JP3631946B2 - 疲労亀裂計測方法及び疲労亀裂計測用変位計 - Google Patents

疲労亀裂計測方法及び疲労亀裂計測用変位計 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測する疲労亀裂計測方法及び疲労亀裂計測用変位計に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7は試験片の疲労亀裂の長さすなわち深さを測定する従来の亀裂深さ測定方法を説明するための亀裂深さ測定装置の要部平面図、図8は亀裂深さを荷重と材料の変位あるいは歪量との関係から推定する従来の亀裂深さ推定方法を説明するためのグラフである。
【0003】
従来、各種材料において疲労により発生した疲労亀裂の伝播速度の特性すなわち疲労亀裂伝播速度特性を把握するために、疲労亀裂伝播速度特性試験が行われている。従来の疲労亀裂伝播速度特性試験においては、多くの場合、図7に示すようなCT試験片1が用いられ、このCT試験片1に対し、例えば矢印5により示される荷重方向の引張荷重及びその逆向きの圧縮荷重を作用させるような引張及び圧縮荷重の条件下で、荷重試験が実施される。
【0004】
図7及び図8において、試験片1に発生した亀裂2の長さすなわち深さは、試験片1の背面側に貼り付けた歪ゲージ3を用いて計測した歪量εと矢印5の方向に作用する荷重5との間の傾きとして求められるコンプライアンス、あるいは変位計4を用いて計測した切欠開口の幅の亀裂の生成に伴う変化量すなわち変位量δと荷重5との傾きとして求められるコンプライアンスから推定される。
【0005】
しかしながら、実際の構造物においては、単純な引張及び圧縮の荷重条件のみが作用することは稀で、むしろ各方向の荷重が同時に複合し混合荷重として作用するケースが多い。そのため、従来のCT試験片1を用いることによる単純な引張及び圧縮荷重条件下の疲労亀裂伝播速度特性の把握だけでは、実際の構造物に対応した評価を十分に行うことができない。そこで、例えばポンプ軸のように、引張り及び圧縮荷重に加えて捩り荷重も同時に複合して混合荷重として作用するような荷重混合モード下に置かれる構造物構成体については、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モードの下で実際の荷重条件を模擬した荷重試験を行うことができるような、荷重試験法及び亀裂計測法が必要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、荷重混合モード下において疲労亀裂の計測を行うに当たっては、以下の点が課題となる。
(1)引張及び圧縮荷重の方向の疲労亀裂の開口部の変位量を精度良く計測することのできる変位計が必要となること。すなわち、捩り荷重による回転方向の動きに影響されず、なお且つ引張及び圧縮方向のみの変位量を精度良く測定することのできる変位計が新たに必要となること。
(2)荷重混合モード下における疲労亀裂の長さすなわち深さと疲労亀裂の開口量との相関関係を把握しておく必要がある。すなわち、捩りの応力拡大係数範囲と引張及び圧縮の応力拡大係数範囲との比として求められるモード比や、材料等の各条件が異なると、荷重混合モード下における亀裂の長さすなわち深さと亀裂の開口量との相関関係がどのように異なるのか等についても、把握しておく必要がある。
(3)疲労亀裂を疲労亀裂の生成箇所に関係なく均一に成長させることができるような荷重試験装置が必要である。すなわち、例として丸棒試験片に対して荷重混合モードの荷重試験をした場合、この試験片に発生する疲労亀裂は、必ずしも試験片の周面に沿って同心円状に均一に成長するとは限らず、試験片の固定の仕方に起因する各部位に作用する荷重のアンバランスにより、試験片上には、亀裂の成長の比較的早い箇所と、亀裂の成長の比較的遅い箇所とが生じ易い。このように亀裂の長さすなわち深さが試験片上の各位置により異なると、応力拡大係数等の力学量の正確な計算が困難となる。このため荷重混合モード下における疲労亀裂伝播速度特性を正確に評価するためには、試験片における疲労亀裂のいずれの生成箇所においても疲労亀裂を疲労亀裂の生成箇所に関係なく均一に成長させることができるような荷重試験装置が新たに必要となる。
【0007】
そこで、本発明は、荷重混合モード下における疲労亀裂の長さすなわち深さと疲労亀裂の開口部の変位量との相関関係をモード比や材料の材質に影響されることなく把握することができるようにし、疲労亀裂伝播速度特性を高精度で評価することができるようにし、その結果、実際の構造物構成体ひいては構造物の安全性を確実且つ有効に評価することができるようにした、疲労亀裂計測方法を提供しようとするものである(請求項1)。
【0008】
また、本発明は、荷重混合モード下においても疲労亀裂による材料の変位量を高い精度で測定することができるようにし、疲労亀裂伝播速度特性を高精度で評価することができるようにし、その結果、実際の構造物構成体ひいては構造物の安全性を確実且つ有効に評価することができるようにした、疲労亀裂計測用変位計を提供しようとするものである(請求項)。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、本発明の疲労亀裂計測方法は、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測する疲労亀裂計測方法であって、当該混合荷重により試験片に疲労亀裂を生成させ、上記試験片上の亀裂発生箇所の変位と上記混合荷重との比として求められるコンプライアンスを上記疲労亀裂の発生時から当該疲労亀裂の成長の過程を通して時系列的に求めることによって、試験を開始した直後のコンプライアンスである初期コンプライアンスに対するその後のコンプライアンスの倍率であるコンプライアンス増加倍率を求め、各コンプライアンス増加倍率と各コンプライアンス増加倍率に対応する疲労亀裂の深さとの関係を示す曲線を予め校正曲線として求めておき、与えられた試験片について、上記荷重混合モード下における当該与えられた試験片上の亀裂発生箇所の変位を計測し、計測した変位に対応するコンプライアンス増加倍率を求め、求めたコンプライアンス増加倍率と上記校正曲線とに基づいて当該与えられた試験片に生成した疲労亀裂の深さを推定することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の疲労亀裂計測用変位計は、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測するための変位計であって、上記試験片上の第1の位置に着脱可能に固定される基部と、当該基部から上記試験片の表面に対して垂直な向きに立上がるようにして立設された立上がり支柱部と、当該立上がり支柱部の頂部から当該立上がり支柱部の側方へ向けて張出し前後両側面が歪ゲージを適用することができる側面として形成された張出し肩部と、当該張出し肩部の先端部から上記試験片上の上記第1の位置から離隔した第2の位置に向かうようにして突設され上記張出し肩部の先端部寄りの部分には上記立上がり支柱部に対して接近離反する方向に弾性変形をすることができ歪ゲージを適用することができる外側表面及び内側表面を有する弾性薄肉部が形成され先端部において上記基部の底面の水準よりも僅かに後退した位置に先端面が形成され当該先端面に隣接して上記試験片の上記第2の位置の表面上に立設された接触ピンに線接触状態で当接することができる先端接触面が形成された接触腕部とを備えている。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面により本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る疲労亀裂計測方法に用いられる装置の使用態様の一例を示す要部側面図、図2は図1のA部拡大図、図3は図1のB−B線に沿って見た要部横断平面図、図4(1)は本発明の一実施の形態に係る疲労亀裂計測装置の側面図、図4(2)は図4(1)の疲労亀裂計測装置の平面図、図5(1)は試験片の一例を示す側面図、図5(2)は図5(1)の試験片の要部拡大側面図、図5(3)は図5(1)の試験片の端面図、図6はコンプライアンス増加倍率と試験片の亀裂深さとの関係を示すグラフである。
【0012】
まず図5(1),図5(2)及び図5(3)において、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モードの下で、当該混合荷重により試験片に疲労亀裂を発生させるとともに、発生した亀裂を成長させ、その際に当該試験片上の亀裂の発生箇所によって亀裂の長さすなわち深さにばらつきが生じることのないように、上記発生した疲労亀裂を均一に成長させ、成長に伴って変化する亀裂の長さすなわち深さを変位計により即時的に計測するようにした疲労亀裂計測方法を実施するために、試験片として例えば丸棒状の試験片21を採用することができる。
【0013】
図5(1),図5(2)及び図5(3)に示すように、試験片21は、中央丸棒部21aと、中央丸棒部21aの両端側に形成された一対の径大把持部21bと、各径大把持部21bの外周部に径大把持部21bと一体的に形成されたフランジ部21cとを有する。中央丸棒部21aの外周部には周方向に切欠溝21dが形成されている。切欠溝21dは、中央丸棒部21aの周方向に一様に均一に形成され、特に図5(2)に部分的に拡大して示すように、一方の側の切込円錐面と他方に側の切込円錐面とは、例えば共に中央丸棒部21aの軸線に垂直な面すなわち試験片21の横断面に対して等角度の斜角を有している。
【0014】
図5(1),図5(2)及び図5(3)において、各切込円錐面の中央丸棒部21aの軸線に垂直な面に対する斜角は、図示の場合にはそれぞれ22.5度であるが、荷重試験の条件に応じて斜角22.5度に替えて別の斜角を採用することができる。また、一方の側の切込円錐面と他方に側の切込円錐面とが交わる切欠溝21dの最深部の、中央丸棒部21aの軸線を通る面すなわち試験片21の縦断面内における曲率半径Rは、図示の場合には0.05mmであるが、荷重試験の条件に応じて曲率半径0.05mmに替えて別の曲率半径Rを採用することができる。
【0015】
図4(1)及び図4(2)に、荷重混合モード下の疲労亀裂の生成による開口の変位量、すなわち例えば試験片21の切込溝21dにより形成された周方向の環状の開口の試験片21の軸方向の変位量、を計測するのに好適に使用することのできる変位計13の一例を示す。変位計13は、試験片21の切込溝21dにより形成された開口を挟んで一方の側の試験片21の表面上に例えば基部固定用溝6を利用してボルト等の固定手段により固定される基部13aを有する。当該基部13aからは試験片21の表面に対して垂直な向きに立上がるようにして立上がり支柱部13bが一体的に立設されている。
【0016】
図4(1)及び図4(2)において、立上がり支柱部13bの頂部から、立上がり支柱部13bの側方へ向けて張出し肩部13cが一体的に張り出しており、当該張出し肩部13cの張出し部における前後両側面は、一方の側面上にはアクティブゲージとしての歪ゲージ9を、また他方の側面上にはダミーゲージとしての歪ゲージ10を適用することができるように、それぞれ滑らかな側面として形成されている。張出し肩部13cの先端部からは、立上がり支柱部13bに対して概ね平行で試験片21の切込溝21dにより形成された開口を跨いだ位置の他方の側の試験片21の表面に向かうようにして、使用時には切込溝21dにより形成された開口を跨いだ位置の他方の側の試験片21の表面上に立設される接触ピンに先端部が当接する接触腕部13eが突設されている。
【0017】
図4(1)及び図4(2)に示すように、接触腕部13eの基端部寄りの部分すなわち張出し肩部13cの先端部寄りの部分には、滑らかな円弧面を形成する外面側の凹窪面13dによって厚みが長手方向に滑らかに変化し接触腕部13eの先端側が外力に応じて立上がり支柱部13bに対して接近及び離反する方向に復原自在に弾性変形をすることができ、外面側にはアクティブゲージとしての歪ゲージ7を、また裏面側にはダミーゲージとしての歪ゲージ8を適用することができるように、それぞれ滑らかな表裏両面を有する弾性薄肉部12が形成されている一方、接触腕部13eの先端部においては、基部13aの底面の水準よりも僅かに後退した位置に先端面11が形成されているとともに、当該先端面11に隣接し立上がり支柱部13bとは反対側の外向きに僅かに突出した部分には、試験片21の切込溝21dにより形成された開口を跨いだ位置の他方の側の試験片21の表面上に立設された接触ピンに当接する外向きの先端接触面13fが形成されている。
【0018】
図1ないし図3において、模式的に示した試験片21の一端側は図示されていない上方の荷重負荷機構部の把持手段により把持され、試験片21の他端側の径大把持部21bには割型フランジ17が径大把持部21bを側方から挟み込むようにして嵌合している。割型フランジ17は、それぞれステッピングモータ16により回転駆動される複数本のボルト15によって固定台22側に締め付けられることにより、試験片21のフランジ21cを全周に亙って下向きに押圧する。図1ないし図3においては、割型フランジ17は一対の片側フランジ構成体よりなる半割りフランジとして示され、各片側フランジ構成体が、それぞれステッピングモータ16付きの2本のボルト15により固定台22側に締め付けられるように構成されているが、割型フランジ17の形状、ステッピングモータ16付きのボルト15の本数は試験条件に応じて適宜に選択することができる。
【0019】
図1ないし図3に示すように、試験片21上に変位計13を装着するに当たっては、試験片21の切込溝21dにより形成された開口を挟んで一方の側の試験片21の表面上に、切込溝21dに近接して、変位計13の基部13aをボルト等の固定手段により、基部固定用溝6を利用して固定する。他方、試験片21の切込溝21dにより形成された開口を挟んで他方の側の試験片21の表面上に、切込溝21dに近接して、金属製の丸棒形状の接触ピン14を、相互に周方向に間隔をおいて、例えば4カ所に相互に90度ピッチの間隔で、半径方向外方へ向けて突設しておく。
【0020】
図1ないし図3において、接触ピン14は、試験片21が負荷荷重を受けて捩れても、変位計13の例えば4mm程度の幅に設定される先端接触面13fに対し、接触状態が変わらないように、丸棒形状とされることが望ましい。接触ピン14の試験片21への垂直取り付けに当たっては、例えば、パーカッションウェルダーにより取付けたり、スポット溶接をしたり、試験片21にほぞ孔を穿設して当該ほぞ孔に差し込んで取付けたりすることができる。いずれにしても、接触ピン14を試験片21に取付ける際に、試験片21を過剰に損傷したり、変質させたりしないような方法を用いて、接触ピン14の試験片21への垂直取り付けが行われる。
【0021】
図1ないし図3において、試験片21上に変位計13を装着する際には、変位計13の接触腕部13eの先端部における先端接触面13fが、それぞれ対応する接触ピン14に当接し、その際、それぞれの接触ピン14に対して変位計13の先端接触面13fを若干押し勝手にして変位計13を試験片21上に固定するようにする。各接触ピン14と先端接触面13fとが上述のように線接触をすることにより、試験片21の捩りに伴う回転方向の動きが、各接触ピン14により抵抗されることなく円滑に行われる。
【0022】
図1ないし図3に示すように、混合荷重を負荷する荷重試験の際には、試験片21に対し、図示されていない上方の荷重負荷機構により、矢印19により示されるような軸方向の引張り及び圧縮荷重が負荷されると同時に、矢印20により示されるような軸周りの捩り荷重が負荷される。試験片21に作用する荷重は、試験片21に装着されたロードセル18により検出される。
【0023】
図1ないし図3、図4(1)及び図4(2)において、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下における荷重試験を、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、まず各変位計13の接触腕部13eの先端部における先端接触面13fを、対応する各接触ピン14に押し当てた状態で、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合した混合荷重を、試験片21に負荷する。そして、混合荷重の負荷に伴って先端接触面13fが試験片21の軸方向へ移動するときの変位計13の弾性薄肉部12に作用する曲げ応力に対応する弾性薄肉部12の歪量を測定し、その測定値を試験片21の軸方向の変位に換算する。その際、事前に試験片21の変位量と弾性薄肉部12の曲げ応力に対応する歪量との関係の校正カーブのデータを採取しておく。
【0024】
図4(1)及び図4(2)に示すように、変位計13の弾性薄肉部12における曲げ応力に対応する歪量を計測するに当たっては、例えば変位計13に歪ゲージ7,8,9,10を貼り付けて弾性薄肉部12における曲げ応力に対応する歪量を計測することができる。その際、接触腕部13eの凹窪面13dが形成された外面側にはアクティブゲージとしての歪ゲージ7を、また裏面側にはダミーゲージとしての歪ゲージ8を貼り付け、また張出し肩部13cの張出し部における一方の側面上にはアクティブゲージとしての歪ゲージ9を、また他方の側面上にはダミーゲージとしての歪ゲージ10を貼り付けることができる。ゲージの結線方法としては、例えば4ゲージ法に従って結線することができ、曲げ歪は、例えば概ね2倍あるいはそれ以上の出力にして感度良く計測することができる。
【0025】
図1ないし図3において、疲労亀裂計測装置に設定された試験片21に対し、矢印19により示される方向の引張及び圧縮荷重と、矢印20により示される方向の捩り荷重とを、同時に混合させて複合的に作用させ、切込溝21dに沿って環状に疲労亀裂を発生させ、さらに発生した疲労亀裂を成長させて、混合モード下における正確な疲労亀裂伝播速度特性を評価するためには、疲労亀裂を周方向の生成個所において均一に、同心円状に成長させる必要がある。そこで疲労亀裂が周方向の生成個所において均一に成長するように、試験片21の下部の割型フランジ17による試験片21のフランジ部21cに対する軸方向への押圧力を、ステッピングモータ16とボルト15とを備えた引張り力調整手段を介して制御する。例えば、疲労亀裂が他の箇所に比べてあまり伸びない箇所が生じた場合には、その箇所が引張荷重の負荷時における引張荷重が作用しにくい状態にあることから、当該箇所に最寄りのステッピングモータ16を回転させて対応するボルト15を締付け回転させ、対応する割型フランジ17による締付け力を増加させて、試験片21の対応する部分に対し荷重を受け易い状態にする。
【0026】
試験中におけるステッピングモータ16の回転制御、すなわちボルト15の締付け制御は、コンピュータにより行うことができ、疲労亀裂の長さすなわち深さを変位計13により計測しながら、疲労亀裂の長さすなわち深さが他の箇所に比べて短い箇所がないかどうかをコンピュータにより監視し、他の箇所に比べて疲労亀裂の長さすなわち深さが短い箇所が生じた場合には、コンピュータからの指令に従って自動的に該当する箇所のボルト15を適量だけ締め付けるようにすることができる。
【0027】
以上のような疲労亀裂計測装置を用いて、試験片21上の疲労亀裂の発生箇所の全幅に亙って均一な長さすなわち深さに、例えば試験片が試験片21のように円柱形状である場合には全周に亙る同心円状に均一な深さに、疲労亀裂を成長させることができ、複雑な荷重混合モードの荷重条件下においても、疲労亀裂の計測を正確に行うことができ、精度の高い疲労亀裂伝播速度特性を評価することができる。
【0028】
次に、疲労亀裂伝播速度特性の評価の手順について説明する。試験片21に発生した疲労亀裂の長さすなわち深さは、疲労亀裂計測装置における変位計13を用いて計測した試験片21の変位量δとロードセル18により検出された荷重Pとの比として求められるコンプライアンスC=δ/Pから推定される。まず疲労亀裂計測装置における変位計13を用いて計測された試験片21の変位量δと、ロードセル18により検出された荷重Pとから、試験を開始した直後のコンプライアンスである初期コンプライアンスC0 と、その後のコンプライアンスCとを求める。コンプライアンスCを求めるに当たっては、疲労亀裂の成長を追って定期的にコンプライアンスCを求める。
【0029】
疲労亀裂の計算に当たっては、初期コンプライアンスC0 に対するその後のコンプライアンスCの倍率であるコンプライアンス増加倍率Cimag(Cimag=C/C0 )を求める。図6に、コンプライアンス増加倍率Cimagと疲労亀裂の長さaとの関係を示す校正曲線の一例を示す。図6の校正曲線を求めるに当たっては、以下の試験条件で、試験を実施した。
試験環境:室温大気中
試験片 :図5に例示した環状切欠試験片
材料 :SUS304,SUS347
モード比:0, 0.5, 1
ここで、モード比=捩りの応力拡大係数範囲/引張・圧縮の応力拡大係数範囲とする。
【0030】
図6の校正曲線からも明らかなように、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下においても、疲労亀裂の長さと、コンプライアンス増加倍率Cimagとの間には、相関があることが認められる。そして、コンプライアンス増加倍率Cimagを求め、その校正曲線を求めることによって、精度の高い亀裂計測が可能となることが確認された。同時に、上述のモード比=捩りの応力拡大係数範囲/引張及び圧縮の応力拡大係数範囲にも影響されることなく、疲労亀裂の計測が可能であることも確認された。
【0031】
図1ないし図6に示した疲労亀裂計測方法及び変位計は、本発明の好適な実施の形態を例示したものにすぎず、本発明は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で種々の実施の形態に従って実施をすることができる。
【0032】
【発明の効果】
(1)本発明の疲労亀裂計測方法によれば、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測する疲労亀裂計測方法であって、当該混合荷重により試験片に疲労亀裂を生成させ、上記試験片上の亀裂発生箇所の変位と上記混合荷重との比として求められるコンプライアンスを上記疲労亀裂の発生時から当該疲労亀裂の成長の過程を通して時系列的に求めることによって、試験を開始した直後のコンプライアンスである初期コンプライアンスに対するその後のコンプライアンスの倍率であるコンプライアンス増加倍率を求め、各コンプライアンス増加倍率と各コンプライアンス増加倍率に対応する疲労亀裂の深さとの関係を示す曲線を予め校正曲線として求めておき、与えられた試験片について、上記荷重混合モード下における当該与えられた試験片上の亀裂発生箇所の変位を計測し、計測した変位に対応するコンプライアンス増加倍率を求め、求めたコンプライアンス増加倍率と上記校正曲線とに基づいて当該与えられた試験片に生成した疲労亀裂の深さを推定することを特徴としているので、荷重混合モード下における材料の疲労亀裂の長さすなわち深さと疲労亀裂の開口部の変位量との相関関係をモード比や材料の材質に影響されることなく把握することができ、複雑な疲労亀裂伝播速度特性を高精度で評価することができ、実際の構造物構成体ひいては構造物の安全性を確実且つ有効に評価することができる(請求項1)。
)本発明の疲労亀裂計測用変位計によれば、引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測するための変位計であって、上記試験片上の第1の位置に着脱可能に固定される基部と、当該基部から上記試験片の表面に対して垂直な向きに立上がるようにして立設された立上がり支柱部と、当該立上がり支柱部の頂部から当該立上がり支柱部の側方へ向けて張出し前後両側面が歪ゲージを適用することができる側面として形成された張出し肩部と、当該張出し肩部の先端部から上記試験片上の上記第1の位置から離隔した第2の位置に向かうようにして突設され上記張出し肩部の先端部寄りの部分には上記立上がり支柱部に対して接近離反する方向に弾性変形をすることができ歪ゲージを適用することができる外側表面及び内側表面を有する弾性薄肉部が形成され先端部において上記基部の底面の水準よりも僅かに後退した位置に先端面が形成され当該先端面に隣接して上記試験片の上記第2の位置の表面上に立設された接触ピンに線接触状態で当接することができる先端接触面が形成された接触腕部とを備えているので、荷重混合モード下においても疲労亀裂による材料の変位量を高い精度で計測することができ、疲労亀裂伝播速度特性を高精度で評価することが可能となり、その結果、実際の構造物構成体ひいては構造物の安全性を確実且つ有効に評価することが可能となる(請求項)。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る疲労亀裂計測方法のための装置の使用態様の一例を示す要部側面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図1のB−B線に沿って見た要部横断平面図である。
【図4】(1)図は本発明の一実施の形態に係る疲労亀裂計測装置の側面図、(2)図は(1)図の疲労亀裂計測装置の平面図である。
【図5】(1)図は試験片の一例を示す側面図であり、(2)図は(1)図の試験片の要部拡大側面図であり、(3)図は(1)図の試験片の端面図である。
【図6】コンプライアンス増加倍率と試験片の亀裂の長さすなわち深さとの関係を示すグラフである。
【図7】試験片の疲労亀裂の長さすなわち深さを測定する従来の亀裂深さ測定方法を説明するための亀裂深さ測定装置の要部平面図である。
【図8】亀裂の長さすなわち深さを荷重と材料の変位あるいは歪量との関係から推定する従来の亀裂深さ推定方法を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
1 試験片
2 亀裂
3 歪ゲージ
4 従来の変位計
5 荷重の向きを示す矢印
6 基部固定用溝
7 歪ゲージ
8 歪ゲージ
9 歪ゲージ
10 歪ゲージ
11 先端面
12 薄肉連続部
13 変位計
13a 基部
13b 立上がり支柱部
13c 張出し肩部
13d 凹窪面部
13e 接触腕部
13f 先端接触面
14 接触ピン
15 ボルト
16 ステッピングモータ
17 割型フランジ
18 ロードセル
19 引張り・圧縮荷重の向きを示す矢印
20 捩り荷重の向きを示す矢印
21 試験片
21a 中央丸棒部
21b 径大把持部
21c フランジ部
21d 切欠溝
22 固定台

Claims (2)

  1. 引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測する疲労亀裂計測方法であって、当該混合荷重により試験片に疲労亀裂を生成させ、上記試験片上の亀裂発生箇所の変位と上記混合荷重との比として求められるコンプライアンスを上記疲労亀裂の発生時から当該疲労亀裂の成長の過程を通して時系列的に求めることによって、試験を開始した直後のコンプライアンスである初期コンプライアンスに対するその後のコンプライアンスの倍率であるコンプライアンス増加倍率を求め、各コンプライアンス増加倍率と各コンプライアンス増加倍率に対応する疲労亀裂の深さとの関係を示す曲線を予め校正曲線として求めておき、与えられた試験片について、上記荷重混合モード下における当該与えられた試験片上の亀裂発生箇所の変位を計測し、計測した変位に対応するコンプライアンス増加倍率を求め、求めたコンプライアンス増加倍率と上記校正曲線とに基づいて当該与えられた試験片に生成した疲労亀裂の深さを推定することを特徴とする、疲労亀裂計測方法。
  2. 引張荷重と圧縮荷重と捩り荷重とが同時に複合し混合荷重として作用する荷重混合モード下において当該混合荷重が負荷された試験片に生成する疲労亀裂を計測するための変位計であって、上記試験片上の第1の位置に着脱可能に固定される基部と、当該基部から上記試験片の表面に対して垂直な向きに立上がるようにして立設された立上がり支柱部と、当該立上がり支柱部の頂部から当該立上がり支柱部の側方へ向けて張出し前後両側面が歪ゲージを適用することができる側面として形成された張出し肩部と、当該張出し肩部の先端部から上記試験片上の上記第1の位置から離隔した第2の位置に向かうようにして突設され上記張出し肩部の先端部寄りの部分には上記立上がり支柱部に対して接近離反する方向に弾性変形をすることができ歪ゲージを適用することができる外側表面及び内側表面を有する弾性薄肉部が形成され先端部において上記基部の底面の水準よりも僅かに後退した位置に先端面が形成され当該先端面に隣接して上記試験片の上記第2の位置の表面上に立設された接触ピンに線接触状態で当接することができる先端接触面が形成された接触腕部とを備えていることを特徴とする、疲労亀裂計測用変位計。
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