JP4131042B2 - ブレーキシステム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気ブレーキとマニュアルブレーキとを備えるとともにそれらのいずれかを選択して使用する形式のブレーキシステムに関するものであり、特に、そのブレーキ選択技術の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
特開昭60−206766号公報には上記形式のブレーキシステムがいくつか記載されている。第1のブレーキシステムにおいては、電気ブレーキとマニュアルブレーキとのうち作動力が大きい方が選択されて有効にされる。第2のブレーキシステムにおいては、電気ブレーキとマニュアルブレーキとのうち作動力が大きい方が選択されて有効にされるとともに、電気ブレーキが故障したか否かが判定され、故障したとの判定がなされる前は、マニュアルブレーキの作動が禁止される一方、故障したとの判定がなされた後は、マニュアルブレーキの作動が許可される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段,作用および発明の効果】
しかしながら、それら第1および第2のブレーキシステムにはそれぞれ問題があった。
第2のブレーキシステムにおいては、電気ブレーキが実際に故障していても、電気ブレーキが故障したとの判定がなされる前は、電気ブレーキが選択されてしまう。そのため、この第2のブレーキシステムには、故障した電気ブレーキによって異常な車両制動が行われてしまう期間が存在することを避け得ないという問題があったのである。
第1のブレーキシステムにおいては、電気ブレーキが故障した場合に、その故障モードが、電気ブレーキの作動力が0になるモードであれば、マニュアルブレーキが選択されるため、故障した電気ブレーキによって異常な車両制動が行われることはない。しかし、電気ブレーキの故障モードには、さらに、作動力が正常値より大きくなるモードもある。そして、この故障モードである場合には、電気ブレーキが故障しているにもかかわらず電気ブレーキが選択されてしまう。そのため、第1のブレーキシステムには、電気ブレーキの作動力が正常値より大きくなるという故障が生じた場合には、故障した電気ブレーキによって異常な車両制動が行われてしまうという問題があったのである。
本発明は、そのような事情を背景としてなされたものであり、その課題は、故障した電気ブレーキによって異常な車両制動が行われることを防止することにある。
【0004】
この課題は下記の本発明の各態様によって解決される。なお、以下の説明において、本発明の各態様を、それぞれに項番号を付して請求項と同じ形式で記載する。各項に記載の特徴を組み合わせて採用することの可能性を明示するためであり、ここに記載されていない組合せを採用することの可能性を排除したり、ここに記載されていない特徴を採用することの可能性を排除するものではない。
【0005】
(1) ブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作力により機械的に車輪を制動するマニュアルブレーキと、
前記ブレーキ操作部材の操作に応じて、前記車輪と同じかまたは異なる車輪を電気的に制動する電気ブレーキを有する電気ブレーキ装置であって、さらに、その電気ブレーキ装置に異常があるか否かを判定する電気ブレーキ装置異常判定装置をも有するものと、
前記電気ブレーキ装置異常判定装置の判定結果に基づいて前記電気ブレーキと前記マニュアルブレーキとのいずれかを選択し、前記ブレーキ操作部材が操作されればその操作に応じた作動が可能な状態とするブレーキ選択装置であって、前記電気ブレーキ装置の電源投入時から最初に前記電気ブレーキ装置異常判定装置により前記電気ブレーキ装置に異常があるか否かが判定されるまで、前記マニュアルブレーキを選択して作動可能な状態とするものと
を含むことを特徴とするブレーキシステム〔請求項1〕。
このブレーキシステムにおいては、同じブレーキ操作部材の操作に応じてマニュアルブレーキと電気ブレーキとが選択的に作動させられる。マニュアルブレーキを作動させるか電気ブレーキを作動させるかがブレーキ選択装置により選択されるのである。そして、電気ブレーキ装置に異常があるか否かが判明する前には、電気ブレーキ装置に実際に異常があるか否かを問わず、マニュアルブレーキが選択される一方、電気ブレーキの作動が禁止される。したがって、このブレーキシステムによれば、電気ブレーキが異常であるか否かが判明する前に、異常な電気ブレーキによって異常な車両制動が行われてしまうことが防止される。
このブレーキシステムにおいて、「電気ブレーキ」は、モータを駆動源とする形式としたり、高圧源を駆動源としてそれの液圧を電磁弁により適当な高さに制御して使用する形式とすることができる。また、「電気ブレーキ装置」は、さらに、ブレーキ操作部材の操作値を検出する操作値検出装置と、その操作値検出装置により検出された操作値に基づいて電気ブレーキを制御する電気ブレーキ制御装置と、電源とを有するように構成することができる。また、「マニュアルブレーキ」は液体圧を使用しない形式としたり、使用する形式としたりすることができる。
(2) 前記ブレーキ選択装置が、前記電気ブレーキ装置の電源投入時から最初に前記電気ブレーキ装置異常判定装置により前記電気ブレーキ装置に異常はないと判定されるまで、前記マニュアルブレーキを選択し続け、最初に電気ブレーキ装置異常判定装置により電気ブレーキ装置に異常はないと判定されたときに、前記電気ブレーキを選択するものである(1) 項に記載のブレーキシステム〔請求項2〕。
(3) 前記ブレーキ選択装置が、前記電気ブレーキ装置異常判定装置により前記電気ブレーキ装置に異常はないと判定された場合には、少なくとも次回のブレーキ操作の開始時から前記電気ブレーキを選択して作動可能とし、一方、異常があると判定された場合には、少なくとも次回のブレーキ操作の開始時から前記マニュアルブレーキを選択して作動可能とするものである(1) 項に記載のブレーキシステム。
(4) 前記ブレーキ選択装置が、(a) 前記マニュアルブレーキと前記ブレーキ操作部材との間に設けられ、前記電気ブレーキの非作動時にはマニュアルブレーキの作動を許可し、作動時には禁止するマニュアルブレーキ制御装置と、(b) 前記マニュアルブレーキと前記電気ブレーキとのうちから電気ブレーキを選択することが必要である場合には、電気ブレーキの作動を許可し、マニュアルブレーキを選択することが必要である場合には、電気ブレーキの作動を禁止する電気ブレーキ作動許可・禁止装置とを含む(1) ないし(3) 項のいずれかに記載のブレーキシステム。
(5) 前記電気ブレーキ装置が、さらに、(a) 前記ブレーキ操作部材の操作値を検出する操作値検出装置と、(b) その操作値検出装置により検出された操作値に基づいて前記電気ブレーキを制御する電気ブレーキ制御装置とを含み、前記電気ブレーキ装置異常判定装置が、前記操作値検出装置に異常があるか否かを判定する検出装置異常判定装置を含む(1) ないし(4) 項のいずれかに記載のブレーキシステム〔請求項3〕。
このブレーキシステムにおいて「操作値」には、ブレーキ操作部材の操作ストローク,操作角度,操作力等が含まれる。
(6) 前記操作値検出装置が、各々、前記操作値に応じて変化する信号を出力する複数のセンサを含み、前記検出装置異常判定装置が、それら複数のセンサの複数の出力信号を相互に比較することにより、前記操作値検出装置に異常があるか否かを判定する判定手段を含む(5) 項に記載のブレーキシステム〔請求項4〕。
前項に記載のブレーキシステムは次のように設計することができる。すなわち、操作値検出装置が、操作値に応じて変化する信号を出力するセンサを1個のみ含み、検出装置異常判定装置が、ブレーキ操作部材が非操作位置にあるときのそのセンサの出力信号が正規信号とほぼ一致するか否かを判定し、ほぼ一致すれば操作値検出装置に異常はないと判定し、そうでなければ異常があると判定するように設計することができるのである。
ブレーキシステムを上記のように、1個のセンサの出力信号と正規信号との比較により操作値検出装置の異常判定を行うように設計した場合には、電気ブレーキ装置への電源投入時にブレーキ操作部材が非操作位置にあるのであれば、電源投入後に迅速に異常判定を実行可能となる。しかし、電源投入時にブレーキ操作部材が必ずしも非操作位置にあるとは限らず、操作位置にある場合もある。この場合には、その回のブレーキ操作が終了してブレーキ操作部材が非操作位置に戻ることを待って異常判定を実行可能となる。
これに対して、本項に記載のブレーキシステムにおいては、操作値検出装置が、各々、操作値に応じて変化する信号を出力する複数のセンサを含むものとされ、かつ、それら複数のセンサの複数の出力信号を相互に比較することにより、操作値検出装置に異常があるか否かが判定される。複数のセンサがすべて正常であるならばそれらの出力信号が互いにほぼ同じ値を示すかまたは同じ方向に変化する(変化方向を増加方向と減少方向とに分類した場合にその変化方向が同じである)はずであるという事実に着目することにより、異常判定が行われるのである。したがって、このブレーキシステムによれば、ブレーキ操作部材が非操作位置にあるか操作位置にあるかを問わず、操作値検出装置の異常判定を実行可能となり、前記(1) 項に記載のブレーキシステムを実施する際に、電気ブレーキが正常であるにもかかわらずマニュアルブレーキが選択されて作動可能とし続けられる期間の長期化が防止される。
なお、上記センサを3個以上の奇数個使用する場合には、それら複数のセンサの複数の出力信号に基づく複数の検出値に対して多数決理論を採用すれば、それら複数のセンサの中から正常なセンサを選出可能となる。ただし、この選出方法の有効性は、それら複数のセンサの複数の出力信号が互いに同じ方向に変化しない場合において変化する場合におけるより低いと予想される。多数決理論は基本的には、複数のセンサの複数の出力信号の変化特性相互の関係を考慮することなく、複数のセンサが互いにほぼ同じ時期に瞬間的に出力した複数の値を相互に比較する理論であり、よって、複数のセンサの複数の出力信号が互いに同じ方向に変化しない場合には、たとえ多数決理論を適用しても、正常なセンサを十分には高い精度で推定できないと予想されるからである。
このブレーキシステムにおいて「複数のセンサ」は、各々、種類がすべて同じ複数の物理量をそれぞれ検出する複数のセンサとしたり、種類がすべて同じであるわけではない(種類が異なるものを含む)複数の物理量をそれぞれ検出する複数のセンサとすることができる。具体的には、「複数のセンサ」は、各々、ブレーキ操作部材の操作値である操作ストロークを検出する複数の操作ストロークセンサから成るものとしたり、各々、操作ストロークとは種類が異なる操作値である操作力を検出する複数の操作力センサから成るものとしたり、操作ストロークセンサと操作力センサとを少なくとも1つずつ含むものとすることができる。
なお、本項に記載の特徴は前記(1) ないし(5) 項に記載の各特徴から独立して採用可能である。
(7) 前記判定手段が、前記複数のセンサの複数の出力信号が互いに同じ方向に変化する場合には、それら複数のセンサのいずれにも異常はないと判定する手段を含む(6) 項に記載のブレーキシステム〔請求項5〕。
このブレーキシステムによれば、ブレーキ操作部材の操作状態で、操作値検出装置の異常判定を実行可能となる。
このブレーキシステムにおいて「手段」は、複数のセンサの複数の出力信号を相互に比較することによって異常判定を行う点で、相対的判定手段ということができ、さらに、各出力信号の時間的変化を勘案して異常判定を行う点で、動的判定手段ということができる。
(8) 前記複数のセンサの数が3個以上の奇数個であり、前記操作値検出装置が、さらに、前記複数のセンサの複数の出力信号に対して多数決理論を適用することにより、それら複数のセンサの中から正常であると予想されるものを選出し、選出されたセンサの出力信号に基づいて前記操作値を最終的に決定する手段を含む(6) または(7) 項に記載のブレーキシステム。
(9) 前記操作値検出装置が、前記操作値に応じて変化する信号を出力するセンサを少なくとも1個含み、当該ブレーキシステムが、さらに、前記ブレーキ操作部材が非操作位置にあるときの前記少なくとも1個のセンサの各々の出力信号と正規信号とのずれが許容範囲にあるか否かを判定し、すべてのセンサに関してずれが許容範囲にあれば、すべてのセンサに異常がないと判定する手段を含む(1) ないし(8) 項のいずれかに記載のブレーキシステム。
このブレーキシステムにおいて「手段」は、センサの出力信号を基準信号である正規信号と比較することによって異常判定を行う点で、絶対的判定手段ということができ、さらに、センサの出力値の瞬間的な値(一定の時間的範囲内における平均値も含まれる。)を勘案して異常判定を行う点で、静的判定手段ということができる。
(10)さらに、前記ブレーキ操作部材が非操作位置にあるときの前記各センサの出力信号と正規信号とのずれが許容範囲にある場合に、各センサのずれを各センサの校正値としてメモリに記憶し、ブレーキ操作部材が操作位置にあるときの各センサの出力信号をその校正値に基づいて校正する校正手段を含む(9) 項に記載のブレーキシステム。
(11)電気ブレーキを有する電気ブレーキ装置であって、さらに、その電気ブレーキ装置に異常があるか否かを判定する異常判定装置をも有するものと、
前記異常判定装置の判定結果に基づいて前記電気ブレーキの作動を許可しまたは禁止する作動許可・禁止装置であって、前記電気ブレーキ装置の電源投入時から最初に異常判定装置により電気ブレーキ装置に異常があるか否かが判定されるまで、電気ブレーキの作動を禁止するものと
を含むことを特徴とするブレーキシステム。
このブレーキシステムによれば、電気ブレーキが異常であるか否かが判明する前に、異常な電気ブレーキによって異常な車両制動が行われることが防止される。
(12) 前記マニュアルブレーキと前記電気ブレーキとが共に、車輪と共に回転する回転体に摩擦材を押し付けて回転体の回転を抑制することにより前記車輪を制動する形式のブレーキである (1) 項ないし (11) 項のいずれかに記載のブレーキシステム。
(13) 前記マニュアルブレーキと前記電気ブレーキとが前記回転体および前記摩擦材を共有する (12) 項に記載のブレーキシステム。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
【0007】
図1には、本発明の第1実施形態であるブレーキシステムの全体構成が示されている。このブレーキシステムは、左右前輪FL,FRと左右後輪RL,RRとを備えた4輪車両に設けられている。左右前輪FL,FRには超音波モータ(以下、単に「モータ」という)20を駆動源とするとともに流体圧を使用しない電動式ディスクブレーキ22が設けられている。一方、左右後輪RL,RRには、常用ブレーキとして、DCモータ(以下、単に「モータ」という)30を駆動源とするとともに流体圧を使用しない電動式ドラムブレーキ32が設けられる一方、非常ブレーキとして、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル34を駆動源とするとともに流体圧を使用しない機械式ドラムブレーキ36が設けられている。同じ各後輪に電動式ドラムブレーキ32と機械式ドラムブレーキ36とが設けられているのである。ただし、摩擦材としてのブレーキライニングと回転体としてのドラムとはそれぞれ、それら電動式ドラムブレーキ32と機械式ドラムブレーキ36との間で共通に設けられている。
【0008】
すなわち、本実施形態においては、前輪については、電動式ディスクブレーキ22が「電気ブレーキ」の一例を構成し、一方、後輪については、電動式ドラムブレーキ36が「電気ブレーキ」の一例を構成し、機械式ドラムブレーキ36が「マニュアルブレーキ」の一例を構成しているのである。なお、本実施形態においては、後輪にのみ「マニュアルブレーキ」が設けられ、よって、「ブレーキ選択装置」も後輪にのみ設けられている。
【0009】
ここで、左右前輪用の電動式ディスクブレーキ22の構造を説明する。ただし、それに類似するものが国際公開明細書WO96/03301に記載されているため、簡単に説明する。
電動式ディスクブレーキ22は、(a) 車輪と共に回転するディスク(回転体)と、(b) そのディスクの両側においてディスクを挟むように配置された一対の摩擦パッド(摩擦材)と、(c) ディスクを跨いでそれら一対の摩擦パッドを保持するキャリパとを備えている。キャリパは固定部材に、ディスクに対してそれの軸線方向に摺動可能に取り付けられる。このキャリパには、一方の摩擦パッドに背後から係合するリアクション部と、他方の摩擦パッドに背後から係合する押圧ロッドを、それの軸線方向に移動可能に支持する押圧部とが形成されている。その押圧部にモータ20が内蔵されている。そのモータ20と押圧ロッドとの間に、モータ20の回転運動を押圧ロッドの直線運動に変換する運動変換機構が設けられている。運動変換機構は、ボールねじ機構を主体として構成したり、上記国際公開明細書WO96/03301に記載されたローラねじ機構を主体として構成することができる。
【0010】
次に、左右後輪用の電動式ドラムブレーキ32の構造を図2を参照しつつ説明する。
この電動式ドラムブレーキ32は、図示しない車体に取り付けられた非回転部材としての、ほぼ円板状を成すバッキングプレート200と、内周面に摩擦面202を備えて車輪と共に回転するドラム204とを備えている。バッキングプレート200の一直径方向に隔たった2箇所には、それぞれアンカ部材としてのアンカピン206と中継リンクとしてのアジャスタ208とが設けられている。アンカピン206はバッキングプレート200に位置固定に取り付けられている。一方、アジャスタ208はフローティング式とされている。それらアンカピン206とアジャスタ208との間には、各々円弧状を成す一対のブレーキシュー210a,210bがドラム204の内周面に対面するように取り付けられている。一対のブレーキシュー210a,210bは、シューホールドダウン装置212a,212bによってバッキングプレート200にそれの面に沿って移動可能に取り付けられている。
【0011】
一対のブレーキシュー210a,210bは、一端部同士がアジャスタ208により相互に接近は不能、隔離は可能に連結される一方、各他端部がアンカピン206と当接させられており、それにより、各端部の回りに回動可能に支持されている。一対のブレーキシュー210a,210bの一端部同士は、アジャスタスプリング214によりアジャスタ208を介して互いに接近する向きに付勢されている。一方、一対のブレーキシュー210a,210bの各他端部は各シューリターンスプリング215a,215bによりアンカピン206に向かって付勢されている。各ブレーキシュー210a,210bの外周面にブレーキライニング216a,216bが保持され、それら一対のブレーキライニング216a,216bがドラム204の内周面に接触させられることにより、それらブレーキライニング216a,216bとドラム204との間に摩擦力が発生する。なお、アジャスタ208は、一対のブレーキライニング216a,216bとドラム204との隙間を、車体組付前および車両停止中には人間の力により、車両走行中には一対のブレーキシュー210a,210bの摩耗に応じて自動的に調整する。
【0012】
各ブレーキシュー210a,210bはリム220とウェブ222とから構成されており、一対のブレーキシュー210a,210bの一方のウェブ222には、レバー230がドラム204の回転軸線と交差する方向に回動可能に取り付けられている。ウェブ222にレバー支持部材としてのピン232が位置固定に取り付けられ、そのピン232にレバー230の一端部が回動可能に連結されているのである。このレバー230と他方のブレーキシュー210bとの互いに対向する部分の切欠きには、力伝達部材としてのストラット236の両端が係合させられている。このストラット236はその長さをねじ機構により調節するアジャスト機能を備えており、これにより、一対のブレーキシュー210a,210bとドラム204との隙間を車体組付前および車体停止中に人間の力により調節可能となっている。
【0013】
すなわち、この電動式ドラムブレーキ32は、車体の前進時にも後退時にも、いずれのブレーキシュー210a,210bにもセルフサーボ効果が発生するデュオサーボ型なのである。
【0014】
レバー230の他端部(自由端部)には常用ブレーキ用ケーブル240の一端部が連結されている。この常用ブレーキ用ケーブル240は、複数本のワイヤをより合わせて構成されており、フレキシブルである。また、この常用ブレーキ用ケーブル240は、バッキングプレート200に取り付けられたシュー拡張アクチュエータ250により駆動される。シュー拡張アクチュエータ250は、図3に拡大して示すように、モータ30の回転軸に減速機252の入力軸が連結され、その減速機252の出力軸に運動変換機構としてのボールねじ機構254の入力部材が連結されて構成されており、そのボールねじ機構254の出力部材に常用ブレーキ用ケーブル240の他端部が連結されている。ボールねじ機構254は、モータ30の回転運動を直線運動に変換する機構である。図において符号256および258は共にブラケットを示し、また、符号260および262は共に、各ブラケット256,258をバッキングプレート200へ取り付けるための取付けボルトを示している。
【0015】
ボールねじ機構254は、入力部材としてのおねじ264に出力部材としてのナット266が図示しない複数個のボールを介して螺合されて構成されている。ナット266は固定部材としてのハウジング267に回転不能かつ軸方向移動可能に嵌合されている。それにより、おねじ264の回転運動がナット266の直線運動に変換される。ナット266の両端部のうちおねじ264の側とは反対側の端部に出力シャフト268が同軸に取り付けられている。それらおねじ264,ナット266および出力シャフト268の相互の摺動部へのダストの侵入が、ハウジング267および伸縮可能なダストブーツ270により阻止されている。
【0016】
出力シャフト268と常用ブレーキ用ケーブル240の他端部との結合は次のような構成により行われる。すなわち、出力シャフト268の両端部のうちボールねじ機構254の側とは反対側の端部にケーブル取付け用おねじ272が形成される一方、常用ブレーキ用ケーブル240の他端部にケーブル取付け用ナット274が結合されている。そのケーブル取付け用ナット274がケーブル取付け用おねじ272に螺合され、そのケーブル取付け用おねじ272に回り止め用ナット276が螺合されるとともに、その回り止め用ナット276がケーブル取付け用ナット274に押し付けられることにより、ケーブル取付け用ナット274の緩みが防止されている。
【0017】
以上のように構成されたシュー拡張アクチュエータ250は、ブレーキペダル34の操作時に常用ブレーキ用ケーブル240に引張力を付与し、それにより、レバー230がそれの他端部がブレーキシュー210bから離隔される向きに回動させられ、その結果、ストラット236により一対のブレーキシュー210a,210bが拡張される。
【0018】
この電動式ドラムブレーキ32は、一対のブレーキシュー210a,210bをそれに発生するセルフサーボ効果に打ち勝って収縮させるのに効果的なシュー収縮機構を備えている。シュー収縮機構は、本実施形態においては、図3に示すように、レバー230とバッキングプレート200との間に張り渡された常用ブレーキ用リターンスプリング280とされている。この常用ブレーキ用リターンスプリング280は、常用ブレーキ用ケーブル240と同軸に張り渡されるとともに、一端部がレバー230の他端部に、他端部がシュー拡張アクチュエータ250のうちの固定部分(例えば、ハウジング,ブラケット等)にそれぞれ係合させられている。したがって、ブレーキペダル34の操作の解除時に、シュー拡張アクチュエータ250が初期位置に向かって戻されれば、レバー230は常用ブレーキ用リターンスプリング280の圧縮力によって初期位置に向かって回動させられる。
【0019】
以上、電動式ドラムブレーキ32を説明したが、次に、機械式ドラムブレーキ36を説明する。
機械式ドラムブレーキ36においては、電動式ドラムブレーキ32の複数の構成要素のうち常用ブレーキ用ケーブル240とシュー拡張アクチュエータ250と常用ブレーキ用リターンスプリング280とを除く構成要素が電動式ドラムブレーキ32と共用される。そして、機械式ドラムブレーキ36においては、それら常用ブレーキ用ケーブル240とシュー拡張アクチュエータ250と常用ブレーキ用リターンスプリング280とに代えて、非常ブレーキ用ケーブル282とそれと同軸の非常ブレーキ用リターンスプリング284とが使用される。レバー230の他端部に常用ブレーキ用ケーブル240の一端部と非常ブレーキ用ケーブル282の一端部とが連結されるのであり、その結果、機械式ドラムブレーキ36の作動時にも、レバー230の回動により一対のブレーキライニング216a,216bがドラム204に押圧されることにより、車輪の回転が抑制される。非常ブレーキ用ケーブル282も、複数本のワイヤをより合わせて構成されており、フレキシブルである。また、非常ブレーキ用ケーブル282は、図1に示すように、車体に取り回して取り付けられたアウタケーシング286により案内されている。
【0020】
非常ブレーキ用ケーブル282は、左後輪の機械式ドラムブレーキ36と右後輪の機械式ドラムブレーキ36とにそれぞれ設けられており、それら2本の非常ブレーキ用ケーブル282の他端部は、図1に示すように、マニュアルブレーキ制御装置300を介してブレーキペダル34に機械的に連携させられている。
【0021】
電動式ドラムブレーキ32の正常時には、ブレーキペダル34が操作されれば、図3に示すように、シュー拡張アクチュエータ250により常用ブレーキ用ケーブル240に引張力が付与され、それにより、レバー230が一対のブレーキシュー210a,210bが拡張する向き(以下、単に「シュー拡張方向」という)に回動させられる。このとき、非常ブレーキ用ケーブル282は、前述のように可撓性を有するため、撓ませられる。したがって、本実施形態においては、電動式ドラムブレーキ32によるブレーキシュー210a,210bの作動がマニュアルブレーキ制御装置300により阻害されることが防止される。
【0022】
また、電動式ドラムブレーキ32の故障時には、ブレーキペダル34が操作されれば、ブレーキペダル34により非常ブレーキ用ケーブル282に引張力が付与され、それにより、レバー230がシュー拡張方向に回動させられる。このとき、常用ブレーキ用ケーブル240は、前述のように、非常ブレーキ用ケーブル282と同様に可撓性を有するため、撓ませられる。したがって、本実施形態においては、機械式ドラムブレーキ36によるブレーキシュー210a,210bの作動が電動式ドラムブレーキ32により阻害されることも防止される。
【0023】
以上要するに、本実施形態においては、同じレバー230に連結されて互いに異なる時期に作用させられる2個のケーブル240,282が共に変形可能であるため、一方のケーブルの作用が他方のケーブルによって阻害されることがない。ただし、ケーブル240,282の果たすべき機能を剛体のロッドを主体とする構成により果たすことは可能である。
【0024】
図4には、マニュアルブレーキ制御装置300が拡大して示されるとともにブレーキペダル装置302も併せて示されている。ブレーキペダル装置302は、車体に位置固定に取り付けられたペダルブラケット304を備えている。このペダルブラケット304は、ブレーキペダル34をそれの基端部(回動支持点)において、車両左右方向に延びる一軸線回りに回動可能に支持している。ブレーキペダル34の非操作位置がストッパ306により規定される一方、ブレーキペダル34がリターンスプリング308によりストッパ306に向かって付勢されている。ブレーキペダル34はクレビス310(回動連結機構の一例)を介して、車両前後方向に移動可能なプッシュロッド312の後端部(図において右側の端部)に相対回動可能に係合させられており、それにより、ブレーキペダル34の回動がプッシュロッド312の移動に変換される。
【0025】
マニュアルブレーキ制御装置300は、共に筒状を成す第1ハウジング702と第2ハウジング704とを備えている。第1ハウジング702は底部706を有するとともに、その底部706の外面にフランジ708が形成されている。第1ハウジング702は、そのフランジ708において図示しないダッシュパネルに取り付けられる。第2ハウジング704はその第1ハウジング702にそれの開口部710において、第1ハウジング702と同軸に、複数本のボルト711により固定されている。
【0026】
第1ハウジング702には、それと同軸に段付状のシリンダボア712が形成され、そのシリンダボア712に段付状の第1ピストン714が軸方向に摺動可能に嵌合されている。第1ピストン714は、それの小径部716においてプッシュロッド312の先端部に直接に係合させられる一方、それの大径部718においてスプリング720を介して第2ハウジング704の外面722に係合させられている。スプリング720は第1ピストン714を常時、プッシュロッド312に接近する向きに付勢しており、第1ピストン714の肩面724が第1ハウジング702の肩面726に当接することにより、その接近限度が規定されている。第1ピストン714の大径部718の外周面には、それの軸線方向に延びる溝728が形成されている。第1ハウジング702の壁部にはボルト730が貫通させられて固定され、そのボルト730の先端部がシリンダボア712内の空間に臨まされている。ボルト730の先端部は、溝728に緩く嵌入させられており、それにより、第1ピストン714の軸方向移動は許容されるが、軸線回りの回転は阻止される。それらボルト730と溝728との位置関係が図5に正面図で示されている。それらボルト730と溝728とにより、第1ピストン714の回転防止機構が構成されているのである。
【0027】
図4に示すように、第1ピストン714の中央にはシリンダボア734が同軸に形成されており、そのシリンダボア734に、第1ピストン714より小径かつ段付状の第2ピストン736が軸方向に摺動可能に嵌合されている。第2ピストン736は第1ハウジング702内から第2ハウジング704の壁部738を貫通して第2ハウジング704内に延びている。第2ピストン736の小径部740は第1ハウジング702内、大径部742は第2ハウジング704内にそれぞれ位置させられている。第2ピストン736と第2ハウジング704との少なくとも一方には、第2ピストン736の軸方向移動は許容するが、軸線回りの回転は阻止する機構(図示しない。例えば、スプライン嵌合部)が設けられている。
【0028】
第2ピストン736の大径部742の先端部は、第2ハウジング704の内面744にスプリング746を介して係合させられている。スプリング746は第2ピストン736を常時、第1ピストン714に接近する向きに付勢しているが、第2ピストン736の肩面748が第2ハウジング704の内面750に当接することにより、その接近限度が規定されている。
【0029】
第2ハウジング704内には、筒状の回転部材754が第2ピストン736と同軸に設けられている。回転部材754はそれの軸方向に隔たった一対のベアリング756,758によって回転可能に支持されている。回転部材754の内周面は第2ピストン736の大径部742の外周面と隙間を隔てて対向させられており、その隙間内にボールねじ機構760が配設されている。ボールねじ機構760は、よく知られているように、大径部742の軸方向運動を回転部材754の回転運動に変換する機構である。具体的には、ボールねじ機構760は、シャフトとしての大径部742が複数個のボール762を介してナット764に螺合された構造を有している。ナット764は回転部材754に一体的に回転可能に固定されている。
【0030】
したがって、第1ピストン714から第2ピストン736に前進力が付与され、それにより、第2ピストン736が図示の原位置から前進(スプリング746が圧縮する向きに移動)すれば、回転部材754が回転させられる。これに対して、第1ピストン714から第2ピストン736に前進力が付与されなくなると、第2ピストン736はスプリング746の弾性力によって後退させられる。この際、回転部材754が逆回転させられる。
【0031】
第2ハウジング704の壁部768には回転部材754の外周面に対向する位置において、アウタケーシング286の先端部が貫通させられて固定され、その先端部から非常ブレーキ用ケーブル282が延び出させられている。非常ブレーキ用ケーブル282の先端部(図示しない)は回転部材754に固定されており、回転部材754が正方向に回転させられれば、非常ブレーキ用ケーブル282が回転部材754(ドラム)に巻き付けられ、それにより、非常ブレーキ用ケーブル282に引張力が付与される。図6には、それら非常ブレーキ用ケーブル282と回転部材754との位置関係が正面図で示されている。非常ブレーキ用ケーブル282に付与された引張力により機械式ドラムブレーキ36が作動させられる。これに対して、回転部材754が逆方向に回転させられれば、非常ブレーキ用ケーブル282の引張力が弱められ、その結果、機械式ドラムブレーキ36の作動力が減少させられる。
【0032】
図4に示すように、第1ピストン714は常に、プッシュロッド312と共に前進するが、第2ピストン736は、第1ピストン714と一緒に前進する状態と第1ピストン714が前進しても前進しない状態とに切り換えられる。その切換えを行うためにストッパピン770が設けられている。第1ピストン714の壁部の一部には、第1ピストン714の直径方向に貫通する穴772が形成されており、その穴772にストッパピン770がそれの軸方向に摺動可能に嵌合されているのである。ストッパピン770は常時、第1ピストン714と一体的に移動する。
【0033】
ストッパピン770は、第1ピストン714の一直径方向において、それの先端部がシリンダボア734の内周面から突出する位置と、突出しない位置とに移動させられる。その移動は駆動装置776により行われる。駆動装置776は、第1ピストン714に固定の駆動装置ハウジング778と、その駆動装置ハウジング778に軸方向摺動可能に嵌合されたプランジャ780とを備えている。駆動装置ハウジング778と第1ピストン714との位置関係が図5に正面図で示されている。プランジャ780はストッパピン770を同軸に保持している。駆動装置776は、さらに、ソレノイド782,コア784およびスプリング786を備えている。スプリング786は、プランジャ780を常時、ストッパピン770がシリンダボア734内の空間に突出する位置に向かって付勢する。ソレノイド782が励磁されて磁気力が発生させられれば、プランジャ780がスプリング786の弾性力に抗してコア784に吸引されることにより、ストッパピン770が図示の突出位置から後退させられて(図において上方に移動させられて)シリンダボア734の内周面から退避させられる。
【0034】
図4に示すように、第1ハウジング702には、駆動装置776を覆うカバー788が固定されている。図7には、それら第1ハウジング702,駆動装置776およびカバー788の位置関係が斜視図で示されている。図4に示すように、カバー788には、第1ピストン714の移動に伴う駆動装置776の移動を許容するための空間が形成されている。カバー788には、外部との接続のためのコネクタ790が設けられ、そのコネクタ790とソレノイド782のターミナル791とを互いに接続するワイヤ792が十分な可撓性と十分な長さとを付与されていて、駆動装置776の移動によってワイヤ792が断線することがないようにされている。
【0035】
駆動装置776は、ソレノイド782がOFFである通常状態で、ストッパピン770をシリンダボア734内に突出させる。そのため、通常状態では、第1ピストン714が前進しようとすれば、その前進力がストッパピン770を介して第2ピストン736に伝達され、その結果、第1ピストン714が第2ピストン736と一緒に前進させられる。第2ピストン736が前進させられれば、それの運動がボールねじ機構760によって回転運動に変換され、結局、回転部材754の回転によって非常ブレーキ用ケーブル282が巻き取られる。これに対して、ソレノイド782のON状態では、ストッパピン770がシリンダボア734内の空間から退避させられるため、第1ピストン714は単独で前進可能となる。このとき、第1ピストン714には、スプリング720の弾性力が付与され、その結果、ブレーキペダル34に反力が付与される。ブレーキペダル34に反力がそれの操作ストロークに応じて付与されるようになっているのである。
【0036】
以上、このブレーキシステムのハードウェア構成を説明したが、次にソフトウェア構成を説明する。
【0037】
図1に示すように、ブレーキシステムは電子制御ユニット(以下、「ECU」と略称する。)800を備えている。ECU800は、CPU900,ROM902およびRAM904を含むコンピュータ906を主体として構成されている。このECU800の入力側にはいくつかのセンサおよびスイッチが接続されている。そのいくつかのセンサおよびスイッチには、ブレーキスイッチ910,操作ストローク検出装置912,4輪分のモータ回転位置センサ914および4輪分のモータ電流センサ916がある。
【0038】
ブレーキスイッチ910は、ブレーキペダルが操作されたか否かを検出するスイッチであり、そのブレーキ操作が検出されない状態ではOFFの信号、検出された状態ではONの信号を出力する。
【0039】
操作ストローク検出装置912は、図8に正面図で示すように、3個のセンサから構成されており、具体的には、第1センサ912aと第2センサ912bと第3センサ912cとがブレーキペダル34の回動軸線と同軸に並んで配置された構成とされている。各センサ912a,912b,912cは、ブレーキペダル34の回動角を操作ストロークとして検出し、それに応じた信号(アナログ信号)を出力する。
【0040】
各モータ回転位置センサ914は、各輪のモータ20,30の回転位置を検出し、その回転位置を規定する信号を出力する。各モータ電流センサ916は、各輪のモータ20,30のコイルに実際に供給された電流を検出し、その実供給電流値を規定する信号を出力する。
【0041】
ECU800の入力側には、さらに、イグニションスイッチ918も接続される。イグニションスイッチ918は、よく知られているように、車両の動力源を始動させる車両電源スイッチ(スタータスイッチ)の一例であり、車両電源を投入するとともに動力源としてのエンジンを始動させることが必要である場合に運転者によりOFFからONに操作される。
【0042】
一方、ECU800の出力側には、第1および第2ドライバ920,922が接続されている。第1ドライバ920は、電源としての第1バッテリ924と左右前輪の電動式ディスクブレーキ22のモータ20との間に設けられている。一方、第2ドライバ922は、電源としての第2バッテリ926と左右後輪の電動式ドラムブレーキ32のモータ30との間に設けられている。ブレーキペダル34の操作時には、ECU800から各ドライバ920,922に指令が供給され、その指令に応じて各ドライバ920,922が電流を各バッテリ924,926から各モータ20,30に供給する。
【0043】
本実施形態においては、電源として主バッテリ928も設けられている。この主バッテリ928は、第1および第2バッテリ924,926から独立している。そして、この主バッテリ928により、車両の電気部品のうちモータ20,30を除くものが作動させられる。したがって、ECU800は、第1および第2バッテリ924,926によってではなく、主バッテリ928により作動させられることになる。
【0044】
ECU800の入力側には、さらに、電源電圧センサ930も接続されている。電源電圧センサ930は、第1および第2バッテリ920,922のそれぞれの電圧を検出し、その高さに応じた信号を出力する。
【0045】
コンピュータ906のROM902には、センサ静的異常判定ルーチン,センサ動的異常判定ルーチン,操作ストローク検出ルーチン,前輪ブレーキ制御ルーチンおよび後輪ブレーキ制御ルーチンを始めとする各種ルーチンが記憶されている。以下、それらルーチンを順に説明する。
【0046】
まず、センサ静的異常判定ルーチンを説明する。
概略的に説明すれば、本ルーチンにおいては、ブレーキスイッチ910の信号がOFFからONに変化したときにおける操作ストローク検出装置912の3個のセンサ912a,912b,912cの出力信号に基づく各検出値SS と各基準値Se とのずれが許容値Δ1以下であるか否かが判定され、3個のセンサ912a,912b,912cのすべてに関してそのずれが許容値Δ1以下であれば、操作ストローク検出装置912が正常であると判定され、そうでなければ、異常であると判定される。各センサ912a,912b,912cに対して静的異常判定が行われるのである。
【0047】
なお、本実施形態においては、ブレーキスイッチ910の信号がOFFからONに変化する時期を基準にすることにより、ブレーキペダル34が非操作位置から、ブレーキスイッチ910の信号がOFFからONに変化する位置まで回動する角度のばらつきにもかかわらず、安定した精度でセンサ異常判定が行われるようになっており、また、後述のように、操作ストロークの検出も同様にして行われるようになっている。ただし、ブレーキスイッチ910の信号がOFFである時期を基準にすることにより、センサ異常判定を行ったり、操作ストロークの検出を行うことも可能である。
【0048】
また、本実施形態においては、各基準値Se が、ブレーキスイッチ910の信号が前回、OFFからONに変化したときにおける各センサ912a,912b,912cの出力信号に応じて変化する可変値とされている。したがって、本実施形態においては、各基準値Se は、操作ストローク検出ルーチンにおいて、操作ストローク検出装置912を校正するためにも使用される。ただし、各基準値Se は、各センサ912a,912b,912cの設計値としての固定値とすることも可能である。
【0049】
さらに、このセンサ静的異常判定ルーチンにおいては、操作ストローク検出装置912が正常であると判定された場合には、ブレーキシステムにおける他の電気的要素(以下、単に「ブレーキシステムの電気系統」という。)に異常があるか否かが判定される。センサ静的異常判定ルーチンにおいて操作ストローク検出装置912が正常であると判定された場合には、引き続いて、システム異常判定が行われるのである。なお、センサ動的異常判定ルーチンにおいても、センサ静的異常判定ルーチンにおけるに準じて、操作ストローク検出装置912が正常であると判定された場合には、引き続いて、システム異常判定が行われる。
【0050】
本ルーチンは図9にフローチャートで表されている。本ルーチンは、イグニションスイッチ918がOFFからONに操作されて車両電源が投入されることに応じて実行を開始され、車両電源が投入されている間、繰返し実行される。各回の実行時には、まず、ステップS31(以下、単に「S31」で表す。他のステップについても同じとする。)において、ブレーキスイッチ910の信号がOFFからONに変化したときであるか否かが判定される。今回は、OFF中またはON中であると仮定すれば、判定がNOとなり、直ちに本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0051】
これに対して、今回は、ブレーキスイッチ910の信号がOFFからONに変化したときであると仮定すれば、S31の判定がYESとなり、S32において、センサ異常判定済フラグFが1とされる。センサ異常判定済フラグFは、RAM904に設けられていて、0で、本ルーチンによるセンサ静的異常判定が終了してはいないことを示し、1で、終了したことを示す。センサ異常判定済フラグFは、車両電源の投入に伴って0とされる。その後、S33において、各センサ912a,912b,912cから各検出値SS1,SS2,SS3が入力される。続いて、S34において、基準値Se1,Se2,Se3の最新値がRAM904から読み出される。なお、基準値Se1,Se2,Se3は、車両電源の投入に伴って0とされる。その後、S35において、互いに対応する各検出値SS と各基準値Se とのずれが許容値Δ1以下であるか否かが判定され、3個のセンサ912a,912b,912cのすべてについてそのずれが許容値Δ1以下であれば、操作ストローク検出装置912が正常であると判定され、そうでなければ、異常であると判定される。今回は、操作ストローク検出装置912が異常であると仮定すれば、S44において、電気ブレーキ許可フラグFを0にする信号が出力され、以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0052】
これに対して、今回は、操作ストローク検出装置912が正常であると仮定すれば、S35の判定がYESとなり、S36において、各基準値Se1,Se2,Se3が、各検出値SS1,SS2,SS3の今回値に更新され、続いて、S37において、更新された基準値Se1,Se2,Se3がRAM904にストアされる。その後、S38において、システム異常判定済フラグFが1であるか否かが判定される。システム異常判定済フラグFは、本ルーチンまたはセンサ動的異常判定ルーチンによるシステム異常判定が、イグニションスイッチ918がOFFからONに操作された後に1回のみ行われるようにするためにRAM904に設けられていて、0で、本ルーチンまたはセンサ動的異常判定ルーチンによるシステム異常判定が終了してはいないことを示し、1で、終了したことを示す。このシステム異常判定済フラグFも、車両電源の投入に伴って0とされる。今回は、システム異常判定済フラグFが0であると仮定すれば、判定がNOとなり、S39において、システム異常判定が行われる。
【0053】
このシステム異常判定においては、モータ回転位置センサ914,モータ電流センサ916等、電気ブレーキの制御に必要な各種センサの出力信号に異常なノイズが存在するか否かが判定される。例えば、各種センサにつき、出力信号に非常に急峻な変化が設定期間内に複数回発生したか否かが判定され、発生したならば、ブレーキシステムの電気系統に異常があると判定される。さらに、このシステム異常判定においては、第1および第2バッテリ924,926の電圧が有効であるか否かが判定される。例えば、各バッテリ924,926の電圧が設定範囲内にあるか否かが判定され、なければ、ブレーキシステムの電気系統に異常があると判定される。
【0054】
今回は、ブレーキシステムの電気系統が正常であると仮定すれば、S40において、システム異常フラグFが0とされる。システム異常フラグFもRAM904に設けられていて、0で、ブレーキシステムの電気系統が正常であることを示し、1で、異常であることを示す。このシステム異常フラグFも、車両電源の投入に伴って0とされる。その後、S41において、電気ブレーキ許可フラグFが1とされる。電気ブレーキ許可フラグFもRAM904に設けられていて、0で、電気ブレーキの作動を許可すべきでないことを示し、1で、許可すべきことを示す。この電気ブレーキ許可フラグFも、車両電源の投入に応じて0とされる。続いて、S42において、システム異常判定済フラグFが1とされる。システム異常判定が終了したからである。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。これに対して、今回は、ブレーキシステムの電気系統が異常であると仮定すれば、S43において、システム異常フラグFが1とされる。今回は、その後、S41がスキップされてS42に移行する。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0055】
以上、システム異常判定済フラグFが0である状態でS38以下のステップが開始された場合を説明したが、1である場合には、S38の判定がYESとなり、直ちに本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0056】
次に、センサ動的異常判定ルーチンを説明する。
概略的に説明すれば、本ルーチンにおいては、ブレーキペダル34が操作位置にある状態で、3個のセンサ912a,912b,912cの3個の検出値SS1,SS2,SS3を相互に比較することにより、操作ストローク検出装置912が異常であるか否かが判定される。具体的には、3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて、同じ方向に時間的に変化しているか否かが判定される。いずれかの検出値が時間と共に増加または減少しているのなら、他のすべての検出値も同じように増加または減少しているか否かが判定されるのである。3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて、同じ方向に時間的に変化している場合には、操作ストローク検出装置912が正常であると判定され、そうでない場合には、異常であると判定される。
【0057】
図10には、本ルーチンがフローチャートで表されている。本ルーチンも、イグニションスイッチ918がOFFからONに操作されることに応じて実行を開始される。本ルーチンの実行時には、まず、S51において、前記センサ異常判定済フラグFが1であるか否かが判定される。センサ動的異常判定は、センサ静的異常判定の終了後には行われないようになっており、本ステップにおいては、センサ静的異常判定が既に行われたか否かが判定されるのである。今回は、センサ静的異常判定が既に行われたと仮定すれば、判定がYESとなり、直ちに本ルーチンの実行が終了し、以後、イグニションスイッチ918が再度OFFからONに操作されるまで、本ルーチンの実行が中止される。
【0058】
これに対して、今回は、センサ静的異常判定が未だ行われていないと仮定すれば、S51の判定がNOとなり、S52において、3個のセンサ912a,912b,912cの3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて変化中であるか否かが判定される。各検出値SS1,SS2,SS3が変化中であるか否かは、各検出値SS1,SS2,SS3の今回値と前回値(RAM904に記憶されている)との差が実質的に0でないか否かを判定することにより判定される。今回は、3個の検出値がすべて変化中ではないと仮定すれば、判定がNOとなり、以上で本ルーチンの今回の実行が終了し、一定時間の経過後、本ルーチンの次回の実行が開始される。
【0059】
これに対して、今回は、3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて変化中であると仮定すれば、S52の判定がYESとなり、S53において、3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて同じ方向に変化しているか否かが判定される。各検出値の変化方向は、各検出値SS1,SS2,SS3の今回値と前回値との差の符号により判定される。今回は、3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて同じ方向に変化しているわけではないと仮定すれば、判定がNOとなり、以上で本ルーチンの実行し、以後、イグニションスイッチ918が再度OFFからONに操作されるまで、本ルーチンの実行が中止される。
【0060】
これに対して、今回は、3個の検出値SS1,SS2,SS3がすべて同じ方向に変化していると仮定すれば、S53の判定がYESとなり、S54において、図9のS39におけると同様にしてシステム異常判定が行われる。S54は、センサ異常判定済フラグFが0の場合、すなわち、センサ静的異常判定ルーチンによるセンサ静的異常判定もシステム異常判定も行われていない状態で実行される。そのため、このS54に先立ち、システム異常判定済フラグFの状態は判定されない。今回は、システム異常判定においてブレーキシステムの電気系統が正常であると判定されたと仮定すれば、S55において、システム異常フラグFが0とされ、続いて、S56において、電気ブレーキ許可フラグFが1とされ、その後、S57において、システム異常判定済フラグFも1とされる。以上で本ルーチンの実行が終了し、以後、イグニションスイッチ918が再度OFFからONに操作されるまで、本ルーチンの実行が中止される。これに対して、今回は、システム異常判定においてブレーキシステムの電気系統が異常であると判定されたと仮定すれば、S58において、システム異常フラグFが1とされ、その後、S56がスキップされてS57に移行する。以上で本ルーチンの実行が終了し、以後、イグニションスイッチ918が再度OFFからONに操作されるまで、本ルーチンの実行が中止される。
【0061】
次に、操作ストローク検出ルーチンを説明する。
3個のセンサ912a,912b,912cが同時に故障することはごく稀であり、また、それらのうちの2個が同時に故障することも稀であると考えられる。したがって、それら3個のセンサ912a,912b,912cのうち少なくとも2個は同時に正常であると考えることができ、このように考えることができれば、それら3個のセンサ912a,912b,912cから任意に2個を抽出して検出値の差をとれば、差の絶対値が実質的に0である場合には、その差に対応する2個のセンサは共に正常であり、一方、差の絶対値が実質的に0でない場合には、その差に対応する2個のセンサの一方は故障し、他方は正常であると推定できる。そこで、本実施形態においては、それら3個のセンサ912a,912b,912cから任意に2個を抽出して検出値の差をとることが、差の絶対値が実質的に0であることが生じるまで続けられ、そして、差の絶対値が実質的に0となったならば、その差を生じさせた2個のセンサのいずれかの検出値に基づいて操作ストロークが演算される。よって、本実施形態によれば、操作ストローク検出装置912の故障に起因して操作ストロークが検出不能となる事態を回避できる。なお、そのような操作検出技術は、3個の検出値に対して多数決理論を適用することにより、検出値が実質的に等しい2個のセンサは共に正常であるが、残りのセンサは異常であるとの判断に基づいて行われるものであると考えることもできる。
【0062】
本ルーチンは図11にフローチャートで表されている。本ルーチンも、イグニションスイッチ918がOFFからONに操作された後、繰返し実行される。各回の実行時には、まず、S111において、各センサ912a,912b,912cの検出値(生値)SS1,SS2,SS3が入力される。その後、S112において、まず、検出値SS1とSS2との差の絶対値が0に近い判定値Δ2以下であるか否かが判定され、その判定がYESであれば、検出値SS1が選択される。その判定がNOであれば、検出値SS2とSS3との差の絶対値が判定値Δ2以下であるか否かが判定され、その判定がYESであれば、検出値SS2が選択される。その判定がNOであれば、検出値SS3とSS1との差の絶対値が判定値Δ2以下であるか否かが判定され、その判定がYESであれば、検出値SS3が選択される。
【0063】
その後、S113において、RAM904にストアされている基準値Se1〜Se3のうち、選択された検出値SS*に対応するものがRAM904から読み出され、続いて、S114において、操作ストロークSF の今回値が、検出値SS1〜SS3から選択された選択検出値SS*から、基準値Se1〜Se3のうち、選択された検出値SS*に対応する対応基準値Se*が引き算されることにより、演算される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0064】
次に、前輪ブレーキ制御ルーチンを説明する。
本ルーチンは、右前輪FRと左前輪FLとに関して順にかつ繰返し実行される。各回の実行時には、まず、S131において、電気ブレーキ許可フラグFが1であるか否かが判定される。今回は、1であると仮定すれば、判定がYESとなり、S132に移行する。このS132においては、モータ回転位置センサ914およびモータ電流センサ916から各種信号が入力され、さらに、最新の操作ストロークSF がRAM904から読み出される。次に、S133において、読み出された操作ストロークSF に基づき、操作ストロークと車輪制動力との関係(ROM902に記憶されている。)に従い、今回の目標車輪制動力が決定され、さらに、その決定された目標車輪制動力と、検出されたモータ回転位置およびモータ電流とに基づき、モータ20に出力すべき指令が演算される。その後、S134において、演算されたモータ指令がモータ20に対して出力される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0065】
これに対して、今回は、電気ブレーキ許可フラグFが0であると仮定すれば、S131の判定がNOとなり、S135において、モータ指令が0とされ、その後、S134において、そのモータ指令がモータ20に対して出力される。それにより、今回は、電動式ディスクブレーキ22が非作用状態とされる。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0066】
次に、後輪ブレーキ制御ルーチンを説明する。
本ルーチンは、右後輪RRと左後輪RLとに関して順にかつ繰返し実行される。各回の実行時には、まず、S151において、電気ブレーキ許可フラグFが1であるか否かが判定される。今回は、0であると仮定すれば、判定がNOとなり、S156において、ソレノイド782をOFFにするための信号が出力され、それにより、マニュアルブレーキである機械式ドラムブレーキ36が作動可能な状態が選択される。その後、S157において、モータ指令が0とされ、続いて、S25において、そのモータ指令がモータ30に対して出力される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0067】
これに対して、今回は、電気ブレーキ許可フラグFが1であると仮定すると、S151の判定がYESとなり、S152において、ソレノイド782をONにするための信号が出力され、それにより、電気ブレーキである電動式ドラムブレーキ32が作動可能な状態が選択される。その後、S153において、前輪ブレーキ制御ルーチンにおけるS132と同様にして、モータ回転位置およびモータ電流の検出ならびに操作ストロークSF の読込みが行われ、続いて、S154において、それら検出および読込みの結果に基づき、S133と同様にして、モータ指令が演算される。その後、S155において、演算されたモータ指令がモータ30に対して出力される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0068】
ここで、左右後輪に関して、操作ストローク検出装置912を含むブレーキシステムの電気系統が正常であるか異常であるかに応じて、電気ブレーキである電動式ドラムブレーキ32とマニュアルブレーキである機械式ドラムブレーキ36とのいずれかが選択される様子を図14ないし図18のタイムチャートに基づいて具体的に説明する。
【0069】
まず、図14に示すように、イグニションスイッチ918(図において「IG.SW」で表す。)をOFFからONに操作したときに、ブレーキペダル34が踏み込まれておらず、よって、ブレーキスイッチ910(図において「ブレーキSW」で表す。)の出力信号がOFFである場合には、その出力信号がOFFからONに変化したことに応じて、センサ静的異常判定ルーチンによるセンサ静的異常判定が開始される。この判定により、ブレーキシステムの電気系統が正常であると判定されれば、最初のブレーキ操作の開始時から電気ブレーキが選択され、これに対して、異常であると判定されれば、最初のブレーキ操作の開始時からマニュアルブレーキが選択される。
【0070】
これに対して、図15に示すように、イグニションスイッチ918をOFFからONに操作したときに、既にブレーキペダル34が踏み込まれている場合には、ブレーキスイッチ910の出力信号が最初のブレーキ操作の開始時からONであるため、直ぐにはセンサ静的異常判定ルーチンによるセンサ静的異常判定が開始されない。このとき、その回のブレーキ操作において3個のセンサ912a,912b,912cのすべてに関して検出値SS1,SS2,SS3(出力信号に対応する。)が同じ方向に変化する時期を待って、センサ動的異常判定ルーチンによるセンサ動的異常判定が開始される。その開始前にあっては、電気ブレーキが正常であるか否かをかかわらず、マニュアルブレーキが選択されて作動させられる。そのセンサ動的異常判定ルーチンにより、ブレーキシステムの電気系統が正常であると判定されれば、そのときから電気ブレーキが選択されて作動させられ、一方、異常であると判定されれば、引き続いてマニュアルブレーキが選択されて作動させられる。
【0071】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、操作ストローク検出装置912とECU800のうち図11の操作ストローク検出ルーチンを実行する部分とが互いに共同して「操作値検出装置」の一例を構成し、ECU800のうち図13の後輪ブレーキ制御ルーチンを構成する部分が「電気ブレーキ制御装置」の一例を構成し、操作ストローク検出装置912とブレーキスイッチ910とモータ回転位置センサ914とモータ電流センサ916とECU800と第1および第2ドライバ920,922と第1および第2バッテリ924,926と主バッテリ928とが互いに共同して「電気ブレーキ装置」の一例を構成し、ブレーキスイッチ910とECU800のうち図9のセンサ静的異常判定ルーチンおよび図10のセンサ動的異常判定ルーチンを実行する部分とが互いに共同して「電気ブレーキ装置異常判定装置」の一例を構成し、ECU800のうちS9のS41およびS10のS56を実行する部分とマニュアルブレーキ制御装置300とが互いに共同して「ブレーキ選択装置」の一例を構成しているのである。また、ECU800のうち図9のS31ないしS37および図10のS51ないしS53を実行する部分が「検出装置異常判定装置」の一例を構成しているのである。また、ECU800のうち図10のS52およびS53を実行する部分が「判定手段」の一例および「手段」の一例を構成しているのである。
【0072】
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多く、異なるのは、後輪ブレーキ制御ルーチンのみについてであるため、そのルーチンについてのみ詳細に説明し、他の要素について同一の符号を使用することによって詳細な説明を省略する。
【0073】
3個のセンサ912a,912b,912cのすべてに関して検出値SS1,SS2,SS3が同じ方向に変化する時期を待って、センサ動的異常判定ルーチンによるセンサ動的異常判定が開始された場合に、その回のブレーキ操作が、操作ストロークが増加する期間を経ることなく、終了してしまう場合がある。この場合、第1実施形態においては、図17に示すように、その回のブレーキ操作において、センサ動的異常判定ルーチンによりブレーキシステムの電気系統が正常であると判定されれば、車両制動力を減少させればよい期間といえども、マニュアルブレーキから電気ブレーキに切り換えられる。しかし、そのような期間であれば、たとえ電気ブレーキが正常であることが判明したからといって、マニュアルブレーキから電気ブレーキに切り換えることはそれほど重要なことではない。そこで、本実施形態においては、図18に示すように、そのような場合には、電気ブレーキが正常であることが判明した後にも、その回のブレーキ操作が終了するまでは、マニュアルブレーキを選択し続け、次回のブレーキ操作においてその当初から電気ブレーキを選択して作動させるようになっている。
【0074】
そのため、本実施形態においては、後輪ブレーキ制御ルーチンが、第1実施形態におけるルーチンに変更が加えられている。以下、本ルーチンを図16に示すフローチャートに基づいて詳細に説明するが、第1実施形態におけるルーチンと共通するステップについては簡単に説明する。
【0075】
本ルーチンも、右後輪RRと左後輪RLとに関して順にかつ繰返し実行される。各回の実行時には、まず、S201において、電気ブレーキ許可フラグFが1であるか否かが判定される。今回は、0であると仮定すれば、判定がNOとなり、S207において、ソレノイド782をOFFにするための信号が出力され、それにより、マニュアルブレーキである機械式ドラムブレーキ36が作動可能な状態が選択される。その後、S208において、モータ指令が0とされ、続いて、S206において、そのモータ指令がモータ30に対して出力される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0076】
これに対して、今回は、電気ブレーキ許可フラグFが1であると仮定すると、S201の判定がYESとなり、S202において、前記S153におけると同様にして、モータ回転位置およびモータ電流の検出ならびに操作ストロークSF の読込みが行われ、その後、S203において、センサ動的異常判定が、操作ストロークの減少期間に行われ、かつ、現在もその減少期間に属するか否かが判定される。今回は、センサ動的異常判定が、操作ストロークの減少期間に行われなかったか、または、減少期間に行われても、現在はその減少期間とは別の期間(増加期間,保持期間または減少期間)に属すると仮定すれば、判定がNOとなり、S204において、ソレノイド782をONにするための信号が出力され、それにより、電気ブレーキである電動式ドラムブレーキ32が作動可能な状態が選択される。その後、S205において、前記154におけると同様にして、モータ指令が演算される。その後、S206において、演算されたモータ指令がモータ30に対して出力される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0077】
これに対して、今回は、センサ動的異常判定が、操作ストロークの減少期間に行われ、かつ、現在もその減少期間に属すると仮定すれば、S203の判定がYESとなり、電気ブレーキ許可フラグFが0である場合と同様に、S207において、ソレノイド782をOFFにするための信号が出力され、それにより、マニュアルブレーキである機械式ドラムブレーキ36が作動可能な状態が選択される。その後、S208において、モータ指令が0とされ、続いて、S206において、そのモータ指令がモータ30に対して出力される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0078】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、ECU800のうち図16の後輪ブレーキ制御ルーチンを構成する部分が「電気ブレーキ制御装置」の一例を構成しているのである。
【0079】
なお付言すれば、以上説明したいくつかの実施形態においてはいずれも、後輪のみに関して電気ブレーキとマニュアルブレーキとの選択が可能とされてそれらブレーキに対して本発明が適用されているが、前輪に関してもブレーキ選択を可能にして前輪ブレーキと後輪ブレーキとの双方に対して本発明を適用したり、後輪に代えて前輪に関してブレーキ選択を可能にして前輪ブレーキに対して本発明を適用することが可能である。
【0080】
さらに付言すれば、それら実施形態においてはいずれも、操作ストローク検出装置912を構成する3個のセンサ912a,912b,912cの出力信号に基づいて演算された検出値SS1,SS2,SS3を用いてセンサの静的および動的異常判定が行われるようになっているが、演算前の出力信号を用いてそれら異常判定を行うことも可能である。
【0081】
以上、本発明のいくつかの実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、それらの他にも、特許請求の範囲を逸脱することなく当業者の知識に基づいて種々の変形,改良を施した形態で本発明を実施することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態であるブレーキシステムの全体構成を示す系統図である。
【図2】図1における電動式ドラムブレーキと機械式ドラムブレーキとを拡大して示す側面断面図である。
【図3】図2におけるシュー拡張アクチュエータを拡大して示す部分断面側面図である。
【図4】図1におけるマニュアルブレーキ制御装置をブレーキペダル装置と共に拡大して示す側面断面図である。
【図5】そのマニュアルブレーキ制御装置を示す断面図である。
【図6】そのマニュアルブレーキ制御装置を示す別の断面図である。
【図7】そのマニュアルブレーキ制御装置を示す分解斜視図である。
【図8】図1における操作ストローク検出装置を示す正面図である。
【図9】図1におけるコンピュータのROMに記憶されているセンサ静的異常判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図10】そのROMに記憶されているセンサ動的異常判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】そのROMに記憶されている操作ストローク検出ルーチンを示すフローチャートである。
【図12】そのROMに記憶されている前輪ブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】そのROMに記憶されている後輪ブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図14】上記第1実施形態において電気ブレーキとマニュアルブレーキとが選択される様子の一例を示すタイムチャートである。
【図15】上記第1実施形態において電気ブレーキとマニュアルブレーキとが選択される様子の別の例を示すタイムチャートである。
【図16】本発明の第2実施形態であるブレーキシステムにおけるコンピュータのROMに記憶されている後輪ブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図17】前記第1実施形態において電気ブレーキとマニュアルブレーキとが選択される様子の一例を示すタイムチャートである。
【図18】上記第2実施形態において電気ブレーキとマニュアルブレーキとが選択される様子の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
30 DCモータ
32 電動式ドラムブレーキ
34 ブレーキペダル
36 機械式ドラムブレーキ
300 マニュアルブレーキ制御装置
800 電子制御ユニットECU
912 操作ストローク検出装置

Claims (7)

  1. ブレーキ操作部材と、
    そのブレーキ操作部材の操作力により機械的に車輪を制動するマニュアルブレーキと、
    前記ブレーキ操作部材の操作に応じて、前記車輪と同じかまたは異なる車輪を電気的に制動する電気ブレーキを有する電気ブレーキ装置であって、さらに、その電気ブレーキ装置に異常があるか否かを判定する電気ブレーキ装置異常判定装置をも有するものと、
    前記電気ブレーキ装置異常判定装置の判定結果に基づいて前記電気ブレーキと前記マニュアルブレーキとのいずれかを選択し、前記ブレーキ操作部材が操作されればその操作に応じた作動が可能な状態とするブレーキ選択装置であって、前記電気ブレーキ装置の電源投入時から最初に前記電気ブレーキ装置異常判定装置により前記電気ブレーキ装置に異常があるか否かが判定されるまで、前記マニュアルブレーキを選択して作動可能な状態とするものと
    を含むことを特徴とするブレーキシステム。
  2. 前記ブレーキ選択装置が、前記電気ブレーキ装置の電源投入時から最初に前記電気ブレーキ装置異常判定装置により前記電気ブレーキ装置に異常はないと判定されるまで、前記マニュアルブレーキを選択し続け、最初に電気ブレーキ装置異常判定装置により電気ブレーキ装置に異常はないと判定されたときに、前記電気ブレーキを選択するものである請求項1に記載のブレーキシステム。
  3. 前記電気ブレーキ装置が、さらに、(a) 前記ブレーキ操作部材の操作値を検出する操作値検出装置と、(b) その操作値検出装置により検出された操作値に基づいて前記電気ブレーキを制御する電気ブレーキ制御装置とを含み、前記電気ブレーキ装置異常判定装置が、前記操作値検出装置に異常があるか否かを判定する検出装置異常判定装置を含む請求項1または2に記載のブレーキシステム。
  4. 前記操作値検出装置が、各々、前記操作値に応じて変化する信号を出力する複数のセンサを含み、前記検出装置異常判定装置が、それら複数のセンサの複数の出力信号を相互に比較することにより、前記操作値検出装置に異常があるか否かを判定する判定手段を含む請求項3に記載のブレーキシステム。
  5. 前記判定手段が、前記複数のセンサの複数の出力信号が互いに同じ方向に変化する場合には、それら複数のセンサのいずれにも異常はないと判定する手段を含む請求項4に記載のブレーキシステム。
  6. 前記マニュアルブレーキと前記電気ブレーキとが共に、車輪と共に回転する回転体に摩擦材を押し付けて回転体の回転を抑制することにより前記車輪を制動する形式のブレーキである請求項1ないし5のいずれかに記載のブレーキシステム。
  7. 前記マニュアルブレーキと前記電気ブレーキとが前記回転体および前記摩擦材を共有する請求項6に記載のブレーキシステム。
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