JP4131725B2 - 希土類磁石焼結用敷粉及びそれを用いた希土類磁石の製造方法 - Google Patents

希土類磁石焼結用敷粉及びそれを用いた希土類磁石の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、希土類元素を含む磁石原料粉の成形体を焼結する際に用いられる希土類磁石焼結用敷粉及びそれを用いた希土類磁石の製造方法に関する。
例えばハードディスクドライブ用ボイスコイルモータや自動車駆動用モータ等の幅広い分野において、モータの小型化及び高性能化が要求されている。モータの小型化及び高性能化を図るためにはモータに組み込まれる磁石の性能向上が重要であり、近年では非常に高い磁気特性を示す例えばネオジム鉄ボロン系焼結磁石等の希土類磁石が多く使用されている。
希土類磁石は、基本的には、以下のように製造される。すなわち、先ず、希土類元素等を主成分とする原料合金を水素粉砕及び/又は機械的粉砕により粗粉砕した後、気流式粉砕機等により微粉砕し、原料合金微粉末を作製する。次に、原料合金微粉末を磁場中で圧縮成形し、成形体を得る。次に、この成形体を焼結炉において例えば1000℃〜1300℃で焼結処理し、例えば500℃〜900℃で時効処理することにより、希土類磁石が製造される。希土類磁石を量産する際には、焼結工程において、例えば成形体を複数個並べた焼結プレートを焼結ケースに収容し、焼結炉内に焼結ケースを配置して焼結処理する(例えば、特許文献1等を参照。)。また、焼結炉内に複数の焼結ケースを配置し、一括焼結処理する場合もある。
しかしながら、焼結ケース内に成形体を収容し前述の温度で焼結処理すると、焼結ケース(焼結プレート)と成形体とが融着し、焼結体の変形やクラックの発生等が生じる。また、融着した焼結体を分離する工程が必要となり、製造時間が長時間化し、生産性の低下を招く。さらには、融着した焼結体を分離する際に与える衝撃によって焼結体が破損し、歩留まりを低下させるという問題もある。また、効率的な焼結を行おうとすると、成形体を重ねて焼結せざるを得ないが、この場合は焼結体(成形体)間で融着し、やはり焼結ケース−焼結体間の融着と同様の問題が生じる。
そこで、成形体を焼結する際には、ケース底面と成形体との間、又は成形体間に敷粉を散布するのが一般的である。敷粉としては例えば安価な鉄粉が用いられることがあるが、希土類磁石の焼結処理中に磁石中の希土類成分が浸み出して鉄粉と反応し、鉄粉を介して焼結体と焼結ケースとの間、又は成形体間で融着が発生し、融着防止効果を十分に得られないというデメリットがある。
このような融着対策として、希土類酸化物粉末の使用が提案されている(例えば、特許文献2参照)。例えば1000℃以上の温度で焼成した5μm以上500μm以下の粒子径を有するY粉末を焼結用敷粉として用いた希土類磁石の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、金属製の焼結用台板上に剥離剤としてDy粉末を敷き、これに圧粉体を載せて焼結するR−T−B系永久磁石の焼結方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、ジルコニアを敷粉として使用することも提案されている(例えば、特許文献5参照)。
特開2000−315611号公報 特開平4−154903号公報 特開平7−161560号公報 特開平11−54353号公報 特開2002−83730号公報
しかしながら、特許文献2〜4に記載されるような希土類酸化物粉末は非常に高価であるため、敷粉として使用すると希土類磁石の製造コストを大幅に増加させることになり、量産には不向きである。また、ジルコニアは安価であることから製造コスト削減の点では有利であるが、本発明者らが検討した結果、ジルコニア粒子を敷粉として希土類磁石を製造した場合、希土類磁石の磁気特性(特に保磁力)低下を引き起こすという問題があることがわかってきた。
そこで本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、低コストにて焼結体と焼結用治具間、又は焼結体同士の融着を抑制するとともに、希土類焼結磁石の磁気特性の低下を抑制することが可能な希土類磁石焼結用敷粉、及びそれを用いた希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
前述の課題を解決するために、本発明に係る希土類磁石用敷粉は酸化ジルコニウムを含む酸化物核と前記酸化物核表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層とを有する粒子からなることを特徴とする
また、本発明に係る希土類磁石の製造方法は、焼結用治具上に希土類元素を含む磁石原料粉の成形体を載置した状態で焼結する希土類磁石の製造方法であって、前記焼結用治具と前記成形体との間に、酸化ジルコニウムを含む酸化物核と前記酸化物核表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層とを有する粒子からなる希土類磁石焼結用敷粉を介在させることを特徴とする。
さらに、本発明に係る希土類磁石の製造方法は、希土類元素を含む磁石原料粉の成形体を重ね合わせた状態で焼結する希土類磁石の製造方法であって、前記成形体間に酸化ジルコニウムを含む酸化物核と前記酸化物核表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層とを有する粒子からなる希土類磁石焼結用敷粉を介在させることを特徴とする。
本発明では、希土類元素を含む成形体を焼結する際に用いる敷粉として、酸化物を含む酸化物核と、希土類酸化物を含む表面層との2層構造を有する粒子を用いることに特徴がある。例えば特許文献5に記載されるように、ジルコニア(酸化物)のみからなる粒子を敷粉として用いると、ジルコニアと成形体を構成する希土類酸化物との自由エネルギーの関係で、焼結時に成形体から希土類元素が浸み出し、焼結体の含有する希土類元素が減少することによって、得られる希土類磁石の磁気特性の低下を招くという不都合がある。これに対し、本発明の希土類磁石焼結用敷粉においては、表面層が酸化物核と成形体(焼結体)との直接の接触を防止するため、酸化物核による成形体への悪影響を遮断又は軽減し、磁気特性の低下を抑制する。なお、表面層は、成形体と同じく希土類酸化物から構成されるため、成形体に直接接触したとしても成形体に悪影響を及ぼすおそれはない。
また、希土類酸化物は酸化物核の表面を被覆すればよいので、希土類成分は少量で済み、粒子全体が希土類酸化物から構成される場合に比べて希土類磁石焼結用敷粉の価格は抑えられる。また、酸化物核は任意の粒度分布のものを容易に入手可能な点も有利である。
また、表面層に希土類酸化物が含まれるため、これを敷粉として用いることにより高い融着防止効果が得られる。仮に、焼結後に焼結用治具と焼結体、又は焼結体同士が敷粉を介して融着した場合であっても、希土類酸化物を含む表面層は例えば高温高湿環境下に放置しておくだけで粉化するため、融着した焼結体等は自然に分離する。したがって、敷粉を介して融着した焼結体同士を分離したり、敷粉を焼結体から分離する工程が不要となり、製造時間が短縮される。さらに、分離工程が不要であるため、分離時に衝撃を与えることにより焼結体が破損するおそれはなく、高い歩留まりが実現されるという利点もある。
なお、前記粒子は、前記酸化物核を単独で敷粉として用いて希土類元素を含む成形体を焼結し、焼結後に前記敷粉を回収したものを使用することができる。従来は例えば廃棄されていた使用済みの敷粉を本発明の希土類磁石焼結用敷粉とすることができるため、資源の無駄がなく、また、本発明の粒子を作製するための工程を特別に設ける必要がないため、生産性の向上が図られる。
本発明によれば、製造コストを削減し、また、希土類磁石の焼結工程で用いることにより焼結体と焼結用治具、又は焼結体間の融着を抑制しつつ、磁気特性の低下を抑制することが可能な希土類磁石焼結用敷粉を提供することができる。また、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、焼結体と焼結用治具との間、又は焼結体間の融着を抑制しつつ、高い磁気特性を示し、希土類磁石を低コストにて製造することができる。また、本発明によれば、高い融着防止効果が得られ、融着した焼結体等の分離工程が不要となるため、歩留まり向上や製造時間の短縮を図ることができる。
以下、本発明を適用した希土類磁石焼結用敷粉及びそれを用いた希土類磁石の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
希土類磁石焼結用敷粉は、希土類元素を含む磁石原料粉の成形体を焼結用治具、又は他の成形体と接触した状態で焼結する際、焼結用治具と成形体との間や成形体間に介在し、これらの融着を抑制、防止するために用いられるものであり、本発明では、図1に示すように、酸化物を含む酸化物核1と、酸化物核1表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層2とを有する粒子を用いる。
ここで、酸化物核1に含まれる酸化物としては、酸化ジルコニウム等が好ましい。
表面層2に含まれる希土類酸化物としては、例えば酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化イッテルビウム、及び酸化ルテチウム等を1種又は2種以上用いることができ、中でも、ネオジム鉄ボロン系磁石に対して使用する場合は酸化ネオジムが好ましい。
表面層2の膜厚は、例えば5μm〜50μmであることが好ましい。表面層2の膜厚が薄すぎると、酸化物核1を構成する酸化物と成形体との接触防止効果が不十分となり、敷粉として用いられたときに成形体から希土類元素を浸み出させるおそれがある。逆に、表面層2の膜厚が厚すぎる場合、表面層2の形成に長時間を要し、また、粒子の製造コスト増を招くおそれがある。また、表面層2の厚膜化により融着防止効果は高くなるが、50μm程度で飽和し、それより厚くしても融着防止効果に差はみられない。
敷粉として用いる粒子の平均粒径は、60μm(250メッシュ)〜300μm(50メッシュ)であることが好ましい。平均粒径が前記範囲未満であると、成形体との接触抵抗が増大して焼結時に成形体の収縮阻害を起こし、局部的に収縮していない部分が残ることにより成形体(焼結体)に望ましくない変形を引き起こすおそれがある。平均粒径が前記範囲を上回ると、敷粉と成形体とが点接触となるため、成形体(焼結体)にディンプルと呼ばれるくぼみが生じたり、また、成形体を複数段重ねて焼結する場合、成形体上に散布した敷粉が転がり落ち易くなるため、成形体間に必要量が介在せず、融着防止効果が不十分となったりするおそれがある。
希土類磁石焼結用敷粉として用いられる粒子は、例えば次のように、希土類磁石の製造に使用された後の敷粉を回収して得ることができる。先ず、酸化物核1となる酸化物粒子を敷粉として用いて希土類元素を含む成形体を焼結する。焼結時に、自由エネルギーの関係で成形体から希土類元素が浸み出し、酸化物粒子(酸化物核1)の表面に希土類酸化物の層(表面層2)が形成されるため、使用後の敷き粉を本発明の希土類磁石焼結用敷粉とすることができる。このことを、実験結果を参照して説明する。
例えば鉄粒子を敷粉として用い、希土類元素としてNdを含む成形体を焼結した。焼結後の敷粉について、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)による反射電子像及びNdのマッピング分析を行った結果を図2(a)、(b)にそれぞれ示す。また、酸化ジルコニウム(ZrO)を敷粉として用いた場合の、反射電子像及びNdマッピングの結果を図3(a)、(b)に示す。図2(b)及び図3(b)中、Ndは白い(明るい)点で表示される。図2(b)に示すように、核として鉄粒子を用いた場合には、鉄粉中へNdが拡散しているが、図3(b)に示すように、酸化物核として酸化ジルコニウム粒子を用いた場合には、Ndは酸化物核表面を被覆するように層を形成していることが観察される。したがって、これを回収して本発明の希土類磁石焼結用敷粉として使用可能であることがわかる。
なお、前述のように使用後の敷粉を回収し、本発明の希土類磁石焼結用敷粉とすることが、廃棄物削減、コスト削減、生産性等の観点から好ましいが、これに限定されるものではなく、例えばメカノフュージョン装置等を用いて酸化物と希土類酸化物とを複合化する等により、あらかじめ酸化物核と希土類酸化物表面層と有する粒子を作製し、これを本発明の希土類磁石焼結用敷粉としてもよい。
次に、製造対象となる希土類磁石について説明する。希土類磁石は、希土類元素を主成分とする希土類焼結磁石であり、ネオジム鉄ボロン系磁石やサマリウムコバルト系磁石等である。ネオジム鉄ボロン系磁石は、例えばR−T−B(Rは希土類元素の1種又は2種以上、ただし希土類元素はYを含む概念である。TはFe又はFe及びCoを必須とする遷移金属元素の1種又は2種以上である。Bはホウ素である。)で表され、希土類元素Rが20質量%〜40質量%、ホウ素Bが0.5質量%〜4.5質量%、残部が遷移金属元素Tとなるような組成を有する。ここで、Rは、希土類元素、すなわちY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、及びLuから選ばれる1種又は2種以上である。中でも、Ndは、資源的に豊富で比較的安価であることから、主成分をNdとすることが好ましい。また、Dyの含有は、異方性磁界を増加させるため、保磁力Hcjを向上させる上で有効である。
あるいは、添加元素Mを加えてR−T−B−M系希土類焼結磁石とすることも可能である。この場合、添加元素Mとしては、Al、Cr、Mn、Mg、Si、Cu、C、Nb、Sn、W、V、Zr、Ti、Mo、Bi、Ga等を挙げることができ、これらから1種又は2種以上を選択して用いることができる。これら添加元素Mの添加量は、残留磁束密度等の磁気特性を考慮して、3質量%以下とすることが好ましい。添加元素Mの添加量が多すぎると、磁気特性が劣化するおそれがある。
また、本発明は、ネオジム鉄ボロン系磁石ばかりでなく、前記サマリウムコバルト系磁石(SmCo系希土類焼結磁石)等の希土類焼結磁石や、フェライト系磁石等の焼結にも適用することができる。
前述の希土類磁石の製造には、例えば粉末冶金法が採用される。以下、希土類磁石、例えばネオジム鉄ボロン系磁石の粉末冶金法による製造方法について説明する。
粉末冶金法による希土類磁石の製造プロセスは、基本的には、合金化工程、粗粉砕工程、微粉砕工程、磁場中成形工程、焼結工程、時効工程、機械加工工程、被膜形成工程等により構成される。なお、酸化防止のために、焼結後までの各工程は、ほとんどの工程を真空中又は不活性ガス雰囲気中(窒素雰囲気中やアルゴン雰囲気中等)で行う。
合金化工程では、原料となる金属又は合金を磁石組成に応じて配合し、真空又は不活性ガス、例えばアルゴン雰囲気中で溶解し、鋳造することにより合金化する。鋳造法としては、溶融した高温の液体金属を回転ロール上に供給し、合金薄板を連続的に鋳造するストリップキャスト法(連続鋳造法)が、生産性等の観点から好適であるが、これらに限られるものではない。原料金属(合金)としては、純希土類元素、希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。
合金は、ほぼ最終磁石組成である単一の合金を用いても、最終磁石組成となるように、組成の異なる複数種類の合金を混合してもよい。混合は、合金段階(粉砕工程前)、粗粉砕工程、微粉砕工程のどの工程で行ってもよいが、混合性を考慮すると合金での混合が好ましい。
粗粉砕工程では、先に鋳造した原料合金の薄板又はインゴット等を、粒径数十μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いることができる。粗粉砕性を向上させるために、水素を吸蔵させた後、粗粉砕を行うことが効果的である。
前記粗粉砕工程は、複数の粉砕手段を組み合わせた複数工程により構成することも可能である。例えば水素粉砕工程と、機械的粗粉砕工程との2工程とすることができる。水素粉砕工程は、鋳造した原料合金に水素を吸蔵させ、相によって水素吸蔵量が異なることを利用して、自己崩壊的に粉砕する工程である。これにより、粒径数mm程度の大きさに粉砕することができる。機械的粗粉砕工程は、先にも述べたようなブラウンミル等の機械的手法を利用して粉砕する工程であり、前記水素粉砕工程により数mm程度の大きさに粉砕された原料合金粉を、粒径数十μm程度になるまで粉砕する。水素粉砕工程を行う場合、機械的粗粉砕工程は省略することも可能である。
粗粉砕工程の後、微粉砕工程を行うが、この微粉砕工程は、例えばジェットミル等を使用して行われる。微粉砕の条件は、用いる気流式粉砕機に応じて適宜設定すればよく、原料合金粉を平均粒径が1〜10μm程度、例えば3〜6μmとなるまで微粉砕する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば窒素ガス)を狭いノズルより解放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粉体の粒子を加速し、粉体の粒子同士の衝突や、ターゲット又は容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。ジェットミルは、一般的に、流動層を利用するジェットミル、渦流を利用するジェットミル、衝突板を用いるジェットミル等に分類される。この微粉砕工程では、粉砕助剤や離型剤として、例えば脂肪酸系化合物等を微粉砕前又は後、あるいは前後に0.03質量%〜0.4質量%程度添加してもよい。
微粉砕工程の後、磁場中成形工程において、磁石原料粉を磁場中にて成形する。具体的には、微粉砕工程で得られた磁石原料粉を電磁石を配置した金型内に充填し、磁場印加によって結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。磁場中成形は、縦磁場成形、横磁場成形のいずれであってもよい。磁場中成形は、例えば800kA/m〜1500kA/m程度の磁場中で、30MPa〜300MPa程度の圧力で行えばよい。
成形体の密度は、例えば3.9g/cm〜4.6g/cmとすることが好ましい。成形体密度が前記範囲未満であると保形性が低下するため、後述するように成形体を複数段重ねるとともに成形体間に敷粉を介在させて焼結する際、敷粉の効果が十分に発揮されないおそれがある。また、成形体密度が前記範囲を上回ると、成形体の配向度が低下し、焼結後の磁石の残留磁束密度Brの低下を招くおそれがある。
成形体は、次に焼結工程において焼結し、希土類磁石(ネオジム鉄ボロン系磁石)とする。焼結時には、図4に示すように、焼結用治具11上に敷粉13を散布した後成形体12を載置し、焼結用治具11と成形体12との間に敷粉13が介在した状態とする。焼結用治具11としては、成形体を載置した状態で焼結可能であれば特に問わないが、例えば焼結ケースや焼結用台板等が挙げられる。焼結用治具11を構成する材料としては、この種の焼結用治具に用いられる材料をいずれも用いることができ、例えばFe、Ni、Mo、Ta、W等の金属、又はこれら金属のうち1種又は2種以上を含む合金やC等が挙げられる。
また、効率的な焼結を行うために、成形体12を重ね合わせた状態で焼結を行うことがある。例えば図5に示すように、成形体12を複数段、例えば4段に重ねて焼結を行うことがある。この場合は、成形体12同士が融着することを防止する目的で、成形体12の上に敷粉13を散布した後さらに成形体12を重ねることにより、各成形体12の間に敷粉13が介在した状態とする。成形体12間に敷粉13を介在させる場合も、焼結用治具11と最下段の成形体12との間に敷粉13を介在させることが好ましい。
本発明では、敷粉13として、前述の希土類磁石焼結用敷粉、すなわち、図1に示すような、酸化物を含む酸化物核1と酸化物核1表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層2とを有する粒子を用いる。希土類酸化物を含む表面層2によって酸化物(酸化物核1)と成形体12との直接接触が防止されるため、敷粉13に接触した成形体12からの希土類元素の浸み出しを緩和し、希土類磁石の磁気特性の低下を抑制することができる。
敷粉13の平均粒径が60μm〜300μmである場合、20個/cm〜500個/cmとなるように敷粉13を散布し、焼結用治具11−成形体12間、又は成形体12間に介在させることが好ましく、50個/cm〜100個/cm程度とすることがより好ましい。敷粉13の散布量が20個/cm未満であると融着防止効果が不足するおそれがあり、逆に500個/cmを上回ると希土類元素の浸み出し量が増加して磁気特性の低下を招くおそれがある。
焼結工程においては、例えば図4や図5の状態とした成形体を焼結炉内に配置し、成形体の焼結を行うこととする。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件に応じて調整する必要があるが、例えば1000℃〜1300℃で1〜10時間程度焼結する。焼結時の雰囲気は真空又は不活性ガス雰囲気(窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等)とする。
前記焼結後には、得られた焼結体に時効処理を施すことが好ましい。この時効処理は、得られる希土類磁石の保磁力Hcjを制御する上で重要な工程であり、例えば真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。時効処理としては、2段時効処理が好ましい。2段時効処理は、1段目の時効処理工程においては800℃前後の温度で1時間〜3時間保持し、2段目の時効処理工程においては550℃前後の温度で1時間〜3時間保持して行えばよい。600℃近傍の熱処理で保磁力Hcjが大きく増加するため、時効処理を1段で行う場合には、600℃近傍で時効処理を施すとよい。
前記焼結工程及び時効工程の後、機械加工工程や被膜形成工程を行い、製品を完成する。機械加工工程は、所望の形状に機械的に成形する工程である。被膜形成工程は、得られた希土類磁石の酸化を抑えること等を目的に行う工程であり、例えばめっき被膜や樹脂被膜を希土類磁石の表面に形成する工程である。
以上のように、本発明によれば、酸化物を含む酸化物核1が希土類酸化物を含む表面層2により被覆された粒子を敷粉13として用いるため、焼結工程における成形体(焼結体)12からの希土類元素の浸み出しを緩和して、高い磁気特性を示す希土類磁石を製造することができる。また、表面層2に含まれる希土類酸化物は高い融着防止効果を示し、前記焼結により焼結用治具11と成形体12、又は重ね合わされる成形体12同士が強固に融着することを防止できる。
また、仮に焼結用治具11と成形体(焼結体)12、又は成形体(焼結体)12同士が敷粉を介して融着した場合でも、希土類酸化物を含む表面層12は、例えば高温高湿環境下に放置しておくだけで容易に粉化し、焼結体等は自然に分離する。このため、別途分離作業を設ける必要はない。また、分離工程が不要であるため、分離時に衝撃を与えることにより焼結体が破損するおそれはなく、高い歩留まりが実現されるという利点もある。
また、酸化物核1を構成する酸化ジルコニウム等の酸化物は、Y粉末やDy粉末等の希土類酸化物からなる粉末に比べて安価であり、また、任意の粒度分布のものが入手可能である。したがって、希土類酸化物からなる粉末のように顆粒状への加工が不要であり、希土類酸化物粉末を用いる場合に比べてコストの削減を図ることができ、量産に好適である。
さらに、使用後の、酸化物核1と表面層2とを有する粒子は、希土類磁石焼結用敷粉として再利用可能である。本発明の粒子を例えば高温多湿環境下に放置すると、表面層2が粉化して酸化物核1から剥離するが、この場合、表面層2剥離後の酸化物核1を単独で希土類磁石焼結用敷粉として用いることができ、また、希土類磁石焼結用敷粉として用いることにより表面層2を再形成することができる。以上のように、酸化物核1と表面層2とを有する粒子の再生は容易であるため、希土類磁石焼結用敷粉として繰り返し再利用することができる。
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
<実施例1>
本実施例では、以下のように矩形形状のNdFeB磁石を製造した。すなわち、先ず、Nd30.0質量%、Dy1.5質量%、Co0.5質量%、B1.0質量%、残部Feなる組成を有する磁石原料粉を作製し、これを所定形状となるように磁場中成形し、成形体を得た。成形体の寸法は、縦50mm、横25mm、高さ(配向方向)12mmである。成形体密度は、4.1g/cmとした。
次に、Moを主成分とする焼結ケースの底面に敷粉として酸化物核と表面層とを有する粒子を散布した後、作製した成形体を等間隔となるように10個載置し、焼結ケースと成形体との間に敷粉を介在させた。使用した焼結ケースの寸法は縦150mm、横150mm、高さ20mmであった。敷粉として使用した粒子は、酸化物核に酸化ジルコニウムが含まれ、表面層に酸化ネオジムが含まれたものである。表面層の膜厚は20μmであり、粒子の平均粒径は180μmであった。また、敷粉の散布量は100個/cmとした。この状態で、焼結炉内で焼結し、その後時効処理を行った。焼結温度は温度1070℃とし、時効処理温度は600℃とした。
焼結及び時効処理後、希土類磁石(焼結体)と焼結ケース底面との融着状態を観察したところ、融着は観察されなかった。また、得られた希土類磁石においては、変形はほとんど認められなかった。さらに、得られた希土類磁石の磁気特性を測定したところ、残留磁束密度Brは1318mT、保磁力Hcjは1220kA/mと良好であった。
<実施例2>
成形体の寸法を縦50mm、横25mm、高さ(配向方向)3mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を作製した。また、作製した成形体を図5に示すように4段重ねとするとともに、焼結ケースの底面と成形体との間、及び成形体間に実施例1と同じ敷粉を介在させたものを10セット、焼結ケース内に配置し、実施例1と同様にして焼結及び時効処理を行い、希土類磁石を作製した。この焼結ケースを10セット作製し、統計データを採取した。その結果、希土類磁石のうち98%は融着しておらず、非常に良好な結果が得られた。また、融着していた2%の希土類磁石を、温度85%、湿度85%の高温多湿環境下で60分間放置した。その結果、融着していた希土類磁石が分離していることが確認された。
<比較例1>
敷粉として鉄粉を用いたこと以外は実施例2と同様にして希土類磁石を作製した。焼結及び時効処理後、希土類磁石(焼結体)の融着状態を観察したところ、67%の非常に高い確率で融着が発生していた。融着した希土類磁石に衝撃を加えて分離作業を行ったところ、希土類磁石に割れや欠け等が発生し、歩留まりの低下を招いた。また、融着していた希土類磁石を実施例2と同じ高温多湿環境下で同じ時間放置したが、これらは全く分離しなかった。
本発明を適用した希土類磁石焼結用敷粉の一例を示す概略断面図である。 Nd含有成形体焼結後の敷粉としての鉄粒子の分析結果であり、(a)は反射電子像、(b)はNdマッピングの結果である。 Nd含有成形体焼結後の敷粉としての酸化ジルコニウム粒子の分析結果であり、(a)は反射電子像、(b)はNdマッピングの結果である。 焼結時の成形体の載置状態の一例を示す模式図である。 焼結時の成形体の載置状態の他の例であり、成形体を複数段重ねた例を示す模式図である。
符号の説明
1 酸化物核、2 表面層、11 焼結用台板、12 成形体、13 敷粉

Claims (16)

  1. 酸化ジルコニウムを含む酸化物核と前記酸化物核表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層とを有する粒子からなることを特徴とする希土類磁石焼結用敷粉。
  2. 前記希土類酸化物が酸化ネオジムであることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石焼結用敷粉。
  3. 前記表面層の膜厚が5μm〜50μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の希土類磁石焼結用敷粉。
  4. 前記粒子の平均粒径が60μm〜300μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類磁石焼結用敷粉。
  5. 焼結用治具上に希土類元素を含む磁石原料粉の成形体を載置した状態で焼結する希土類磁石の製造方法であって、
    前記焼結用治具と前記成形体との間に、酸化ジルコニウムを含む酸化物核と前記酸化物核表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層とを有する粒子からなる希土類磁石焼結用敷粉を介在させることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  6. 前記希土類酸化物が酸化ネオジムであることを特徴とする請求項5記載の希土類磁石の製造方法。
  7. 前記表面層の膜厚が5μm〜50μmであることを特徴とする請求項5又は6記載の希土類磁石の製造方法。
  8. 前記粒子の平均粒径が60μm〜300μmであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項記載の希土類磁石の製造方法。
  9. 焼結後に前記粒子を回収し、回収した当該粒子を敷粉として再利用することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項記載の希土類磁石の製造方法。
  10. 前記粒子は、前記酸化物核を単独で敷粉として用いて希土類元素を含む成形体を焼結し、焼結後に前記敷粉を回収したものであることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項記載の希土類磁石の製造方法。
  11. 希土類元素を含む磁石原料粉の成形体を重ね合わせた状態で焼結する希土類磁石の製造方法であって、
    前記成形体間に酸化ジルコニウムを含む酸化物核と前記酸化物核表面を覆うとともに希土類酸化物を含む表面層とを有する粒子からなる希土類磁石焼結用敷粉を介在させることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  12. 前記希土類酸化物が酸化ネオジムであることを特徴とする請求項11記載の希土類磁石の製造方法。
  13. 前記表面層の膜厚が5μm〜50μmであることを特徴とする請求項11又は12記載の希土類磁石の製造方法。
  14. 前記粒子の平均粒径が60μm〜300μmであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項記載の希土類磁石の製造方法。
  15. 焼結後に前記粒子を回収し、回収した当該粒子を敷粉として再利用することを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項記載の希土類磁石の製造方法。
  16. 前記粒子は、前記酸化物核を単独で敷粉として用いて希土類元素を含む成形体を焼結し、焼結後に前記敷粉を回収したものであることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項記載の希土類磁石の製造方法。
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