JP4132573B2 - 水分散体の製造方法およびその水分散体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重合安定性、保存安定性、成膜性の良好な粒子径の細かい水分散体の製造方法およびその水分散体に関し、さらに詳しくは、紙、フィルム、金属、ガラス、木材、皮革などの各種基材に使用することのできるコーティング用、インキ用水分散体であり、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成する水分散体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ラジカル重合可能な不飽和単量体を重合してなる水分散体の重合方法として、乳化重合法は多岐にわたり利用されている。一般的な乳化重合法としては、水媒体中で界面活性剤を使用し、そのミセル中でラジカル重合を行う方法がある。この方法で作られた水分散体は分子量が高く、コーティング用樹脂として使用した場合には優れた物性をもつ塗膜が得られる。反面、高分子量であるため成膜性が悪く光沢のよい塗膜を得るのが難しい。また得られた水分散体の粘性はチキソ性が強く、スプレーコートには適しているがロールコートには適していない。
【0003】
一方、上記に示した乳化重合法に対して、水溶性の樹脂を高分子乳化剤として使用する乳化重合法が知られている。この方法で作られた水分散体は、水溶性樹脂が比較的多く存在するために成膜性がよく、ある程度の高光沢な塗膜が得られる。また、粘性もニュートニアンに近くロールコートに適しているという特徴がある。しかし、水溶性樹脂を比較的多く使用しているため耐水性が悪いという欠点を持っている。
【0004】
この問題を解決するために酸含有モノマーの使用量を減らすことが考えられるが、重合安定性、得られた水分散体の経時安定性が悪くなる。この方法に用いられる高分子乳化剤としては、さまざまな水溶性樹脂が利用されており、これを用いたラジカル重合による製造方法としては溶液重合、塊状重合、乳化重合などによる方法が知られている。
【0005】
このうち、溶液重合による方法は脱溶剤の必要性があり効率性、経済性がよくない。塊状重合による方法は得られた固形樹脂を水に溶解する工程が必要であり効率性に問題がある。
【0006】
一方、乳化重合による方法は、連続して次の重合を行うことができるため最も効率のよい方法である。例えば、特公平6−81765号公報には、反応性のない界面活性剤を用い、親水性の1次重合体を乳化重合で作成して、次に疎水性の2次重合体を乳化重合する方法が示されている。しかし、この方法は、反応性のない界面活性剤を使用するため、コーティング剤に使用した場合に、その塗膜に反応性のない界面活性剤が残り、耐水性、インキへの上塗り塗装性等に悪影響を及ぼした。さらに当該方法で得られた1次重合体の高分子乳化剤は、親水性モノマーと疎水性モノマーの分布が偏りやすく、また、当該記載の方法で2次重合体を重合した場合は、分散体が不安定となり凝集物が発生しやすくなった。しかも、得られる水分散体は高固形分で、粒子径の細かいものは得られず、塗装適性や光沢に関して不利であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、乳化重合により作成した高分子乳化剤を使用して乳化重合を行う水分散体の製造方法でありながら、重合時に凝集物の発生しない安定な水分散体の製造方法を提供することを課題とする。さらに、コーティング剤に使用した場合に、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成することのできる水分散体を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、5〜25重量%のカルボキシル基含有単量体と0.1〜20重量%の芳香族系単量体とを含むラジカル重合可能な不飽和単量体(X)を、ラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤を用いて乳化重合して1次重合体(a)とする第1の工程;前記1次重合体(a)を塩基性物質で中和して1次重合体(a’)とする第2の工程;および、20〜99重量%の芳香族系単量体を含むラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)を、前記1次重合体(a’)と、親水性溶剤との存在下で乳化重合して2次重合体(b)とする第3の工程を含み、かつ、前記界面活性剤の量が、前記不飽和単量体(X)全体100重量部に対して0.5〜5重量部であり、前記親水性溶剤の量が、水分散体(c)全体100重量部に対して0.1〜15重量部である水分散体(c)の製造方法に関する。なお、第1の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(X)に由来する部分と、第3の工程に用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)との重量比が9:1〜3:7である。
【0010】
また、本発明は、上記水分散体(c)の製造方法で製造してなる水分散体に関する。
【0011】
また、本発明は、水分散体(c)の粒子径が20〜200nmであることを特徴とする上記水分散体に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0013】
本発明では、目的とする水分散体(c)を製造するために2回(第1の工程および第3の工程)の乳化重合を行う。第1の工程は1次重合体(a)を重合する工程であり、5〜25重量%のカルボキシル基含有単量体と0.1〜20重量%の芳香族系単量体とを含むラジカル重合可能な不飽和単量体(X)を、ラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤を用いて乳化重合する。
【0014】
第1の工程においては、ラジカル重合可能な不飽和単量体(X)は、カルボキシル基含有単量体、芳香族系単量体、および、その他のラジカル重合可能な不飽和単量体からなる。
【0015】
本発明に使用するカルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などの重合性不飽和カルボン酸およびそれらの無水物などから1種または2種以上を選択することができる。
【0016】
カルボキシル基含有単量体は、第1の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(X)中の5〜25重量%であることが望ましい。カルボキシル基含有単量体が5重量%より少ないと、重合安定性が悪く凝集物が多量に発生して生産効率に悪影響を及ぼす。一方、25重量%より多いと、コーティング剤に使用した場合、塗膜の耐水性が悪くなる。
【0017】
本発明に使用する芳香族系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ビニルトルエン等から1種または2種以上を選択することができる。
【0018】
芳香族系単量体は、第1の工程においては、第1の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(X)中の0.1〜20重量%であることが望ましい。芳香族系不飽和単量体は屈折率が高いため、これを多く含む分散体を用いたコーティング剤の塗膜は高い光沢をもつ。そのため、高光沢を得るには1次重合体(a)についても芳香族系単量体をできるだけ多量に使用した方が有利である。しかしながら、芳香族系単量体を20重量%より多く使用すると、1次重合体(a)の疎水性が強くなり、第2の工程で塩基性物質で中和して1次重合体(a’)とする場合に、1次重合体(a)が水に充分に溶解せず、高分子乳化剤としての機能をはたすことができない。
【0019】
本発明に使用するその他のラジカル重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステル類;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;
アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基含有モノマー;
N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタアクリルアミドなどのN−置換アクリル、メタクリル系モノマー;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;並びに
アクリロニトリルなどから1種または2種以上を選択することができる。
【0020】
本発明においては、第1の工程でラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤を使用することを特徴としている。ラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤を用いることにより、1次重合体(a)に使用するカルボキシル基含有単量体を減らすことが可能となる。さらに得られた水分散体(c)をコーティング剤に使用した場合に、反応性のない界面活性剤のない塗膜を得ることができる。このことにより耐水性が良好で、インキ上に塗装してもにじみのない高光沢の塗膜を得ることができる。
【0021】
本発明に使用する界面活性剤は、分子中にラジカル重合性の不飽和基を1個以上有するものであり、例えばスルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば花王株式会社製ラテムルS−120,S−180P,S−180A,三洋化成株式会社製エレミノールJS−2等)やアルキルフェノールエーテル系(市販品としては、例えば第一工業製薬株式会社製アクアロンHS−10,RN−20等)がある。
【0022】
乳化重合に際しては、これらの1種または2種以上を混合して用いる。またラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤の使用量が少なく乳化が不充分である場合は、必要に応じて反応性のない界面活性剤を併用することも可能である。しかし、前述したように塗膜の耐水性等の悪影響が考えられるため極力さけた方が好ましい。反応性のない界面活性剤としては、通常の乳化重合に使用されるアニオン系、ノニオン系の界面活性剤を使用することができる。
【0023】
ラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤は、第1の工程で用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(X)100重量部に対して0.5〜5重量部使用する。0.5重量部より少ない場合では、重合時のエマルジョンの安定性が悪く凝集が起こりやすい。また5重量部より多い場合では重合時の安定性はよくなるが、樹脂中に親水性部分が多くなるため、その悪影響として塗膜の耐水性が悪くなる。
【0024】
本発明の第2の工程としては、前記1次重合体(a)を塩基性物質で中和して1次重合体(a’)とする。この操作により1次重合体(a)は高分子乳化剤としての機能を十分発揮できるようになる。
【0025】
中和する際の塩基性物質としては、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン類;2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類;モルホリン等の塩基で中和することができる。
【0026】
本発明では、中和とは、カルボキシル基含有単量体のカルボキシル基と、塩基性物質の塩基とを反応させることを意味し、必ずしも、中和後のpHが7付近である必要はない。従って、中和の程度は特に制限はなく、1次重合体(a’)が高分子乳化剤として機能する範囲で行うことができる。
【0027】
本発明の第3の工程では、20〜99重量%の芳香族系単量体を含むラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)を、前記1次重合体(a’)と親水性溶剤との存在下で乳化重合して2次重合体(b)を作成する。
【0028】
第3の工程においては、ラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)は、芳香族系単量体、および、芳香族系単量体以外のラジカル重合可能な不飽和単量体からなる。
【0029】
第3の工程で用いる芳香族系単量体は、第1の工程で説明した芳香族系単量体から1種または2種以上を選択することができる。第1の工程で用いる芳香族系単量体と、第3の工程で用いる芳香族単量体とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
第3の工程では、芳香族系単量体は、第3の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)中の20〜99重量%であることが望ましい。前述したように芳香族系不飽和単量体を多く含む化合物を用いたコーティング剤の塗膜は高い光沢をもつため、2次重合体(b)においても20重量%以上の芳香族系不飽和単量体が必要である。
【0031】
芳香族系単量体以外のラジカル重合可能な不飽和単量体としては、第1の工程で説明したカルボキシル基含有単量体、およびその他のラジカル重合可能な不飽和単量体の中から1種または2種以上から選択することができる。第1の工程で用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(X)と、第3の工程で用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)とは、同じであっても異なっていてもよい。カルボキシル基含有単量体は、第3の工程では、必ずしも必要ではない。
【0032】
本発明は、この第3の工程で親水性溶剤の存在下で乳化重合を行い、2次重合体(b)を作成することを特徴とする。この工程における2次重合体(b)の重合安定性は、塩基性物質により中和された1次重合体(a’)の高分子乳化剤としての性能に大きく依存する。1次重合体(a)にはその水溶化のためにカルボキシル基含有単量体を使用しているが、本発明では耐水性の良好な水分散体とするためその使用量をできるだけ少なくしている。これにより耐水性は向上するが、1次重合体(a)を中和して水溶化した1次重合体(a’)の水溶性が充分ではない。1次重合体(a’)の水溶性が充分でないまま、第3の工程で2次重合体(b)を作成すると、凝集物が多量に発生する。
【0033】
この場合、1次重合体の量をある程度多くすることで凝集物の量を減らすことはできるが、高分子乳化剤とほとんど同じ物性の樹脂溶液が得られるだけとなる。このような不具合を解消するため第3の工程で親水性溶剤を使用しているが、この親水性溶剤の添加で1次重合体(a’)の溶剤全体に対する溶解性が高まり、その結果、第3の工程で行う乳化重合の安定化が図れ、目的とする水分散体(c)を得ることができる。
【0034】
本発明に使用する親水性溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ダイアセトンアロコールなどのケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類から1種または2種以上を選択することができる。
【0035】
親水性溶剤の使用量は水分散体(c)100重量部に対して0.1〜15重量部であることが好ましい。0.1重量部より少ない場合は、1次重合体(a’)を溶解する効果が少なく2次重合体の乳化重合時に凝集物が発生する。また15重量部より多い場合は、1次重合体(a’)は充分に溶解するが、2次重合体の一部も溶解するようになり2次重合体の乳化重合を行うことができなくなる。結果として凝集物が多量に発生、高粘度、大粒子径の重合体しか得られない。
【0036】
親水性溶剤は、1次重合体(a)を塩基性物質で中和する前、あるいは中和した後の1次重合体(a’)に添加するのが好ましいが、場合によっては1次重合体(a)を作成する第1の工程で添加していてもかまわない。
【0037】
本発明では、第3の工程において、第1の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(X)に由来する部分と、第3の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体の重量比(Y)が9:1〜3:7であることが好ましい。重量比において、9:1より第1の工程の不飽和単量体(X)に由来する部分の量が多くなると得られる水分散体(c)の中の低分子量の親水性の樹脂が増えることとなり、コーティング剤に使用した際の塗膜物性、特に耐水性や強度などに悪影響がでる。また3:7より第1の工程の不飽和単量体(X)に由来する部分の量が少なくなると2次分散体(b)を分散させる能力が及ばず、乳化重合時の重合安定性が悪くなる。
【0038】
1次重合体(a)および2次重合体(b)の乳化重合時に使用する開始剤としては、アンモニウムパーオキサイド、ソディウムパーオキサイド等の無機系過酸化物重合開始剤や水溶性アゾ系開始剤を使用する。場合によればベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性の開始剤を併用することもできる。これら開始剤は単独で使用することもできるが、ロンガリット等の還元剤との併用によるレドックス型で使用してもよい。
【0039】
また乳化重合中に、硫酸第二銅、塩化第二銅等の銅イオンや、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等の鉄イオンなどの遷移金属イオンを重合系に10−7〜10−5モル/リットルの範囲で添加することができる。
【0040】
また分子量調整のために連鎖移動剤として、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、ステアリルメルカプタン等のメルカプタン類、α−メチルスチレンダイマーなどを使用することができる。連鎖移動剤は、特に1次重合体(a)の乳化重合での使用が重要であり、1次重合体の分子量によりその高分子乳化剤としての性能も左右される。1次重合体(a)の重量平均分子量については5000〜50000が適当であり、この調整には連鎖移動剤を用いるのが最も有効である。さらに水分散体(c)の分子量を調整するために2次重合体(b)の乳化重合時にも使用することができる。
【0041】
さらに緩衝剤として酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が、また保護コロイドとしてのポリビニルアルコール、水溶性セルロース誘導体等が使用できる。
【0042】
本発明で製造された水分散体(c)の粒子径は、20〜200nmであることが好ましい。水分散体(c)の粒子径は、コーティング剤として用いた場合の成膜性に大きな影響を与える。粒子径が200nmより大きい場合であると得られた塗膜の光沢が低く、また塗膜の割れなどの塗膜欠陥にもつながる。また、通常の手法では、粒子径が20nmより小さい水分散体は得られにくい。なお、粒子径はレーザー光散乱法で測定した。
【0043】
本発明で製造された水分散体は、各種コーティング剤に使用することができる。このコーティング剤は保存安定性、成膜性の良好であり、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成する。コーティング剤の具体例としては紙、フィルム、金属、ガラス、木材、皮革などの各種基材に使用することのできる塗料やインキが挙げられる。またこれらのコーティング剤には顔料、染料等の着色剤やフィラー、微粉末シリカ等のチキソ性調整剤、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、乳化剤、消泡剤、レベリング剤、滑り剤、粘着性付与剤、防腐剤、防黴剤、造膜助剤としての有機溶剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、例中「部」、「%」はそれぞれ「重量部」、「重量%」を示す。
(実施例1)
温度計、滴下ロート、還流冷却管を備え窒素ガスで置換した反応容器に、表1に示す反応釜量のイオン交換水を仕込んだ。表1の第1工程滴下分はあらかじめ混合してプレエマルジョンとしておいた。内温を80℃に昇温した後、滴下を開始した。内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンを約45g/10分の割合で滴下し、さらにその温度で1時間反応した。次に第2工程の25%アンモニア水とiso−プロピルアルコールを添加して10分間撹拌を続けた。次に第3工程としてまず開始剤を添加し、同時にモノマーを約25g/10分の割合で滴下し、さらに2時間反応させた。冷却後、固形分40.5%、粘度370cps、pH8.2の水分散体を得た。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例2〜10)
表2に示す組成を実施例1と同様の方法で重合して、それぞれの水分散体を得た。
【0047】
【表2】
【0048】
(比較例1〜9)
表3に示す組成を実施例1と同様の方法で重合して、それぞれの水分散体を得た。
(比較例10)
高分子乳化剤を用いない、乳化重合による水分散体の製造例を次に示す。温度計、滴下ロート、還流冷却管を備え窒素ガスで置換した反応容器に、イオン交換水300部を仕込んだ。スチレン285.1部、メタクリル酸メチル189部、アクリル酸ブチル101.9部、メタクリル酸12部、ラテムルS−180(反応性界面活性剤)36部、過硫酸アンモニウム3部、イオン交換水253.4部をあらかじめ混合してプレエマルジョンとしておいた。内温を80℃に昇温した後、滴下を開始した。内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンを約75g/10分の割合で滴下し、さらにその温度で2時間反応した。冷却後、25%アンモニア水を7.6部添加して、固形分50.5%、粘度1750cps、pH8.7の水分散体を得た。
【0049】
【表3】
【0050】
次に得られた実施例1〜10および比較例1〜10の水分散体の物性を評価した。評価試験方法は下記に示した方法で行った。各試験で得られた試料の物性結果を表4に示した。
【0051】
水分散体の評価
(1)重合安定性:反応終了後の反応容器への樹脂の付着量および、濾布で濾過後の凝集物の量を目視で評価した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0052】
◎:良好である。
【0053】
○:実用上問題のないレベルである。
【0054】
△:若干問題のあるレベルである。
【0055】
×:不良である。
【0056】
(2)保存安定性:密閉したガラス容器に水分散体をいれて40℃で1カ月保存し、粘度の変化率を測定した。さらに、ガラス容器の底の凝集物について目視で評価した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0057】
◎:粘度変化率 ≦±10%、凝集物は認められない。
【0058】
○:粘度変化率 ≦±10%、凝集物がわずかに認められる。
【0059】
△:粘度変化率 ±10%〜±30%、もしくは凝集物が一部認められる。
【0060】
×:粘度変化率 ≧±30%、もしくはかなりの沈降が認められる。
【0061】
(3)耐水性:得られた水分散体(c)100部にブチルセロソルブ5部を添加し試験用の分散体溶液とした。顔料濃度14%、樹脂/顔料の固形分比=1/1の水性フレキソインキを#4バーコーターでコート紙に塗工し80℃のオーブンで1分間乾燥した。この上に、試験用の分散溶液を#6バーコーターで塗工し、120℃のオーブンで3分間乾燥させ評価試料とした。試料を学振型テスターにセットして、水で濡らしたカナキン3号布で500g×100回表面を往復させ、表面状態を目視で観察した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0062】
◎:100回のラビングでも塗膜に全く変化がない。
【0063】
○:100回のラビングで塗膜にわずかな変化が見られる。
【0064】
△:100回のラビングで塗膜にかなりの変化が見られる。
【0065】
×:100回のラビングを行わないうちに塗膜がなくなってしまう。
【0066】
(4)光沢:上記で作成した評価試料を用いて、60度の鏡面反射率をグロスメーターで測定した。
【0067】
【表4】
【0068】
比較例1〜4は、第1の工程において、それぞれ、カルボキシル基含有単量体4重量%、同30重量%、芳香族系単量体25重量%、反応性界面活性剤0.3重量%を用いた例であるが、いずれも、重合安定性および保存安定性に劣った。
【0069】
また、比較例5および6は、第1の工程において、それぞれ、反応性界面活性剤7重量%、非反応性界面活性剤を用いた例であるが、いずれも耐水性が著しく劣った。
【0070】
また、比較例7は、親水性溶剤を0.08%用いた例であり、水分散体(c)の粒子径は好ましい範囲ではあったが、重合安定性が劣った。一方、親水性溶剤を20%用いた比較例8は、水分散体(c)の粒子径が大きく、重合安定性及び保存安定性が劣るばかりでなく、ロールコート適性も劣った。
【0071】
また、比較例9は、第3の工程において、芳香族系単量体15重量%を用いた例であるが、光沢値が劣った。
【0072】
これに対して、本発明の水分散体である実施例1〜10は、いずれも、重合安定性、保存安定性、耐水性、光沢値のすべてを満足するものであった。
【発明の効果】
本発明によれば重合安定性、保存安定性、成膜性の良好な粒子径の細かい水分散体を製造することができ、その水分散体を紙、フィルム、金属、ガラス、木材、皮革などの各種基材に使用することのできるコーティング用、インキ用塗装剤に用いると、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成することができる。
Claims (3)
- 5〜25重量%のカルボキシル基含有単量体と0.1〜20重量%の芳香族系単量体とを含むラジカル重合可能な不飽和単量体(X)を、ラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤を用いて乳化重合して1次重合体(a)とする第1の工程;前記1次重合体(a)を塩基性物質で中和して1次重合体(a’)とする第2の工程;および、20〜99重量%の芳香族系単量体を含むラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)を、前記1次重合体(a’)と、親水性溶剤との存在下で乳化重合して2次重合体(b)とする第3の工程を含み、かつ、前記界面活性剤の量が、前記不飽和単量体(X)全体100重量部に対して0.5〜5重量部であり、前記親水性溶剤の量が、水分散体(c)全体100重量部に対して0.1〜15重量部である水分散体(c)の製造方法(但し、第1の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(X)に由来する部分と、第3の工程に用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)との重量比が9:1〜3:7である)。
- 請求項1記載の水分散体(c)の製造方法で製造してなる水分散体。
- 水分散体(c)の粒子径が20〜200nmであることを特徴とする請求項2記載の水分散体。
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