JP4132208B2 - 注射器用容器の製造装置及び注射器用容器の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、容器本体に収容される液体を注出口から外部に押し出せるようにされた注射器用容器の製造装置及び注射器用容器の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
注射器は、一端に薬液充填用の開口を有し、他端に体内への注出口を有する筒状のバレルと、該バレルの中央孔内で該中央孔内周面に対し液密に且つ軸方向摺動可能に収容される弾性のシール部材と、一端が該シール部材に連結され且つ他端が前記バレルから外方へ突出するプランジャロッドとを備え、該プランジャロッドにより前記シール部材を摺動させることによって、バレル内に充填された薬液を注出口から押し出せるようになっている。
【0003】
ところで、前記シール部材は、前述のように、バレル中央孔内周面に対し液密性を維持しつつ、バレル中央孔内で摺動させられる必要がある。従来の注射器は、バレル中央孔内周面全面にシリコン液等の潤滑剤を塗布してシリコン膜を形成し、これにより、シール部材の摺動性を確保していた。
【0004】
前記シリコン液は体内へ注入されても殆ど害のないものではあるが、その注入量は少ない方がより好ましいところ、前記従来の構成によると、バレル内に充填される薬液が前記シリコン膜と常時接触することとなり、薬液内にシリコンが溶け出す可能性が高いものであった。特に、予め薬液が充填された状態で出荷される薬液充填済み注射器においては、長期間に亘って、シリコン膜と薬液とが接触することとなるので、その可能性はより高くなるものであった。さらに、バレルがプラスチック製である場合には、ガラス製バレルと異なり、塗布したシリコン液を焼き付けることができないため、薬液内にシリコンが溶け出す可能性が高くなるものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたもので、筒状の容器本体と、該容器本体の中央孔内に軸方向摺動可能且つ液密に保持されるシール部材とを備え、該シール部材の摺動によって容器本体に充填される液体を注出し得るようにされた注射器用容器において、前記シール部材の液密性及び摺動性を維持しつつ、前記液体若しくは該液体生成用薬物への潤滑剤の混入を防止し得る注射器用容器の製造装置及び注射器用容器の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、中央孔を有する筒状をなし、一端に開口を、他端に注出口を備えた容器本体と、前記開口から中央孔内に所定距離進入した位置において、液密に且つ軸方向摺動可能に保持されたシール部材とを備え、該シール部材は、軸方向に離間した位置で前記容器本体の中央孔内周面に当接する少なくとも2箇所以上の大径部及び各大径部間に位置し前記中央孔内周面との間に間隙を形成する凹部を有しており、前記容器本体中央孔内周面とシール部材大径部外周面との間には潤滑剤の薄膜が存在し、前記間隙には潤滑剤が満たされてなる注射器用容器の製造装置であって、前記容器本体を保持する容器本体保持部と、前記シール部材の外径とほぼ同じ内径を有して該シール部材を内部に保持し得る貫通孔を備え、該貫通孔の一端側は前記容器本体の開口から中央孔内に所定距離突入可能とされた小筒部で形成され、さらに、前記貫通孔におけるシール部材の保持位置には該貫通孔内周面及び外部を連通する潤滑剤導入用の透孔が形成されたシール部材係止部と、前記シール部材係止部の貫通孔内に保持されたシール部材を該シール部材係止部の小筒部側開口から押し出す押出部とを備え、前記透孔を介して大径部に潤滑剤が塗布され且つ凹部に潤滑剤が満たされたシール部材を、前記シール部材係止部の小筒部を容器本体開口内に突入させた状態で、前記押出部によって容器本体中央孔内に打栓するように構成された注射器用容器の製造装置を提供するものである。
【0007】
前記大径部のうち最も容器本体他端側に位置する大径部及び容器本体中央孔内周面間には潤滑剤の薄膜が存在しないものとすることができる。さらに、前記大径部のうち最も容器本体他端側に位置する大径部の直径が他の大径部の直径より小さく形成されるものとすることができる。
【0008】
また、本発明は、前記注射器用容器に対し、一端が前記シール部材に接続され、他端が前記容器本体の開口から外方へ延在したプランジャロッドを備えた注射器を提供するものである。そして、前記注射器は、前記容器本体の注出口及びシール部材間に薬液が充填された薬液充填済み注射器とすることができる。
【0010】
加えて、本発明は、中央孔を有する筒状をなし、一端に開口を、他端に注出口を備えた容器本体と、前記開口から中央孔内に所定距離進入した位置において、液密に且つ軸方向摺動可能に保持されたシール部材とを備え、該シール部材は、軸方向に離間した位置で前記容器本体の中央孔内周面に当接する少なくとも2箇所以上の大径部及び各大径部間に位置し前記中央孔内周面との間に間隙を形成する凹部を有しており、前記容器本体中央孔内周面とシール部材大径部外周面との間には潤滑剤の薄膜が存在し、前記間隙には潤滑剤が満たされてなる注射器用容器の製造方法であって、前記容器本体を保持するステップと、
前記シール部材の外径とほぼ同じ内径を有する貫通孔の内部に該シール部材を保持するステップと、前記貫通孔の一端側に、前記容器本体の開口から中央孔内に所定距離突入可能に形成された小筒部を、該容器本体の開口内に突入するステップと、前記貫通孔におけるシール部材の保持位置に形成されて且つ該貫通孔内周面及び外部を連通する潤滑剤導入用の透孔を介して、大径部に潤滑剤を塗布し且つ凹部に潤滑剤を満たすステップと、前記小筒部を容器本体の開口内に突入させた状態で、保持されたシール部材を貫通孔の小筒部側開口から押し出して、容器本体の中央孔内に打栓するステップとを備える注射器用容器の製造方法を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
実施の形態1
以下に、本発明の好ましい第1の実施の形態である注射器用シリンジにつき、添付図面を参照しつつ説明する。図1は本実施の形態に係るシリンジの縦断面図、図2は図1におけるA部の拡大図である。
【0012】
本実施の形態に係るシリンジは、図1に示すように、一端に開口11を有し、他端に注出口12を有する筒状のバレル10と、前記バレルの開口11から所定距離中央孔内に入った位置において、液密に且つ軸方向摺動可能に保持される円柱状のシール部材20とを有しており、該シール部材を前記注出口12側へ摺動させることにより、バレルの注出口12及びシール部材20間に収容される液体を前記注出口12から外部へ注出し得るようになっている。
【0013】
前記バレル10は、図に示すように、好ましくは、外周面の一端部から径方向外方へ延びたフランジ部13を備えることができ、また、他端に注射針を嵌着できるようになっている。さらに、図に示すように、一端が前記シール部材の一端面に連結され、他端がバレルの開口11から外方へ延びるプランジャロッド30を備えることができる。なお、図中、40は予め薬液をバレル内に充填する場合に備えられる,該薬液シール用のキャップ、41は前記薬液である。
【0014】
前記シール部材20は、図2に示すように、軸方向に離間して設けられた少なくとも2箇所の大径部21と、各大径部21間に位置する凹部22とを有している。該大径部21は前記バレルの中央孔14内径より大径とされ、径方向内方へ圧縮変形された状態で該バレル中央孔14内周面と当接しており、これにより、該シール部材の液密性が保たれている。一方、前記凹部22はバレル中央孔14内径より小径とされており、従って、シール部材の凹部22とバレル中央孔14内周面との間には間隙が形成されている。該凹部22は、外周面全周に亘る環状に形成しても良いし、又は周方向に所定間隔を存して形成することもできるが、摺動性や製造容易性を考慮すると、環状であることが好ましい。なお、図2においては、潤滑剤薄膜90aの有無を明らかにする為に、シール部材大径部21の直径をバレル中央孔12内径よりも小さく表しているが、大径部21は、前述の通り、径方向内方へ圧縮された状態で潤滑剤薄膜90aを挟んでバレル中央孔14内周面に当接している。
【0015】
このような本実施の形態においては、バレルの中央孔14内周面とシール部材大径部21外周面との間にのみ潤滑剤の薄膜90aが存在し、さらに、シール部材の凹部22及びバレル中央孔14内周面により画される間隙には潤滑剤90が満たされた状態となっており、これにより、容器に収容される薬液と潤滑剤との接触を防止しつつ、シール部材20の摺動性を向上させることが可能となっている。
【0016】
即ち、バレル中央孔の内周面全域に潤滑剤を塗布した後にシール部材を打栓してなる従来のシリンジによれば、収容する薬液と前記潤滑剤とが常時接触することとなり、これにより、該薬液中に潤滑剤が溶け出す可能性が高くなる(特に、バレルが合成樹脂製である場合、潤滑剤の焼き付けを行うことができない為、その可能性はより高くなる。)。
【0017】
これに対し、本実施の形態に係るシリンジ1においては、バレル中央孔14内周面のうち前記シール部材20が位置する部分以外には潤滑剤が塗布されておらず、該シール部材大径部との当接部分にのみ潤滑剤の薄膜が存在しているので、潤滑剤の薬液中への溶け出しを有効に防止しつつ、該シール部材の摺動性を向上させることができる。
【0018】
次に、本実施の形態に係るシリンジ1を製造するための装置について、図3を参照しつつ説明する。図3は該製造装置の概略図である。該製造装置100は、図3に示すように、バレル保持部50と、シール部材係止部60と、押出部70とを備えている。
【0019】
前記バレル保持部50は、垂直に立設された主ロッド80に水平に支持された第1支持板51と、該第1支持板51に支持された保持部材52とを備えている。なお、前記第1支持板51は、図示しない架台に支持させることもできる。
【0020】
前記保持部材52は、前記主ロッド80の軸方向と平行な貫通孔52aを有する筒状部と、該筒状部から水平に延びるフランジ部52bとを有している。前記バレル10は該貫通孔52a内に挿入され、バレル中央孔14が主ロッド80と平行であり且つバレル一端開口11が上方を向くように、保持される。また、前記バレル保持部材52はフランジ部52bにより第1支持板51に保持されている。
【0021】
前記シール部材係止部60は、前記バレル保持部50より上方側において、前記主ロッド80上を往復運動する主ピストン61と、該主ピストン61に水平支持される第2支持板62と、該第2支持板に垂直支持される中間ロッド63と、該中間ロッドによって、前記保持部材52より上方且つ第2支持板62より下方位置に支持される係止部材64とを備えている。
【0022】
前記係止部材64は、前記保持部材52に保持されるバレルの中央孔14と同軸となる貫通孔64eを有し、下端側には胴部64aから段部64cを伴って外径が小さくなる小筒部64bを有している。該小筒部64bは、外径が前記バレル中央孔14の内径よりも小径とされており、前記主ピストン61を下方へ移動させることによって、バレル中央孔14内に突入可能とされている。
【0023】
前記シール部材係止部材の貫通孔64eは、好ましくは、下方に向かって内径が小さくなるテーパ状とすることができ、シール部材20を所定の係止位置において係止し得るようになっている。さらに、前記係止部材の胴部64aには、係止位置における貫通孔内周面と外周面とを連通する透孔64dが形成されており、該透孔64dを介して外部から供給される潤滑剤をシール部材大径部21外周面に塗布すると共に、シール部材凹部22内に充填し得るようになっている。
【0024】
前記押圧部70は、前記シール部材保持部60より上方に位置するように前記第2支持板62に支持される副ロッド71と、該副ロッド上を往復運動し得るようにされた押圧部材72とを備えている。
【0025】
前記副ロッド71は、前記係止部材の貫通孔64eと同軸上、即ち、前記保持部材52に保持されるバレル中央孔14と同軸とされている。また、前記押圧部材72の下端部外径は、前記シール部材20の外径より小さくされており、該押圧部材72を下方へ移動させることによって、係止部材64に保持されたシール部材20を、該保持部材64の小筒部64b開口から下方へ押し出せるようになっている。
【0026】
以下に、このように構成された製造装置の動作説明を図4を参照しつつ行う。図4は前記製造装置を用いてシリンジを製造する際の工程図である。まず、前記係止部材64の係止位置にシール部材20を位置させ、透孔64dを介して該シール部材の大径部21外周面に潤滑剤を塗布すると共に、凹部22内に潤滑剤を充填させる(図4(a))。
【0027】
その後、前記主ピストン61を下方に摺動させて、シール部材係止部60全体を下方に移動させ、前記係止部材の小筒部64bを、バレル中央孔14内に突入させる。そして、押圧部材72によって、シール部材20が前記小筒部の先端に位置するようにする(図4(b))。
【0028】
次に、押圧部材72をこの状態に位置させたまま、前記シール部材係止部60を上方へ移動させ、シール部材20をバレル中央孔14内に打栓する(図4(c))。
【0029】
そして、前記主ピストン61を上方へ摺動させて、押圧部材72を上方へ移動させ(図4(d))、シール部材20が打栓されたバレル10を取り出す。
【0030】
このような製造装置によれば、バレル開口11から所定距離進入した位置にシール部材20が打栓されてなるシリンジであって、バレル中央孔内周面のうち、シール部材が位置しない部分には潤滑剤が塗布されておらず、バレル中央孔14内周面とシール部材大径部21外周面との間にのみ潤滑剤の薄膜90aが存在し、さらに、バレル中央孔14内周面とシール部材凹部22とにより画される間隙には潤滑剤90が満たされてなるシリンジを効率良く製造することができる。また、該装置によれば、例えば、係止部材の小筒部64bの長さを変更することにより、シール部材打栓位置を容易に変更することができる。
【0031】
なお、本実施の形態における製造装置においては、シール部材係止部60の下方終点位置を、係止部材の段部64cとバレル10上端面との接触によって行うようにしているが、前記製造装置は斯かる構成に限られるものでは無く、第1支持板51にスペーサを設置する等、種々の方法を適用できる。
【0032】
実施の形態2
次に、本発明の好ましい第2の実施の形態につき、図5を参照しつつ説明する。なお、図中、前記実施の形態1におけると同一又は相当部材には、同一符号を付してその説明を省略する。
【0033】
本実施の形態に係る注射器用シリンジは、図5に示すように、前記実施の形態1において、シリンジ大径部のうち,最も先端側に位置する大径部21a外周面及びバレル中央孔14内周面の間には潤滑剤の薄膜90aが存在しないようにしたものである。好ましくは、前記大径部21aの幅を、他の大径部21の幅より狭くすることができ、これにより、該大径部21a外周面及びバレル中央孔内周面間の摩擦抵抗による,シール部材の摺動性悪化を防止することができる。
【0034】
なお、図5においては、大径部21aの直径を他の大径部よりも大きく表しているが、これは潤滑剤の薄膜90aの有無を明らかにするためである。実際には、前記大径部21aの直径をシリンジ内径より僅かに大きくし、他の大径部の直径を前記大径部21aの直径より大きくするのが好ましい。このように構成することにより、潤滑剤が塗布されていない大径部21aに起因するシール部材の摺動性悪化を有効に防止することができる。
【0035】
このような本実施の形態においては、シール部材20の液密性を維持し且つ摺動性をある程度維持しながら、前記実施の形態1よりも、さらに、潤滑剤の薬液中への混入を有効に防止することが可能になる。即ち、本実施の形態においては、図5に示すように、バレル内に収容される薬液と潤滑剤とは、前記大径部21aによって完全に遮断されることとなるので、潤滑剤が薬液中に溶け出すことはない。
【0036】
なお、本実施の形態に係る注射器用シリンジは、前記係止部材64へのシール部材20の係止位置を制御することにより、前記実施の形態1において説明した製造装置を用いて製造することができる。
【0037】
【実施例】
以下に、前記各実施の形態に係る注射器を用いて行った実験結果を示す。
【0038】
実施例1
実施例1として、振とう又はオートクレーブ処理によって、充填液中に脱落するシリコン異物の測定を行った。実験方法は下記の通りである。
【0039】
まず、シリコン以外の脱落異物による影響を排除するため、シリコンコーティングを施していないシリンジを用いて、脱落異物数を測定した。即ち、▲1▼シリコンコーティングを施していないシリンジを上水により流水した後、さらに、無塵蒸留水によって流水洗浄を行う。▲2▼乾熱減菌後、クリーンベンチ内で放冷する。▲3▼放冷後、シリンジ内に無塵蒸留水を充填し、シール部材を打栓して密封する。▲4▼このように形成した注射器を1分間激しく振とうさせ、シリンジ内に充填した無塵蒸留水10ml中に含まれる異物数を測定した。▲5▼斯かる測定12回分の平均値を基準値とした。
【0040】
次に、前記実施の形態1及び2に係る注射器を用いて、シリコン脱落異物に関する実験を行った。即ち、▲1▼シリコンコーティングを施していないシリンジを上水により流水した後、さらに、無塵蒸留水によって流水洗浄を行う。▲2▼乾熱減菌後、クリーンベンチ内で放冷する。▲3▼放冷後、シリンジ内に無塵蒸留水を充填し、外周面にシリコンが塗布されてなるシール部材を打栓して、前記実施の形態1及び2に係る注射器シール部材を形成する。▲4▼-1 振とうによる脱落異物数に関しては、このようにして形成した注射器を、1分間、激しく震とうさせた後、前記充填された無塵蒸留水に含まれる10ml当たりの異物数を測定した。▲4▼-2 オートクレーブによる脱落異物数に関しては、前述のように形成した注射器に、121℃30分のオートクレーブ処理を施した後、前記充填させた無塵蒸留水10ml当たりに存在する異物数を測定した。▲5▼前記▲4▼-1及び▲4▼-2による測定12回分の平均値を算出し、該平均値から前記基準値を減じた値をシリコン脱落異物数とした。前記実施の形態1及び2に係る注射器の値を、それぞれ、表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
さらに、比較例として、下記条件A〜Eに従ってシリンジ内壁にシリコンコーティングを施したガラス製シリンジを用い、本実施例と同様の条件で、シリコン脱落異物数を測定,算出した。該比較例におけるシリコン脱落異物数を表1に併せて示す。
【0043】
条件A:濃度1%のシリコン溶液、300℃×2時間の焼き付け、
条件B:濃度3%のシリコン溶液、300℃×2時間の焼き付け、
条件C:濃度3%のシリコン溶液、380℃×3時間の焼き付け、
条件D:濃度1%のシリコン溶液、380℃×2時間の焼き付け、
条件E:濃度1%のシリコン溶液、380℃×3時間の焼き付け。
【0044】
この表1から明らかなように、比較例においては、シリコン膜を焼き付けてなるガラス製シリンジを用いているにも拘わらず、相当数のシリコン異物が脱落している。特に、オートクレーブ処理後に、シリコン脱落異物が増加している。なお、焼き付けを行うことのできないプラスチック製シリンジを用いた場合には、さらに多量のシリコンが脱落するものと考えられる。
【0045】
これに対し、前記実施の形態1及び2に係るものにおいては、殆どシリコン異物が脱落してないことが確認された。これは、充填される無塵蒸留水が接触する部分には、シリコン膜が存在しないからであると考えられる。
【0046】
実施例2
実施例2として、シール部材の摺動性に関する実験を行った。摺動性を判断する基準として、シール部材を摺動させる際に必要な荷重(初期摺動抵抗値)及び充填液を注出していく際に必要となる最大荷重(最大摺動抵抗値)を測定した。本実施例においては、樹脂製シリンジ内に、直径15mm,高さ10mmで、大径部を3つ備えたシール部材を打栓してなる,前記実施の形態1に係る注射器を用い、5mlの無塵蒸留水をシリンジ内に充填して、前記各荷重を測定した。シール部材に塗布したシリコン量毎の,オートクレーブ前及び後における測定結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
また、比較例として、内壁全面にシリコンが塗布されてなる樹脂製シリンジを備えた市販ディスポーザブルシリンジF〜Jを用い、本実施例2におけると同様の条件で、初期摺動抵抗値を測定した。この測定結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
この表2及び表3から明らかなように、本発明に係る注射器は、シリンジ内壁全面にシリコンを塗布されてなる従来のディスポーザブルシリンジと同程度のシール部材摺動性を有していることが確認された。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、容器本体と、該容器本体内に打栓されるシール部材とを備え、該シール部材が、軸方向に離間した位置で前記容器本体内周面と当接する2以上の大径部及び該大径部間に位置し前記容器本体内周面との間に間隙を形成する凹部を有する注射器用容器において、容器本体中央孔内周面のうちシール部材打栓位置以外の部分には潤滑剤が存在せず、容器本体内周面及びシール部材大径部間の接触部分にのみ潤滑剤の薄膜を存在させ、且つ、容器本体内周面及びシール部材凹部との間の間隙には潤滑剤が満たされるようにしたので、容器本体内に収容される液体と潤滑剤との接触を有効に防止して、これにより、前記液体への潤滑剤の混入を防ぎつつ、前記シール部材の液密性及び摺動性を維持することができる。
【0052】
また、前記大径部のうち最も先端側に位置する大径部と前記容器本体内周面との間には、前記潤滑剤の薄膜を存在させないようにすれば、潤滑剤の液体への混入を、さらに有効に防止することができる。
【0053】
前記注射器用容器は、従来の注射器用容器に比して、薬液充填済み注射器として用いる場合に、特に効果を奏する。
【0054】
また、本発明に係る注射器用容器の製造装置によれば、潤滑剤塗布装置の先端を容器本体中央孔内に突入させ、この状態で、大径部表面に潤滑剤が塗布され且つ凹部内に潤滑剤が充填されたシール部材を、前記中央孔内に打栓し得るように構成したので、前記容器本体中央孔及びシール部材大径部間にのみ潤滑剤の薄膜が存在し、さらに、前記間隙には潤滑剤が満たされてなる注射器用容器を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図l】図1は、本発明の好ましい第1の実施の形態に係るシリンジの縦断面図である。
【図2】図2は、図1におけるA部拡大図である。
【図3】図3は、図1に示すシリンジの製造装置を概略的に示した模式図である。
【図4】図4は、図1に示すシリンジの製造工程図である。
【図5】図5は、本発明の好ましい第2の実施の形態に係るシリンジの,シール部材部分における縦断面図である。
【符号の説明】
1 シリンジ
10 バレル
20 シール部材
21 大径部
22 凹部
50 シリンジ保持部
60 シール部材係止部
70 押出部
90 潤滑剤
Claims (2)
- 中央孔を有する筒状をなし、一端に開口を、他端に注出口を備えた容器本体と、前記開口から中央孔内に所定距離進入した位置において、液密に且つ軸方向摺動可能に保持されたシール部材とを備え、該シール部材は、軸方向に離間した位置で前記容器本体の中央孔内周面に当接する少なくとも2箇所以上の大径部及び各大径部間に位置し前記中央孔内周面との間に間隙を形成する凹部を有しており、前記容器本体中央孔内周面とシール部材大径部外周面との間には潤滑剤の薄膜が存在し、前記間隙には潤滑剤が満たされてなる注射器用容器の製造装置であって、
前記容器本体を保持する容器本体保持部と、
前記シール部材の外径とほぼ同じ内径を有して該シール部材を内部に保持し得る貫通孔を備え、該貫通孔の一端側は前記容器本体の開口から中央孔内に所定距離突入可能とされた小筒部で形成され、さらに、前記貫通孔におけるシール部材の保持位置には該貫通孔内周面及び外部を連通する潤滑剤導入用の透孔が形成されたシール部材係止部と、
前記シール部材係止部の貫通孔内に保持されたシール部材を該シール部材係止部の小筒部側開口から押し出す押出部とを備え、
前記透孔を介して大径部に潤滑剤が塗布され且つ凹部に潤滑剤が満たされたシール部材を、前記シール部材係止部の小筒部を容器本体開口内に突入させた状態で、前記押出部によって容器本体中央孔内に打栓するように構成されたことを特徴とする注射器用容器の製造装置。 - 中央孔を有する筒状をなし、一端に開口を、他端に注出口を備えた容器本体と、前記開口から中央孔内に所定距離進入した位置において、液密に且つ軸方向摺動可能に保持されたシール部材とを備え、該シール部材は、軸方向に離間した位置で前記容器本体の中央孔内周面に当接する少なくとも2箇所以上の大径部及び各大径部間に位置し前記中央孔内周面との間に間隙を形成する凹部を有しており、前記容器本体中央孔内周面とシール部材大径部外周面との間には潤滑剤の薄膜が存在し、前記間隙には潤滑剤が満たされてなる注射器用容器の製造方法であって、
前記容器本体を保持するステップと、
前記シール部材の外径とほぼ同じ内径を有する貫通孔の内部に該シール部材を保持するステップと、
前記貫通孔の一端側に、前記容器本体の開口から中央孔内に所定距離突入可能に形成された小筒部を、該容器本体の開口内に突入するステップと、
前記貫通孔におけるシール部材の保持位置に形成されて且つ該貫通孔内周面及び外部を連通する潤滑剤導入用の透孔を介して、大径部に潤滑剤を塗布し且つ凹部に潤滑剤を満たすステップと、
前記小筒部を容器本体の開口内に突入させた状態で、保持されたシール部材を貫通孔の小筒部側開口から押し出して、容器本体の中央孔内に打栓するステップとを備えることを特徴とする注射器用容器の製造方法。
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