JP4087529B2 - 増粘剤の製造方法及び食品の製造方法 - Google Patents

増粘剤の製造方法及び食品の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、増粘剤の製造方法及び食品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生醤油を火入処理することにより得られる火入醤油は、微細な混濁物質(オリ物質)を含有している。このオリ物質は、清澄容器内で一週間程度のオリ引き・清澄期間を経ることにより清澄容器の底部に火入オリとして沈降する。醤油の製造工程においては、火入オリと分離した上澄み液をさらにケイソウ土濾過することにより、上澄み液中に若干量混在するオリ物質の除去が行われる。
【0003】
醤油液がオリ物質を十分に除去されることなく製品化された場合、製品化からの経過日数が僅かであったとしても、製品容器の底部に沈殿物が発生することがある。このような沈殿物は製品クレームとなることがある。
【0004】
上述したケイソウ土濾過を用いた方法によると、比較的高い透明度を有する醤油液を得ることができる。しかしながら、この方法では、醤油液と微細なオリ物質とを完全に濾別することは困難である。そのため、火入醤油から火入オリを高い水準で除去する方法が求められている。
【0005】
ところで、清澄容器の底部に残留した火入オリは、火入醤油量の約10%を占め、しかも約98%の醤油分を含有している。したがって、高い収率を得るために、火入オリから醤油分を回収することが望まれている。
【0006】
しかしながら、この火入オリは高粘度のスラリー状であるため、ケイソウ土濾過により醤油分を回収することは極めて困難である。そのため、この火入オリを醤油諸味へと戻して諸味中の酵素で分解することや諸味と混合して圧搾することにより幾分かの醤油を回収するといった方法が採用されているが、このような方法は上述した問題に対する抜本的な処理方法とは言えない。すなわち、オリの処理は、依然として醤油業界共通の大きな問題のままである。
【0007】
近年、高分子物質と低分子物質との分離機能を有する膜濾過技術が進歩し、様々な分野に適用されつつある。膜濾過技術に用いられる膜には、低分子レベルの分離が可能な逆浸透(RO)膜から限外濾過(UF)膜及び精密濾過(MF)膜等のグレードがあり、用いる膜を適宜選択することにより、所望のサイズの不純物を除去することが可能である。
【0008】
この膜濾過技術は醤油の製造においても多用されており、最近では、ケイソウ土濾過に代わる技術として、上述した上澄み液から若干量混在する火入オリを除去するのに用いられつつある。また、火入工程を経ずに生醤油として製品化する場合には、膜濾過技術を用いることにより、生揚中のオリ物質の除去並びに除菌を行うことができる。
【0009】
この膜濾過技術によると、微細な粒子をも分離・除去が可能であるため、より高い清澄度を有する高品質の醤油製品を製造すること、或いは火入オリから醤油分を回収することが可能である。しかしながら、その反面で、膜濾過処理を行った後には、膜を透過しないオリ物質の濃縮液が残留する。この濃縮液、すなわち膜濾過残渣は極めて濃厚で高濁質及び高粘性の液質を有しており、上述した火入オリと同等或いはそれ以上にやっかいな産物であるため、その処理が問題とされている。
【0010】
現時点においては、この膜濾過残渣も火入オリに関して上述したのと同様に諸味に戻されるのが一般的である。この場合、オリ物質の一部は諸味中に存在する酵素により分解される或いは圧搾時に醤油粕に捕捉されるが、その殆どは再び生揚中に混入してしまう。そのため、プロセス中でオリ物質が循環されることとなり、濾布や膜の目詰まりを生ずる。その結果、圧搾作業等の濾過処理に支障を来たし、醤油製造の効率に悪影響を与える。また、この方法によると、混濁性バクテリア等も循環されるため、醤油の品質面からも好ましくない。
【0011】
このような理由から、業界の一部では、上記膜濾過残渣を産業廃棄物として処理することが行われている。しかしながら、近年、産業廃棄物の環境に与える影響が懸念されており、したがって、上記膜濾過残渣が公害問題を引き起こすおそれがある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、醤油の製造に伴って生ずるオリ物質に起因する公害問題の発生を防止することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、醤油液とオリ物質とを含有する懸濁液をエタノールと混合してオリ物質を沈殿させ、上記懸濁液を沈殿物と上澄み液とに分離する工程と、沈殿物と上澄み液とに分離された懸濁液から沈殿物を回収して増粘剤として得る工程とを有する増粘剤の製造方法を提供する。
【0016】
なお、本発明の方法において、「オリ物質」とは、原料由来の未分解物質、多糖類、麹菌酵素、高分子蛋白質、微生物菌体、及び微粒子等の懸濁性物質を意味する。また、本発明において、「醤油液とオリ物質とを含有する懸濁液」とは、通常、生醤油に火入処理してなる火入醤油から除去された火入オリ、火入醤油の膜濾過残渣、或いは火入オリの膜濾過残渣をいう。さらに、本発明において、「火入オリ」は、生醤油に火入処理してなる火入醤油を静置することにより処理容器内の底部に生じ、上澄み液と分離したスラリー状物質を意味する。
【0017】
本発明者は、上述した問題を解決するために鋭意研究した結果、エタノールを用いることにより、特別な装置を必要とすることなく、オリ物質と醤油液とを極めて短時間で且つ容易に分離させることができることを見出した。すなわち、上記懸濁液にエタノールを添加することにより、オリ物質を速やかに沈降させ、さらに醤油液及びエタノールを含有する上澄み液とオリ物質が沈殿してなる沈殿物との間に明確な境界を形成することができるのである。これについて、以下により詳細に説明する。
【0018】
上記懸濁液とエタノールとを混合した場合、それらの混合液中で、オリ物質の一成分である大豆多糖類がゲル化する。この混合液中では、このような大豆多糖類等のゲル化を主体とした凝集が生じ、これら凝集物はやがて沈降する。このとき同時に、オリ物質の他の成分も凝集物中に取り込まれる。その結果、上記混合液中のオリ物質の殆ど全てが凝集・凝固物として沈降し、醤油液及びエタノールを含有する上澄み液と、オリ物質を含有する沈殿物との間に明瞭な境界が形成される。
【0019】
エタノールを添加することにより上述した凝集が生ずる理由は、必ずしも定かではないが、以下に説明する理由によるものと考えられる。
オリ物質は親水性であり、醤油液に対して高い親和性を示す。そのため、オリ物質は醤油液中で懸濁し、沈降を生じにくい。一方、エタノールは水に溶解するが、水に比べると極性の低い溶媒である。すなわち、エタノールは、水に比べて親水性物質に対する親和性が低い。
【0020】
そのため、醤油液にエタノールを添加した場合、醤油液とオリ物質(特に大豆多糖類)との親和性が低下し、その結果、醤油液中を懸濁するオリ物質は速やかに沈降する。また、エタノールと醤油液との混合液とオリ物質との親和性が低下させられるため、上記混合液とオリ物質を含有する沈殿物との間には明確な境界が形成され、且つ沈殿物中の醤油含量が低減される。したがって、エタノールを添加することにより、醤油液とオリ物質とを効率的に分離することが可能となる。
【0021】
このような醤油液とオリ物質との分離は、エタノール以外の水溶性アルコール、例えばメタノール等を用いた場合においても可能であると考えられる。しかしながら、エタノール以外のアルコールは人体に有害であるため不適である。それに対し、エタノールは製品醤油中に残留したとしても問題とはならない。しかも、エタノールは、醤油の品質を維持する上で有効である。すなわち、エタノールを添加することにより、醤油液とオリとの分離を効率的に行うことができるだけでなく、醤油の品質を長期にわたり良好に維持することが可能となる。
【0022】
以上のようにしてオリ物質を除去された醤油は、極めて高い清澄度を有している。また、このようにして回収した醤油はエタノールを高い濃度で含有しているため、そのまま長期貯蔵することも可能であるし、或いは他の醤油液と混合して製品醤油としてもよい。
【0023】
一方、このような方法により生じた沈殿物は、大豆多糖類(ペクチン質)を多く含有し、且つ極めて高い粘稠性を有している。通常、このようにして生成した沈殿物は、非常に締まった固いゼリー状或いは水飴状であり、また、例えば、膜濾過残渣等の残渣を30容量%のエタノールで処理した場合には、生成した沈殿物の体積は被処理体である残渣の体積の1/4程度まで圧縮される。すなわち、本発明のエタノール処理を施すことにより、上記残渣は塊状化及びコンパクト化される。そのため、上記沈殿物を天然の増粘剤として、例えば、キサンタンガムやグァーガム等の増粘多糖類の代替物として用いることが可能となる。
【0024】
このように、本発明の方法によると、分離したオリ物質を食品素材として利用することができる。そのため、本発明の方法を用いた場合、従来技術のようにオリを諸味に戻す必要がなく、したがって、高品質の醤油を製造することが可能となる。また、分離したオリ物質を食品素材として利用することができるため、オリに起因する公害問題の発生を防止することが可能となる。
【0025】
本発明の方法によると、上記懸濁液とエタノールとを混合することにより、醤油液中を懸濁するオリ物質の殆どすべてを沈降させることができるので、ケイソウ土濾過を行わなくとも、デカンテーション等のみで十分に高い清澄度を有する醤油を回収することができる。そのため、この場合、ケイソウ土濾過に必要な濾過助材の廃棄問題を生ずることがなく、したがって、公害問題の発生をより良好に防止することが可能となる。
【0026】
本発明の方法において、上記懸濁液は、オリ物質を含有する醤油液であれば特に制限はないが、通常、火入醤油から除去した火入オリ、火入オリまたは火入醤油の濾過に伴って生じた残渣、或いはそれらの混合物である。
【0027】
なお、上記懸濁液が火入醤油である場合、上述したようにエタノール処理を施すことによりオリ物質の殆どすべてを沈降させることができるので、デカンテーション等のみで十分に高い清澄度を有する醤油を得ることができる。しかしながら、この場合、多量のエタノールを必要とし且つ製品醤油中のエタノール濃度が高くなることがある。そのため、通常、上記エタノール処理は以下に説明するように火入オリや膜濾過残渣に対して行われる。
【0028】
すなわち、まず、生醤油を火入処理して火入醤油を生成する。次に、火入醤油を静置して上澄み液と火入オリとに分離させた後、通常のデカンテーションにより上澄み液を回収する。残留した火入オリは、多量の醤油液を含有している。この火入オリに、上述したエタノール処理を施すことにより、火入オリから高い清澄度を有する醤油液と十分に圧縮及び塊体化された沈殿物とを得る。
【0029】
一方、デカンテーションにより回収された上澄み液は微量のオリ物質を含有している。したがって、この上澄み液には濾過処理を施す。この濾過処理により、上澄み液から十分に高い清澄度を有する醤油液が得られるが、その一方で濾過残渣を生じる。この濾過残渣も火入オリと同様に多量の醤油液を含有している。したがって、濾過残渣についても、上述したエタノール処理を施すことにより、高い清澄度を有する醤油液と十分に圧縮及び塊体化された沈殿物とを得る。
【0030】
より高品質及び高品位の醤油液を製造するには、上澄み液からのオリ物質の除去は、膜濾過技術を用いて行うことが好ましい。膜濾過技術を用いた場合、上述したように微細な粒子をも分離・除去が可能であるため、極めて高い清澄度を有する高品質の醤油製品を製造することが可能となる。
【0031】
膜濾過技術に用いられる膜としては、上述した逆浸透(RO)膜、限外濾過(UF)膜、及び精密濾過(MF)膜等のように、膜濾過技術において一般に用いられるものを挙げることができる。
【0032】
上述したように、本発明の方法によると、エタノール処理を施すことによりオリ物質と醤油液との分離が行われる。本発明において、このエタノール処理に際しては、pHの調整や成分調整といった前処理を全く必要としない。また、酵素を用いてオリや残渣を処理する場合、被処理体の温度を酵素が作用するのに適した温度範囲内に制御する必要があるが、本発明においては、そのような処理温度の制限は特になく、且つ厳密な温度制御の必要もない。したがって、本発明によると、エタノール処理の際に加熱や冷却は不要であり、極めて簡便且つ低コストでオリ物質と醤油液とを分離させることができる。
【0033】
また、このエタノール処理は、醤油本来の品質に変化を与えることのないような温度範囲内、例えば室温のように醤油の製造において通常の温度範囲内で行うことが可能である。したがって、本発明によると、エタノール処理工程におけるオリや膜濾過残渣等の濃色化や成分変化を考慮する必要がない。
【0034】
また、オリや膜濾過残渣等を酵素処理法を用いて処理した場合は酵素臭が発生し、加熱法を用いた場合は過熱臭或いは焦げ臭が発生する。それに対し、本発明の方法によると、オリや膜濾過残渣等の官能的変化を生ずることなく、オリ物質と醤油液とを分離することができる。
【0035】
本発明において、上記懸濁液とエタノールとの混合は、それらが均一に混合される程度の攪拌で十分である。そのため、特別な攪拌装置は不要であり、ごく一般的な攪拌機を用いるか或いは空気攪拌で十分事足りる。また、攪拌時間も同様に、上記懸濁液とエタノールとを均一に混合される程度でよい。
【0036】
本発明において、エタノール処理に使用する容器の形状(角形、球形、及び円筒形等)、材質、及び容量等はオリ物質の沈降に何等影響を与えない。したがって、エタノール処理に特殊な容器を用いる必要はない。また、オリ物質の沈降は、エタノールを添加した直後から生じ、十分に高いエタノール濃度のもとでは数分といった極めて短時間で殆ど全てのオリ物質の沈降が終了する。そのため、他の用途で使用される既存・既設の容器を一時的にエタノール処理に使用することができる。したがって、エタノール処理に用いる容器を適宜選択することにより、少量処理から大量処理まで迅速且つ効率的に対応することができる。
【0037】
エタノールの添加量は懸濁液中のオリ物質の濃度に応じて異なるが、およそ30容量%以上とすることが好ましい。エタノール濃度が30容量%未満である場合、大豆多糖類のゲル化によるオリ物質の凝集が起こらず、オリ物質の沈降が不十分となるおそれがある。
【0038】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
下記表1に、以下に説明する実施例1〜6において使用される火入オリ並びに膜濾過残渣の濁度を示す。また、参考のために一般醤油製品の濁度も併せて示す。
【0039】
なお、火入オリは、オリ物質を含有する火入醤油にデカンテーションを施した場合に得られた残留物であり、一般醤油製品は、その上澄み液にさらにケイソウ土濾過を施すことにより得られたものである。膜濾過残渣は、この上澄み液に、精密濾過膜(MF膜)であるクラレ社製SF−8102(粒径0.1μmの粒子を90%除去するポリスルフォン製の中空繊維)を用いた膜濾過を施すことにより得られた残渣である。また、濁度の測定には、UT−11形コロナ濁度計を用い、濁度は、水1L中に精製カオリン1mgを含有する懸濁液の濁度を1度として示されている。
【0040】
【表1】
Figure 0004087529
【0041】
(実施例1)
醤油銘柄「上級本醸造富士」の火入オリ(日本農林規格の本醸造上級クラスの醤油に由来する火入オリ)にエタノール処理を施した。すなわち、火入オリとエタノールとを均一に攪拌混合した後、室温にて3日間静置して、それらの混合物を沈殿物と上澄み液とに分離させた。なお、この火入オリを蒸留水で10倍に希釈した場合に観測される濁度は155である。下記表2に、試験条件及び試験結果を示す。
【0042】
【表2】
Figure 0004087529
【0043】
上記表2において、比較条件(1)及び試験条件(1-1)〜(1-4)については、上澄み液の濁度は示されていない。これは、これら条件下では、上澄み液の量が添加したエタノールの量に比べて少なかったため、濁度の測定を行わなかったことを示している。
【0044】
試験条件(1-5)〜(1-9)では、添加したエタノールよりも多い量の上澄み液が得られている。これらの上澄み液は、いずれもエタノール処理前の火入オリに比べて顕著に濁度が低減されている。また、上澄み液の回収率もエタノール濃度の増加に応じて上昇し、特にエタノール濃度を試験条件(1-6)から試験条件(1-7)へと変化させた場合、上澄み液の回収率が急激に上昇するのとともに、沈殿物の性状に大きな変化が現れた。
【0045】
以上から、エタノール濃度を所定値以上とすることにより、火入オリから十分に醤油を回収すること、及び火入オリを食品素材として利用し得る形態まで圧縮することが可能であることが確認された。
【0046】
(実施例2)
醤油銘柄「もみじ」の火入オリ(日本農林規格の本醸造特選特級クラスの醤油に由来する火入オリ)にエタノール処理を施した。すなわち、火入オリとエタノールとを均一に攪拌混合した後、室温にて3日間静置して、それらの混合物を沈殿物と上澄み液とに分離させた。なお、この火入オリを蒸留水で10倍に希釈した場合に観測される濁度は302である。下記表3に、試験条件及び試験結果を示す。
【0047】
【表3】
Figure 0004087529
【0048】
上記表3において、比較条件(2)及び試験条件(2-1)〜(2-5)については、実施例1において説明したのと同様の理由から、上澄み液の濁度は示されていない。
【0049】
試験条件(2-6)〜(2-9)について得られた結果から明らかなように、本実施例においては、実施例1に比べて濁度の高い火入オリを用いたのにもかかわらず、上澄み液の濁度が極めて低い。また、より多くのエタノールを必要とすることを除き、上澄み液の回収率や沈殿物の性状等は実施例1とほぼ同様の傾向を示している。
【0050】
図1に、実施例1及び2において得られた上澄み液の回収率とエタノール濃度との関係をグラフにして示す。なお、図中、横軸は火入オリとエタノールとの混合液中のエタノール濃度(容量%)を示し、縦軸は上澄み液の回収率(%)を示している。また、曲線1は実施例1に関して得られたデータを示し、曲線2は実施例2に関して得られたデータを示している。
【0051】
曲線1と曲線2との比較から明らかなように、実施例2においては、回収率が僅かに低いことを除いて実施例1と同様の結果が得られている。すなわち、火入オリの濁度が高い場合、より高いエタノール濃度が必要となるものの、火入オリから十分に醤油を回収すること、及び火入オリを食品素材として利用し得る形態まで圧縮することが可能であることが確認された。
【0052】
(実施例3)
蒸留水で10倍に希釈した場合に観測される濁度が31.7の膜濾過残渣Aにエタノール処理を施した。すなわち、膜濾過残渣Aとエタノールとを均一に攪拌混合した後、室温にて3日間静置して、それらの混合物を沈殿物と上澄み液とに分離させた。下記表4に、試験条件及び試験結果を示す。
【0053】
【表4】
Figure 0004087529
【0054】
上記表4において、比較条件(3)及び試験条件(3-1)については、実施例1で説明したのと同様の理由から、上澄み液の濁度は示されていない。
【0055】
上記表1及び表4から明らかなように、エタノール濃度を試験条件(3-3)に示す濃度にまで高めることにより、上澄み液の濁度を一般醤油製品と同等とすることができた。また、沈殿物の性状も、アルコール濃度の上昇に応じて変化した。
【0056】
以上から、膜濾過残渣についても、火入オリと同様に、エタノール濃度を所定値以上とすることにより、十分に醤油を回収すること及び残渣を食品素材として利用し得る形態まで圧縮することが可能であることが確認された。
【0057】
(実施例4)
蒸留水で10倍に希釈した場合に観測される濁度が367の膜濾過残渣Bにエタノール処理を施した。すなわち、膜濾過残渣Bとエタノールとを均一に攪拌混合した後、室温にて3日間静置して、それらの混合物を沈殿物と上澄み液とに分離させた。なお、この膜濾過残渣Bは、どろどろしており、著しい濁りを有する残渣である。下記表5に、試験条件及び試験結果を示す。
【0058】
【表5】
Figure 0004087529
【0059】
上記表5において、比較条件(4)及び試験条件(4-1)については、実施例1で説明したのと同様の理由から、上澄み液の濁度は示されていない。
【0060】
上記表5から明らかなように、エタノール濃度を試験条件(4-2)から試験条件(4-3)に変化させることにより、上澄み液の濁度を大幅に低下させることができた。また、沈殿物の性状は、エタノール濃度の上昇に応じて実施例3と同様の傾向で変化した。
【0061】
(実施例5)
蒸留水で10倍に希釈した場合に観測される濁度が466の膜濾過残渣Cにエタノール処理を施した。すなわち、膜濾過残渣Cとエタノールとを均一に攪拌混合した後、室温にて3日間静置して、それらの混合物を沈殿物と上澄み液とに分離させた。なお、この膜濾過残渣Cは、どろどろしており、著しい濁りを有する残渣である。下記表6に、試験条件及び試験結果を示す。
【0062】
【表6】
Figure 0004087529
【0063】
上記表6において、比較条件(5)及び試験条件(5-1)〜(5-3)については、実施例1で説明したのと同様の理由から、上澄み液の濁度は示されていない。
【0064】
上記表6から明らかなように、エタノール濃度を試験条件(5-4)から試験条件(5-5)に変化させることにより、上澄み液の濁度を大幅に低下させることができた。また、沈殿物の性状は、エタノール濃度の上昇に応じて実施例3及び4と同様の傾向で変化した。
【0065】
図2に、実施例3〜5において得られた上澄み液の濁度とエタノール濃度との関係をグラフにして示す。なお、図中、横軸は膜濾過残渣とエタノールとの混合液中のエタノール濃度(容量%)を示し、縦軸は上澄み液の濁度を示している。また、曲線3-1は実施例3に関して得られたデータを示し、曲線4-1は実施例4に関して得られたデータを示し、曲線5-1は実施例5に関して得られたデータを示している。
【0066】
また、図3に、実施例3〜5において得られた上澄み液の回収率とエタノール濃度との関係をグラフにして示す。なお、図中、横軸は膜濾過残渣とエタノールとの混合液中のエタノール濃度(容量%)を示し、縦軸は上澄み液の回収率(%)を示している。また、曲線3-2は実施例3に関して得られたデータを示し、曲線4-2は実施例4に関して得られたデータを示し、曲線5-2は実施例5に関して得られたデータを示している。
【0067】
図2及び図3から明らかなように、実施例3〜5では、エタノール濃度が異なることを除き、上澄み液の濁度及び回収率に関してほぼ同様の傾向が見られる。すなわち、膜濾過残渣の濁度が異なる場合、必要なエタノール濃度が異なるものの、膜濾過残渣から十分に醤油を回収すること、及び膜濾過残渣を食品素材として利用し得る形態まで圧縮することが可能であることが確認された。
【0068】
(実施例6)
膜濾過残渣に上述したエタノール処理を施して、醤油を回収するのとともに、オリ物質を含有する沈殿物を得た。この沈殿物を醤油に添加し、その増粘剤としての能力について調べた。
【0069】
すなわち、本醸造醤油に上記沈殿物を添加した後、80℃で1時間加熱して沈殿物を溶解させた。これを放冷した後、粘度の測定を行った。また、比較のために、上記沈殿物の代わりに、市販の増粘剤(植物性の粘性物質であるグァーガム)、蔗糖、及び水飴を本醸造醤油に添加し、同様の処理を施したものについてもそれぞれ粘度の測定を行った。
【0070】
なお、粘度の測定にはオストワルド粘度計を用い、20℃に維持された恒温水槽内で測定した。測定はそれぞれ3回行い、その平均値を求めた。また、このようにして得られた粘度は、比粘度(検体の流下時間/蒸留水の流下時間)に換算した。
上記試験により得られた結果を下記表7に示す。
【0071】
【表7】
Figure 0004087529
【0072】
上記表7から明らかなように、膜濾過残渣にエタノール処理を施すことにより得られた沈殿物は、増粘剤として、蔗糖や水飴と同等以上の能力を有している。したがって、この沈殿物を用いることにより、醤油の風味を損なうことなく、刺身醤油を製造することが可能となる。また、この沈殿物は、刺身醤油の増粘剤としてだけではなく、ドレッシング、ソース類、焼き肉のたれ、及び米菓用のたれ等の増粘剤として、グァーガムやキサンタンガム等の市販の増粘剤の代わりに使用することが可能である。
【0073】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によると、オリ物質と醤油との分離はエタノール処理を施すことにより促進される。すなわち、オリ物質を迅速に沈降させ、且つそれにより生ずる沈殿物と上澄み液との間に明瞭な境界を形成することができる。そのため、本発明によると、醤油とオリ物質とを効率的に分離することができる。
【0074】
また、このエタノール処理を施すことにより、殆どすべてのオリ物質を沈降させることができるため、上澄み液は殆どオリ物質を含有しない。したがって、本発明によると、高品質の醤油を製造することできる。
【0075】
さらに、このエタノール処理により生ずる沈殿物は増粘剤として十分な性状を有している。そのため、この沈殿物を食品素材として利用することが可能であり、したがって、オリに起因する公害問題の発生を防止することができる。
【0076】
すなわち、本発明によると、醤油の製造に伴って生ずるオリ物質に起因する公害問題の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1及び2において得られた上澄み液の回収率とエタノール濃度との関係を示すグラフ。
【図2】本発明の実施例3〜5において得られた上澄み液の濁度とエタノール濃度との関係を示すグラフ。
【図3】本発明の実施例3〜5において得られた上澄み液の回収率とエタノール濃度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1,2,3-n,4-n,5-n…曲線

Claims (3)

  1. 醤油液とオリ物質とを含有する懸濁液をエタノールと混合して前記オリ物質を沈殿させ、前記懸濁液を沈殿物と上澄み液とに分離する工程と、
    前記沈殿物と上澄み液とに分離された懸濁液から前記沈殿物を回収して増粘剤として得る工程とを具備することを特徴とする増粘剤の製造方法。
  2. 請求項1に記載の方法により製造された前記増粘剤を食品素材として使用することを特徴とする食品の製造方法。
  3. 前記食品は、ドレッシング、ソース類、焼き肉のたれ及び米菓子用のたれからなる群より選ばれることを特徴とする請求項2記載の食品の製造方法。
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