JP4105589B2 - 光記録媒体および光記録方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光記録媒体および光記録方法に関するものであり、さらに詳細には、基板とは反対側から、レーザ光を照射して、データを記録し、再生する光記録媒体であって、再生された信号中のノイズレベルを低減し、C/N比を向上させることができる二層以上の記録層を備えた光記録媒体およびかかる光記録媒体に、データを記録する光記録方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、デジタルデータを記録するための記録媒体として、CDやDVDに代表される光記録媒体が広く利用されている。これらの光記録媒体は、CD−ROMやDVD−ROMのように、データの追記や書き換えができないタイプの光記録媒体(ROM型光記録媒体)と、CD−RやDVD−Rのように、データの追記はできるが、データの書き換えができないタイプの光記録媒体(追記型光記録媒体)と、CD−RWやDVD−RWのように、データの書き換えが可能なタイプの光記録媒体(書き換え型光記録媒体)とに大別することができる。
【0003】
広く知られているように、ROM型光記録媒体においては、製造段階において基板に形成されるプリピットにより、データが記録されることが一般的であり、書き換え型光記録媒体においては、たとえば、記録層の材料として相変化材料が用いられ、その相状態の変化に起因する光学特性の変化を利用して、データが記録されることが一般的である。
【0004】
これに対し、追記型光記録媒体においては、記録層の材料として、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、アゾ色素などの有機色素が用いられ、その化学的変化(場合によっては、化学的変化に加えて物理的変形を伴うことがある。)に起因する光学特性の変化を利用して、データが記録されることが一般的である。
【0005】
しかしながら、有機色素は、日光などの照射を受けると、劣化するため、記録層の材料として、有機色素を用いた場合には、長期間の保存に対する信頼性を高めることは容易ではない。したがって、追記型光記録媒体の長期間の保存に対する信頼性を高めるためには、記録層を有機色素以外の材料によって構成することが望ましい。
【0006】
記録層を有機色素以外の材料によって構成した例としては、特開昭62−204442号公報に記載されているように、二層の記録層を積層した光記録媒体が知られている。
【0007】
一方、近年、データの記録密度が高められ、かつ、非常に高いデータ転送レートを実現可能な次世代型の光記録媒体が提案されている。
【0008】
このような次世代型の光記録媒体においては、記録容量を高めるとともに、非常に高いデータ転送レートを実現するため、必然的に、データの記録・再生に用いるレーザ光のビームスポット径を非常に小さく絞ることが要求される。
【0009】
レーザ光のビームスポット径を小さく絞るためには、レーザ光を集束するための対物レンズの開口数(NA)を0.7以上、たとえば、0.85程度まで大きくするとともに、レーザ光の波長λを450nm以下、たとえば、400nm程度まで、短くすることが必要になる。
【0010】
しかしながら、レーザ光を集束するための対物レンズの開口数(NA)を高くすると、次式(1)で示されるように、光記録媒体に対するレーザ光の光軸の傾きに許される角度誤差、すなわち、チルトマージンTが非常に狭くなるという問題が生じる。
【0011】
【数1】
式(1)において、λは、記録・再生に用いるレーザ光の波長であり、dは、レーザ光が透過する光透過層の厚さである。
【0012】
式(1)から明らかなように、チルトマージンTは、対物レンズのNAが高いほど、小さくなり、光透過層の厚さdが薄いほど、大きくなる。したがって、チルトマージンTが小さくなることを防止するためには、光透過層の厚さdを小さくすることが効果的である。
【0013】
一方、コマ収差を表わす波面収差係数Wは、次式(2)によって定義される。
【0014】
【数2】
式(2)において、nは光透過層の屈折率であり、θはレーザ光の光軸の傾きである。
【0015】
式(2)から明らかなように、コマ収差を抑制するためにも、記録・再生に用いるレーザ光が透過する光透過層の厚さdを小さくすることが非常に効果的である。
【0016】
このような理由から、次世代型の光記録媒体においては、十分なチルトマージンを確保しつつ、コマ収差を抑制するために、光透過層の厚さを100μm程度まで薄くすることが提案されている。
【0017】
そのため、次世代型の光記録媒体においては、CDやDVDなど、現行の光記録媒体のように、光透過層上に記録層などの層を形成することは困難であり、したがって、基板上に形成した記録層などの層上に、スピンコーティング法などによって、薄い樹脂層を、光透過層として、形成する方法が提案されている。
【0018】
したがって、現行の光記録媒体においては、光入射面側から、順次、成膜が行われているが、次世代型の光記録媒体を作製する際には、光入射面とは反対側から、順次、成膜が行われることになる。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
このように、次世代型の光記録媒体においては、光入射面とは反対側から、順次、成膜が行われるため、基板上に、二層の記録層を形成した場合に、再生された信号中のノイズのレベルが大きくなり、C/N比が低下しやすいという問題が生じている。
【0020】
他方、近年の地球環境問題に対する関心の高まりにともなって、環境に与える負荷がより小さな構成材料を用いて、光記録媒体を構成することも要求されてきている。
【0021】
したがって、本発明は、基板とは反対側から、レーザ光を照射して、データを記録し、再生する光記録媒体であって、再生された信号中のノイズレベルを低減し、C/N比を向上させることができる二層以上の記録層を備えた光記録媒体を提供することを目的とするものである。
【0022】
また、本発明の別の目的は、環境に与える負荷がより小さな材料を用いて、作製することができ、長期間の保存に対する信頼性が高い光記録媒体を提供することにある。
【0023】
さらに、本発明の他の目的は、再生された信号中のノイズレベルを低減し、C/N比を向上させることができる光記録媒体への光記録方法を提供することにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、本発明のかかる目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、基板上に、SiおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む第一の記録層と、第一の記録層に対して、基板側に、第一の記録層に接するように、形成され、Agを主成分として含み、Cuを添加物として含む第二の記録層と、第一の記録層に対して、基板とは反対側に、光透過層を形成し、記録時に、450nm以下の波長λのレーザ光を、光透過層側から照射した場合には、驚くべきことに、レーザ光によって、第一の記録層に主成分として含まれている元素と、第二の記録層に主成分として含まれている元素とが混合した領域が形成され、反射率を大きく変化させることが可能になり、第一の記録層に主成分として含まれている元素と、第二の記録層に主成分として含まれている元素とが混合した領域の反射率と、それ以外の領域の反射率の大きな差を利用することにより、データを良好な感度で記録することができ、再生された信号中のノイズレベルを低減して、C/N比を向上させることが可能になることを見出した。
【0025】
したがって、本発明の前記目的は、前記基板上に設けられ、SiおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む第一の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板側に、前記第一の記録層に接するように、形成され、Agを主成分として含み、Cuを添加物として含む第二の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板とは反対側に設けられた光透過層を備え、記録時に,450nm以下の波長λのレーザ光が前記光透過層側から照射されるように構成されたことを特徴とする光記録媒体によって達成される。
【0026】
本発明において、第一の記録層が、ある元素を主成分として含むとは、第一の記録層に含まれる元素のうち、その元素の含有率が最も大きいことをいい、第二の記録層がAgを主成分として含むとは、第二の記録層に含まれる元素のうち、Agの含有率が最も大きいことをいう。
【0029】
本発明において、光記録媒体は、第一の記録層および第二の記録層に加えて、一もしくは二以上のSi、SnおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む記録層、または、一もしくは二以上のAgを主成分として含む記録層を備えていてもよい。
【0030】
レーザ光が照射されたときに、第一の記録層に主成分として含まれている元素と、第二の記録層に主成分として含まれている元素とが混合した領域が形成される理由は必ずしも明らかでないが、レーザ光が照射されたときに、第一の記録層に主成分として含まれている元素および第二の記録層に主成分として含まれている元素が、部分的にあるいは全体として、溶融ないし拡散し、第一の記録層に主成分として含まれている元素と、第二の記録層に主成分として含まれている元素とが混合された領域が形成されるものと推測される。
【0031】
こうして、第一の記録層に主成分として含まれている元素と、第二の記録層に主成分として含まれている元素とが混合されて、形成された領域の再生のためのレーザ光に対する反射率と、それ以外の領域の再生のためのレーザ光に対する反射率とは大きく異なるので、反射率の大きな差異を利用して、記録されたデータを高感度で再生することができる。
【0032】
基板側から、レーザ光が照射されるように構成された光記録媒体にあっては、基板上に、第二の記録層と第一の記録層が、順次、気相成長法によって形成されている場合にも、レーザ光は、射出成形などによって形成され、表面平滑性に優れた基板の表面に接し、表面平滑性に優れた第二の記録層の表面に入射するため、再生された信号中のノイズレベルが高くなることはないが、基板上に、第二の記録層と第一の記録層が、順次、気相成長法によって形成され、基板とは反対側から、レーザ光が照射されるように構成された光記録媒体にあっては、レーザ光は、基板上に、気相成長法によって形成され、表面平滑性が低い第一の記録層の表面に、気相成長法によって形成され、さらに表面平滑性が劣った第二の記録層の表面に入射するため、再生された信号中のノイズレベルが高くなり、C/N比が低下するという問題が生じ得る。
【0033】
ことに、波長の短いレーザ光と開口数NAが大きい対物レンズを用いて、データを記録し、再生する次世代型の光記録媒体にあっては、第一の記録層の表面に照射されるレーザ光のビームスポット径がきわめて小さいため、再生された信号中のノイズレベル、したがって、C/N比が、第一の記録層の表面の平滑性に大きく影響され、第一の記録層の表面の平滑性が低いと、再生された信号中のノイズレベルがきわめて高くなり、C/N比が大幅に低下するおそれがある。
【0034】
しかしながら、本発明においては、第二の記録層はAgを主成分として含み、Agを主成分として含む第二の記録層は、真空蒸着法やスパッタリング法などの気相成長法を用いて成膜した場合に、高い表面平滑性を有しているから、第二の記録層上に形成される第一の記録層の表面平滑性も高くなり、したがって、再生された信号中のノイズレベルが高くなることを効果的に防止して、C/N比の低下を防止することが可能になる。
【0035】
さらに、これらの元素は、環境に対する負荷が小さく、地球環境を害するおそれもない。
【0036】
本発明の前記目的はまた、基板上に設けられ、SiおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む第一の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板側に、前記第一の記録層に接するように、形成され、Agを主成分として含み、Cuを添加物として含む第二の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板とは反対側に設けられた光透過層を備えた光記録媒体に、450nm以下の波長λのレーザ光と、λ/NA≦640nmを満たす開口数NAを有する対物レンズを用いて、前記対物レンズを介して、前記光透過層側からレーザ光を照射することを特徴とする光記録方法によって達成される。
本発明によれば、さらに、光記録媒体に照射されるレーザ光のビームスポット径を絞ることができ、データの記録密度を大幅に向上させることが可能になる。
【0038】
本発明において、第一の記録層が、Siを主成分として含んでいることがとくに好ましい。
【0040】
本発明において、再生信号のノイズレベルをより低減させるとともに、長期間の保存に対する信頼性を向上させるために、Agを主成分として含む第二の記録層に、Cu、Pd、MgおよびNdよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素が添加されていることが好ましく、Cuおよび/またはPdが添加されていることがより好ましい。
【0041】
本発明において、Agを主成分として含む第二の記録層に添加されるCu、Pd、MgおよびNdよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素の量は、好ましくは、1原子%以上、50原子%未満である。
【0042】
本発明において、好ましくは、第一の記録層および第二の記録層は、第一の記録層と第二の記録層の総厚が2nmないし40nmとなるように、より好ましくは、第一の記録層と第二の記録層の総厚が2nmないし20nmになるように、さらに好ましくは、第一の記録層と第二の記録層の総厚が2nmないし10nmになるように形成される。
【0043】
本発明の好ましい実施態様においては、光記録媒体は、さらに、前記光透過層と前記第一の記録層との間に設けられた第一の誘電体層と、前記第二の記録層と前記基板との間に設けられた第二の誘電体層を備えている。
【0044】
本発明の好ましい実施態様によれば、データの記録時に、レーザ光が照射された基板または光透過層が、熱変形することを確実に防止することが可能になる。また、第一の記録層に主成分として含まれている元素および第二の記録層に主成分として含まれるAgが腐食することを防止することが可能になるから、記録されたデータの劣化を、長期間にわたって、より効果的に防止することが可能になる。
【0045】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、光記録媒体は、前記基板と前記第二の誘電体層との間に設けられた反射層を備えている。
【0046】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、多重干渉効果により、記録部と未記録部との反射率の差を大きくすることができ、その結果、高い再生信号(C/N比)を得ることが可能になる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
【0051】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録媒体の構造を示す略断面図である。
【0052】
図1に示されるように、本実施態様にかかる光記録媒体10は、追記型の光記録媒体として構成され、基板11と、基板11の表面上に形成された反射層12と、反射層12の表面上に形成された第二の誘電体層13と、第二の誘電体層13の表面上に形成された第二の記録層32と、第二の記録層32の表面上に形成された第一の記録層31と、第一の記録層31の表面上に設けられた第一の誘電体層15と、第一の誘電体層15の表面上に形成された光透過層16を備えている。
【0053】
図1に示されるように、光記録媒体10の中央部分には、センターホール17が形成されている。
【0054】
本実施態様においては、図1に示されるように、光透過層16の表面に、レーザ光L10が照射されて、光記録媒体10にデータが記録され、光記録媒体10から、データが再生される。
【0055】
基板11は、光記録媒体10に求められる機械的強度を確保するための支持体として、機能する。
【0056】
基板11を形成するための材料は、光記録媒体10の支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではない。基板11は、たとえば、ガラス、セラミックス、樹脂などによって、形成することができる。これらのうち、成形の容易性の観点から、樹脂が好ましく使用される。このような樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性、光学特性などの点から、ポリカーボネート樹脂がとくに好ましい。
【0057】
本実施態様においては、基板11は、約1.1mmの厚さを有している。
【0058】
基板11の形状は、とくに限定されるものではないが、通常は、ディスク状、カード状あるいはシート状である。
【0059】
図1に示されるように、基板11の表面には、交互に、グルーブ11aおよびランド11bが形成されている。基板11の表面に形成されたグルーブ11aおよび/またはランド11bは、データを記録する場合およびデータを再生する場合において、レーザ光L10のガイドトラックとして、機能する。
【0060】
反射層12は、光透過層16を介して、入射したレーザ光L10を反射し、再び、光透過層16から出射させる機能を有している。
【0061】
反射層12の厚さは、とくに限定されるものではないが、10nmないし300nmであることが好ましく、20nmないし200nmであることが、とくに好ましい。
【0062】
反射層12を形成するための材料は、レーザ光を反射できればよく、とくに限定されるものではなく、Mg、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ag、Pt、Auなどによって、反射層12を形成することができる。これらのうち、高い反射率を有しているAl、Au、Ag、Cu、または、AgとCuとの合金などのこれらの金属の少なくとも1つを含む合金などの金属材料が、反射層12を形成するために、好ましく用いられる。
【0063】
反射層12は、レーザ光L10を用いて、第一の記録層31および第二の記録層32に光記録されたデータを再生するときに、多重干渉効果によって、記録部と未記録部との反射率の差を大きくして、高い再生信号(C/N比)を得るために、設けられている。
【0064】
第一の誘電体層15および第二の誘電体層13は、第一の記録層11および第二の記録層12を保護する役割を果たす。したがって、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13により、長期間にわたって、光記録されたデータの劣化を効果的に防止することができる。また、第二の誘電体層13は、基板11などの熱変形を防止する効果があり、したがって、変形に伴うジッターの悪化を効果的に防止することが可能になる。
【0065】
第1の誘電体層15および第2の誘電体層13を形成するための誘電体材料は、透明な誘電体材料であれば、とくに限定されるものではなく、たとえば、酸化物、硫化物、窒化物またはこれらの組み合わせを主成分とする誘電体材料によって、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13を形成することができる。より具体的には、基板11などの熱変形を防止し、第一の記録層31および第二の記録層32を保護するために、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13が、Al2O3、AlN、ZnO、ZnS、GeN、GeCrN、CeO、SiO、SiO2、SiNおよびSiCよりなる群から選ばれる少なくとも1種の誘電体材料を主成分として含んでいることが好ましく、ZnS・SiO2を主成分として含んでいることがより好ましい。
【0066】
第一の誘電体層15と第二の誘電体層13は、互いに同じ誘電体材料によって形成されていてもよいが、異なる誘電体材料によって形成されていてもよい。さらに、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13の少なくとも一方が、複数の誘電体膜からなる多層構造であってもよい。
【0067】
なお、本明細書において、誘電体層が、誘電体材料を主成分として含むとは、誘電体層に含まれている誘電体材料の中で、その誘電体材料の含有率が最も大きいことをいう。また、ZnS・SiO2は、ZnSとSiO2との混合物を意味する。
【0068】
第一の誘電体層15および第二の誘電体層13の層厚は、とくに限定されるものではないが、3ないし200nmであることが好ましい。第一の誘電体層15あるいは第二の誘電体層13の層厚が3nm未満であると、上述した効果が得られにくくなる。一方、第一の誘電体層15あるいは第二の誘電体層13の層厚が200nmを越えると、成膜に要する時間が長くなり、光記録媒体10の生産性が低下するおそれがあり、さらに、第一の誘電体層15あるいは第二の誘電体層13のもつ応力によって、光記録媒体10にクラックが発生するおそれがある。
【0069】
第一の記録層31および第二の記録層32は、データを記録する層である。図1に示されるように、本実施態様においては、第一の記録層31は、光透過層16側に配置され、第二の記録層32は、基板11側に配置されている。
【0070】
本実施態様においては、第一の記録層31は、Si、SnおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含み、第二の記録層32は、Agを主成分として含んでいる。
【0071】
再生信号のC/N比を十分に向上させためには、第一の記録層31が、Siを主成分として含んでいることがとくに好ましい。
【0072】
本実施態様においては、第二の記録層32は、Agを主成分として含んでいるから、真空蒸着法やスパッタリング法などの気相成長法によって、第二の記録層32を形成したときに、表面平滑性に優れた第二の記録層32を形成することができる。
【0073】
さらに、Agを主成分として含む第二の記録層32に、Cu、Pd、MgおよびNdよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素が添加されていることが好ましい。Agを主成分として含む第二の記録層32に、Cu、Pd、MgおよびNdよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素が添加することによって、第二の記録層32の表面平滑性をより一層向上させることができ、再生された信号中のノイズレベルをより低く抑えることが可能になる。
【0074】
また、Agを主成分として含む第二の記録層32に、Cu、Pd、MgおよびNdよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素が添加することによって、光記録媒体10の保存信頼性を向上させることが可能になる。
【0075】
Cu、Pd、MgおよびNdは、環境に関する負荷が小さく、地球環境を害するおそれもない。
【0076】
Cu、Pd、MgおよびNdよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の添加量は、1原子%以上、50原子%未満であることが好ましい。
【0077】
第二の記録層32に、Cuを添加する場合には、添加量が2原子%以上、50原子%未満であることが好ましく、Pdを添加する場合には、添加量が1原子%以上、50原子%未満であることが好ましい。
【0078】
第一の記録層31および第二の記録層32の総厚が厚くなればなるほど、レーザ光L10が照射される第一の記録層31の表面平滑性が低下し、その結果、再生された信号中のノイズレベルが高くなるとともに、記録感度が低下する。その一方で、第一の記録層31および第二の記録層32の総厚が薄すぎると、データを記録する前後の反射率の差が少なくなり、高い再生信号(C/N比)を得ることができなくなり、膜厚制御も困難になる。
【0079】
そこで、本実施態様においては、第一の記録層31と第二の記録層32の総厚が、2nmないし40nmになるように、第一の記録層31および第二の記録層32が形成されている。より高い再生信号(C/N比)を得るとともに、再生信号中のノイズレベルをより一層低下させるためには、第一の記録層31と第二の記録層32の総厚が、2nmないし20nmであることが好ましく、2nmないし10nmであることがより好ましい。
【0080】
第一の記録層31および第二の記録層32のそれぞれの層厚は、とくに限定されるものではないが、記録感度を十分に向上させ、データを記録する前後の反射率の変化を十分に大きくするためには、第一の記録層31の層厚が、1nmないし30nmであり、第二の記録層32の層厚が、1nmないし30nmであることが好ましい。さらに、レーザ光を照射する前後の反射率の変化を十分に大きくするために、第一の記録層31の層厚と第二の記録層32の層厚との比(第一の記録層31の層厚/第二の記録層32の層厚)は、0.2ないし5.0であることが好ましい。
【0081】
光透過層16は、その内部に、レーザ光L10の光路が形成される層であり、10μmないし300μmの厚さを有していることが好ましく、より好ましくは、光透過層16は、50μmないし150μmの厚さを有している。
【0082】
光透過層16を形成するための材料は、とくに限定されるものではないが、スピンコーティング法などによって、光透過層16を形成する場合には、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などが好ましく用いられ、より好ましくは、紫外線硬化性樹脂によって、光透過層16が形成される。
【0083】
光透過層16は、第一の誘電体層15の表面に、光透過性樹脂によって形成されたシートを、接着剤を用いて、接着することによって、形成されてもよい。
【0084】
以上のような構成を有する光記録媒体10は、たとえば、以下のようにして、製造される。
【0085】
まず、グルーブ11aおよびランド11bが形成された基板11の表面上に、反射層12が形成される。
【0086】
反射層12は、たとえば、反射層12の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0087】
次いで、反射層12の表面上に、第二の誘電体層13が形成される。
【0088】
第二の誘電体層13は、たとえば、第二の誘電体層13の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0089】
さらに、第二の誘電体層13の表面上に、第二の記録層32が形成される。第二の記録層32も、第二の誘電体層13と同様にして、第二の記録層32の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。
【0090】
次いで、第二の記録層32の表面上に、第一の記録層31が形成される。第一の記録層31も、第一の記録層31の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって形成することができる。
【0091】
本実施態様においては、第二の記録層32がAgを主成分として含み、優れた表面平滑性を有しているから、第二の記録層32を下地として、形成された第一の記録層31の表面平滑性を向上させることができ、さらに、第一の記録層31と第二の記録層32の総厚が、2nmないし40nmとなるように、第一の記録層31および第二の記録層32が形成されるから、第一の記録層31の表面平滑性を一層向上させることができる。
【0092】
また、光記録媒体10の記録感度を向上させるためには、光透過層16の側に位置する第一の記録層31よりも、第二の記録層32が高い反射率を有していることが好ましいが、本実施態様においては、第二の記録層32が、高い反射率を有するAgを主成分として含んでいるから、光記録媒体10の記録感度を向上させることが可能になる。
【0093】
さらに、第一の記録層31の表面上に、第一の誘電体層15が形成される。第一の誘電体層15もまた、第一の誘電体層15の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。
【0094】
最後に、第一の誘電体層15の表面上に、光透過層16が形成される。光透過層16は、たとえば、粘度調整されたアクリル系の紫外線硬化性樹脂あるいはエポキシ系の紫外線硬化性樹脂を、スピンコーティング法などによって、第一の誘電体層15の表面に塗布して、塗膜を形成し、紫外線を照射して、塗膜を硬化させることによって、形成することができる。
【0095】
以上のようにして、光記録媒体10が製造される。
【0096】
以上のような構成を有する光記録媒体10に、たとえば、以下のようにして、データが光記録される。
【0097】
まず、図1および図2(a)に示されるように、所定のパワーを有するレーザ光L10が、光透過層16を介して、第一の記録層31および第二の記録層32に照射される。
【0098】
データを高い記録密度で、光記録媒体10に記録するためには、450nm以下の波長を有するレーザ光L10を、開口数NAが0.7以上の対物レンズ(図示せず)を用いて、光記録媒体10上に集束することが好ましく、λ/NA≦640nmであることがより好ましい。
【0099】
本実施態様においては、405nmの波長を有するレーザ光L10が、開口数が0.85の対物レンズを用いて、光記録媒体10上に集束される。
【0100】
その結果、レーザ光L10が照射された領域において、第一の記録層31に主成分として含まれた元素と、第二の記録層32に主成分として含まれた元素とが混合されて、図2(b)に示されるように、第一の記録層31に主成分として含まれた元素と、第二の記録層32に主成分として含まれた元素とが混合された混合領域Mが形成される。
【0101】
第一の記録層31に主成分として含まれた元素と、第二の記録層32に主成分として含まれた元素とを速やかに混合させて、混合領域Mを形成するために、レーザ光L10のパワーは、光透過層16の表面で、1.5mW以上であることが好ましい。
【0102】
第一の記録層31に主成分として含まれた元素と、第二の記録層32に主成分として含まれた元素とが混合されると、その領域の反射率が大きく変化し、したがって、こうして形成された混合領域Mの反射率は、その周囲の領域の反射率と大きく異なることになるので、光記録されたデータを再生する際に、高い再生信号(C/N比)が得ることが可能になる。
【0103】
レーザ光L10が照射されると、第一の記録層31および第二の記録層32がレーザ光L10によって加熱されるが、本実施態様においては、第一の記録層31および第二の記録層32の外側に、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13が配置されているので、基板11および光透過層16の熱変形を効果的に防止することが可能になる。
【0104】
本実施態様によれば、第一の記録層31は、Si、SnおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含み、第二の記録層32は、Agを主成分として含んでおり、所定のパワーを有するレーザ光L10が、光透過層16を介して、第一の記録層31および第二の記録層32に照射されると、レーザ光L10が照射された領域において、第一の記録層31に主成分として含まれた元素と、第二の記録層32に主成分として含まれた元素とが混合されて、図2(b)に示されるように、第一の記録層31に主成分として含まれた元素と、第二の記録層32に主成分として含まれた元素とが混合された混合領域Mが形成され、こうして形成された混合領域Mの反射率は、その周囲の領域の反射率と大きく異なることになるから、光記録されたデータを再生する際に、高い再生信号(C/N比)が得ることが可能になる。
【0105】
さらに、本実施態様によれば、第二の記録層32は、Agを主成分として含んでいるから、真空蒸着法やスパッタリング法などの気相成長法を用いて、表面平滑性に優れた第二の記録層32を形成することが可能になる。したがって、表面平滑性に優れた第二の記録層32を下地として形成された第一の記録層31の表面平滑性を向上させることが可能になるから、第一の記録層31の表面に照射されるレーザ光L10のビームスポット径がきわめて小さい場合においても、再生された信号中のノイズレベルが増大することを効果的に抑制することができ、高い再生信号(C/N比)を得ることが可能になる。
【0106】
また、第一の記録層31および第二の記録層32の層厚が厚くなればなるほど、レーザ光L10が照射される第一の記録層31の表面平滑性が低下し、その結果、再生された信号中のノイズレベルが高くなるとともに、記録感度が低下し、その一方で、第一の記録層31および第二の記録層32の層厚が薄すぎると、データを記録する前後の反射率の差が少なくなり、高い再生信号(C/N比)を得ることができなくなり、膜厚制御も困難になるが、本実施態様によれば、第一の記録層31と第二の記録層32の総厚が、2ないし40nmになるように、第一の記録層31および第二の記録層32が形成されているから、第一の記録層31の表面平滑性を向上させることができ、したがって、再生された信号中のノイズレベルを低減させることが可能になるとともに、記録感度を向上させることができ、さらには、高い再生信号(C/N比)を得ることが可能になる。
【0107】
さらに、本実施態様によれば、第一の記録層31に主成分として含まれている元素および第二の記録層32に主成分として含まれている元素は、環境に関する負荷が小さいから、地球環境を害するおそれがない。
【0108】
【実施例】
以下、本発明の効果をより明瞭なものとするため、実施例および比較例を掲げる。
【0109】
実施例1
以下のようにして、光記録媒体を作製した。
【0110】
すなわち、まず、厚さ1.1mm、直径120mmのポリカーボネート基板をスパッタリング装置にセットし、次いで、ポリカーボネート基板上に、ZnSとSiO2の混合物を含み、60nmの層厚を有する第二の誘電体層、Agを主成分として含み、6nmの層厚を有する第二の記録層、Siを主成分として含み、6nmの層厚を有する第一の記録層、ZnSとSiO2の混合物を含み、60nmの層厚を有する第一の誘電体層を、順次、スパッタリング法によって、形成した。
【0111】
第一の誘電体層および第二の誘電体層に含まれたZnSとSiO2の混合物中のZnSとSiO2のモル比率は、80:20であった。
【0112】
さらに、第一の誘電体層上に、アクリル系紫外線硬化性樹脂を、溶剤に溶解して、調製した樹脂溶液を、スピンコーティング法によって、塗布して、塗布層を形成し、塗布層に紫外線を照射して、アクリル系紫外線硬化性樹脂を硬化させ、100μmの層厚を有する光透過層を形成した。
【0113】
実施例2
Snを主成分として含む第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0114】
実施例3
Geを主成分として含む第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0115】
実施例4
Agを主成分として含む第一の記録層を形成し、Siを主成分として含む第二の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0116】
実施例5
Agを主成分として含む第一の記録層を形成し、Snを主成分として含む第二の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0117】
実施例6
Agを主成分として含む第一の記録層を形成し、Geを主成分として含む第二の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0118】
比較例1
Wを主成分として含む第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0119】
比較例2
Agを主成分として含む第一の記録層を形成し、Wを主成分として含む第二の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0120】
実施例1ないし実施例6ならびに比較例1および比較例2にしたがって作製された光記録媒体に、以下のようにして、データを光記録した。
【0121】
すなわち、実施例1ないし6ならびに比較例1および2によって作製した光記録媒体を、順次、パルステック工業株式会社製の光記録媒体評価装置「DDU1000」(商品名)にセットし、以下の条件で、各光記録媒体にデータを光記録した。
【0122】
波長が405nmの青色レーザ光を、記録用レーザ光として用い、NA(開口数)が0.85の対物レンズを用いて、レーザ光を、光透過層を介して、集光し、下記の記録信号条件で、データを光記録した。
【0123】
データの光記録は、実施例および比較例のそれぞれの各光記録媒体ごとに、レーザ光のパワーを変化させて、おこなった。
【0124】
記録信号条件は、以下のとおりであった。
【0125】
変調方式:(1,7)RLL
チャンネルビット長:0.12μm
記録線速度:5.3m/秒
チャンネルクロック:66MHz
記録信号:8T
次いで、上述の光媒体評価装置を用いて、各光記録媒体に記録されたデータを再生し、再生信号のC/N比の値を測定した。データの再生にあたっては、レーザ光の波長を405nm、対物レンズのNA(開口数)を0.85とし、レーザ光のパワーを0.3mWとした。ここに、レーザ光のパワーは、光透過層の表面におけるレーザ光のパワーとして、定義した。
【0126】
こうして、それぞれの光記録媒体につき、最も高いC/N比の値および最も高いC/N比を有する再生信号が得られたときのレーザ光のパワーを測定した。
【0127】
測定結果は、表1に示されている。
【0128】
ここに、実験に用いた光媒体評価装置のレーザ光の最高パワーは10.0mWであったため、レーザ光パワーを10.0mWまで高めても、C/N比の値が飽和しなかった場合には、最も高いC/N比を有する再生信号が得られるレーザパワーが10.0mWを越えていると判定し、レーザ光のパワー値を10.0mWとし、星印を付した。
【0129】
【表1】
表1から明らかなように、実施例1ないし実施例6にしたがって作製された光記録媒体においては、再生信号のC/N比を測定することができ、とくに、実施例1および実施例3にしたがって作製された光記録媒体においては、再生信号のC/N比が40dBを越え、実施例3にしたがって作製された光記録媒体においては、再生信号のC/N比が50dBを越えており、記録・再生特性が良好であることが判明した。
【0130】
これに対して、比較例1および比較例2にしたがって作製された光記録媒体においては、再生信号のC/N比を測定することができず、データの記録・再生が困難であることが判明した。
【0131】
さらに、実施例1、3、5および6にしたがって作製された光記録媒体においては、最も高いC/N比を有する再生信号が得られたときのレーザ光のパワーが10mW未満であり、実施例1、3、5および6にしたがって作製された光記録媒体が高い記録感度を有していることが判明した。
【0132】
実施例7
5nmの厚さを有する第二の記録層を形成し、5nmの厚さを有する第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0133】
実施例8
10nmの厚さを有する第二の記録層を形成し、10nmの厚さを有する第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0134】
実施例9
25nmの厚さを有する第二の記録層を形成し、25nmの厚さを有する第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0135】
次いで、開口数NAが0.85の対物レンズを用いて、405nmの波長のレーザ光を、実施例7ないし実施例9にしたがって作製された光記録媒体に照射し、2MHzおよび4.4MHzの周波数帯域での未記録部のノイズを測定した。
【0136】
レーザ光のビームスポット径は約0.43μmであった。
【0137】
測定結果は、図3に示されている。図3において、d(nm)は、第一の記録層および第二の記録層のそれぞれの厚さである。
【0138】
さらに、開口数NAが0.65の対物レンズを用いて、650nmの波長のレーザ光を、実施例7および実施例9にしたがって作製された光記録媒体に照射し、2MHzおよび4.2MHzの周波数帯域での未記録部のノイズを測定した。
【0139】
レーザ光のビームスポット径は約1.0μmであった。
【0140】
測定結果は、図4に示されている。図4において、d(nm)は、第一の記録層および第二の記録層のそれぞれの厚さである。
【0141】
図3および図4に示されるように、レーザ光のビームスポット径がきわめて小さい場合には、第一の記録層および第二の記録層が厚くなるほど、ノイズレベルが高くなることが認められたが、レーザ光のビームスポット径が約1.0μmの場合には、第一の記録層および第二の記録層の厚さd、すなわち、第一の記録層および第二の記録層の総厚2dが変化しても、ノイズレベルはほとんど変化しないことがわかった。
【0142】
これは、第一の記録層および第二の記録層が厚くなるほど、レーザ光が入射する第一の記録層の表面平滑性が悪化し、レーザ光のビームスポット径がきわめて小さい場合には、レーザ光が入射する第一の記録層の表面平滑性によって、ノイズレベルが大きな影響を受けるのに対し、レーザ光のビームスポット径が比較的大きい場合には、ノイズレベルが、レーザ光が入射する第一の記録層の表面平滑性の影響を受けなかったためと推測される。
【0143】
実施例10
2原子%のCuを添加して、4nmの厚さの第二の記録層を形成し、4nmの厚さの第一の記録層を形成した点を除き、実施例1と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0144】
実施例11
6nmの厚さの第二の記録層を形成し、6nmの厚さの第一の記録層を形成した点を除き、実施例10と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0145】
実施例12
8nmの厚さの第二の記録層を形成し、8nmの厚さの第一の記録層を形成した点を除き、実施例10と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0146】
実施例13
12nmの厚さの第二の記録層を形成し、12nmの厚さの第一の記録層を形成した点を除き、実施例10と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0147】
実施例14
25nmの厚さの第二の記録層を形成し、25nmの厚さの第一の記録層を形成した点を除き、実施例10と同様にして、光記録媒体を作製した。
【0148】
次いで、開口数NAが0.85の対物レンズを用いて、405nmの波長のレーザ光を、実施例10ないし実施例13にしたがって作製された光記録媒体に照射し、2MHzおよび4.4MHzの周波数帯域での未記録部のノイズを測定した。
【0149】
レーザ光のビームスポット径は約0.43μmであった。
【0150】
測定結果は、図5に示されている。図5において、d(nm)は、第一の記録層および第二の記録層のそれぞれの厚さである。
【0151】
図5に示されるように、Agを主成分として含む第二の記録層に、2原子%のCuを添加した場合には、第一の記録層および第二の記録層が厚くなっても、ノイズレベルはほとんど変化しないことが判明した。
【0152】
これは、Agを主成分として含む第二の記録層に、2原子%のCuを添加した場合には、第一の記録層および第二の記録層が厚くなっても、レーザ光が入射する第一の記録層の表面平滑性の悪化することが防止されるためと推測される。
【0153】
実施例15
以下のようにして、光記録媒体を作製した。
【0154】
すなわち、まず、厚さ1.1mm、直径120mmのポリカーボネート基板をスパッタリング装置にセットし、次いで、ポリカーボネート基板上に、Ag、PdおよびCuの混合物を含み、100nmの層厚を有する反射層、ZnSとSiO2の混合物を含み、28nmの層厚を有する第二の誘電体層、Agを主成分として含み、30原子%のCuが添加された6nmの層厚を有する第二の記録層、Siを主成分として含み、6nmの層厚を有する第一の記録層、ZnSとSiO2の混合物を含み、22nmの層厚を有する第一の誘電体層を、順次、スパッタリング法によって、形成した。
【0155】
第一の誘電体層および第二の誘電体層に含まれたZnSとSiO2の混合物中のZnSとSiO2のモル比率は、80:20であった。
【0156】
さらに、第一の誘電体層上に、アクリル系紫外線硬化性樹脂を、スピンコーティング法によって、塗布して、塗布層を形成し、塗布層に紫外線を照射して、アクリル系紫外線硬化性樹脂を硬化させ、100μmの層厚を有する光透過層を形成した。
【0157】
Agを主成分として含む第二の記録層に添加するCuの量を変えて、同様にして、光記録媒体を作製した。
【0158】
実施例1ないし6ならびに比較例1および2にしたがって作製された光記録媒体に、レーザ光のパワーを変化させて、データを記録し、データを再生したのと同様にして、実施例15にしたがって作製された光記録媒体に、レーザ光のパワーを変化させて、データを記録し、データを再生して、それぞれの光記録媒体につき、最も高いC/N比の値および最も高いC/N比を有する再生信号が得られたときのレーザ光のパワーを測定した。
【0159】
測定結果は、図6に示されている。
【0160】
図6に示されるように、Agを主成分として含む第二の記録層に添加するCuの量が多いほど、最も高いC/N比を有する再生信号が得られたときのレーザ光のパワーが低くなり、光記録媒体の記録感度が向上することが判明した。
【0161】
本発明において、第二の記録層は、Agを主成分として含んでいるから、図6において、Cuの添加量が50原子%を越えたデータは参考データである。
【0162】
本発明は、以上の実施態様および実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0163】
たとえば、前記実施態様および前記実施例においては、第一の記録層31と第二の記録層32が、互いに接触するように形成されているが、第二の記録層32は、レーザ光の照射を受けたときに、第一の記録層31に主成分として含まれている元素と、第二の記録層12に主成分として含まれている元素とが混合した領域が形成されるように、第一の記録層31の近傍に配置されていればよく、第一の記録層31と第二の記録層32が、互いに接触するように形成されていることは必ずしも必要でなく、第一の記録層31と第二の記録層32の間に、誘電体層などの一または二以上の他の層が介在していてもよい。第一の記録層31と第二の記録層32の間に、誘電体層などの一または二以上の他の層が介在して場合、介在する層の厚さは、30nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、20nm以下である。
【0164】
また、前記実施態様および前記実施例においては、光記録媒体10は、第一の記録層31および第二の記録層32を備えているが、第一の記録層31および第二の記録層32に加えて、一もしくは二以上のSi、SnおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む記録層または一もしくは二以上のAgを主成分として含む記録層を備えていてもよい。
【0165】
さらに、前記実施態様および前記実施例においては、第一の記録層31が光透過層16側に配置され、第二の記録層32が基板11側に配置されているが、第一の記録層31を基板11側に配置し、第二の記録層32を光透過層16側に配置することもできる。ただし、レーザ光L0が入射する記録層の表面平滑性を向上させるためには、表面平滑性に優れた層上に、その記録層を形成することが好ましく、また、光記録媒体の記録感度を向上させるためには、光透過層16とは反対側に位置する記録層を反射率の高い材料によって形成することが好ましいから、Agを主成分として含む第二の記録層32を、基板11側に配置することが好ましい。
【0166】
また、前記実施態様および前記実施例においては、光記録媒体10は、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13を備え、第一の記録層31および第二の記録層32が、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13の間に配置されているが、光記録媒体10が、第一の誘電体層15および第二の誘電体層13を備えていることは必ずしも必要でなく、誘電体層を備えていなくてもよい。また、光記録媒体10は、単一の誘電体層を有していてもよく、その場合には、誘電体層は、第一の記録層31および第二の記録層32に対して、基板11側に配置されていても、あるいは、光透過層16側に配置されていてもよい。
【0167】
さらに、前記実施例においては、第一の記録層と第二の記録層は、同じ厚さを有するように形成されているが、第一の記録層と第二の記録層を、同じ厚さを有するように形成することは必ずしも必要でない。
【0168】
【発明の効果】
本発明によれば、基板とは反対側から、レーザ光を照射して、データを記録し、再生する光記録媒体であって、再生された信号中のノイズレベルを低減し、C/N比を向上させることができる二層以上の記録層を備えた光記録媒体を提供することが可能になる。
【0169】
また、本発明によれば、環境に与える負荷がより小さな材料を用いて、作製することができ、長期間の保存に対する信頼性が高い光記録媒体を提供することが可能になる。
【0170】
さらに、本発明によれば、再生された信号中のノイズレベルを低減し、C/N比を向上させることができる光記録媒体への光記録方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録媒体の構造を示す略断面図である。
【図2】図2(a)は、図1に示された光記録媒体の一部拡大略断面図であり、図2(b)は、データが記録された後の光記録媒体の一部拡大略断面図である。
【図3】図3は、第一の記録層および第二の記録層の厚さとノイズレベルノイズレベルとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、第一の記録層および第二の記録層の厚さとノイズレベルノイズレベルとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、第一の記録層および第二の記録層の厚さとノイズレベルノイズレベルとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、Agを主成分として含む第二の記録層に添加されたCuの量と、最も高いC/N比を有する再生信号が得られたときのレーザ光のパワーとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 光記録媒体
11 基板
11a グルーブ
11b ランド
12 反射層
13 第二の誘電体層
15 第一の誘電体層
16 光透過層
17 センターホール
31 第一の記録層
32 第二の記録層
L10 レーザ光
M 混合領域
Claims (9)
- 基板上に設けられ、SiおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む第一の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板側に、前記第一の記録層に接するように、形成され、Agを主成分として含み、Cuを添加物として含む第二の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板とは反対側に設けられた光透過層を備え、記録時に、450nm以下の波長λのレーザ光が前記光透過層側から照射されるように構成されたことを特徴とする光記録媒体。
- 前記第一の記録層が、Siを主成分として含んでいることを特徴とする請求項1に記載の光記録媒体。
- 前記第一の記録層および前記第二の記録層が、その総厚が2nmないし40nmになるように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光記録媒体。
- さらに、前記光透過層と前記第一の記録層との間に設けられた第一の誘電体層と、前記第二の記録層と前記基板との間に設けられた第二の誘電体層を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光記録媒体。
- さらに、前記基板と前記第二の誘電体層との間に、反射層が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の光記録媒体。
- 前記第二の記録層が、2原子%以上、50原子%未満のCuを含んでいることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光記録媒体。
- 前記第一の記録層および前記第二の記録層が、その総厚が2nmないし10nmになるように形成されていることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか1項に記載の光記録媒体。
- 前記光記録媒体が追記型光記録媒体として構成されたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光記録媒体。
- 基板上に設けられ、SiおよびGeよりなる群から選ばれる元素を主成分として含む第一の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板側に、前記第一の記録層に接するように、形成され、Agを主成分として含み、Cuを添加物として含む第二の記録層と、前記第一の記録層に対して、前記基板とは反対側に設けられた光透過層を備えた光記録媒体に、450nm以下の波長λのレーザ光と、λ/NA≦640nmを満たす開口数NAを有する対物レンズを用いて、前記対物レンズを介して、前記光透過層側からレーザ光を照射することを特徴とする光記録方法。
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