JP4130031B2 - 球面アクチュエータ用ステータ及びそれを用いた球面アクチュエータ - Google Patents

球面アクチュエータ用ステータ及びそれを用いた球面アクチュエータ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面波型の超音波振動を利用した3方向の自由度を有する球面アクチュエータに関し、特に該アクチュエータの出力特性を向上させることのできるステータ及びそれを用いた球面アクチュエータに関する。
【0002】
【従来の技術】
図1は従来の多自由度アクチュエータの一例を示す(特開平5−252273号公報)。この多自由度アクチュエータにおいては、等間隔で配置された4個のステータ6、7、8、9により略球体状ないしは略球殻状をしたロータ4が把持されている。このステータ6、7、8、9は図2に示すような構造の回転型表面波振動子からなる。
【0003】
すなわち、金属等の弾性材料によって形成された、固定部11から伸びる薄い円錐殻状をなす支持体10外周の円環状平坦部(以下、「円環状部分」という。)の表面には、一定間隔で突設された接触片12が環状に配列されており、円環状部分の裏面には接触片12に対応してPZT等の圧電素子13が貼り付けられている。ステータは図3に示すように接触片12をロータ4と接触させてロータ4を支持するようになっており、そのため接触片12の上面にはロータ4の表面曲率と同一の曲率を有する凹状のアール面12aが施されている。
【0004】
このステータ6、7、8、9は通常超音波モータとして使用されているものと同様の原理によってロータ4を駆動するものであって、円環状部分裏面に貼り付けた圧電素子13に超音波領域に相当する2相の高周波交流電圧を印加することにより、圧電素子は印加された交流電圧の周波数に等しい周期で振動する。このように圧電素子を振動させることにより接触片12を共振させ、接触片12にたわみ振動や伸縮振動等を発生させるのである。
【0005】
この共振現象のうち、駆動力を取り出すことができる振動モードを「駆動モード」と呼ぶ。円環状部分を所定の駆動モードで励振すると、接触片12の列の特定の位置に振動の腹と節が生じ、圧電素子に印加する2相交流電圧を調節することによって、節の位置が次々に移動し接触片12の列中を円周方向に進む進行波(接触片12のたわみ振動)となる。この進行波により接触片12表面の粒子が周方向と縦方向を軸とする楕円軌道を描いて運動し、ロータ4の表面がステータの円周方向へ駆動される。ステータ6、7、8、9相互の駆動方向を整合させれば、ロータ4は各ステータの軸心のまわりに回転する。この場合、ロータ4に伝達される駆動力及び回転速度は、接触片12の表面粒子が描く楕円軌道の大きさと形に影響される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
超音波モータにおいては、圧電素子の振動によって生じる運動エネルギーを取り出すために接触片12を設けなければならない。この接触片12、支持体10及び円環状部分を含む弾性体の全体形状は、これを駆動モードで励振したとき良好な共振性を示し、共振による振動増幅率が高い形状であることが求められる。
【0007】
しかしこのステータ6、7、8、9を球面アクチュエータに適用するには、図3に示すように、略球体状ないしは略球殻状のロータ4に接触させなければならない。そのため、環状に配列されている接触片12のアール面12aはロータの表面の曲率と同一の曲率を有する凹状のアール面となり、外周に向かって高さが高くなる。接触片12の高さが高くなると質量及び剛性が増加し、これらが振動モードに悪い影響を与えて所望する駆動モードを得られないことや、所望の共振状態にならないことがある。
【0008】
図9に、従来形状の接触片12を備えたステータを球面アクチュエータに適用し、円環状部分に6箇所の節を持つ駆動モードを発生させた状態を示す。これは有限要素法及びモーダル解析法により計算したものである。これによれば、駆動モードが影響を受け、接触片12のアール面12aにおけるたわみ振動や伸縮振動が不安定になっていることが分かる。接触片12の形状が大きいことが邪魔をしていると考えられる。このように接触片12の高さが高く、また半径方向に長い場合には、駆動モードの生成状態が不安定になり、この状態で接触片12がロータ4に接触しても、ロータ表面がステータの円周方向へ円滑に駆動されない。
【0009】
また従来形状の接触片12とロータ4との接触圧力が大きいと、この接触片12が変形してしまい、十分に振動を伝達することができない。また振動を増幅する作用を持たないこの部分の質量が増大すると、慣性モーメントの作用によって振動は低く抑えられてしまう。このため、圧電素子13が発生した振動の増幅率が低くなり、球面アクチュエータのエネルギー効率が悪くなるという問題があった。
【0010】
また、円環状部分を支持している支持体10に関しては、ステータの振動に影響を与えないこと、外部に振動が漏れないこと、支持体10自身の振動が低いことが必要である。このため、支持体10の厚みを他の部分より薄くして剛性を低下させ、変形しやすくすることでこれらの条件を満たしている。しかし接触片12とロータ4との接触圧力が大きいと、支持体10の剛性が低いために変形してアール面12aがステータの半径方向に広がってしまう。そのため、ロータ4に均一に接触できなくなり、駆動力を十分に伝達できないという問題があった。
【0011】
本発明は上述した従来例における問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、常に所望の駆動モードを安定して発生させ、接触片先端表面が行う楕円運動を安定させ、またその運動を増大させると共に、ロータとの接触状態を安定させることより、滑り等の損失を低減しうるステータ、及び該ステータを球状ロータと組み合わせてなる球面アクチュエータを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、圧電素子により駆動されて微小振動を発生する接触片を円環状に配置した複数のステータを、略球状のロータ表面に接触させてロータを回転駆動する球面アクチュエータ用のステータにおいて、該ステータが、ステータ中心部を形成する固定部(31)、該固定部から斜め外側上方に延びる支持体(30)、該支持体の端部からほぼ水平方向外側に設けられた平坦部からなる円環状部分(34)、該円環状部分の少なくとも表側平坦部の中心よりに設けられ、接触面(32a)として、前記円環状部分がなす面に略平行な面を有する前記接触片(32)、及び、該接触片より外側の前記円環状部分の表面平坦部及び / 又は裏面平坦部に設けられた前記圧電素子(33)からなることを特徴とする、球面アクチュエータ用ステータ、及び、該ステータと球状ロータを組み合わせてなる球面アクチュエータである。
【0013】
本発明の上記ステータでは、円環状部分の裏面に接触片と同様な形状を持った突起を配置してもよい。これにより、接触片が表面にのみ存在することによる振動の不均一を解消することができ、また、前記突起が接触片と同様に楕円状の振動軌跡を生じて振動するので、裏面からも振動によるエネルギーを取り出すことができる。
【0014】
本発明のステータにおいては、接触片32が円環状部分34の平坦部における円環中心寄りに設けられるので、ロータとの接触部をロータの底部により近づけることができ、これによって、従来のステータより接触片の高さを低減し、ステータのロータとの接触面32 a を、前記円環状部分34がなす面と略平行にすることができる。また、接触片32より外側の円環状部分34の平坦部に空きが生じるので、この空きに圧電素子(33)を配することもできる。
【0015】
なわち本発明のステータにおいては、環状に配列される接触片32を円環状部分34の平坦部の中心寄りに配置するので、接触片の高さをこれまでよりも低く、またその質量を少なくすることができる。これにより接触片の形状がこれまでよりも全体的に小さくなり、駆動のためにロータに押し付けられた際変形し難くなる。
【0016】
特に、接触片の形状がこれまでよりも小さくなることで、駆動モードの生成がが安定し、また振動の増幅率が向上する。従って、接触片表面に発生する楕円状振動軌跡の大きさを増大させることができるので、ロータを円滑に回転させることができ、ロータ駆動特性を向上することができる。
【0017】
また、接触片32をステータの中心寄りに移動させたことにより、圧電素子33を、その振幅が最も大きくなるステータの円環状部分34における平坦部の最外周部に、しかも裏側だけでなく表側にも配置することが可能になる。これにより、両面から圧電素子33の振動が入力されるので、ステータの円環状部分34をより大きく駆動モードに励振することができる。その結果、接触片32の接触面32 aにおける楕円振動軌跡を大きくすることができるので、ステータを大型化することなく駆動力を増大させることができる。
【0018】
さらに、接触片の先端が、接触片が配列される円環の面に対して略平行な面となっているので、この面を接触面として、ステータの半径と比較して極端に半径が大きい球状ロータに対しても、駆動力を伝達することが可能になる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施例を幾つか挙げ、添付図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(実施例1)図4は、本発明の実施例1として例示した球面アクチュエータのステータの構造を示す平面図(a)及び断面図(b)である。各ステータ26、27、28、29は図4に示すような構造の回転型表面波振動子からなる。すなわち、金属等の弾性材料によって形成された弾性体であり、その外周部に位置する円環状部分34の表面には一定のピッチで接触片32が環状に突設されており、円環状部分34の裏面には接触片32を振動させるPZT等の圧電素子33が貼り付けられている。ステータ26、27、28、29は接触片32をロータ4と接触させるようになっており、そのため接触片32の上面にはロータ表面に安定して接触する、円環状部分がなす面と略平行な接触面32aがある。
【0021】
ステータ26、27、28、29は通常の超音波モータとして使用されるものと同様の原理によってロータ4を駆動するものであって、圧電素子33を振動させることによって弾性体上の接触片32の表面32aにたわみ振動や伸縮振動等を発生させるものである。そして、この圧電素子33を所定の駆動モードで駆動すると、円環状部分34の表面を円周方向に進む進行波(接触片32のたわみ振動)により、接触片32の表面の粒子が周方向及び縦方向を軸とする楕円軌道を描いて運動し、ロータ4はこの運動によって駆動されて回転する。
【0022】
図5は、上記のステータ26、27、28、29を組み込んだ、本発明の球面アクチュエータを示す一部破断平面図である。本発明の球面アクチュエータにおいては、円形ないしは多角形の窓2を有するケーシング1の空洞3内に略球体状ないしは略球殻状をしたロータ4が納められている。ロータ4は空洞3の内壁面に接することなく、同一円周上に配置された4個ないしは3個のステータ26、27、28(29)のみによって支持される。
【0023】
図6は、上記のステータ26、27、28、29がロータ4に接触する状態を説明する概念図である。ステータ26、27、28、29では、図4に示すように、接触片32は平板状をなす円環状部分34の中心寄りに突設配列されているから、それらの先端は、図6に示すような状態でロータ4に接触することが可能であると共に、接触片32の高さを相対的に低くし、形状を小さくすることができる。
【0024】
図10は実施例1のステータにおいて、円環状部分の円周方向上に5個の腹が存在する駆動モードを示す状態図である。ここに見られるように、駆動モードは安定し、接触片の表面粒子は安定にたわみ振動や伸縮振動をしている。この状態で接触片の表面がロータと接触すると、ロータ表面はステータの円周方向へ円滑に駆動される。
【0025】
(実施例2)
図7は、本発明の実施例2としての球面アクチュエータのステータの構造を説明する平面図(a)及び断面図(b)である。図7に示すステータ26、27、28、29では、円環状部分34の裏面に、接触片32と同様の形状をした突起35が配置されている。ロータ4と接触片32との接触圧力が過大で接触片32の振動が抑制され駆動力を取り出せなくなった状態でも、突起35は振動を持続し、これが持つ慣性力が円環状部分34に作用し、接触片32の励振を助けてその振動を誘起する。この作用により、ロータ4と接触片32との接触圧力を従来より増大させても、ロータに対して支障なく駆動力を働かせることが可能になる。
【0026】
(実施例3)
図8は、本発明の実施例3としての球面アクチュエータのステータ26、27、28、29の構造を説明する平面図(a)及び断面図(b)である。図8に示すステータ26、27、28、29では、円環状部分34の背面だけでなく、接触片32を円環状部分34の中心寄りに移したことにより生じる円環状部分34表面の空間にも、圧電素子33が配置されている。これにより、振動を発生する圧電素子33の面積を増加することができ、しかも円環状部分34の両面から振動を入力することができる。その結果、接触片32表面における楕円振動軌跡を大きくすることができるので、ステータを大型化することなく駆動力を増大させることができる。
【0027】
(比較例)
本明細書冒頭及び図1〜図3に記載した従来型の多自由度アクチュエータを実施例1〜3に対する比較例とする。この多自由度アクチュエータの出力特性の一例は、日本ロボット学会誌 Vol.13 No.2, pp.235〜241, 1995に掲載されている。
【0028】
表1は、実施例1〜3のステータを上記日本ロボット学会誌論文に記載されている多自由度アクチュエータに適用し、同論文と同条件下で測定した出力特性を比較例と対比したものである。表の各項目の単位は、印加電圧が[Vp-p]、ロータ回転数が[rpm]、駆動トルクが[g・cm]である。なお、各実施例における印加電圧は、圧電素子が破壊に到らない範囲に留めた。
【表1】
Figure 0004130031
【0029】
表1から、実施例1〜3の出力特性は、比較例に対してロータ回転数、駆動トルクとも大幅に向上していることが分かる。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、球面超音波モータに用いられるステータに配置する接触片を円環状部分の中心寄りに配置し、接触片の高さを低くすると共にロータとの接触面を円環面にほぼ並行にして接触片の大きさを小さくしているので、これにより、駆動モード時の振動の損失減少させ、振動の効率を向上させることができる。
【0031】
接触片の大きさが小さくなったことで、ロータと接触片との接触圧力を大きくした場合にも接触片が変形することがなく、円環状部分に励起される振動を接触片の接触面に十分に伝達することができ、しかも接触圧力に比例して増大する摩擦力が駆動トルクに反映されるので、駆動トルクを有効に増大させることができる。
【0032】
本発明に従って、接触片と同様の形状を有する突起を円環状部分の裏面に環状に配置するならば、ロータと接触片との接触圧力が過大なため接触片の振動が抑制される場合においても、円環状部分の裏面に配した突起はその運動を阻害されることなく振動を続け、この振動が円環状部分に逆伝播して接触片の励振を助け、接触片の振動を誘起する。そのためロータと接触片との接触圧力をさらに増大させることができるので、より大きい駆動力を取り出すことが可能となり、エネルギー変換効率を向上できる。
【0033】
また本発明に従って、接触片が円環状部分の中心寄りに移動することで生じる空間に圧電素子を増設するならば、振動源としての圧電素子の面積を増加することができるので、ステータの体積もしくは大きさを増加することなく、接触片の表面粒子が描く楕円軌道を大きくして、駆動トルク及びロータ回転速度を増大することができる。
【0034】
また、接触片先端に円環面と略平行な面を持たせれば、この面を接触面として、極端に半径が大きいロータや、平板状のロータに対して駆動力を伝達することができる。
【0035】
【図面の簡単な説明】
【図1】従来例としての多自由度アクチュエータを示す一部破断平面図である。
【図2】図1のアクチュエータ中のステータを示す正面図(a)及び断面図(b)である。
【図3】図2と同じ従来のステータがロータに接触する様子を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施例としての球面アクチュエータのステータを示す正面図(a)及び断面図(b)である。
【図5】図4と同じ実施例のステータを用いた球面アクチュエータを示す一部破断平面図である。
【図6】図4と同じ実施例のステータがロータに接触する様子を示す概念図である。
【図7】本発明の他の実施例としてのステータを示す正面図(a)及び断面図(b)である。
【図8】本発明のさらに他の実施例としてのステータを示す正面図(a)及び断面図(b)である。
【図9】従来のステータにおいて、接触片が大きいことによって駆動モードに影響を及ぼした場合の状態を示す図である。
【図10】本発明の一実施例によるステータにおいて、駆動モードが安定して発生している状態を示す図である。
【符号の説明】
1…ケーシング
2…ケーシングの窓
3…空洞
4…ロータ
5…アーム
6、7、8、9…従来のステータ
23…圧電素子駆動電源
26、27、28、29…本発明によるステータ
10、30…支持体
11、31…固定部
12、32…接触片
12a、32a…アール面(接触面)
13、33…圧電素子
34…円環状部分
35…突起

Claims (4)

  1. 圧電素子により駆動されて微小振動を発生する接触片を円環状に配置した複数のステータを、略球状のロータ表面に接触させてロータを回転駆動する球面アクチュエータ用のステータにおいて、該ステータが、ステータ中心部を形成する固定部(31)、該固定部から斜め外側上方に延びる支持体(30)、該支持体の端部からほぼ水平方向外側に設けられた平坦部からなる円環状部分(34)、該円環状部分の少なくとも表側平坦部の中心よりに設けられ、接触面(32a)として、前記円環状部分がなす面に略平行な面を有する前記接触片(32)、及び、該接触片より外側の前記円環状部分の表面平坦部及び / 又は裏面平坦部に設けられた前記圧電素子(33)からなることを特徴とする、球面アクチュエータ用ステータ。
  2. 前記接触片(32)、円環状部分(34)の表裏に設けたことを特徴とする請求項1記載されたステータ。
  3. 前記圧電素子(33)を、円環状部分(34)の表裏に設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載されたステータ。
  4. 請求項1〜3の何れかに記載されたステータを、略球状のロータと組み合わせて使用することを特徴とする球面アクチュエータ。
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