JP4097288B2 - ホップにおける遺伝学的品種識別方法 - Google Patents
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Description
本発明は、ホップの品種識別方法、特に遺伝子工学技術を利用した品種識別方法に関する。
背景技術
ホップは、ビールに独特な芳香と苦味を与えると共に、過剰なタンパク質を沈殿・分離させたり、雑菌の繁殖を抑える等の作用を有している。しかし、これらの作用の程度等は、主にホップの品種によって差異があるため、一定の品質のビールの製造や新たなビールの開発にはホップの品種を識別した上で使用する必要がある。
このホップの品種識別方法としては、従来、ホップの含有成分、例えば苦味成分(α酸/β酸cohumulone/humulone,colupulone/lupulone)、精油成分(farnesene,caryophyllene)差異に基づいて行っていた。
しかしながら、上記の苦味成分や精油成分の差異による識別方法は、各種成分の測定に多大な労力を必要とする上に、同一品種であっても収穫の地域や年度により各種成分が大きく変動することから、上記方法では正確な品種判定が行えなかった。
一方、近年の遺伝子工学の進歩により、生物種によっては染色体等の配列の解明が試みられ、ここで解明された塩基配列に基づき、生物種間または同一生物の品種間での遺伝情報の差異、すなわち、DNA配列の多型から種の識別が行われようとしていている。このような多型に基づく品種の識別は、DNA配列自身が環境的な影響を受けにくく変化することが殆どないため、確実なる識別を行うことができる。
そこで、本発明は、上記のような遺伝学的な手法を用いて、正確かつ簡便なホップの品種識別方法を提供する。
発明の開示
本発明のホップの品種識別方法は、品種間のDNA配列の違いすなわち多型に基づき、この多型を遺伝学的な手法で検出して識別する方法であり、詳細には、被検体であるホップのDNAのうち品種間で多型を含む領域を品種識別プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRという)により増幅し、この増幅DNAを解析することにより品種を識別する。
上記の方法を達成するためには、ホップにおける品種間のDNA配列上の多型を知る必要がある。
この多型とは、具体的には、挿入、欠失、置換などに由来する配列上の編成の違いを含み、また、多型に関与する配列の長さは1bpであってもよく、または数十bp以上であってもよいが、望ましくは数bpから数十bpである。
上記のような品種間の配列上の多型を検出する方法としては、品種毎に染色体DNAの対応する部分の配列を決定し、ここで決定した配列を比較解析して、多型を検出することもできるが、より簡便には、Williamsら(Nucleic Acids Research.第18巻,第6531頁、1990年)により開発されたRAPD(Random amplified polymorphic DNA)法を利用することができる。
このRAPD法は、配列が未知のDNA間の多型をPCRを利用して検出する方法である。詳細には、比較的短い10塩基程度の合成オリゴヌクレオチドからなる特異性の低いプライマーを複数種の対象DNAとそれぞれ混合して、PCRを行う。もしも、ここで前記ホップのDNAの配列中に混合したプライマーと完全にまたは部分的に相補する配列がある場合には、この完全または部分相補配列とアニールし、プライマー同士に挟まれた領域が増幅される。そして、種間でこのプライマー同士に挟まれた領域の中にDNAの挿入や欠失等の配列の差異がある場合には、種間で異なるサイズのPCR増幅断片が得られる。また、一方の品種にはプライマーがアニールする配列があり、他方には無い場合、一方の品種のみにPCR増幅断片が得られる。これを電気泳動等で分画することがで多型を検出することができる。
一方、上記RAPD法は、上記のように本発明における多型を検出する方法以外にも、PCRにより多型を検出し得るプライマーを選択する方法、すなわち、プライマー設計方法としても利用することができる。
従って、上記RAPD法に基づき検出されるホップDNAの品種間のいかなる多型領域も本発明の対象に含まれる。また、上記RAPD法に基づき検出される多型領域を増幅し得るいかなるプライマーも本発明の品種識別プライマーとして利用することができる。
上記方法に基づき開発される本発明の品種識別プライマーは、1種類の合成オリゴヌクレオチドであっても、または2種以上の合成オリゴヌクレオチドであってもよい。また、この合成オリゴヌクレオチドの所定の鎖長は6〜40、好ましくは10〜21であり、具体的には、配列表の配列番号1〜14に示した塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
本発明の品種識別プライマーを設計する第二番目の方法としては、以下の工程からなる方法が含まれる。
この設計方法は、先ず、品種識別プライマー(例えば先のPAPD法に基づき検出される多型領域を増幅し得るプライマー、以下一次プライマーという)を用いたポリメラーゼ連鎖方法により得られた増幅断片の塩基配列を決定するとともに多型配列を決定する。最終的に、この多型配列を一次プライマーより再現性良くかつ識別し易いような増幅断片を生成し得るように前記多型配列断片内の所定間隔離れた位置の配列とそれぞれ相補する2種の品種識別プライマーを設計して合成する。
すなわち、上記方法は、多型配列及びその周辺の配列に基づき好適な品種識別プライマーを選択して設計することができる。
また、上記の一次プライマーとしては、配列表の配列番号1〜14に示した塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを使用することができる。
例えば、第一の品種識別プライマーの配列としては、2種のプライマーの一方または両方を前記多型配列の全部又は一部を含むように設計することができる。
上記品種識別プライマーを用いて品種識別を行った場合、選択された多型配列を備えた品種では、相補配列を有することからPCRによりDNAの増幅が起きて一定の増幅DNAが得られ、一方当該多型配列を有していない品種では、相補する配列を有していないため、PCRを行っても増幅DNAは生じないことになる。従って、この場合には、増幅断片の有無により品種を識別することが可能となる。
第二の品種識別プライマーの配列として、2種のプライマーが前記多型配列の上流域と下流域のそれぞれに位置するうよに設計することができる。
上記品種識別プライマーを用いて品種識別を行った場合、PCRにより品種間で内部の塩基配列の、場合によってはサイズの異なる増幅DNAが生成される。ここで生成された増幅DNAを直接電気泳動により分画するか、または必要に応じて制限酵素で消化した後電気泳動により分画あるいは変性勾配ゲルや温度勾配ゲル電気泳動の泳動パターン等により品種を識別することができる。
第三品種識別プライマーの配列としては、5′末端に一次プライマーの配列を備え、それに続いた該多型領域の塩基配列を5〜20塩基連結した配列を有するように設計することができる。
上記品種識別プライマーを用いて品種識別を行った場合、例えば一次プライマーが相補する位置に多型配列が存在する場合に有用である。すなわち、一次プライマーにさらにそれに続く塩基配列を5〜20塩基付加することにより、一次プライマーに比して、より特異的に前記多型配列を検出することができるようになる。
さらに、上記設計方法により設計された品種識別プライマーであれば、上記特徴を有する配列以外のいかなるものも、ホップの品種識別プライマーとして好適に使用することができる。
前記方法により設計された品種識別プライマーとして、具体的には配列表の配列番号15〜40に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドまたはその一部の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを適当に2種組み合わせて使用することができる。
また、上記配列以外にも品種識別プライマーとして、配列表の配列番号15(17,19,21,23,25,27,29,31,33,35,37,39)に記載の塩基配列がゲノムDNAにアニールする部位と配列番号16(18,20,22,24,26,28,30,32,34,36,38,40)に記載の塩基配列がゲノムDNAにアニールする部位の間に存在するゲノムDNAの塩基配列の一部を有する合成オリゴヌクレオチドを用いることもできる。
上記の通り構成された第二の品種識別プライマーの設計方法によれば、多型を示す領域の配列決定に基づいて設計されるため、より確実に品種識別可能なプライマーを提供することが可能である。
以上の通り、本発明の遺伝学的品種識別方法に従い、品種間のDNA配列の違いを遺伝学的手法に基づき比較解析することにより、採取した環境等の影響に左右されず確実にホップの品種を識別することができる。
以下に、本発明の好適な実施の形態をより詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
図1は、第二の品種識別プライマー設計方法において、一次プライマー(1種類のプライマー:B72)を用いてHallertauer Tradition(HT)及び信州早生(SW)のDNAの一部をそれぞれ増幅し、これら増幅断片を電気泳動で分画した分画パターンを示す写真である。
図2は、第1図において矢印で示す約600bp付近に泳動された増幅断片の塩基配列を示す図であり、上段にはHT、下段にはSWの塩基配列を示す。なお上段のHTと対応する位置の塩基が同一の場合には、黒点(・)として示し、両者の対応する位置に塩基置換がある場合にはその塩基を示す。また、両者間で対応する塩基がない、すなわち、欠失部位には、ハイフン(−)として示す。
また、B72WF2として示す枠内には、配列表の配列番号27に示す品種識別プライマーとして選択した配列を示す。さらに、B72WR2で示す枠内の配列は、配列表の配列番号28に示す品種識別プライマーの相補配列を示す。
図3は、図2に示したB72WF2(配列番号27)とB72WR2の相補鎖(配列番号28)とからなる品種識別プライーを用いてPCRを行った際の増幅断片を電気泳動より分画した結果を示す写真である。
図4は、別の多型増幅断片(RAPDマーカー)の塩基配列を示す図である。
図5は、さらに別の多型増幅断片(RAPDマーカー)の塩基配列を示す図である。
発明を実施するための最良な形態
本発明のホップの品種識別方法は、品種識別プライマーを用いたPCRにより、品種間でDNA配列の異なる領域すなわち多型領域を増幅し、増幅断片におけるサイズの差または有無の差を解析することにより品種を識別する方法である。
ホップDNAの採取
検体となるホップDNAは、極少量のホップの葉、毬果やホップペレット等から、採取することができる。
ホップDNAの採取方法は、植物個体からDNAを回収する一般的な方法、例えばNucleic Acids Res.,8,4321(1980)等に記載された通常のDNA抽出方法により行うことができる。より簡便には、市販のBLOOD AND CELL CULTURE DNA KIT(QIAGEN社製)を用いて抽出することもできる。このKITの場合、細胞を溶解した後、陰イオン交換樹脂カラムにDNAを吸脱着する操作があるため、反応阻害物質等の混入による問題を解消することができる。
次に本発明に使用し得る品種識別プライマーの設計方法について説明する。
第一の品種識別プライマー設計方法
この設計方法は、DNA配列が未知のホップにおいて、品種間の多型領域または配列をPCRにより検出し得るオリゴヌクレオチドを探索できる方法であればどのような方法を使用してもよいが、好適にはRAPD法を利用することである。
先ず、RAPD法を行うために、複数種のプライマーからなるプライマー群を用意する。
通常のRAPD法に用いるプライマーは、例えばホスホアミダイド法などを用いるDNA自動合成機によって得ることができ、ランダムに設計された配列であり、その鎖長は6〜40、好ましくは10〜21である。
また、前記Williamsらが開示した塩基配列(Nucleic Acids Research.第18巻,第6531頁、1990年)を利用することも、また、ベックス社製コモンプライマーやOPERRON社製Operon 10-mer Kits等の市販されている合成オリゴヌクレオチドを利用することもできる。
ここで用意したプライマー群のうち1種または2種以上を用いて、複数種のホップDNAに対して、後に詳述する「PCR反応」と同様の条件でPCRを行う。次いで、PCRにより生成された増幅断片を後述する適当な電気泳動ゲル上で分画して、品種間の増幅断片の泳動度を比較する。比較した結果、品種間で増幅断片の有無またはサイズに差異が見られる断片を多型増幅断片(RAPDマーカー)とし、この多型増幅断片を生じさせる前記1種または2種のプライマーを前記プライマー群から選択して、品種識別プライマーとする。
このように選択された品種識別プライマーとしては、配列表の配列番号1〜14に示した塩基配列からなる合成オリゴヌクレオチドがあり、当然のことながら、これら配列の相補配列も使用することができる。また、PCR反応において、ホップDNA中の任意の多型配列を増幅し得るものであれば、配列表の配列番号1〜14に示した塩基配列を一部に含むオリゴヌクレオチドを品種識別プライマーとして使用することもできる。さらに、PCRの反応条件によっては、前記合成オリゴヌクレオチドの塩基配列と近似の塩基配列からなるヌクレオチドも使用することができる。
この第一の設計方法に基づくことにより、配列が未知のホップにおいて多型を検出できる品種識別プライマーを簡便に設計することができる。また、この方法で設計された品種識別プライマーは、後述する実施例において示すが品種識別において十分に機能を発揮する。
第二の品種識別プライマー設計方法
第二の品種識別プライマー設計方法は、第一の品種識別プライマー設計方法において、検出された多型増幅断片(RAPDマーカー)を常法に従い回収し塩基配列を決定するとともに多型配列を検出する。
ここで決定された多型増幅断片内の配列から、多型配列を含んだ増幅断片を生成し得るような所定間隔離れた位置の配列を選択して、ここで選択された配列に基づき品種識別プライマーを設計する。
品種識別プライマーの設計にあたっては、通常PCRに至適とされる(「PCRテクノロジー」,Henry A.Erlich編,宝酒造株式会社発行など)に記載されるようなプライマーを設計すれば良い。
具体的には、DNA増幅バンドがサイズの変化を示すものをRAPDマーカーとして選定した場合は、RAPDマーカーの塩基配列中の挿入および/または欠失部位の両側に位置する配列であり、かつ遺伝子の挿入および/または欠失によるサイズの変化を電気泳動において比較し易いサイズの増幅バンドが得られるような配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして選択する。このような品種識別プライマーの1例として、配列表の配列番号27,28に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせが挙げられる。
RAPDマーカーにおけるサイズの変化は、1bp〜数百bpに及ぶが、識別により好適には10bp〜数十bpである。また、サイズ変化がなくても制限酵素等で識別し得る配列置換があればよい。
電気泳動において識別しやすいサイズの変化は、ゲルの種類や濃度によって異なるが、経験的な目安としては、サイズの変化が全長の1割以上あればよい。例えば、挿入配列が20bpであれば、PCR増幅産物の全長は200bp以下になるようにプライマーを設計する。従って、この品種識別プライマーを使用したPCRにより、多型に基づくサイズ変化を見分けやすいような増幅断片が得られる。
あるいは、RAPDマーカーが同様に品種間で増幅断片がサイズの変化を示す場合、品種識別プライマーは、RAPDマーカーの塩基配列中の挿入部位の内部の配列および/または欠失部位をまたぐような位置の配列を有するオリゴヌクレオチドを選択することができる。従って、この品種識別プライマーを使用したPCRにより、挿入および/または欠失を持つ品種において増幅断片が得られる。
また、RAPDマーカーが品種によって特定のDNA増幅バンドの有無が見られる場合は、RAPDマーカー内部の塩基配列からポリメラーゼ連鎖反応に最適な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして選択する。このようなプライマーの1例として、配列表の配列番号35,36に記載のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
さらに、一次プライマーのアニールする場所のみに多型があることも予想されるため、5′末端に一次プライマーの配列を持ち、それに続いたRAPDマーカーの塩基配列を5〜20塩基連結した配列を有する合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして選択しても良い。例えば、RAPDマーカー内部の塩基配列を有するプライマーを用いた際に、全ての品種で同じサイズのPCR増幅産物が生じた場合は、上記のようにプライマーを設計することにより特異性を高めることができる。具体例としては、配列表の配列番号15及び16のプライマーは5′末端に配列表の配列番号12の配列を有し、それに続く塩基配列(図5参照)を連結した配列としている。ただし、連結すべきRAPDマーカー内部の塩基配列の部分が短すぎるとPCRにおいて非特異的な増幅バンドが増えるため多型の検出が不可能になる。また、逆に長過ぎると多型の有無にかかわらず全ての品種においてプライマーがアニールしてPCR産物が生じてしまい、多型の検出が不可能になる。
また、RAPDマーカーの塩基配列中に品種識別が可能となるような制限酵素の認識部位が存在する場合は、PCR増幅産物を制限酵素で処理して識別することも可能であるので、制限酵素の認識部位を保持したPCR増幅産物が得られるようにプライマーを設計すればよい。このようなプライマーの1例として、配列表の配列番号33,34に記載のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
このようにして設計されたプライマーは、目的の遺伝子(RAPDマーカー)のみが増幅するようにPCRを行う際のアニーリング温度を設定できるため、DNA増幅バンドの識別が容易で、かつ再現性の良い結果が得られる。
上記のようにして設計されたプライマーを簡便に得るには、合成オリゴヌクレオチドを用いる。本発明に用いる合成オリゴヌクレオチドは、例えばホスホアミダイド法などを用いる市販のDNA自動合成機によって得ることができる。
この合成オリゴヌクレオチドの鎖長は15〜40、好ましくは20〜30であり、配列表の配列番号1〜22に示した塩基配列を有するものを好適に用いることができる。
上記以外にも、ホップDNAにおいて、配列表の配列番号15〜40に示した塩基配列のうちの二種類(例えば配列番号15と16、配列番号17と18、…配列番号35と36など)の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドが相補する位置に挟まれた前記ホップDNAの塩基配列の一部を有する合成オリゴヌクレオチドを用いることもできる。
上記の通り第二の設計方法において設計された品種識別プライマーは、多型増幅断片すなわち多型配列の周辺の配列に基づき、適格な品種識別ができるように多型領域を増幅し、かつPCRに適当な配列から構成されているため、当該品種識別プライマーを用いることにより正確に品種識別を実行することができる。
PCR反応
次に、上記第一または第二設計方法により設計された品種識別プライマーを用いPCRにより、ホップDNAの多型領域の増幅を行う。
上記の合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCR反応は、常法に従い、鋳型DNAの変性工程、プライマーと鋳型DNAとのアニーリング工程およびプライマーを開始点としたDNAポリメラーゼによる伸長工程からなるDNA複製サイクルを繰り返して行う工程より構成され、例えばSaikiら、Science,第230巻,1350-1354頁等に記載されている。
上記のPCR反応の諸条件としては、各品種毎に反応チューブを別々にして、この反応チューブに、1種または2種の合成オリゴヌクレオチド、DNAポリメラーゼ、4種類の塩基(dATP,dTTP,dCTP,dGTP)、鋳型DNAとなる各品種のホップDNA及び増幅用緩衝液(約1.0mMから約4.0mM、好ましくは約1.5mMから約3.0mMの塩化マグネシウムや、塩化カリウム、ゼラチン、牛血清アルブミン、界面活性剤(Tween 20,NP-40,Triton X-100など(いずれも商品名)、ジメチルスルホキシド等を含有)を加えて、反応液を調整する。ここで調整した反応液を含む反応チューブを、任意のサーモサイキュラー等に設置して、上記したDNA複製サイクルを適当な回数、例えば、約20回から約50回、好ましくは約25回から約40回、繰り返して行う。
PCRの各反応工程の条件としては、例えば次のように行うことができる。
変性工程は、通常90℃から95℃、好ましくは約94℃から95℃で約1分間から約3分間、好ましくは約1分間から約2分間加熱することにより行う。
プライマーのアニーリング工程は、通常30℃から50℃、好ましくは約35℃から約42℃で約1分間から約3分間、好ましくは約1分間から約2分間プライマーとインキュベートすることにより行う。品種識別プライマーは、適当に1種類で、もしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
DNAポリメラーゼによる伸長工程は、耐熱性DNAポリメラーゼ処理存在下で、通常約70℃から約73℃、好ましくは約72℃から約73℃で、約1分間から約4分間、好ましくは約2分間から約3分間行う。この耐熱性DNAポリメラーゼとしては、PERKIN ELMER社製の耐熱性DNAポリメラーゼ等の市販のものを使用することができる。
上記の各工程を繰り返すことにより目的の増幅DNAを得ることができる。
増幅断片の解析手段
上記の品種識別プライマーを用いたPCR反応において生成された増幅DNAは、通常のDNAを分画する方法である電気泳動法によって分画され、その分画パターンに基づいて品種を判定することができる。
電気泳動法は、一般には、1000塩基対以下の短いDNA断片を分画する場合、約3%から約20%のポリアクリルアミドゲルを、それ以上の長いDNA断片を分画するには、約0.2%から約2%のアガロースゲルを使用することにより適当な分画パターンを得ることができる。
また、電気泳動に用いる緩衝液としては、Tris-リン酸系(pH7.5〜8.0)、Tris-酢酸系(pH7.5〜8.0)、Tris-ホウ酸系(pH7.5〜8.3)等が挙げられ、好ましくはTris-ホウ酸系である。また、必要に応じてEDTA等を添加することもできる。
泳動条件としては、泳動槽のサイズにより異なるが、例えば50〜300V、10〜120分間、好ましくは150V、30分間であり、対照として同時に泳動するサイズマーカーとしては、例えば100 Base-Pair Ladder(Pharmacia社製)等の市販のものを用いることができる。
増幅DNAは、例えばエチジウムブロマイド等のフェナントリジン系色素で、かつ核酸と相互作用するような物質を用いる染色法によって、視覚的に検出することができる。該染色法は、泳動槽に予め、例えば最終濃度として約0.5μg/mlのエチジウムブロマイド等の物質を加えるか、または、泳動後のゲルを約0.5μg/mlのエチジウムブロマイド水溶液に10分から60分程度漬ける。ここで染色されたゲルに暗所で254nmまたは366nmの紫外線を照射することによって、泳動パターンは、DNAにエチジウムブロマイドが結合した赤色バンドとして検出することができる。もちろん、泳動槽に前記染色液を添加した場合、泳動中でもこの泳動パターンが観察することができる。
この電気泳動法以外にも、前記増幅DNAの有無またはサイズ等を解析できる手段があれば、その方法に置換して解析することもできる。
品種識別
品種識別は、上記において得られた分画パターンに基づき、品種間での分画パターンの比較解析により実行する。この比較解析は、例えば、品種間での所定の増幅DNAの存在の有無の差またはサイズの差により行う。
増幅DNAの存在の有無の差は、特定の品種において、PCRに使用したプライマーがアニーリングする配列(すなわち相補配列)を備えているか否かを示しており、また、増幅DNAのサイズの差は、品種によっては、PCRで増幅される領域内に欠失または挿入配列等の多型配列が存在することを示している。
また、より正確な品種識別を行うためには、一回のPCRの結果だけでなく、異なる1種または2種のオリゴヌクレオチドを品種識別プライマーとして使用した場合の増幅断片の分画パターンを解析し照合することが望ましい。
上記以外にも、PCRにおけるアニーリング工程の温度、反応用緩衝液中のマグネシウム濃度等の諸条件を変化させた場合の挙動を検討することにより、品種同定の精度、品種間の識別能力を向上させることもできる。
本発明のホップの品種識別方法は、上記した一連の操作を行うことにより、正確に品種を識別することができる。
応用
本発明の品種識別方法は、ホップペレット等のホップ製品に用いられているホップの品種の純度検定にも利用することができる。
例えば、標準ホップから得られる増幅DNAとホップペレットから得られる増幅DNAとの差異を調べ、その結果標準ホップから得られる増幅DNA以外の増幅DNAが検出された場合、該ホップペレットには他品種が混入していると判断できる。
また、他品種の混入が予想された場合、その際の増幅DNAの量を、例えば、前記エチジウムブロマイドによる発色の強度によって測定することにより、他品種の混入の程度等の純度を測定することができる。
なお、この場合も本発明の合成オリゴヌクレオチドを2種以上併用することにより、純度検査の精度を高めることができる。
なお、本発明のオリゴヌクレオチドは、ホップ以外の他の植物(例えば桑、いちぢく、桜等)の品種同定にも適用できることが期待される。近縁種において塩基配列が異なる箇所は、DNA中の変異の起こり易い箇所であるので、限定される。例えば、rDNAをコードする場所は細菌(大腸菌、乳酸菌)や植物(イネ、オレンジ)の品種識別に利用できることが報告されている。したがって、本発明において、近縁種で差異のあった箇所は他の植物においても品種同定にも適用できるものと思われる。
以上の通り、本発明の品種識別方法は、品種間の配列の多型に基づいて解析するものであるため、環境的な影響を受けずに正確にホップの品種を識別することができる。また、本発明の品種識別方法は、品種識別の目的だけでなく製品中の各ホップの品種の純度をも測定することができるため、純度検定にも利用することができる。
実施例
まず、第一の品種識別プライマー設計方法により設計された品種識別プライマーを用いたホップの品種識別を実施例1から12に示す。
実施例1
ゲノムDNAの抽出
ホップ品種として、Brewer,s Gold(以下、品種番号1と記す)、Northern Brewer(以下、品種番号2と記す)、Tettnanger(以下、品種番号3と記す)、Saazer(以下、品種番号4と記す)、Hersbrucker spaet(以下、品種番号5と記す)、Spalter select(以下、品種番号6と記す)、Hallertauer tradition(以下、品種番号7と記す)、信州早生(以下、品種番号8と記す)、フラノエース(以下、品種番号9と記す)を用いた。
上記の各種ホップ品種の緑葉組織(生重量1g)を細かく切り刻んで、該組織片を液体窒素中に浸し、凍結させた。該凍結物をポリトロンを用いて液体窒素中で粉末状にした後、得られた粉末50mgをBLOOD AND CELL CULTURE DNA KIT(QIAGEN社製)を用いて、プロトコールに従いゲノムDNAを抽出した。
その結果、最終的に、各種ホップ品種のゲノムDNAを10〜20μg得た。
実施例2
プライマーとして33ピコモルの配列番号1および2に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチド(サワディー・テクノロジー社製委託製造物)を用いて1ユニットの耐熱性DNAポリメラーゼ(和光純薬製)、20ナノモルの4種類の塩基(dATP,dTTP,dCTP,dGTP)および実施例1で調製した0.1μgの各種ホップ品種のゲノムDNAを加えた。50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.1%Triton X-100を含有する10mM Tris-塩酸緩衝液(pH8.8)中で、ポリメラーゼ連鎖反応を行った。反応液量は30μlとし、反応液の蒸発を防ぐために約20μlのミネラルオイルを添加した。
上記のポリメラーゼ連鎖反応における各工程は下記の条件で行った。はじめに94℃で3分間保持した後、変性工程は94℃で1分間加熱し、プライマーのアニーリング工程は35℃で1分間インキュベートし、DNAポリメラーゼによる伸長工程は、72℃で2分間耐熱性DNAポリメラーゼ処理するサイクルを35回行い、72℃で10分間保持後、4℃で保存した。
上記のポリメラーゼ連鎖反応により得られた増幅ゲノムDNAは、5%のポリアクリルアミドゲルを用いて、2mM EDTAを含有する100mM Tris-ホウ酸緩衝液(pH8.0)中で、150V、30分間電気泳動して分離した。その際に、サイズマーカーとしては100 Base-Pair Ladder (Pharmacia社製)を用いた。
電気泳動終了後にゲルを0.5μg/mlのエチジウムブロマイド水溶液に10分間浸漬してから暗所で254nmの紫外線をゲルに照射することによって、DNAとエチジウムブロマイドの結合体の赤色バンドを検出した。得られた結果を第1表に示した。
表から明らかなように、プライマーとして配列番号1および2に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約520bp、約530bpの2種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例3
プライマーとして配列番号3および4に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を40℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第1表に示した。
プライマーとして配列番号3および4に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約750bp、約850bpの2種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを4タイプに識別することができた。
実施例4
プライマーとして配列番号5および6に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を40℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第1表に示した。
プライマーとして配列番号5および6に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約270bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例5
プライマーとして配列番号7および8に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第1表に示した。
プライマーとして配列番号7および8に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約370bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例6
プライマーとして配列番号9に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を40℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第1表に示した。
プライマーとして配列番号9に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約950bp、約1200bpの2種類のの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを3タイプに識別することができた。
実施例7
プライマーとして配列番号10に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を38℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第2表に示した。
プライマーとして配列番号10に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約650bp、約700bp、約1200bpの3種類のの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを4タイプに識別することができた。
実施例8
プライマーとして配列番号11に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を38℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第2表に示した。
プライマーとして配列番号11に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約1400bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例9
プライマーとして配列番号12に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を38℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第2表に示した。
プライマーとして配列番号12に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約550bp、約800bpの2種類のの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを4タイプに識別することができた。
実施例10
プライマーとして配列番号13に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を38℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第3表に示した。
プライマーとして配列番号13に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約500bp、640bp、650bp、1400bpの4種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを5タイプに識別することができた。
実施例11
プライマーとして配列番号14に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつポリメラーゼ連鎖反応におけるプライマーのアニーリング工程を38℃で行ったこと以外は、実施例2と同様に実施した。結果を第3表に示した。
プライマーとして配列番号14に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約540bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により9品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例12
品種番号8の品種として販売されているホップペレット(サッポロビール株式会社委託岩手県北ホップ農業協同組合製)を乳鉢で粉砕し、得られた粉末20mgから、BLOOD AND CELL CULTURE DNA KIT(QIAGEN社製)を用いて、プロトコールに従いゲノムDNAを約5μg抽出した。得られたDNAを用いて、プライマーとして配列番号1,2に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、実施例2に準じて実施した。
検出される増幅ゲノムDNAと品種番号8の標準ホップより得た増幅ゲノムDNAとの差異を調べ、純度を検査した。
次に、第二の品種識別プライマー設計方法により設計された品種識別プライマーを用いたホップの品種識別を実施例13から30に示す。
実施例13
ゲノムDNAの抽出
ホップ品種として、Hallertauer tradition(以下、HTと記す)、信州早生(以下、SWと記す)を用いた。
上記の各種ホップ品種の緑葉組織(生重量1g)を細かく切り刻んで、該組織片を液体窒素中に浸し、凍結させた。該凍結物をポリトロンを用いて液体窒素中で粉末状にした後、得られた粉末50mgをBLOOD AND CELL CULTURE DNA KIT(QIAGEN社製)を用いて、プロトコールに従いゲノムDNAを抽出した。
その結果、最終的に、各種ホップ品種のゲノムDNAを10〜20μg得た。
実施例14
RAPDマーカーの選択
プライマーとして0.34μMのプライマーB72(図2参照)を用いた。
さらに、0.25ユニットのTaqDNAポリメラーゼ(ニッポンジーン社製)、200μMの4種類の各塩基(dATP,dTTP,dCTP,dGTP)および実施例13で調製した17.5ngの各種ホップ品種のゲノムDNAを加えた、50mM KCl,1.5mM MgCl2,0.1%Triton X-100を含有する10mM Tris-塩酸緩衝液(pH8.8)中で、ポリメラーゼ連鎖反応を行った。反応液量は10μlとした。
上記のポリメラーゼ連鎖反応における各工程は下記の条件で行った。はじめに94℃で1分間保持した後、変性工程は94℃で30秒間加熱し、プライマーのアニーリング工程は33℃で1分間インキュベートし、DNAポリメラーゼによる伸長工程は、72℃で30秒間処理するサイクルを35回行い、72℃で1分間保持した。
上記のポリメラーゼ連鎖反応により得られた増幅ゲノムDNAは、5%のポリアクリルアミドゲルを用いて、2mM EDTAを含有する100mM Tris−ホウ酸緩衝液(pH8.0)中で、150V,30分間電気泳動して分離した。その際に、サイズマーカーとしては、ニッポンジーン社製マーカー9を用いた。
電気泳動終了後にゲルを0.5μg/mlのエチジウムブロマイド水溶液に10分間浸漬してから暗所で254nmの紫外線をゲルに照射することによって、DNAとエチジウムブロマイドの結合体の赤色バンドを検出した。得られた結果を図1に示した。
図1から、矢印で示した位置のバンドのサイズがHTとSWで異なることがわかる。この矢印で示した位置のバンドをRAPDマーカーとした。
実施例15
実施例14で調製したRAPDマーカーを電気泳動ゲルから切り出し、透析チューブに入れて電圧をかけ、ゲルから溶出させた。
得られたRAPDマーカーを「PCRテクノロジー」(Henry A.Erlich編,宝酒造株式会社発行)に記載の方法に準じて、制限酵素BglIIやPstIの認識配列を付加した。この制限酵素認識配列を利用してpUCプラスミドへサブクローニングした後、ダイデオキシ法によって塩基配列を決定し、図2に示した。なお、図中の・は上段と同一の塩基を示し、−は塩基の欠失を示す。また、下線部はプライマーB72の塩基配列であり、□で囲んだ塩基配列は後記実施例16で参照した塩基配列を示す。
こうして各バンドのシーケンスを行った結果、図2に示したように、SWにおいて32bpの塩基配列の挿入が観察された。
実施例16
実施例15で得られたRAPDマーカーのうち、図2に示した□で囲んだ塩基配列B72WF2を参照して得られた配列表の配列番号27記載の塩基配列およびB72WR2の相補的な配列から得られた配列表の配列番号28記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを設計した(サワディー・テクノロジー社に製造を委託)。
これら合成オリゴヌクレオチドをプライマーセットとして0.34μMを用い、0.25ユニットのTaqDNAポリメラーゼ(ニッポンジーン社製)、200μMの4種類の(dATP,dTTP,dCTP,dGTP)および実施例13で調製した17.5ngの各種ホップ品種のゲノムDNAを加えた50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.1%Triton X-100を含有する10mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.8)中でPCRを行った。反応液量は10μLとした。
上記のPCRにおける各工程は下記の条件で行った。はじめに94℃で1分間保持した後、変性工程は94℃で30秒間加熱し、プライマーのアニーリング工程は60℃で1分間インキュベートし、耐熱性DNAポリメラーゼによる伸長工程は、72℃で30秒間処理するサイクルを35回行った。
上記のPCRにより得られた増幅ゲノムDNAは、5%のポリアクリルアミドゲルを用いて、2mM EDTAを含有する100mM Tris−ホウ酸緩衝液(pH8.0)中で、150V、30分間電気泳動して分離した。その際に、サイズマーカーとしてはニッポンジーン社製マーカー9を用いた。
電気泳動終了後にゲルを0.5μg/mlのエチジウムブロマイド水溶液に10分間浸漬してから暗所で254nmの紫外線をゲルに照射することによって、DNAとエチジウムブロマイドの結合体の赤色バンドを検出した。得られた結果を図3に示した。
また、他の品種についても、同様に実施し、結果を図3に示した。他の品種としては、Fuggle(FU),Cascade(CC),Brewer′s Gold(BG),Northern Brewer(NB),Tettnanger(TE),Saazer(SA),Hersbrucker spaet(HE),Perle(PE),Spalter select(SS),フラノエース(FA)を用いた。
図から明らかなように、挿入部位を含む329bpのフラグメント(矢印)の増幅が、BG,NB,TE,SW,FAにおいて観察された。また、挿入部位を含まない299bpのフラグメントが全ての品種において観察された。また、600bp、700bp、710bpの品種特異的なフラグメントの増幅が観察された。これらのフラグメントは識別しやすく、再現性よく観察された。
実施例17
プライマーとして配列番号15および16に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、実施例16と同様の条件で実施した。得られた結果を第4表に示す。
表から明らかなように、プライマーとして配列番号15および16に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合は、約500bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例18
プライマーとして配列番号17および18に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつPCRにおけるプライマーのアニーリング工程を62℃で行ったこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号17および18に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合は、約260bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例19
プライマーとして配列番号19および20に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつPCRにおけるプライマーのアニーリング工程を65℃で行ったこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号19および20に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合は、約500bpと約550bpの2種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例20
プライマーとして配列番号21および22に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いたこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号21および22に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約710bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例21
プライマーとして配列番号23および24に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号23および24に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合は、約330bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例22
プライマーとして配列番号25および26に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつPCRを行った後、さらに反応液1μlを鋳型DNAとして先のPCRと同じ条件で20サイクル行ったこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号25および26に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合は、約160bpと約200bpの2種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例23
プライマーとして配列番号29および30に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつPCRにおけるプライマーのアニーリング工程を57℃で行ったこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。プライマーとして配列番号29および30に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合は、約350bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例24
プライマーとして配列番号31および32に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつ2度のPCRを行った後、さらにこの反応液を制限酵素N1aIII(第一化学薬品株式会社製)にて処理したこと以外は、実施例22と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号31および32に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約220bpと約360bpの2種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを4タイプに識別することができた。
実施例25
プライマーとして配列番号33および34に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつPCRにおけるプライマーのアニーリング工程を67℃で行い、さらにこの反応液を制限酵素TaqI(ベーリンガーマンハイム社製)にて処理したこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号33および34に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約220bpと約270bpの2種類の増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを3タイプに識別することができた。
実施例26
プライマーとして配列番号35および36に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、かつPCRにおけるプライマーのアニーリング工程を58℃で30サイクル行ったこと以外は、実施例16と同様に実施した。結果を第4表に示した。
プライマーとして配列番号35および36に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた場合、約400bpの増幅ゲノムバンドが検出され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例27
プライマーとして33ピコモルのベックス社製コモンプライマー(A25;5′-GGTCAGGCACCA-3′)を用いて実施例14と同様にPCR及び電気泳動を行った結果、約200から2000bpに渡って十数本の増幅ゲノムバンドが検出され、そのうち、品種によって増幅の有無が観察された約500bpのバンドをRAPDマーカーとした。このマーカーの塩基配列を調べたところ図4に示す結果が得られた。
図4において四角で囲んだ配列A及びBで示した配列に基づく配列番号19及び20、図4において下線C及びDにて示した配列に基づく37及び38の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを設計した。これらプライマーの設計方法は、37及び38は請求項の範囲8の方法に相当し、5及び6は請求項の範囲12の方法に相当する。
プライマーとして19及び20の場合はアニーリング工程を65℃で35サイクル、37及び38の場合は60℃で30サイクル行った以外は、実施例16と同様に実施した結果、プライマーとして19及び20を用いた場合は第1表に示したような500bpと550bpのバンドが、プライマーとして37と38を用いた場合は459bpの増幅ゲノムバンドが観察され、そのバンドの有無により12品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例28
プライマーとして33ピコモルのベックス社製コモンプライマー(C16;5′-CGCCCTGCAGTA-3′)を用いて実施例14と同様にPCR及び電気泳動を行った結果、約200から2000bpに渡って十数本の増幅ゲノムバンドが検出され、そのうち、品種によって増幅の有無が観察された約500bpのバンドをRAPDマーカーとした。このマーカーの塩基配列を調べたところ図5に示す結果が得られた。
図5において四角で囲んだA及びBで示す配列をもとに配列番号15及び16、図5において下線C及びBにて示した配列をもとに39及び40の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを設計した。
プライマーとして、39及び40を用いて60℃で35サイクル行った結果、全ての品種において約500bpの増幅ゲノムバンドが観察され、品種の識別はできなかったが、プライマーとして、15及び16を用いて同様に実施した結果、第4表に示したような増幅ゲノムバンドが観察され、そのバンドの有無により11品種のホップを2タイプに識別することができた。
実施例29
実施例16〜28において行ったタイプ分けをまとめた第4表を総合的に評価することにより、12種類全てのホップ品種を識別することが可能となった。
なお、フラグメントサイズを記載したものは品種識別の基準となるもので、制限酵素処理したものは( )で示した。
実施例30
ホップ品種として信州早生(SW)のホップペレット(サッポロビール株式会社委託岩手県北ホップ農業協同組合製)を乳鉢で粉砕し、得られた粉末20mgから、BLOOD AND CELL CULTURE DNA KIT(QIAGEN社製)を用いて、プロトコールに従いゲノムDNAを約5μg程度抽出した。得られたDNAを用いて、プライマーとして配列番号15〜40に記載の塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用い、実施例29に準じて純度を検査した。
この際に、非特異的な増幅バンドの出現が少なく、目的とするマーカーを容易に見極めることができた。また、再度の純度検定においても、再現性の高い結果が得られた。
産業上の利用性
本発明の遺伝学的品種識別方法によれば、環境等の影響に左右されずにホップの品種識別を正確かつ簡便に行うことができる。また、本発明の遺伝学的品種識別方法は、ホップを原料とする製品の純度検定にも有効に利用することができる。
従って、本発明の遺伝学的品種識別方法は、ホップの品種識別などを通じて、ホップを含む製品における一定の品質の維持または品質の向上を図ることができる。
配列表
配列番号:1
配列の長さ:19
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:2
配列の長さ:19
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:3
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:4
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:5
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:6
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:7
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:8
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:9
配列の長さ:10
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:10
配列の長さ:12
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:11
配列の長さ:12
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:12
配列の長さ:12
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:13
配列の長さ:12
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:14
配列の長さ:12
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:15
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:16
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:17
配列の長さ:22
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:18
配列の長さ:25
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:19
配列の長さ:25
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:20
配列の長さ:25
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:21
配列の長さ:26
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:22
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:23
配列の長さ:23
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:24
配列の長さ:23
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:25
配列の長さ:23
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:26
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:27
配列の長さ:22
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:28
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:29
配列の長さ:22
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:30
配列の長さ:20
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:31
配列の長さ:28
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:32
配列の長さ:28
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:33
配列の長さ:23
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:34
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:35
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:36
配列の長さ:24
配列の型:核酸
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トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:37
配列の長さ:21
配列の型:核酸
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配列の種類:合成DNA
配列
配列番号:38
配列の長さ:21
配列の型:核酸
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配列
配列番号:39
配列の長さ:20
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配列
配列番号:40
配列の長さ:21
配列の型:核酸
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トポロジー:直鎖状
配列の種類:合成DNA
配列
Claims (1)
- 被検体であるホップのDNAを、品種間における塩基配列上の多型を含む領域を増幅し得るように設計された品種識別プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行うことにより、前記多型領域を増幅し、増幅DNA断片を解析することにより品種を識別する遺伝学的品種識別方法であって、
品種識別プライマーが、配列表の配列番号15及び16、配列番号17及び18、配列番号19及び20、配列番号21及び22、配列番号23及び24、配列番号25及び26、配列番号27及び28、配列番号29及び30、配列番号31及び32、配列番号33及び34、配列番号35及び36、又は、配列番号37及び38、の塩基配列からなるプライマー対である、遺伝学的品種識別方法。
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