JP4098690B2 - 走査形プローブ顕微鏡 - Google Patents

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本発明は走査形トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、磁気力顕微鏡、摩擦力顕微鏡、マイクロ粘弾性顕微鏡、表面電位差顕微鏡及びその類似装置の総称である走査形プローブ顕微鏡に関するものである。
走査形プローブ顕微鏡は、探針を金属、半導体、絶縁体、高分子材料又は生体等の試料表面に接近させ、探針と試料表面に生ずるトンネル電流や原子間力等が一定になるよう試料表面をなぞることにより原子レベルの表面形状及び物性を測定する顕微鏡である。
走査形プローブ顕微鏡において、低温を保持する装置であるクライオスタットを用いると、試料を室温から液体窒素温度又は液体ヘリウム温度に冷却して観察を行い、原子像、電気的性質、磁性的性質を調べることができる。冷却方式は、液フロー方式、機械式冷凍方式、液溜方式等があるが、シンプルで液の循環する時の音や機械の作動音の影響を受けない、液溜方式がよく用いられる。液溜方式の冷媒タンクには温度シールドに金属と 共に樹脂類を用いたものが多い。
また、試料に1T以上の磁場印加を行う場合、超伝導マグネットが必要になる。超伝導マグネットは超伝導材料をコイル状に巻いたものである。超伝導マグネットはクライスタット等に樹脂や接着剤で固定される。樹脂や接着剤は磁場や電気に影響を与えず、低温に耐えうるため用いられる。
一方、これらの観察は超高真空中で行われることがある。超高真空で観察を行う場合、良質な超高真空であるほど、試料面を汚染することがなく、活性な試料等も扱うことができ、扱う試料を制限しない。良質な超高真空を得るためにはベークが必要となる。ベークとは観察を行う前に試料観察室等の装置の内部を120〜200℃程度の温度で長時間加熱を行うことである。ベークを行うことにより、観察室の内壁等に付着した微量な気体等を除去し、さらに真空度を高めることがでる。
しかしながら、汎用クライオスタット及び汎用超伝導マグネットは長時間加熱することを前提として作られていない。使われる樹脂や接着剤は、120〜200℃程度のベーク温度に耐えないものが多い。加熱すると、解けたり、変形したり、大量のガスを放出する。特に、正確な位置を要求される超伝導マグネットにとっては、加熱により接着剤が解け、位置が動いては致命的である。超伝導マグネットを構成する超伝導線材を巻いたコイル等にも樹脂類や低温用接着材が使用されている。各パーツ等の熱伝導をよくするために用いられるインジウム等の低い温度で溶解する金属も用いられている。これらがベーク時の熱によってわずかでも溶解すると、位置精度が要求される超伝導マグネットのコイル配置がずれ、性能が出ないことになる。
従来、超伝導マグネットを内蔵するクライオスタット内部に超高真空チャンバを設置する場合は、樹脂や接着剤への影響がない温度でベークするか、内部チャンバはベークを行わなかった。この場合、液体窒素、液体ヘリウム等の冷媒を入れるため、冷却されたチャンバ内壁において、クライオ効果によるガスの吸着が起こり、低い温度でのベーク又はベークを必要としない場合であっても、結果的に超高真空を得る場合もある。しかし、ベークでガスをチャンバ内壁から出して得られた超高真空でなく、低温のチャンバ内壁にガスが吸着されている。このため、観察中の機械的な操作(試料交換、プローブ交換、粗動移動)或いは解析を行うため、試料を熱で処理する場合に、チャンバ壁面からガスが出て、真空度は低下し、試料面が汚染される場合がある。このため、試料が不活性である場合は観察出来るが、試料面が活性な場合は観察出来ず、観察できる試料が制限されることがあった。
ベーク温度に耐えるパーツのみで、クライオスタット又は超伝導マグネットを製作することは可能であるが、超伝導マグネットはもともと高価なため、特別に製作すれば、さらに高価なものとなり現実的でない。
また、クライオスタット内部に超高真空チャンバのある走査プローブ顕微鏡をリークするとき、超高真空チャンバ内に霜がつかないように内部が室温になるまで待たなければならなかった。しかし、クライオスタットが室温になるには1週間程度かかる。
なお、従来技術としては、低温保持装置を備えた走査形トンネル顕微鏡がある(例えば、特許文献1)。
特開平5−107020
本発明が解決しようとする課題は、装置中に樹脂や接着剤等のベーク温度に耐えられない部品を含んだ超高真空走査形プローブ顕微鏡のベークを行うことにある。
また、チャンバ内部を早く室温にすることである。
発明は、気密に設けられた試料観察室と、前記試料観察室の気体を排気する気体排気手段と、前記試料観察室に接続された内部チャンバと、前記内部チャンバを内部に有し前記内部チャンバを冷却する冷却手段と、前記内部チャンバに設置されベークをするための加熱手段とを備え、探針と試料との間に作用する物理量を検出する走査形プローブ顕微鏡において、前記試料観察室に設置された試料観察室温度センサと、前記内部チャンバに設置された内部チャンバ温度センサを備え、前記冷却手段が冷媒タンクであり、前記加熱手段が前記内部チャンバ外部に巻装した内部チャンバヒータであり、ベークが終了した後、前記試料観察室温度センサと前記内部チャンバ温度センサとの温度差を比較して、前記内部チャンバヒータにより前記内部チャンバの温度を調整しながら、前記冷媒タンクにより前記内部チャンバを冷却することを特徴とする。
本発明は、冷媒をクライオスタットに満たした状態で、内部チャンバをベークすることにより、ベークの熱でクライオスタットや超伝導マグネットに使用されている接着剤、樹脂等のパーツに不具合をもたらすことがない。また、ベーク終了後、試料観察室の温度と内部チャンバの温度を比較して、内部チャンバが冷却し過ぎることのないよう温度調整を行うため、内部チャンバの内壁にガス等が吸着することがない。
また、チャンバをリークする時、内部チャンバ外側のヒータを制御し、室温よりやや高く設定してリーク時に内部にガス、霜が収着しないようにできる。この時、クライオスタットの冷媒はそのまま保持できる。
走査形プローブ顕微鏡において、内部チャンバを内部に有し内部チャンバを冷却する冷却手段と、内部チャンバに設置されベークをするための加熱手段とを備える。
本発明の実施例の構成を、図1を用いて説明する。除振台28にはダンパ7を介して試料観察室1が設置されている。試料観察室1は気密が保持されており、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ等の真空ポンプ26により超高真空状態を保持している。試料観察室1中にはSPMセル20を保持する上ステージ3が設置されている。上ステージ3には温度センサA4が設置されており、上ステージ3の温度をモニタする。また、試料観察室1にはベーク用内蔵ヒータ6が設置されており、試料観察室1内を120〜200℃のベーク温度に加熱する。
また、試料観察室1には、搬出ロッド格納チャンバ2が設置されている。搬送ロッド格納チャンバ2は、SPMセル20を、室温〜高温観察を行う上ステージ3と室温〜低温観察を行う下ステージ23との間を移動させる図示しない搬送ロッドを格納する。SPMセル20は、図示しない試料ホルダ、探針ホルダ、探針、スキャナ、粗動機構等をセル状のケースに納めたものである。図2はSPMセル20内部の模式図である。図2は原子間力顕微鏡を示したが、走査形トンネル顕微鏡でもよい。また、試料観察室1には試料の加工、処理を行う試料処理室5が真空を保持して連結されている。
試料観察室1の下方にはクライオスタット19が設置されている。クライオスタット19内部には冷媒タンク29が設置されている。クライオスタット19の中央には円柱形の凹部であるサンプル室27が形成されており、内部チャンバ13が収納されている。内部チャンバ13は真空を保持したまま、試料観察室1に接続されている。内部チャンバ13底部には下ステージ23が設置されている。下ステージ23には前記したSPMセル20が設置されている。下ステージ23には温度センサB21が設置されており、SPMセル20が設置される下ステージ23の温度をモニタする。
クライオスタット19の外側、内部には内側断熱真空部15、外側断熱真空部17が設置されており、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ等の真空ポンプ11により真空状態が作られている。サンプル室27のクライオスタット19内部には超伝導マグネット22が接着剤により接着されており、下ステージ23に置載された試料に磁力を及ぼすように正確に位置決めされている。また、冷媒タンクには蒸発した冷媒を排気する排気口10が設置されている。内部チャンバ13の底部には下ステージ23が設置されている。また、内部チャンバ13外部にはテープ状の内部チャンバヒータ14が巻装されている。内部チャンバヒータ14の巻き数は、内部チャンバ13の下ほど多い。内部チャンバヒータ14は温度制御装置25により制御されており、ベーク用内蔵ヒータ6とは独立して制御される。内部チャンバ13はSUS製であるが、冷却効率を高めるためと、温度の均一性などの問題から、下部の下ステージ23の部分はCu製である。
温度制御は、温度センサB21を一つあるいは複数内部チャンバ13の中に入れておき、常特モニタし、ヒータへの通電を制御するようにする。制御は手動でもよく、自動でもよい。
次に、図1の動作説明を行う。まず観察の準備として、装置がすべて室温にあるうちに、クライオスタット19の外側真空断熱部17および内側断熱真空部15を数日排気しておく。断熱を高めて、冷媒の保持時間等、冷媒を有効に利用するためである。また、冷媒の蒸発、沸騰を穏やかにし、SPM像観察時の振動の影響を小さくするためでもある。排気後、外側真空断熱部バルブ12、内側真空断熱部バルブ9をそれぞれ閉じる。外側真空断熱部17は、容量が大さく、ガス吸着剤等が入っていることが多い。このため冷媒保持後に、排気しても大がかりな排気システムでないと有効ではない場合が多い。試料観察室1、内部チャンバ13の排気も行う。
次に、クライオスタット19を液体窒素で満たし、ベーク用内蔵ヒータ6及びベーク用シーズヒータ8の通電を行いベークを開始する。独立の内部チャンバヒータ14も通電開始する。温度制御は、温度センサB21の温度が温度センサA4の温度と同じ温度になるように内部チャンバヒータ14の出力を調整する。例えば、ベータの設定温度が150℃の場合、装置のべークシステムによって温度センサA4は150℃を示し、液体窒素を満たしたクライオスタット19内部にある内部チャンバ13内の温度センサB21は120℃を示したとする。その場合、内部チャンバヒータ14ヘの通電量を増やして温度センサB21が150℃を示すようにする。
しかし、このままベークすれば、内部チャンバヒータ14への通電を増やしても、液体窒素を蒸発させる量と速度を増すだけで、効率が悪い。クライオスタット19の内側真空断熱を真空ポンプ11で排気しながらベークを行う。こうすると、断熱真空により、内部チャンバヒータ14の熱が液体窒素に伝わる量と速度を効果的に落とすことができ、内部チャンバ13を効率よくベークすることができる。クライオスタット19への液体窒素は定期的に追加し、マグネットが液面から出ないようにする。クライオスタット19内の液体窒素量の増減によっても断熱真空度が変化し、同じヒータ出力でも内部チャンバ13内のベーク温直が変わる。内部チャンバヒータ14の制御が手動の場合は、内側断熱真空部15の真空度が変化するに応じて、モニタしているチャンバ内部の温度が変化することに注意して温度制御行う。
装置のベーク温度も上限がある。SPMセルに使用するスキャナの分極が壊れる様な温度ではベークできない。これらの問題を解決するため、次のような温度制御を行う。あらかじめ設定されたベーク温度をTaとすると、温度センサA4はベーク開始後、Ta付近の温度になる。内部チャンバのベーク温度もTaにするために、内部チャンバヒータ14ヘの出力を、PIDあるいはPI制御する。内部チャンバ13のべ一ク温度もTaにするために、温度センサA4の温度を参照して温度センサB21の温度Tbが低ければ、内部チャンバヒータ14ヘの出力を上げる。逆にTa<Tbであれば、ヒータへの出力を下げる。
装置のベーク終了時間になると図示しないタイマーに連動した装置本体のベーク用内蔵ヒータ6の通電は無くなり、装置の温度を示す上ステージ3の温度センサA4の値が下がり始める。内部チャンバ13内の下ステージ23はベークタイマーと連動しないため、内部チャンバヒータ14は通電している。
もし、内部チャンバヒータ14も装置のベークと連動し、装置本体同様に内部チャンバヒータ14も切れるとすると、液体窒素によって冷却されている内部チャンバ13の方が試料観察室1よりも先に温度が下がる。これは、クライオスタット19の内側断熱真空部15を真空ポンプ11で連続排気していたとしても、輻射による熱は抑えられないため、完全に断熱出来ないためである。これでは、ベークで装置から放出したガスを、内部チャンバ13の冷えている部分に吸着させることになり、内部チャンバ13の最も冷える部分に配置されている下ステージ23にガスが大量に吸着し、観察時の機械的動作や、試料の加熱処理時にガスが出て試料面が汚染され、試料観察にとって不都合である。
ベーク終了後は、温度センサB21の温度が、温度センサA4の温度のプラス10℃になるように、内部チャンバヒータ14の出力を温度制御器25で制御する。プラス10℃と言うのは、装置本体側より少し高い温度の一例である。本発明では、温度センサA4と温度センサB21の温度差による内部チャンバヒータ14への制御により、液体窒素が満たされたクライオスタット19サンプル室内の内部チャンバ13内の下ステージ23を周囲より少し高い温度を保持することができ、この部分にガス吸着が集中しないようにできる。
ベーク終了後、装置本体(温度センサA4)が室温になった後、内部チャンバ13(温度センサB21)の温度も室温になるように内部チャンバヒータ14を制御する。そうすればクライオスタット19内部にあっても、超伝導マグネット22を用いた室温観察が可能となる。そのままの状態で、ヒータを制御し温度を下げれば、液体窒素温度近くまで、任意に制御できる。液体窒素温度以下に冷却する場合は、液体ヘリウムを冷媒として使用する。
本発明による超高真空走査形プローブ顕微鏡を示す。 SPMセル内部の模式図である。
符号の説明
1 試料観察室
2 搬送ロッド格納チャンバ
3 上ステージ
4 温度センサA
5 試料処理室
6 ベーク用内蔵ヒータ
7 ダンパ
8 ベーク用シーズヒータ
9 内側断熱真空バルブ
10 排気口
11 真空ポンプ
12 外側真空断熱バルブ
13 内部チャンバ
14 内部チャンバヒータ
15 内側断熱真空部
16 冷媒液面
17 外側断熱真空部
18 マグネット上部抵抗
19 クライオスタット
20 SPMセル
21 温度センサB
22 超伝導マグネット
23 下ステージ
24 マグネット下部抵抗
25 温度制御器
26 真空ポンプ
27 サンプル室
28 除振台
29 冷媒タンク
30 カンチレバ・探針
31 レーザー光源
32 検出器
33 スキャナ
34 コンピュータ

Claims (3)

  1. 気密に設けられた試料観察室と、
    前記試料観察室の気体を排気する気体排気手段と、
    前記試料観察室に接続された内部チャンバと、
    前記内部チャンバを内部に有し前記内部チャンバを冷却する冷却手段と、
    前記内部チャンバに設置されベークをするための加熱手段とを備え、
    探針と試料との間に作用する物理量を検出する走査形プローブ顕微鏡において、
    前記試料観察室に設置された試料観察室温度センサと、
    前記内部チャンバに設置された内部チャンバ温度センサを備え、
    前記冷却手段が冷媒タンクであり、
    前記加熱手段が前記内部チャンバ外部に巻装した内部チャンバヒータであり、
    ベークが終了した後、前記試料観察室温度センサと前記内部チャンバ温度センサとの温度差を比較して、前記内部チャンバヒータにより前記内部チャンバの温度を調整しながら、前記冷媒タンクにより前記内部チャンバを冷却することを特徴とする走査形プローブ顕微鏡。
  2. 請求項に記載した走査形プローブ顕微鏡において、
    前記内部チャンバ温度センサの示す温度が前記試料観察室温度センサの示す温度より低くならないように前記内部チャンバの温度調整を行うことを特徴とする走査形プローブ顕微鏡。
  3. 請求項1又は請求項2に記載した走査形プローブ顕微鏡において、
    前記内部チャンバに磁気を及ぼす超伝導マグネットを備えたことを特徴とする走査形プローブ顕微鏡。
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