JP4150219B2 - 塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法 - Google Patents

塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、大量生産される家電製品に対しては、リサイクル処理や環境問題などの対策の一つとして、家電製品の外装部品を従来の樹脂材料に代えて、金属材料で製作することが注目されている。樹脂のリサイクル率が20%程度であるのに対し、金属材料は90%がリサイクル可能である。
【0003】
金属材料中で、特にマグネシウムは、他の金属と比較して軽量・高強度であり、振動減衰性にも優れているため、携帯型の電子機器や自動車部品などで実用化されている。また、比較的低融点であることから、リサイクルエネルギーも少なくてすむという特徴を有している。
【0004】
このマグネシウム合金の主な成形方法は、ダイカストやチクソモールドといった鋳造による成形と、プレス、曲げ加工、鍛造といった塑性加工とに大きく分類される。家電製品の部品については、現在は成形の自由度が高い鋳造が主流であるが、鋳造品の表面欠陥や内部への気泡の巻き込みといった問題のために歩留まりが悪く、コストが高いという問題を抱えている。
【0005】
そこで、比較的簡単な形状の家電製品筐体などに対しては、予め作製した薄板をプレス成形する方法が、鋳造に比べ、タクトの短縮化や表面欠陥の低減の面から優位であると考えられている。また、鍛造成形品は鋳造成形品に比べ強度が高くなるため、強度の求められる機構部品などに対しては、鍛造成形が優位であると考えられている。
【0006】
なお、現在家電製品の筐体向けに主に用いられているマグネシウム合金は、マグネシウムの他にアルミニウム、亜鉛、マンガンを主成分とするAZ系のマグネシウム合金が多い。AZ系マグネシウム合金は、他のマグネシウム合金に比べて強度が強いことに加え、耐蝕性に優れているため、汗や水に曝されやすい家電製品の筐体には適した合金である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
マグネシウム合金の結晶構造は、六方晶系をしており、常温では活動するすべり系が少なく、延性に乏しい。そのため、Mg合金の展伸材加工の際には、材料を加熱して活動するすべり系を増やすこと、および元材の結晶粒径および集合組織を制御することが望ましいとされている。
【0008】
マグネシウム合金の塑性加工技術としては、現在は、押出し加工された元材をそのまま、または圧延して板状に加工し、それを鍛造やプレス成形する方法が主流である。しかし、押出し加工および圧延の工程で、板材表面の結晶方位は六方晶系の底面である{0002}面が顕著となり、材料表面に対して垂直な加圧を行う鍛造またはプレス成形の際に十分なすべり変形がおこらず、破断しやすいという欠点がある。
【0009】
この{0002}面は、マグネシウム合金において、常温〜約300℃の範囲において作動する最も主要なすべり面である。この{0002}面のすべり方向は<1120>方向、すなわち、この面に平行な方向である。それゆえ、材料表面に{0002}面が顕著となっている材料については、その表面に対して垂直な加圧に対しては、働くすべり系が相対的に少なく、変形しにくい。材料のすべり機構が働きにくい状態で大きな力を加えると、材料が破断しやすい。すなわち、{0002}面が顕著となっている表面は、法線方向からの加圧によって破断を生じやすいと考えられる。
【0010】
なお、塑性加工用のマグネシウム合金材料の加工性を向上させるには、結晶粒径を微細化することが一般的に有効とされており、特開昭63-282232号公報や特開平7-224344号公報などでは、結晶微細化剤の添加や、溶融マグネシウム合金の冷却速度制御によって、結晶粒径の微細化を行う方法が提案されている。しかし、結晶粒径の微細化は、押出しまたは圧延時の加工歪量と加工温度の操作で、ある程度制御できることがわかってきている。そこで、本発明は、結晶粒径の微細化そのものを目的とするのではなく、塊状マグネシウム合金材料の結晶方位に着目し、塑性加工における加圧付加の方向に対する結晶方位の制御という点からなされたものである。
【0011】
また、特開2000-271693号公報で述べられているマグネシウム合金材料の製造方法や、一般にECAE(Equal-Channel-Angular-Extrusion)法と呼ばれる方法では、マグネシウム合金材料に圧力を加え、ある角度を持った金型の中を通過させて歪みを与えることによって、結晶粒の微細化と、結晶方位の不均一化を行うことが可能であると報告されている。しかし、この方法では製造工程が複雑で、材料歩留りも低く、量産製造法としては適していない。
【0012】
延性と材料表面の結晶方位との関係については、たとえば特開平10-8176号公報に示されているアルミニウム合金の例があるが、面心立方晶系であるアルミニウムと六方晶系であるマグネシウムとでは、すべり面およびすべりの方向が異なるため、同一に議論することはできない。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、マグネシウム合金を押出し加工し、押出し方向に対して70〜110°の角度で切断して得られた塊状マグネシウム合金材料であって、(1)前記塊状マグネシウム合金材料の押出し方向に対して平行な任意の主表面Aまたは任意の断面AにおけるX線回折パターンにおいて、{0002}面に帰属されるピークの強度が最も高く、かつ、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の40%以上を占めており、(2)前記塊状マグネシウム合金材料の任意の主表面Bまたは任意の断面BにおけるX線回折パターンにおいて、{1011}面に帰属されるピークおよび{1120}面に帰属されるピークの強度が、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の25〜80%および4〜50%をそれぞれ占めており、(3)前記任意の主表面Aまたは任意の断面Aが、前記任意の主表面Bまたは任意の断面Bに対して垂直である塑性加工用塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法に関する。
【0014】
X線回折パターンにおいて、ピークの強度は、その回折角におけるピーク高さで表される。ピーク高さは、一般にCPS(カウント・パー・セカンド)、すなわち1秒間に検出されるX線のエネルギー値で表されるが、このCPSの絶対値に意味はなく、各ピークの相対的関係が結晶方位を見る際に重要となる。
なお、X線回折パターンを得るためのX線には、CuKα線(波長λ=1.5405オングストローム)を用い、CuKα1線検出を行い、広角で見受けられるCuKα2線によるピークは無視する。また、サンプリング幅は、2θ=0.020°とし、X線検出の際のスリットは固定式とする。前記サンプリング幅は、金属などの多結晶を測定する場合の通常のサンプリング幅である。
【0015】
ここでは、JCPDSカードに示されているMg単結晶のX線回折パターンを標準物質とする。このパターンでは、30°≦2θ≦150°の範囲に27個のピークが存在する。そこで、本発明にかかる塊状マグネシウム合金材料を測定物質とする場合の27個のピークの特定には、この標準物質のピーク位置を基準に用いる。すなわち、測定物質のX線回折パターンにおいて、前記標準物質の各結晶面に帰属されるピークの位置から2θで±1°の範囲に観測されるピークを、測定物質であるMg合金の対応結晶面に帰属されるピークとして扱う。ここで、前記標準物質のX線回折パターンを図1に示し、そのパターンのデータを表1に示す。表1は、結晶面の面間隔d(オングストローム)と、最も強い{1011}面に帰属されるピークの高さを100として他のピークの強さを相対的に表した相対強度I(f)と、結晶面の種類と、2θおよびθとの関係を示している。
【0016】
【表1】
Figure 0004150219
【0017】
本発明にかかる塊状マグネシウム合金材料の比重は、その組成から計算される理論値の98〜100%であることが好ましい。
本発明にかかる塊状マグネシウム合金材料は、マグネシウム以外に、アルミニウム、亜鉛およびマンガンを主成分として含有し、アルミニウム含有量が2〜20重量%であることが好ましい。
本発明にかかる塊状マグネシウム合金材料の平均結晶粒径は、0.1〜60μmであることが好ましい。
【0018】
本発明の塑性加工方法、(1)マグネシウム合金を押出し加工することにより、塑性変形したマグネシウム合金成形材料を得る工程、(2)前記マグネシウム合金成形材料を、押出し方向に対して70〜110°の角度で切断する工程、を有する。
【0019】
本発明の塑性加工方法は、また、(3)前記切断により得られた塑性加工用塊状マグネシウム合金材料に対して平行な方向の力を加える工程を有する。
この工程(3)に先立って、または工程(3)中に、前記塊状マグネシウム合金材料を100〜400℃に加熱することが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
本実施形態にかかる塊状マグネシウム合金材料は、任意の主表面Aまたは任意の断面AにおけるX線回折パターンにおいて、{0002}面に帰属されるピークの強度が最も高く、かつ、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の40%以上を占めている。
ただし、任意の断面Aとは、その断面で塊状マグネシウム合金材料が分割された場合おいて、新たな主表面となるような断面をいう。
【0021】
一般的に、塊状マグネシウム合金材料のある表面または断面において、{0002}面が顕著となっている場合、その面に対して垂直方向に変形力を加えても、材料は変形しにくい。一方、この{0002}面が顕著となっている面に平行な方向に変形力を加えた場合には、底面すべりが作動しやすく、加工性に富むと考えられる。
{0002}面に帰属されるピークの強度が、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の40%未満になると、他の表面または断面において、{0002}面が顕著になっている可能性があり、変形力を加えるのに望ましい方向が定まらず、従来以上の塑性加工性が得られない。
【0022】
本実施形態にかかる塊状マグネシウム合金材料は、また、前記任意の主表面Aまたは任意の断面Aに対して垂直な、任意の主表面Bまたは任意の断面BにおけるX線回折パターンにおいて{1011}面に帰属されるピークおよび{1120}面に帰属されるピークの強度が、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の25〜80%および4〜50%をそれぞれ占めている。
【0023】
すなわち、本実施形態にかかる塊状マグネシウム合金材料は、{0002}面が顕著な面に対して垂直な面では、{1011}面や{1120}面のピーク強度が強いという特徴がある。マグネシウム単結晶の格子定数から計算すると、[1011]面は{0002}面と約62°の角度をなしており、{1120}面は{0002}面と約90°の角度をなしていることがわかる。
【0024】
図2は、マグネシウムの六方最密構造の単位格子と主な原子面を表した模式図である。面101は底面の{0002}面を示し、面102は{1120}面、面103は{1011}面を示す。{0002}面と{1120}面がなす角度は90°であるが、マグネシウムの格子定数は、おおよそa=0.321nm、c=0.521nmであるため、{0002}面と{1011}面のなす角度は約62°と計算できる。
【0025】
図3は、マグネシウムのすべり面と、すべり方向を模式的に表した図である。斜線部の面がすべり面であり、矢印がすべり方向を示す。(A)は底面の{0002}面、(B)は柱面の{1010}面、(C)は錐面の{1011}面、(D)はもう一つの錐面である{1122}面を示す。{0002}面、{1010}面、{1011}面のすべり方向は<1120>方向であり、{1122}面のすべり方向は<1123>方向である。
【0026】
本実施形態にかかる塊状マグネシウム合金材料は、配向性が厳密に現れる単結晶ではなく、合金の金属結晶であるため、上述の面と面の角度の関係が厳密に保たれているわけではない。しかし、材料表面のX線回折パターンで配向性が見られる場合には、材料表面における個々の結晶粒が比較的一様な配向をしていると考えられる。事実、{1011}面および/または{1120}面が顕著となる面では、{0002}面の強度は弱くなっており、合金結晶においても単結晶の面の関係を反映した配向性を持っていると言える。
【0027】
{1011}面および{1120}面が顕著となる面は、総じて{0002}面に対して60°から90°程度傾斜している位置関係になっており、{1011}面および{1120}面が顕著となる面の法線方向から垂直に変形力を加える場合には、材料の底面すべりが作動しやすく、加工性が向上すると考えられる。
【0028】
{1011}面に帰属されるピークの強度が、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の25%未満では、{1011}面が顕著となる他の面が存在する可能性があり、変形力を加えるべき方向が定まらない。同じく、{1120}面に帰属されるピークの強度が、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の4%未満では、{1120}面が顕著となる他の面が存在する可能性があり、変形力を加えるべき方向が定まらない。
【0029】
一般的に材料内部に空隙が含まれていると、その材料の塑性加工性は低下する。本実施形態にかかる塊状マグネシウム合金材料は、内部に微小空隙を有することもあるが、空隙率は小さい方が好ましい。また、塊状マグネシウム合金材料の密度を、その合金組成から計算される理論密度の98〜100%の範囲に留めることで、塑性加工性を良好に保つことができる。
【0030】
本実施形態にかかる塊状マグネシウム合金材料は、マグネシウム以外に、アルミニウム、亜鉛およびマンガンを主成分として含有し、アルミニウム含有量が2〜20重量%であることが好ましい。このような材料は、耐食性および/または延性に優れている。ただし、上記のような合金であっても、基本的な結晶構造が、マグネシウムと同じ六方最密構造をとる合金である必要がある。
【0031】
マグネシウム合金の一般的な押出し材や圧延材の結晶粒径は、数μm〜300μm程度であることが多い。また、粉末焼結で製造されたで材料では、結晶粒径が1μm以下になることも確認されている。一般的に、結晶粒径を微細にすると、延性などの機械的性質が向上する。本発明にかかる塊状マグネシウム合金材料は、結晶粒径を比較的微細な0.1〜60μmに保つことで、より塑性加工性に富んだ材料となり得る。
【0032】
次に、塑性加工用塊状マグネシウム合金材料の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、マグネシウム合金を、例えば250〜450℃で押出し加工することにより、塑性変形したマグネシウム合金成形材料を得る第1工程、ならびに前記マグネシウム合金成形材料を、押出し方向に対して70〜110°の角度で切断する第2工程を有する。
【0033】
第1工程で作製された塑性変形したマグネシウム合金成形材料において、押出し方向に平行な表面および/または断面では、{0002}面が顕著になりやすく、押出し方向に垂直な表面および/または断面では、{1120}面や{1011}面が比較的顕著となっている。
【0034】
第2工程で、第1工程で作製された成形材料を、押出し方向に対して約90°の角度で切断すると、その断面では{1120}面や{1011}面が比較的顕著となるため、その断面の法線方向から圧力を印加するような塑性加工に適した塊状マグネシウム合金材料を得ることができる。
【0035】
なお、切断角度として押出し方向に対して90°±20°の範囲、すなわち70〜110°の角度範囲を指定しているのは、押出し時のダイ(ノズル)形状や、押出し条件によって、金属結晶の配向性に微妙な変化が起り、{0002}面が押出し方向に対して90°±20°程度の範囲で変化する可能性があるからである。実際には、できるだけ塑性加工性に富んだ塊状マグネシウム合金材料を製造しようとする場合には、極点図測定などによって、押出し材の{0002}面の配向性を測定し、{0002}面が顕著な面に垂直な角度で切断して、所望の塊状マグネシウム合金材料を得ることが望ましい。
【0036】
次に、塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法について説明する。本実施形態の塑性加工方法は、上述の塑性加工性に優れた塊状マグネシウム合金材料に対し、{0002}面が顕著となっている表面または断面に平行な方向から力を加えることを特徴とする。この方法によれば、塊状マグネシウム合金材料の底面すべりが起りやすく、良好な塑性加工を行うことができる。
【0037】
なお、マグネシウムは六方最密構造をしており、すべり面には底面の{0002}面の他に、柱面の{1010}面、錐面の{1011}面、同じく錐面の{1122}面が存在する。これらの柱面と錐面で起るすべりは、非底面すべりと言われ、常温では作動しにくいが、材料を100℃以上に加熱すると徐々に作動するようになり、300℃付近では底面すべりとほぼ同程度に作動すると考えられている。これらの非底面のうち、{1010}面と{1011}面は、すべり方向が底面{0002}面と同じ<1120>方向である。
【0038】
そのため、材料を100℃〜400℃に加熱した状態において、{0002}面が顕著な面に平行な方向から、材料に変形力を加えることにより、底面すべりに加え、非底面すべりの機構を活用して、良好な塑性加工を行うことができる。一方、材料を400℃以上に加熱してしまうと、結晶粒径の肥大化を招き、却って塑性加工性が悪化する。
【0039】
【実施例】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明を具現化した例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0040】
(i)原料マグネシウム合金の組成
本実施例では、マグネシウム合金には、マグネシウム以外にアルミニウム、亜鉛およびマンガンを主成分として含有し、アルミニウム含有量が約3重量%、亜鉛含有量が約0.9重量%、マンガン含有量が約0.5重量%のマグネシウム合金(ASTM規格:AZ31合金)を用いた。
【0041】
(ii)塊状マグネシウム合金材料の作製
本実施例では、上記組成のφ115mmビレットを、300℃で押出し加工して、幅30mm、板厚2mmの角材(試料a)およびφ18mmの丸棒材(試料b)を作製した。この押出し材を、押出し方向に対し90°で切断し、塊状の材料を得た。
【0042】
(iii)塊状マグネシウム合金材料の物性
(イ)X線回折パターン
各試料の表面または断面におけるX線回折パターンを測定した。
図4(A)、(B)には、試料aの押出し方向と、X線回折パターンを測定した表面または断面との関係を模式的に示す。各図において、矢印で示したE方向が押出し方向である。
図4(A)において、面201は、試料aの押出し方向に平行な表面であり、この面におけるX線回折パターンのチャートを図5に示している。また、図4(B)において、面202は、試料aの押出し方向に垂直な断面であり、この面におけるX線回折パターンのチャートを図6に示している。
【0043】
各X線回折パターンにおいて、横軸は回折角度2θを示し、縦軸は30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和に占める各ピークの割合を表す。この点は以下の図8〜10についても同様である。ただし、各図において、微少なピークは省略してある。
【0044】
図5に示されるように、面201のX線回折パターンにおいては、{0002}面に帰属されるピークの強度が最も高かった。また、{0002}面に帰属されるピークの強度は、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の69.6%を占めていた。また、{1011}面に帰属されるピークの強度は前記総和の2.2%、{1120}面に帰属されるピークの強度は前記総和の2.2%を占めていた。
【0045】
一方、図6に示されるように、面202のX線回折パターンにおいては、{0002}面に帰属されるピークの強度は、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の18.8%しか占めていなかった。また、{1011}面に帰属されるピークの強度は前記総和の31.8%、{1120}面に帰属されるピークの強度は前記総和の21.2%を占めていた。
【0046】
次に、図7(A)、(B)には、試料bの押出し方向と、X線回折パターンを測定した断面との関係を模式的に示す。各図において、矢印で示したE方向が押出し方向である。
図7(A)において、面301は、試料bの押出し方向に平行な断面であり、この面におけるX線回折パターンのチャートを図8に示している。また、図7(B)において、面302は、試料bの押出し方向に垂直な断面であり、この面におけるX線回折パターンのチャートを図9に示している。
【0047】
図8に示されるように、面301のX線回折パターンにおいては、{0002}面に帰属されるピークの強度が最も高かった。また、{0002}面に帰属されるピークの強度は、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の54.0%を占めていた。また、{1011}面に帰属されるピークの強度は前記総和の16.8%、{1120}面に帰属されるピークの強度は前記総和の2.2%を占めていた。
【0048】
一方、図9に示されるように、面302のX線回折パターンにおいては、{0002}面に帰属されるピークの強度は、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の12.9%しか占めていなかった。また、{1011}面に帰属されるピークの強度は前記総和の51.6%、{1120}面に帰属されるピークの強度は前記総和の6.5%を占めていた。
【0049】
ここで、比較のために、実施例1と同じ組成のマグネシウム合金からなる平均粒径約1μmの粉末試料R1のX線回折パターンのチャートを図10に示す。粉末試料R1は、マグネシウムの結晶方位が十分に不均一化された代表的材料であると言える。従って、測定面における結晶方位が不均一化されている材料の場合、図10とほぼ同様の回折パターンが得られると考えられる。なお、結晶方位がある配向を持っている場合、配向している面のピーク強度が強く表れる。また、マグネシウム以外に他の金属を含んだマグネシウム合金の場合でも、基本的な構造がマグネシウムと同様であれば、回折ピークは、ほぼ同じ角度2θに現れる。
【0050】
粉末試料R1の図10では、{0002}面に帰属されるピークの強度は、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の約14.4%を占めており、{1011}面に帰属されるピークの強度は前記総和の40%、{1120}面に帰属されるピークの強度は前記総和の4.8%を占めている。
【0051】
(ロ)密度
上述の試料a、bの密度を測定したところ、それぞれ1.77g/cm3、1.78g/cm3であった。従って、試料a、bは、いずれもその組成から計算される理論値(1.78g/cm3)の98〜100%の範囲内であった。
【0052】
一方、同じ組成のマグネシウム合金AZ31を用い、試料a、bと同じ形状の塊状材料を鋳造法で製造したところ、鋳造品の内部には空隙(巣)が多数存在していた。そのため、鋳造品の密度は、組成から計算される理論的密度(1.78g/cm3)の98%未満であった。
【0053】
(ハ)平均結晶粒径
試料a、bの平均結晶粒径を光学顕微鏡断面観察により測定したところ、いずれも約10μmであった。ただし、平均結晶粒径は、押出し加工する際にマグネシウム合金に付加する歪量や温度を制御することにより、0.1〜60μmの範囲内であれば任意に変更することが可能であった。なお、10μmよりも微細な結晶粒径の材料を用いれば、塑性加工性がより向上することが期待できるが、10μm程度でも従来の材料に比べれば、試料a、bは十分に塑性加工性に優れていると考えられる。
【0054】
(ニ)塑性加工性
図11、12を参照しながら説明する。
まず、図11(a)に示すようにφ18mmの丸棒状の試料401(試料b)を、押出し方向Eに垂直な角度で、厚さ3mmに切り分けた。切断方法としては、ワイヤーカットや鋸刃による切断、レーザ切断などが考えられるが、本実施例ではワイヤーによる切断を行った。なお、ここではワイヤーによる切断を行ったが、上記以外の切断方法を採用してもよい。また、切断の幅は3mmに限定されない。
【0055】
図11(b)のように切り分けた円盤状材料402(試料bX)は、切断面403においては{0002}面が顕著ではなく、この切断面に対して垂直な方向に{0002}面が配向している。また、切断面403においては{1011}面と{1120}面が顕著になっている。そのため、図11(c)に示す切断面403に垂直なZ方向に変形力を加えることで、良好な塑性加工が実現できると考えられる。
【0056】
一方、図12(a)に示すようなサイズが厚さ3mm、縦30mm、横30mmの押出し材501を準備し、これを図12(b)に示すようにφ18mmにくり抜いた。得られた板厚3mmの円盤状材料502(試料bY)において、塑性加工の変形力を付加するための表面503には、押出し加工時に形成された{0002}面が顕著となっており(30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の約70%)、Z方向に変形力を加えても、良好な塑性加工を行うことができないと考えられる。
【0057】
試料bX、bYを、それぞれの表面403、503の法線方向から圧力をかけてプレスし、φ4mmの柱状突起を有するボス形状に成形したところ、試料bXでは全く材料の破断が見られなかったのに対し、試料bYでは材料の破断が生じた。
なお、作動するすべり系を増やして加工性を向上させるためには、試料bX、bYを100〜400℃に加熱することが望ましいことから、ここでは試料bX、bYをそれぞれ250℃に加熱してボス成形を行った。
【0058】
【発明の効果】
以上の説明のとおり、本発明によれば、塑性加工性に優れた塊状マグネシウム合金材料を得ることができ、これを用いることにより、鍛造やプレス加工などによって任意の形状に塑性加工することが可能となる。また、本発明による塑性加工用塊状マグネシウム合金材料の製造方法では、ECAE法などに比べて比較的短時間で多くの材料を製造できるため、工程の簡略化を実現でき、材料を安価に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】標準物質であるMg単結晶のX線回折パターンを示す図である。
【図2】マグネシウムの六方最密構造の単位格子と主な結晶面の位置を示す模式図である。
【図3】マグネシウムの六方最密構造の単位格子と主なすべり面である{0002}底面(A)、{1010}柱面(B)、{1011}錐面(C)および{1122}錐面(D)ならびにそれらのすべり方向を示す模式図である。
【図4】実施例にかかる試料aの押出し方向EとX線回折パターンの測定面との関係を示す模式図である。
【図5】図4(A)に示す表面201におけるX線回折パターンのチャートを示す図である。
【図6】図4(B)に示す断面202におけるX線回折パターンのチャートを示す図である。
【図7】実施例にかかる試料bの押出し方向EとX線回折パターンの測定面との関係を示す模式図である。
【図8】図7(A)に示す断面301におけるX線回折パターンのチャートを示す図である。
【図9】図7(B)に示す断面302におけるX線回折パターンのチャートを示す図である。
【図10】粉末試料RのX線回折パターンのチャートを示す図である。
【図11】実施例にかかる試料bXの加工方法を示す工程図である。
【図12】一般的な試料bYの従来の加工方法を示す工程図である。
【符号の説明】
101 {0002}面
102 {1120}面
103 {1011}面
201 試料aの押出し方向と平行な表面
202 試料aの押出し方向と垂直な断面
301 試料bの押出し方向と平行な断面
302 試料bの押出し方向と垂直な断面
401 試料b
402 円盤状材料(試料bX)
403 試料bXの切断面
501 押出し材
502 円盤状材料(試料bY)
503 試料bYの表面

Claims (6)

  1. (1)マグネシウム合金を押出し加工することにより、塑性変形したマグネシウム合金成形材料を得る工程、
    (2)前記マグネシウム合金成形材料を、押出し方向に対して70〜110°の角度で切断する工程、
    (3)前記切断により得られた塑性加工用塊状マグネシウム合金材料に対して、前記押出し方向に対して平行な方向の力を加える工程、を有する塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法。
  2. 前記塊状マグネシウム合金材料の前記押出し方向に対して平行な任意の主表面Aまたは断面AにおけるX線回折パターンにおいて、{0002}面に帰属されるピークの強度が最も高く、かつ、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の40%以上を占めており、前記塊状マグネシウム合金材料の任意の主表面Bまたは任意の断面BにおけるX線回折パターンにおいて、{1011}面に帰属されるピークおよび{1120}面に帰属されるピークの強度が、30°≦2θ≦150°の範囲に存在する27個のピークの強度の総和の25〜80%および4〜50%をそれぞれ占めており、前記任意の主表面Aまたは任意の断面Aが、前記任意の主表面Bまたは任意の断面Bに対して垂直である請求項1記載の塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法
  3. 前記塊状マグネシウム合金材料の比重が、前記マグネシウム合金の組成から計算される理論値の98〜100%である請求項1または2記載の塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法
  4. 前記塊状マグネシウム合金材料が、マグネシウム以外に、アルミニウム、亜鉛およびマンガンを含有し、アルミニウム含有量が2〜20重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法
  5. 前記塊状マグネシウム合金材料の平均結晶粒径が、0.1〜60μmである請求項1〜のいずれかに記載の塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法
  6. 前記工程(3)に先立って、または前記工程(3)中に、前記塊状マグネシウム合金材料を100〜400℃に加熱する前工程を有する請求項1〜5のいずれかに記載の塊状マグネシウム合金材料の塑性加工方法。
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