JP4134796B2 - 汚染土壌および地下水の浄化方法 - Google Patents

汚染土壌および地下水の浄化方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、汚染土壌および地下水の浄化方法に関するものであり、詳しくは、低コストで、かつ安全に汚染土壌および地下水を浄化することのできる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、重金属で汚染された土壌の処理方法としては次のような方法が知られている。
▲1▼ 土壌中の重金属を水で洗浄除去する方法。
▲2▼ 土壌中の重金属を酸で洗浄除去する方法。
▲3▼ キレート剤水溶液を添加して土壌中の重金属を溶出除去する方法。
▲4▼ 加熱して気化させて除去する方法。
▲5▼ 電気を通じ、土壌中の重金属を電極近傍に移動させて除去する方法。
【0003】
しかしながら、上記▲1▼〜▲5▼の方法では、除去率が低い(とくに▲1▼の方法)、土壌の中和等の後処理に時間と手間がかかる(とくに▲2▼の方法)、処理費用が高い(とくに▲4▼,▲5▼の方法)、難分解性の薬剤を使用するため、処理後の環境への影響が懸念される(とくに▲3▼の方法)、煩雑な装置や操作を必要とする(とくに、▲4▼,▲5▼の方法。▲4▼の加熱気化による方法では、気化させた重金属の除去のための複雑な装置や煩雑な操作が必要となる。)、原位置での処理が困難である(とくに▲1▼,▲2▼,▲3▼の方法)などの問題点があった。
【0004】
前記問題点を解決する手段として、下記特許文献1には、重金属で汚染された土壌に、過マンガン酸塩のような酸化剤溶液を接触させることを特徴とする汚染土壌の浄化方法が開示され、とくに、汚染土壌に注入井戸と揚水井戸とを設け、注入井戸から該溶液を注入して該溶液と土壌とを接触させた後、揚水井戸から揚水して該溶液を回収する浄化方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−96057号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、有機物で汚染された土壌または地下水に前記の重金属汚染土壌の浄化方法をそのまま適用することはできない。例えば、汚染物質である塩素化エチレン類が地下水に含まれる場合、これを過マンガン酸カリウムで酸化分解すると、塩化水素を発生し地下水のpHが低下する。地下水のpHが低下すると、地下水揚水施設後段に中和設備が必要となり、また地下水と接触する構造物を腐食させる原因にもなる。
具体的に、酸化剤が過マンガン酸カリウムであり、塩素化エチレン類がトリクロロエチレンである場合、下記のような反応が進行する。
【0007】
HCl + 2KMnO → 2CO + 2MnO + 2KCl + HCl
【0008】
塩素化エチレン類の濃度が1mg/l以下であるような場合、上記反応式に従って生成する塩化水素濃度は低いため、pH低下はほとんど問題にならない。しかし、一般に汚染源付近では塩素化エチレン類の濃度が高く、数十〜数百mg/lに達することもある。このような高濃度条件では上記反応式に従って生成する塩化水素濃度も高くなり、pH低下を引き起こす原因となる。
また、地下水には2価鉄イオンが1〜数十mg/lの濃度で存在することが多く、これが酸化されると次式に示す通りpHが低下することになる。
【0009】
3Fe2+ + KMnO + 7HO → 3Fe(OH) + MnO + K + 5H
【0010】
上記のような反応式に従って、地下水中に酸が生成してpHを低下させる傾向にある場合、通常は地下水の緩衝能や土壌からの金属イオン溶出により、顕著なpH低下が認められることは少ない。しかし、上記各反応式から分かるように塩素化エチレン類または2価鉄イオン濃度が高い場合、あるいは地下水のアルカリ度が低い場合や過マンガン酸塩を注入する土壌中にカルシウムやマグネシウム等の溶出しやすい金属イオン成分が少ない場合にはpHが低下することになる。地下水のpHが低下すると、地下水揚水施設後段に中和設備が必要となり、また地下水と接触する構造物を腐食させる原因にもなることは、前述したとおりである。
【0011】
したがって本発明の目的は、汚染土壌または地下水を浄化するにあたり、中和設備等の特別な設備を設ける必要がなく、また地下水と接触する構造物の腐食を防止し、低コストかつ安全に汚染土壌および地下水を浄化することのできる方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、有機物で汚染された土壌または地下水に、酸化剤溶液とpH緩衝能を有する液体とを接触させることにより、前記目的を達成するものである。
この構成によれば、pH緩衝能を有する液体を併用しているため、pHの低下が抑制され、中和設備等を設ける必要がない。また、顕著に低いpHの地下水が生じないため、これと接触する構造物の腐食が防止される。したがって、低コストかつ安全に汚染土壌および地下水を浄化することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(酸化剤溶液)
本発明で使用される酸化剤溶液としては、好ましくは比較的安定である過マンガン酸塩、とくに過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等が挙げられる。過マンガン酸カリウムは、安価であるためこれを使用することにより低コスト性に寄与することができる。また過マンガン酸ナトリウムは、浄化作用および水への溶解度が高い点から好ましい。このように、酸化剤溶液としては過マンガン酸塩の水溶液が挙げられ、過マンガン酸塩の濃度は、被処理物に含まれる汚染物質濃度、現場温度、土壌または地下水の性状等を勘案して適宜決定すればよいが、例えば水溶液中0.1〜5質量%である。また、過マンガン酸塩水溶液の使用量も、被処理物に含まれる汚染物質濃度、現場温度、土壌または地下水の性状等を勘案して適宜決定すればよい。また、過マンガン酸塩水溶液は、高濃度の水溶液を一旦調製し、タンク等に貯蔵しておき、使用時にこれを希釈して使用することもできる。なお、過マンガン酸塩の注入量が少ない場合は、例えば帯水層内で過マンガン酸塩が還元され、有機物を完全に分解する前に消失してしまうこともあるので、過マンガン酸塩は、推測される有機物量を完全分解する量よりもやや過剰に使用するのが好ましい。
なお、前記では酸化剤として過マンガン酸塩について説明したが、その他の公知の酸化剤、例えば過酸化水素、過硫酸塩等を利用することもできる。
【0014】
(pH緩衝能を有する液体)
本発明で使用されるpH緩衝能を有する液体(以下、緩衝液という)は、水素イオン濃度の上昇を抑制し得るものであればよいが、例えばリン酸塩、リン酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩等の水溶液を挙げることができる。ただし、過マンガン酸塩と反応しない緩衝液を使用する必要があるため、有機性緩衝液は使用しにくい。
前記塩類の中でも、環境性、取り扱い性、安全性、低コスト性等の点から炭酸塩または炭酸水素塩水溶液、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの水溶液が好ましい。炭酸塩または炭酸水素塩水溶液は、例えば下記で説明する浄化方法において、揚水井戸から汲み上げられた場合でも、後段に特別な処理設備を必要としない。
前記塩類の濃度は、緩衝液中、0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。0.01質量%未満であると、例えば地下水で希釈された場合にpH緩衝能が低下する場合があり、逆に5質量%を超えて使用しても効果の向上は認められず、コスト的に不利となる。
【0015】
(浄化方法)
本発明において、有機物で汚染された土壌または地下水と、酸化剤溶液および緩衝液との接触方法はとくに制限されないが、例えば土壌または地下水中の汚染された部分を特定し、この部分を矢板等の遮水壁で囲い、その内側に垂直井戸のような注入井戸と揚水井戸を、汚染物質が存在する帯水層まで掘孔し、注入井戸から酸化剤溶液および緩衝液を加圧下に注入し、その後、揚水井戸から揚水して前記酸化剤溶液および緩衝液を回収する方法が挙げられる。このようにすれば、帯水層内の地下水に自然条件以上の流速が与えられ、広い範囲の汚染土壌または地下水を浄化することが可能となる。また、帯水層の深度にスクリーンを有する井戸を作製し酸化剤溶液および緩衝液を井戸内に一定流量で注入し、スクリーンから拡散させる方法や、スクリーンを有する井戸の代わりに水平井戸を用いる公知の方法も採用することができる。
なお、酸化剤溶液と緩衝液は別々の井戸から注入してもよいが、酸化剤溶液と緩衝液とを混合し混合溶液として注入すれば、井戸の数を少なくすることができるので、作業性が向上し好ましい。このように本発明によれば、有機物で汚染された土壌または地下水にその場で酸化剤溶液と緩衝液とを注入することができる。
有機物で汚染された土壌または地下水と、酸化剤溶液および緩衝液との接触が完了した後は、揚水井戸から揚水される水中に酸化剤溶液がほとんど検出されなくなるまで、注入井戸から水を注入してもよい。
なお、前記とは別の汚染土壌の浄化方法としては、掘削した汚染土壌をカラム内に入れ、このカラムに酸化剤溶液および緩衝液を上向流または下向流で通液して汚染土壌と接触させ、カラムから流出した有機物含有溶出水を回収するか、あるいは、掘削した汚染土壌と酸化剤溶液および緩衝液とをタンク内に入れ、必要に応じて撹拌して汚染土壌と接触させ、その後固液分離し、有機物含有溶出水を回収する方法が挙げられる。この場合、固液分離後、再び土壌と酸化剤溶液および緩衝液とを撹拌混合する処理を繰り返し行ってもよい。浄化した土壌は埋め戻す。
【0016】
なお、汚染土壌中の浄化対象有機物としては、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレンのような塩素化エチレン類、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロペン等が挙げられるが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0017】
【作用】
本発明によれば、緩衝液を併用することにより、水素イオン濃度の上昇を抑制することができ、処理後の溶出液のpHの低下を防止することができる。例えば、緩衝液として炭酸塩水溶液または炭酸水素塩水溶液を使用した場合は、以下の反応式に示すように、水素イオン濃度の上昇を抑制することができる。
CO 2− + H → HCO (炭酸塩)
HCO + H → HCO (炭酸水素塩)
【0018】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに説明するが、本発明は下記の例によって限定されるものではない。
(実施例1)
密栓した容器内に、炭酸水素ナトリウムを100mg/lの濃度で溶解した水道水を入れ、そこにトリクロロエチレンを100mg/lの濃度で溶解させた。続いて、過マンガン酸カリウム水溶液を300mg/lの濃度となるように前記容器に注入した。一週間容器を振盪攪拌し、トリクロロエチレン濃度を測定したところ、0.01mg/l以下であった。容器を開封しpHを測定したところ7.5であり中性に保たれていることが確認された。
【0019】
(比較例1)
密栓した容器内に、トリクロロエチレンを100mg/lの濃度で溶解した水道水を入れ、過マンガン酸カリウム水溶液を300mg/lの濃度となるように前記容器に注入した。一週間容器を振盪攪拌し、トリクロロエチレン濃度を測定したところ、0.01mg/l以下であった。容器を開封しpHを測定したところ4.5まで低下していることが分かった。
【0020】
(実施例2)
トリクロロエチレンを500mg/kgの濃度で含む汚染土壌1kgをガラスカラムに充填し、カラムの上部から過マンガン酸ナトリウム0.1質量%および炭酸水素ナトリウム0.1質量%を含む混合水溶液を通液し、10日後のトリクロロエチレン濃度およびpHを測定した。その結果、土壌中のトリクロロエチレン濃度は0.1mg/kg以下、カラム出口で集めた水のpHは7.4であることが確認された。
【0021】
(比較例2)
トリクロロエチレンを500mg/kgの濃度で含む汚染土壌1kgをガラスカラムに充填し、カラムの上部から過マンガン酸ナトリウム0.1質量%を含む水溶液を通液し、10日後のトリクロロエチレン濃度およびpHを測定した。その結果、土壌中のトリクロロエチレン濃度は0.1mg/kg以下、カラム出口で集めた水のpHは5.5であることが確認された。
【0022】
(実施例3)
トリクロロエチレンを200mg/kgの濃度で含む汚染土壌を原位置で処理した。
まず、処理対象区域縦8m、横6m、深さ9mの回りを矢板で仕切り、中央部に注入井戸(深さ9m)を設け、この注入井戸の周囲4箇所(注入井戸を中心とした半径3mの円周上の4等分箇所に揚水井戸(深さ13m)を設けた。
注入井戸から過マンガン酸ナトリウム0.1質量%および炭酸水素ナトリウム0.1質量%を含む混合水溶液を0.3m/hrの流量で5日間注入し、揚水井戸から0.08m/hrで揚水した地下水3.5mを集め、トリクロロエチレン濃度およびpHを測定した。その結果、土壌中のトリクロロエチレン濃度は0.1mg/kg以下、揚水して集めた地下水のpHは7.1であることが確認された。
また、過マンガン酸ナトリウムは実験終了間際には揚水した地下水中に検出されるようになったが、注入量に対する割合は2%であった。なお、この揚水した地下水は活性炭分解処理により過マンガン酸ナトリウムを処理した。
過マンガン酸ナトリウムの注入を停止した後は、5日間水道水を同様に通水した。このとき揚水した地下水からはトリクロロエチレンは検出されず、土壌は浄化されたことが確認された。
【0023】
【発明の効果】
本発明は、有機物で汚染された土壌または地下水に、酸化剤溶液と緩衝液を接触させることを特徴としているので、pHの低下が抑制され、中和設備等の特別な設備を設ける必要がない。また、顕著に低いpHの地下水が生じないため、これと接触する構造物の腐食が防止される。したがって、低コストかつ安全に汚染土壌および地下水を浄化することができる。

Claims (2)

  1. 塩素化エチレン類の濃度が数十〜数百mg/lの土壌または地下水に、酸化剤溶液とpH緩衝能を有する液体とを接触させる工程を含む汚染土壌および地下水の浄化方法であって、
    前記酸化剤溶液が、0.1〜5質量%の過マンガン酸塩水溶液であり、
    前記pH緩衝能を有する液体が、0.01〜5質量%の炭酸水素塩水溶液または0.01〜5質量%の炭酸塩水溶液であり、
    前記接触させる工程が、酸化剤溶液とpH緩衝能を有する液体とを混合して混合溶液とし、前記塩素化エチレン類で汚染された土壌にその場で前記混合溶液を注入するものであり、
    前記地下水のpH低下を抑制しつつ前記塩素化エチレン類を酸化分解することを特徴とする汚染土壌および地下水の浄化方法。
  2. 注入井戸と揚水井戸とを設け、前記注入井戸から前記酸化剤溶液とpH緩衝能を有する液体とを注入し、前記塩素化エチレン類で汚染された土壌または地下水と、前記酸化剤溶液とpH緩衝能を有する液体とを接触させた後、前記揚水井戸から揚水し、前記酸化剤溶液とpH緩衝能を有する液体とを回収することを特徴とする請求項に記載の汚染土壌および地下水の浄化方法。
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