JP4087295B2 - ダイオキシン類の測定方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中のダイオキシン類の濃度を測定する方法及び装置に関し、特に、一般廃棄物や産業廃棄物等の焼却処理で発生する猛毒の2,3,7,8−四塩化ダイオキシン(T4CDD)を含むポリ塩化ジベンゾ−p−ダイオキシン(PCDDS)や同様に猛毒のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFS)等のダイオキシン類を高感度、高選択的に測定するための方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、廃棄物を焼却処理した場合に高濃度のダイオキシンが発生し、社会問題化している。焼却時の排気ガス中に含まれるダイオキシン類の濃度は、ダイオキシンが猛毒であるために、ダイオキシン類、ポリ塩化ジベンゾフラン、コプラナーPCBの毒性当量で 0.1ngTEQ/Nm3 以下にすることが義務づけられている。しかし、ダイオキシンが猛毒であるために、通常の分析方法では検出できないほどの低い濃度が問題になることや、ダストやミストその他多種多様な夾雑物、微量物質が含まれるために、直接正確にダイオキシン類を検出・定量するには煩雑な前処理や特殊で高価な分析装置が必要である。
【0003】
代表的なダイオキシン類の定量・分析法として、ソックスレー抽出器を用いて、トルエンやエチレングリコールなどの溶剤で72時間の溶剤抽出後、クリーンアップ、濃縮処理を経て、ガスクロマトグラフィー・質量分析計で分析する方法がある。この方法は、濃縮処理など分析に要する工程が煩雑なため、分析結果がでるまでに2〜3週間かかり、また、分析費用も高くなる。
【0004】
特許文献1には、試料の濃縮操作が不要であり、かつ比較的安価な装置を用いて、間接的にダイオキシン類を定量する方法が開示されている。この方法は、ハロゲンを含む有機溶媒に、8−オキシキノリン類の金属錯体と、ダイオキシン類を測定しようとする試料を混和させ、これに励起光を照射して蛍光強度を測定することで、試料中に含まれるダイオキシン類と濃度相関性のあるハロフェノール類を定量し、このハロフェノール類の濃度からダイオキシンの濃度を推定するものである。
【0005】
しかしながら、この方法は、測定対象液が蛍光性錯体と相互作用するものとしてハロフェノールと競合する成分の影響を予め調べておく必要があり、また、ハロフェノール濃度とダイオキシン濃度との相関を予め調べておく必要があり、ダイオキシンの種類により測定値が変動するおそれが大きい。このようにこの方法では、間接的にダイオキシン濃度を推定するため精度が低くなり、また、蛍光法自体の感度は高いものの共存物質の影響を受けやすく、励起光が観測系に入り込みやすいため、期待するほど感度が得られない場合もある。
【0006】
さらに特許文献2には、ダイオキシン類の構造の一部を模したハプテンを、ルテニウム錯体と化学結合させて抗原に形成するとともに、該抗原を金電極表面に固定化した抗体とインキュベートして抗原抗体反応を行い、この反応生成物に前記電極から電圧を印加させることにより前記ルテニウム錯体を酸化・還元させて電解発光を生じさせ、該電解発光を観測することにより前記抗原を定量してダイオキシン類の濃度を測定する方法が開示されている。この方法は、電解発光を利用した測定系で高感度分析をするものであり、化学発光に必要な過酸化水素などの試薬を必要とせず、装置が小型化でき、高感度化が容易である。
しかし、通常の化学発光現象を起こすには0.5V前後の電圧を印加するのが普通であるが、ハプテン・ルテニウム錯体の電解発光を起こすにはpH7付近では1V強という高い電圧を印加する必要がある。上記方法では、金電極に電圧を印加し、結合したハプテン・ルテニウム錯体の還元剤が存在する環境下での酸化還元サイクルによる発光量を測定して、その測定対象物質の定量をする。その際、印加電圧が高過ぎると、抗体が金電極から外れ易く、抗体付き金電極の耐久性が悪くなるという欠点がある。また、抗体とハプテン・ルテニウム錯体の結合部あるいは抗体自身の内部結合部やハプテン・ルテニウム錯体の内部結合部が外れてしまうという危険性があり、信頼性に欠けてくる。
【0007】
また、上記方法ではダイオキシン類が多いと、抗体と結合するハプテン・ルテニウム錯体が少なくなり発光量が減り、ダイオキシン類が少ないと発光量が多くなるが、欠点としてダイオキシンが0の場合の発光量は最大になるのであるが、その量は抗体の量に依存する(ハプテン・ルテニウム錯体の結合量が抗体の量に依存するので)ため、その量が変化すれば、基準となる発光量が変化するため、適当な間隔で0基準の発光量を確認する必要があった。
【0008】
また、金電極表面に形成された抗体の分子膜は数十回の測定を繰り返すと消耗し、金電極表面から離脱してくる。従って、抗体付き金電極は消耗部品となり、定期的に新しい抗体付き金電極と交換する必要がある。ところが従来の装置では抗体付き金電極に電圧を直接印加する構造になっている。またその電極は試料などが混入した緩衝液の流路にもなっており気密性が確保されねばならず、かつ発光を検出するための検出器を装着する必要がある。従って、金電極の交換のための構造が複雑になり高価になるだけでなく、交換そのものも手間がかかり、メンテナンス性がよいとは言えない。
【0009】
【特許文献1】
特開平11-326222号公報
【特許文献2】
特開平2002-214231
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題点を解消したダイオキシン類の測定方法を提供することである。
本発明の他の目的は、上記問題点を解消したダイオキシン類の測定装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の工程を含む、試料中のダイオキシン類の濃度を測定する方法を提供するものである。
(1)ダイオキシン類の構造の一部を模した構造を持つハプテン・ルテニウム錯体と、担体に固定化された該ダイオキシン類に対する抗体を接触させ、該抗体のすべてに該ハプテン・ルテニウム錯体を結合させる工程、
(2)該ダイオキシン類を含有すると考えられる試料を、該ハプテン・ルテニウム錯体/抗体反応生成物と接触させて、該ダイオキシン類/抗体反応生成物を生成させると同時に該ハプテン・ルテニウム錯体を遊離させる工程、
(3)遊離した該ハプテン・ルテニウム錯体に電極から電圧を印加して該ハプテン・ルテニウム錯体を酸化・還元し、電解発光を生じさせる工程、及び
(4)該電解発光による発光量を測定し、検量線から前記試料中のダイオキシン類の量を求める工程。
【0012】
本発明はまた、下記の要素を備えた試料中のダイオキシン類濃度のフロースルー型測定装置を提供するものである。
(1)ダイオキシン類に対する抗体を固定化した担体を充填するためのカラム;
(2)該カラムに連結された、該ダイオキシン類の構造の一部を模した構造を持つハプテン・ルテニウム錯体に電圧を印加するための電極を備えた測定セル;
(3)該ハプテン・ルテニウム錯体の電解発光による発光量を検出するための検出器;
(4)該ハプテン・ルテニウム錯体及び測定試料を流路に導入するためのインジェクタ、及び
(5)送液ポンプ。
本発明の装置は好ましくはさらに、電解発光による発光量から試料中の該ダイオキシン類濃度を求めるための演算装置を備えている。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、抗原抗体反応による競合反応場と、その反応状態を利用して電解発光による定量を行う部位を分離して配置したことを特徴とするものである。
本発明の測定装置の1具体例を図1に示す。この装置は、還元剤入りの緩衝液を収容したタンク1と、送液ポンプ2と、試料又はハプテン・ルテニウム錯体又は洗浄剤を注入するインジェクタ3と、ダイオキシン類に対する抗体が固定化された担体が充填されたカラム4と、該カラムに連結され、抗体からダイオキシン類により外された該ダイオキシン類の構造の一部を持つハプテン・ルテニウム錯体に電圧を印加するための電極を備えた測定セル5と、該ハプテン・ルテニウム錯体の電解発光による発光量を検出するための検出器6と、該発光量から試料中の該ダイオキシン類濃度を求めるための演算装置7、及び排液用のドレイン8を備えている。
【0014】
(1)まず、送液ポンプ2により、タンク1から還元剤入り緩衝液をカラム4、測定セル5に流し、ドレイン8から排液する。緩衝液を流している途中にインジェクタ3からハプテン・ルテニウム錯体を流路に注入し、カラム4に収容されている担体表面に分子膜を形成しているダイオキシン類に対する抗体の全てにハプテン・ルテニウム錯体を抗原抗体反応により結合させる。その後、余ったハプテン・ルテニウム錯体は、引き続き流す前記緩衝液により排出される。
(2)次に緩衝液にダイオキシン類を溶解した試料を流すと、ダイオキシン類はハプテン・ルテニウム錯体より該抗体に対する結合力が大きいため、該抗体に結合しているハプテン・ルテニウム錯体を遊離して該抗体と結合する。
(3)遊離したハプテン・ルテニウム錯体は還元剤入りの緩衝液により流されて測定セル5に入り、電極から電圧を印加される。測定セル4中の電極部の流路は充分に狭いため、ハプテン・ルテニウム錯体は電極と電気的に接続された状態になり、還元剤の作用もあって電極部を通り過ぎる間、酸化還元を繰り返して電解発光する。
(4)この発光量を検出器6により検出し、検出された発光量から演算装置7により試料中のダイオキシン類濃度を求める。
(5)測定が終了したら、インジェクタ3から酸性溶液(例えば、pH1〜2に調整したリン酸溶液等)を流路に注入し、ハプテン・ルテニウム錯体、ダイオキシン類を洗い流して、装置を初期状態にする。
【0015】
本発明に使用するカラムは、ガラス、ステンレス、フッ素樹脂等で作製された、例えば、内径3〜10mm、長さ10〜100mm程度のものが適当である。本発明に使用する抗ダイオキシン抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも良い。ダイオキシン類又はこれと構造が良く似た物質にタンパク等の分子量の大きな分子を結合させたものをマウス等の動物に注射すると動物体内でポリクローナル抗体が生産される。また同様の物質を、抗体を産生する単一の細胞株に導入するとモノクローナル抗体が産生される。後者の方法で生産した抗ダイオキシン抗体には一般にDD3と呼ばれるものがある。
また、抗体には特異的に結合する抗原を認識し結合する部位が構造中に存在する。この部位は複数のアミノ酸から構成されている。この部位と同じアミノ酸を同じ配列で人工的に連結して合成することが可能であり、このようにして作製した「抗ダイオキシン抗体のダイオキシン認識部位の部分ペプチド」も本発明において「抗体」として使用できる。
【0016】
次に、本発明に使用するダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体について説明する。このようなダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体の形成については、例えば、特許文献2(特開2002-214231)に詳細に説明されている。
例えば、2,3−ジベンゾダイオキシンの構造の一部を有するフタル酸エステル(4,5-ジクロロフタル酸無水物)に、抗体と結合する際のスペーサとなる4-(p-アミノフェニル)ブタン酸を反応させ、N-(4',5'-ジクロロフタロイル)-4-(p-アミノフェニル)ブタン酸を得る。これがハプテン部位であり、このカルボキシル基によりルテニウム錯体を結合させる。
【0017】
一方、ルテニウム錯体の側にも抗体と結合する際のスペーサを設ける必要がある。
まず、フタルイミドカリウムと1,3-ジブロモプロパンとを反応させ、抗体と結合する際のスペーサとなる1-(N-フタロイルアミノ)-3-ブロモプロパンを得る。次に、4,4'-ジメチル-2,2'-ビピリジンと1-(N-フタロイルアミノ)-3-ブロモプロパンとを反応させ、4-(4-(N-フタロイルアミノ)ブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジンを得る。
4-(4-(N-フタロイルアミノ)ブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジンをヒドラジンで還元して4-(4-アミノブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジンを得る。
2,2'-ビピリジンに三塩化ルテニウムを反応させ、ジクロロビス(2,2'-ビピリジン)ルテニウムを得る。
最終的に、ジクロロビス(2,2'-ビピリジン)ルテニウムと4-(4-アミノブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジンを反応させ、抗体と結合する際、スペーサを有するビス(2,2'-ビピリジル){4-(4-アミノブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン}ルテニウム錯体を得る。
【0018】
次に、スペーサを有するN-(4',5'-ジクロロフタロイル)-4-(p-アミノフェニル)ブタン酸と、スペーサを有するビス(2,2'-ビピリジル){4-(4-アミノブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン}ルテニウム錯体とを反応させ、ダイオキシン類ハプテン・ルテニウム錯体を得る。この{4-(4-アミノブチル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジン}ルテニウム錯体を定量することにより、ダイオキシン類のハプテン部位も定量することができる。
【0019】
次に、抗ダイオキシン抗体を固定化する担体について説明する。
担体はその表面に抗体分子膜を形成できるものであれば特に限定されない。例えば、金、白金、銀、化合物半導体、その他耐食性の高い材料であることが望ましい。本発明において担体はカラムに充填して使用するものであり、線状、粒状、薄片状、ハニカム状、その他比表面積の大きな任意の形状とすることができる。線状のものでは直径0.1〜2.0mm、長さ10〜50mm程度のものが好ましく、粒状のものでは直径10μm〜2mm程度のものが好ましい。抗体の総表面積は、10〜200mm2程度が好ましい。
【0020】
このような担体の表面に抗ダイオキシン抗体を化学結合により固定化する。例えば、抗体が金であればその表面を硫酸などで酸処理して清浄し、3,3'-ジチオジプロパン酸の10mM水溶液(H00CCH2CH2S-SCH2CH2COOH)に常温で30分〜10時間浸漬し、担体表面に3,3'-ジチオジプロパン酸を化学吸着させる。この場合、3,3'-ジオチジプロパン酸のイオウ原子と金原子の相互作用による化学結合が形成される。その後、表面をメタノールなどのアルコールで洗浄する。さらに、担体表面に固定化された3,3'-ジチオジプロパン酸のカルボン酸を反応活性にするため、ヒドロキシスクシンイミド30mgと水溶性カルボジイミド(1-エチル-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミドハイドロクロライド)50mgを含むジオキサン90%水溶液20mlに15分間浸漬する。そして、活性化された3,3'-ジチオジプロパン酸を有する担体を抗ダイオキシン抗体の水溶液に室温で1〜10時間浸漬し、抗体のアミノ基との反応によりアミド結合を形成させる。これにより、担体上に抗ダイオキシン抗体が固定化される。次いで、担体を緩衝液、例えば、リン酸緩衝液で洗浄し、化学結合していない抗体を除去する。
担体への抗体の固定化はカラムに担体を充填してから行っても良いし、カラムに充填する前に行っても良い。
【0021】
次に、ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体をカラムに注入して抗ダイオキシン抗体と結合させる。例えば、3%DMSO(ジメチルスルホキシド)を含むリン酸緩衝液で調製した測定液に、所定量(通常は例えば、0.01〜0.5mM)のダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を添加する。DMSOはダイオキシンを十分に溶解させるために使用する。3%DMSOを含む0.2M濃度のリン酸緩衝液(pH7.0)をダイオキシン試料の調製に使用すると、ダイオキシンをppbレベルまで溶解することが可能となる。
【0022】
充分な量のダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を使用して、担体に固定化された抗ダイオキシン抗体のすべてに結合させる。このため、ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体をカラムに注入した後、30秒〜30分程度送液ポンプを停止し、抗体と充分に反応、結合させる。ポンプを止めないで連続で流す場合でも通過時間は3秒以上を確保する(抗体とハプテン・ルテニウム錯体の接触時間)。次いでリン酸緩衝液(pH7.0)で良く洗浄して余分なダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を除去する。
【0023】
測定セル5は、作用極(陽極、例えば、金、白金、銀、化合物半導体等)と、対極(陰極、例えば、ステンレス、銀、金等)と、参照電極(例えば、銀・塩化銀電極)とを備えている。測定セル、電極の形状は特に限定されない。測定セル部の流路寸法は幅2〜10mm×厚さ0.2〜1.0mm×長さ10〜50mm程度が好ましい。また、作用極の面積は20〜200mm2程度が好ましい。対極の面積は40〜500mm2程度が好ましい。陽極と陰極の間隙もできる限り小さいほうが良く、好ましくは0.5〜150mm、さらに好ましくは0.5〜10mmである。陽極と参照極の間隔も同様に小さいほうが好ましい。
測定セル5には電解発光を検出するための検出器6が隣接して設けられ、検出器6で検出された発光量データは演算装置7に送られダイオキシン類の濃度が計算される。
【0024】
次に、この装置を用いて試料中のダイオキシン類の濃度を測定する方法について説明する。
まず、送液ポンプで還元剤入り緩衝液を流しながら、インジェクタから測定試料を注入する。還元剤入り緩衝液及び測定試料調製用緩衝液にはDMSOを3%程度溶解させ、ダイオキシン類を充分に溶解させることが望ましい。試料中のダイオキシン類は、カラム4に充填されている担体に固定化されたダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体よりも抗体に対する結合力が強いため、ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を遊離させて自らが抗体に結合する。遊離したダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体は、還元剤入り緩衝液によりカラムから測定セルに送られ、測定セル5で電極から電圧を印加される。カラムへの滞留時間やポンプ停止時間に関しては、前述のダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を流す時と同等である。
【0025】
還元剤としては、トリメチルアミン(TMA)、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン、プロリン等のアミノ酸、シュウ酸等の有機酸等が挙げられる。リン酸緩衝液としてはKH2PO4、NaH2PO4等が挙げられる。リン酸緩衝液は最適な発光条件を得るのに重要である。特に、電解発光に必要な導電性を与えるためにその濃度を好ましくは0.01〜1M、さらに好ましくは0.1〜1Mとし、pH値を好ましくは7〜9、さらに好ましくは7.0以上に制御することで電解発光の環境を最適にすることができる。緩衝液中の還元剤の濃度は好ましくは5〜300mMである。
【0026】
試料を、還元剤を含むリン酸緩衝液に溶解し、この試料溶液をインジェクタで流路に導入する。
緩衝液の送液量は、測定セル5中の試料の滞留時間、測定温度、試料中のダイオキシン類濃度等により異なるが、通常は0.1〜1.0ml/分程度が好ましい。
試料溶液の温度は好ましくは15℃〜30℃、試料の測定セル5中の滞留時間は0〜3秒以上になる設計が好ましい。さらに好ましくはポンプを停止し、5秒〜10分間滞留させる。この際、陽極に0.9〜1.3Vの電圧を印加すると、ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体の電解発光が生じ、この発光強度を観測することにより前記錯体の定量が可能となり、試料中のダイオキシン類の濃度の測定が可能となる。
【0027】
上記の手順はダイオキシン類の種類及び濃度に関連して導かれるものであるが、ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体の濃度は、好ましくは0.1mM〜0.5M、例えば、0.1〜0.2mMが好ましい。予め濃度既知の試料を用いて検量線を作成しておくことにより、容易に試料中のダイオキシン類の濃度を求めることができる。
ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体は、陽極により酸化を受けて2価から3価になる。3価のルテニウム錯体は、還元剤(例えば、トリメチルアミン)により還元されて2価のルテニウム錯体となり、このとき発光する。還元剤は酸化されて、酸化物となる。
【0028】
測定セルに隣接して設けられる検出器は、電解発光を効率良く観測するために、例えば、集光レンズ、ミラー、光学フィルター及び測定センサを備えた検出装置が好ましい。測定センサにより検出される発光強度、発光時間をモニタリングすることにより、ダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体が定量される。これはこの錯体を遊離した試料中のダイオキシン類の量に他ならないから、ダイオキシン類の定量が可能となる。既知濃度のダイオキシン類を用いて作成した検量線を予め記憶し、発光強度によりダイオキシン類の定量が即時に可能となるようなパソコンなどの演算装置7を設けることが望ましい。
【0029】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例
図1に示すような装置を準備した。
3%DMSOを含む0.2Mりん酸緩衝液(pH7.4)1000mlを1000mlのタンク1に入れた。内径4mm、長さ10mmのステンレス製カラムに、抗ダイオキシン抗体(EWVATITGGGTYTYYPDSVRGC)を固定化した、直径1mmの金線を長さ10mm(11本)入れた。抗体の固定化は、次のように行った。金線担体表面を硫酸で処理して表面を清浄にし、3,3'−ジチオジプロパン酸の10mM水溶液に常温で30分間浸漬し、担体表面に3,3'−ジチオジプロパン酸を化学吸着させた。担体を取り出し、メタノールで洗浄し、さらに、ヒドロキシスクシンイミド30mgと1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドハイドロクロライド50mgを含むジオキサン90%水溶液10〜50mlに15分間浸漬した。そして、活性化された3,3'−ジチオジプロパン酸を有する担体を抗ダイオキシン抗体の100μM水溶液に室温で1時間以上浸漬し、抗体のアミノ基との反応によりアミド結合を形成させた。次いで、担体をリン酸緩衝液で洗浄し、化学結合していない抗体を除去した。
【0030】
次に、3%DMSOを含有する0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)にダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を添加し、0.2mM溶液とした。この溶液80μlをインジェクタ3からカラム4に注入した後、5分間程度送液ポンプ2を停止し、抗体と充分に反応、結合させた。送液ポンプ2によりカラム4にリン酸緩衝液(pH7.4)を2〜10分程度流し、良く洗浄して余分なダイオキシンハプテン・ルテニウム錯体を除去した。
【0031】
測定セル5は幅4mm×厚さ0.5mm×長さ20mmの流路を持つ、テフロン(登録商標)の容器を使用した。セルの1面に流路と同じ寸法(幅4mm×厚さ2mm×長さ20mm)の平板状の金陽極を設け、バッファ等の排出部の内径1mmのステンレス等を陰極とし、その陰極前にバッファ溜りを設けてそこに参照電極(銀/塩化銀電極)を収容した。金陽極とステンレス陰極の間隙は50mmとした。さらに測定セル5の一部を透明ガラスで構成し、この面に検出器6のセンサが対向するように配置した。測定セル5の下流部にドレイン8を連結した。
【0032】
測定液として、3%DMSOを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)を用いて0.02、0.06、0.1、0.2、0.5、1.0、3.0μg/Lの2,3,7,8−テトラクロロ−ジベンゾ−p−ダイオキシン溶液を調製した。3%DMSOを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)を送液ポンプ2から0.5ml/分でカラムに流しながら、インジェクタ3から上記溶液80μlを注入した。ポンプを止めカラム4中で5分間滞留させた。室温で電極に1.1Vの電圧を印加したまま、溶液を流しポンプを止め、セル5中で1分間滞留させた。得られた電解発光の発光量を、検出器6で検出した。検出データを演算装置7で積算した。同様の操作を各濃度のダイオキシン溶液について行った。結果を図2にプロットしてグラフに示す。図2のデータは、試料中のダイオキシン濃度に比例して電解発光による発光強度が大きくなること、及び極めて低濃度のダイオキシン、例えば、0.01から0.1ppbを定量的に精度良く検出可能であることを示している。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば次のような効果が奏される。
(1)電解発光のための電圧を充分に印加できるため、発光が確実になり、抗体分子膜を形成した担体(金、白金など)の耐久性が著しく延びる。
(2)原理的に担体に付いている抗体数(十分に付着している場合)の多少は測定値に関係なくなるので、ばらつきの多い担体付着抗体数による誤差がキャンセルでき、測定精度が向上するとともに、信号のレベル調整用の標準物質による測定回数を減じることができる。
(3)抗体分子膜付き担体は定期的に交換する必要があるが、流路途中に抗体分子膜付き担体が入ったカラムが配置されているためこれをカラムごと交換すればよく、抗体分子膜付き担体の交換が極めて簡単である。
(4)担体として線状、粒状、ハニカム状等の比表面積の大きい担体を使用しているため、その表面上に形成可能な抗体分子膜の量を従来の平面電極上に形成可能な抗体分子膜の量よりはるかに多くすることができ、装置を小型、軽量化できる。例えば、現在の電極の発光可能な面積(有効な抗体分子膜形成表面積)はフォトマルの受光面積および流路などの関係で10mm×40mmの400mm2程度しかとれない。これに対して、内径10mm、長さ10mmのカラムに直径1mm、長さ10mmの金線を充填した場合、その金線は76本収容可能であり、全表面積は76×(1×3.14×10+0.5×0.5×3.14×2)=2505.72mm2程度となり6倍強の抗体分子膜表面積が確保できることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のダイオキシン類の測定装置の一例を示す模式図である。
【図2】ダイオキシン濃度と発光強度との関係(検量線)を示すグラフである。
【符号の説明】
1:還元剤入り緩衝液タンク、2:送液ポンプ、3:試料及び洗浄剤導入用インジェクタ、4:担体カラム、5:測定セル、6:検出器、7:演算装置、8:ドレイン。
Claims (3)
- 以下の工程を含む、試料中のダイオキシン類の濃度を測定する方法。
(1)ダイオキシン類の構造の一部を模した構造を持つハプテン・ルテニウム錯体と、担体に固定化された該ダイオキシン類に対する抗体を接触させ、該抗体のすべてに該ハプテン・ルテニウム錯体を結合させる工程、
(2)該ダイオキシン類を含有すると考えられる試料を、該ハプテン・ルテニウム錯体/抗体反応生成物と接触させて、該ダイオキシン類/抗体反応生成物を生成させると同時に該ハプテン・ルテニウム錯体を遊離させる工程、
(3)遊離した該ハプテン・ルテニウム錯体に電極から電圧を印加して該ハプテン・ルテニウム錯体を酸化・還元し、電解発光を生じさせる工程、及び
(4)該電解発光による発光量を測定し、検量線から前記試料中のダイオキシン類の量を求める工程。 - 下記の要素を備えた試料中のダイオキシン類濃度のフロースルー型測定装置。
(1)ダイオキシン類に対する抗体を固定化した担体を充填するためのカラム;
(2)該カラムに連結された、該ダイオキシン類の構造の一部を模した構造を持つハプテン・ルテニウム錯体に電圧を印加するための電極を備えた測定セル;
(3)該ハプテン・ルテニウム錯体の電解発光による発光量を検出するための検出器;
(4)該ハプテン・ルテニウム錯体及び測定試料を流路に導入するためのインジェクタ、及び
(5)送液ポンプ。 - さらに、電解発光による発光量から試料中の該ダイオキシン類濃度を求めるための演算装置を備えている請求項1記載の装置。
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