JP4086276B2 - 水溶性防汚塗料 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水溶性防汚塗料に関し、詳しくは、トイレ、キッチン、風呂場、食器等の汚れを防止するセラミックスに好適に用いられる水溶性防汚塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、トイレ、キッチン等のタイルなどに用いられるセラミックスなどの素材を汚れにくくするため、その表面に撥水性の大きいフッ素樹脂やシリコーンをコーティングして水による汚れを防止することは、広く行われている。
しかし、各種シリコーンを用いるとコートは簡便にできるが、水を流したり拭いたりすると簡単に剥離してしまい、効果の持続に大きな問題がある。
【0003】
また、フッ素樹脂等の塗料は、溶剤に溶かしてコーティングするため簡便にコートすることが難しい。また、均等にコートするためには大掛かりな装置が必要となったり、既成のものにコートするには熟練した技術が必要となるなど、経済的に不利となる。
【0004】
これらのことからトイレ、風呂場のタイル等のセラミックス製品等に付着する汚れを防止し、又は簡単に除去できるようにするために、セラミックス等の表面に簡便にコートでき、そして耐久性のあるコーティング剤の出現が待たれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、撥水効果により汚れ防止及びその汚れを簡単に除去できる密着性および耐久性に優れた塗膜を、タイル等のセラミックス素材などに簡便にかつ均一に形成することができる水溶性防汚塗料を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
トイレや風呂場等の汚れの原因は、主として人体からの分泌および排泄による汚れであり、その汚れの成分は炭水化物、たんぱく質、脂質、水分などの混合物である。そして、その多くが炭水化物及びたんぱく質である。
【0007】
排泄による汚れの場合の炭水化物はほとんどが固形分であり、また、脂質は固形分の中にほとんど含有されているため、水を流すと簡単に流れ落ちやすい。そして、汚れが落ちにくい脂質も、汚れの落ちやすいたんぱく質すなわち水溶性のたんぱく質と混ざっていると落ちやすくなることは良く知られている。
【0008】
しかし、水溶性のたんぱく質でも付いてから時間が経過したり、熱がかかったり、酸や溶剤に触れたりすると、たちまち不溶性となり落ちにくくなる。そして、付着したたんぱく質は、微生物の栄養源となり、かびなどの原因となる。
【0009】
したがって、たんぱく質が不溶性になる前に水により洗い流せばセラミックスなどの表面に付着する汚れを防止することが可能となり、また、付着した汚れも簡単に落とすことができる。
【0010】
これらの汚れをセラミックスなどの表面に付きにくくさせるには、汚れとセラミックス間の界面張力を小さくする必要がある。つまり、汚れが付いた状態より汚れが離れているほうが自由エネルギーが低くて安定であるような状態にすればよい。すなわち、炭水化物、たんぱく質、油脂などの人体からの分泌および排泄による汚れを取り除くには、水を流したときに簡単に取り除けるように基質を撥水性にすればよい。
【0011】
したがって、セラミックスなどの表面に、該表面より撥水性の大きい物質をコートすることにより、人体からの分泌および排泄による汚れを防止することができる。
【0012】
一般的に、シリコーン、フッ素系高分子などの極性の低い官能基をもつ物質ほど撥水効果が大きくなる。
そして、シランカップリング剤はセラミックス等に塗布すると、化学結合を起こして撥水性の被膜が表面に形成される。
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、シランカップリング剤を脱イオン水に配合した水溶性塗料を用いれば、セラミックス等の表面との密着性及び耐久性に優れているのみならず、該表面への汚れ付着防止効果及び汚れの除去効果が格段に改善された撥水性塗膜を、該表面に簡便に且つ均一に形成することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(7)に示す水溶性防汚塗料に関する。
(1)塗膜形成成分が実質的にシランカップリング剤単体からなるセラミックス(ガラスを除く)用塗料であって、下記一般式(I)で表されるシランカップリング剤を、全アニオン量が700mgCaCO3/リットル以下の脱イオン水に、0.01〜6重量%配合してなることを特徴とする、水溶性防汚塗料。
【0015】
【化2】
Figure 0004086276
【0016】
(式中、Xは有機材料と反応性もしくは相溶性のある基を表す。R1、R2、R3は、各々独立してOH基又は加水分解してシラノールを生成しうる基の中から選ばれ、相互に同一でも異なっていてもよい。)
【0017】
(2)前記セラミックスが陶磁器、焼結炭化ケイ素、焼結窒化ケイ素、焼結炭化ホウ素、及び焼結窒化ホウ素からなる群から選択されるものである、(1)記載の水溶性防汚塗料。
(3)陽イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤を0.005〜3.5重量%含有する、(1)又は(2)記載の水溶性防汚塗料。
(4)さらにアルコールを1〜10重量%含有してなることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
(5)さらに酢酸又は酢酸とアルコールの混合物を0.1〜2重量%含有してなることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
(6)前記シランカップリング剤がN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシランである、(1)〜(5)のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
(7)前記脱イオン水の全アニオン量が51.3〜600mgCaCO3/リットルであることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の水溶性防汚塗料は、シランカップリング剤を脱イオン水に配合してなることを特徴とする。すなわち、本発明の水溶性防汚塗料は、基材である水にシランカップリング剤を溶解させたものである。
【0019】
(1)シランカップリング剤
本発明で用いられるシランカップリング剤は、下記一般式(I)で表されるものである。
【0020】
【化3】
Figure 0004086276
【0021】
ここで、式(I)中、Xはアミノアルキル基を表す。R1、R2、R3は、各々独立してOH基又は加水分解してシラノールを生成しうる基の中から選ばれ、相互に同一でも異なっていてもよい。
【0022】
X基の具体例としては、アミノ基、アミノアルキル基、ビニル基、エポキシ基、グリシドキシ基、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基等、及びこれらの基を含有するアルキル基などの有機基が挙げられる。
【0023】
1、R2、R3基の具体例としては、OH基の他、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリルオキシ基、ハロゲン基等が挙げられる。好ましくは、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、あるいは塩素等のハロゲン基である。
【0024】
かかるシランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ν−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ν−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ν−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロへキシルエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(βアミノエチル)γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(βアミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(βアミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
シランカップリング剤を水に溶解すると、水溶液中でシラノール基の縮合反応が起こってゲル化しやすいため、脱イオン水にシランカップリング剤を配合した後は、早めに塗布するのが好ましい。
【0026】
シランカップリング剤のなかには、加水分解しにくいものもあるので、そのような場合は酢酸や酢酸とアルコールの混合物を0.1〜2重量%程度混合させて加水分解速度を速めることもできる。なお、エポキシ基を含有するシランカップリング剤は、水単独または水とアルコールでは加水分解が進まない場合があるので、そのときは触媒を用いるとよい。
【0027】
アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(βアミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(βアミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(βアミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノアルキル基を含有するシランカップリング剤は、通常、加水分解速度が速く、触媒も不要である。そして、アミノ基との相互作用により、水溶液中で安定にゲル化するまでに時間がかかる。したがって、長期保存して使用する場合には、アミノアルキル基を含有するシランカップリング剤を用いるのが好ましい。ただし、あまり長く保存するとアミノ基が酸化されてNO2となり赤や黄色に呈色するため、長期保存して使用する場合には、酸化防止剤等を併用するのが好ましい。
【0028】
かかるシランカップリング剤は、所望により当業技術者により容易に合成できる。また、各種市販品を使用することもでき、例えば商品名「KBE403」、「KBM603」、「KBM6123」(いずれも信越化学工業株式会社製)などが入手可能である。
【0029】
シランカップリング剤はセラミックス等の素材に塗布すると、素材と化学結合し、撥水性の被膜が表面に形成される。すなわち、シランカップリング剤を水に溶解すると加水分解してシラノール基となり、定温で乾燥中に重合が起こって鎖状のポリシロキサンの被膜を素材表面に形成する。よって、セラミックス等の表面には、撥水性のポリシロキサンの被膜が形成される。
【0030】
なお、一般に−OH基、−COOH基、−C=O基、−COOCH3基のような極性基群をもつと、例えばエポキシ、ブチラ−ル、ポリビニルアセテート、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチルなどのように、親水性が大きくなることはよく知られている。したがって、このような親水性をもたらす極性基をもつシランカップリング剤を用いる場合には、撥水効果を保つため、有機材料と反応性あるいは相溶性のある基すなわち上記一般式(I)中のX基を、事前に撥水性の物質と反応あるいは相溶させておくことが好ましい。そのような撥水性の物質としては、例えば、極性の低いシリコーン、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
また、上記一般式(I)中のX基に対し撥水性の大きい染料や香料を反応あるいは相溶して、色つきや臭いつきの水溶性防汚塗料を製造することもできる。
【0031】
シランカップリング剤とセラミックスとの反応については明確でない部分も多いが、シランカップリング剤のアルコキシシリル基(Si−OR)は、水に溶解するとただちに加水分解されシラノ−ル基となりセラミックスと結合し、Si−O−M(セラミックス)結合が形成されると考えられる。そして、セラミックス表面にはシラノール基が定温で乾燥中に重合が起こり鎖状のポリシロキサンの被膜を形成する。その表面を覆ったポリシロキサンの膜とセラミックスとはカップリング反応によるもので、単にセラミックスにポリマーが密着するのとは異なり、密着性に非常に優れた塗膜を形成することができる。そして、このポリシロキサンの被膜が、意外にも、セラミックスへの汚れの付着防止、及び汚れの除去に関し格段に優れた効果を発揮する。
【0032】
尚、上記式で表されるシランカップリング剤はポリマーと配合してメタリック塗料組成物(特公平6−19080)や撥水型防汚塗料組成物(特開平6−192596)として使われているが、シランカップリング剤単体を用いて防汚塗料とした事例はなく、さらに、それを水溶性にした防汚塗料の事例はない。
【0033】
(2)脱イオン水
本発明の水溶性防汚塗料に用いられる基材である水は、全アニオン量が700mgCaCO3/リットル以下の脱イオン水である。
すなわち、シランカップリング剤を混合する前の水(他の任意成分をすべて溶解した後)の全アニオン量が700mgCaCO3/リットル以下、好ましくは、600mgCaCO3/リットル以下、さらに好ましくは580mgCaCO3/リットル以下とする。
【0034】
水中でシラノール基は、懸濁している無機物(金属・セラミックス)及びその化合物や溶解している無機物(金属・セラミックス)及びその化合物等と結合する。そして、水中で塩を構成している無機イオン、例えばCa2+、Na+、K+、Mg2+、Fe2+、Fe3+などと結合する。そして、シラノール基は弱酸性で陽イオン交換能をもつため、水中に遊離している陰イオンが存在するとシラノール基と反応する。
【0035】
したがって、シランカップリング剤を溶解する水は、ろ過およびイオン交換等の方法を用いて水中の無機物の懸濁物および水中に溶解している無機イオン、遊離している陰イオンを除去したものを用いる必要がある。すなわち、全カチオン及び遊離している陰イオンを一定範囲以下に除去した脱イオン水を用いる必要がある。
【0036】
中性の水中においてカチオンは全て塩を構成している。したがって、カチオンの量を測定するにはアニオンの量を測定すればよい。そして、過マンガン酸カリウムにより酸化滴定すると塩構成アニオンと水中に遊離している陰イオン(遊離炭酸・ケイ酸等)も測定することができる。すなわち、全アニオン(塩構成アニオン+遊離している陰イオン)を測定することにより全カチオン及び遊離している陰イオンの測定ができる。したがって、ここでいう全アニオンとは、全カチオン(塩構成カチオン)+遊離している陰イオンのことをいう。
【0037】
本発明においては、測定した全アニオン量の単位として、過マンガン酸カリウム消費量をCaCO3の量に換算した「mgCaCO3/リットル」を用いた。よって、過マンガン酸カリウムによる方法以外の方法により全カチオン及び遊離している陰イオンの量を測定して求めた数値であっても、それをCaCO3の量に換算すれば本発明の全アニオン量(mgCaCO3/リットル)を求めることができる。なお、イオン除去方法は、ろ過や、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂等を用いたイオン交換等、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0038】
また、水中に有機物が存在すると上記一般式(I)中のX基と反応または相溶するため、有機物を除去した水を用いるのが好ましい。さらに、水中に有機物等が存在すると過マンガン酸カリウムを消費するので、過マンガン酸カリウム消費量の測定は、水中の有機物を取り除いた後に測定する必要がある。なお、有機物の除去も、ろ過やイオン交換等の方法で行うことができる。
【0039】
(3)シランカップリング剤の濃度
本発明の防汚塗料中におけるシランカップリング剤の濃度は、脱イオン水全量に対し、0.01〜6重量%、特に好ましくは0.01〜5重量%である。
【0040】
一般的にシラノ−ル基は水溶液中では非常に不安定で、経時変化によりシラノ−ル基の縮合反応が起こり、ゲル化する。シラノ−ル基がゲル化してポリシロキサンとなると,セラミックス面とのSi−O−M結合が困難となり防汚塗膜の形成が容易にできなくなる。そして、水に溶解しているシラノ−ル基の濃度が高いほど縮合反応は起こりやすくなる。一方、水に溶解するシランカップリング剤の量が少ないと、逆にシラノ−ル基の濃度が低くなりすぎ、ポリシロキサンの防汚被膜の形成が難しくなる。これらのことから、水に溶解するシランカップリング剤の量は、脱イオン水全体に対し上記範囲とするのがよい。
【0041】
(4)その他の任意成分
本発明の防汚塗料をセラミックスに塗るときに、はじきやく均等に塗りずらい場合には、濡れ性を大きくして塗りやすくするのが好ましい。濡れ性を大きくするには界面活性剤が有効であり、その種類等には特に制限はないが、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いると陰イオンとシラノール基が反応する場合があるため、通常は陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0042】
陽イオン界面活性剤としては、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、塩化(又は臭化、ヨウ化)アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウム等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0043】
一般的に界面活性剤は、臨界ミセル濃度以上の濃度で初めて界面活性剤としての本当の性質が表れるが、本発明の防汚塗料においては、セラミックス面に均等に塗ることができればよい。しかし、一方で、界面活性剤を大量に入れすぎるとヌリムラの原因となる場合がある。したがって、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤の濃度は、脱イオン水全量に対し0.005〜3.5重量%、好ましくは、0.01〜2重量%程度とするのが好ましい。
【0044】
また、これらの防汚塗料には、腐敗防止や加水分解促進等のため、メチルパラベンやアルコール、あるいはシランカップリング剤と反応あるいは相溶しない腐敗防止剤や酸化防止剤等を、必要に応じて含有させることができる。
アルコールを使用する場合は、メタノール、エタノール、IPA等の低級アルコールを1〜10重量%程度用いるのが好ましい。
【0045】
(5)水溶性防汚塗料の製造方法
本発明の水溶性防汚塗料は、上記脱イオン水にシランカップリング剤を、必要に応じて他の任意成分とともに配合し溶解することにより得られる。配合の順番は特に制限はないが、ゲル化防止等の観点から、他の任意成分を配合した後にシランカップリング剤を配合するのが好ましい。
【0046】
より好ましくは、脱イオン水にシランカップリング剤を添加後、または、メタノール、エタノール等の低級アルコールにシランカップリング剤を溶解後に脱イオン水を添加した後、必要に応じて酢酸、塩酸、Sn等の加水分解触媒を添加して、攪拌、超音波振動等を加えてシランカップリング剤溶液を調製する。
【0047】
(6)用途
本発明の防汚塗料は、セラミックス等の素材の表面に塗布し、乾燥させることにより簡便に防汚塗膜を形成することができる。
本発明の防汚塗料に用いられるシランカップリング剤のSi−OH基は、セラミックスばかりでなく、Al、Si、Feなどの金属や無機物とも反応するため、この防汚塗料は、鉄板・ステンレス・アルミ・ガラス繊維を含有しているFRP樹脂板等の各種物質にも撥水性の防汚塗膜を形成することができる。
【0048】
すなわち、塗布しうる基体としては、セラミックス(ガラスを除く)である。セラミックスの例としては、陶磁器、焼結炭化ケイ素、焼結窒化ケイ素、焼結炭化ホウ素、及び焼結窒化ホウ素を挙げることができる。」
【0049】
金属の例としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、金、銀、クロム、ゲルマニウム、モリブデン、ニッケル、鉛、白金、ケイ素、チタン、トリウム、タングステンのような単体金属や、炭素鋼、ニッケル鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、黄銅、青銅のような合金を挙げることができる。
【0050】
金属酸化物の例としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、トリア、ジルコニア、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉛などを挙げることができる。
【0051】
プラスチックスの例としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酢酸セルロース樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アイオノマー、塩素化ポリエーテル、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールスルホン、ポリエーテル・エーテルケトン、ガラス繊維含有FRP樹脂などを、またゴム類の例としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどをそれぞれ挙げることができる。
【0052】
その他、花崗岩、大理石などの鉱石類、煉瓦、コンクリート等の窯業製品、スギ、マツ、ヒノキなどの木材、綿布、麻布、パンヤ布、紙などの繊維製品、皮革類なども所望に応じ用いることができる。
【0053】
シランカップリング剤による処理の方法は、通常、湿式処理または乾式処理がある。本発明の防汚塗料の塗布方法は、いずれの方法によるものであってもよく、素材表面に塗膜を形成するのに慣用されている種々の方法の中から任意に選ぶことができる。
【0054】
このようにして形成される防汚塗膜は、セラミックス等の素材との密着性及び耐久性に優れるだけでなく、汚れの付着防止効果が高く、付着した汚れも簡単に除去することができる。
【0055】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0056】
【実施例1】
陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を用いて精製した水にCaCO3、NaCl、KCl、MgSO4、FeSO4の塩構成物、および遊離酸としてSiO2を混合した、全アニオンがそれぞれ51.3、102.7、302.5、558.9、750(単位はいずれも「mgCaCO3/リットル」)の脱イオン水を作成した。
この水にN−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名「KBM603」:信越化学株式会社製)を溶解して0.001%、0.005%、0.01%、0.1%、1.0%、3.0%、5.0%、6.0%(いずれも重量%;以下同様)の溶液を作成した。次に、その溶液を60℃に保った恒温槽の中に入れ、24時間経過後の溶液のゲル化の状態を目視により確認した。この結果を表1に示す
【0057】
【表1】
Figure 0004086276
【0058】
全アニオンが700mgCaCO3/リットルを超える脱イオン水にシランカップリング剤N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBM603:信越化学株式会社製)を6.0%混合させると、ゲル化することが分かる。
【0059】
【実施例2】
実施例1で作成した脱イオン水に酢酸を1.2重量%混合した溶液に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403:信越化学株式会社製)を溶解して0.001%、0.005%、0.01%、0.1%、1.0%、3.0%、5.0%、6.0%の溶液を作成した。次に、その溶液を60℃に保った恒温槽の中に入れ、24時間経過後の溶液の状態を目視により確認した。この結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
Figure 0004086276
【0061】
全アニオンが700mgCaCO3/リットルを超える脱イオン水にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403:信越化学株式会社製)を6.0%混合させると、ゲル化することが分かる。
【0062】
【実施例3】
実施例1で作成した脱イオン水にシランカップリング剤(KBM6123:信越化学株式会社製)を溶解して0.001%、0.005%、0.01%、0.1%、1.0%、3.0%、5.0%、6.0%の溶液を作成した。次に、その溶液を60℃に保った恒温槽の中に入れ、24時間経過後の溶液の状態を目視により確認した。この結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
Figure 0004086276
【0064】
全アニオンが700mgCaCO3/リットルを超える脱イオン水にシランカップリング剤(KBM6123:信越化学株式会社製)を6.0%混合させると、ゲル化することが分かる。
【0065】
【実施例4】
実施例1で用いた全アニオン51.3mgCaCO3/リットルの水にN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBM603:信越化学株式会社製)を溶解して0.001%、0.005%、0.01%、0.1%、1.0%、3.0%、5.0%、6.0%の溶液を作成した。この溶液を、縦5cm、横10cmの大きさのタイル及びガラスに塗布し、自然乾燥させた。次に、5ccのスポイトを用いて、平衡に置いた未塗布および塗布乾燥させたタイルおよびガラスの上に、溶液を1cmの高さから1滴落とし、メジャーを用いて水滴の直径を測定した。この結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
Figure 0004086276
【0067】
濃度0.01%以上のシランカップリング剤をタイルおよびガラスに塗布すると撥水効果が向上することが分かる。
【0068】
【実施例5】
縦5cm、横10cmの大きさのタイルおよびガラスを各々4個用意した。実施例4で用いた0.005%、0.01%、0.1%の溶液に、前記タイル及びガラスを浸してドブ漬により塗布し、100℃に設定した乾燥機に入れて1時間乾燥させた。一方、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を用いて精製した100gの水に水溶性染料(商品名「ピュア・ブルー」;日本化薬株式会社製)を0.1g溶解して0.1%の溶液を作成した。
次に、この染料を溶解した水に、ドブ漬により塗布したタイルを10秒間浸漬させ、100ccの水で洗い流した後の汚れを目視により観測した。次に、水で洗い流した後のタイルおよびガラスを100℃に設定した乾燥機に入れて1時間乾燥させた。そして、汚れを一度拭き取り、その汚れを目視により観測した。この結果を表5に示す。
【0069】
【表5】
Figure 0004086276
【0070】
濃度0.01%以上のシランカップリング剤をタイルおよびガラスに塗布すると防汚効果および汚れの除去効果が向上することが分かる。
【0071】
【実施例6】
縦52cm、横24cmの大きさの同一のタイル製の和式便器を4個用意し、実施例4で用いた0.005%、0.01%、0.1%の溶液をスプレーで塗布し、5分後に乾いたタオルで拭いた。そして、400gのジャガイモを蒸かしてすり潰したものに市販の牛乳を100g、そして、市販の牛脂4gを混ぜたものを作成した。次に、作成したジャガイモと牛乳と牛脂の混合したものを100gずつ貼り付けた。次に、水により洗い流した。そして、洗い流した後の汚れの状態を目視により観測した。次に、乾いたタオルを用いて汚れを一度拭き取り、その後の汚れを目視により観測した。この結果を表6に示す。
【0072】
【表6】
Figure 0004086276
【0073】
濃度0.01%以上のシランカップリング剤をタイル製の和式便器に塗布するとセラミックス面に被膜が形成され、ジャガイモ、牛乳、牛脂の混合の汚れに対しての防汚効果および拭き取りによる汚れの除去効果が向上することが分かる。
【0074】
【実施例7】
縦52cm、横24cmの大きさの同一のタイル製の和式便器を4個用意し、実施例1で作成したゲル化なしの溶液、ゲル化少しありの溶液、ゲル化が多い溶液をスプレーで塗布し、5分後に乾いたタオルで拭いた。そして、400gのジャガイモを蒸かしてすり潰したものに市販の牛乳を100g、そして、市販の牛脂4gを混ぜたものを作成した。次に、作成したジャガイモと牛乳と牛脂の混合したものを100gずつ貼り付けた。そして、水により洗い流した。洗い流した後の汚れの状態を目視により観測した。次に、乾いたタオルを用いて汚れを一度拭き取った後の汚れを目視により観測した。この結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
Figure 0004086276
【0076】
セラミックス面にシランカップリング剤による被膜が形成されると、ジャガイモ、牛乳、牛脂の混合の汚れに対しての防汚効果および拭き取りによる汚れの除去効果が向上することが分かる。そして、シラノール基のゲル化が多くなりシラノール基が減少すると塗膜が形成されず防汚効果および汚れの除去効果が減少することが分かる。
【0077】
【実施例8】
縦5cm、横10cmの大きさの同一のタイルを3個用意した。全アニオンが51.3mgCaCO3/リットルの脱イオン水にシランカップリング剤N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBM603:信越化学株式会社製)を溶解して実施例1で作成した0.01重量%の溶液(試料1)と、ジメチルシリコーンオイル(信越化学株式会社製)(試料2)を用いて、前記タイルをドブ漬により塗布し、100℃に設定した乾燥機に入れて1時間乾燥させた。
【0078】
一方、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を用いて精製した100gの水に水溶性染料(商品名「ピュア・ブルー」;日本化薬株式会社製)を0.1g溶解して、0.1%の溶液を作成した。
次に、この染料を溶解した水に未塗布のタイルと試料1と試料2を塗布し乾燥させたタイルを10秒間浸漬させ、100ccの水で洗い流した。そして、汚れ状況を目視により観測した。次に、水で洗い流した後のタイルおよびガラスを100℃に設定した乾燥機に入れて1時間乾燥させた。そして、汚れを一度拭き取り、その汚れを目視により観測した。同様の実験を6回繰り返し、防汚塗膜の耐久性を確認した。この結果を表8に示す。
【0079】
【表8】
Figure 0004086276
【0080】
ジメチルシリコーンオイルをコーティングしたタイルは、3回目以後、防汚効果は未塗布のタイルと同じになり被膜が剥離したことが分かる。しかし、シランカップリング剤N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBM603:信越化学株式会社製)を溶解して作成した溶液を塗布したタイルは、防汚効果が継続し、被膜の剥離が起こらず密着性がよいことが分かる。
【0081】
【発明の効果】
本発明の防汚塗料は、セラミックス等の素材の表面に塗布し、乾燥させることにより簡便に防汚塗膜を形成することができる。このようにして形成される防汚塗膜は、素材との密着性及び耐久性に優れるだけでなく、撥水性にも優れ、汚れの付着防止効果が高く、また付着した汚れも簡単に除去することができる。よって、本発明の防汚塗料は、トイレ、キッチン等のタイルなどに用いられるセラミックス素材等のコーティング材として有用である。

Claims (7)

  1. 塗膜形成成分が実質的にシランカップリング剤単体からなるセラミックス(ガラスを除く)用塗料であって、下記一般式(I)で表されるシランカップリング剤を、全アニオン量が700mgCaCO3/リットル以下の脱イオン水に、0.01〜6重量%配合してなることを特徴とする、水溶性防汚塗料。
    Figure 0004086276
    (式中、Xはアミノアルキル基を表す。R1、R2、R3は、各々独立してOH基又は加水分解してシラノールを生成しうる基の中から選ばれ、相互に同一でも異なっていてもよい。)
  2. 前記セラミックスが陶磁器、焼結炭化ケイ素、焼結窒化ケイ素、焼結炭化ホウ素、及び焼結窒化ホウ素からなる群から選択されるものである、請求項1記載の水溶性防汚塗料。
  3. 陽イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤を0.005〜3.5重量%含有する、請求項1又は2記載の水溶性防汚塗料。
  4. さらにアルコールを1〜10重量%含有してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
  5. さらに酢酸又は酢酸とアルコールの混合物を0.1〜2重量%含有してなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
  6. 前記シランカップリング剤がN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシランである、請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
  7. 前記脱イオン水の全アニオン量が51.3〜600mgCaCO3/リットルであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性防汚塗料。
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