JP4144446B2 - 電力変換装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘導電動機を可変速制御するためのベクトル制御手段を備えた電力変換装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
回生機能を持たない従来技術の電力変換装置を図8に示す。図8では交流電源1からの三相交流電圧を順変換器2で直流電圧に変換し、平滑コンデンサ3で直流電圧を平滑し、逆変換器4により直流電圧を任意の周波数の三相交流電圧に変換し、誘導電動機5に印加する。
【0003】
逆変換器4は例えばIGBTなどの電力半導体素子で構成されている。電流検出器12、電圧検出器13で得た電流、電圧を用い、制御部10は電圧指令V*を演算し、PWMゲートパルス演算部11を介して逆変換器4を制御する。順変換器2はダイオード整流器により構成されているため、回生電流(図8の矢印の向きの電流I)が流れた場合、平滑コンデンサ3が充電され、直流電圧Vdcが増加する。直流電圧が平滑コンデンサの許容値を越えた場合はコンデンサを破壊する恐れがある。
【0004】
回生電流は主に電動機を減速させようとした場合に流れる。そのため、回生機能を持たない電力変換装置では、電動機を減速させる場合は、電力変換器から電動機への電力供給を停止しフリーラン(自然減速)減速させるか、負荷に応じて電動機回転速度が下がるのに合わせて、速度指令をゆっくり下げていく方式がとられている。このため電動機の減速、停止はフリーラン相当の時間がかかり、大変遅くなる。電動機の回転機械角速度をωとした場合、フリーランによる減速率dω/dtは式1に示す。なお、Jは電動機と機械系の慣性モーメント、τLは負荷トルクである。
【0005】
J×dω/dt=−τL (式1)
ファンが電動機の負荷の場合、Jが非常に大きく、dω/dt(減速率)が小さくなり、電動機が停止するまでに数十分から数時間かかる。
【0006】
そこで、電動機の減速時間を早くするため、従来技術では特許文献1に記載のように、減速命令が入ると一旦周波数指令を下げ、図8の直流電圧検出部14を用いて平滑コンデンサの直流電圧Vdcを検出し、直流電圧が所定値を越えないように周波数指令値を下げていく。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−333587号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術では平滑コンデンサの直流電圧Vdcの検出が必須であるため、装置の部品点数やソフトウェアの負担が増加する。また、周波数指令を大幅に減少させる、すなわち、すべりを負に大きく制御することは、電動機の磁束の低下により制御トルクの変動を生じやすく回生電力の増加、すなわち、電力変換器の出力電力が負に増加することを引き起こし、平滑コンデンサの直流電圧Vdcの増加を生じやすい。
【0009】
本願発明の目的は、制動時において、制動抵抗といった追加部品を必要とせず、安定した誘導電動機の制動を行うことができる電力変換装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の電力変換装置は、誘導電動機の制動時に、所定の電流指令値に従って該電動機に流れる電流を制御し、且つ、電力変換器の出力電力を検出もしくは演算し、該電力が所定の電力指令値となるように出力電圧の周波数を制御する。この時、励磁電流は定格電流程度に設定し、トルク電流は励磁電流より十分小さいゼロに近い値に設定する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を図面を用いながら説明する。
【0012】
(実施例1)
本発明の第1の実施例を図1、図2を用いて説明する。図2は本実施例に係わる電力変換装置の構成図であり、図1は図2の主要部である制御部の詳細である。図2が図8と相異なる部分は、直流電圧検出部14を持たないことである。
【0013】
本実施例の制御部10の詳細について述べる。図1においては、速度指令値ωr* に、電力制御部30で演算した周波数指令補正値Δωを周波数指令値補正部35で加算してωr**を作成し、これにすべり補正値ωsを加えたものを周波数指令値ω1* とする。周波数指令値ω1* を用いて位相演算部22では位相θ* が演算される。電力制御部30では、電力演算部34で検出した電圧V、電流Iから電力Pを演算し、電力差分演算部32で電力指令演算部33による電力指令P* との偏差を求め、周波数指令補正値演算部31で周波数指令補正値Δωを演算する。電力制御部30は制動制御動作指令部60の指令に従い動作のオン・オフを行う。
【0014】
次に図1では周波数指令値ω1* と励磁(d軸)電流指令値Id* とトルク(q軸)電流指令値Iq* とを用い、電圧指令演算部20で、d軸電圧指令(電動時)とq軸電圧指令(電動時)とを各々演算する。なお、d軸、q軸はω1で回転する回転座標軸である。次にこれらの電圧指令値にd軸電流制御部40とq軸電流制御部50によるd軸電圧指令補正値ΔVd* とq軸電圧指令補正値ΔVq* とを各々、d軸電圧指令補正部44、q軸電圧指令補正部54で補正したものをd軸電圧指令(制動時)Vd* 、q軸電圧指令(制動時)Vq* とする。
【0015】
d軸電圧指令Vd* 、q軸電圧指令Vq*は座標変換部21で、位相θを用いて、三相交流電圧指令V* に変換される。
【0016】
d軸電流制御部40では、d軸電流指令演算部43で生成された励磁(d軸)電流指令Id**をd軸電流差分演算部42で検出d軸電流Idとの偏差を演算し、d軸電圧補正値演算部41でd軸電圧補正値ΔVd* を演算する。q軸電流制御部50では、q軸電流指令演算部53で生成されたトルク(q軸)電流指令Iq**をq軸電流差分演算部52でq軸電流Iqとの偏差を演算し、q軸電圧補正値演算部51でq軸電圧補正値ΔVq* を演算する。d軸電流制御部40及びq軸電流制御部50は制動制御動作指令部60の指令に従い動作する。
【0017】
本実施例では励磁(d軸)電流指令値Id* 、Id**、トルク(q軸)電流指令値Iq* 、Iq**、電力指令P*を以下のように設定する。電動時には励磁(d軸)電流指令値Id* は定格励磁電流に設定し、トルク(q軸)電流指令値Iq* は検出したトルク電流に所定のフィルタを通した信号を用いる。また、電動時は、電力制御部30、d軸電流制御部40、q軸電流制御部50は動作させない。制動時には、励磁(d軸)電流指令値Id* 、トルク(q軸)電流指令値Iq *は電動時と同じであるが、電力制御部30、d軸電流制御部40、q軸電流制御部50を動作させ、励磁(d軸)電流指令値Id**は定格電流(定格励磁電流と定格トルク電流の合成)に設定し、トルク(q軸)電流指令値Iq**は励磁(d軸)電流指令値Id**よりも十分小さい値に設定する。例えば、トルク(q軸)電流指令値Iq**は定格電流の10%以下から負の値に設定し、d軸電流とq軸電流の合成電流I1が所定の値を越えないように、例えばトルク(q軸)電流指令値Iq**は±10%以内に設定する。
【0018】
電力指令値P* は、電動時は電力制御を行わず、制動時は電力指令値P* をゼロもしくは定格電力の5%〜6%に設定し、平滑コンデンサの直流電圧Vdcが大きくなりすぎた場合は電力指令値P* を増加させる。これは回生により平滑コンデンサの直流電圧増加を防止するためであるが、電力指令値P* を上げすぎると制動トルクが出なくなるため、電力指令値P* の上限値は(式2)のように電動機1次抵抗による損失分までとする。これは(式3)に示すように減速トルクΔτ<0を生じさせるためである。ここで、τLは負荷トルク、ωrは電動機回転速度である。
【0019】
* 上限値≦3×R1×((Id**)2+(Iq**)2) (式2)
Δτ={P−3×R1×(Id2+Iq2)}/ωr−τL<0 (式3)
本実施例では、制動時に電力はほぼゼロから正に制御される。また励磁(d軸)電流Idは定格電流(定格励磁電流の数倍)に制御され、トルク(q軸)電流Iqは励磁(d軸)電流Idより十分小さく制御されているため、回生電力は主に3×R1×Id2によって消費される。また、制動トルクΔτは(式3)に従って生じ、電動機を制動することができる。さらにこの時、電動機磁束は励磁(d軸)電流Idが定格値より数倍大きいため、飽和状態で安定しており、制御しやすい。
【0020】
なお、本実施例では電力変換器の出力電力を検出または演算し、それを指令値と一致させるように周波数を制御しているが、直流電圧Vdcを検出もしくは演算し、それを所定値と一致もしくはそれ以上にならないように周波数を制御することでも同様に安定した減速制御効果を得ることができる。
【0021】
また、前記制御を動作させている間は、電力変換器の出力周波数ω1とωrとの差であるすべり速度ωsの絶対値は定格すべり速度よりずっと小さく制御されている。このため、電動機磁束及びトルク変動が小さく、安定した制御が可能である。
【0022】
(実施例2)
本実施例について図3を用いて説明する。d軸電流指令演算部43においては、励磁電流指令Id**を設定する際、制動開始前の電流指令値(Id* :定格励磁電流)から制動開始後の電流指令値(定格電流)に切り替えたものを所定の時間で変化させるレートリミッタを介してId**を設定する。変化レートは0から定格励磁電流までの電動機二次時定数T2秒以下で変化させる。本実施例により、励磁電流指令値が制動前の値(定格励磁電流)から制動に必要な値(定格電流)に滑らかに変化するため、電流の急峻な跳ね上がりを押さえ、同時に急峻な電力変動を押さえ平滑コンデンサの直流電圧Vdcの増加を抑えることができる。
【0023】
(実施例3)
本実施例について説明する。本実施例が実施例1と異なる点についてのみ述べる。本実施例では、励磁電流指令Id**を所定の周波数で振動させる。これにより励磁電流成分が電動機の2次側にも流れる。これにより実施例1では(式2)、(式3)で示したように電動機1次抵抗のみで損失が発生していたが、本実施例では電動機2次抵抗による損失も発生するため、(式3)で示した減速トルクΔτがさらに負に大きくなり、減速効果が大きくなる。
【0024】
(実施例4)
本実施例について図4を用いて説明する。電力制御部30において、周波数指令補正値演算部31の後に変化率を制限するレートリミッタ36を設ける。もしくは周波数指令補正値演算部31の前にレートリミッタ36を配置してもよい。本実施例では、周波数指令制御値Δωの急峻な変化に伴う電流、電力変動を抑制し、過電流や平滑コンデンサの直流電圧Vdcの急峻な増加を抑えることができる。
【0025】
(実施例5)
本実施例について図5、図6を用いて説明する。図5の電力制御部30が他の実施例と異なる部分についてのみ説明する。電力制御部30で、電力指令値P*>電力Pの場合は、速度指令補正部70において、速度指令を変化させない。このことは、図6に示すように、制動時に電力指令値P*>電力Pとなった場合、ωr*を下げずに一定値にすることを意味する。これにより電力Pが電力指令値P*より小さい場合、ωr*がさらに下がることによるさらなる負への電力低下を抑制し、平滑コンデンサの直流電圧Vdcの増加を抑えることができる。
【0026】
(実施例6)
本実施例について図7を用いて説明する。本実施例では制動開始時に電力制御部30、d軸電流制御部40、q軸電流制御部50が所定の変化率で、徐々に動作する。図7では制動制御動作指令部60について述べる。制動制御動作指令部60では制動開始前後で0から1の値を設定し、これをレートリミッタにより所定の変化率で変化させる。この0から1に変化する時間は例えば電動機磁束の変化時定数である二次時定数T2秒以内であれば十分である。
【0027】
次にこの0から1に変化する値を周波数指令補正値演算部31、d軸電圧補正値演算部41、q軸電圧補正値演算部51における検出値と指令値の偏差に乗算する。もしくは各演算された補正値そのものに乗算してもよい。また、制動制御動作指令部60の信号により図4のレートリミッタ36のリミット値を変化させてもよい。この補正値は例えば比例−積分(PI)回路で演算する。
【0028】
本実施例によれば制動時において制御を瞬時に動作させないため、電流、電力の急峻な変化を抑え、過電流や平滑コンデンサの直流電圧Vdcの増加を抑制することができる。
【0029】
以上のように、励磁電流を定格電流相当に制御することにより、電動機磁束が飽和値相当になり安定した制御を行いつつ、銅損を発生させて回生エネルギーを消費し、減速トルクを発生させる。これらの動作は制動開始時にすぐに行うことなく、徐々に動作させる。このように本発明では直流電圧の過電圧や過電流を防止しつつ、電動機の減速時間短縮が可能である。また制動抵抗は不要であり、直流電圧検出は必ずしも必要としないため、既存の電動機電圧、電流検出を行っているインバータであれば、追加の部品が不要である。
【0030】
【発明の効果】
本発明の電力変換装置では、制動時において、制動抵抗といった追加部品を必要とせず、安定した誘導電動機の制動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の制御部の説明図である。
【図2】実施例1に係わる電力変換装置の構成図である。
【図3】実施例2のd軸電流指令演算部の説明図である。
【図4】実施例5の電力制御部の説明図である。
【図5】実施例6の電力制御部と速度指令補正部の説明図である。
【図6】実施例6の速度指令値の変化の説明図である。
【図7】実施例7の制動制御動作指令部の説明図である。
【図8】従来技術の電力変換装置の説明図である。
【符号の説明】
1…交流電源、2…順変換器、3…平滑コンデンサ、4…逆変換器、5…誘導電動機、10…制御部、11…PWMゲートパルス演算部、12…電流検出器、13…電圧検出器、20…電圧指令演算部、21…座標変換部、22…位相演算部、30…電力制御部、31…周波数指令補正値演算部、32…電力差分演算部、33…電力指令演算部、34…電力演算部、35…周波数指令値補正部、36…レートリミッタ、40…d軸電流制御部、41…d軸電圧補正値演算部、42…d軸電流差分演算部、43…d軸電流指令演算部、44…d軸電圧指令補正部、50…q軸電流制御部、51…q軸電圧補正値演算部、52…q軸電流差分演算部、53…q軸電流指令演算部、54…q軸電圧指令補正部、60…制動制御動作指令部、70…速度指令補正部。

Claims (4)

  1. 誘導電動機に接続された電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御装置とを備えた
    電力変換装置において、
    前記電力変換器は、順変換器と、逆変換器と、を有し、
    前記制御装置は、電力制御部と、電圧指令演算部と、励磁電流制御部と、トルク電流制御部と、を有し、
    制動時においては、前記励磁電流指令値を電動時の励磁電流指令値よりも大きく設定し、前記励磁電流制御部によって、励磁電流が、前記励磁電流指令値に一致するように、前記電圧指令演算部によって生成された電圧指令値を補正し、
    前記電力制御部は、制動時に前記電力変換器出力電力または前記電力変換器直流電圧を検出または演算し、該電力または該直流電圧が所定値になるように、前記電力変換器の出力電圧周波数を制御し、その際、制動時の前記電力変換器出力電圧周波数と前記誘導電動機の回転周波数の差分であるすべり周波数の絶対値は、前記誘導電動機の定格すべり周波数よりも常に小さい値となるように前記電力変換器の出力電圧周波数指令値を設定し、
    かつ、トルク電流制御部によって、トルク電流が、前記トルク電流指令値に一致するように電圧指令演算部によって生成された電圧指令値を補正し、トルク電流指令値を電動時の定格電流の±10%以内の値に設定する事を特徴とする電力変換装置。
  2. 請求項1において、
    制動中に、前記電力が前記所定値以下、または前記電力変換器の直流電圧が前記所定値以上になった場合、速度指令値を一定の値にすることを特徴とする電力変換装置。
  3. 請求項1または請求項2において、
    制動時の電力制御と電流制御の出力値が、制動開始時において、レートリミッタにより所定値から所定の変化率で徐々に変化することを特徴とする電力変換装置。
  4. 請求項1または請求項2において、
    制動時に励磁電流指令値を所定の周波数で振動させることを特徴とする電力変換装置。
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