JP4113053B2 - ウラン廃棄物の湿式処理方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ウラン取扱い施設あるいはウラン取扱い施設間を移送する設備から発生するウラン、超ウラン元素または放射性核種またはその化合物(便宜上ウラン類という)が付着した廃棄物から、ある種の溶液を用いて前記ウラン類を分離回収するウラン廃棄物の湿式処理方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ウラン取扱い施設あるいはウラン取扱い施設間を移送する設備から発生するウランまたはウラン化合物が付着した煉瓦、ケイソウ土、鉱石くず、汚泥、ケミカルトラップ材(NaF)、CaF2を主成分とした沈殿物、Al2O3、UF4等の廃棄物からウラン、超ウラン元素、または放射性核種を分離回収する湿式処理方法として核燃料サイクル開発機構で開発されてきた方法がある(下記非特許文献1参照)。
【0003】
この方法は図9に示すように、ウラン廃棄物を溶解する溶解工程S1と、溶解液からウランを沈殿させ回収する沈殿工程S2と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量なウランを樹脂を用いて除去する微量ウラン除去工程S3と、溶液中のフッ素を沈殿させ回収するフッ素固定工程S4と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量なフッ素を樹脂を用いて除去する残留フッ素除去工程S5と、微量ウラン除去工程S3で用いた樹脂を再生して再利用するウラン吸着樹脂再生工程S6と、残留フッ素除去工程S5で用いた樹脂を再生して再利用するフッ素吸着樹脂再生工程S7から構成されている。
【0004】
【非特許文献1】
核燃料サイクル開発機構報告書番号:JNC ZJ6400 2001-012、
JNC TJ6400 2002-004
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のウラン廃棄物の湿式処理方法においては、ウラン沈殿工程S2で得られるウランの純度を高くするために溶解工程S1でマスク剤を添加する。例えばウラン沈殿へのフッ素の混入を防止するためにはアルミニウム化合物、ホウ素化合物などのフッ素と安定な錯体を生成する物質がマスク剤として添加される。これらマスク剤はフッ素固定工程S4においてCaF2と共に沈殿回収され、ウラン廃棄物以上の多量の二次廃棄物が発生する。そのため二次廃棄物の処理コストが高くなると共に、処理バッチ毎に新規にマスク剤を添加するため薬剤コストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、二次廃棄物発生量が少なく、薬剤費の安いウラン廃棄物の湿式処理方法および装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ウラン、超ウラン元素または放射性核種またはその化合物であるウラン類が付着したウラン廃棄物から前記ウラン類を分離回収する湿式処理方法において、前記ウラン廃棄物をマスク剤とともに溶解して溶液を生成する溶解工程と、前記溶液からウラン類を沈殿させる沈殿工程と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量のウラン類をウラン吸着樹脂を用いて除去する微量ウラン除去工程と、前記沈殿工程で用いたマスク剤を溶液から電気透析により回収し前記溶解工程へ戻すマスク剤回収工程と、溶液中に残留するフッ素またはフッ素化合物をフッ素吸着樹脂を用いて除去する残留フッ素除去工程とを備えている構成とする。
【0008】
請求項2の発明は、前記微量ウラン除去工程で用いたウラン吸着樹脂を再生し前記微量ウラン除去工程へ戻すウラン吸着樹脂再生工程と、前記残留フッ素除去工程で用いたフッ素吸着樹脂を再生し前記残留フッ素除去工程へ戻すフッ素吸着樹脂再生工程とを備えている構成とする。
【0009】
請求項3の発明は、前記微量ウラン除去工程と前記マスク剤回収工程のあいだに溶液中のフッ素またはフッ素化合物を沈殿させ回収するフッ素固定工程を備えている構成とする。
【0010】
請求項4の発明は、前記マスク剤は、フッ素成分を有するウラン廃棄物に対し、前記沈殿工程で生成するウラン類沈殿物にフッ素成分の混入を防止する物質である構成とする。
【0013】
請求項5の発明は、前記電気透析は、陰イオン交換膜で陰極室と陽極室に分離された電解槽を用い、陰極室にマスク剤を含有する溶液を導入し通電することにより、陰極室でマスク剤を回収し陽極室で溶液中の酸を回収する構成とする。
【0014】
請求項6の発明は、前記マスク剤としてアルミニウム化合物を含む溶液を前記陰極室に導入し電気透析することにより陰極室にアルミニウム成分をアルミン酸塩として回収する構成とする。
【0015】
請求項7の発明は、回収したアルミン酸塩をそのままの形態で、または、溶解した際アルミニウムイオンとなるように形態を変換してマスク剤として再利用する構成とする。
【0016】
請求項8の発明は、前記陽極室で回収された酸を前記溶解工程において溶解液として再利用する構成とする。
請求項9の発明は、前記ウラン廃棄物がフッ化カルシウムを主成分とする場合において、前記フッ素固定工程と前記マスク剤回収工程を電気透析により同時に行なう構成とする。
【0017】
請求項10の発明は、前記マスク剤回収工程は、マスク剤のみを溶解するマスク剤溶解工程と、マスク剤が溶解している溶液から固体成分を分離する二次廃棄物分離工程とを備えている構成とする。
【0018】
請求項11の発明は、ウラン、超ウランまたは放射性核種の元素または化合物であるウラン類が付着したウラン廃棄物から前記ウラン類を分離回収する湿式処理装置において、前記ウラン廃棄物をマスク剤とともに溶解して溶液を生成する溶解装置と、前記溶液からウラン類を沈殿させる沈殿装置と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量のウラン類をウラン吸着樹脂を用いて除去する微量ウラン除去装置と、前記マスク剤を溶液から回収するマスク剤回収装置と、溶液中に残留するフッ素またはフッ素化合物をフッ素吸着樹脂を用いて除去する残留フッ素除去装置と、前記微量ウラン除去装置で用いたウラン吸着樹脂を再生するウラン吸着樹脂再生装置と、前記残留フッ素除去装置で用いたフッ素吸着樹脂を再生するフッ素吸着樹脂再生装置とを備え、前記マスク剤回収装置は電気透析装置を有する構成とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施の形態を図1ないし図6を参照して説明する。
本実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法は図1に示すように、ウラン廃棄物をマスク剤とともに溶解する溶解工程S1と、溶解液からウランを沈殿させ回収する沈殿工程S2と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量なウランをウラン吸着樹脂を用いて除去する微量ウラン除去工程S3と、溶液中のフッ素を沈殿させ回収するフッ素固定工程S4と、溶液からマスク剤を回収するマスク剤回収工程S8と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量なフッ素をフッ素吸着樹脂を用いて除去する残留フッ素除去工程S5と、微量ウラン除去工程S3で用いたウラン吸着樹脂を再生するウラン吸着樹脂再生工程S6と、残留フッ素除去工程S5で用いたフッ素吸着樹脂を再生するフッ素吸着樹脂再生工程S7から構成されている。
【0020】
本実施の形態の方法は、従来の方法に比べてフッ素固定工程S4の後にマスク剤回収工程S8が追加されている。また、マスク剤回収後の溶液中のフッ素を残留フッ素除去工程S5で除去した酸溶液を溶解工程S1で再利用する。但し、この酸溶液を溶解工程S1で再利用しない場合は、残留フッ素除去工程S5のあと、中和工程S9を経て排出する。また、CaF2を主成分とするウラン廃棄物の場合にはフッ素固定工程S4を省略し、微量ウラン除去工程S3の後にマスク剤回収工程S8を実施することができる。
【0021】
溶解工程S1、沈殿工程S2、微量ウラン除去工程S3、フッ素固定工程S4、マスク剤回収工程S8、残留フッ素除去工程S5、ウラン吸着樹脂再生工程S6、フッ素吸着樹脂再生工程S7および中和工程S9は、それぞれ溶解装置、沈殿装置、微量ウラン除去装置、フッ素固定装置、マスク剤回収装置、残留フッ素除去装置、ウラン吸着樹脂再生装置、フッ素吸着樹脂再生装置および中和装置によって行なう。これらの装置は配管によって相互に接続されていてもよいし独立していてもよい。
【0022】
本実施の形態においては、マスク剤回収工程S8で回収されたマスク剤を溶解工程S1において溶液に添加し再利用をする。このようにすることにより二次廃棄物発生量を低減させることができる。マスク剤の回収法としては、電気透析を用いる。マスク剤を含んだ溶液に対して陰イオン交換膜を用いた電気透析を行なうことにより、陰極室にはマスク剤成分、陽極室には酸成分が濃縮され、これらを回収、再利用することが可能である。
【0023】
また、別のマスク剤回収法として、pH制御した酸溶液を二次廃棄物に添加することで、CaF2とマスク剤成分の溶解性の差から、マスク剤成分のみを溶解、回収することができる。すなわち、フッ素固定工程S4後に発生する二次廃棄物に、弱酸性溶液を添加しマスク剤のみを溶解する。溶解しなかった固体成分とマスク剤が溶解している溶液を固液分離し、溶液を溶解工程で再利用する。この方法は、従来の湿式処理法に、マスク剤溶解工程、二次廃棄物分離工程を追加し、マスク剤が溶解した溶液を溶解工程の際に再利用して二次廃棄物発生量を低減させることができる。
【0024】
マスク剤の条件として、フッ化物イオンと錯体を生成する物質であり、かつ水への溶解度が高く、更にウラン廃棄物の溶解性を阻害しないために、その水溶液が酸性を示す物質が望ましい。これらの条件を満たすものは、アルミニウム化合物、ホウ素化合物である。しかし、回収したウラン沈殿物をイエローケーキとしてウラン燃料とする際、ホウ素は中性子吸収断面積が大きいため、ウランにホウ素が混入する可能性は回避すべきであり、マスク剤としてホウ素化合物の使用は適切でない。また平成13年6月の水質汚濁防止法施行令改正によりホウ素の排水基準が厳しくなったことから、マスク剤にホウ素化合物を使用することは後処理を複雑にする。よってマスク剤としはアルミニウム化合物が適切である。また化学処理の煩雑化を防ぐためには、系に存在する化学種を少なくすることが望ましい。従来湿式処理法においては、ウラン廃棄物を溶解する溶液は塩酸と想定されている。そのため、上記要件を満たし、かつ塩酸系処理に対し化学種を増加させない塩化アルミニウムの使用が望ましい。
【0025】
アルミニウム化合物から発生する二次廃棄物からアルミニウム成分を分離、回収、再利用することにより、二次廃棄物発生量を低減させることができる。回収したアルミニウム成分は、溶解工程S1においてマスク剤とし添加するため、バッチ毎に新たなアルミニウム化合物を添加する必要がない。
【0026】
マスク剤として添加するアルミニウム化合物を塩化アルミニウムとすると、塩化アルミニウムから生成される水酸化アルミニウムが二次廃棄物となる。従って、水酸化アルミニウムからアルミニウム成分を分離・回収・再利用することにより二次廃棄物発生量を低減することができる。
【0027】
図2に、CaF2を主成分としたウラン廃棄物の処理において、マスク剤として塩化アルミニウムを用いた場合に二次廃棄物として発生する水酸化アルミニウムの発生量を示す。従来の湿式処理方法での水酸化アルミニウムの発生量を100としたとき、本実施の形態の方法を用いた場合は0.05となり、本実施の形態の方法は二次廃棄物であるAl(OH)3発生量を従来法の1/2000に低減可能である。なお、二次廃棄物である水酸化アルミニウムは、従来法ではバッチ毎に発生するのに対し、本実施の形態の方法では最終バッチ分のみ発生する。
【0028】
本実施の形態においては、マスク剤回収のために新たに薬剤を添加し処理するのではなく、電気透析により処理する。このようにすることにより、マスク剤回収工程S8追加による3次廃棄物発生を抑えることができる。
【0029】
アルミニウム化合物をマスク剤として用いた場合、フッ素固定工程S4によりAl(OH)3とCaF2の沈殿物を含んだ水溶液が発生する。この水溶液に対して電気透析を行なうことにより、Al(OH)3は溶液中にアルミン酸塩として溶解し、CaF2は沈殿状態のままであるため、Al(OH)3とCaF2を分離することができる。
【0030】
マスク剤回収のための電気透析を行なう装置は、電解槽内が陰イオン交換膜で陰極室と陽極室に分離されている。陰極室にマスク剤成分を含んだ溶液を導入し、電気透析することにより、陰極室でマスク剤成分が回収され、陽極室で酸が回収される。アルミニウム成分はアルミン酸塩として回収される。
【0031】
電気透析について図3を参照して説明する。フッ素固定工程S4後の沈殿物を含んだ溶液(CaF2、Al(OH)3、Na+、Cl‐、F‐などが含まれる)を陰極室に入れる。但し、ウラン廃棄物がCaF2を主成分としフッ素固定工程S4を行なわない場合の溶液の成分はCa2+、Al3+、Na+、Cl‐、F‐などである。陽極室側の電極を陽極にし陰極室側の電極を陰極にして電気を通電する。
通電すると、陰極では下記反応が生じる。
2H2O+2e=H2↑+2OH‐ (1)
【0032】
(1)式の反応により陰極室側溶液のpHは上昇する。pHが中性領域ではカルシウム、アルミニウム共に、フッ化カルシウム(CaF2)、水酸化アルミニウム[Al(OH)3]として沈殿するが、電解の進行に伴い溶液が強アルカリとなると、両性電解質である水酸化アルミニウムはアルミン酸イオン等(AlO2 ‐、Al(OH)6 3 ‐)として再溶解し、カルシウムの沈殿物と分離される。
一方陽極では下記反応が生じる。
2H2O=4H++O2↑+4e (2)
【0033】
(2)式の反応により陽極室の溶液中には水素イオンが発生し、また陰極室の溶液中の陰イオン(Cl‐、F‐)が陰イオン交換膜を通して陽極室に流入することから、陽極室溶液は塩酸及びフッ化水素酸を含んだ溶液となる。
【0034】
図4は、図3に示した電気透析装置を用いてCaF2を主成分とするウラン廃棄物のウラン沈殿工程S2の後の溶液(Ca2+、Al3+、Na+、Cl‐、F‐を含む)の電気透析を行なった結果を示す。電気透析装置の主要構造物として、電解槽はアクリル製、電極はステンレスの板にPtコーティングしたもの、陰イオン交換膜は一般市販品である旭化成製イオン交換膜アシプレックスA‐201を用いた。但し、この構成材料は、実験室規模での装置であるため、実プラントにおいては、機械的強度、コスト等を考慮して再考する必要がある。電解が進むにつれ、陰極室側の溶液中のCa濃度は低下し沈殿除去されているのに対し、Al濃度はほぼ一定で溶液中に保持されていた。このことから、本電気透析により、アルミニウムとカルシウムを分離させることが可能であり、マスク剤であるアルミニウムを回収可能であることが分かる。
【0035】
上記のようにアルミニウム成分はアルミン酸塩として回収されるが、回収したアルミン酸はそのままの形態でマスク剤として再利用される。または回収したマスク剤が溶解した際アルミニウムイオンとなるように、回収したアルミン酸塩の形態を変換させてマスク剤として再利用する。
【0036】
アルミニウム化合物などのマスク剤はウラン沈殿工程S2で発生するウラン沈殿物へのフッ素混入を防止すると共に、フッ素と錯体を生成することによりフッ化物系ウラン廃棄物の溶解性を向上させる。またマスク剤の水溶液が酸性の場合は酸による溶解効果のため更にウラン廃棄物の溶解性が向上する。一方電気透析により回収するアルミン酸塩の水溶液はアルカリ性を示す。ウラン廃棄物を塩酸のような強酸で溶解する場合は、電気透析で得られたアルミン酸塩を添加しても溶液のpHが大きく上昇しないため廃棄物の溶解性を阻害しないが、ギ酸のような弱酸で溶解する場合は、アルミン酸塩の添加によりpHが上がるため、溶解性を阻害する可能性がある。このような場合はアルミン酸塩を、溶解した際アルミニウムイオンとなる塩化アルミニウムのような化合物に変換する必要がある。
【0037】
図5は、マスク剤回収工程S8において回収されるアルミン酸塩溶液による、ウラン廃棄物の模擬物質であるフッ化カルシウムの溶解性に対する影響を示す。図より、アルミン酸塩は、従来マスク剤としての使用を検討されている塩化アルミニウムAlCl3と同様に、フッ化カルシウムの溶解性を向上させることが分かる。このことから、マスク剤回収工程S8にて回収したアルミニウムは、そのままの化学形態で再利用した場合においても、フッ素化合物の廃棄物の溶解性向上のための助剤として用いることができる。
【0038】
図6(a),(b)は、CaF2を主成分とするウラン廃棄物を塩酸で溶解した溶液に、過酸化水素を添加し、ウランを沈殿させた時のフッ素の沈殿率を示す。この時、フッ素の沈殿を防ぐため、この溶液にマスク剤として塩化アルミニウムと、アルミン酸塩であるアルミン酸ナトリウムを添加した。横軸には過酸化水素を添加してからの経過時間、縦軸には上澄液F-濃度及びF-沈殿率とした。図より、アルミン酸ナトリウムは、従来マスク剤として使用を検討されている塩化アルミニウムAlCl3と同様に、フッ素の沈殿を防止する働きがあることが分かる。このことから、ウラン廃棄物の溶解液から溶液中のウランを沈殿させる際のフッ素沈殿防止のためのマスク剤として、マスク剤回収工程S8にて回収したアルミニウムをそのままの化学形態で用いることが可能である。
【0039】
なお、マスク剤回収工程S8で回収したアルミン酸塩は、塩酸を添加することにより塩化アルミニウムの形態に変換することが可能である。変換後のマスク剤は酸性水溶液中で、アルミニウムイオンとして作用する。アルミン酸塩を塩化アルミニウムに変換する反応式は下記の通りである。
NaAlO2 + 4HCl → AlCl3 + NaCl + 2H2O (3)
【0040】
CaF2を主成分とするウラン廃棄物の場合、微量ウラン除去工程S3後にマスク剤回収工程S8の実施が可能である。従来の処理方法には溶液中のフッ素を沈殿させ回収するフッ素固定工程がある。ウラン廃棄物がCaF2を主成分とする場合、微量ウラン除去後の溶液中のフッ素及びカルシウムは、マスク剤回収工程で行なう電気透析により、陰極室側溶液のpHが上昇するため、CaF2として沈殿する。よって、電気透析により、マスク剤回収と共にフッ素固定も行なえるため、二次廃棄物の低減と同時に、従来の湿式処理に含まれるフッ素固定工程を削除し、工程の簡略化が可能となる。
【0041】
なお、マスク剤回収のための電気透析の結果、陽極室に酸溶液が回収されるためこの溶液からフッ素を除去し溶解工程S1でウラン廃棄物を溶解する酸として再利用するようにしてもよい。
【0042】
つぎに本発明の第2の実施の形態を図7,図8を参照して説明する。
この実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法は図7に示すように、ウラン廃棄物をマスク剤とともに溶解する溶解工程S1と、溶解液からウランを沈殿させ回収する沈殿工程S2と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量なウランをウラン吸着樹脂を用いて除去する微量ウラン除去工程S3と、溶液中のフッ素を沈殿させ回収するフッ素固定工程S4と、フッ素固定工程S4後に発生する二次廃棄物を溶解工程S1で用いる酸で溶解するマスク剤溶解工程S10と、マスク剤が溶解している溶液から溶解残さをろ過等で固液分離する二次廃棄物分離工程S11と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量なフッ素をフッ素吸着樹脂を用いて除去する残留フッ素除去工程S5と、微量ウラン除去工程S3で用いたウラン吸着樹脂を再生するウラン吸着樹脂再生工程S6と、残留フッ素除去工程S5で用いたフッ素吸着樹脂を再生するフッ素吸着樹脂再生工程S7から構成されている。
【0043】
溶解工程S1、沈殿工程S2、微量ウラン除去工程S3、フッ素固定工程S4、マスク剤溶解工程S10、二次廃棄物分離工程S11、残留フッ素除去工程S5、ウラン吸着樹脂再生工程S6およびフッ素吸着樹脂再生工程S7は、それぞれ溶解装置、沈殿装置、微量ウラン除去装置、フッ素固定装置、マスク剤溶解装置、二次廃棄物分離装置、残留フッ素除去装置、ウラン吸着樹脂再生装置およびフッ素吸着樹脂再生装置によって行なう。これらの装置は配管によって相互に接続されていてもよいし独立していてもよい。
【0044】
この第2の実施の形態は、マスク剤回収に溶解工程S1で用いる酸の希薄溶液を用い、二次廃棄物中のアルミニウム成分のみを溶解させる湿式処理方法である。アルミニウム成分のみが溶解した溶液と、溶解しなかった固体成分を分離し、この溶液のpHを調整し、ウラン廃棄物の溶解工程S1で溶解液として再利用する。この方法は、ウラン廃棄物の溶解工程で使用する酸を用いてマスク剤を回収するため、マスク剤溶解工程S10、二次廃棄物分離工程S11の追加による3次廃棄物の発生を抑えることができる。
【0045】
図8は、pHが0.2あるいは1.7の溶液に純粋なCaF2を溶解した際のCaF2の溶解率を示す。溶液のpHが高くなるにつれてCaF2の溶解率が低下することが分かる。一方、アルミニウムが高濃度に存在する溶液について、溶液pHが4以下程度では水酸化アルミニウムの沈殿が生じないという試験結果がある。
【0046】
従って、フッ素固定後のCaF2とAl(OH)3が混合した二次廃棄物を、弱酸性の溶液を用いて溶解すると、Al(OH)3のみが溶解され、CaF2は溶解しない。本実施の形態においては、この溶液をろ過等により固液分離し、アルミニウム成分とCaF2を分離する。アルミニウム成分が溶解した溶液中のアルミニウムの形態はアルミニウムイオンであるため、マスク剤として再利用可能である。この溶液のpHを溶解工程S1で用いる最適pHに調整することにより、ウラン廃棄物の溶解工程S1で用いるマスク剤入り溶解液となり、マスク剤を再利用することができる。また固液分離したCaF2は、廃棄物をセメント固化する場合の骨材などとして有効利用することが可能である。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、マスク剤回収のために新たに薬剤を添加し処理するのではなく、電気透析により処理することにより、 3 次廃棄物発生を抑えることができるとともに、二次廃棄物発生量が少なく、薬剤費の安いウラン廃棄物の湿式処理方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法を示す流れ図。
【図2】従来の処理方法と本発明の第1の実施の形態の処理方法で発生する二次廃棄物の発生量を比較して示すグラフ。
【図3】本発明の第1の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法において用いる電気透析装置および該装置の動作を示す図。
【図4】本発明の第1の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法における電気透析によるAl(OH)3およびCaF2の分離状況を示すグラフ。
【図5】本発明の第1の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法において電気透析で回収したアルミン酸塩と塩化アルミニウムによるCaF2の溶解性を示すグラフ。
【図6】本発明の第1の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法において電気透析で回収したアルミン酸塩と塩化アルミニウムによるウラン沈殿におけるフッ素の分離状況を示し、(a)は上澄み液のフッ素イオン濃度の経時変化、(b)はフッ素イオン沈殿率の経時変化を示すグラフ。
【図7】本発明の第2の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法を示す流れ図。
【図8】 pHによるCaF2溶解率の違いを示し、本発明の第2の実施の形態のウラン廃棄物の湿式処理方法の作用効果を説明するグラフ。
【図9】従来のウラン廃棄物の湿式処理方法を示す流れ図。
Claims (11)
- ウラン、超ウラン元素または放射性核種またはその化合物であるウラン類が付着したウラン廃棄物から前記ウラン類を分離回収する湿式処理方法において、前記ウラン廃棄物をマスク剤とともに溶解して溶液を生成する溶解工程と、前記溶液からウラン類を沈殿させる沈殿工程と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量のウラン類をウラン吸着樹脂を用いて除去する微量ウラン除去工程と、前記沈殿工程で用いたマスク剤を溶液から電気透析により回収し前記溶解工程へ戻すマスク剤回収工程と、溶液中に残留するフッ素またはフッ素化合物をフッ素吸着樹脂を用いて除去する残留フッ素除去工程とを備えていることを特徴とするウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記微量ウラン除去工程で用いたウラン吸着樹脂を再生し前記微量ウラン除去工程へ戻すウラン吸着樹脂再生工程と、前記残留フッ素除去工程で用いたフッ素吸着樹脂を再生し前記残留フッ素除去工程へ戻すフッ素吸着樹脂再生工程とを備えていることを特徴とする請求項1記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記微量ウラン除去工程と前記マスク剤回収工程のあいだに溶液中のフッ素またはフッ素化合物を沈殿させ回収するフッ素固定工程を備えていることを特徴とする請求項1記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記マスク剤は、フッ素成分を有するウラン廃棄物に対し、前記沈殿工程で生成するウラン類沈殿物にフッ素成分の混入を防止する物質であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記電気透析は、陰イオン交換膜で陰極室と陽極室に分離された電解槽を用い、陰極室にマスク剤を含有する溶液を導入し通電することにより、陰極室でマスク剤を回収し陽極室で溶液中の酸を回収することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記マスク剤としてアルミニウム化合物を含む溶液を前記陰極室に導入し電気透析することにより陰極室にアルミニウム成分をアルミン酸塩として回収することを特徴とする請求項5記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 回収したアルミン酸塩をそのままの形態で、または、溶解した際アルミニウムイオンとなるように形態を変換してマスク剤として再利用することを特徴とする請求項6記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記陽極室で回収された酸を前記溶解工程において溶解液として再利用することを特徴とする請求項5乃至7いずれか1項に記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記ウラン廃棄物がフッ化カルシウムを主成分とする場合において、前記フッ素固定工程と前記マスク剤回収工程を電気透析により同時に行なうことを特徴とする請求項3記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- 前記マスク剤回収工程は、マスク剤のみを溶解するマスク剤溶解工程と、マスク剤が溶解している溶液から固体成分を分離する二次廃棄物分離工程とを備えていることを特徴とする請求項1記載のウラン廃棄物の湿式処理方法。
- ウラン、超ウランまたは放射性核種の元素または化合物であるウラン類が付着したウラン廃棄物から前記ウラン類を分離回収する湿式処理装置において、前記ウラン廃棄物をマスク剤とともに溶解して溶液を生成する溶解装置と、前記溶液からウラン類を沈殿させる沈殿装置と、沈殿除去後の溶液中に残留する微量のウラン類をウラン吸着樹脂を用いて除去する微量ウラン除去装置と、前記マスク剤を溶液から回収するマスク剤回収装置と、溶液中に残留するフッ素またはフッ素化合物をフッ素吸着樹脂を用いて除去する残留フッ素除去装置と、前記微量ウラン除去装置で用いたウラン吸着樹脂を再生するウラン吸着樹脂再生装置と、前記残留フッ素除去装置で用いたフッ素吸着樹脂を再生するフッ素吸着樹脂再生装置とを備え、前記マスク剤回収装置は電気透析装置を有することを特徴とするウラン廃棄物の湿式処理装置。
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