JP4107636B2 - 断熱性軽量強化磁器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度且つ軽量断熱化が求められている学校給食用食器として、或いは従来より軽量断熱化が求められている高齢者用や障害者用食器や、電子レンジで加熱されにくい食器、さらには強度と軽量化が求められているインテリア用の陶板として使用する断熱性軽量強化磁器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、学校給食用の磁器食器には、磁器にアルミナを添加し、食器洗浄機での使用に耐えられるよう高強度化したアルミナ強化磁器が主に用いられている。しかし、強度を高めるために添加されるアルミナ原料は、比重が4.0近くもあり、普通磁器の2.4程度に比べかなり大きい。そこで製品重量を低減するため、厚みを薄くすることによって対応がなされているが、その結果熱が伝わりやすくなり、汁物を注ぐと熱くて持てないといった問題が起きてくる。しかもアルミナの熱伝導度は文献によれば0.011(cal/cm2/cm/sec/℃)で、普通磁器の値0.004(cal/cm2/cm/sec/℃)に比べ3倍近く大きいことが熱の伝わりやすさをさらに助長している。
また、磁器製の食器は普通磁器でさえ金属アルミやメラミン樹脂のような他の学校給食用食器に比べ重いところへ、比重の大きなアルミナを加えることでさらに重くなってしまう。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような従来の問題点を解決するため、従来アルミナ強化磁器へ有機物の微粒子添加や、無機中空体を添加する方法が提案されてきた。
添加する有機物としては、おがくず、でんぷん、微粉炭、樹脂等があるが、これらは坏土として保存時の腐敗や焼成後の炭化物の残存、また焼成時の悪臭発生等の問題がある。
また、無機中空体としてはシラスバルーンやパーライト発泡体、ガラスバルーン等が提案されているが、これらは耐火度が低く磁器の焼成温度では溶融してしまい、焼成収縮が大きくなったり、軟化による変形などを引き起こす。
ところで、近年、無機中空体として耐火度の高いフライアッシュバルーンが登場し、陶器への添加は一部試みられている。そこで、これをアルミナ強化磁器へ添加することも考えたが、先述のようにアルミナ強化磁器に添加しているアルミナは曲げ強度の向上には寄与するが、比重が重い、熱を伝えやすいといった問題があるため、フライアッシュバルーンを添加してもその効果は薄れてしまう。
さらに、さほど高強度を必要としない高齢者用や障害者用の断熱性軽量化食器については、普通磁器や陶器へフライアッシュバルーンや上述の有機・無機の気孔形成材の添加が試みられているが、気孔率をわずかに増やし軽量化すると強度が大幅に低下し、日用食器として使用に耐えられなくなるといった問題が発生する。このことは、軽量化して多孔質になるほど、電子レンジで食品を加熱する場合、食器自身の温度は上がりにくいため、軽量化したいが上記のように強度の点で問題となっていた。そして、インテリア用の陶板についても、比重が重たいがために家屋や船内のインテリアとしての使用はごく限られたものとなっている。
【0004】
本発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、比重が大きく、熱伝導性のよいアルミナを添加せず高強度で軽量且つ断熱性を持った磁器製品を得ることのできる断熱性軽量強化磁器を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するために、本発明は、磁器を高強度化するため、最大粒径を30μm〜10μmまで微粉砕した天草陶土60wt%以上、99wt%以下に対し、軽量化と断熱性を付与するため耐火度SK14以上の最大粒径が300μm以下のフライアッシュバルーンを1wt%以上、40wt%以下の範囲で添加することで、無数の独立気孔を含有する手段よりなるものである。
つまり、本発明は普通磁器製品の製造に用いられている天草陶土の原料坏土を強度の向上が認められる最大粒径を30μm〜10μmまで微粉砕した後、耐火度SK14以上の最大粒径が300μm以下のフライアッシュバルーンを1wt%〜40wt%の範囲で混合し製品形状に成形の後、850℃以上で素焼きを行う。素焼き後釉薬を施し、1100℃〜1350℃で焼成することで嵩密度が1.2g/cm以上、2.4g/cm以下で平均曲げ強度が30MPa以上の断熱性軽量強化磁器が得られるのである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより具体的に説明する。
従来より、普通磁器やアルミナ強化磁器を断熱軽量化するため様々な有機・無機の気孔形成材が検討されてきたが、気孔形成材による気孔率の上昇は必然的に大幅な強度の低下を引き起こす。そのため、通常70〜80MPa程度の強度しかない普通磁器では、わずか1〜2割軽量化するだけで製品として使用できない程強度が低下し、製品化を阻んでいた。
一方アルミナ強化磁器の断熱軽量化についても同様な検討が行われてきたが、強度はあるがアルミナ原料自体が熱伝導率が高いことと、密度が高いことなどから満足のいくものが得られているとは言い難い。
そこで本発明者らは、アルミナを添加せずとも普通磁器製品に用いられている天草陶土の最大粒径40μm程度のものを、30μm以下まで微粉砕することによって、破壊源となる粗大粒子が減少し曲げ強度が増大することに着目し、この原料に磁器の焼成温度では溶融しない耐火度の高いフライアッシュバルーンを添加することで従来にない高強度で、しかも断熱性と軽量化を兼ね備えた学校給食用食器やあるいは高齢者用や障害者用食器またはインテリア用の陶板として、好適な断熱性軽量強化磁器を提供することができることを見出した。
ここで天草陶土の原料坏土を最大粒径30μm以下としたのは、通常普通磁器として使用される場合その値は40μm程度であり、この粗大粒子が破壊源となり強度低下を引き起こしている。そのため、この値を30μm以下にしないと所望の強度が得られず好ましくない。
さらに原料坏土の最大粒径は15μm以下にするのが最も好ましく、それにより焼成後の平均曲げ強度が普通磁器の約3倍の200MPa程度のものまで得られやすくなるため、フライアッシュバルーン添加による強度の低下をできるだけカバーすることが可能となる。
次に無機中空体として耐火度の高いフライアッシュバルーンであるが、耐火度はSK14(溶倒温度1410℃)以上必要であり、それ未満では焼成中に軟化しやすく、過剰な収縮やへたり等により製品が変形しやすくなり好ましくない。また、その最大粒径は300μm以下が好ましいのは、300μmを越えるものが増加してくると、それを破壊源として強度の低下が著しくなると同時に、製品の表面に凹凸が出来やすくなり製品価値が低下するからである。
さらにその添加量を1wt%以上40wt%以下としたのは、1wt%未満では軽量化の効果がほとんどなく、一方40wt%を越えると坏土の可塑性が低下しすぎるため、成形が困難となることと、鋳込み成形するため泥漿にした場合バルーンの割合が多いために素地の強度が弱く取り扱い中に壊れやすくなる。より好ましいのは5wt%から30wt%である。
そして、焼成体の嵩比重が1.2g/cm3未満では曲げ強度の低下が著しく、食器として使用する場合の衝撃に耐えられなくなるため好ましくない。
また、素焼き後に釉薬を施すのは、無釉状態では製品表面のバルーンが破壊の起点となり強度の低下を引き起こしやすいことと、製品として使用上、表面のわずかなくぼみなどに汚れがたまりやすく衛生上好ましくないためである。
【0007】
以下、実施例と比較例に従って本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を脱しない範囲で陶磁器業者の知識と経験に基づき、坏土の組成やバルーンの種類等改良を行い実施できるものである。
【0008】
【実施例1】
原料坏土には天草選上陶土(最大粒径40μm)50wt%に水分50wt%を添加し、24時間ボールミルにて湿式粉砕を行い、フィルタープレスで脱水したものを用いた。その水分量を測定し、乾燥坏土に対して粒径の異なる耐火度SK27(溶倒温度1610℃)のフライアッシュバルーンとして例えば太平洋セメント株式会社製のイースフィアーズを添加量を0〜50wt%の範囲で添加し、試験坏土とした。
なお、原料坏土やフライアッシュバルーンの粒度の測定はレーザー回折法により行い、その結果、粉砕後の天草選上陶土の最大粒径は15μmであった。
次に試験坏土を鋳込み成形に適当な粘性にするため、水分と解膠剤を添加して泥漿を作製し、JCRS203に基づく曲げ強度測定用の石膏型に流し込み、試験片生地を成形した。
その後、充分乾燥を行った後940℃で素焼きを行い、一部の試験片については釉薬を施した後1300℃で還元焼成を行った。
焼成後に得られた試験片についてJCRS203に基づき各10本の曲げ強度を測定し、その平均値を求めた。さらに、曲げ強度測定後の無釉の試験片を用いJIS R2205に準じ、嵩比重の測定を行った。
各測定結果を表1に示す。なお表1中の試験番号1は、本発明の数値限定範囲外であって比較のため参考例として併記した。
表1に示した試験番号2,3,4,5,6,8は特に、普通磁器の嵩比重2.4と比較し嵩比重は小さいにも関わらず、曲げ強度は普通磁器の75MPaより高くこれまで報告されたことのない軽さと強さを兼ね備えたものとなっている。
また、試験番号7,9についても、曲げ強度は普通磁器より小さいものの、嵩比重に対する曲げ強度の低下は少なく、製品として日常的な使用には充分耐えられるものである。
【0009】
【表1】
Figure 0004107636
【0010】
【実施例2】
実施例1における原料坏土のボールミル粉砕時間を変えることで、その最大粒径を10μm、15μm、30μmさらに未粉砕の40μmの4種類とし、それぞれの原料坏土について、フライアッシュバルーンとして耐火度SK27の太平洋セメント株式会社製のイースフィアーズを20wt%添加することで試験坏土とし、原料坏土の粒径と曲げ強度について検討を行った。試験方法としては実施例1と同様、各試験坏土で試験片を作製し、曲げ強度と嵩比重の測定を行った。測定結果を表2に示す。なお表2中の試験番号12は本発明の数値限定範囲外であって、比較のため参考例として併記した。表2の結果より、原料坏土の最大粒径が小さくなるほど、曲げ強度は増大し、嵩比重の低下すなわち軽量化による曲げ強度の低下を抑制できることが判明した。
【0011】
【表2】
Figure 0004107636
【0012】
【比較例1】
実施例1の試験番号5を基に、原料坏土は天草選上陶土の最大粒径15μmを用い、それに耐火度SK3a(溶倒温度1140℃)のシラスバルーンを添加し、実施例1と同様の手順で曲げ強度と嵩比重を測定した。測定結果を表3に示す。表3より、シラスバルーンは耐火度が低いため、焼成により溶融し、フライアッシュバルーンに比べて嵩比重が充分低下できず、また、比較例2で後述する欠点もある。
【0013】
【表3】
Figure 0004107636
【0014】
【比較例2】
実施例1の本発明品である試験番号5と比較例1の試験番号13の試験坏土で、φ150mmの小皿を機械ロクロにより成形し、940℃で素焼きした後、施釉を行い1100℃〜1350℃で還元焼成を行った。その結果を表4に示す。表4より、シラスバルーンを添加したものは耐火度が低いために1100℃焼成でも、皿の縁が変形し、1200℃焼成では、皿中心部もへこんでしまい、製品として使用できるものではなかった。
【0015】
【表4】
Figure 0004107636
【0016】
【比較例3】
比較例2で作製した試験番号5の小皿と、同形状の普通磁器の小皿にそれぞれ200mlの水を入れ、電子レンジで加熱した。各加熱時間での水温と小皿取っ手部分の表面温度を測定した。測定結果を表5に示す。表5より、水温は両方の小皿で同様に上昇するが、小皿取っ手部分の温度は明らかに異なり、バルーン添加により多孔質にした方が温度の上昇が緩やかであることが確認された。このことは本発明品が従来の普通磁器に比べ、電子レンジによる食器の昇温が緩やかで、加熱後の食器を素手で取り出しやすいことを意味する。
【0017】
【表5】
Figure 0004107636
【0018】
【発明の効果】
以上の記載より明らかなように、本発明に係る断熱性軽量強化磁器によれば、主に小学校や中学校の学校給食用食器として用いられている従来のアルミナ強化磁器は、添加しているアルミナのために重く、しかも熱伝導度が高く、熱湯を注ぐと熱くて持てないといった問題があったが、アルミナを添加せず、磁器原料を微粉砕することで高強度にし、さらに耐火度の高いフライアッシュバルーンを添加することで、軽量化と断熱性を兼ね備えた断熱性軽量強化磁器を工業的・経済的に提供できる。さらに、強度よりも軽量化が特に求められている高齢者用や障害者用の食器に対して、またインテリア用の陶板についても、従来にない断熱性軽量強化磁器を提供できる等、極めて新規的有益なる効果を奏するものである。

Claims (4)

  1. 磁器を高強度化するため、最大粒径を30μm〜10μmまで微粉砕した天草陶土60wt%以上、99wt%以下に対し、軽量化と断熱性を付与するため耐火度SK14以上の最大粒径が300μm以下のフライアッシュバルーンを1wt%以上、40wt%以下の範囲で添加することで、無数の独立気孔を含有することを特徴とする断熱性軽量強化磁器。
  2. 磁器を高強度化するため、最大粒径を30μm〜10μmまで微粉砕した天草陶土60wt%以上、99wt%以下に対し、軽量化と断熱性を付与するため耐火度SK14以上の最大粒径が300μm〜212μmのフライアッシュバルーンを1wt%以上、40wt%以下の範囲で添加することで、無数の独立気孔を含有することを特徴とする断熱性軽量強化磁器。
  3. 磁器を高強度化するため、最大粒径を15μm〜10μmまで微粉砕した天草陶土70wt%以上、95wt%以下に対し、軽量化と断熱性を付与するため耐火度SK14以上の最大粒径が300μm〜212μmのフライアッシュバルーンを5wt%以上、30wt%以下の範囲で添加することで、無数の独立気孔を含有することを特徴とする断熱性軽量強化磁器。
  4. 前記断熱性軽量強化磁器は釉薬を施し、1100℃〜1350℃で焼成することで、嵩比重が1.2g/cm以上2.4g/cm以下で、平均曲げ強度が30MPa以上ある請求項1、請求項2又は請求項3記載の断熱性軽量強化磁器。
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