JP4051720B2 - 複合化用予備成形体の製造方法及び該複合化用予備成形体が複合化された複合軽金属部材の製造方法 - Google Patents

複合化用予備成形体の製造方法及び該複合化用予備成形体が複合化された複合軽金属部材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マグネシウムを含有するアルミニウム系金属母材に二酸化チタン粒子を含む複合化材料が複合化された複合軽金属部材を形成するための上記複合化材料よりなる複合化用予備成形体の製造方法及び該複合化用予備成形体が複合化された複合軽金属部材の製造方法に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば、エンジンに組み込まれるピストンのリング溝部、車両制動系のブレーキディスクロータやエンジン動弁系のバルブリフタ等、他の部材との摺動部分に耐摩耗性が要求される部品をアルミニウム系金属で製造する場合、アルミニウム系金属を母材として耐摩耗性を有する複合化材料(強化材)をいわゆる溶湯攪拌法によって複合化する方法が知られている。
【0003】
しかし、この方法では、耐摩耗性が要求される特定の部分だけでなく部品全体が複合化材料で複合化されるため、複合化材料の使用量が非常に多くなり、コストが高くなってしまう。また、複合化材料が溶湯中で浮遊等して遍在しないように溶湯粘度等を設定する必要があり、工程が複雑化してしまう。
【0004】
そこで、例えば特開平3−151158号公報に示されているように、SiCウィスカとアルミニウム合金粉末との混合物を所定の形状に焼結して予備成形体を作製し、この予備成形体を鋳型の所定箇所にセットした後、その鋳型内に高圧でアルミニウムの溶湯を注入し、この溶湯で上記予備成形体を複合化することにより、複合化材料を部品の所定箇所に形成する方法が提案されている。
【0005】
この提案方法によると、複合化材料を部品の一部分に複合化することはできる。ところが、その反面、SiCウィスカの含有量が過多となる傾向にあり、複合化に際して、アルミニウム溶湯の圧力を高くする必要があり、さらに、実用上必要とされている低体積率のものを製造することが困難である。よって、コストが高くなると共に、摺動する相手部材を損傷させる虞れもある。
【0006】
そこで、例えば特公昭63−54057号公報に示されているように、第1の金属と酸素との化合物の固体微細片より多孔質体(予備成形体)を形成し、この多孔質体を第2の金属を含む溶融金属内に浸漬し、この溶融金属に圧力を加えて上記多孔質体の孔中に浸透させることによって上記第1の金属の酸化物を還元すると同時に第2の金属を酸化させ、溶融金属の一部と多孔質体とで合金を形成すると共に、他の一部で酸化物を形成させて金属酸化物が合金中に微細に分散された任意の組成の合金を能率よく安価に製造する方法が知られている。
【0007】
また、複合化材料を少ない含有量で金属中に均一に分散させるために、例えば特開昭63−295050号公報に示されているように、セルロース等を含む織物材料やプラスチック繊維で所望のパターンつまり骨格を形成しておき、このパターンに従って複合化材料の繊維や粒子を拡散させた後、金属溶湯で複合化する際にその溶湯でパターンを消散或いは分解させて複合金属部材を製造するようにすることが提案されている。さらに、上記パターンとしてアルミナ繊維等を用いて複合化材料の分散を確実にさせることも提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、複合化材料としては、ウィスカや短繊維等よりもコストが低くかつ耐摩耗性も優れている二酸化チタン粒子を使用することが望ましい。この二酸化チタン粒子で予備成形体を作製して、上記第1の提案例(特開平3−151158号公報)のように高圧アルミニウム鋳造を行なう場合、二酸化チタン粒子を圧粉焼結によって予備成形体を作製すると、粒子であるためにその体積率が高くなり、ウィスカの場合と同様にその体積率の制御が困難であり、体積率を低くするには限界があった。このため、高圧アルミニウム鋳造を行なう際、アルミニウム溶湯を予備成形体内に含浸させることができず、その高圧力によって予備成形体が割れてしまうという問題がある。
【0009】
また、第2の従来例(特公昭63−54057号公報)の方法では、酸化還元反応の際に高圧力によって予備成形体が割れ易いことに変わりはない。しかも、汎用的なアルミニウム合金にはケイ素が含有されているため、二酸化チタンの還元反応によって生じたチタンが上記ケイ素及びアルミニウムと結合してAl−Ti−Si化合物が生じる。この化合物は硬さや耐摩耗性を向上させるが、脆く、予備成形体が一層割れ易くなるという欠点がある。
【0010】
さらに、第3の提案例(特開昭63−295050号公報)の方法では、複合化材料の含有量を少なくすることができるものの、複合化材料の均一性がパターンの近い箇所と遠い箇所とで異なるため、完全に均一化することはできず、耐摩耗性が低下する。そして、パターンをアルミニウム溶湯で消失させる場合、アルミニウムの炭化物が生じて予備成形体が脆くなる。また、パターンとしてアルミナ繊維等を用いる場合、アルミナ繊維等の含有量を多くする必要があり、そのようにすると予備成形体の強度が低下すると共に、通気性が悪化してアルミニウム溶湯が含浸し難くなるという問題がある。
【0011】
また、上記提案例のいずれの方法においても、二酸化チタン粒子で予備成形体を作製し、その予備成形体とマグネシウムを含有するアルミニウム系金属等の軽金属とを複合化した場合、その複合軽金属部材に対してT6熱処理(溶体化処理後に人工時効をする処理)を施したときに、その熱処理の効果が十分に得られないという問題がある。すなわち、二酸化チタン粒子は、通常、平均粒径が0.3μmで非常に微細であるため、溶体化処理時にアルミニウム系金属等の軽金属に含有されているマグネシウムと反応し易く、この反応が生じると、複合軽金属部材の硬さや強度を向上させるMgSiが時効析出しなくなる。尚、この二酸化チタン粒子とマグネシウムとの反応式は以下のようになる。
【0012】
3TiO+2Mg→2MgTiO+Ti
Ti+3Al→AlTi
一方、平均粒径が大きい二酸化チタン粒子を使用して予備成形体を作製すれば、それを軽金属と複合化した複合軽金属部材はT6熱処理の効果が得られるものの、その粒径を均一に大きくするには歩留まりが悪化して二酸化チタン粒子のコストアップを招いてしてしまい、低コストであることの利点を生かすことができなくなる。
【0013】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マグネシウムを含有するアルミニウム系金属母材に二酸化チタン粒子を含む複合化材料が複合化された複合軽金属部材を作製する場合に、その製造方法を改良することによって、二酸化チタン粒子を均一に分散させた状態でその体積率を制御可能とし、体積率をできる限り小さくして予備成形体内にアルミニウム系金属の溶湯を含浸させ易くすると共に、低コストである微細な二酸化チタン粒子を使用したとしても、複合軽金属部材に対するマグネシウム化合物を時効析出させる熱処理の効果が得られるようにすることにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、この発明では、二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末とを混合した状態で加熱することにより、その焼失性粉末を焼失させかつ二酸化チタン粒子をその平均粒径が加熱前よりも大きくて2〜200μmとなるように焼結して肥大化させるようにした。
【0015】
具体的には、請求項1の発明では、マグネシウムを含有するアルミニウム系金属母材に複合化材料が複合化された複合軽金属部材を形成するための上記複合化材料よりなる複合化用予備成形体の製造方法を対象とする。
【0016】
そして、二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末とを混合する混合工程と、上記混合工程にて混合した複合化材料と焼失性粉末とを加熱することにより、上記焼失性粉末を焼失させかつ上記二酸化チタン粒子をその平均粒径が加熱前よりも大きくて2〜200μmとなるように焼結して肥大化させる焼結工程とを備えたことを特徴とする。
【0017】
このことにより、二酸化チタン粒子及び焼失性粉末は、混合工程にて均一に混合された後、焼結工程にて所定の温度以上とされると、焼失性粉末のみが焼失されてなくなり、二酸化チタン粒子同士が焼結されて互いに結合された予備成形体が得られる。すなわち、焼失性粉末の存在していた箇所は空洞となり、二酸化チタン粒子の予備成形体全体に対する体積率を焼失性粉末の分だけ小さくすることができる。この結果、焼失性粉末の混合量を変化させることにより、二酸化チタン粒子の体積率を制御することができ、その体積率を小さくすることができる。しかも、二酸化チタン粒子は、上記焼結工程でその平均粒径が加熱前よりも大きくて2〜200μmとなるように肥大化されているので、二酸化チタン粒子全体の表面積が低下し、この予備成形体とマグネシウムを含有するアルミニウム系金属とを複合化した複合軽金属部材に対してT6熱処理等を施した場合に、二酸化チタンとマグネシウムとの反応が抑制されてMgSi等が時効析出する。上記二酸化チタン粒子の平均粒径は、2μmよりも小さいと、二酸化チタンとマグネシウムとの反応を十分に抑制することができない一方、200μmよりも大きいと、二酸化チタン粒子を均一に分散させることができなくなると共に、摺動する相手部材を損傷させる可能性があるので、2〜200μmとしている。また、焼結工程における焼結温度や時間を調節することで、二酸化チタン粒子を凝集させて任意の粒径となるように肥大化させることができる。このため、コストの低い微細な二酸化チタン粒子を使用しても、熱処理により複合軽金属部材の硬さや強度を向上させることができる。したがって、二酸化チタン粒子を均一に分散させた状態でその体積率を低下させることができると共に、予備成形体のコストを低減化させつつ、この予備成形体とアルミニウム系金属とを複合化した複合軽金属部材に対するマグネシウム化合物を時効析出させる熱処理の効果を容易に得ることができる。
【0018】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、焼失性粉末は黒鉛粉末であるものとする。
【0019】
この発明により、黒鉛粉末は、安価であり、所定の温度以上に加熱されると跡形もなく焼失するので、予備成形体の体積率を制御し易くなると共に、複合化に悪影響を及ぼすこともない。よって、焼失性粉末として最適な材料が得られる。
【0020】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、黒鉛粉末の平均粒径を250μm以下に設定する。
【0021】
すなわち、黒鉛粉末の平均粒径は、250μmよりも大きいと、平均粒径が0.3μm程度である通常の二酸化チタン粒子との粒径差が大きくなって二酸化チタン粒子と均一に混合し難くなると共に、黒鉛粉末が完全に焼失するまでの時間が長くなって、二酸化チタン粒子の平均粒径を任意の値に肥大化させることが困難となるので、250μm以下としている。よって、二酸化チタン粒子が均一に分散され、かつその平均粒径が2〜200μmとなるように肥大化された予備成形体を短時間で容易に得ることができる。
【0022】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、混合工程は、二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末と液体とを混合してスラリーを調製する工程であり、焼結工程で、上記スラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を加熱するようにする。
【0023】
このことにより、二酸化チタン粒子と焼失性粉末と液体とを混合してスラリーを調製することで、二酸化チタン粒子及び焼失性粉末が液体内で均一に混ぜられる。この液体成分を除去することにより、二酸化チタン粒子及び焼失性粉末が完全に均一に混ざり合った状態で固められた脱液体部材からなる固体物が得られる。そして、この固体物が焼結工程にて加熱されて所定の温度以上とされると、焼失性粉末のみが焼失され、二酸化チタン粒子同士が焼結される。よって、簡単な方法で二酸化チタン粒子及び焼失性粉末をより一層均一に混合させることができる。
【0024】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明において、混合工程にてさらに無機バインダーを混合し、焼結工程で上記バインダーと二酸化チタン粒子とを焼結させるようにする。
【0025】
このことで、無機バインダーも二酸化チタン粒子及び焼失性粉末と共に均一に混ぜられ、焼結工程時に二酸化チタン粒子と共に焼結され、二酸化チタン粒子同士との結合がより一層強固にされる。よって、予備成形体の強度を向上させることができる。
【0026】
請求項6の発明では、請求項1〜5のいずれか1つの発明において、混合工程にてさらに第1のウィスカを混合し、焼結工程で上記第1のウィスカと二酸化チタン粒子とを焼結させるようにする。
【0027】
このようにすることで、二酸化チタン粒子同士が第1のウィスカによっても結び付けられるので、二酸化チタン粒子のみの結合よりも強固になる。よって、二酸化チタン粒子の体積率を小さくしつつ、予備成形体強度の向上化を図ることができる。
【0028】
請求項7の発明では、請求項6の発明において、混合工程にてさらに第1のウィスカよりも繊維径及び繊維長が大きい短繊維部材を混合し、焼結工程で上記短繊維部材及び第1のウィスカをも焼結させるようにする。
【0029】
この発明により、二酸化チタン粒子が表面に付着した第1のウィスカはそれよりも繊維径及び繊維長が大きい短繊維部材に付着するので、耐摩耗性等をさらに向上させるために短繊維部材を混入しても、二酸化チタン粒子の結合強度の低下を防止することができる。よって、予備成形体の強度を維持しつつ、耐摩耗性等をより一層向上させることができる。
【0030】
請求項8の発明では、請求項6又は7の発明において、混合工程にてさらに第1のウィスカよりも焼結性が高くかつ繊維径及び繊維長が小さい第2のウィスカを混合し、焼結工程で上記第2のウィスカと二酸化チタン粒子及び第1のウィスカとを焼結させるようにする。
【0031】
このことにより、第2のウィスカは、その大きさが二酸化チタン粒子と略同じであり、焼結性も高いので、第1のウィスカ及び二酸化チタン粒子と結び付き易く、二酸化チタン粒子が第1のウィスカ近傍により多く焼結されるようになる。しかも、第1のウィスカよりも繊維径及び繊維長が大きい短繊維部材を少量混入する場合、第2のウィスカはその短繊維部材にも付着するので、二酸化チタン粒子が短繊維部材近傍に多く焼結され、短繊維部材間の通気性がさらに向上する。この場合、短繊維部材の混入量が少なければ二酸化チタン粒子の均一性は維持される。このため、短繊維部材を混入する場合、短繊維部材による通気性の悪化を防止することができる。よって、予備成形体の強度を維持しつつ、通気性をより一層向上させることができる。
【0032】
請求項の発明では、複合軽金属部材の製造方法として、請求項1〜8のいずれか1つに記載の複合化用予備成形体の製造方法における焼結工程の後、複合化用予備成形体にマグネシウムを含有するアルミニウム系金属の溶湯を注入し、上記溶湯と複合化用予備成形体とを複合化する複合化工程を備えるようにする。
【0033】
このことにより、予備成形体内にアルミニウム系金属溶湯が含浸されて予備成形体とアルミニウム系金属とが複合化されると共に、予備成形体以外の箇所はアルミニウム系金属のみで鋳造される。よって、二酸化チタン粒子の複合化材料で部品の一部が複合化された複合軽金属部材を容易に得ることができる。
【0034】
請求項10の発明では、請求項の発明において、複合化工程終了後に、マグネシウム化合物を時効析出させる熱処理を施すようにする。
【0035】
この発明により、アルミニウム系金属に含有されているマグネシウムは二酸化チタンと殆ど反応しないで残されているので、複合軽金属部材に対してT6熱処理等を施すことにより、MgSi等のマグネシウム化合物を時効析出させることができる。よって、簡単にかつ確実に複合軽金属部材の硬さ及び強度を向上させることができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る複合軽金属部材1の要部を示す。この複合軽金属部材1は、軽金属としてのアルミニウム系金属を母材とし、その一部がセラミック粒子である二酸化チタン(TiO)粒子とウィスカとを含む複合化材料(強化材)で複合化されている。すなわち、この複合軽金属部材1は、例えば、エンジンに組み込まれるピストンのリング溝部、車両制動系のブレーキディスクロータやエンジン動弁系のバルブリフタ等、他の部材との摺動部分に耐摩耗性等が要求される部品に使用されるもので、耐摩耗性等を必要とする箇所のみが上記複合化材料で複合化されている。
【0037】
上記アルミニウム系金属母材としては、JIS規格H5202に規定されているAC8A等が使用され、この母材には数%のマグネシウム(AC8Aでは約1%)が含有されている。また、上記複合化材料のウィスカにはホウ酸アルミニウムウィスカが使用されている。尚、ウィスカは、短繊維とは異なり、針状に成長した結晶を意味し、金属等が自然に結晶成長してなる真性ウィスカの他、液相や気相から成長したものや化学反応の結果として成長した非真性ウィスカであってもよく、ホウ酸アルミニウムウィスカ以外では例えばSiCウィスカ等でもよい。
【0038】
上記複合軽金属部材1における複合化材料で複合化された部分は、TiO粒子間に母材のアルミニウム系金属のAC8Aが含浸された状態となっていると共に、上記ホウ酸アルミニウムウィスカがTiO粒子間に均一に分散されてTiO粒子同士の結合が強められている。そして、その複合化された部分は、AC8Aが含浸される前において上記複合化材料よりなる複合化用予備成形体5とされており、この予備成形体5は、TiO粒子がホウ酸アルミニウムウィスカ表面に付着した状態で焼結されてなる。また、TiO粒子は、その平均粒径が2〜200μmとなるように焼結されて肥大化されてなる。すなわち、このTiO粒子の平均粒径は、2μmよりも小さいと、後述の如く複合軽金属部材1に対してT6熱処理を行う際にTiOと上記アルミニウム系金属母材中のマグネシウムとの反応を十分に抑制することができない一方、200μmよりも大きいと、TiO粒子を均一に分散させることができなくなり、摺動する相手部材を損傷させる可能性があるので、2〜200μmとしている。さらに、この予備成形体5のTiO粒子間には空洞が存在しており、この空洞にアルミニウム系金属の溶湯が高圧鋳造により含浸されて予備成形体5とアルミニウム系金属とが複合化されるようになっている。尚、TiO粒子にさらに無機バインダーが焼結されていてもよい。
【0039】
上記予備成形体5の複合化材料の体積率は、耐摩耗性の観点から予備成形体5全体の30%以下とされている。
【0040】
また、上記複合化材料中のTiO粒子に対するホウ酸アルミニウムウィスカの体積率は10〜40%となるようにされている。すなわち、TiO粒子に対するホウ酸アルミニウムウィスカの体積率が10%よりも小さいと、アルミニウム系金属溶湯の浸透性が不十分になると共に、予備成形体5の強度がTiO粒子のみの場合と変わらず、強度を向上させることができない反面、40%よりも大きいと、通気性は良好であるが、TiO粒子よりもウィスカ主体の予備成形体となり、予備成形体5自体の剛性が低下し、溶湯の複合化時に収縮や破損が生じ易くなると共に、ホウ酸アルミニウムウィスカによるコストアップを招き、空洞率も低下するので、10〜40%の範囲としている。
【0041】
以上の構成からなる複合化用予備成形体5及びこの予備成形体5とアルミニウム系金属とを複合化した複合軽金属部材1を製造する方法を説明する。最初に、複合化用予備成形体5を製造するには、先ず、複合化材料と焼失性粉末とを混合すべくスラリーを調製する。すなわち、図2に示すように、有底状の容器11内に、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカを含む複合化材料と焼失性粉末と水等の液体とを投入して攪拌翼12で攪拌混合してスラリー13を調製する。このTiO粒子には、その平均粒径が0.3μm程度とされた通常のものを使用する。尚、このとき、さらに無機バインダーを複合化材料に対して3容積%程度混合してもよい。また、その無機バインダーとしてはシリカゾルやアルミナゾル等が適している。
【0042】
上記焼失性粉末としては黒鉛粉末が使用され、この黒鉛粉末の平均粒径は250μm以下に設定されている。すなわち、この黒鉛粉末の平均粒径は、250μmよりも大きいと、TiO粒子との粒径差が大きくなってTiO粒子と均一に混合し難くなると共に、後述の如くTiO粒子を焼結させる際に黒鉛粉末が完全に焼失するまでの時間が長くなって、TiO粒子の平均粒径を任意の値に肥大化させることが困難となるので、250μm以下としている。
【0043】
次に、図3に示すように、濾過装置14で上記スラリー13を濾過してスラリー13中の水等の液体成分を除去(吸引脱水)する。この濾過装置14は、有底状の容器15の底部に吸引口16を連通形成すると共に、多数の脱水用スリット17,17,…が形成された台部材18を容器15内の上下方向略中央部に水平状に張架し、この台部材18の上面に濾紙19を配設したもので、上記スラリー13を容器15内の濾紙19上に投入した後、吸引口16に負圧吸引力を作用させることにより、スラリー13中の水等の液体を濾紙19及び台部材18の各スリット17より除去することができるようになっている。
【0044】
そして、図4に示すように、スラリー13中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材21を圧縮する。すなわち、上記濾過装置14を脱液体部材21を入れたままその底部を固定台20上に載せ、脱液体部材21をその上方からパンチ22により加圧して予備成形体5の形状となるように圧縮成形する。尚、上述の如くスラリー13中の液体成分を除去する際にその負圧吸引力を調整し、焼失性粉末を含んだ脱液体部材21の体積率が10%以上となるようにすれば、実質的に脱液体部材21に対して圧縮を行ったのと同様の効果が得られ、後述の如く焼結を有効に行うことができるので、そのようにする場合には、この圧縮工程を省略してもよい。
【0045】
その後、上記脱液体部材21を乾燥させてから加熱により焼結する。このとき、焼結を2段階の工程に分けて行う。すなわち、最初の工程で、上記焼失性粉末を焼失させることができる温度に設定して焼失性粉末を脱液体部材21より完全に焼失させる。次の工程で、温度をさらに上げて、脱液体部材21に残されているTiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカを含む複合化材料又はその複合化材料と無機バインダーとを焼結する。このとき、その焼結温度及び時間を変えると、TiO粒子は、その凝集度合いが変化して肥大化する程度が異なる。このため、この焼結温度及び時間を調整することで、TiO粒子の平均粒径が加熱前よりも大きくて2〜200μmと肥大化するようにする。このことにより、平均粒径が2〜200μmであるTiO粒子がホウ酸アルミニウムウィスカ表面に付着した状態で焼結された複合化用予備成形体5が得られる。
【0046】
したがって、このようにして得られた予備成形体5の焼失性粉末の存在していた箇所は空洞となっているので、その焼失性粉末分だけ複合化材料の予備成形体5全体に対する体積率が小さくなっている。よって、焼失性粉末の混合量を変えることにより、複合化材料の体積率を制御することができ、その体積率を小さくすることができる。しかも、TiO粒子同士が均一に分散されたホウ酸アルミニウムウィスカによっても結び付けられているので、TiO粒子のみの結合よりも強固になり、複合化材料の体積率が小さくなっても、予備成形体5の強度は維持される。その結果、予備成形体5の強度を低下させることなく、複合化材料の体積率を低下させることができ、この予備成形体5に対して鋳造を行なう際に、上記アルミニウム系金属溶湯が含浸し易くなり、予備成形体5が割れるのを防ぐことができる。
【0047】
また、無機バインダーを混合することによって、それが脱液体部材21の焼結時にTiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカと共に焼結され、TiO粒子同士及びTiO粒子とホウ酸アルミニウムウィスカとの結合をより一層強固にする。よって、予備成形体5の強度をより一層向上させることができる。
【0048】
さらに、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカを含む複合化材料と焼失性粉末と液体とを混合してスラリーを調製し、このスラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材21を加熱するようにしたので、TiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及び焼失性粉末を液体内で均一に混合することができる。よって、簡単な方法でTiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカをより均一に分散させることができる。
【0049】
また、焼失性粉末として、平均粒径が250μm以下の安価な黒鉛粉末を使用したので、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカと均一に混合することができると共に、所定の温度以上に加熱することにより跡形もなく焼失させることができ、予備成形体5の体積率及びTiO粒子の平均粒径の制御を容易に行うことができる。よって、黒鉛粉末は焼失性粉末として最適な材料とすることができる。
【0050】
次に、上記予備成形体5より複合軽金属部材1を製造する方法を説明する。先ず、図5に示すように、底部に金型26を、側部に金型27をそれぞれ備え、該金型27の周囲に加熱用ヒータ28が配置されているアルミニウム鋳造装置24内の所定部に上記予備成形体5を配置し、金型26,27及び予備成形体5をヒータ28により所定温度に加熱保持しておく。そして、金型26,27で囲まれた内部に、アルミニウム系金属溶湯25を注入し、この溶湯25の上方からパンチ29により溶湯25を加圧する。この鋳造圧力は100MPa 程度となるようにする。このとき、複合化材料の体積率が全体の30%以下とされているので、その圧力により予備成形体5が割れたり、圧縮変形したりする虞れがある。しかし、この予備成形体5は、TiO粒子間に均一に分散されたホウ酸アルミニウムウィスカによって100MPa 程度の圧力に十分耐えることができる強度とされているので、予備成形体5の割れや圧縮変形を防いで鋳造を行うことができる。
【0051】
上記溶湯25を加圧することにより、予備成形体5内の空洞に溶湯25が含浸され、溶湯25と予備成形体5とが複合化される。そして、溶湯25が凝固すると、部分的にTiO粒子で複合化された複合軽金属部材1が得られる。
【0052】
尚、上記鋳造圧力が100MPa 以下であっても、複合化材料の体積率が小さいので、溶湯25と予備成形体5との複合化は十分可能であり、1MPa 程度でも複合化を行うことができる。
【0053】
よって、上記方法によると、予備成形体5内にはアルミニウム系金属溶湯25が容易に含浸し得るような空洞が形成されかつその強度がホウ酸アルミニウムウィスカにより維持されているので、予備成形体5の割れや圧縮変形を確実に防止しつつ、TiO粒子の複合化材料で部品の一部が複合化された複合軽金属部材1を鋳造により容易に得ることができる。
【0054】
そして、この複合軽金属部材1に対して、溶体化処理後に人工時効させるT6熱処理を施すことにより、その硬さや強度を向上させることができる。すなわち、TiO粒子の平均粒径が2〜200μmとされてTiO粒子全体の表面積が小さくされているので、溶体化処理時にTiOとアルミニウム系金属に含有されているマグネシウムとの反応が抑制され、人工時効により複合軽金属部材1の硬さ及び強度を向上させるマグネシウム化合物(MgSi)を時効析出させることができる。
【0055】
したがって、上記実施形態では、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカを含む複合化材料と焼失性粉末とを混合した状態で加熱することにより、その焼失性粉末を焼失させかつTiO粒子をその平均粒径が2〜200μmとなるように焼結して肥大化させるようにしたので、コストの低い微細な(0.3μm程度)TiO粒子を使用しても、T6熱処理により複合軽金属部材1の硬さや強度を向上させることができる。よって、予備成形体5のコストを低減させつつ、TiO粒子を均一に分散させた状態でその体積率を低下させることができ、複合軽金属部材1に対するMgSiを時効析出させるT6熱処理の効果を容易に得ることができる。
【0056】
尚、上記実施形態では、複合化材料として、TiO粒子とホウ酸アルミニウムウィスカのみを含むものとしたが、複合化材料にTiO粒子が含まれていれば、他にどのようなものが含まれていても全く含まれていなくても、本発明を適用することができる。特に、TiO粒子とホウ酸アルミニウムウィスカにさらにホウ酸アルミニウムウィスカよりも繊維径及び繊維長が大きい短繊維部材としてのアルミナ(酸化アルミニウム)短繊維と、ホウ酸アルミニウムウィスカ(第1のウィスカ)よりも焼結性が高くかつ繊維径及び繊維長が小さい第2のウィスカとしてのチタン酸カリウムウィスカとを混入させるようにすることが望ましい。この場合、アルミナ短繊維の体積率及びチタン酸カリウムウィスカの体積率を、共に全体の5%以下とし、TiO粒子に対するホウ酸アルミニウムウィスカの体積率を10〜30%となるようにすればよい。
【0057】
すなわち、アルミナ短繊維を少量混入するだけで、耐摩耗性を著しく向上させることができる。さらに、チタン酸カリウムウィスカをも混入すると、そのウィスカは、大きさがTiO粒子と略同じであり、焼結性も高いので、ホウ酸アルミニウムウィスカ、TiO粒子及びアルミナ短繊維と付着し易く、TiO粒子がホウ酸アルミニウムウィスカやアルミナ短繊維近傍に多く焼結され、アルミナ短繊維間の通気性がより一層向上する。この場合、アルミナ短繊維の混入量を全体の5%よりも大きくすると、予備成形体5の強度及び通気性が低下すると共に、TiO粒子の均一性が悪化するので、5%以下としている。また、チタン酸カリウムウィスカの体積率を全体の5%よりも大きくすると、予備成形体5が柔らかくなり、アルミニウム系金属溶湯との複合化時に収縮や破損が生じ易くなるので、5%以下としている。さらに、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカのみを含む複合化材料の場合と同様に、TiO粒子に対するホウ酸アルミニウムウィスカの体積率が10%よりも小さいと、予備成形体5の通気性及び強度の向上化を図ることができない一方、30%よりも大きいと、アルミナ短繊維やチタン酸カリウムウィスカを混入する分だけより一層予備成形体5の剛性の低下を招き、複合化時に破損し易くなるので、10〜30%の範囲としている。よって、予備成形体5の強度を維持しつつ、通気性をより一層向上させることができる。
【0058】
【実施例】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。先ず、上記実施形態と同様にして、複合化用予備成形体を作製した。但し、焼結工程でTiO粒子の平均粒径が2〜200μmとなるようには調整せず、2μmよりも小さくした。このとき、TiO粒子として平均粒径0.3μmの微粉状のもの(和光純薬工業(株)製)を、またウィスカとして繊維径0.5〜1.0μm及び繊維長10〜30μmのホウ酸アルミニウムウィスカ(商品名「アルボレックスM12」四国化成工業(株)製)を、さらに焼失性粉末として平均粒径45μmの黒鉛粉末(西村黒鉛(株)製)をそれぞれ使用し、これらを500ccの水と混合した。そして、ホウ酸アルミニウムウィスカはTiO粒子に対して体積比で25%となるようにした。また、無機バインダーとしてシリカゾルを、TiO粒子とホウ酸アルミニウムウィスカとの合計に対して体積比で3%となるように添加した。また、焼結温度を800℃〜1200℃の範囲で変化させ、焼結時間を2時間とした。尚、得られた予備成形体の大きさは、62×36×15mmであり、複合化材料(強化材)の全体に対する体積率(Vf)が8%、13%及び24%となる3種類の予備成形体を作製した。
【0059】
ここで、上記体積率Vfを所定値とするには、黒鉛粉末を焼結させる前の空洞率が65%程度つまり複合化材料+黒鉛粉末の体積率が約35%となることを考慮してTiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及び黒鉛粉末の配合割合を決定する。すなわち、体積率Vfを例えば13%とするには、TiO粒子+ホウ酸アルミニウムウィスカ(複合化材料)の黒鉛粉末に対する体積比を1:2として水に混合すると、TiO粒子+ホウ酸アルミニウムウィスカの体積比は35%×1/3より約13%となる。このことより、黒鉛粉末の量は、複合化材料の体積率に応じて変えればよい。
【0060】
そして、上記各予備成形体の圧縮強度を測定した。この結果を図6に示す。尚、複合化材料としてウィスカのないTiO粒子のみの場合(Vf=13%)をも示す。同図において一点鎖線で示した強度は、アルミニウム鋳造を行うことができる最低必要な強度である。したがって、上記体積率Vfが小さくなると強度も低下するが、ホウ酸アルミニウムウィスカを混入することでVf=8%であっても、1200℃の焼結温度であれば十分にアルミニウム鋳造を行うことができ、体積率Vfが大きければ、低い焼結温度であってもウィスカによって強度が十分に確保されていることが判る。
【0061】
続いて、上記実施形態と同様にして、上記3種類の各予備成形体に対してアルミニウム鋳造を行うことにより各予備成形体をアルミニウム系金属と複合化して各予備成形体内にアルミニウム系金属が含浸された3種類の複合材を得た。このとき使用したアルミニウム系金属は上記JIS規格のAC8Aであり、溶湯温度760℃、金型温度260℃、予備成形体温度300℃、加圧力100MPa の条件下で鋳造を行った。さらに、複合化後、上記各複合材に対してT6熱処理を行った。すなわち、510℃の温度下で約4時間保持した後、水冷し、170℃の温度下で約10時間保持し、その後、空冷した。
【0062】
上記複合化された3種類の各複合材の複合部分より、平行部の直径が5mmの丸棒試験片を採取し、クロスヘッド速度を0.017mm/sとして室温下と高温(260℃)下とで引張試験を行った。尚、高温下での試験では、260℃で20時間予備加熱後、測定を行った。
【0063】
次に、摩耗試験を行った。すなわち、図9に示すように、上記各複合材の複合部分より円板状のディスク40をそれぞれ採取し、その各ディスク40上にSCr420(HRc45)からなるリング41を載せ、ディスク40を固定してリング41を面圧10MPa 、周動速度0.5m/、潤滑油温度100℃の条件でその中心軸回りに回転させた。そして、周動距離が5000mとなったときのディスク40及びリング41の摩耗減量を測定した。
【0064】
上記室温下と高温下との引張試験の結果をそれぞれ図7及び図8に示す。尚、複合化材料としてウィスカのないTiO粒子のみの場合の引張強度をも示す(室温下のみ)。これより、室温での引張強度は、母材のAC8AのT6熱処理を行ったものよりも低下しているが、ホウ酸アルミニウムウィスカを混入することでその引張強度を改善することができる。また、高温での引張強度は、母材のAC8AのT6熱処理を行ったものよりも高くなっている。したがって、ホウ酸アルミニウムウィスカによってTiO粒子の凝集が改善されて強度は高くなり、特に高温強度が優れていることが判る。
【0065】
上記摩耗試験の結果を図10に示す。比較のために、ディスク40の材料として、母材のAC8Aと従来よりピストン部品のピストンリング溝部によく使用されているニレジスト鋳鉄との結果を併せて示す。この結果、ニレジスト鋳鉄よりも耐摩耗性がさらに向上しており、特にVf=13%以上で極めて優れている。したがって、上記各複合材がピストンリング溝の耐摩耗性向上のための補強用としてニレジスト鋳鉄よりも適していることが判る。
【0066】
さらに、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカに繊維径5〜10μm及び繊維長200〜500μmのアルミナ短繊維を混入して、上記と同様に複合材を作製した。このとき、TiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びアルミナ短繊維の各体積率は、それぞれ6%、4%及び1%とした。この複合材に対して、上記と同じ摩耗試験を行い、摩耗減量を調べた。この結果を図11に示す。このことより、アルミナ短繊維を1%程度混入するだけで、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカからなる複合化材料よりも耐摩耗性が著しく向上することが判る。
【0067】
次に、複合化材料がTiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びアルミナ短繊維からなる第1の予備成形体と、その複合化材料にさらに第2のウィスカとして繊維径約0.3μm及び繊維長約10μmのチタン酸カリウムウィスカを混入したものからなる第2の予備成形体とを作製した。このとき、焼結温度を1100℃とし、焼結時間を2時間としたが、TiO粒子の平均粒径が2〜200μmとなるようには調整せず、2μmよりも小さくした。また、TiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びアルミナ短繊維の各体積率を、第1及び第2の予備成形体共にそれぞれ7%、2%及び1.5%とし、第2の予備成形体のチタン酸カリウムウィスカの体積率を1%とした。このことで、複合化材料の全体に対する体積率Vfは、第1の予備成形体では10.5%となり、第2の予備成形体では11.5%となってチタン酸カリウムウィスカの体積率の分大きくなる。尚、得られた各予備成形体の大きさは、58×36×15mmである。
【0068】
そして、上記第1及び第2の予備成形体の圧縮強度を測定した。この結果を図12に示す。このことより、上述の如く耐摩耗性を向上させるアルミナ短繊維を混入しても、予備成形体の強度を維持し得ると共に、さらにチタン酸カリウムウィスカを混入することで、第1の予備成形体よりも強度が格段に向上することが判る。
【0069】
続いて、上記第1及び第2の予備成形体に対してそれぞれアルミニウム鋳造を行うことにより各予備成形体をアルミニウム系金属と複合化して各予備成形体内にアルミニウム系金属が含浸された第1及び第2の複合材を得た。このとき使用したアルミニウム系金属はAC8Aであり、溶湯温度760℃、金型温度260℃、加圧力150MPa の条件下で鋳造を行った。
【0070】
上記第1及び第2の複合材の複合部分について硬さ及び引張強度を測定した。また、比較のためにAC8Aの硬さ及び引張強度を測定した。この結果、第1の複合材の硬さ及び引張強度はそれぞれHv110〜115及び220〜230MPa であり、第2の複合材の硬さ及び引張強度はそれぞれHv115〜120及び220〜240MPa であったのに対し、AC8Aの硬さ及び引張強度はそれぞれHv80及び170MPa であった。したがって、両複合材の硬さ及び引張強度は殆ど同じであり、母材であるAC8Aよりもかなり向上していることが判る。
【0071】
さらに、上記第2の予備成形体と形状のみが異なる第3の予備成形体を作製し、その第3の予備成形体を気体加圧鋳造法によりAC8Aと複合化して第3の複合材を作製した。すなわち、図13に示すように、上型51aと下型51bとからなる金型51内の底面に、直径及び厚さがそれぞれ95mm及び15mmである円板状の第3の予備成形体50を置き、その予備成形体50の上にAC8Aの溶湯52を注ぎ、その溶湯52上に空気又は窒素等の気体を吹き込んで溶湯52を0.5MPa で加圧することにより複合化した。このとき、溶湯52の温度、金型51の温度及び予備成形体50の予熱温度をそれぞれ770℃、110℃及び700℃とした。
【0072】
上記気体加圧鋳造法で得られた第3の複合材の複合部分の硬さを測定したところ、その硬さは、上述の如く通常の加圧鋳造で得られた第2の複合材と同じHv110〜115であった。このことより、0.5MPa で複合化した場合でも、高圧で鋳造したものと殆ど同じ複合材が得られ、第3の予備成形体50の通気性が極めて良好であることが判る。また、0.5MPa という圧力は、工場等で一般に使用されている圧力であるので、新たなコンプレッサを用いることなく簡単に予備成形体を複合化することができる。
【0073】
尚、チタン酸カリウムウィスカが混入されていない上記第1の予備成形体に対して気体加圧鋳造法により複合化する場合は、気体の圧力が1MPa よりも小さくなると複合化が困難となる。しかし、第1の予備成形体も、その通気性は良好であり、1MPa というかなり低い圧力で複合化することができる。
【0074】
次に、TiO粒子の平均粒径がT6熱処理後の複合材における複合部分の硬さにどのように影響するかを調べるための試験を行った。すなわち、TiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びアルミナ短繊維からなる複合化材料で焼結温度を変えることによりTiO粒子の平均粒径が異なる4種類の予備成形体a〜dを作製した。このとき、TiO粒子、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びアルミナ短繊維の各体積率は、9%、2%及び2%とした(Vf=13%)。また、黒鉛粉末の体積率は22%とした。さらに、スラリーを調整する際に、無機バインダーとしてのアルミナゾルと、各混合物の分散性を向上させるためのポリマーとを上記複合化材料に対して質量比でそれぞれ3%及び0.3%となるように添加すると共に、スラリーのpHが6程度になるように硫酸アンモニウムで調整した。また、圧縮工程は省略し、スラリー中の液体成分を除去する際の負圧吸引力のみで脱液体部材を所定の形状とした。
【0075】
上記4種類の予備成形体a〜dにおけるTiO粒子の平均粒径は、それぞれ0.5μm、1.2μm、2.2μm及び4μmとなっており、焼結温度をそれぞれ1150℃、1200℃、1300℃及び1400℃に設定することでそのような平均粒径を有する予備成形体a〜dが得られた。尚、焼結時間はいずれも3時間とした。また、各予備成形体a〜dは、外径及び厚さがそれぞれ90mm及び15mmのリング状とした。
【0076】
上記各予備成形体a〜d内部の組織状態(倍率10000倍)を図14〜図17にそれぞれ示す。各図で白く粒状に見えるものがTiO粒子であり、図15において中央部に見える太く長いものがアルミナ短繊維であり、短く細いものがホウ酸アルミニウムウィスカである。このことで、TiO粒子がホウ酸アルミニウムウィスカと共にアルミナ短繊維に付着していることが判る。また、予備成形体a、b、c及びdの順に、TiO粒子が凝集されてその平均粒径が大きくなっていることが判る。
【0077】
そして、上記各予備成形体a〜dに対してアルミニウム鋳造を行うことにより各予備成形体a〜dをアルミニウム系金属と複合化して各予備成形体a〜d内にアルミニウム系金属が含浸された4種類の複合材A〜Dをそれぞれ得た。すなわち、図18に示すように、下型56の段差部56aに上記各予備成形体57を置き、その下型56の上方に上型55を配置し、上記段差部56aの下側に設けたゲート56bより溶湯を30mm/sで内部に注入して下型56の下側からプランジャー58でその溶湯に圧力を加えた。このとき使用したアルミニウム系金属はAC8Aであり、溶湯温度760℃、金型温度260℃、予備成形体予熱温度600℃、加圧力100MPa の条件下で鋳造を行った。
【0078】
上記各複合材A〜Dに対してT6熱処理を施した後、各複合材A〜Dの複合部分のビッカース硬さを調べた。また、上記T6熱処理後の複合材C,Dにおける複合部分の引張強度を試験温度を変化させて調べた。さらに、比較のためにT6熱処理後のAC8Aの硬さ及び引張強度を測定した。
【0079】
この結果を図19及び図20にそれぞれ示す。このことより、TiO粒子の平均粒径が2μmよりも小さい複合材A,Bでは、その硬度がT6熱処理を施したAC8Aよりも小さくなる一方、複合材C,DのようにTiO粒子の平均粒径が2μm以上であれば、AC8Aと同程度以上の硬さや引張強度が得られることが判る。
【0080】
尚、TiO粒子の平均粒径を4μmよりも大きくした場合は、複合材の硬さは4μmの場合と殆ど変わらず、平均粒径が或る程度以上大きくなると逆に低下する傾向にあるが、AC8Aよりも高い値に維持することはできる。一方、複合材の強度は、TiO粒子の平均粒径が20μmよりも大きくなるとAC8Aよりも低下する。しかし、強度が問題とならず、耐摩耗性のみが必要な場合は、200μmまで平均粒径を大きくしたとしても問題はない。但し、焼結により平均粒径を200μmまで大きくすることは、実際にはかなり困難である。
【0081】
さらに、上記T6熱処理後の複合材Dにおける複合部分内部の組織状態(倍率約900倍)を図21に示す。この図において、黒い粒状の部分はTiO粒子が凝集した部分であり、白い部分は複合化されたアルミニウム系金属である。また、線状に長く見える黒い部分がアルミナ短繊維であり、短い線状に見える部分がホウ酸アルミニウムウィスカである。これより、TiO粒子及びホウ酸アルミニウムウィスカが均一に分散されていることが判る。すなわち、実際にどの部分でも硬さ及び強度が均等に維持されている。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項の発明によると、マグネシウムを含有するアルミニウム系金属母材に複合化材料が複合化された複合軽金属部材を形成するための上記複合化材料よりなる複合化用予備成形体に対して、二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末とを混合した状態で加熱することにより、その焼失性粉末を焼失させかつ二酸化チタン粒子をその平均粒径が加熱前よりも大きくて2〜200μmとなるように焼結して肥大化させるようにしたことにより、二酸化チタン粒子を均一に分散させた状態でその体積率の低下を図ることができると共に、予備成形体のコストを低減化させつつ、この予備成形体とアルミニウム系金属とを複合化した複合軽金属部材に対するマグネシウム化合物を時効析出させる熱処理の効果が容易に得られる。
【0083】
請求項2の発明によると、焼失性粉末を黒鉛粉末としたことにより、焼失性粉末として最適な材料を得ることができる。
【0084】
請求項3の発明によると、黒鉛粉末の平均粒径を250μm以下に設定したことにより、二酸化チタン粒子が均一に分散され、かつその平均粒径が2〜200μmとなるように肥大化された予備成形体が短時間で容易に得られる。
【0085】
請求項4の発明によると、二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末と液体とを混合してスラリーを調製し、このスラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を加熱するようにしたことにより、簡単な方法で二酸化チタン粒子及び焼失性粉末のさらなる均一混合化を図ることができる。
【0086】
請求項の発明によると、さらに無機バインダーを混合し、このバインダーと二酸化チタン粒子とを焼結させるようにしたことにより、予備成形体の強度の向上化を図ることができる。
【0087】
請求項の発明によると、さらに第1のウィスカを混合し、この第1のウィスカと二酸化チタン粒子とを焼結させるようにしたことにより、二酸化チタン粒子の体積率の低減化を図りつつ、予備成形体強度の向上化を図ることができる。
【0088】
請求項の発明によると、さらに第1のウィスカよりも繊維径及び繊維長が大きい短繊維部材を混合し、この短繊維部材及び第1のウィスカをも焼結させるようにしたことにより、予備成形体の強度を維持しつつ、耐摩耗性等のさらなる向上化を図ることができる。
【0089】
請求項の発明によると、さらに第1のウィスカよりも焼結性が高くかつ繊維径及び繊維長が小さい第2のウィスカを混合し、この第2のウィスカと二酸化チタン粒子及び第1のウィスカとを焼結させるようにしたことにより、予備成形体の強度を維持しつつ、通気性のより一層の向上化を図ることができる。
【0090】
請求項の発明では、複合軽金属部材の製造方法として、請求項1〜8のいずれか1つに記載の複合化用予備成形体の製造方法における焼結工程の後、複合化用予備成形体にマグネシウムを含有するアルミニウム系金属の溶湯を注入し、上記溶湯と複合化用予備成形体とを複合化する複合化工程を備えるようにしたことにより、二酸化チタン粒子の複合化材料で部品の一部が複合化された複合軽金属部材を容易に得ることができる。
【0091】
請求項10の発明によると、複合化工程終了後に、マグネシウム化合物を時効析出させる熱処理を施すようにしたことにより、簡単にかつ確実に複合軽金属部材の硬さ及び強度の向上化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る複合アルミニウム系金属部品を示す断面図である。
【図2】 複合化用予備成形体を製造するためにスラリー調製を行っている状態を示す容器の断面図である。
【図3】 スラリー中の液体成分を除去している状態を示す濾過装置の断面図である。
【図4】 スラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を圧縮している状態を示す図3相当図である。
【図5】 複合化用予備成形体に対してアルミニウム鋳造を行ってその予備成形体とアルミニウム系金属とを複合化している状態を示すアルミニウム鋳造装置の断面図である。
【図6】 複合化材料の体積率と予備成形体の強度との関係を示すグラフである。
【図7】 室温下における複合化材料の体積率と複合材の引張強度との関係を示すグラフである。
【図8】 高温下における図7相当のグラフである。
【図9】 摩耗試験を行っている状態を示すディスク及びリングの斜視図でる。
【図10】 ディスク材料とそのディスク及びリングの摩耗減量との関係を示すグラフである。
【図11】 ディスク材料とそのディスク及びリングの摩耗減量との関係を示すグラフである。
【図12】 第1及び第2の予備成形体における複合化材料の体積率と強度との関係を示すグラフである。
【図13】 気体加圧鋳造法により第3の予備成形体とアルミニウム系金属とを複合化している状態を示す断面図である。
【図14】 TiO粒子の平均粒径が0.5μmとされた予備成形体内の組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】 TiO粒子の平均粒径が1.2μmとされた予備成形体内の組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図16】 TiO粒子の平均粒径が2.2μmとされた予備成形体内の組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図17】 TiO粒子の平均粒径が4μmとされた予備成形体内の組織状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】 リング状の予備成形体に対してアルミニウム鋳造を行ってその予備成形体とアルミニウム系金属とを複合化している状態を示すアルミニウム鋳造装置の断面図である。
【図19】 TiO粒子の平均粒径とT6熱処理後の複合材のビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図20】 T6熱処理後の複合材の引張強度と試験温度との関係を示すグラフである。
【図21】 T6熱処理後の複合材(TiO粒子の平均粒径4μm)における複合部分内部の組織状態を示す光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 複合軽金属部材
5 複合化用予備成形体
13 スラリー
14 濾過装置
21 脱液体部材
24 アルミニウム鋳造装置

Claims (10)

  1. マグネシウムを含有するアルミニウム系金属母材に複合化材料が複合化された複合軽金属部材を形成するための上記複合化材料よりなる複合化用予備成形体の製造方法であって、
    二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末とを混合する混合工程と、
    上記混合工程にて混合した複合化材料と焼失性粉末とを加熱することにより、上記焼失性粉末を焼失させかつ上記二酸化チタン粒子をその平均粒径が加熱前よりも大きくて2〜200μmとなるように焼結して肥大化させる焼結工程とを備えたことを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  2. 請求項1記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    焼失性粉末は黒鉛粉末であることを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  3. 請求項2記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    黒鉛粉末の平均粒径を250μm以下に設定することを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    混合工程は、二酸化チタン粒子を含む複合化材料と焼失性粉末と液体とを混合してスラリーを調製する工程であり、
    焼結工程で、上記スラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を加熱することを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1つに記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    混合工程にてさらに無機バインダーを混合し、
    焼結工程で上記バインダーと二酸化チタン粒子とを焼結させることを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1つに記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    混合工程にてさらに第1のウィスカを混合し、
    焼結工程で上記第1のウィスカと二酸化チタン粒子とを焼結させることを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  7. 請求項6記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    混合工程にてさらに第1のウィスカよりも繊維径及び繊維長が大きい短繊維部材を混合し、
    焼結工程で上記短繊維部材及び第1のウィスカをも焼結させることを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  8. 請求項6又は7記載の複合化用予備成形体の製造方法において、
    混合工程にてさらに第1のウィスカよりも焼結性が高くかつ繊維径及び繊維長が小さい第2のウィスカを混合し、
    焼結工程で上記第2のウィスカと二酸化チタン粒子及び第1のウィスカとを焼結させることを特徴とする複合化用予備成形体の製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか1つに記載の複合化用予備成形体の製造方法における焼結工程の後、複合化用予備成形体にマグネシウムを含有するアルミニウム系金属の溶湯を注入し、上記溶湯と複合化用予備成形体とを複合化する複合化工程を備えたことを特徴とする複合軽金属部材の製造方法。
  10. 請求項記載の複合軽金属部材の製造方法において、
    複合化工程終了後に、マグネシウム化合物を時効析出させる熱処理を施すことを特徴とする複合軽金属部材の製造方法。
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