JP4086465B2 - 量子ドット構造体及びその形成方法、並びに該量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置 - Google Patents

量子ドット構造体及びその形成方法、並びに該量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、量子ドットレーザなどの光デバイスや量子ドットメモリなどの電子デバイスを実現するのに好適な量子ドット構造体及びその形成方法、並びに該量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、量子ドットを作製するための方法として最も多く用いられている技術は、格子不整合系材料で生じるS−K(Stranski-Krastanov)モード成長と呼ばれる結晶成長現象を利用したS−Kモード成長法である。このS−Kモード成長法では、一定の格子定数を有する第1の半導体層上により大きな格子定数を有する第2の半導体を成長させる。この場合、第2の半導体は、その成長の初期段階において第1の半導体上に疑似格子整合的に層状に二次元成長する。その後、第2の半導体は格子不整合による歪エネルギーが蓄積していくため、成長がある層厚に達すると、その後は歪エネルギーを緩和してナノメーター(nm)スケールの三次元的な島状構造を形成するようになる。このようにして形成された三次元的な島状構造上にさらに第1の半導体を成長させ、該三次元島を埋め込むことによって量子ドット構造体を形成する。
【0003】
上記量子ドット構造体は、例えば分子線エピタキシー(MBE)法によるエピタキシャル成長を行うことにより形成することができる。この場合、所望の大きさや密度を有する量子ドットを得るために、通常、第2の半導体を形成する際にIII族元素の供給速度、堆積量、基板温度、V族元素とIII族元素の供給比率などの成長パラメータを精密に制御する必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、量子ドットの形成に使用する装置を用いて、このような精密な制御を行うことは容易ではない。すなわち、上記エピタキシャル結晶成長が行われる装置内の状態(例えば、上記MBE法であれば成長原料の分子線強度など)は絶えず変化するため、上記成長パラメータを精密に制御しようとすれば、上記成長パラメータの頻繁かつ煩雑な校正作業が必要となるうえ、歩留まりも悪くなるという欠点があった。このため量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置を製造しようとすると、一つの量子ドット構造体の形成に非常に多くの時間と手間をかけなければならなかった。したがって、製造効率が悪いことが、量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置の大きな問題となっていた。
【0005】
かくして本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は量子ドット構造体の形成に関する問題を解決し、簡便に効率よく形成することのできる量子ドット構造体及びその形成方法を提供するとともに、該量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、III−V族元素からなる第1の化合物半導体の表面に該第1の化合物半導体を構成するV族元素とは異なるV族元素を供給すると、該第1の化合物半導体のV族元素と供給されたV族元素の間で置換が起こり、格子定数のミスマッチによる歪が生じて量子ドット構造体を形成できることを見出した。
【0007】
得られた量子ドット構造体は、驚くことにこれまでの量子ドット構造体よりも制御性及び安定性に優れるものであった。また、この方法で量子ドット構造体を形成すれば、これまでの量子ドット構造体の形成プロセスにおいて必要とされていたIII族元素を供給しなくても量子ドット構造体を形成することが可能となる。換言すればこの方法によれば、III族元素の供給速度、堆積量、V族とIII族の供給比率等の成長パラメータの精密な制御が不要となるため、前述したようなエピタキシャル結晶成長装置の状態の変化に伴う問題点を見事に解決することのできる優れた方法である。
【0008】
すなわち、本発明は、III−V族元素からなる第1の化合物半導体層中にIII−V族元素からなる第2の化合物半導体の量子ドットを有する量子ドット構造体であって、第1の化合物半導体層を構成する III 族元素と第2の化合物半導体を構成する III 族元素は同一の元素であり、前記量子ドットを形成する第2の化合物半導体は、第1の化合物半導体層を構成するV族元素と第1の化合物半導体層を構成するV族元素とは異なるV族元素とを含有していることを特徴とする量子ドット構造体を提供するものである。
【0010】
本発明の量子ドット構造体の好ましい態様としては、前記第1の化合物半導体層が(AlxGa1-xyIn1-yPで構成され、前記第2の化合物半導体が(AlxGa1-xyIn1-yAsz1-Zで構成される態様(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0<z≦1);前記第2の化合物半導体からなる量子ドットが、5x109〜5x1011個/cm2で形成されている態様;前記第2の化合物半導体からなる量子ドットの大きさが10〜100nmである態様;前記第2の化合物半導体層を構成するV族元素の少なくとも1種を含む化合物からなる中間層が、前記第2の化合物半導体層とその上に形成されるマトリクス層との間に形成されている態様;前記中間層の厚さが1原子層〜10nmである態様;前記第1の化合物半導体層が(AlxGa1-xyIn1-yPで構成され、前記第2の化合物半導体が(AlxGa1-xyIn1-yAsz1-Zで構成され(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0<z≦1)、前記中間層がGaAs、AlGaAs、GaInAs、AlGaInAsのいずれかで構成される態様を挙げることができる。
【0011】
さらに本発明は、III−V族元素からなる第1の化合物半導体層中にIII−V族元素からなる第2の化合物半導体の量子ドットを有する量子ドット構造体を形成する方法であって、前記第1の化合物半導体層の表面に前記第1の化合物半導体を構成するV族元素とは異なるV族元素を供給し、該供給されたV族元素を前記第1の化合物半導体層のV族元素置換反応させることにより、前記第2の化合物半導体からなる量子ドットを形成する工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0012】
本発明の量子ドット構造体の形成方法の好ましい態様としては、前記供給されるV族元素が、前記第1の化合物半導体層に含まれないV族元素である態様;前記第1の化合物半導体層が(AlxGa1-xyIn1-yP(0≦x≦1,0≦y≦1)で構成され、前記供給されるV族元素がAsである態様を挙げることができる。
【0013】
また本発明は、前記量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置も提供する。特に、前記量子ドット構造体を活性層として有し、かつ前記第1の化合物半導体層よりも禁制帯幅が大きく、屈折率が小さい第3の化合物半導体層をクラッド層としたダブルヘテロ構造を有する半導体デバイス装置を提供する。
【0014】
本発明の量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置の好ましい態様としては、本発明の量子ドット構造体をさらに光ガイド層として有する態様;前記半導体デバイス装置が半導体発光素子である態様;前記半導体発光素子が半導体レーザである態様を挙げることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明の量子ドット構造体及びその形成方法、並びに該量子ドット構造体を有する半導体について詳細に説明する。
【0016】
本発明の量子ドット構造体は、III−V族元素からなる第1の化合物半導体層と、量子ドットを形成するIII−V族元素からなる第2の化合物半導体とを有する量子ドット構造体であって、前記量子ドットを形成する第2の化合物半導体は、第1の化合物半導体層を構成するV族元素の少なくとも一部が異なるV族元素に置換された構造を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の量子ドット構造体では、第2の化合物半導体が第1の化合物半導体層を構成するV族元素とは異なるV族元素を含有していることが必要とされる。これは、第2の化合物半導体のV族元素が、第1の化合物半導体層を構成するV族元素と全く異なる場合だけを意味するものではない。すなわち、第2の化合物半導体を構成するV族元素が、第1の化合物半導体を構成するV族元素と完全に異なるV族元素で構成されている場合はもちろんのこと、第2の化合物半導体が第1の化合物半導体層と共通するV族元素を含有しつつ、さらに第1の化合物半導体層とは異なるV族元素をも含有する場合も本発明の範囲に包含される。
【0018】
本発明の量子ドット構造体を図1に示す態様を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書に添付する図面は、本発明の構造を把握しやすくするために、敢えて寸法を変えている部分があるが、実際の寸法は本明細書に記載されているとおりである。
【0019】
図1は、GaInPマトリクス層中にGaInAsP量子ドット構造を形成した量子ドット構造体を含むダブルへテロ構造である。
図1には、基板11の上に、バッファー層12、第1導電型クラッド層13、マトリクス層14と量子ドット15と中間層16とマトリクス層17とで構成される活性層20、第2導電型クラッド層18、及びキャップ層19を順に積層した半導体デバイス装置が示されている。ここで、マトリクス層14と量子ドット15は本発明の量子ドット構造体を構成するものであり、図1のダブルへテロ構造において活性層20の一部として機能する。
本発明の半導体デバイス装置は、これらの層のほかに、例えばレーザダイオードや発光ダイオードなどに通常形成される層を適宜有していてもよい。
【0020】
なお、本明細書において例えば「A層の上に形成されたB層」という表現は、A層の上面にB層の底面が接するようにB層が形成されている場合と、A層の上面に1以上の層が形成されさらにその層の上にB層が形成されている場合の両方を含むものである。また、A層の上面とB層の底面が部分的に接していて、その他の部分ではA層とB層の間に1以上の層が存在している場合も、上記表現に含まれる。具体的な態様については、以下の各層の説明と実施例の具体例から明らかである。
【0021】
図1において基板11は、その上にダブルへテロ構造の結晶を成長することが可能なものであれば、その導電性や材料については特に限定されない。好ましいものは、導電性がある基板である。具体的には、基板上への結晶薄膜成長に適したGaAs、InP、GaP、ZnSe、ZnO、Si、Al23等の結晶基板、特に閃亜鉛鉱型構造を有する結晶基板を用いるのが好ましい。その場合、基板結晶成長面は低次な面、又はそれと結晶学的に等価な面が好ましく、(100)面が最も好ましい。
なお、本明細書において(100)面という場合、必ずしも厳密に(100)シャストの面である必要はなく、最大30°程度のオフアングルを有する場合まで包含する。
【0022】
また、基板11は六方晶型の基板でもよく、例えばAl23、6H−SiC等からなる基板を用いることもできる。
【0023】
基板11上には、基板の欠陥をエピタキシャル成長層に持ち込まないために厚さ0.1〜2μm程度のバッファ層12を形成しておくことが好ましい。
バッファー層12は、基板上に形成しようとしている化合物半導体層が良質な薄膜として形成され得るものであれば特に限定はないが、一般には基板とその上に形成される化合物半導体層(第1導電型クラッド層)のいずれにも格子整合のよい材料が選択される。バッファー層としては、例えば、GaAs、AlGaAs/GaAs超格子などが挙げられる。
【0024】
図1の態様では、活性層20の上下には、活性層20より屈折率の小さい層が形成されており、そのうち基板側の層は第1導電型クラッド層、他方のエピタキシャル側の層は第2導電型クラッド層として機能する。これらの屈折率の大小関係は、各層の材料組成を当業者に公知の方法にしたがって適宜選択することにより調節することができる。例えば、AlxGa1-xAs、(AlxGa1-x0.51In0.49P、AlxGa1-xNなどのAl組成を変化させることによって屈折率を調節することができる。
【0025】
第1導電型クラッド層13は、活性層20、特にマトリクス層14よりも屈折率が小さく、かつ禁制帯幅の大きい材料で形成される。さらに、第1導電型クラッド層13は、後述する第2導電型クラッド層18と共に、本発明の第3の化合物半導体層として機能し得るものである。
第1導電型クラッド層13の材料としては、例えば、第1導電型のGaInP、AlGaInP、AlInP、AlGaAs、AlGaAsP、AlGaInAs、GaInAsP、GaN、AlGaN、AlGaInN、BeMgZnSe、MgZnSSe、CdZnSeTe等の一般的なIII−V族、II−VI族半導体を用いることができる。第1導電型クラッド層13のキャリア濃度は、下限は1×1017cm-3以上が好ましく、3×1017cm-3以上がより好ましく、5×1017cm-3以上が最も好ましい。上限は2×1019cm-3以下が好ましく、5×1018cm-3以下がより好ましく、3×1018cm-3以下が最も好ましい。
なお、キャリア濃度は容量−電圧法(CV法)で測定することができ、以下の各層におけるキャリア濃度についても同様である。
【0026】
第1導電型クラッド層13は、単層からなるものであっても複数層からなるものであってもよく、その厚さの総和は好ましくは0.2〜4μm、より好ましくは1〜3μmである。
【0027】
図1の態様における活性層20は、マトリクス層14,量子ドット15、中間層16及びマトリクス層17から構成される。図1の態様は、本発明の量子ドット構造体の上にさらに中間層16及びマトリクス層17を形成したものである。
マトリクス層14は、本発明の第1の化合物半導体層として機能するものであり、III−V族の化合物半導体である。また、マトリクス層17も同じ材料で構成される。マトリクス層14,17の種類は、III−V族の化合物半導体であれば、特に限定はない。該マトリクス層を構成する化合物半導体としては、例えば、GaP、GaInP、GaAsP、AlInP、AlGaInP、GaN、AlSbが挙げられる。好ましくはGaAsに格子整合することができる(AlxGa1-x0.51In0.49P(0≦x≦1)である。ここで、xは0〜1の間で適宜選択することができ、例えばGa0.51In0.49P(x=0)、Al0.51In0.49P(x=0.51)又は(Al0.5Ga0.50.51In0.49P(x=0.5)などが挙げられる。
マトリクス層14,17の厚さについては特に制限はないが、半導体層として機能するためには、少なくとも1原子層以上の厚さを有することが必要とされる。マトリクス層14,17の厚さは、好ましくは0.5〜200nmであり、より好ましくは2〜100nmである。
ダブルへテロ構造を端面発光型レーザダイオードとして機能させる場合は、マトリクス層は光ガイド層として機能することになり、その場合マトリクス層の厚さはレーザビームの広がり角等のレーザ特性の設計の上で決定される。
【0028】
量子ドット15を構成する第2の化合物半導体は、マトリクス層14を構成するV族元素とは異なるV族元素を有する。その種類は、量子ドットを形成し得るように、マトリクス層14との関係を考慮して選択する。例えば、マトリクス層14がGaAs、GaInAs又はAlGaAsである場合には、量子ドット15を構成する第2の化合物半導体はGaP、GaAsP、GaInP、GaInAsP、AlGaP又はAlGaAsP等をそれぞれ選択することができる。好ましくは(AlxGa1-xyIn1-yAsz1-Z(0≦x≦1,0≦y≦1,0<z≦1)で表される化合物半導体であり、x、y及びzは上記範囲内で前記マトリクス層14に対応して適宜決定することができる。
【0029】
量子ドット15の密度及び大きさは、所望する波長スペクトルにあわせて適宜決定することができる。しきい値電流密度の低減化、フォトルネッセンス(PL)スペクトルの半値幅の狭窄化などの観点からは、量子ドット16の大きさは10〜100nmであることが好ましく、20〜50nmであることがより好ましい。また量子ドットの単位面積あたりの個数については、5x109〜5x1011個/cm2であることが好ましく、1x1010〜2x1011個/cm2であることがより好ましい。
【0030】
中間層16は、マトリクス層14及び量子ドット15と同様、III−V族の化合物半導体からなる。中間層16は、形成された量子ドット15の安定性を確保する機能を有するとともに、表面状態を平滑化することができる。
中間層16は、量子ドット15の形成時に供給されるV族元素と同一のV族元素を少なくとも1種含有する。中間層16が量子ドット15のV族元素と異なるV族元素を含有する場合には、エピタキシャル成長過程において、中間層16のV族元素と量子ドット15のV族元素との間で相互置換が起こり、量子ドット15のサイズ及び密度の制御が困難となる。そこで、中間層16のV族元素を量子ドット15のV族元素と同一のV族元素を含有するようにすれば、中間層16と量子ドット15間におけるV族元素の置換は起こらず、量子ドット15の大きさと密度を容易に制御することができるようになるため、好ましい。したがって、中間層16としては、例えば量子ドット15の形成時に供給されるV族元素がAsである場合には、GaAs、GaInAs、AlGaAs、AlGaInAsなどで形成することが好ましい。また量子ドット15が(AlxGa1-xyIn1-yAsz1-Z又は(AlxGa1-xyIn1-ySbz1-Z(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)で構成される場合には、中間層16はGaAs、GaInAs若しくはAlGaAs又はGaSb、GaInSb若しくはAlGaSbで形成されることもでき、量子ドット15が(AlxGa1-xyIn1-yAsz1-Z(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)で構成される場合には、中間層16はGaAs、GaInAs又はAlGaAsが好ましい。
【0031】
中間層16の禁制帯幅については特に限定されないが、量子ドット15と比較して同等ないしは大きい禁制帯幅を有することが望ましい。中間層16の禁制帯幅が量子ドット15と比較して狭い禁制帯幅であると、キャリアが量子ドット15から中間層16へ漏出する。そして、この漏出したキャリアは、中間層16に局在するため量子ドット15内で再結合し、発光する割合が小さくなる。
【0032】
中間層16の格子定数については、マトリクス層14上に所望の中間層を形成しうるものであれば、特に限定はない。中間層16の結晶成長における格子不整合性を小さくするためには、中間層16は、量子ドット15の格子定数よりもマトリクス層14,17の格子定数に近い格子定数を有することが好ましい。
【0033】
中間層16の厚さについては、量子ドット15に閉じ込められた電子の波動関数がマトリクス層14,17に十分沁み出す程度の厚さであれば特に制限はない。中間層16の厚さが1原子層より薄くなると、V族元素の置換及びミキシングの制御が不十分となる。一方、厚くなりすぎると、量子ドット15に閉じ込められた電子の沁み出しが不十分となる。そこで、中間層16の厚さとしては、1原子層以上であることが必要であり、好ましくは1原子層〜10nmであり、より好ましくは1原子層〜5nmであり、さらに好ましくは1原子層〜3nmである。
【0034】
図1における活性層20は1回積層させたものであるが、本発明では活性層20を少なくとも1回積層させたものであれば、2回以上繰り返して積層したものであってもよい。活性層20の積層回数を増やせば、活性層としての機能が増加し、その分だけ発光波長の狭線幅化や利得の増加を期待することができる。好ましくは活性層20を3回積層させたものであり、5回以上積層すればさらに好ましいものとなる。
【0035】
活性層20の上には、第2導電型クラッド層18が形成される。第2導電型クラッド層18は、活性層20、特にマトリクス層17よりも屈折率が小さく、かつ禁制帯幅が大きい材料で形成される。例えば、第2導電型のAlGaInP、AlInP、AlGaAs、AlGaAsP、AlGaInAs、GaInAsP、AlGaInN、BeMgZnSe、MgZnSSe、CdZnSeTe等の一般的なIII−V族、II−VI族半導体を用いることができる。第2導電型クラッド層がAlを含むIII−V族化合物半導体で構成されている場合は、その成長可能な実質的全面をGaAs、GaAsP、GaInAs、GaInP、GaInN等のAlを含まないIII−V族化合物半導体で覆えば表面酸化を防止することができるため好ましい。
【0036】
第2導電型クラッド層18のキャリア濃度は、下限は1×1017cm-3以上が好ましく、3×1017cm-3以上がより好ましく、5×1017cm-3以上が最も好ましい。上限は2×1019cm-3以下が好ましく、5×1018cm-3以下がより好ましく、3×1018cm-3以下が最も好ましい。第2導電型クラッド層18は単層からなるものであっても複数層からなるものであってもよく、その厚さの総和は好ましくは0.2〜4μm、より好ましくは1〜3μmである。
【0037】
第2導電型クラッド層18の上にはコンタクト層19を形成する。コンタクト層19は、電極を形成する場合に接触抵抗を低くするために形成するものであり、第2導電型クラッド層18と同一の導電型を有するものが好ましい。
このとき、コンタクト層19の材料は、通常はクラッド層よりバンドギャップが小さい材料の中から選択し、金属電極とのオーミック性を取るため低抵抗で適当なキャリア密度を有するのが好ましい。キャリア密度の下限は、1×1018cm-3以上が好ましく、3×1018cm-3以上がより好ましく、5×1018cm-3以上が最も好ましい。上限は、2×1020cm-3以下が好ましく、5×1019cm-3以下がより好ましく、3×1019cm-3以下が最も好ましい。コンタクト層の厚みは、0.1〜10μmが好ましく、1〜8μmがより好ましく、2〜6μmがもっとも好ましい。
【0038】
本発明のダブルへテロ構造では、前記したようにマトリクス層が光ガイド層として機能する場合があり、図1には示されていないが、さらに活性層20とクラッド層の間にマトリクス層とは別の光ガイド層を有するものであってもよい。光ガイド層の材料は、マトリクス14,17よりも禁制帯幅が大きく、屈折率が小さいものであり、かつ光を活性層20へ収束できるものであれば特に限定されない。例えば、(AlxGa1-x0.51In0.49Pを組成材料として挙げることができる。
【0039】
以上、図1に示される具体的な態様を参照しつつ本発明の量子ドット構造体を具体的に説明したが、請求の範囲にて特定されていない事項については目的や用途に応じて適宜改変することができる。
【0040】
本発明を半導体レーザとして利用する場合には、例えば、情報処理用光源(通常AlGaAs系(波長780nm近傍)、AlGaInP系(波長600nm帯)、通信用信号光源(通常GaInAsPあるいはGaInAsを活性層とする1.3μm帯)、レーザなどの通信用半導体レーザ装置など多用な装置として利用することもできる。また、半導体レーザとして使用する場合には、リッジ埋込型構造、セルフアライン型構造など各種の構造の半導体レーザとして使用することができる。
【0041】
次に本発明の量子ドット構造体の形成方法について説明する。
本発明の量子ドット構造体の形成方法は、III−V族元素からなる第1の化合物半導体層中にIII−V族元素からなる第2の化合物半導体の量子ドット構造体を形成する方法であって、 前記第1の化合物半導体層の表面に前記第1の化合物半導体を構成するV族元素とは異なるV族元素を供給し、該供給されたV族元素を前記第1の化合物半導体層と反応させることにより、前記第2の化合物半導体からなる量子ドットを形成することを特徴とする。
【0042】
本発明の量子ドット構造体の形成方法では、先ず第1の化合物半導体層の表面に該第1の化合物半導体を構成するV族元素とは異なるV族元素が供給される。供給されるV族元素としては、第1の化合物半導体層を構成するV族元素とは異なるものを適宜選択することができる。例えば第1の化合物半導体が(AlxGa1-xyIn1-yP(0≦x≦1,0≦y≦1)で構成される場合は、少なくともP以外のV族元素を含むように選択する。例えば、As単独でもよいし、AsとPの混合物でもよい。特にAsを単独で用いるのが好ましい。またV族元素の供給方法については、最終的に量子ドット構造が形成できるものであれば特に限定されない。このような供給方法としては、例えば、分子線エピタキシー(MBE)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法などが挙げられる。
【0043】
供給されたV族元素は、次いで第1の化合物半導体の表面およびその近傍に存在するV族元素と反応して、一部のV族元素間で置換が起こる。この置換反応後の化合物半導体の格子定数は、置換前の第1の化合物半導体とは異なったものとなる。このため置換後の化合物半導体と第1の化合物半導体との間において格子歪を生ずるようになり、置換後の化合物半導体、すなわち第2の化合物半導体からなる量子ドットを形成するようになる。この間、III族元素の供給は必要とされない。このように本発明の量子ドット構造体の形成方法では、量子ドットの形成時にIII族元素の供給が不要となるため、III族元素の供給速度、堆積量、V族とIII族の供給比率などの成長パラメータの精密な制御も不要となる。
【0044】
上記V族元素間の置換反応は、反応する第1の化合物半導体を構成するV族元素の種類及び供給されるV族元素の種類、供給時間、単位時間あたりの供給量、基板温度などの各種のファクターを適宜変更することにより制御することができる。このため形成される量子ドットの大きさ、密度及び出力波長のピークなどが制御しやすくなる。具体的には、単位面積あたりの量子ドットの個数を調整する場合には、第1の化合物半導体中に5x109〜5x1011個/cm2、より好ましくは1x1010〜2x1011個/cm2の量子ドットを形成することができる。また、量子ドットの大きさについては、好ましくは10〜100nm、より好ましくは、さらに好ましくは20〜50nmの大きさに調整することができる。
【0045】
本発明の量子ドット構造体の形成方法は、少なくとも1回行うものであれば、2回以上繰り返して行ってもよい。とくに前記活性層20の積層回数を増やす場合には、本発明の形成方法を積層数だけ繰り返すことで活性層20の形成が可能となる。好ましくは3回以上であり、5回以上行えばさらに好ましいものとなる。
【0046】
本発明の半導体デバイス装置を製造する方法は特に制限されない。いかなる方法により製造されたものであっても、上記請求項1の要件を満たすものであれば本発明の範囲に含まれる。
本発明の半導体デバイス装置を製造する際には、従来から用いられている方法を適宜選択して使用することができる。
【0047】
本発明の半導体デバイス装置の製造方法としては、図1に示す構造体においては、まず基板11上にバッファー層12を形成した後、第1導電型クラッド層13を形成し、次いで、活性層20をマトリクス層14、量子ドット15、中間層16及びマトリクス層17の順に形成し、さらに、第2導電型クラッド層18及びコンタクト層19を形成する工程を例示することができる。この製造方法の詳細やその他の製造方法については、以下の実施例や関連技術文献から理解することができる。
【0048】
【実施例】
以下に具体例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0049】
(実施例1)
分子線エピタキシー(MBE)法を用いてGaInPマトリクス中にGaInAsP量子ドット構造体を形成した。
原料はIII族元素としては、金属Ga、In、及びAlを用いた。またV族元素としては、固体As及びPを用い、バルブドクラッカーセルによりフラックスを制御した。As分子線はバルブドクラッカーセルにより金属AsからAsテトラマー分子(As4)を蒸発させ、それを900℃程度で熱分解させ、ほとんどAsダイマー分子(As2)からなるものを用いた。GaAsの表面温度はGaAs酸化膜が蒸発する温度で校正されたパイロメーターで測定した。成長速度はRHEED(反射高エネルギー電子回折)振動により測定した。
【0050】
MBE装置内において、表面が(100)面である厚さ350μmのn型GaAs(n=1×1018cm-3)基板101の表面の酸化膜を除去し、650℃でサーマルクリーニングを行った後、基板温度580℃で厚さ100nm程度のn型GaAs(Siドープ)バッファー層102を形成した。次いでその上にn型GaAsに格子整合する厚さ200nmのn型Al0.51In0.49Pクラッド層103を成長速度1.5μm/h、基板温度500℃で形成し、さらに50nmのGa0.51In0.49P(ノンドープ)マトリクス層104を成長速度1.5μm/h、基板温度500℃で形成した(図2(a))。
【0051】
次にGa0.51In0.49P(ノンドープ)マトリクス層104の表面に強度1x10-4PaのAs分子線を40秒間照射した。これによりGa0.51In0.49Pマトリクス層104表面近傍のP原子とAs原子の置換が生じ、表面下側方向にGa0.51In0.49Pマトリクス層104とは異なる格子定数をもつGaInAsP層が形成され始め、格子不整合による歪によりGaInAsP量子ドット105が形成された(図2(b))。この時のウエハー表面を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した像を図3に示した。図3に示すように大きさ30nm程度、密度1.5x1010個/cm2程度のGaInAsP量子ドット105が形成されていることが確認された。
【0052】
さらに量子ドット105上に厚さ2.7nm(10原子層)のGaAs(ノンドープ)中間層106を成長速度0.5μm/h、基板温度500℃で成長させGaInAsP量子ドット105を覆った後に、厚さ50nmのGa0.51In0.49Pマトリクス層107を成長速度1.5μm/h、基板温度500℃で形成した(図2(c))。次に厚さ200nmのp型Al0.51In0.49P(Beドープ:n=1×1018cm-3)クラッド層108を成長速度1.5μm/h、基板温度500℃で形成し、最後に厚さ5nmのp型GaAs(Beドープ:n=5×1018cm-3)キャップ層109を形成した(図2(d))。
【0053】
(実施例2)
図4は室温における上記の量子ドット構造体のフォトルミネッセンス(PL)のスペクトルを示したものである。図4が示すように、本発明の量子ドット構造体の発光スペクトルは990nm近傍にピークをもち、GaInAsPからなる量子ドット105が形成されていることを確認できた。
【0054】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で量子ドット構造体を形成した。但し、Ga0.51In0.49Pマトリクス層の表面へのAs分子線の照射については、As分子線の強度は変えずに照射時間を90秒と増加させた。このようにして形成された量子ドット構造体のPLスペクトルを図5に示す。図5が示すように、As分子線の照射時間を増加した場合(40秒→90秒)、発光ピークは長波長側へシフトし、1020nm近傍に発光ピークがあることが認められた。これよりAs分子線の照射時間を調整することにより量子ドット構造体の遷移エネルギーを制御できることが確認された。
【0055】
(実施例4)
実施例1及び3と同様の方法により量子ドット構造体を形成した。但し、Ga0.51In0.49Pマトリクス層の表面へのAs分子線の照射については、照射時間を変えずに強度を4x10-4Paに増加させた。このようにして形成された量子ドット構造体のPLスペクトルを図6に示す。図6が示すように、発光ピークのPL強度は異なっているが、ピーク波長は990nmにあり、実施例2のピークとほぼ同じであった。これよりAs分子線強度の変動(1x10-4Paから4x10-4Pa)によっては量子ドット構造体の波長はほとんど影響を受けないことが分かった。
以上の実施例から本発明によればGa0.51In0.49Pマトリクス層の表面にAs分子線を照射するだけで量子ドット構造体を形成することができるため、従来の形成方法に比べて量子ドット構造体を簡便に制御性よく作製できることが確認された。
【0056】
【発明の効果】
本発明の量子ドット構造体は、量子ドットの大きさ、密度及び発光ピークの制御性及び安定性に優れた量子ドット構造体を提供することができる。
また、本発明の量子ドット構造体の形成方法は、III族元素を供給せずに量子ドット構造体を形成できるので、従来の方法に比べて量子ドット構造体の作製を簡便に行うことができる。また、本発明の量子ドット構造体の形成方法であれば、量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置の製造も簡易となるため、製造効率を上げることができるとともに、歩留まりも向上させることができる。
さらに本発明の量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置は、所望の発光ピークを有することが可能となる。また、半導体デバイス装置の製造において、製造時間を短縮と製造コストの低廉を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置の断面図である。
【図2】 本発明の量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置の一実施例の製造工程を示す概略説明図である。
【図3】 実施例における本発明の量子ドット構造体をAFM顕微鏡で観察したAFM像を示す説明図である。
【図4】 実施例における本発明の量子ドット構造体からのフォトルミネッセンス(PL)を表す説明図である。
【図5】 実施例における本発明の量子ドット構造体の形成時にAs分子線照射時間を変えた場合のPLスペクトルを表す説明図である。
【図6】 実施例における本発明の量子ドット構造体の形成時にAs分子線強度を変えた場合のPLスペクトルを表す説明図である。
【符号の説明】
11 基板
12 バッファー層
13 第1導電型クラッド層
14 マトリクス層
15 量子ドット
16 中間層
17 マトリクス層
18 第2導電型クラッド層
19 コンタクト層
20 活性層
101 n型GaAs基板
102 n型GaAsバッファー層
103 n型Al0.51In0.49Pクラッド層
104 Ga0.51In0.49Pマトリクス層
105 GaInAsP量子ドット
106 GaAs中間層
107 Ga0.51In0.49Pマトリクス層
108 p型Al0.51In0.49Pクラッド層
109 p型GaAsキャップ層

Claims (14)

  1. III−V族元素からなる第1の化合物半導体層中にIII−V族元素からなる第2の化合物半導体の量子ドットを有する量子ドット構造体であって、
    第1の化合物半導体層を構成する III 族元素と第2の化合物半導体を構成する III 族元素は同一の元素であり、
    前記量子ドットを形成する第2の化合物半導体は、第1の化合物半導体層を構成するV族元素と第1の化合物半導体層を構成するV族元素とは異なるV族元素とを含有していることを特徴とする量子ドット構造体。
  2. 前記第1の化合物半導体層が(AlxGa1-xyIn1-yPで構成され、前記第2の化合物半導体が(AlxGa1-xyIn1-yAsz1-Zで構成されること(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0<z≦1)を特徴とする請求項1に記載の量子ドット構造体。
  3. 前記第2の化合物半導体からなる量子ドットが5x109〜5x1011個/cm2で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の量子ドット構造体。
  4. 前記第2の化合物半導体からなる量子ドットの大きさが10〜100nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の量子ドット構造体。
  5. 前記第2の化合物半導体を構成するV族元素の少なくとも1種を含む化合物からなる中間層が、前記第2の化合物半導体とその上に形成される第1の化合物半導体層との間に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の量子ドット構造体。
  6. 前記中間層の厚さが1原子層〜10nmであることを特徴とする請求項5に記載の量子ドット構造体。
  7. III−V族元素からなる第1の化合物半導体層中にIII−V族元素からなる第2の化合物半導体の量子ドットを有する量子ドット構造体を形成する方法であって、
    前記第1の化合物半導体層の表面に前記第1の化合物半導体を構成するV族元素とは異なるV族元素を供給し、該供給されたV族元素を前記第1の化合物半導体層のV族元素置換反応させることにより、前記第2の化合物半導体からなる量子ドットを形成する工程を含むことを特徴とする前記方法。
  8. 前記第1の化合物半導体層を構成する III 族元素と前記第2の化合物半導体を構成する III 族元素が同一の元素であることを特徴とする請求項7に記載の量子ドット構造体の形成方法。
  9. 前記第1の化合物半導体層が(AlxGa1-xyIn1-yP(0≦x≦1,0≦y≦1)で構成され、前記供給されるV族元素がAsである請求項7または8に記載の量子ドット構造体の形成方法。
  10. 請求項1〜のいずれか一項に記載の量子ドット構造体又は請求項のいずれか一項に記載の量子ドット構造体の形成方法により得られた量子ドット構造体を有する半導体デバイス装置。
  11. 請求項1〜のいずれか一項に記載の量子ドット構造体又は請求項のいずれか一項に記載の量子ドット構造体の形成方法により得られた量子ドット構造体を活性層として有し、かつ、前記第1の化合物半導体層よりも禁制帯幅が大きく、屈折率が小さい第3の化合物半導体層をクラッド層としたダブルヘテロ構造を有する半導体デバイス装置。
  12. 請求項1〜のいずれか一項に記載の量子ドット構造体又は請求項のいずれか一項に記載の量子ドット構造体の形成方法により得られた量子ドット構造体をさらに光ガイド層として有することを特徴とする請求項11に記載の半導体デバイス装置。
  13. 前記半導体デバイス装置が半導体発光素子であることを特徴とする請求項11又は12に記載の半導体デバイス装置。
  14. 前記半導体発光素子が半導体レーザであることを特徴とする請求項13に記載の半導体デバイス装置。
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