JP4090398B2 - トーションばね試験機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トーションばね(捻りばね、以下単に「ばね」という。)の回転トルクを測定するためのばね試験機に関する。
【0002】
【従来の技術】
トーションばねを必要とする顧客(発注者)は、指定捻れ角時のモーメントをばね製造者(受注者)に指定する。これを受け、ばね設計者は、発注者が指定した指定捻れ角度において所定のトルクを発生するように設計する。
【0003】
受注者及び発注者は、それぞれが各自のトーションばね試験機を用いて、完成したトーションばねの回転トルクを測定し、指定捻れ角において所定のトルク値が得られているかどうかをテストする。このため、測定器の精度は重要である。
【0004】
JIS規格で1級のトーションばね試験機を作るためには、測定誤差1%以内の精度が要求される。そのためには、少なくとも有効数字4桁の精度で測定しなければならない。
【0005】
このため、従来のトーションばね試験機は、指定捻れ角で停止させ、この時の静止状態でトルクを測定していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
トーションばねは、端末形状や摩擦などによってトルクにヒステリシスが内在している。このため、受注者がJIS1級のトーションばね試験機で評価して、検査に合格したばねを納品しても、発注者が実際に使用すると、指定捻れ角度で所望のトルクを得ることができないという問題があった。また、受発注者間で測定方法が異なると、双方の間で測定結果が大きく異なるという問題があった。
【0007】
検査時のトルク値と実際の使用時のトルク値とが異なるのは、測定器の精度に起因するものではなく、ばね自身にヒステリシス(ばね自身の摩擦及び測定器の摩擦に起因して起こる捻り方向と戻し方向で発生するトルク差)が内在しているためである。
【0008】
摩擦には静止摩擦と動摩擦とがある。静止摩擦は、最大静止摩擦以下の範囲で、動摩擦状態から静止状態に移行する際の減速の程度や静止時の停止精度によってその値が変化する。このため、測定器のトルク測定の精度を高めようと、ばねを静止状態にすると静止摩擦状態のばらつきが発生し、却って再現性のない測定となっていたのである。
【0009】
ところで、従来のトーションばね試験機は、ヒステリシスの大小をトーションばねの特性として評価することができなかった。このため、表示されたトルク値が得られる唯一のトルク情報であり、ヒステリシスの大きさはばね特性を示す基本データに含められていなかった。
【0010】
このため、受発注者間で測定値が食い違うと、測定器の再現性(又は精度)が低いためなのか、或は、ばね自身のヒステリシスが原因で再現性が低いためなのか、いずれが原因なのかを判断することができなかった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、従来よりも再現性の高いトーションばね試験機を提供することを第1の目的とし、トーションばね自身のヒステリシスを評価できるトーションばね試験機を提供することを第2の目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るトーションばね試験機は、トーションばねのトルクを測定する際の摩擦状態のばらつきによる再現性の悪さを低減するために以下のような構成を備えている。
【0013】
本発明に係るトーションばね試験機は、トーションばねを回転させるための回転テーブル1と、前記回転テーブルの中心に設けられ前記トーションばねの円筒部分に嵌め込んでトーションばねを設置するための案内棒2と、前記回転テーブルの回転面に設けられ前記トーションばねの一端を固定するための捻りピン3と、前記回転テーブルの外側に設けられ前記トーションばねの他端を固定するためとともに前記トーションばねのトルクを測定するトルク測定手段が接続されたトルク測定ピン4と、前記トーションばねの捻り角を測定する計測器5とを備え、予め設定された指定捻り角αにおいて前記回転テーブルを静止させることなく前記ばねを捻りながらトルクTを測定するトルク測定手段を備えていることを特徴とする。
【0014】
このような構成を備えていると、発注者が実際に使用する状態に近い状態で測定できるため、トルク測定の精度が高められる。また、回転しながら測定するためトーションばねは動摩擦状態で測定されるので、測定の再現性が高められる。すなわち「静止させることなく」とは、静止摩擦状態に移行せず動摩擦状態で測定することを意味する。
【0015】
なお、この回転テーブルはモーター等の回転手段により回転することでトーションばねの捻り角を変更することができる。また、指定捻り角αを近傍でのテーブルの回転速度はできるだけ一定速度であることが好ましい。また、指定捻り角αにおける回転スピードは受発注者間の協定により予め統一しておくことが好ましい。
【0016】
上記ばね試験機は、指定捻り角αを通過するときのトルク測定を往路(捻り方向)と復路(戻し方向)のそれぞれにおいてトルクT及びTを測定し、両者を算術平均したトルク値を指定捻り角αにおける平均トルク値Tavとして出力する手段をさらに備えていてもよい。
【0017】
上記ばね試験機は、指定捻り角αを通過するときの往復のトルク差ΔT=|T−T|を、前記平均トルク値Tavで除した値RTH=ΔT÷Tavを計算する計算手段及び出力手段をさらに備えていてもよい。
【0018】
【発明の実施の形態】
(トーションばね試験機の基本構成)
図1(a)は、トーションばね試験機の一例を示した全体図である。また、図1(b)は、トーションばね試験機のトルク測定機構部を拡大した図である。トルク測定機構部の基本的構成は、トーションばねS(以下、単に「ばねS」という。)を回転させるための回転テーブル1と、回転テーブル1の中心に設けられ、ばねSの円筒部分に嵌め込んで設置するための案内棒2と、回転テーブル1の回転面に設けられトーションばねSの一端を固定するための捻りピン3と、前記回転テーブルの外側に設けられ前記トーションばねの他端を固定するためとともにばねSのトルクを測定するロードセル6(トルク測定手段の一例)が接続されたトルク測定ピン4と、ばねSの捻り角を測定する計測器5とを備えている。さらに装置全体としては、測定したトルク値を表示するための表示器7、測定条件などの設定値を入力するための入力パネル8、測定結果などを印刷するプリンター9を備えている。
【0019】
回転テーブルを駆動させるための駆動手段(例えばモーターなど)、回転数を調整するための減速機(回転数調整手段)を備えていてもよい。計測器5は、モーターなどの回転テーブルの駆動系に接続して回転角度が測定できるロータリーエンコーダなどを用いることができるがその他の方式であってもよい。
【0020】
さらに、測定データを解析したり試験条件を登録するためのコンピュータプログラムやメモリー(例えばROM:リードオンリーメモリーなど)及び、それらのプログラムを実行させるためのコンピュータなどが含まれていてもよい。これらを含んでいると、駆動系の制御の精度が向上したり、複雑な統計処理を自動的に行うことができる利点がある。但し、摩擦による測定値の再現性を抑えるという本発明の課題に鑑みれば、コンピュータ制御ではない原始的な手動のトーションばね試験機も、後述する測定機構を備えているものは、本発明に含まれる。
【0021】
図2(a)は、本発明のトーションばね試験機全体のブロックダイヤグラムを示したものである。また、図2(b)は、このうち、回転駆動系10のブロックダイヤグラムを例示したものである。モーター10Aと、減速機10Bと、回転テーブル10C(=1)を含む回転駆動系10をトーションばねSに適用し、指定捻り角αにおけるトルクを測定する。
【0022】
(測定機構)
本発明のトーションばね試験機は、回転テーブル1を回転させることにより予め設定された指定捻り角αにおいてトーションばねを静止させることなくばねを捻りながらトルクTを測定するトルク測定手段を備えている。これは、図2(a)ブロックダイヤグラムの例では、モーター制御を行うためのプログラムなどにより実現される。
【0023】
従来は、指定捻り角αで回転テーブルを停止させて測定していたが、このように、指定捻り角αに達しても回転テーブルを停止させることなく回転を続ける。そして、指定捻り角αにおけるトルク値Tを読みとる。回転テーブルを停止させ、静止状態とすると、ばね自体に存在する摩擦、或は、案内棒とばねとの摩擦が測定の再現性を低下させる。これは、動摩擦状態から静止摩擦状態に移行するとき、減速の程度や停止精度によって測定のばらつきが発生するためである。
【0024】
図3(a)及び(b)は、捻り角を横軸に、トーションばねの発生トルクを縦軸に表わしたグラフを示す図である。なお、通常のトーションばね試験機ではこのようにグラフを描画することはなく、測定するとトルク値が表示されるのみであるが、今回は実験のために特別にグラフ化したものである。(a)は密巻きのトーションばね、(b)は粗巻きのトーションばねについて測定した結果である。
【0025】
ここで、図5を参照してトーションばねの角度の表示の仕方について定義しておく。トーションばねを捻ったときの角度は、ばね両端の直線部分のなす角(これを「外周角θ」とよぶ。)で表わす場合と、トルクを得る部分と円筒中心部とのなす角(これを「中心角φ」とよぶ。)で表わす場合など、種々の表示方法がある(図5(a)参照)。
【0026】
しかし、捻り角αは、外周角θの差と定義できるので、本発明において捻り角αとは、α=θ−θ(但し、θは自然状態の外周角、θは捻りトルクを加えた状態における外周角を表わす(図5(b)参照)。
【0027】
図3(a)の結果から明らかなように、往路と復路でトルク値が大きく異なっている。例えば、指定捻り角α=40°のときのトルクを測定しようとした場合でも、往路と復路でトルク値に大きな差がみられる。この差がヒステリシスというものである。ヒステリシスは、ばねの形状等により大きく依存するが、一般に指定捻り角αが大きいほど大きい。一方、図3(b)は、ほとんどヒステリシスが存在しない。これは、ばね自身の摩擦が小さいばねである。このばねは、ほぼ99%の再現性がある優れたばねであるといえる。
【0028】
同じ指定捻り角αでも往復でトルク値が異なるので、往路又は復路のみを測定してもよいが、より精度を高めるために往路と復路との2値を算術平均したものを平均トルクTavとして出力するようにしてもよい。算術平均の方法は、最も簡単な方法は相加平均を取ることであるが、データ解析によって最適な計算式を求めることもできる。
【0029】
−比較例−
図4は、従来のトーションばね試験機を用いて測定した捻り角とトルクの関係を示す図である。この例では、指定捻り角α=40°におけるトルクTを正確に求めることが目的である。トーションばね試験機の回転台をゆっくりと回転させ、捻り角αが40°となった時点で回転を停止し、その時表示されたトルク値を読みとる。
【0030】
しかし、図中の点AにおけるトルクTを読みとることが理想的であるが、捻り角を増大していき、やがて停止したときは、トルク値が一定の範囲内で低下する。このとき低下するトルク値の大きさは、例えば回転台の停止速度や停止位置の精度など、わずかな条件の違いに起因して毎回変動する。このため、点Aの位置から、ある時はグラフ上の点Bの位置までトルクが低下し、ある時は点Cの位置までトルクが低下する。逆に、捻り角を減少していき、やがて停止したときは、トルク値が一定の範囲内で増大する(不図示)。
【0031】
(ばねの再現性を数値化する手段について)
ヒステリシスが大きいトーションばねは、ヒステリシスが小さいトーションばねよりも、指定捻り角αにおけるトルク値が、測定のたび毎にある一定の幅を持って変動するため、トルク値の再現性が悪い。
【0032】
従来のトーションばね試験機は、ヒステリシスの大小をトーションばねの特性として評価することができなかったため、表示されたトルク値を読みとるしかなく、ヒステリシスはばね特性を示す基本データに含められていなかった。
【0033】
上述のごとく、ヒステリシスが発生する原因は以下の2点にあると考えられる。1つは、ばねと試験機の案内棒との摩擦、他の1つは、トーションばね自身の摩擦によるものである。特に、トーションばね自身の摩擦は、トーションばねが密に巻かれているものほど大きい。その他、形状に起因する要素などもあり、実際にはかなり複雑である。
【0034】
測定の際、トーションばねは、初めの静止状態からまず最大静止摩擦を超える力が加えられると、その後動摩擦状態で捻られていき、やがて所定の角度に達すると停止し、静止状態となる。
【0035】
摩擦はばねの形状やばね試験機の機構に依存して変動する。例えば、ばねが密巻きであるほど、ばね自体の摩擦は大きい。また、案内棒が回転テーブルとともに回転する方式の場合は、案内棒とばねとの間の摩擦の影響は小さいが、回転テーブルが回転しても案内棒が回転せず固定される方式の場合は、案内棒とばねとの摩擦は大きい。
【0036】
そこで、本発明では、従来にはない新規なパラメータとして、「トルクヒステリシス含有率RTH」を定義する。RTHの計算式は以下のようにして求められる。
【0037】
TH=ΔT÷Tav ×100 [%]
【0038】
ここで、ΔTとは、指定捻り角αにおける往路のトルク値Tと復路のトルク値Tの差(ΔT=T−T)であり、Tavとは、往路のトルク値Tと復路のトルク値Tの算術平均値(Tav=f(T、T)、但し、fは算術平均関数。)を表わす。算術平均関数とは、例えば相加平均つまり、f=0.5×(T+T)などが考えられる。一方の値を加重平均したり、二乗平均などグラフの解析によって最適な計算式をフィッティングすることで、算術平均関数は種々の計算式が可能である。
【0039】
(公差との相違)
なお、ばねに公差(基準に対する誤差の許容範囲)を設定し、プラスマイナス何パーセントの公差というように表現されることがあるが、上述のヒステリシス含有率は、公差とは全く別違のものである。もし、ヒステリシスを含めて公差を設定するとなると、指定捻り角αにおけるヒステリシスの巾(ΔT)を含むさらに広い範囲で公差を設定しなければならないからである。このように、ヒステリシスの巾を動摩擦状態で測定した指定捻り角αにおける往復算術平均値の割合で示すことにより、従来は表現し得なかったヒステリシス含有率というものを数値で表現できるようになる。トーションばねの測定方法は、受渡当事者間の協定により統一した測定方法を採用することが好ましいが、その上で、ヒステリシス含有率を明記して受渡しすることで、再現性の悪さがばね自身のヒステリシスに起因するものであることが明確に受注者に伝えられる。
【0040】
(その他)
測定時の回転テーブルの回転スピードは、ばねによって変えられるべきである。これらの測定条件は受渡当事者間(受注者と発注者など)の双方が同一条件で測定できるように予め協定しておくことが好ましい。実験では、往復で30秒程度の時間で測定するように構成した。なお、測定点(指定捻れ角度)付近で一定の速度が保たれることが必要であり、測定点に至る往路或は測定点から帰る復路は高スピードで回転しても構わない。このようにすると、測定時間が短縮化される。これは当業者が任意に設計しうる事項の範囲である。
【0041】
トルクの測定はロードセルを用いてもトルクセルを用いてもいずれでもよい。ロードセルを用いるとアームの長さを長くすることによって測定範囲が広げられるメリットもあるため、実施例としてはロードセルを用いた例を示した。なお、トルクセルを用いると回転トルクを直接測定できるメリットがあるため、分解能が許容範囲内であるならばトルクセルを用いることもできる。いずれを用いても一長一短であり、トルク測定手段であれば、これら以外の方式であってもよい。
【0042】
測定プログラムはROM(リードオンリーメモリー)その他の媒体に保存して提供することもできる。
【0043】
【発明の効果】
本発明に係るトーションばね試験機によると、再現性の高い高精度のトーションばね試験機を提供することができ、さらに、トーションばね自身のヒステリシス含有率を含む出力を持ったトーションばね試験機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトーションばね試験機の一例を示し、(a)はその全体図である。(b)は、トーションばね試験機のトルク測定機構部を拡大した図である。
【図2】(a)は、本発明のトーションばね試験機全体のブロックダイヤグラムを示す図である。(b)は、回転駆動系のブロックダイヤグラムを示す図である。
【図3】(a)及び(b)は、捻り角を横軸に、トーションばねの発生トルクを縦軸として測定したグラフを示す図である。
【図4】従来のトーションばね試験機を用いて測定した捻り角とトルクの関係を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は、トーションばねの角度の表示の仕方について説明するための図である。
【符号の説明】
1 回転テーブル
2 案内棒
3 捻りピン
4 トルク測定ピン
5 捻り角計測器
6 ロードセル
7 表示器
8 入力パネル
9 プリンター
10A、10B、10C 回転駆動系の各ブロック
S トーションばね

Claims (3)

  1. トーションばねを回転させるための回転テーブル1と、前記回転テーブルの中心に設けられ前記トーションばねの円筒部分に嵌め込んでトーションばねを設置するための案内棒2と、前記回転テーブルの回転面に設けられ前記トーションばねの一端を固定するための捻りピン3と、前記回転テーブルの外側に設けられ前記トーションばねの他端を固定するためとともに前記トーションばねのトルクを測定するトルク測定手段が接続されたトルク測定ピン4と、前記トーションばねの捻り角を測定する計測器5とを備え、予め設定された指定捻り角αにおいて前記回転テーブルを静止させることなく前記ばねを捻りながらトルクTを測定するトルク測定手段を備えていることを特徴とするトーションばね試験機。
  2. 前記指定捻り角αを通過するときのトルク測定を往路と復路のそれぞれにおいてトルク値T及びTを測定し、両者を算術平均したトルク値を指定捻り角αにおける平均トルク値Tavとして出力する手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1記載のトーションばね試験機。
  3. 前記指定捻り角αを通過するときの往復のトルク差ΔT=|T−T|を、前記平均トルク値Tavで除した値RTH=ΔT÷Tavを計算する計算手段及びその出力手段をさらに備えていることを特徴とする請求項2記載のトーションばね試験機。
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