JP4100082B2 - 車両用操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクチュエータの制御により車両の操舵特性を変更可能な車両用操舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
操舵用アクチュエータの制御により車両の操舵特性を変更可能な車両用操舵装置がある。そのような操舵装置として、操作部材と車輪とを機械的に連結しない所謂ステアバイワイヤシステムを採用したものと、機械的に連結したものとがある。
【0003】
ステアバイワイヤシステムを採用した操舵装置においては、ステアリングホイールを模した操作部材を車輪に機械的に連結することなく、操舵用アクチュエータの動きを舵角変化が生じるように車輪に伝達することで操舵特性を変更している。操作部材と車輪とを機械的に連結した操舵装置においては、ステアリングホイールの操作に応じた入力シャフトの回転を遊星ギヤ機構等の伝達比可変機構を介して出力シャフトに伝達し、その出力シャフトの回転を舵角変化が生じるように車輪に伝達し、その遊星ギヤ機構のリングギヤ等を操舵用アクチュエータにより駆動することで操舵特性を変更している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ステアバイワイヤシステムを採用した操舵装置においては、アクチュエータや制御系の故障時に操作部材により車輪を転舵させるためのフェールセーフ機能が必要になる。そこで、操作部材に機械的に連結された操作側回転部材と車輪に機械的に連結された操作側回転部材とをクラッチ等を介して連結することでフェールセーフ機能を奏することが提案されている。しかし、通常は操作側回転部材と車輪側回転部材とが機械的に連結されていないため、フェールセーフ機能としての確実性が十分なものではなかった。
【0005】
伝達比可変機構を用いて操作部材と車輪とを機械的に連結した操舵装置においては、路面の凹凸等による舵角変動を補償するための制御を行う際に、車輪の動きと操作部材の動きとが互いに干渉する。そのため、円滑な操舵フィーリングを得るのが困難であった。
【0006】
また、従来は単一のアクチュエータにより舵角変化に必要な出力を発生させるため、アクチュエータが大型化するために車体内におけるレイアウトが制限され、小型のアクチュエータを用いる場合は出力不足により操舵に対する舵角変化の応答性が低下する。
【0007】
さらに、従来は路面から車輪に作用する力を操舵特性に十分反映できず、ドライバーが違和感を感じるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決することのできる車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の車両用操舵装置は、操作部材と、その操作部材の操作に応じて回転するように、その操作部材に機械的に連結された操作側回転部材と、操舵用アクチュエータと、その操舵用アクチュエータの動きを舵角変化が生じるように車輪に伝達するステアリングギヤと、その舵角変化に応じて回転するように、その車輪に機械的に連結された車輪側回転部材と、その操作側回転部材と車輪側回転部材とを互いに回転伝達可能かつ回転伝達比を変更可能に機械的に連結する伝動機構と、その伝動機構による回転伝達比の調整用アクチュエータとを備える。
これにより、操作部材に機械的に連結された操作側回転部材と車輪に機械的に連結された車輪側回転部材とが伝動機構を介して互いに回転伝達可能であるので、フェールセーフ機能の確実性を向上することができる。
そのフェールセーフ機能は、例えば調整用アクチュエータ、操舵用アクチュエータ、制御系の中の少なくとも一つの異常の検知手段と、その異常検知時に操作側回転部材と車輪側回転部材との間の回転伝達比の変化を規制する手段とを備える構成により奏することができる。その異常検知時においては、両アクチュエータの駆動を解除して操舵装置をマニュアルタイプのステアリング装置として機能させてもよいし、調整用アクチュエータの異常時は操舵用アクチュエータにより操舵補助力を発生し、操舵用アクチュエータの異常時は調整用アクチュエータにより操舵補助力を発生することで操舵装置をパワーステアリング装置として機能させてもよい。
【0010】
本発明の一つの特徴は、その伝動機構を介して調整用アクチュエータの出力の一部が車輪側回転部材に伝達されると共に残部が操作側回転部材に伝達され、その操舵用アクチュエータの発生出力と車輪側回転部材に伝達される調整用アクチュエータの発生出力の一部とにより舵角が変化し、その調整用アクチュエータの発生出力の残部により操作トルクが発生するように、その調整用アクチュエータと操舵用アクチュエータを制御可能な制御系を備え、その操作トルクの発生タイミングと舵角の変化タイミングとのずれを低減できるように、その調整用アクチュエータの起動タイミングを設定された時間だけ遅れさせる遅延手段が設けられている点にある。
これにより、車輪側回転部材に伝達される調整用アクチュエータの出力の一部と操舵用アクチュエータの出力により舵角を変化させ、操作側回転部材に伝達される調整用アクチュエータの出力の残部により操作部材にトルクを作用させることができる。その舵角変化に調整用アクチュエータの発生出力の一部が用いられることで、操舵用アクチュエータの発生出力だけで舵角を変化させるのに比べ、操舵用アクチュエータは発生出力が少なくてよいので小型化できる。また、調整用アクチュエータにより車輪側回転部材と操作側回転部材との間の回転伝達比を変化させることで、円滑に操作トルクを変化させることができる。また、操作トルクの作用開始時点に対して舵角変化開始時点が路面と車輪との間の摩擦により遅れるのを防止し、操作トルクの作用開始時点と車両の挙動変化開始時点とを同期させ、ドライバーが違和感を感じるのを防止できる。
【0011】
本発明の別の一つの特徴は、路面から車輪に作用する力と目標操作トルクとの間の関係を記憶する手段と、路面から車輪に作用する力に対応する値を検出する手段と、その記憶した関係と検出した力に対応する値とから目標操作トルクを演算する手段と、その操作部材の操作トルクを求める手段とを備え、その目標操作トルクと操作トルクとの偏差を低減するように前記調整用アクチュエータが制御可能とされ、その操作トルクの発生タイミングと舵角の変化タイミングとのずれを低減できるように、その調整用アクチュエータの起動タイミングを設定された時間だけ遅れさせる遅延手段が設けられている点にある。
これにより、路面状況に応じた操作トルクを付与することができる。また、操作トルクの作用開始時点に対して舵角変化開始時点が路面と車輪との間の摩擦により遅れるのを防止し、操作トルクの作用開始時点と車両の挙動変化開始時点とを同期させ、ドライバーが違和感を感じるのを防止できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1に示す車両用操舵装置1は、ステアリングホイールを模した操作部材2と、操舵用アクチュエータ3と、その操舵用アクチュエータ3の動きを舵角変化が生じるように左右車輪4に伝達するステアリングギヤ5とを備える。その操舵用アクチュエータ3は、例えば公知のブラシレスモータ等の電動モータや油圧モータにより構成できる。そのステアリングギヤ5は、その操舵用アクチュエータ3の出力シャフト3aの回転運動をステアリングロッド7の直線運動に変換する運動変換機構を有する。そのステアリングロッド7の動きがタイロッド8とナックルアーム9を介して車輪4に伝達されることで車輪4のトー角が変化する。その運動変換機構は、本実施形態では、操舵用アクチュエータ3の出力シャフト3aに取り付けられたピニオン10と、このピニオン10に噛み合うラック11とから構成され、そのラック11はステアリングロッド7に形成されている。その操舵用アクチュエータ3の動きを舵角が変化するように車輪4に伝達できればステアリングギヤ5の構成は特に限定されない。車輪4はセルフアライニングトルクが生じるようにホイールアラインメントが設定されている。
【0014】
操作部材2の操作に応じて回転するように、その操作部材2にシャフト状の操作側回転部材12が機械的に連結されている。本実施形態の操作側回転部材12は操作部材2に同行回転するように取り付けられている。なお、操作側回転部材12は、操作部材2の操作に応じて回転するように操作部材2に機械的に連結されていればよく、例えば変速ギヤ機構を介して連結されてもよい。
【0015】
舵角の変化に応じて回転するように、車輪4に車輪側回転部材13が機械的に連結されている。本実施形態の車輪側回転部材13は、上記ラック11に噛み合うピニオン14に同行回転するよう連結されている。なお、車輪側回転部材13は、舵角の変化に応じて回転するように車輪4に機械的に連結されていればよく、車輪4との連結はラック11とピニオン14を用いるものに限定されない。
【0016】
操作側回転部材12と車輪側回転部材13とは伝動機構20により互いに回転伝達可能に連結されている。その伝動機構20は操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比を変更可能である。すなわち図2に示すように、伝動機構20はハウジング23と、このハウジング23により覆われる遊星ギヤ機構30を有する。ハウジング23は操作側回転部材12をベアリング21、22を介して支持し、車輪側回転部材13をベアリング24、25を介して支持する。車輪側回転部材13と操作側回転部材12は同軸心に隙間を介して配置される。その遊星ギヤ機構30を介して操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間で回転伝達が行われる。
【0017】
その遊星ギヤ機構30は、3つの相対回転可能な構成要素としてサンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを有し、サンギヤ31とリングギヤ32とに噛み合う遊星ギヤ33をキャリア34により保持している。サンギヤ31は、操作側回転部材12の端部に同行回転するように連結されている。キャリア34は、車輪側回転部材13に同行回転するように連結されている。リングギヤ32は、操作側回転部材12を囲むホルダー36にボルト362を介して固定されている。そのホルダー36は、操作側回転部材12を囲むようにハウジング23に固定された筒状部材35によりベアリング29を介して支持されている。そのホルダー36の外周にウォームホイール37が同行回転するように嵌め合わされている。そのウォームホイール37に噛み合うウォーム38がハウジング23により支持されている。そのウォーム38がハウジング23に取り付けられた調整用アクチュエータ39により駆動されることで、遊星ギヤ機構30の構成要素であるリングギヤ32が調整用アクチュエータ39により駆動される。その調整用アクチュエータ39は、例えば公知のブラシレスモータ等の電動モータや油圧モータにより構成できる。その調整用アクチュエータ39によりリングギヤ32の回転速度を変化させることで、操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比を変更できる。
【0018】
その操舵用アクチュエータ3と調整用アクチュエータ39の制御系が設けられている。本実施形態では、図1に示すように、操作部材2の操作量δhとして操作側回転部材12の回転角を求める操作量センサ41と、実舵角δとして車輪4の転舵量に対応する車輪側回転部材13の回転角を求める舵角センサ42と、車両の走行状態を表す変量として車速Vを検出する速度センサ43と、調整用アクチュエータ39の出力回転角を検出する回転角センサ44と、操作部材2の操作トルクThを検出する操作側トルクセンサ46と、調整用アクチュエータ39の発生トルクTrを検出する調整側トルクセンサ49が、コンピュータにより構成される制御装置45に接続されている。
【0019】
その制御系により操舵用アクチュエータ3を駆動回路47を介して制御し、調整用アクチュエータ39を駆動回路48を介して制御することで、操作部材2の操作に応じて舵角を変化させ、伝動機構20による回転伝達比を変化させることができる。その制御系による操舵用アクチュエータ3と調整用アクチュエータ39の制御時においては、伝動機構20を介して調整用アクチュエータ39の出力の一部が車輪側回転部材13に補助駆動トルクTdとして伝達され、残部が操作側回転部材12に操作トルクThを発生するように伝達される。
【0020】
その調整用アクチュエータ39と駆動回路48との間の信号伝送路に遅延回路60が設けられ、その遅延回路60を設けることで設定された時間だけ調整用アクチュエータ39の起動タイミングが遅れるものとされている。その遅れ時間は、操作トルクThの発生タイミングと舵角δの変化タイミングとのずれを可及的に低減できるように予め設定されている。これにより、操作トルクThの作用開始時点に対して舵角δの変化開始時点が路面と車輪4との間の摩擦により遅れるのを防止し、操作トルクThの作用開始時点と車両の挙動変化開始時点とを同期させ、ドライバーが違和感を感じるのを防止できる。
【0021】
図3に示すように、操作量δhに対する目標舵角δ* のゲインをK1として、制御装置45は操作量δhと目標舵角δ* との間の予め設定した関係としてδ* =K1・δhの関係を記憶し、検出操作量δhと記憶した関係とから車両100の目標舵角δ* を演算する。そのゲインK1を車速の関数として低速である程に大きくなるように設定してもよく、これによって図4の(1)に示すように、操作量δhと目標舵角δ* とは比例し、その比例定数は低速である程に大きくなる。その目標舵角δ* と検出実舵角δとの偏差を低減するように操舵用アクチュエータ3を制御する。例えば制御装置45は、目標舵角δ* と実舵角δとの偏差に対する目標駆動トルクT* の伝達関数G1を記憶し、T* =G1・(δ* −δ)の関係と求めた偏差(δ* −δ)とからT* を演算する。その伝達関数G1は、例えばPI制御を行う場合、Kaをゲイン、τaを時定数、sをラプラス演算子として、G1=Ka〔1+1/(τa・s)〕とされ、そのゲインKaおよび時定数τaは最適な制御を行えるように調整される。その目標駆動トルクT* と補助駆動トルクTdとの偏差(T* −Td)を低減するように操舵用アクチュエータ3を制御する。例えば制御装置45は、その偏差(T* −Td)に対する操舵用アクチュエータ3の目標駆動電流I* の伝達関数G2を記憶し、I* =G2・(T* −Td)の関係と求めた偏差(T* −Td)とからI* を演算し、操舵用アクチュエータ3を駆動する。その伝達関数G2は、例えばPI制御を行う場合、Kbをゲイン、τbを時定数、sをラプラス演算子として、G2=Kb〔1+1/(τb・s)〕とされ、そのゲインKbおよび時定数τbは最適な制御を行えるように調整される。これにより、操舵用アクチュエータ3の発生出力と補助駆動トルクTdに対応する調整用アクチュエータ39の発生出力の一部とにより舵角が変化する。なお、操作側回転部材12の回転角δh、車輪側回転部材13の回転角δ、調整用アクチュエータ39の発生トルクTrは操作量センサ41、舵角センサ42、調整側トルクセンサ49により検出できることから、補助駆動トルクTdは調整用アクチュエータ39の発生トルクTrと伝動機構20の減速比δh/δ=Nとの関係を表す関数やテーブルから求めることができ、その関数やテーブルが制御装置45に記憶される。例えば、Td=Tr・N/(N−1)とされる。
【0022】
伝動機構20による回転伝達比の変化により、調整用アクチュエータ39の発生出力の残部により操作部材2に作用させるトルクが変化する。すなわち、操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比は、リングギヤ32を駆動する調整用アクチュエータ39の回転速度に応じて定まる。ドライバーが操作部材2を操作することにより回転する操作側回転部材12と、舵角δの変化により回転する車輪側回転部材13との間の回転伝達比が、調整用アクチュエータ39の回転速度に応じて定まる回転伝達比に一致する場合、調整用アクチュエータ39が操作部材2に作用させるトルクは零になる。よって、その回転伝達比を調整用アクチュエータ39により変化させることで操作部材2の操作トルクThが変化する。
【0023】
例えば、操作量δhに対する目標操作トルクTh* のゲインをK2、αを一定値として、制御装置45は、操作量δhの大きさが零を超える一定値δho未満の場合はTh* =αの関係により目標操作トルクTh* を求め、操作量δhの大きさが一定値δho以上の場合はTh* =K2・δhの関係により目標操作トルクTh* を求める。その検出操作量δhと目標操作トルクTh* の関係は予め設定して制御装置45に記憶される。これによって、図4の(2)に示すように、操作量δhの大きさが一定値δho未満の場合は目標操作トルクTh* が一定となり、操作量δhの大きさが一定値δho以上の場合は操作量δhと目標操作トルクTh* とが比例する。その目標操作トルクTh* と検出した操作トルクThとの偏差を低減するように調整用アクチュエータ39を制御することで、操作部材2に中立位置復帰方向のトルクが作用する。例えば制御装置45は、目標操作トルクTh* と操作トルクThとの偏差に対する調整用アクチュエータ39の目標駆動電流Ih* の伝達関数Ghを記憶し、Ih* =Gh・(Th* −Th)の関係と求めた偏差(Th* −Th)とからIh* を演算し、調整用アクチュエータ39を駆動する。その伝達関数Ghは、例えばPI制御を行う場合、Kcをゲイン、τcを時定数、sをラプラス演算子として、Gh=Kc〔1+1/(τc・s)〕とされ、そのゲインKcおよび時定数τcは最適な制御を行えるように調整される。これにより、調整用アクチュエータ39の発生トルクTrの残部により操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比を変化させることで、操作トルクThを目標操作トルクTh* に追従させることができる。また、操作部材δhが僅かでも操作されたならば目標操作トルクTh* は一定値α以上とされるので、舵角変化に用いられる調整用アクチュエータ39の発生トルクTrの大きさを一定以上にすることができる。
【0024】
調整用アクチュエータ39の異常検知手段が設けられている。例えば、制御装置45から調整用アクチュエータ39への指令回転角と回転角センサ44の検出値から求めた調整用アクチュエータ39の出力回転角との偏差を制御装置45はモニターし、その偏差が設定値以上であれば調整用アクチュエータ39が異常であると判断する。
【0025】
操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比の変化を規制可能な規制機構50が設けられている。その規制機構50は、両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化を規制できれば構成は特に限定されない。本実施形態では、図5に示すように、ハウジング23に駆動装置52を介して取り付けられる押し付け部材51を有する。その押し付け部材51はウォームホイール37の外周に対向する。その駆動装置52は、例えば押し付け部材51にウォームホイール37から離れる方向の力を作用させるソレノイドと、制御装置45からの異常検知信号によりソレノイドへの通電が解除されると、押し付け部材51をウォームホイール37の外周に押しつけるバネとで構成される。その押し付け部材51にウォームホイール37の歯37aに噛み合う歯51aが形成されている。その押し付け部材51とウォームホイール37とが噛み合うことで、ウォームホイール37と一体のリングギヤ32の回転はロックされるので、操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比の変化は規制され、遊星ギヤ機構は減速比一定の回転伝達機構として機能する。
【0026】
調整用アクチュエータ39の異常検知時に、制御装置45は規制機構50により両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化を規制し、通電を遮断することで調整用アクチュエータ39の駆動を解除し、操舵補助トルクを作用させることができるように操舵用アクチュエータ3を制御する。例えば図6に示すように、操舵補助トルクの作用により目標操舵トルクTa* の大きさは操作量δhが大きくなる程に大きくなり、また、車速Vが小さくなる程に小さくなるものとされ、この関係が制御装置45に記憶される。その記憶した関係と、操作量センサ41により検出した操作量δhと、速度センサ43により検出した車速Vとから目標操舵トルクTa* を演算し、その演算した目標操舵トルクTa* と操作側トルクセンサ46により検出した操作トルクThとの偏差を低減するように制御装置45は操舵用アクチュエータ3を制御する。
【0027】
操舵用アクチュエータ3の異常検知手段が設けられている。例えば、制御装置45から操舵用アクチュエータ3への指令値と舵角センサ42の検出値から求めた操舵用アクチュエータ3の出力値との偏差を制御装置45はモニターし、その偏差が設定値以上であれば操舵用アクチュエータ3が異常であると判断する。
【0028】
その操舵用アクチュエータ3の異常検知時に、制御装置45は規制機構50により両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化を規制し、通電を遮断することで操舵用アクチュエータ3の駆動を解除し、操舵補助トルクを作用させることができるように調整用アクチュエータ39を制御する。例えば図6に示すように、操舵補助トルクの作用により目標操舵トルクTa* の大きさは操作量δhが大きくなる程に大きくなり、また、車速Vが小さくなる程に小さくなるものとされ、この関係が制御装置45に記憶される。その記憶した関係と、操作量センサ41により検出した操作量δhと、速度センサ43により検出した車速Vとから目標操舵トルクTa* を演算し、その演算した目標操舵トルクTa* と操作側トルクセンサ46により検出した操作トルクThとの偏差を低減するように制御装置45は調整用アクチュエータ39を制御する。
【0029】
また、調整用アクチュエータ39と操舵用アクチュエータ3の両方の異常検知時に、制御装置45は規制機構50により両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化を規制し、通電を遮断することで操舵用アクチュエータ3と調整用アクチュエータ39の駆動を解除する。これにより、操舵装置は通常のマニュアルタイプのステアリング装置として機能する。
【0030】
上記制御系の異常検知手段が設けられている。本実施形態では、制御装置45に第2制御装置56と第3制御装置57とが接続され、各制御装置45、56、57は互いに独立して同一の演算を行い、その演算結果を互いに比較する。制御装置45のみの演算結果が異なると、第2制御装置56は異常検知信号を出力する。その異常検知信号により操舵用アクチュエータ3と調整用アクチュエータ39が通電遮断により駆動解除され、規制機構50は両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化を規制する。これにより、制御系の異常検知時に操舵装置は通常のマニュアルタイプのステアリング装置として機能する。
【0031】
図7のフローチャートを参照して制御装置45、56、57による制御手順を説明する。
まず、各センサの検出値を読み込む(ステップS1)。次に、異常フラグがオンか否かを判断する(ステップS2)。異常フラグがオンでなければ、上記のように求めた目標舵角δ* と実舵角δとの偏差を低減するように操舵用アクチュエータ3を制御する(ステップS3)。また、上記のように求めた目標操作トルクTh* と操作トルクThとの偏差を低減するように調整用アクチュエータ39を制御する(ステップS4)。しかる後に異常検知信号の有無を判断し(ステップS5)、異常検知信号がなければ制御を終了するか否かを、例えば車両のイグニッションスイッチがオンか否かにより判断する(ステップS6)。終了する場合は異常フラグをオフし(ステップS7)、しかる後に制御を終了する。制御を終了しない場合はステップS1に戻る。ステップS2において異常フラグがオンである場合、ステップS5において異常検知信号が出力されている場合、異常対応処理を行う(ステップS8)。すなわち、調整用アクチュエータ39の異常が検知された場合は、規制機構50により両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化が規制され、通電が遮断されることで調整用アクチュエータ39の駆動が解除され、操舵用アクチュエータ3は操舵補助トルクを作用させるように制御される。操舵用アクチュエータ3の異常が検知された場合は、規制機構50により両回転部材12、13の間の回転伝達比の変化が規制され、通電が遮断されることで操舵用アクチュエータ3の駆動が解除され、調整用アクチュエータ39は操舵補助トルクを作用させるように制御される。調整用アクチュエータ39と操舵用アクチュエータ3の両方の異常が検知された場合と、制御系の異常が検知された場合は、上記のように規制機構50により操作側回転部材12と車輪側回転部材13との間の回転伝達比の変化が規制され、通電が遮断されることで操舵用アクチュエータ3と調整用アクチュエータ39の駆動が解除される。しかる後に異常フラグをオンし(ステップS9)、ステップS6で終了するか否かを判断する。
【0032】
上記実施形態によれば、車輪側回転部材13に伝達される調整用アクチュエータ39の出力の一部と操舵用アクチュエータ3の出力により舵角を変化させ、操作側回転部材12に伝達される調整用アクチュエータ39の出力の残部により操作部材2にトルクを作用させることができる。その舵角変化に調整用アクチュエータ39の発生出力の一部が用いられることで、操舵用アクチュエータ3の発生出力だけで舵角を変化させるのに比べ、操舵用アクチュエータ3は発生出力が少なくてよいので小型化できる。また、操作部材2に機械的に連結された操作側回転部材12と車輪4に機械的に連結された車輪側回転部材13とが伝動機構20を介して互いに回転伝達可能であるので、フェールセーフ機能の確実性を向上することができる。さらに、調整用アクチュエータ39の制御により車輪側回転部材13と操作側回転部材12との間の回転伝達比を変化させることで、操作部材2に作用する操作トルクを円滑に変化させることができる。さらに、調整用アクチュエータ39または操舵用アクチュエータ3の異常検知時に操舵装置はパワーステアリング装置として機能することができ、調整用アクチュエータ39と操舵用アクチュエータ3の両方の異常や制御系の異常が生じてもマニュアルタイプのステアリング装置として機能することができる。その伝動機構20を遊星ギヤ機構30と、その遊星ギヤ機構30の構成要素の一つを駆動する調整用アクチュエータ39とにより構成し、構成の簡単化を図ることができる。
【0033】
上記実施形態では目標操作トルクTh* は操作量δhに対応するものとしたが、変形例として路面から車輪に作用する力に対応するように設定してもよい。例えば、操舵用アクチュエータ3の駆動電流Iと駆動電流の単位時間あたりの変化量ΔIとに対応するものでもよい。すなわち、Kp、Kqを係数として、Th* =Kp・I+Kq・ΔIの関係を制御装置45は記憶し、また、操舵用アクチュエータ3の駆動電流Iを時系列に検出する電流検出センサ70を制御装置45に接続し、その記憶した関係と時系列に検出した駆動電流Iとから目標操作トルクTh* を演算する。その駆動電流Iと駆動電流の単位時間あたりの変化量ΔIは路面の凹凸に基づき変動することから、路面状況に応じた操作トルクThを付与することができる。この場合も、操作量δhが零を超える一定値δho未満の場合はTh* =αの関係により目標操作トルクTh* を求めるようにしてもよい。また、操作量δhが零を超える一定値δho未満の場合においてもTh* =Kp・I+Kq・ΔIの関係から目標操作トルクTh* を求めるようにしてもよい。
なお、路面から車輪に作用する力に対応する値は駆動電流Iや駆動電流の単位時間あたりの変化量ΔIに限定されない。例えば車輪4に連結された軸として両タイロッド8に作用する軸力Fr、Flを検出する軸力センサを設け、両軸力センサ49の出力値Fr、Flの平均値を検出軸力Fとし、その軸力の単位時間あたりの変化量をΔFとし、Kr、Ksを係数として、Th* =Kr・F+Ks・ΔFの関係を制御装置45に記憶させてもよい。他は上記実施形態と同様とする。
【0034】
本発明は上記実施形態や変形例に限定されない。
例えば、操作側回転部材12にサンギヤ31を連結し、車輪側回転部材13にリングギヤ32を連結し、キャリア34を調整用アクチュエータ39により駆動してもよいし、操作側回転部材12にリングギヤ32あるいはキャリア34を連結し、車輪側回転部材13に連結される遊星ギヤ機構30の構成要素を操作側回転部材12に連結されていないサンギヤ31あるいはリングギヤ32とし、調整用アクチュエータ39により駆動される遊星ギヤ機構30の構成要素を両回転部材12、13に連結されていないサンギヤ31あるいはキャリア34としてもよい。すなわち、サンギヤ31、リングギヤ32、キャリア34の各遊星ギヤ構成要素の中の何れかを操作側回転部材12に連結し、各遊星ギヤ構成要素の中で操作側回転部材12に連結されていない何れかを車輪側回転部材13に連結し、各遊星ギヤ構成要素の中で両回転部材12、13に連結されていないものを調整用アクチュエータ39により回転駆動してもよい。さらに、遊星ギヤ機構30以外の、例えば遊星コーン式回転伝達機構、遊星ローラ式回転伝達機構、ディファレンシャルギヤ機構、波動歯車減速機構、ボール減速機のような、相対的に回転する3つの構成要素を有すると共に、その構成要素の中の一つの回転速度の相違に応じて他の構成要素間での回転伝達比を変更可能な回転伝達機構を用い、その3つの構成要素の中の何れかを操作側回転部材12に連結し、操作側回転部材12に連結されていない何れかを車輪側回転部材13に連結し、残りの構成要素を調整用アクチュエータ39により駆動するようにしてもよい。
また、上記実施形態では操作部材2の操作量δhとして操作側回転部材12の回転角を操作量センサ41によって検出したが、それに代えて調整用アクチュエータ39の回転角を検出するセンサを設けてもよく、調整用アクチュエータ39としてブラシレスモータを用いる場合はモータロータの位置検出用センサにより調整用アクチュエータ39の回転角を検出できる。この場合、調整用アクチュエータ39の回転角と舵角センサ42により求められる車輪側回転部材13の回転角とから、操作側回転部材12の回転角を求める関係式を制御装置45に記憶させればよい。例えば、操作側回転部材12にキャリアを連結し、車輪側回転部材13にサンギヤを連結し、調整用アクチュエータ39によりリングギヤを駆動する遊星ギヤ機構を伝動機構として用いる場合、Rcをキャリアの回転数、Rsをサンギヤの回転数、Rrをリングギヤの回転数、N=Rc/Rsを遊星ギヤ機構の減速比として、Rc=Rs/N+Rr・(N−1)/Nの関係を記憶すれば、センサによりRs、Rrを求めてRcを演算することで操作側回転部材12の回転角を求めることができる。
さらに、車両の走行状態を表す変量として、例えば操作部材2の操作量のような車速以外の変量を、車速に代えて、あるいは車速と共に用い、その変量に応じて操舵用アクチュエータの異常検知時に両回転部材の間の回転伝達比を変化させるように調整用アクチュエータ39を制御してもよい。その操作量が大きい場合は小さい場合よりも操作側回転部材12の回転数に対する車輪側回転部材13の回転数の比を大きくすることで車両の旋回性を向上できる。
また、制御系の構成は本発明の作用効果を奏することができれば特に限定されない。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、アクチュエータの制御により舵角を変化させる車両用操舵装置において、応答性を低下させることなく操舵用アクチュエータを小型化でき、ドライバーの操舵フィーリングを低下させることなく確実にフェールセーフ機能を奏することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の車両用操舵装置の構成説明図
【図2】本発明の実施形態の車両用操舵装置における伝動機構の断面図
【図3】本発明の実施形態の車両用操舵装置の制御構成を示すブロック線図
【図4】本発明の実施形態の車両用操舵装置における(1)は操作部材の操作量と目標舵角との関係を示す図、(2)は操作部材の操作量と目標操作トルクとの関係を示す図
【図5】本発明の実施形態の車両用操舵装置における規制機構の構成説明図
【図6】本発明の実施形態の車両用操舵装置における目標操舵トルクと操作部材の操作量と車速との関係を示す図
【図7】本発明の実施形態の車両用操舵装置における制御装置の制御手順を示すフローチャート
【符号の説明】
2 操作部材
3 操舵用アクチュエータ
4 車輪
5 ステアリングギヤ
12 操作側回転部材
13 車輪側回転部材
20 伝動機構
39 調整用アクチュエータ
45 制御装置
46 トルクセンサ
60 遅延回路
70 電流検出センサ
Claims (3)
- 操作部材と、
その操作部材の操作に応じて回転するように、その操作部材に機械的に連結された操作側回転部材と、
操舵用アクチュエータと、
その操舵用アクチュエータの動きを舵角変化が生じるように車輪に伝達するステアリングギヤと、
その舵角変化に応じて回転するように、その車輪に機械的に連結された車輪側回転部材と、
その操作側回転部材と車輪側回転部材とを互いに回転伝達可能かつ回転伝達比を変更可能に機械的に連結する伝動機構と、
その伝動機構による回転伝達比の調整用アクチュエータと、
その伝動機構を介して調整用アクチュエータの出力の一部が車輪側回転部材に伝達されると共に残部が操作側回転部材に伝達され、その操舵用アクチュエータの発生出力と車輪側回転部材に伝達される調整用アクチュエータの発生出力の一部とにより舵角が変化し、その調整用アクチュエータの発生出力の残部により操作トルクが発生するように、その調整用アクチュエータと操舵用アクチュエータを制御可能な制御系とを備え、
その操作トルクの発生タイミングと舵角の変化タイミングとのずれを低減できるように、その調整用アクチュエータの起動タイミングを設定された時間だけ遅れさせる遅延手段が設けられている車両用操舵装置。 - 路面から車輪に作用する力と目標操作トルクとの間の関係を記憶する手段と、
路面から車輪に作用する力に対応する値を検出する手段と、
その記憶した関係と検出した力に対応する値とから目標操作トルクを演算する手段と、
その操作部材の操作トルクを求める手段とを備え、
その目標操作トルクと操作トルクとの偏差を低減するように前記調整用アクチュエータが制御可能とされている請求項1に記載の車両用操舵装置。 - 操作部材と、
その操作部材の操作に応じて回転するように、その操作部材に機械的に連結された操作側回転部材と、
操舵用アクチュエータと、
その操舵用アクチュエータの動きを舵角変化が生じるように車輪に伝達するステアリングギヤと、
その舵角変化に応じて回転するように、その車輪に機械的に連結された車輪側回転部材と、
その操作側回転部材と車輪側回転部材とを互いに回転伝達可能かつ回転伝達比を変更可能に機械的に連結する伝動機構と、
その伝動機構による回転伝達比の調整用アクチュエータと、
路面から車輪に作用する力と目標操作トルクとの間の関係を記憶する手段と、
路面から車輪に作用する力に対応する値を検出する手段と、
その記憶した関係と検出した力に対応する値とから目標操作トルクを演算する手段と、
その操作部材の操作トルクを求める手段とを備え、
その目標操作トルクと操作トルクとの偏差を低減するように前記調整用アクチュエータが制御可能とされ、
その操作トルクの発生タイミングと舵角の変化タイミングとのずれを低減できるように、その調整用アクチュエータの起動タイミングを設定された時間だけ遅れさせる遅延手段が設けられている車両用操舵装置。
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