JP4088868B2 - ポリカルボン酸系化合物の繊維類への固着方法および固着物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明によれば、繊維表面上にポリカルボン酸系化合物を強固に固着させることができ、導入されたカルボキシル基の性質により、該繊維にアンモニア消臭機能の付与、繊維表面の親水化、保湿性能の改善、帯電防止効果の付与等繊維の改質ができる。
【0002】
ポリエステル、ナイロン、アクリルのような合成繊維類は、繊維として優れた性能を多く有しているが、天然繊維と比較して、親水性、保湿性に劣るとか、後加工特性に劣るとか、静電気を帯びやすいといった問題点を有しているため、使用上の限界があった。
【0003】
本発明の方法によれば、合成繊維のこれらの欠点を改良し、天然繊維に近づけることが可能であり、合成繊維類の改質には特に有用である。
【0004】
綿、羊毛、絹のような天然繊維に関しても、従来備えている優れた性能を本発明の方法によって更に改良することが可能である。
【0005】
【従来の技術】
繊維の改質方法としては、多くの手段が知られているが、親水性にする手段はあまり多くはく、しかも耐久性に問題のあるケースが多い。
【0006】
この理由として、親水性にするためには親水性の化合物を繊維表面に固定する必要があるが、親水性化合物は本質的に水に溶けやすい物質であるため、バインダー樹脂等で固定しようとしても直ぐに水で洗い流されてしまうため、洗濯に対する耐久性が得にくい。
【0007】
ことにポリエステル、ナイロン、アクリルといった合成繊維の場合には、天然繊維のもつ、ヒドロキシル基、アミノ基といった反応性のある特性基をほとんど有していないため、親水性基を持つ化合物を反応させて固定することも難しく、特に困難である。
【0008】
これらの合成繊維に対しては、アルカリ減量処理、プラズマ処理、電子線照射のような処理が考えられているが、これらの処理の共通として、繊維を部分的に破壊するものであり、繊維の劣化につながりかねないという問題のほか、プラズマ処理等では特別な装置が必要という問題もある。
【0009】
また、カルボキシル基導入の手段として、アクリル酸モノマーを繊維上で重合させて固着させる手段が試みられているが、洗濯耐久性を得るためには、アクリル酸モノマーを繊維重量に対して15%以上使用する必要があり、それでもなお充分な洗濯耐久性が得られないという問題がある。
【0010】
また、ポリカルボン酸系化合物と架橋剤のみを繊維上に付着させて熱処理し、繊維上で架橋固着させることも可能であるが、耐久性を出すためには比較的多量の薬剤を繊維上に付与する必要があり、薬剤の付着量がすくないと耐久性の不十分なものしか得られない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリカルボン酸系化合物を繊維類に固着させ、該素材の表面改質加工を行うものであり、且つこの固着が強固なもので洗濯等により脱落することがない耐久性のある改質加工方法を提供するものである。
【0012】
本発明によれば、改質加工のための特別な装置を必要とせず、通常の繊維加工の装置で簡単に行うことができる。
【0013】
本発明による改質効果は多方面にわたるもので、カルボキシル基の付着による親水性の増加、保湿率の増加、帯電防止効果等が期待できる。
【0014】
ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレンのような合成繊維類は、繊維素材としては優れているが、親水性や保湿性が天然繊維に比べて低く、また特性基がないため、耐久性のある表面加工を行ない難いという欠点がある。
【0015】
本発明の方法は、これらの合成繊維の欠点を改良する手段を提供するものであり、合成繊維類に対して特に効果的であるが、レーヨン、綿のような半合成繊維や天然繊維に対しても、該繊維の有する特徴を更に改善する手段として効果的である。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じる。
【0017】
即ち、ポリカルボン酸系化合物と多官能架橋剤とバインダー樹脂を繊維類の表面に付着させ、しかる後に該繊維を熱処理することにより、目的は達成される。
【0018】
このポリカルボン酸系化合物は、フリーのカルボン酸であってもよいし、金属塩の形または両者の混合物であっても差し支えない。
【0019】
架橋剤としても多官能のものであれば特に限定されるものではないが、高度の耐久性を得るためには、メラミン樹脂、グリオキ樹脂、ブロックイソシアネート誘導体またはポリグリシジル誘導体から選ばれた1種あるいは数種の混合物であることが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の方法に従い、ポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤とバインダー樹脂を繊維上に付着させた後、該繊維を熱処理することにより、ポリカルボン酸系化合物を繊維類上に強固に固着することができる。
【0021】
ポリカルボン酸系化合物のカルボキシル基は一部または全部が金属で置換されていても差し支えない。
【0022】
これにより繊維上に存在するカルボキシル基は、それ自身の性質により、該繊維にアンモニア消臭機能の付与、繊維表面の親水化、保湿性能の改善、帯電防止効果の付与等繊維の改質ができる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明におけるポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤を繊維上で固着させる方法およびその固着物について幾つかの実施例を挙げ、詳述する。
【0024】
本発明に関わるポリカルボン酸系化合物の例として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸およびこれらのアルコール類とのエステルより選ばれた、1種類の化合物の重合体または数種の化合物の共重合体、および該重合体のビニルスルホン酸との共重合物を挙げることができる。
【0025】
ポリカルボン酸系化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、高度の耐久性を得るためには、分子量2,000以上のものが好ましく、特に分子量5,000〜1,000,000のものが耐久性のある固着および加工後の風合いの面から好適である。
【0026】
ポリカルボン酸系化合物と塩を形成している金属として特に制限はないが、Li、Na、K、Cu、Zn、Al、Ni、Co、Fe、Mn、Mg、Ca、Sn、Cr等を挙げることができる。
【0027】
これらの金属の塩を形成させる方法に特に限定はなく、原料モノマーの段階で金属塩にしておいても差し支えないし、フリーのカルボン酸モノマーを重合して得られたフリーのポリカルボン酸系化合物を金属で置換してもよい。
【0028】
例えば、フリーのポリカルボン酸系化合物の水溶液に、金属の水酸化物、ハロゲン化物、酸化物等を添加することによって、金属塩にすることができる。
【0029】
また、フリーのポリカルボン酸系化合物を多官能基を有する架橋剤と繊維類に処理して固着させた後、該繊維を金属を含有する処理浴に浸漬し、必要ならば加熱して、カルボキシル基に金属を導入することもできる。
【0030】
ポリカルボン酸系化合物は、純粋なポリカルボン酸である必要はなく、カルボキシル基の一部がエステル化されている等、他の基が導入されていても差し支えない。
【0031】
多官能基を有する架橋剤は、特に限定されるものではなく、メラミン樹脂、グリオキ樹脂、ブロックイソシアネート誘導体または、ポリグリシジル誘導体等を挙げることができる。
【0032】
これらの架橋剤は単独で用いてもよいし、複数の種類の架橋剤を混合して使用することも可能である。
【0033】
バインダー樹脂は通常の繊維加工に使用できるものであれば特に限定されるものではなく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、エチレン酢酸ビニール系樹脂、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0034】
ポリカルボン酸系化合物および多官能基を有する架橋剤を繊維類上に付着させる方法は特に限定されず、浸漬による方法、スプレーによる方法等が挙げられる。
【0035】
熱処理の方法も特に限定はされず、乾熱処理、常圧蒸気による加熱、170°C位の高圧蒸気による加熱処理を挙げることができる。
【0036】
ポリカルボン酸系化合物および多官能基を有する架橋剤の混合処理液のpHは、特に限定されないが、pH1〜6の範囲が耐久性を持たせるための条件として好適である。
【0037】
ポリカルボン酸系化合物の繊維に対する付着量に、特に制限はないが、繊維重量に対して0.5%〜20%が好適である。
【0038】
多官能基を有する架橋剤の繊維に対する付着量に、特に制限はないが、繊維重量に対して0.2〜5%が好適である。
【0039】
バインダー樹脂の繊維に対する付着量に特に限定はないが、0.2〜5%が好適である。
【0040】
対象となる繊維類にも特に限定はないが、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリプロピレンのような合成繊維、レイヨンのような半合成繊維、綿、絹、羊毛、麻のような天然繊維を挙げることができる。
【0041】
繊維類の形態についても限定はなく、糸状、織物、編物、不織布といった布状または縫製された製品であってもよい。
【0042】
<<保湿率の測定による実験例>>
次に、前記実施例のポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤とバインダー樹脂を使用して、繊維に加工し、加工効果の例として保湿率を測定した結果を記す。
【0043】
尚保湿率の測定方法としては、105°C×45分で絶乾状態にした生地重量に対する、RH=80%、25°Cにおける含水量を%で表示した。
【0044】
<実験例1> 分子量10万のポリアクリル酸;5重量部とポリエチレングリコール#400ジグリシジルエーテル;0.5重量部、アクリル系バインダー樹脂;1重量部および水;93.5重量部よりなる処理液にポリエステル布を浸漬し、ピックアップ 100%になるように絞ったのち、100°Cで乾燥後、180°Cで1分間熱処理した。その後、2g/Lの苛性ソーダ溶液中で60°Cで20分処理、続いて水洗した。この処理布について保湿率を測定した。
【0045】
<実験例2> またこの処理布をJIS L0217 103法に従って30回洗濯し、洗濯後の該布についても保湿率を測定した。
【0046】
<実験例3> アクリル系バインダーをウレタン系バインダー樹脂に変えた他は実験例1と同様に処理した。
【0047】
<実験例4> またこの処理布をJIS L0217 103法に従って30回洗濯し、洗濯後の該布についても保湿率を測定した。
【0048】
<実験例5> アクリル系バインダーをシリコン系バインダー樹脂に変えた他は実験例1と同様に処理した。
【0049】
<実験例6> またこの処理布をJIS L0217 103法に従って30回洗濯し、洗濯後の該布についても保湿率を測定した。
【0050】
<比較例1> 未処理のポリエステル布の保湿率を測定した。
【0051】
<比較例2> 分子量10万のポリアクリル酸;5重量部とポリエチレングリコール#400ジグリシジルエーテル;0.5重量部および水;94.5重量部よりなる処理液にポリエステル布を浸漬し、実験例1と同様に処理した。
【0052】
<比較例3> またこの処理布をJIS L0217 103法に従って30回洗濯し、洗濯後の該布についても保湿率を測定した。
【0053】
前記各保湿試験の結果を下記表1に示す。
【表1】
Figure 0004088868
【0054】
<<薬剤付着量の測定による実験例>>
次に、前記実験例1〜6、比較例2〜3について、加工耐久性の例として、繊維上に固着した加工剤の重量変化を測定した結果を示す。
【0055】
測定方法としては、加工前の生地重量、加工後アルカリ洗浄、水洗した後の生地重量、および該加工生地の洗濯後の生地重量をそれぞれ測定し、その差から、加工後および洗濯後の薬剤の繊維上の付着量を求めた。
【0056】
前記、各重量測定の結果から求めた薬剤付着量と洗濯に対する残存率を表2に示す。
【表2】
Figure 0004088868
【0057】
前記実験例および比較例の結果から、ポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤とバインダー樹脂を繊維上に付着させた後熱処理することにより、処理した繊維に明白な保湿率の増加が認められ、且つ洗濯に耐久性のあることも明白である。
【0058】
薬剤付着量の測定からも洗濯耐久性のあることが確認され、このことから、ポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤およびバインダー樹脂を繊維上に固着させる本発明の方法により、繊維表面を改質できることは明白である。
【0059】
【発明の効果】
以上、詳述したように、本発明に関わるポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤とバインダー樹脂を繊維類上で熱処理することにより、繊維類上にポリカルボン酸系化合物に固着させることが可能である。
【0060】
しかも、この固着は強固なものであり、洗濯等による脱落はほとんどない。
【0061】
この結果、繊維表面の改質を行うことが可能であり、カルボキシル基の存在による、親水性の改良、アンモニアに対する消臭効果、保湿の改良等の効果が得られる。

Claims (8)

  1. ポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤とバインダー樹脂を繊維類上に付着させた後、該繊維を熱処理することを特徴とするポリカルボン酸系化合物の繊維類への固着方法。
  2. ポリカルボン酸系化合物と多官能基を有する架橋剤とバインダー樹脂を繊維類上に付着させた後、該繊維を熱処理することを特徴とするポリカルボン酸系化合物の繊維類への固着物。
  3. ポリカルボン酸系化合物のカルボキシル基の一部または全部が金属で置換されていることを特徴とする請求項1に記載の固着方法。
  4. ポリカルボン酸系化合物のカルボキシル基の一部または全部が金属で置換されていることを特徴とする請求項2に記載の固着物。
  5. 多官能基を有する架橋剤が、メラミン樹脂、グリオキ樹脂、ブロックイソシアネート誘導体またはポリグリシジル誘導体から選ばれた1種あるいは数種の混合物であることを特徴とする請求項1、請求項3に記載の固着方法。
  6. 多官能基を有する架橋剤が、メラミン樹脂、グリオキ樹脂、ブロックイソシアネート誘導体またはポリグリシジル誘導体から選ばれた1種あるいは数種の混合物であることを特徴とする請求項2、請求項4に記載の固着物。
  7. ポリカルボン酸系化合物の繊維類に対する付着量が0.5〜20重量%で、多官能基を有する架橋剤の繊維類に対する付着量が0.2〜5重量%で、バインダー樹脂の繊維類に対する付着量が0.2〜5%であることを特徴とする請求項1、請求項3、および請求項5に記載の固着方法。
  8. ポリカルボン酸系化合物の繊維類に対する付着量が0.5〜20重量%で、多官能基を有する架橋剤の繊維類に対する付着量が0.2〜5重量%で、バインダー樹脂の繊維類に対する付着量が0.2〜5%であることを特徴とする請求項2、請求項4、および請求項6に記載の固着物。
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