JP4135191B2 - 部分複合軽金属系部品の製造方法並びにそれに用いる予備成形体 - Google Patents

部分複合軽金属系部品の製造方法並びにそれに用いる予備成形体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
この発明は、軽金属系金属母材の所要部位に強化材を複合化する部分複合軽金属系部品の製造方法並びにこれに用いる予備成形体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば、エンジンに組み込まれるピストンのトップリング溝部、車両制動系のブレーキディスクロータあるいはエンジン動弁系のバルブリフタなど、その摺動部分に耐摩耗性が要求される部品をアルミニウム系金属で製造する場合、アルミニウム系金属を母材(もしくは基材)として耐摩耗性を有する強化材を複合化する方法が知られている。
かかるアルミニウム系金属の複合材を製造する方法としては、所謂、溶湯撹拌法が一般に良く知られている。
【0003】
この溶湯撹拌法は、製品形状に対応したキャビティを有する一対の金型に対して、アルミニウム系金属溶湯を撹拌しながら、該溶湯中にSiC(炭化ケイ素)などの耐摩耗性を有する強化材を5〜30vol%程度混合して鋳造し、粒子強化された複合材を製造する方法である。
しかし、この方法では、上述の複合材は、耐摩耗性が実際に要求される摺動部分だけでなく製品全体が強化材で複合化され、しかも、製造(鋳造)に際しては、その製品部のみならず湯口および押湯部分までも含む鋳造素材の全体が強化材を含有することとなるため、強化材の使用量が非常に多く、コスト高になるという難点があった。
【0004】
このため、製品全体ではなく、摺動部分など実際に耐摩耗性が要求される特定部分にのみ強化材を複合化することが考えられている。このように強化材を部分的に複合化することにより、強化材の使用量を大幅に低減し、従って低コストで、所要部分(摺動部分)の耐摩耗性を確保することができる。
そして、かかる部分複合材の製造方法と一つとして、所謂、高圧鋳造法が知られている。
【0005】
この高圧鋳造法は、基本的には、所定の強化材とアルミニウム系金属粉末の混合物を例えば焼結等によって所定の形状に成形し、この成形体を鋳型にセットして高圧でアルミニウム系金属の溶湯を注湯することにより、アルミニウム系金属製品の所定部位に強化材を複合化する方法である。
かかる高圧鋳造法を利用した部分的複合部材の製造方法として、例えば特開平3−151158号公報では、SiCのウイスカ(直径がミクロン単位の繊維状短結晶)とアルミニウム系金属粉末の混合物を所定の形状に焼結して複合母材を作製し、この複合母材の表面に貴金属系物質の薄膜を形成して鋳型の所定箇所にセットした後、高圧(例えば圧力1000kg/cm)でアルミニウム系金属の溶湯を注湯し、この溶湯で上述の複合母材を鋳包することにより、強化材を部分的に(所定部位にのみ)複合化する方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この従来公報に係る製造方法の場合、予め複合母材を焼結作製することにより部分強化が可能となる利点がある反面、強化材として用いられるSiCウイスカが繊維状(例えば長さが30〜100μm)であるので、SiCの含有量が過多となりがちで、コスト高となり、また、これに起因して、相手材の損傷率が高くなるという問題がある。更に、アルミニウム系金属と強化材(SiCウイスカ)との配合比率の調整も難しくなる。加えて上述の複合母材中のSiCウイスカの体積比率(Vf)が必然的に高くなるため、実用上必要とされる低体積比率(低Vf)の複合材を製造することが難しくなるという問題も生じる。
したがって、本発明の第1の目的は実際に必要とされる低体積比率(低Vf)の部分複合アルミニウム合金部品を得ることができる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本願発明者は、強化材としてウイスカ(繊維状)を用いる代わりに粉末状のもの(具体的にはセラミック粒子または金属母材と金属間化合物を形成する粒子)を用い、これら粉末粒子とアルミナゾルとを水と混合してスラリー(slury:懸濁液)を調整し、このスラリー中の水分を濾過して得られた脱水部材を圧縮成形後、焼結して予備成形体を成形し、この予備成形体を鋳型に配設した上で該鋳型内にアルミニウム合金等の軽金属溶湯を注入し、高圧鋳造にて上記溶湯を予備成形体内の空隙に含浸させて両者を複合化する方法を開発した。
即ち、本発明は軽金属部材の必要部位に強化材を複合化する部分複合軽金属系部品の製造方法であって、
a)少なくともアルミニウム粉末またはアルミニウム合金粉末からなるマトリックス金属粉末と強化材粉末と焼結工程で揮発する粉末グラファイトまたは粉末有機材とバインダーとを水と混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、
b)上記スラリーから予備成形体を形成する工程と、
c)上記予備成形体を焼結し、グラファイトまたは有機材成分を揮発させる焼結工程と、
d)上記予備成形体に上記部品のマトリックスをなす軽金属系溶湯を、加圧鋳造にて含浸させ、複合化する工程からなることを特徴とする
この方法によれば、強化材として用いるセラミック粒子等の配合比率の調整が容易に行えるので、任意の体積比率、特に実際に必要とされる低体積比率(低Vf)の部分複合軽金属合金部品を得ることができる。
【0008】
上記金属母材、即ちマトリックス金属としてはアルミニウム金属、各種アルミニウム合金が使用可能である。
【0009】
上記スラリーにはさらにマトリックス金属粉末であるアルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末を含むことができる。予備成形体の焼結温度が金属母材温度を越えるときはマトリックス金属粉末が溶融して強化材の結合を高めることができるからである。
【0010】
上記スラリーはさらに焼結工程で揮発する粒子材料、即ちグラファイトまたはフェノール樹脂などの有機材を含むことができる。これらは焼結工程で容易に揮発消失して気孔率を高めることができ、さらに複合部品中の予備成形体の体積比率を低減させることが容易であるからである。かかる粒子サイズはスラリーでの均一分散性の確保、スラリーへの配合量は適切な気孔サイズを保持できるように選択されればよく、通常平均粒径35〜55μm、特に約45μmのものが、予備成形体の0〜35容量%の範囲で配合されてよい。したがって、得られる予備成形体の体積比率は、50容量%以下、好ましくは5〜30容量%の範囲とされる。特に体積比率20%の予備成形体を作成する場合は強化材20容量%、揮発性粉末20容量%の比率で使用するのが好ましい。
【0011】
上記強化材としてはSiC,SiN,TiO,Alなどからなるセラミック粉末およびNi,Cu,Fe,Tiなどからなるマトリックス金属と金属間化合物を形成する金属粉末から選ばれてよい。SiCの場合は、平均粒径は10〜20μm、特に約15μmが好ましい。10μm未満では耐摩耗性が低下し、20μmを越えると機械加工性が低下するからである。また、Niの場合は、平均粒径20〜40μm、特に約30μmが好ましい。20μm未満では耐摩耗性が改善されず、40μmを越えると機械加工性が低下するからである。
【0012】
上記バインダーとしてはアルミナゾルが好ましい。このアルミナゾルは安定剤としてCl,CHCOO,NO などを有し、約5〜200μmのコロイドの大きさを有するアルミナ水和物ベーマイトであって、アルミナゾルー100、アルミナゾルー200、アルミナゾルー520などの種類がある。記スラリーがマトリックス金属粉末を含む場合は上記強化材とマトリックス金属粉末の合計の0.5〜3重量%のアルミナゾルを含めるのがよい。マトリックス金属が強化材粒子の結合に寄与するからであり、通常3重量%を越えて結合強度を高める必要がないからである。
【0013】
上記スラリーから予備成形体を形成する工程はスラリー中の水分を脱水して得られた脱水部材を圧縮成形するようにするのがよい。したがって、通常、b)上記スラリー中の水分を予備成形型内で脱水する工程と、b)この脱水部材を圧縮成形する工程から構成される。
上記予備成形体を焼結する焼結温度はバインダーとして使用されるアルミナゾルのγ−アルミナへの変換温度以上であるのがよい。複合化後の熱処理であるT6処理でのMgSiの析出を高める場合があるからである。即ち、アルミニウム合金の中でも、熱処理によって機械的特性等の向上を図る、所謂、熱処理型アルミニウム合金の場合、通常、その組成中に所定量のMg(マグネシウム)が含有されており、例えば、JISに規定されたAC8Aを例にとって説明すれば、所定の熱処理(例えばT6熱処理)を行うことによって、合金中に含有されるMgとSi(ケイ素)とが結び付いてMgSiが組織中に時効析出し、これにより強度が高められるようになっている。ところが、アルミニウム合金粉末の溶融温度よりも低い温度:例えば500〜520℃で焼結した場合、バインダとして添加されたアルミナゾルが十分にγ化(γアルミナ(γ−Al)に結晶化)せずに合金中のMgと反応してこれと結合することになる。このため、アルミニウム合金中のMgが欠乏し、熱処理を行ってもMgSiを十分に析出させることができず、所期の熱処理効果を得ることができないという問題が惹起されるからである。
【0014】
また、強化材としてマトリックス金属と金属間化合物を形成するNi粉末等を使用する場合はその金属間化合物が形成される温度以上で焼結する必要があり、Ni粉末を使用する場合は約530℃以上である必要がある。もちろん、上記強化材以外にマトリックス金属粉末を含む場合は上記焼結温度がマトリックス金属の溶融温度(アルミニウム合金:約570℃、アルミニウム合金粉末:530−540℃)以上であると、焼結時にマトリックス金属が溶融して強化材粒子の結合に寄与し、予備成形体は高圧鋳造時にも優れた形態保持性を示すのでさらに好ましい。なぜなら、高圧鋳造法を適用する場合、上記予備成形体には、鋳造法時に、例えば1000kg/cm程度あるいはそれ以上の非常に高い溶湯含浸圧力が作用し、この圧力は、通常、製品のサイズが大きくなるほど高く設定する必要がある。かかる鋳造圧力に十分に耐え得るように、予備成形体の強度をより一層高めることが求められる場合があるが、強化材粒子同士、または強化材粒子と軽金属母材粒子とは、バインダとしてのアルミナゾルの接着力によって結合されているだけであるので、鋳造圧力がより高く設定された際には、この高い溶湯含浸圧力に耐える上で強度が不足する場合も生じ得るからである。
したがって、特に、スラリーにマトリックス金属としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を含む場合は、予備成形体の焼結温度の下限値を580℃とするのがよい。この温度未満では、アルミニウム系金属粉末(特にアルミニウム合金粉末の場合)の少なくとも一部を溶融もしくは半溶融状態として強化材粒子をネットワーク状(網目状)に捕らえて結合するには不十分であり、また、スラリーにアルミナゾルが添加されている場合においては、そのγ化を促進してMgとの結合を防止する上で不十分だからである。他方、上記焼結温度の上限値を900℃とするのがよい。この温度を越えると、予備成形体としての形状保持性が損なわれるからである。
【0015】
しかも、予備成形体成形時の焼結温度を高めることにより、アルミナゾルのγ化が促進され、Mgとの結合が防止される結果、複合後に熱処理が施される場合において、十分な熱処理効果が得られる予備成形体とすることができる。したがって、上記焼結温度ではアルミナゾルが十分にγ−アルミナ化するので、上記複合化工程後更にT6熱処理に付するのが好ましい。
【0016】
本願発明者らは、上記予備成形体を焼結する際、予備成形体に混合させた母材金属粉末の溶融温度よりも高い温度で焼結すれば、従来の温度条件で焼結した場合に比べて、より高強度の予備成形体が得られ、しかも、この場合において、所定の上限温度までは、予備成形体の形状保持性が失われないことを見い出した。
したがって、本発明は、軽金属系金属母材の所要部位に強化材を複合化するために用いられる予備成形体の製造方法であって、
a)少なくともアルミニウム粉末またはアルミニウム合金粉末からなるマトリックス金属粉末と強化材粉末と焼結工程で揮発する粉末グラファイトまたは粉末有機材とバインダーとを水と混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、
b)上記スラリー中の水分を脱水して得られた脱水部材を圧縮する工程と、
c)上記マトリックス金属粉末の溶融温度以上の所定範囲内の温度で焼結する焼結工程と、を含むことを特徴とする部分複合アルミニウム系金属部品用予備成形体の製造方法を提供するものでもある。
【0017】
上記方法によれば、軽金属系金属母材の所要部位に強化材を複合化するために用いられる予備成形体として、
少なくとも強化材とバインダーと金属母材粉末との均一混合体を圧縮焼結してなる、体積比率が50体積%以下、好ましくは5〜30体積%の多孔質体であって、上記強化材が上記バインダーおよび溶融金属母材により結合して加圧鋳造において形態保持性を示す強度を有するものが得られる。
【0018】
これは、焼結時、予備成形体をマトリックス金属粉末の溶融温度よりも高い温度に加熱することにより、マトリックス金属粉末の少なくとも一部が溶融もしくは半溶融状態となり、この溶融もしくは半溶融状態のマトリックス金属が強化材粒子をいわばネットワーク状(網目状)に捕らえて結合するためであると考えられる。かかる結合形態をとることにより、従来、強化材粒子同士、強化材粒子とマトリックス金属粒子とが、バインダ(アルミナゾル)によって単に接着されて結合していた場合に比べて、はるかに強固な結合が得られる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は本実施の形態に係る部分複合アルミニウム合金部品の製造方法を示す工程説明図、図2〜図7は、この製造方法における各工程を説明するための断面説明図である。
本実施の形態では、まず、工程S1においてスラリー調整が行われる。このスラリー調整工程S1では、図2に示すような有底筒状の容器1内に、粒状もしくは繊維状の強化材とアルミニウム系金属粉末とアルミナゾルを含む複合化材料を投入し、これを水と混合してスラリーが調整される。
【0020】
本実施の形態では、以下の組成でスラリーを調整した。
試料A
SiC粒子(平均粒径15μm) 72g
Al合金粉末(平均粒径70μm) 77g
(JIS AC4C合金)
アルミナゾル(10%) 10ml
純水(不純物ppmオーダ) 1000ml
試料B
Ni粒子(平均粒径30μm) 50g
Al合金粉末(平均粒径70μm) 80g
(JIS AC4C合金)
アルミナゾル(10%) 10ml
純水(不純物ppmオーダ) 1000ml
試料C
SiC粒子(平均粒径15μm) 31g
Al合金粉末(平均粒径70μm) 70g
(JIS AC8A合金)
アルミナゾル(10%) 10ml
純水(不純物ppmオーダ) 1000ml
試料D
SiC粒子(平均粒径15μm) 72g
Al合金粉末(平均粒径70μm) 35g
(JIS AC4C合金)
グラファイト(平均粒径45μm) 35g
アルミナゾル(10%) 10ml
純水(不純物ppmオーダ) 1000ml
試料E
SiC粒子(平均粒径15μm) 31g
Al合金粉末(平均粒径70μm) 36g
(JIS AC8A合金)
アルミナゾル(10%) 10ml
純水(不純物ppmオーダ) 1000ml
【0021】
より具体的には、上記強化材粒子として耐摩耗性に優れるSiC粒子またはマトリックス金属と金属間化合物を形成するNi粒子と、アルミニウム合金粉末と、所定のアルミナゾルとで複合化材料を構成し、これと純水(含有不純物量がppm台の高純度の水)1000ccとを上記容器1内に投入し、撹拌手段としての撹拌翼2で約5分間程度撹拌して、スラリー3を調整および撹拌混合した。
尚、本実施の形態では、上記アルミナゾルとして、例えば、日産化学(株)製のアルミナゾル−520を使用した。
【0022】
次に、濾過工程S2において、図3に示すような濾過装置4で上述のスラリー3中の水分を濾過(吸引脱水)した。
上記濾過装置4は有底角筒状の容器5の底部に吸引口6を連通形成すると共に、容器5の内部の上下方向における中間部位に多数の脱水用スリット7を備えた台部材8を水平に張架し、この台部材8の上面に濾紙9を配設したもので、上述のスラリー3を濾紙9上の容器5内に投入した後、吸引口6に負圧吸引力を作用させることにより、スラリー3中の水分を、濾紙9,スリット7および吸引口6を順次介して脱水することができる。
【0023】
その後、圧縮工程S3において、図4に示すように、上記濾過装置4をベース10上に配置し、水分が濾過された脱水後の部材11(脱水部材)をパンチ12を用いて加圧し、圧縮成形した。
ここで、上記脱水部材11の寸法は、図5に示すように、長さL=100mm、幅W=40mm、高さH=36mmに調整することにより、次のように圧縮成形した。
サンプルA:SiCの体積比率を約16%、アルミニウム合金の体積比率を約19%で、合計体積比率が35%、残部が空洞(空隙)。
サンプルB:Niの体積比率を約6%、アルミニウム合金の体積比率を約30%で、合計体積比率が35%、残部が空洞(空隙)。
サンプルC:SiCの体積比率を約12%、アルミニウム合金の体積比率を約30%で、合計体積比率が42%、残部が空洞(空隙)。
サンプルD:SiCの体積比率を約16%、アルミニウム合金の体積比率を約9%で、合計体積比率が25%、残部が空洞(空隙)。
サンプルE:SiCの体積比率を約18%、アルミニウム合金の体積比率を約24%とし、合計体積比率が42%、残部が空洞(空隙)。
【0024】
次に、乾燥工程S4で、圧縮成形後の部材11を、120〜150℃の範囲内の温度で約1〜4時間程度乾燥処理した。
【0025】
そして、この乾燥処理後の部材11をサンプル毎に次の条件で焼結して予備成形体を形成した(工程S5)。
サンプルA:この焼結は500℃で約2時間保持して行い、図9に示すプリフォームを形成した。ここではSiC粒子とAl合金粒子とは主としてアルミナゾルの結合力により結合している。
サンプルB:この焼結は530℃で約2時間保持して行い、図14から図15に示すプリフォームを形成した。ここではNi粒子はAl合金粒子と結合して金属間化合物を形成しており、これはマトリックス金属およびNi粒子よりも優れた強度を示している。
サンプルC:この焼結は840℃で約2時間保持して行い、図8に示すようなプリフォームを形成した。ここではSiC粒子が溶融したAl合金により結合しており、サンプルAの場合よりも優れた結合力を示す。
サンプルD:この焼結は600℃で約2時間保持して行い、図20からグラファイトが酸素と反応して消失し、図21に示すような空隙が増大したプリフォームを形成した。ここではSiC粒子が溶融したAl合金により結合しており、サンプルAの場合よりも優れた結合力を示す。
サンプルE:この焼結はそれぞれ840℃と520℃で約2時間保持して行い、図8および図9に示すようなプリフォームを形成した。図10は840℃で2時間焼結した後の500倍電子顕微鏡写真である。図11は520℃で2時間焼結した後の500倍電子顕微鏡写真である。
【0026】
次に、複合化工程S6において、図6に示すような高圧アルミ鋳造装置14の所定部に上記プリフォーム13を配設し、アルミ合金溶湯15とプリフォーム13とを複合化させた。
上記高圧アルミ鋳造装置14は、金型16,17(つまり鋳型)と加熱手段としてのヒータ18とパンチ19とを備えており、金型16上にプリフォーム13を配置し、金型16,17およびプリフォーム13を所定温度(例えば約300℃)に加熱保持した状態下において、アルミニウム合金溶湯15を鋳型16,17内に注ぐ。そして、このアルミニウム合金溶湯15をパンチ19により約20トンの力で加圧することにより、プリフォーム13内部の空隙にアルミニウム合金溶湯15を含浸させながら、アルミニウム合金溶湯15とプリフォーム13とを複合化した。
その結果、アルミニウム合金溶湯15の凝固後において、図7に示すように、アルミニウム合金母材20の必要な部分にのみ上記プリフォーム13が複合された部分複合アルミニウム合金部品21が得られた。
なお、部分複合アルミニウム合金の形状に対応して、図6に示す高圧アルミニウム鋳造装置14に代えて、図18に示す高圧アルミニウム鋳造装置22を用いて、図19に示すような形状の部分複合アルミニウム合金部品を鋳造することができる。図18に示す高圧アルミニウム鋳造装置22は使用する金型24、25(つまり鋳型)の形状および該金型24、25によるキャビティ形状が異なるのみで、その他の各条件については図6と同様であるので、図18、図19において同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略する。
尚、本実施の形態では、アルミニウム合金溶湯として、サンプルA、BおよびDについてはJIS規格AC4Cのアルミニウム合金鋳物を溶融させたものを使用したが、サンプルCおよびEではJIS規格AC8A(Al−Si−Cu−Ni−Mg系)のアルミニウム合金鋳物を溶融させたものを用いた。図17はサンプルAの複合部品の組織を示す200倍顕微鏡写真である。
【0027】
そして、この後、サンプルCおよびEでは得られた部分複合アルミニウム合金部品21に、所謂、T6熱処理を施した(工程S7)。すなわち、510℃の温度で約4時間保持した後、水冷し、170℃の温度で約10時間保持し、その後、空冷した。
この場合、プリフォーム13の焼結工程において、上記アルミニウム合金AC8Aの粉末の溶融温度以上の所定範囲(580〜900℃)内の温度(例えば840℃)で焼結が行われたので、アルミナゾルのγ化が十分に促進され、Mgとの結合が防止されている。
従って、上記のT6熱処理を施すことにより、その組織中にMgSiを良好に析出させることができ、十分な熱処理効果が得られた。
尚、このように、強化材粒子とアルミニウム合金粉末とアルミナゾルとが純水と混合して得られたスラリー3を濾過、圧縮、乾燥、焼結してプリフォーム13を形成し、このプリフォーム13を高圧アルミ鋳造にてアルミ合金溶湯15と複合化することにより、強化材として用いるセラミック粒子(この実施例ではSiC粒子)の配合比率の調整が容易で、任意の体積比率、特に実際に必要とされる低体積比率(低Vf)のプリフォーム13および部分複合アルミニウム合金部品21を得ることができる。
【0028】
次に、プリフォーム焼結工程における焼成温度を高めたことによるプリフォームの強度向上効果を確かめる試験を行った。この試験は、サンプルCを用いてSiCの体積比率を約12%、アルミニウム合金の体積比率を約30%とし、合計体積比率が42%、残部が空洞となるように設定して圧縮成形し、焼成温度を5種類(520〜840℃)にわたって変えて焼成し、得られた各プリフォームの圧縮強度を調べたもので、同時に、アルミナゾル添加量の影響についても調べた。試験結果を図12のグラフに示す。
この図12のグラフから分かるように、焼成温度を高めるほど圧縮強度が向上し、また、この場合、一定量以下の範囲ではアルミナゾル添加量が多いほど圧縮強度が向上している。換言すれば、アルミナゾルの添加量を多くすることにより、同程度のプリフォーム強度を得るに際して、焼結温度をより低く設定することが可能になる。
【0029】
また、プリフォーム焼結工程における焼成温度を高めたことによる複合後の熱処理効果の増大を確かめる試験を行った。この試験は、サンプルEを用いてSiCの体積比率を約18%、アルミニウム合金の体積比率を約24%とし、合計体積比率が42%、残部が空洞となるように設定して圧縮成形したものを種々の温度で(500〜840℃)焼成し、得られた各プリフォームについて、上述のT6熱処理を行った場合(T6材)と行わなかった場合(F材)のそれぞれにおける硬さ(Hv:ビッカース硬さ)を調べたものである。試験結果を図13のグラフに示す。
この図13のグラフから分かるように、焼成温度がアルミニウム合金粉末の溶融温度よりも低い範囲の温度では、熱処理効果がほとんど認められないが、焼成温度を高めたものについては、大幅に硬さが増しており、顕著な熱処理効果が認められた。
【0030】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、部分複合アルミニウム系金属部品を高圧鋳造法で製造するに際して、上記スラリー3を調整し、その中の水分を濾過して得られた脱水部材11を圧縮した後、これを、スラリー3に混合されたアルミニウム合金粉末の溶融温度(530〜540℃)以上の所定範囲(580〜900℃)内の温度で焼結してプリフォーム13を成形するようにしたので、焼結時、アルミニウム合金粉末は、その溶融温度よりも高い温度に加熱されることにより、少なくともその一部が溶融もしくは半溶融状態となり、この溶融もしくは半溶融状態のアルミニウム系金属が強化材(SiC)粒子をいわばネットワーク状(網目状)に捕らえて結合する。これにより、従来、強化材粒子とアルミニウム系金属粒子とが、バインダ(アルミナゾル)によって単に接着されて結合していた場合に比べて、はるかに強固な結合が得られ、焼結後の予備成形体の強度を向上させることができる。この場合において、プリフォーム13としての形状保持性が損なわれることはない。
従って、この予備成形体を高圧鋳造法にて母材(基材)の所要部位に複合化する際、鋳造圧力が比較的高く設定される場合でも、これに十分に耐え、支障なく複合化させることができるのである。
【0031】
しかも、複合化工程を終えた後にT6熱処理を施すに際して、プリフォーム成形時の焼結温度が高められているとにより、アルミナゾルのγ化が促進され、Mgとの結合が防止されているので、十分な熱処理効果を得ることができる。
【0032】
また、上記複合化材料はアルミナゾルを含有しているので、このアルミナゾルのバインダ作用により、強化材粒子とアルミニウム合金粉末の粒子とが接着され、両者はより結合し易くなる。すなわち、同じ焼結条件(焼結温度)でもプリフォームの強度をより一層高めることができる。換言すれば、同程度のプリフォーム強度を得るに際して、焼結温度をより低く設定することができる。
尚、本発明では、プリフォーム13を成形するに際して、アルミニウム合金粉末の溶融温度よりも高い温度で焼結することにより、強化材粒子とアルミニウム合金粉末の粒子とを結合させるので、アルミナゾルの添加は必ずしも必要ではない。このようにアルミナゾルを添加しない場合には、逆に、焼結温度を適宜高く設定すれば良い。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、部分複合アルミニウム系金属部品を高圧鋳造法で製造するに際して、上記スラリーを調整し、その中の水分を濾過して得られた脱水部材を圧縮した後、これを焼結して予備成形体を成形するようにしたので、所望の、特に低体積比率の部分複合軽金属部品を製造することができる。
特にスラリーにマトリックス金属粉末を添加する場合、焼結時、マトリックス金属粉末は、その溶融温度よりも高い温度に加熱されることにより、少なくともその一部が溶融もしくは半溶融状態となり、この溶融もしくは半溶融状態のマトリックス金属が強化材粒子をいわばネットワーク状(網目状)に捕らえて結合する。これにより、従来、強化材粒子とマトリックス金属粒子とが、バインダ(アルミナゾル)によって単に接着されて結合していた場合に比べて、はるかに強固な結合が得られ、焼結後の予備成形体の強度を向上させることができる。従って、この予備成形体を高圧鋳造法にて母材(基材)の所要部位に複合化する際、鋳造圧力が比較的高く設定される場合でも、これに十分に耐え、支障なく複合化させることができる。しかも、予備成形体成形時の焼結温度を高めることにより、スラリーにアルミナゾルが添加されている場合においては、アルミナゾルのγ化が促進され、Mgとの結合が防止される結果、複合後に熱処理が施される場合においては、十分な熱処理効果を得ることができる。
尚、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良あるいは設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る部分複合アルミニウム合金部品の製造方法を示す工程説明図である。
【図2】 上記製造方法のスラリー調整工程を示す説明図である。
【図3】 上記製造方法の濾過工程を示す説明図である。
【図4】 上記製造方法の圧縮工程を示す説明図である。
【図5】 上記製造方法の乾燥,焼結工程を示す説明図である。
【図6】 上記製造方法の複合化工程を示す説明図である。
【図7】 上記方法で製造された部分複合アルミニウム合金部品の断面説明図である。
【図8】 マトリックス金属融点以上で焼結されたプリフォームにおけるマトリックス金属粒子とSiC粒子の結合状態を模式的に示す説明図である。
【図9】 マトリックス金属融点以下で焼結されたプリフォームにおけるSiC粒子の結合状態を模式的に示す説明図である。
【図10】 マトリックス金属融点以上で焼結されたプリフォームの組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】 マトリックス金属融点以下で焼結されたプリフォームの組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図12】 プリフォーム焼結温度を高めたことによるプリフォーム強度向上効果の確認試験の結果を示すグラフである。
【図13】 プリフォーム焼結温度を高めたことによる熱処理効果増大の確認試験の結果を示すグラフである。
【図14】 上記方法で製造される焼結前のプリフォームにおけるマトリックス金属粒子とNi粒子の結合状態を模式的に示す説明図である。
【図15】 上記方法で製造される焼結後のプリフォームにおけるマトリックス金属粒子とNi粒子の結合状態を模式的に示す説明図である。
【図16】 上記方法で製造される複合材料の組織の構造を模式的に示す説明図である。
【図17】 マトリックス金属融点以下で焼結された他のプリフォームの組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】 本発明方法における複合化工程の他の実施例を示す概要図である。
【図19】 図18の工程により製造される部分複合部品の断面図である。
【図20】 本発明方法で製造される焼結前のプリフォームにおけるマトリックス金属粒子、SiC粒子およびグラファイト粒子の結合状態を模式的に示す説明図である。
【図21】 上記方法で製造される焼結後のプリフォームにおけるマトリックス金属粒子とNi粒子の結合状態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
3…スラリー
11…脱水部材
13…プリフォーム(予備成形体)
15…アルミニウム合金溶湯
16,17…金型(鋳型)
20…アルミニウム合金母材
21…部分複合アルミニウム合金部品

Claims (16)

  1. 軽金属部材の必要部位に強化材を複合化する部分複合軽金属系部品の製造方法であって、
    a)少なくともアルミニウム粉末またはアルミニウム合金粉末からなるマトリックス金属粉末と強化材粉末と焼結工程で揮発する粉末グラファイトまたは粉末有機材とバインダーとを水と混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、
    b)上記スラリーから予備成形体を形成する工程と、
    c)上記予備成形体を焼結し、グラファイトまたは有機材成分を揮発させる焼結工程と、
    d)上記予備成形体に上記部品のマトリックスをなす軽金属系溶湯を、加圧鋳造にて含浸させ、複合化する工程からなることを特徴とする部分複合軽金属系部品の製造方法。
  2. 上記焼結工程c)における焼結温度が580〜900℃である請求項1記載の方法。
  3. 上記強化材がSiC,SiN,TiO,Alなどからなるセラミック粉末およびNi,Cu,Fe,Tiなどからなるマトリックス金属と金属間化合物を形成する金属粉末から選ばれる請求項1記載の方法。
  4. 上記バインダーがアルミナゾルであって、記強化材とマトリックス金属粉末の合計の0.5〜3重量%のアルミナゾルを含む請求項1記載の方法。
  5. 上記スラリーから予備成形体を形成する工程b)が、
    )上記スラリー中の水分を予備成形型内で脱水する工程と、
    )この脱水部材を圧縮成形する工程からなる請求項1記載の方法。
  6. 上記予備成形体を焼結する工程がバインダーとして使用されるアルミナゾルのγ−アルミナへの変換温度以上で行われる請求項1記載の方法。
  7. 上記焼結工程c)がマトリックス金属の溶融温度以上で行われる請求項6記載の方法。
  8. マトリックス金属であるアルミニウムまたはアルミニウム合金が溶融または半溶融状態で上記強化材粉末を網目状に捕らえて結合する請求項7記載の方法。
  9. 上記複合化工程後更にe)得られた複合体をT6熱処理に付する工程を含む請求項1記載の方法。
  10. 軽金属系金属母材の所要部位に強化材を複合化するために用いられる予備成形体の製造方法であって、
    a)少なくともアルミニウム粉末またはアルミニウム合金粉末からなるマトリックス金属粉末と強化材粉末と焼結工程で揮発する粉末グラファイトまたは粉末有機材とバインダーとを水と混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、
    b)上記スラリー中の水分を脱水して得られた脱水部材を圧縮する工程と、
    c)上記マトリックス金属粉末の溶融温度以上の所定範囲内の温度で焼結する焼結工程と、
    を備えたことを特徴とする部分複合軽金属系部品用予備成形体の製造方法。
  11. 上記焼結工程c)における焼結温度が580〜900℃である請求項10記載の方法。
  12. 上記強化材がSiC,SiN,TiO,Alなどからなるセラミック粉末およびNi,Cu,Fe,Tiなどからなるマトリックス金属と金属間化合物を形成する金属粉末から選ばれる請求項10記載の方法。
  13. 上記バインダーがアルミナゾルであって、記強化材とマトリックス金属粉末の合計の0.5〜3重量%のアルミナゾルを含む請求項10記載の方法。
  14. 上記予備成形体を焼結する工程がバインダーとして使用されるアルミナゾルのγ−アルミナへの変換温度以上で行われる請求項10記載の方法。
  15. 上記焼結工程c)がマトリックス金属の溶融温度以上で行われる請求項14記載の方法。
  16. マトリックス金属であるアルミニウムまたはアルミニウム合金が溶融または半溶融状態で上記強化材粉末を網目状に捕らえて結合する請求項15記載の方法。
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