JP4110285B2 - 血清の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、血漿分画からの血清の製造方法及び血清製造用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
癌抗原、ウイルス抗原又は同種抗原を特異的に認識する自己T細胞を体外で増幅し患者に輸注する養子免疫療法は、悪性腫瘍、重症ウイルス感染症などの治療で効果を上げつつあり、今後の発展が見込まれる治療法である。
【0003】
クローン化したT細胞を効率よく(すなわち2週間で数百倍以上)増幅することは、現状では無血清培地中での培養においては困難であり、どうしても5〜10%程度のヒト血清を培養液中に添加する必要がある。米国では、こうした細胞療法用の血清を得るために健康な血液提供者から血液を購入することが認められているが、日本では売血は禁止されており、実質上ヒト血清を得ることは不可能に近い。また、患者自身から採血を行って血清をつくる試みはなされているが、養子免疫療法に必要な数のT細胞を培養するためには2L近くの全血が必要であり、血液提供者への負担が大きく現実的ではない。
【0004】
一方、献血においては、血漿や血小板といった特定の成分だけを採血し、体内で回復に時間のかかる赤血球は再び体内に戻す成分採血装置によって、血漿を安全に得ることができる。実際、日本赤十字血液センターは、一般献血で得られた新鮮凍結血漿を血液製剤として供給している。しかし、T細胞を増幅することを目的として、カルシウムを含んだ培養液中に血漿を添加すると、残存している凝固因子が活性化して培養液がゲル状になってしまう問題がある。また、仮にそのゲル状物質を取り除いても、血清を含む培養液で培養した場合に比較し、理由は不明であるがT細胞の増幅効率は満足できるものではない。
【0005】
これらの問題点を解決する方法として、長期保存された新鮮凍結血漿にカルシウムとトロンビンという凝固促進因子を添加し、凝固物を除去することによって血清を製造する手法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法で凝固促進因子として用いられているトロンビンは高価であり、また最近ではプリオンの混入の可能性があることが指摘されている。また、トロンビンは本来外用のみに使用が認められている薬品であるため、体内に投与する細胞を培養する血漿の処理に用いるのには好ましくない。さらに、前記文献においては原料として凍結保存を長期(1年以上)行った血漿を用いているが、採取直後の血漿をも用いることができる効果的な血清の製造方法は開示されていない。
【0006】
【特許文献1】
特願2000−101022号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、トロンビンを使用せず、血漿分画から細胞の培養・保存に好適な血清を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、トロンビンを使用せず、簡易に、かつ効率よく血漿分画から不要な凝固因子を取り除き、血清を得ることができる方法を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
(1) 血漿にカルシウム化合物及び血清分離促進基材を添加して血漿中のタンパク質性血液凝固因子を凝固させ、凝固したタンパク質性血液凝固因子を除去して血清を得ることを含んでなる、血清の製造方法。
(2) さらに、36〜38℃で20〜60分間、加熱を行うことを含んでなる、(1)に記載の血清の製造方法。
(3) 血漿がヒト由来の血漿である、(1)又は(2)に記載の血清の製造方法。
(4) カルシウム化合物が、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム及び珪酸カルシウムからなる群から選択される1種以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の血清の製造方法。
(5) カルシウム化合物を血漿100cc当たり0.4〜1mmol添加する、(1)〜(4)のいずれかに記載の血清の製造方法。
(6) 血清分離促進基材がガラスビーズである、(1)〜(5)のいずれかに記載の血清の製造方法。
(7) 血清分離促進基材を血漿100cc当たり1〜6g添加する、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8) カルシウム化合物及び血清分離促進基材を含んでなる、血清製造用キット。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の方法は、まず、血漿にカルシウム化合物と血清分離促進基材を添加して血漿中のタンパク質性血液凝固因子を凝固させる。
【0011】
本明細書において、血漿とは、血液から血球及び血小板等の細胞成分を分離操作により除去した液体成分であって、血液凝固阻止剤としてクエン酸、あるいはEDTA、EGTA等のキレート剤を用いた常法の分離操作によって血液から分離された血漿分画を使用することができる。なお、本発明において、血液凝固阻止剤としてヘパリンを用いて得られるヘパリン血漿は、蛋白質性凝固因子を除去出来ないだけでなく、ヘパリンそのもののT細胞機能への影響を無視できないため、本発明の血漿から除くものとする。また、本発明において使用する血漿は上記の分離操作によって細胞成分が完全に除去されているものが好ましいが、分離操作により若干の血小板等の細胞成分が残存している血漿であっても、血漿にカルシウム化合物及び血清分離促進基材を添加した際に、血漿中のタンパク質性血液凝固因子を凝固させることを妨げない限り、本発明において使用可能な血漿に含めるものとする。
【0012】
ヒト由来の血漿は、健康上の問題がなく、通常の献血基準を満たしている人から採血された血液由来ものものが好ましく、具体的には、日本赤十字社において全血献血又は成分献血された血液由来のもの(新鮮凍結血漿等)が挙げられる。また、患者自身やその造血細胞提供者から採血された血液由来のものであってもよい。血漿は採血後の血漿をすぐに用いることもできるが、凍結血漿も使用可能である。しかしながら、血漿分画を凍結しないで使用する場合には、凍結によって血漿分画に混入している血小板が破壊されて血漿分画中に細胞成分が遊離することを予防することができるので、血漿は凍結せず使用するのが好ましい。また、採血後の血漿は、細菌汚染防止の点から採血後72時間以内に使用するのが好ましい。なお、凍結血漿を使用する場合には、使用時に凍結血漿を解凍(例えば、36℃で急速解凍)してから使用することができる。
【0013】
また、本発明において、タンパク質性血液凝固因子とは、血漿中に存在する液凝固の機序に直接に関与するさまざまな因子であって、かつタンパク質性のものを意味し、具体的には、第I因子(フィブリノーゲン)、フォンビルベランド因子等が挙げられる。
【0014】
添加するカルシウム化合物としては、無機カルシウム化合物及び有機カルシウム化合物を用いることができるが、例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、珪酸カルシウム、等を用いることができる。また、これらのカルシウム化合物は単独の使用であっても、これらの混合物であってもよい。カルシウム化合物の添加量は、混入している凝固防止剤の量に応じて適宜設定すればよいが、通常、血漿100cc当たり0.4mmol以上であり、好ましくは0.5〜1.0mmolである。
【0015】
本発明において、血清分離促進基材は、血漿から血清を分離促進する作用を有し、かつ、血液に有害な影響を及ぼすものでなければいかなる基材をも利用することができるが、具体的には、素材がガラス又は高分子系材料等(例えば、プラスチック)である各種ビーズ、繊維又は粉末等を使用することができる。このうち、操作性及び血清分離促進性の点から特にガラスビーズの使用が好ましい。
【0016】
ガラスビーズとしては、例えば、市販のガラスビーズ等を用いることができ、形状としては特に限定されないが球状のものが好ましい。粒径としては、直径1〜5mm、特に2〜4mmが好適である。
【0017】
血清分離促進基材の添加量は、血漿100cc当たり1〜6g、好ましくは2〜4gである。なお、血清分離促進基材の添加はカルシウム化合物を添加する前であっても、添加した後であってもよく、また同時に添加してもよい。なお、血清分離促進基材は予め滅菌したものを使用する。
【0018】
上記のような血清分離促進基材を使用することによって、血漿中の内因系凝固反応の開始因子である第XII因子が活性化される。また、上記のようなカルシウム化合物を血漿に添加することによって、血清分離促進基材によって引き起された血漿中の凝固因子の一連の反応に関わる第II、VII、IX、X、XI因子の活性化が極めて促進される。
【0019】
カルシウム化合物と血清促進分離基材とを添加した血漿は、転倒混和等により十分に混和する。混和後、36〜38℃、好ましくは37℃で、20〜60分間、好ましくは30分間インキュベートする。通常、上記の方法によって血漿中のタンパク質性血液凝固因子の凝固がみられる。凝固が確認されない場合には、さらにカルシウム化合物を血漿100cc当たり0.2〜0.5mmol添加し、混和後、10〜30分間インキュベートすることにより凝固を促進することができる。
【0020】
該凝固物には、カルシウム化合物及び血清分離促進基材により活性化された各種凝固因子(第II因子〜第XII因子)の一連の反応によってフィブリノーゲン(第I因子)が変化したフィブリン、及びフィブリノーゲンが他の血漿中成分(第I因子以外のタンパク質性凝固因子及び血漿中に混入していた血小板等)に作用して重合した固形物が含まれる。
【0021】
タンパク質性血液凝固因子の凝固が確認されたら、0〜10℃、好ましくは3〜5℃で、6〜24時間、好ましくは一晩静置し冷却するとよい。
【0022】
次いで、遠心分離等の分離操作を行い、凝固したタンパク質性血液凝固因子と上清の血清とに分離し、該凝固物を除去することによって血清を得ることができる。遠心分離の場合、3,000〜3,500rpm、3〜5℃、15〜30分間実施するのが好適である。
【0023】
得られた上清の血清は次に補体を不活性化する目的で常法により加熱することが好ましい。具体的には、加熱は、55〜57℃で30分間行うことができる。その後、フィルターで濾過し、濾液を精製した血清として利用することができる。この加熱・濾過操作により、血清製造中に混入しうる細菌の大部分を殺菌することができる。その後、血清は必要に応じて−20〜−30℃で凍結保存することもできる。
【0024】
以上の方法の一例をフローチャートとして図1に示した。
また、本発明は、カルシウム化合物及び血清分離促進基材を含んでなる、血清製造用キットを提供する。本キットには、上記で説明したカルシウム化合物及び血清分離促進基材を含む。カルシウム化合物及び血清分離促進基材は予め混合されてキットに含まれていてもよい。また、血清分離促進基材にカルシウム化合物をコーティングしたものを利用することもできる。さらに、血漿から血清を製造するにあたって、血液に有害な影響を及ぼさない限り、任意の添加剤及び緩衝液を含有していもよい。また、カルシウム化合物及び血清分離促進基材等を血漿と混合するための容器、例えばスピッツ管等をキットに含めることもできる。さらに密閉した状態で血清を得るために、遠心操作可能な採血用プラスチックバッグに必要量の滅菌したカルシウム化合物及び血清分離促進基材等をあらかじめ充填しておくことも出来る。
【0025】
本発明の方法によって得られる血清は、血液凝固因子が十分に除去されており、T細胞等の細胞を培養する培地に添加した際、培地液がゲル状になることを回避することができるとともに、該血清中に含まれている各種の増殖因子が細胞の増殖を促進することができる。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[実施例1] ヒト由来血漿分画からの血清の調製
健康な成人ヒトから成分採血装置にて乏血小板分画(PPP)を450cc採取した。クリーンベンチ内で、採取した分画を滅菌したポリプロピレン製のボトル(250cc)に移し、滅菌したガラスビーズ(直径3mm前後の球状ガラスビーズ)を100cc当たり4g、塩化カルシウムを100cc当たり0.4ミリモル量加えて、転倒混和した。
【0028】
恒温槽にて37℃、30分保温した。凝固を確認した後、4℃の冷蔵庫内で1晩静置した。冷却遠心器のアングル型ローターにボトルごと挿入し、3,000rpm、4℃、15分間遠心した。
【0029】
得られた上清を新しい滅菌したポリプロピレン製のボトルに移し、56℃で30分加熱した。プレフィルターの付いた、0.2μmの滅菌フィルターで濾過し、濾液を血清として−20℃以下で凍結保存した。
また、同様の実験を、塩化カルシウムをグルコン酸カルシウムに代えて行い、血清を得て凍結保存した。
【0030】
[実施例2] T細胞の増幅効率の確認
2種類の細胞傷害性T細胞株(CTL1及びCTL2)各20,000個を、15×106個の末梢血単核球細胞(3,300rad照射済み)および3×106個のBリンパ球細胞株(6,600 rad照射済み)を支持細胞として用い、以下の3種類の培養液、(1)10%の従来法で作成したヒト血清(15人から採取した血液を37℃で1時間加温後4℃の冷蔵庫内で1晩静置し(カルシウム、ガラスビーズは無添加)、遠心分離して得られた血清のプール)、(2)実施例1で得られた10%血清、(3)実施例1で得られた5%血清、を各15cc内で培養した。
【0031】
抗原刺激の代用として抗CD3抗体、T細胞増殖因子としてインターロイキン2をそれぞれ 30 ng/cc、30U/cc加えた。培養開始日を0日目(day 0)とし、5日目、8日目、11日目および14日目に増殖しているT細胞数を算定した。算定した結果を図2及び図3に示す。
【0032】
その結果、本発明の方法によって得られた血清を添加した培養液によるT細胞の増幅効率は、従来法により15名の全血から直接作成したプール血清を用いた培養液を用いた場合と比較して同等であることが確認された。
【0033】
[実施例3] 血清の細胞傷害活性の確認
実施例2と同様の3種類の培養液で増幅した細胞傷害性T細胞株(CTL1)をエフェクターT細胞とし、アイソトープで標識した標的細胞に対する傷害活性を検討した。細胞傷害活性の程度は、T細胞に傷害されて細胞質内より培養液中に遊離したアイソトープの量を計測して決定した。なお、細胞傷害活性100%とは標的細胞が全て傷害された状態を意味する。標的細胞数に比してT細胞の割合が少ない状況でも細胞傷害活性が認められるかを検討する目的で、さまざまな比率でT細胞数と標的細胞数を混ぜて検討を行った結果を図4に示す。
【0034】
この結果から、本発明の方法によって得られた血清を添加した培養液によるT細胞の増幅の機能も、従来法による15名の全血から直接作成したプール血清を用いた培養液を用いた場合と比較して同等であることが確認された。
【0035】
【発明の効果】
本発明により、トロンビンを使用することなく、血漿画分から簡易に、かつ効率的にT細胞をはじめとする細胞の培養・保存に有用な血清を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の方法及び従来法によって得られた血清を添加した培養液によるT細胞(CTL1)の増幅効率を示す図である。
【図3】本発明の方法及び従来法によって得られた血清を添加した培養液によるT細胞(CTL2)の増幅効率を示す図である。
【図4】本発明の方法及び従来法によって得られた血清を添加した培養液により増幅した細胞傷害性T細胞(CTL1)の細胞傷害活性を示す図である。
Claims (7)
- 血漿にカルシウム化合物及びガラスビーズを添加して血漿中のタンパク質性血液凝固因子を凝固させ、凝固したタンパク質性血液凝固因子を除去して血清を得ることを含んでなる、血清の製造方法。
- さらに、36〜38℃で20〜60分間、加熱を行うことを含んでなる、請求項1に記載の血清の製造方法。
- 血漿がヒト由来の血漿である、請求項1又は2に記載の血清の製造方法。
- カルシウム化合物が、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム及び珪酸カルシウムからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血清の製造方法。
- カルシウム化合物を血漿100cc当たり0.4〜1mmol添加する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血清の製造方法。
- ガラスビーズを血漿100cc当たり1〜6g添加する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
- カルシウム化合物及びガラスビーズを含んでなる、血清製造用キット。
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