JP4086226B2 - 導波路型光可変減衰器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光信号の強度を制御するための導波路型光可変減衰器に関し、特にその偏波依存損失を抑制したものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の光ネットワークにおいて、光強度をダイナミックに変化させる可変光減衰器の役割は重要になっている。特に、熱光学効果を用いた平面光導波型可変光減衰器(以後、熱光学型VOA)は、アレイ導波路格子合分波器を代表とする他の平面光導波型回路と集積が可能であり、さらに、駆動部分を持たないため信頼性に優れるなどの特徴を有している。
【0003】
しかしながら、この熱光学型VOAでは、印加電力に伴って増大する偏波依存損失(以後、PDL)が大きな問題となっている。すなわち、熱光学型VOAはマッハツェンダ干渉計からなり、位相シフト回路として薄膜ヒータをアーム導波路上部に配置している。この薄膜ヒータの発熱による局所的な温度上昇によって、熱光学効果を介して、実効屈折率を変化させる。一方、薄膜ヒータを駆動させた時、ガラスもしくは薄膜ヒータの熱膨張によって応力も誘起される。この応力によって光弾性効果を介してわずかに実効屈折率が変化する。このときの応力はコアに対して均一に発生しないため、偏波によってその光弾性効果の大きさに差ができ、これがPDLの発生原因となる。
【0004】
従来、このPDLの抑制法として、「応力開放溝つき熱光学型VOA」や「1/2波長板を用いた熱光学型VOA」が提案されている。第1の従来技術としては、図9に示すように、PDLの原因となるヒータ駆動時の応力誘起を抑制するため、薄膜ヒータ904の両側に応力開放溝903を作製した「応力開放溝つき熱光学型VOA」(2001年電子情報通信学会総合大会C−3−64「PLC型可変光減衰器の低PDL化」)がある。なお、図9中、901は光導波路、902は3dB方向結合器、905a,905bは入力導波路端、906a、906bは出力導波路端である。
【0005】
また、この種の第2の従来技術は、図10に示すように、アーム導波路の中央に1/2波長板1003を挿入し、1/2波長板1003より前半の光導波路1001と後半の導波路1001で、TE偏波とTM偏波を反転させて、偏波依存性をキャンセルした「1/2波長板を用いた熱光学型VOA」(特願2001−6776「偏波無依存導波路型光回路」)である。なお、図10中、1002は3dB方向結合器、1003は1/2波長板、1004は薄膜ヒータ、1005a,1005bは入力導波路端、1006a、1006bは出力導波路端である。
【0006】
【特許文献1】
2001年電子情報通信学会総合大会C−3−64「PLC型可変光減衰器の低PDL化」
【0007】
【特許文献2】
特願2001−6776号
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の如き熱光学型VOAでは以下に述べる問題を有していた。
【0009】
図9に示す第1の従来技術である「応力開放溝つき熱光学型VOA」では、応力開放溝を作製するのに丸一日以上必要であり、量産する工程ではこのような長時間にわたる工程は著しく生産性を低下させる。さらに、PDLを低減するためにはコアとわずかなクラッドのみを残すことになり信頼性に問題がある。
【0010】
図10に示す第2の従来技術である「1/2波長板を用いた熱光学型VOA」では、1/2波長板1003を挿入するための溝を導波路を分断して作製する必要があり原理的な過剰損失がある。さらに、1/2波長板1003を挿入する工程は全て手作業で行っており、このような工程は生産性を低下させる。
【0011】
本発明は、上記従来技術に鑑み、生産性を低下させることなくPDLの小さな熱光学型のVOAを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の構成は、次の点を特徴とする。
【0013】
1) 基板上に形成した導波路が二つの結合器を用いたマッハツェンダ干渉計を構成しており、前記導波路の上面に熱光学効果により光の位相を変化する熱光学移相器であるヒータを配置した導波路型光可変減衰器において、
二つの結合器に挟まれたアーム導波路の複屈折値を調節するために、TE偏波に対する位相シフト係数をK TE 、TM偏波に対する位相シフト係数をK TM 、電力をP’、TE偏波におけるアーム導波路間の初期位相差をδφ TE 、TM偏波におけるアーム導波路間の初期位相差をδφ TM としたときに下記式(2)を満たすように、前記δφTE、前記δφTMを調整すべく導波路幅を設計したこと。
【数4】
【0014】
2) 請求項1に記載する導波路型光可変減衰器において、
アーム導波路の複屈折は、導波路幅を、下記式(3)を満たすように調整したものであること。
【数5】
【0015】
3) 請求項1に記載する導波路型光可変減衰器において、
アーム導波路の複屈折は、アーム導波路付近へレーザ光を照射することによって、下記式(4)をみたすように調整したものであること。
【数6】
【0016】
4) 請求項1に記載する導波路型光可変減衰器において、
アーム導波路の複屈折は、アーム導波路の上方に配置した薄膜ヒータを加熱し、局所的に熱することによって恒久的に調整するものであること。
【0017】
5) 請求項1に記載する導波路型光可変減衰器において、
アーム導波路の複屈折は、アーム導波路付近に応力付与膜を配置することによって調整したものであること。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
以下の説明における実施の形態では光導波路としてシリコン基板上に形成された石英系光導波路を例にとって説明する。これは、この組み合わせが安定で信頼性に優れた光導波路デバイスを作製するのに適しているからである。しかしながら、本発明はこの組み合わせに限定されるものではなく、他の材料を用いた基板、他の材料を用いた光導波路であっても無論構わない。
【0020】
[第1の実施の形態]
図1は本形態に係る熱光学型VOAの概略構成を示す構造図である。同図において、101は光導波路、102は3dB方向性結合器、103は配線、104は薄膜ヒータ、105a,105bは入力導波路端、106a,106bは出力導波路端、107は太幅導波路、108は第1のアーム導波路、109は第2のアーム導波路を示している。
【0021】
一方、図2は、従来技術に係る熱光学型VOAの概略構成を示す構造図であって、201は光導波路、202は3dB方向性結合器、203は配線、204は薄膜ヒータ、205a,205bは入力導波路端、206a,206bは出力導波路端を示している。
【0022】
光導波路101、201は、いずれも比屈折率差が0.75%で、サイズは7×7ミクロンとした。
【0023】
先ず、図2に基づき熱光学型VOAとしての動作原理を説明する。薄膜ヒータ204に無通電のときは、2本のアーム導波路206,207を伝搬する光の光路長差はゼロであり、公知の干渉原理により、入力導波路端205aから入った信号光は出力導波路端206bに伝搬する。
【0024】
次に、薄膜ヒータ204へ通電して、前記光路長差を熱光学効果により信号光波長の4分の1相当分変化させると、入力導波路端205aから入った信号光のうち50%が出力導波路端206bへ伝搬する。
【0025】
さらに、薄膜ヒータ204へ通電して、前記光路長差を信号光波長の2分の1相当分変化させると、入力導波路端205aから入った信号光は全て出力導波路端206aへ伝搬する。したがって、出力導波路端206bへ信号光は伝搬しない。
【0026】
つまり、薄膜ヒータ204へ通電する電力を制御し、光路長差をゼロから信号光波長の2分の1相当まで所望の値に設定することによって、出力導波路206bへ伝搬する光強度を所望の値に調整することができる光可変減衰器として動作する。
【0027】
次に、図2に基づきPDLの発生原因について説明する。薄膜ヒータ204に無通電のときはTE偏波・TM偏波ともに前記の光路長差はゼロであり、公知の干渉原理により、入力導波路端205aから入った信号光は全て出力導波路端206bへ伝搬する。光導波路内では、TE偏波、TM偏波が独立に伝搬するためPDLはTE偏波とTM偏波の差として良い。したがって、この場合PDLは発生しない。
【0028】
薄膜ヒータ204へ通電した場合、その発熱によってガラスが温められ、熱光学効果を介して実効屈折率が上昇する。この熱光学効果による実効屈折率変化はTE偏波・TM偏波に対して同等であるため、PDLの発生原因にはならない。
【0029】
一方、ガラスの熱膨張と薄膜ヒータ204自身の熱膨張によってガラスへ応力が誘起される。これらの応力によっても、光弾性効果を介してわずかに実効屈折率が変化する。これらの応力はコアに対して均一に発生しないため、偏波によって前述の光弾性効果の影響が異なる。この結果、薄膜ヒータ204に通電した際の実効屈折率変化(光路長変化)に偏波依存性が生じPDLが発生する。
【0030】
かかるPDLを低減するため、本発明では薄膜ヒータ104に適当な電力を通電した時に、PDLが最小となるよう第2のアーム導波路109の複屈折を調整した。
【0031】
次に、PDLを低減する原理を数式と図1に基づき説明する。例えば、薄膜ヒータ104にある電力Pを与えた場合、入力導波路端105aから入射し、出力導波路端106bへ導かれる光透過率Tは次式(1)で与えられる。
【0032】
【数7】
【0033】
ここで、kは熱光学効果および光弾性効果による位相シフト係数であり、δφは二本のアーム導波路108,109の初期位相差である。前述した通り、薄膜ヒータ104の発熱によって誘起される応力はコアに対して均一でないため、TE偏波もしくはTM偏波に対してそれぞれ異なる位相シフト係数(kTE,kTM)を有している。その結果、ある電力Pにおいて光透過率に偏波依存性が生じ、その差がPDLとして観測される。さらに、特徴としてこのPDLは光透過率が小さい時により顕著に大きくなる。
【0034】
そこで本発明では、ある電力P′においてPDLがゼロとなるよう、TE偏波とTM偏波におけるアーム導波路間の初期位相差(δφTE,δφTM)を調整しPDLを抑制する。
【0035】
式で扱えば、上式(1)より、ある電力P′において次式(2)を満たせばPDLを低減できる。
【0036】
【数8】
【0037】
本形態では、複屈折の調整手法として複屈折の導波路幅依存性(特願2000−321667)を用いている。よって、δφは次式(3)で表される。
【0038】
【数9】
【0039】
上式(2),(3)より、光導波路101の幅、太幅導波路107の長さおよび二本のアーム導波路108,109の長さの差を適当に選ぶことで所望の熱光学型VOAが実現できる。具体的には、太幅導波路107の幅を12ミクロン、細幅の導波路101の幅を7ミクロン、太幅導波路107の長さを150ミクロンとした。
【0040】
従来技術に係る熱光学型VOA及び本形態に係る熱光学型VOAに関する、クロスパス(例えば、図1における入力導波路端105aから出力導波路106bに至るパス乃至図2における入力導波路端205aから出力導波路206bに至るパス)への光透過率の消費電力依存性を図3(a)(b)に示す。また、同様に、従来技術及び本発明の熱光学型VOAに関するクロスパスのPDLの減衰量依存性を図4(a)(b)に示す。
【0041】
図4を参照すれば、15dB減衰時のPDLは従来の熱光学型VOAが約3dBであるのに対して、本形態では約0.7dBとなっており、大きく低減できることが分かる。
【0042】
また、本形態においては次のようなメリットも得る。
1) PDLを低減するにあたって、過剰損失がない。
2) 設計によって導波路幅が調整できるため、PDLを低減するにあたって、追加のプロセスがない。従って、作製時間を大幅に短縮できる。
【0043】
[第2の実施の形態]
図5は本形態に用いたレーザトリミング装置の概略構成図であって、501はNd:YAGレーザ、502はレンズ、503は上部クラッド、504はコア、505は下部クラッド、506は基板、507はYAGレーザ照射によって応力が開放される個所を示している。レーザの波長は0.532μm、照射範囲は30ミクロン×30ミクロンである。
【0044】
このレーザトリミング装置を用いて複屈折調整を行った熱光学型VOAを作製した。図6はその熱光学型VOAの概略構成を示す構造図である。同図において、601は光導波路、602は3dB方向性結合器、603は配線、604は薄膜ヒータ、605a,605bは入力導波路端、606a,606bは出力導波路端、607はYAGレーザ照射を行った個所を示している。基板や光導波路は第1の実施の形態と同様である。
【0045】
PDLを抑制するには、第1の実施の形態と同様に式(2)を満たせば良い。ここで、δφは次式(4)のように表すことができる。
【0046】
【数10】
【0047】
よって、上式(2)、(4)を満たすよう、複屈折の変化量と照射する長さを適当に選べばよい。本形態では、YAGレーザ照射は同一のアーム導波路に計9箇所、約270ミクロンの長さに渡って照射した。
【0048】
図7(a)(b)は複屈折の調整前後におけるクロスパス(図6における入力端導波路605aから出力端導波路606bに至るパス)の光透過率の消費電力依存性、図8(a)(b)は複屈折の調整前後におけるクロスパスのPDLの減衰量依存性を示す。
【0049】
図8を参照すれば、15dB減衰時のPDLは複屈折調整前が約3.1dBに対して、複屈折調整後は約1.1dBであり大きく低減できることが分かる。
【0050】
本形態では複屈折の調整にYAGレーザを用いた。これは、微小な領域に簡便に照射することができるからである。しかしながら、このYAGレーザに限定されるものではなく、紫外線レーザや炭酸ガスレーザなどが複屈折調整が行えるレーザであれば何を用いても構わない。
【0051】
本形態においては、次のようなメリットを得る。
1) ウエハを作製した後であってもPDLの特性を改善することができる。従って、たとえば32連熱光学型VOAアレイなど大規模なもので、1連のみの特性が悪い場合などにおいて非常に有効であり、多連熱光学型VOAの歩留まりを大幅に向上できる。
2)PDLを低減するにあたって、過剰損失がない。
3)PDLを低減するにあたって、溝を作製する必要がなく、作製時間を短縮できる。
【0052】
本形態において、複屈折調整としてレーザ照射を用いたが、例えば以下のような複屈折調整手法を用いても、同様な効果を有する導波路型光可変減衰器を得ることができる。
【0053】
1) 応力付与膜を導波路の上部に配置し、導波路に誘起される応力を変化させて複屈折を制御する手法(河内正夫:「石英系導波路と集積光部品への応用」、光学第18巻第12号(1989)pp.681−686)
【0054】
2) 導波路上部付近に配置した薄膜ヒータを局所的に加熱して恒久的に実効屈折率もしくは複屈折を制御する手法
【0055】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、光導波路としてシリコン基板上に形成された石英系光導波路を用いて、位相制御器として、薄膜ヒータを用いた熱光学型VOAを例にとって説明した。これは、このVOAが安定に動作し、広く商用的に使用されているためである。しかしながら、たとえば光導波路として、大きな電気光学効果を有する光導波路を用い、位相制御器として、導波路に電界を発生するための信号電極および接地電極を用いた、マッハツェンダ干渉計から構成される電気光学型VOAなどにおいても適用可能であることは明白である。
【0056】
【発明の効果】
以上実施の形態とともに詳細に説明した通り、本発明によれば、PDLを低減することが可能となる。しかも、このPDLの低減するための構造を短時間で形成し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る熱光学型のVOAを示す概略構成図である。
【図2】図1に示すVOAに対応する従来技術に係るVOAを示す概略構成図である。
【図3】従来技術及び第1の実施の形態に係る熱光学型VOAに関するクロスパスへの光透過率の消費電力依存性を示す図で、(a)は従来技術、(b)は第1の実施の形態に係る特性図である。
【図4】従来技術及び第1の実施の形態に係る熱光学型VOAに関する、PDLの減衰量依存性を示す図で、(a)は従来技術、(b)は第1の実施の形態に係るVOAの特性図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るVOA適用するレーザトリミングの態様を示す説明図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る熱光学型のVOAを示す概略構成図である。
【図7】第2の実施の形態に係るVOAの透過率の消費電力依存性を示す特性図で、(a)が複屈折の調整前、(b)複屈折の調整後の特性である。
【図8】第2の実施の形態に係るVOAの減衰量依存性を示す特性図で、(a)が複屈折の調整前、(b)が複屈折の調整後である。
【図9】従来技術に係るPDLを低減した熱光学型VOAの一例を示す概略構成図である。
【図10】従来技術に係るPDLを低減した熱光学型VOAの他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
101,201,601,901,1001 光導波路
102,202,602,902,1002 3dB方向性結合器
103,203,603 配線
104,204,604,904,1004 薄膜ヒータ
105a−b,205a−b,605a−b,905a−b,1005a−b
入力導波路端
106a−b,206a−b,606a−b,906a−b,1006a−b
出力導波路端
107 太幅導波路
108,109 アーム導波路
501 Nd:YAGレーザ
502 レンズ
503 上部クラッド
504 コア
505 下部クラッド
506 基板
507 応力が開放される個所
607 YAGレーザを照射した個所
903 応力開放溝
1003 1/2波長板
Claims (5)
- 基板上に形成した導波路が二つの結合器を用いたマッハツェンダ干渉計を構成しており、前記導波路の上面に熱光学効果により光の位相を変化する熱光学移相器であるヒータを配置した導波路型光可変減衰器において、
二つの結合器に挟まれたアーム導波路の複屈折値を調節するために、TE偏波に対する位相シフト係数をK TE 、TM偏波に対する位相シフト係数をK TM 、電力をP’、TE偏波におけるアーム導波路間の初期位相差をδφ TE 、TM偏波におけるアーム導波路間の初期位相差をδφ TM としたときに下記式(2)を満たすように、前記δφTE、前記δφTMを調整すべく導波路幅を設計したことを特徴とする導波路型光可変減衰器。
- 請求項1に記載する導波路型光可変減衰器において、
アーム導波路の複屈折は、アーム導波路の上方に配置した薄膜ヒータを加熱し、局所的に熱することによって恒久的に調整するものであることを特徴とする導波路型光可変減衰器。 - 請求項1に記載する導波路型光可変減衰器において、
アーム導波路の複屈折は、アーム導波路付近に応力付与膜を配置することによって調整したものであることを特徴とする導波路型光可変減衰器。
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