JP4129526B2 - 高温耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化ケイ素セラミックス上にコーティングする高温耐水蒸気腐食層に関するものであり、更に詳しくは、1100〜1600℃の高温下で、10〜30%の水蒸気分圧下でも水蒸気腐食を抑制可能な新規な耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックスに関するものである。本発明は、20%程度の高い水蒸気分圧となる化石燃料を燃焼するガスタービンの部材として窒化ケイ素を応用する際に、高温水蒸気腐食を抑制することが可能な新しい耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックスを提供するものとして有用である。
【0002】
【従来の技術】
窒化ケイ素は、1600℃までの高温で酸化してシリカを生成し、更に高温では蒸気相のSiOを生成するため、損耗する。高温で水蒸気が存在する環境下では、酸化に加えて水蒸気による腐食が生じ、損耗が加速されるため、実際の水蒸気分圧が20%程度に達する燃焼場となるガスタービン部材へ窒化ケイ素を応用する際には高温における水蒸気腐食を抑制する層をコーティングする必要がある。高温における耐酸化性に優れる窒化ケイ素セラミックスに関する先行技術文献(例えば、特許文献1、2、3参照)に記載されているように、焼結助剤として希土類酸化物を添加し、その化合物が表面に形成されることによる耐酸化性向上の機構が提案されている。
【0003】
難焼結性の窒化ケイ素を焼結する際に、焼結助剤として添加する希土類酸化物が窒化ケイ素表面にマイグレートし、窒化ケイ素の酸化にともない発生するシリカと反応して生成する希土類シリーケート系化合物が耐酸化性及び耐水蒸気腐食性に優れることから、高温における耐酸化及び耐水蒸気腐食皮膜としての応用が検討されていることは公知である。窒化ケイ素の強度は、焼結助剤の希土類酸化物が重希土になるにしたがって向上することが知られており、最も高い強度が得られているLu2 O3 を焼結助剤とした窒化ケイ素セラミックスが、高温構造部材への応用については有利であると考えられている。
【0004】
Lu2 O3 を焼結助剤とした場合、Lu2 O3 と窒化ケイ素が酸化して生じるシリカとが反応し、Lu2 SiO5 及びLu2 Si2 O7 のシリケートを表面の一部で形成し、そのうち、Lu2 Si2 O7 の熱膨張係数が窒化ケイ素の熱膨張係数に近く、耐酸化性に優れることが見出されたことから、Lu2 Si2 O7 層をコートした耐酸化/耐水蒸気腐食−窒化ケイ素が開発されつつあり、公知である。
【0005】
しかし、希土類元素であるLuの元素存在量は、アルミニウムAlやシリコンSi及びチタンTiの十万分の一以下であり、物質存在量が少なく、また、Lu酸化物のコストも高いため、耐酸化あるいは耐水蒸気腐食層としてLu系の化合物を厚さ数百ミクロンもの厚膜で形成する場合には、窒化ケイ素構造部材の製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
炭化ケイ素の耐酸化/耐水蒸気腐食層として、ムライト(以下、Mulliteと記載する)あるいはMullite/BSAS(1−xBaO−xSrO−Al2 O3 −2SiO2 )複合相が検討されており、公知である。Mulliteの高温における耐酸化性については公知であるものの、耐水蒸気腐食性の機構に関する詳細については報告がなされていないのが現状である。また、1100℃以上の高温における耐水蒸気腐食の問題がクローズアップされてからまだ数年しか経過していないため、物質の高温耐水蒸気腐食性についての基礎的知見は、ほとんど得られていないのが現状である。
【0007】
Mulliteの熱膨張係数は、窒化ケイ素セラミックスの熱膨張係数よりも大きいので、Mulliteを単体として窒化ケイ素セラミックスへコーティングすることは不可能である。現在までに公知となっている高温耐水蒸気腐食層の候補材料あるいは高温における耐水蒸気腐食性が調べられている材料は、Lu2Si2 O7 相、Mullite相、BSAS相及びアルミナに限られており、窒化ケイ素へコートする高温耐水蒸気腐食層の物質選定は、Lu2 Si2 O7 以外なされていなかった。
【0008】
チタン酸アルミニウムは、結晶方位による強い物性の異方性が知られており、熱膨張の結晶方位により強い異方性を示すため、チタン酸アルミニウムセラミックス単体では高密度のものが得にくいことが知られている。しかし、Mulliteと複合化させることにより、大気圧下での合成で容易に高密度体を形成するという研究報告は公知である。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−32658号公報
【特許文献2】
特開平5−221728号公報
【特許文献3】
特開平5−208870号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術における諸問題を抜本的に解決することを可能とする新しい窒化ケイ素の高温耐水蒸気腐食層を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、窒化ケイ素の熱膨張係数よりも熱膨張係数が大きいMulliteと窒化ケイ素の熱膨張係数よりも熱膨張係数が小さいチタン酸アルミニウムの高温耐水蒸気腐食性が優れていることを見出し、Mulliteとチタン酸アルミニウムを複合化させることにより窒化ケイ素の熱膨張係数と熱膨張係数を一致させ得る耐水蒸気腐食層を得ることが可能となり、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、物質存在量が豊富なアルミナ(Al2 O3 )、チタニア(TiO2 )及びシリカ(SiO2 )を成分とするMullite/チタン酸アルミニウム複合相を用いた高温耐水蒸気腐食層に係るものであり、Mulliteとチタン酸アルミニウムのそれぞれ異なる高温耐水蒸気腐食性を利用することにより原材料費が安価で高温水蒸気腐食を抑制する窒化ケイ素の耐水蒸気腐食層を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術手段から構成される。
(1)熱膨張係数を基材の窒化ケイ素セラミックスと同じ値に制御したムライト/チタン酸アルミニウム複合相を高温耐水蒸気腐食層としてコーティングした窒化ケイ素セラミックスであって、
1)ムライト(Al6Si2O13)とチタン酸アルミニウム(Al2TiO5)の複合相を、耐水蒸気腐食層として窒化ケイ素上に、厚さ10〜300ミクロンで有し、上記複合相の表面近傍のムライト結晶がアルミナリッチのムライトになっており、2)腐食されにくいチタン酸アルミニウム結晶粒の面が腐食層表面と平行に配列した複合相を層表面に形成されており、3)それらにより、水蒸気腐食を抑制する構造の耐水蒸気腐食層が表面に形成されており、4)高温において、遊離したシリカを生じさせない性状を有する、ことを特徴とする高温耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス。
(2)耐水蒸気腐食層の組成が、ムライトとチタン酸アルミニウムの比率がモル比で、0を含まない0:1〜1:1の比率となる複合組成を有する前記(1)記載の耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス。
(3)ムライト/チタン酸アルミニウムの複合相のコーティングを施した窒化ケイ素を、水蒸気中で、1100〜1500℃の加熱処理を行ない、耐水蒸気腐食層表面を改質し、耐水蒸気腐食性を向上させたものであることを特徴とする前記(1)の耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、1100℃以上の高温下で、水蒸気分圧が30%までの過酷な条件下におけるMullite及びチタン酸アルミニウムの耐水蒸気腐食性が優位であることを明らかにした上で、Mulliteとチタン酸アルミニウムのそれぞれ異なる耐水蒸気腐食機構を利用し、二相を複合化させることで、コーティング基材となる窒化ケイ素セラミックスと同等の熱膨張係数を有する高温耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックスに係るものである。
【0014】
窒化ケイ素セラミックスは、高温で酸化されシリカ層を形成するが、シリカ層は1100℃以上の高温で水蒸気存在雰囲気下で激しく腐食されるため、結果として、窒化ケイ素セラミックスは、高温水蒸気雰囲気下で損耗することが知られている。本発明では、1100℃以上の高温で水蒸気が存在する雰囲気下でも水蒸気腐食を抑制する高温耐水蒸気腐食層としてMullite及びチタン酸アルミニウムの複相化を図った。実際のガスタービン燃焼場においては水蒸気分圧が20%程度に達するため、本発明の耐水蒸気腐食層を施した窒化ケイ素セラミックスは、1100℃以上の温度で、水蒸気分圧が30%までの過酷な条件下でも、水蒸気腐食量をこれまでに公知されている優れた耐水蒸気腐食相とされるLu2 Si2 O7 と同等のレベルにまで抑制した。
【0015】
また、Mullite及びチタン酸アルミニウムは、出発原料としてアルミナ、シリカ、チタニアを用い、いずれの元素もLuよりも十万倍ほど元素存在量が多く、かつ安価である。水蒸気腐食は不純物としてNaなどのアルカリ元素が存在すると顕著に生じることが知られているので、それぞれの出発粉末の純度は、99.9%以上の高純度の粉末が要求され、本発明の耐水蒸気腐食層の形成には純度99.9%の出発原料粉末を用いた。
【0016】
コーティング方法として、例えば、目的とするMulliteとチタン酸アルミニウムの混合割合が1:1となるように、原料粉末となるアルミナ、チタニア、シリカを湿式混合してスラリーを形成させ、市販の窒化ケイ素上へ塗布する方法が例示されるが、本発明の耐水蒸気腐食層作製におけるコーティング方法は、塗布法に限定されない。尚、上記スラリーは、1重量パーセントのPVAを添加した水系スラリーである。
【0017】
窒化ケイ素の熱膨張係数は、焼結助剤の種類や製造方法により若干の違いはあるものの、およそ3.5×10-6/℃程度である。一方、Mulliteの熱膨張係数は、およそ4.2×10-6/℃であり、チタン酸アルミニウムの熱膨張係数は、結晶方位により異方性はあるものの等方的には0である。よって、Mulliteとチタン酸アルミニウムを複合化させることにより熱膨張係数が窒化ケイ素の熱膨張に制御することができる。後記する実施例では、Mulliteとチタン酸アルミニウムをモル比で1:1になるような組成を選択したが、複相組成の熱膨張係数が3から4×10-6/℃に制御するために、Mulliteとチタン酸アルミニウムをモル比で、0:1〜1:1の比率に制御する。
【0018】
Mulliteとチタン酸アルミニウムの複合相は、後記する実施例において詳細に述べるように、初期の高温水蒸気腐食により複合相の表面に更なる水蒸気腐食を抑制する相を形成することにより達成される。すなわち、Mulliteの高温耐水蒸気腐食機構は、表面構造のうち、シリカリッチとなる結晶粒界層が若干腐食されるものの、初期の腐食により表面近傍のMulliteはアルミナリッチのMullite相へ変化し、更なる水蒸気腐食を抑制する。チタン酸アルミニウムの高温耐水蒸気腐食機構は、腐食がチタン酸アルミニウムの結晶方位に異方性があるため、コーティング層は多結晶体となっているため初期の腐食により腐食され易い面が表面に平行に向く結晶粒は腐食されるものの、個々の結晶粒を微細化させることにより腐食され易い結晶粒のすぐ下部に腐食されにくい結晶面が表面に平行に現れる頻度が高くなり、結果として、皮膜表面のチタン酸アルミニウム結晶粒は、腐食されにくい面が皮膜表面に平行に向く構造となり、更なる水蒸気腐食を抑制する。
【0019】
Mulliteとチタン酸アルミニウムの複合相を塗布した窒化ケイ素セラミックスを、一旦、1100℃〜1500℃、0〜30%の水蒸気分圧の下で加熱処理を行なうことで、上記耐水蒸気腐食層の表面を改質することができる。
【0020】
【作用】
窒化ケイ素は、高温で酸化しシリカを生成する。よって、酸化により生成したシリカと耐水蒸気腐食層が反応し新たな化合物を生成しないような工夫を施す必要がある。耐水蒸気腐食層が元々シリカ成分を含む複酸化物で、シリカ成分の吸収・放出が可能な化合物を採用することでこの問題は解決され、本発明では、Mulliteを採用した。Mulliteは、定比の組成ではAl6 Si2 O13となるが、シリカ成分に関して広い不定比性を有する化合物であり、窒化ケイ素の酸化にともない発生する過剰のシリカを吸収し、高温において水蒸気腐食を強く受ける遊離したシリカを生じさせない効果が期待される。
【0021】
窒化ケイ素の熱膨張係数は3.5×10-6/℃ほどであるが、Mulliteの熱膨張係数は4.5×10-6/℃程度の値を持ち、窒化ケイ素の熱膨張係数よりも大きな値となることが知られている。一般的に、基材に皮膜をコーティングする場合、互いの熱膨張係数差が0.5×10-6/℃以上だと、1000℃以上の高温まで加熱する際、あるいは1000℃以上の温度から冷却する際、熱膨張係数の差異によりクラックが発生したり皮膜の破損が生じるとされている。よって、窒化ケイ素の耐水蒸気腐食層としてMulliteを単体として用いることはできない。Mulliteを窒化ケイ素の高温耐水蒸気層の成分として採用するためには、窒化ケイ素よりも小さな熱膨張係数を有する物質との複合化が一つの問題解決法となる。本発明では、熱膨張係数が0となるチタン酸アルミニウムを、Mulliteと複合化させる物質として採用した。すなわち、本発明では、図1に示すように、高温耐水蒸気腐食層としてMulliteとチタン酸アルミニウムの複合相を採用した。Mulliteとチタン酸アルミニウムを複合化させると、Mulliteとチタン酸アルミニウムの混合割合により熱膨張係数を窒化ケイ素の熱膨張係数付近で連続的に制御することが可能となる。
【0022】
Mulliteを高温耐水蒸気腐食層として採用するコンセプトは、Mulliteと同程度の熱膨張係数を有する炭化ケイ素の耐水蒸気腐食相として提案されているが、Mullite単体の耐水蒸気腐食機構は、明らかにされていない。更に、チタン酸アルミニウムの高温耐水蒸気腐食に関しては、現在までのところ全く調べられていない。
【0023】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
(1)高温耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックスの製造
Mulliteとチタン酸アルミニウムの混合比が1:1となるように、純度99.9%のアルミナ、チタニア、シリカの比をモル比で4:1:2とした混合物に、1重量%のPVAを添加し、水中で混合したスラリーを、窒化ケイ素セラミックスに塗布し、1500℃で焼成することにより、高温耐水蒸気腐食層としてMullite/チタン酸アルミニウム複合層をコーティングした窒化ケイ素セラミックスを得た。図1に、Mullite/チタン酸アルミニウムの耐水蒸気腐食層をコートした窒化ケイ素セラミックスの断面の概念図を示す。
【0024】
(2)高温水蒸気腐食試験及びその結果
Mullite及びチタン酸アルミニウムの高温における耐水蒸気腐食性とその機構を解明し、これらの化合物の高耐水蒸気腐食性を実証した。
【0025】
Mullite及びチタン酸アルミニウムの高温耐水蒸気腐食性は、1500℃で窒素と酸素の比が体積比で79:21となるよう混合した模擬空気に模擬空気と水蒸気の比が重量で70:30、すなわち、30%の水蒸気分圧となる混合ガスを管状炉に導入して試験した。多くの酸化物は1000℃以上の高温における水蒸気腐食のほかに、400〜500℃付近の比較的低温で生じる低温水蒸気腐食性を示す。低温における水蒸気腐食の効果を排除するため、混合ガスの導入は1500℃に達した後、行なった。腐食試験時間は100時間とし、低温における水蒸気腐食の効果を排除するため、100時間の試験終了後、温度を降下させる前にガスの導入を停止した。昇温及び降温速度は250℃/毎分とした。
【0026】
試験を行なった試料は、Mullite、チタン酸アルミニウムとし、比較試料として、高温における耐水蒸気腐食性が優れていると報告されているLu2 Si2 O7 を同一条件下で試験した。用いたセラミックス体は何れも純度が99.9%と公証されている高純度のアルミナ粉末、チタニア粉末、シリカ粉末及びルテチア粉末をそれぞれの化合物の組成に混合し、直径が1.5cmのペレット状に加圧成形し、1600℃で12時間、大気中で焼成することで得た。
【0027】
図2に、上記高温水蒸気腐食試験の結果、得られた腐食量、すなわち、単位面積あたりの重量減少を示す。Mulliteもチタン酸アルミニウムもともに腐食量は10-4のオーダーであり、高温における耐水蒸気腐食性が優れるとされるLu2 Si2 O7 の腐食量と同じオーダーであった。シリカについては高温腐食機構が明らかにされており、腐食量は温度とともに指数間数的に増加し、水蒸気分圧の二乗に比例することが公知である。物質の高温における水蒸気腐食量は物質により大きな差が生じることから、同じオーダーの腐食量を示すことは、すなわち、同じレベルの腐食性を示すといえる。Mullite及びチタン酸アルミニウムの腐食量がこれまでのところ最も高温耐水蒸気腐食性が優れるとされるLu2 Si2 O7 と同じオーダーにあることは、Mullite及びチタン酸アルミニウムの高温耐水蒸気腐食性が、Lu2 Si2 O7 と同じレベルで非常に優れることを示している。
【0028】
図3に、腐食試験の前後でMulliteバルク表面から得られたX線回折図形を示す。試験前の図形では全てのピークがMullite相と同定できるのに対して、試験後の図形では、図中に矢印で示しているアルミナのピークが微量ながら検出されている。更に、Mulliteの020ピークと200ピークが明確に分離している。このように、020ピークと200ピークが分離していくのは、斜方晶系をとるMullite結晶で格子定数のaとbの差がより大きくなる、すなわち、より斜方晶的になることを意味している。Mullite結晶は、アルミナ成分及びシリカ成分において広いの不定比性を有することが広く知られており、アルミナがリッチになるに連れより斜方晶系に歪むことは公知である。よって、この場合、高温水蒸気腐食試験によって、ほぼ定比の組成を有していたバルク表面近傍のMullite結晶がアルミナリッチのMulliteになり、ごく少量であるが、更にシリカ成分を失してアルミナが表面に析出したことを意味する。
【0029】
シリカの高温水蒸気腐食は、1100℃を超える温度から観測されることが知られており、その腐食速度は、アルミナやLu2 Si2 O7 に比較すると非常に大きいことが知られている。Mulliteの高温水蒸気腐食量は、Lu2 Si2 O7 と同等なレベルで少ないことから、Mulliteの高温水蒸気腐食の場合、腐食初期において、表面近傍のMulliteが腐食により若干シリカ成分を失しながらアルミナリッチのMulliteをバルク表面近傍で形成することにより、それ以上の水蒸気腐食を劇的に抑制していることが明らかとなった。
【0030】
図4に、腐食試験の前後でMulliteバルク表面の走査電子顕微鏡像を示す。試験後の表面にある結晶粒は試験前の結晶粒と比較すると、丸みを帯びており、結晶粒界相が腐食により損耗していることが判る。Mullite結晶の結晶粒界はシリカ成分で構成されていることが公知なので、Mulliteの場合、高温水蒸気腐食により、表面近傍の結晶粒界相がまず腐食されることが判明した。
【0031】
以上のことから、Mulliteの高温水蒸気腐食とその抑制機構は、次のように述べることができる。1500℃もの高温で水蒸気が存在する環境下では、まず、Mulliteバルク表面近傍の結晶粒界に存在するシリカ成分を多量に含む結晶粒界相が腐食により流出する。バルク表面のMullite結晶粒も腐食によりシリカ成分を失し、結晶粒が丸みを帯びるようになるが、個々のMullite結晶粒の表面は、Mulliteリッチの結晶相及び微量のアルミナが形成されるために、更なる腐食を抑制する。
【0032】
図5に、腐食試験の前後でチタン酸アルミニウムバルク表面から得られたX線回折図形を示す。試験後の回折図形では、いくつかのピーク強度が相対的に減少している。これは、これらのピークの指数で表される結晶底面が表面とほぼ平行に向くように存在していた結晶粒が腐食により失したことを意味している。腐食後に顕著な相対強度の減少を示すピークは、230、240、420ピークであり、高温水蒸気腐食により(230)、(240)、(420)の底面がバルク表面にほぼ平行になっていた結晶粒が選択的に腐食されたことを意味する。これらの結晶面は、チタン酸アルミニウム結晶の結晶構造において原子密度が疎になる面であることは結晶学的に既知である。
【0033】
図6に、腐食試験の前後でチタン酸アルミニウムバルク表面の走査電子顕微鏡像を示す。チタン酸アルミニウムは、シリカ成分を含まないので、結晶粒界にもシリカは存在せず、Mulliteのような腐食機構は示さない。腐食試験後のバルク表面ではいくつもの凹凸が観察されるが、腐食試験前の表面写真における個々の結晶粒の大きさと、腐食試験後の表面写真における個々の凸凹の大きさは一致する。
【0034】
以上のことから、チタン酸アルミニウムの高温水蒸気腐食とその抑制機構は、次のように述べることができる。1500℃もの高温で水蒸気が存在する環境下では、チタン酸アルミニウムの結晶構造において原子密度が疎になる結晶面がバルク表面にほぼ平行に向く結晶粒が、腐食初期において選択的に腐食されてしまうが、腐食され易い結晶粒の下に腐食されにくい面が表面に平行に向くように存在する場合、その個所でのそれ以上の腐食が抑制される。チタン酸アルミニウムが多結晶体であるため、この機構が生じる頻度が増し、結果的に腐食されにくい面がバルク表面に平行に向くように存在する結晶粒でバルク表面が覆われ、更なる腐食を抑制することから、チタン酸アルミニウムは、Lu2 Si2 O7 相と同等レベルの優れた高温耐水蒸気性を示す。
【0035】
以上に述べたMulliteとチタン酸アルミニウムのぞれぞれ異なる機構を有する優れた高温耐水蒸気腐食性、及び、Mulliteとチタン酸アルミニウムの複合化により耐水蒸気腐食層の熱膨張係数を基材となる窒化ケイ素の熱膨張係数と一致させることにより得られる窒化ケイ素−Mullite/チタン酸アルミニウムセラミックスは、1100℃から1600℃の高温で水蒸気が存在する環境下において、図7に示すように、初期の水蒸気腐食によりMullite/チタン酸アルミニウム皮膜の表面のごく一部、すなわち、Mullite相に関しては結晶粒界が、チタン酸アルミニウムに関しては腐食され易い面が、皮膜表面に平行に向いた結晶粒、が腐食されるものの、皮膜表面にアルミナリッチのMullite相の形成及び腐食されにくいチタン酸アルミニウム結晶粒の面が表面にほぼ平行に向くことにより、更なる水蒸気腐食を抑制する構造が皮膜表面に形成され、優れた高温耐水蒸気腐食性を示す。
【0036】
図8に、Mullite/チタン酸アルミニウム複合体の組織を示す。それぞれの相は、均一に分散しており、ドライな条件下、1600℃で100時間処理によっても組織変化を示さず、熱安定性においても優れていることが分かる。
【0037】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、高温耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックスに係るものであり、本発明により、1)窒化ケイ素セラミックスに、優れた高温耐水蒸気腐食性を付与できる、2)本発明の高温耐水蒸気腐食層は、1100℃以上の高温において、これまで公知となっている優れた高温耐水蒸気腐食性を有するLu2 Si2 O7 と同等の高温耐水蒸気腐食性を有する、3)物質資源量の豊富なアルミナ、チタニア、シリカを成分として層の作製が可能となり、物質資源量の問題を解決する新規高温耐水蒸気腐食層を提供する、4)Mulliteとチタン酸アルミニウムを複合化させることにより、窒化ケイ素の熱膨張係数と熱膨張係数を一致させ得る耐水蒸気腐食層を得ることが可能である、5)物質存在量が豊富なアルミナ、チタニア及びシリカを成分とするMullite/チタン酸アルミニウム複合相を用いた原材料費が安価で高温水蒸気腐食を抑制する窒化ケイ素の耐水蒸気腐食層を提供することができる、という格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】Mullite/チタン酸アルミニウムの耐水蒸気腐食層をコートした窒化ケイ素セラミックの断面コンセプトを示す。
【図2】1500℃、30%水蒸気分圧加100時間の水蒸気腐食試験結果を示す。
【図3】腐食試験前後のMullite表面から得られたX線回折図形を示す。
【図4】腐食試験前後のMullite表面の電子顕微鏡像を示す。
【図5】腐食試験前後のチタン酸アルミニウム表面から得られたX線回折図形を示す。
【図6】腐食試験前後のチタン酸アルミニウム表面の電子顕微鏡像を示す。
【図7】Mullite/チタン酸アルミニウム複合層の耐水蒸気腐食機構を示す。
【図8】 Mullite/チタン酸アルミニウムの組織を示す。
Claims (3)
- 熱膨張係数を基材の窒化ケイ素セラミックスと同じ値に制御したムライト/チタン酸アルミニウム複合相を高温耐水蒸気腐食層としてコーティングした窒化ケイ素セラミックスであって、
(1)ムライト(Al6Si2O13)とチタン酸アルミニウム(Al2TiO5)の複合相を、耐水蒸気腐食層として窒化ケイ素上に、厚さ10〜300ミクロンで有し、上記複合相の表面近傍のムライト結晶がアルミナリッチのムライトになっており、(2)腐食されにくいチタン酸アルミニウム結晶粒の面が腐食層表面と平行に配列した複合相を層表面に形成されており、(3)それらにより、水蒸気腐食を抑制する構造の耐水蒸気腐食層が表面に形成されており、(4)高温において、遊離したシリカを生じさせない性状を有する、ことを特徴とする高温耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス。 - 耐水蒸気腐食層の組成が、ムライトとチタン酸アルミニウムの比率がモル比で、0を含まない0:1〜1:1の比率となる複合組成を有する請求項1記載の耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス。
- ムライト/チタン酸アルミニウムの複合相のコーティングを施した窒化ケイ素を、水蒸気中で、1100〜1500℃の加熱処理を行ない、耐水蒸気腐食層表面を改質し、耐水蒸気腐食性を向上させたものであることを特徴とする請求項1の耐水蒸気腐食層を有する窒化ケイ素セラミックス。
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