、1階の作業面(机の高さ)に相当する高さを持った水平面を適宜設定することで、夫々の水平面の日照環境を認識することが可能である。
【0068】
そして、水平面1aに於ける日照環境をコンピュータディスプレイ或いは紙に印刷して設計者或いは顧客に提示することで、設計者,顧客は水平面1aに於ける日照環境を認識することが可能である。従って、各階層の間取りを計画する際に、日照に関して共通の認識を保有することによる信頼性を向上することが可能となり、建築後の住宅に対し、顧客が日照環境に基づく不満を持つことがない。
【0069】
上記の如く、2階の床面に相当する水平面1a,或いは必要に応じて3階の床面に相当する水平面に対するの日照シミュレーションを行って日照環境を把握することによって、例えば都市部に於ける狭い敷地Aに住宅を建築するような場合、各階層に対する日照環境が良好でなくとも、各部屋の機能に応じて上下の階層に振り分けることで、限られた条件のなかで最良の間取りを計画し実現することが可能となる。
【0070】
図7は敷地Aに対する午前中の日照状況を表示した図であり、図8は午後の日照状況を分けて表示した図である。この表示は、例えば、顧客の生活形態や嗜好に重点をおいて住宅を設計する場合に好ましく利用することが可能である。即ち、顧客が午前中に重点をおく生活を行っているような場合、午前中の日照環境が重要になることがある。このような場合、午前中に如何なる日照が期待し得るかを解決することは、敷地Aに於ける住宅の配置位置や間取りに影響を与える要素である。
【0071】
従って、顧客の生活形態や嗜好に合わせた日照シミュレーションを行って提示すると共に、表示された日照環境を認識した上で住宅の配置や間取りの計画を行うことで、信頼性の高い住宅を建築することが可能となる。
【0072】
特に、図7は敷地Aに対する午前中の日照環境を表示したものであり、図1に於ける日影線D8〜D12を利用して、該図1の作成と同様の手順で作成することが可能である。同様に図8は敷地Aに対する午後の日照環境を表示したものであり、図1に於けるD12〜D16を利用して作成することが可能である。
【0073】
図9,図10は、敷地Aを建物に設定されたモジュール寸法mに従って縦横に区切り線21を形成することで多数の格子22を構成し、これらの格子22を日影積分値に応じて異なる表現で区別したものであり、図7R>7,8と図9,10の関係は、図1,図2の関係と同一である。
【0074】
図11は、1日を午前と午後とに分け、敷地Aを建物に設定されたモジュール寸法mに従って縦横に区切り線21を形成することで多数の格子22を構成し、これらの格子22を日影積分値に応じて異なる表現で区別したものであり、日照シミュレーションの対象となる日を夏至としたものである。
【0075】
尚、同図(a)は夏至の午前の日照環境を示し、同図(b)は夏至の午後の日照環境を示しており、これらの図を確認することによって、敷地Aの水平面1に於ける夏季、特に夏至に於ける午前と午後の日照環境を比較することが可能である。
【0076】
図12は、1日を午前と午後とに分け、敷地Aを建物に設定されたモジュール寸法mに従って縦横に区切り線21を形成することで多数の格子22を構成し、これらの格子22を日影積分値に応じて異なる表現で区別したものであり、日照シミュレーションの対象となる日を春分・秋分としたものである。尚、同図(a)は午前の日照環境を示し、同図(b)は午後の日照環境を示している。
【0077】
図9〜図12を比較すると明らかなように、季節によって日影積分値が異なり、冬季よりも春分・秋分の方が、更に夏季のほうが日照環境が良好である。
【0078】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明に係る日照シミュレーションシステムでは、住宅を建築すべき敷地に、建築すべき住宅の1階の床面、或いは2階の床面のように所望の高さを持った水平面を設定し、この水平面に対して、隣設する日照障害物による日影の積分値を演算し、この日照積分値に応じて区別した異なる表現で表示することによって、設計者や顧客は、視覚によって所望の水平面の日照状況を認識することが出来る。
【0079】
このため、住宅を建築する以前に該住宅に於ける日照環境を明確に把握しておくことが可能となり、建築中に迷ったり、後悔することがない。特に、水平面の高さを所望の値に設定出来るので、建築しようとする住宅が2階,3階の場合、各階層の日照状況をシミュレーションしておくことで、日照を重点とした間取りを正確に計画することが出来る。
【0080】
また水平面を建物に設定されたモジュールに従って区切ることで該水平面にモジュール単位の複数の格子を設定しておくことで、日影積分値に応じて区別して表現された水平面の各格子を参考として、建築すべき住宅の位置と1階の間取りを計画することで、日照条件の良好な住宅を計画することが出来る。
【0081】
また本発明に係る日照表示物では、敷地に設定した水平面に対する日照障害物による日影積分値に応じて各格子を異なる表現で区別したので、住宅を建築すべき敷地に於ける1日の日影環境を視覚で極めて容易に認識することが出来る。
【0082】
特に、目的の敷地に住宅を建築するに際し、計画段階で或いは設計段階で顧客に提示することによって、住宅の間取りや各部屋に対する日照環境を正確に説明すると共に提案することが出来る。このため、住宅が建築された後、顧客から日照環境に関する不満が生じる虞がない。
【0083】
また本発明に係る日照表示物を、1階の床面に相当する高さ、2階或いは3階の床面に相当する高さ、に夫々対応して作成しておき、これらの日照表示物を高さ方向に重ねた状態で顧客に提示すると共に説明することで、顧客は、住宅の日照環境を三次元的に認識することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 目的の敷地に隣設する日照障害物による日影線を説明する図である。
【図2】 所定の高さを持った水平面を日影積分値に応じた異なる表現で区別した日照環境を示す図である。
【図3】 図2の水平面にモジュールに基づいた格子を形成すると共に該格子を日影積分値に応じた異なる表現で区別した日照環境を示す図である。
【図4】 水平面に形成された格子に基づいて住宅の間取りを計画した図である。
【図5】 住宅に於ける日照環境を比較するために1階の水平面を説明する図である。
【図6】 住宅に於ける日照環境を比較するために2階の水平面を説明する図である。
【図7】 目的の敷地に於ける午前の日影の状態を示す図である。
【図8】 目的の敷地に於ける午後の日影の状態を示す図である。
【図9】 水平面に形成した格子と図6の日影の状態を関連付けて説明する図である。
【図10】 水平面に形成した格子と図7の日影の状態を関連付けて説明する図である。
【図11】 夏至に於ける日照の状態を表現した図である。
【図12】 春分・秋分に於ける日照の状態を表現した図である。
【符号の説明】
A 敷地
B 道路
C1〜C4 日照障害物
D8〜D16 日影線
E 住宅
F1 1階
F2 2階
1,1a 水平面
11〜19 0時間日照〜8時間日照を示す領域
21 区切り線
22 格子
31 居間
32 DK
33 水回り
34 階段
35 玄関

Claims (2)

  1. 目的の敷地に対して建物の配置を決めるために敷地を複数に分割して日照の度合いをシミュレーションするコンピュータシステムであって、目的の敷地に対応され該敷地に予め設定された基準面に対し各階層の床面の高さを持ち且つ予め建物に設定されたモジュール寸法の単位に従って縦横に区切られた区切り線で複数の格子の領域が示された水平面を設定すると共に、該水平面の複数の各格子の領域を、目的の敷地に隣接する日照阻害物による日影積分値に応じて、日影となる時間数に区別し、該各格子の領域を、異なる表現で表示することを特徴とする日照シミュレーションシステム。
  2. 目的の敷地の表示と、前記敷地に隣設した日照阻害物の表示と、前記敷地の表示に、建物に設定されたモジュール寸法の単位に従って縦横に区切り線で区切られた複数の格子の領域を有し且つ敷地の基準面に対し各階層の床面の高さに設定された水平面の表示、を有し、該水平面の複数の各格子の領域を、目的の敷地に隣接する日照阻害物による日影積分値に応じて、日影となる時間数に区別し、該各格子の領域毎に、異なる表現で表示することで、目的の敷地であって建物の各階層の床面の高さの水平面に於ける日照状況がコンピュータディスプレイに表示され、又は紙その他の媒体に印刷されたことを特徴とする日照表示物。
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