JP4085795B2 - 建築用耐火鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、火災などで数時間程度、高温状態になる建築物、橋梁等の鉄骨構造物に用いる鋼材で、特に、650〜700℃の高温での使用に耐え得る鋼材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
構造用鋼は、温度の上昇に伴い強度が低下し、500℃以上では顕著な強度低下を示す。このため、従来、火災などでの高温状態において鋼材が350℃以上とならないように耐火被覆を施すことや、鋼材自体の高温強度を向上させることが提案されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1、特許文献2等には、Mo,V,Nb,Ti等を添加し、600℃や650℃における降伏強度を向上させた常温強度400〜490N/mm2級鋼が提案されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平2−170943号公報
【0005】
【特許文献2】
特開平2−163341号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの鋼材は主に600℃での安全性(耐火性:600℃において常温規格降伏強度の2/3以上の降伏強度)を保証するものであり、更に高温においての使用が考慮されたものではない。例えば、700℃での降伏強度は、常温規格降伏強度の1/3程度に過ぎない。
【0007】
また、高温強度を確保するために多量の合金元素を添加すると、常温強度が高くなりすぎてSN材のJIS規格強度を超えてしまい、JIS規格を外れたものとなる。また、さらに高合金化すると、溶接性や靭性の劣化を招くという問題点もある。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、JISに規定されたSN400またはSN490の規格強度を満足し、さらに650℃YS/常温YS≧0.5、700℃YS/常温YS≧0.4の関係を満たす高温強度を確保し、且つ優れた溶接性(Y割れ停止温度0℃以下)を満足する生産原価の低い鋼およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋼材の高温強度に及ぼす成分組成について詳細に検討を行った。その結果、高温耐火時にMo,Tiの微細な複合炭化物を析出させることにより、高温強度を格段に向上できることを見出した。さらに、Mnを0.01〜0.5%と低くし、Mo,Tiを複合添加した場合、低降伏比を損なわずに700℃での高温強度が向上し、且つ優れた溶接性が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、具体的な指針として常温強度、高温強度の両者に寄与する(Mo+Ti)を高め、常温強度にのみ寄与するMn量を低減し、(Mo+Ti)/Mn比を高くし、高温強度/常温強度比を高くすることを得てなされたものであり、以下に示す手段を用いている。
【0011】
本発明の建築用耐火鋼材は、質量%で、C:0.01〜0.13%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.5%、Mo:0.3〜1.3%、Ti:0.03〜0.1%、sol.Al:0.003〜0.07%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0012】
また、Mo、TiおよびMnの含有量が、質量%で、(Mo+Ti)/Mn≧1を満足することが好ましい。
【0014】
また、650℃から700℃の温度範囲に10分から30分加熱保持した後に室温まで冷却したときの硬さが、ビッカース硬度Hv10で、加熱前よりも10以上高いことが好ましい。
【0015】
さらに、650℃から700℃の温度範囲に10分から30分加熱保持したときに析出するTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物の析出量が、下記(1)式で定義される炭化物炭素当量値で50ppm以上であることが好ましい。炭化物炭素当量値が50ppmを下回る場合は、所望の高温強度が得られなくなる。
【0016】
Δ[CasTiC]+Δ[CasMoC]+Δ[CasVC]…(1)
ここで、
Δ[CasTiC]=12/48×{(高温保持後のTi炭化物析出量)−(高温保持前のTi炭化物析出量)}
Δ[CasMoC]=12/96×{(高温保持後のMo炭化物析出量)−(高温保持前のMo炭化物析出量)}
Δ[CasVC]=12/51×{(高温保持後のV炭化物析出量)−(高温保持前のV炭化物析出量)}
但し、V無添加の場合は、Δ[CasVC]=0
【0017】
また、前記Ti−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物の析出量が、さらに下記(2)式を満足することが好ましい。
【0018】
0.9≦Δ[CasMoC]/(Δ[CasTiC]+Δ[CasVC])≦2.0…(2)
但し、V無添加の場合はΔ[CasVC]=0。
【0019】
本発明の建築用耐火鋼材の製造方法は、前記組成を有する鋼を1000℃以上に加熱した後、圧延終了温度を800℃から1000℃までの範囲とする熱間圧延を行うことを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明での成分組成及び製造条件の限定理由について詳細に説明する。以下の説明において「%」で示す単位は全て質量%である。
【0021】
(成分組成)
(1)C:0.01〜0.13%
Cは、常温強度と共に、600℃以上で、Ti等との微細複合炭化物を析出して高温降伏強度を向上させるため、0.01%以上添加する。一方、0.13%を超えて添加すると、構造用鋼としての延靭性や溶接性が劣化する。従って、C含有量は0.01〜0.13%の範囲とする。
【0022】
(2)Si:0.01〜0.5%
Siは、脱酸および固溶強化に寄与するため、0.01%以上添加する。一方、0.5%を超えて添加すると延靭性が低下し、常温強度が過剰となる。従って、Si含有量は0.01〜0.5%の範囲とする。
【0023】
(3)Mn:0.01〜0.5%
Mnは、本発明において重要な元素である。高温強度/常温強度比を高くするために、常温強度にのみ寄与するMn量を低減する。
Mnは、JISで規定するSN材としての常温強度を確保するために、0.01%以上添加する。一方、0.5%を超えて添加すると、常温強度が高くなり高温強度/常温強度比が低下するとともに、SN材としての常温強度を超える場合がある。また、溶接性も劣化する。従って、Mn含有量は0.01〜0.5%の範囲とする。
【0024】
(4)Mo:0.3〜1.3%
Moは、焼入れ性の向上、析出強化に寄与して常温強度を向上させる。また、Ti,Vとの複合添加により後述するTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物を形成して高温強度を向上させるため、0.3%以上添加する。一方、1.3%を超える添加は、常温強度が高くなり過ぎてJISで規定するSN材の規格を超えるとともに、溶接性、靭性が劣化する。従って、Mo含有量は0.3〜1.3%の範囲とする。
【0025】
(5)Ti:0.03〜0.1%
Tiは、Mo,Vとの複合添加によりTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物を形成して高温強度を向上させるため、0.03%以上添加する。一方、0.1%を超えて添加すると、溶接性および靭性が劣化する。従って、Ti含有量は0.03〜0.1%の範囲とする。
【0026】
(6)(Mo+Ti)/Mn≧1
高温強度/常温強度比を高くするため、常温強度にのみ寄与するMn量を低減して(Mo+Ti)/Mnを1以上とすることが好ましく、さらに、1.5以上とすることがより好ましい。但し、元素記号は鋼材中の各元素の含有量(質量%)を表す。この値が1未満では、目標とするYS比(650℃YS/常温YS≧0.5、700℃YS/常温YS≧0.4)が得られないか、あるいは常温強度が高くなり、SN材の規格強度を超えてJIS規格から外れる恐れがある。
【0027】
(7)P,S:0.03%以下
P,Sは不可避的不純物であり、延靭性、加工性及び溶接性を低下させるため、その含有量は、夫々0.03%以下とする。下限は構造用鋼としての生産原価を満足する範囲で低減させることが望ましいが、特に限定しない。
【0028】
(8)sol.Al:0.003〜0.07%
Alは脱酸のため、また、sol.AlはAlNとして鋼中に析出し、結晶粒の微細化に有効なため、0.003%以上添加する。一方、0.07%を超えて過剰に添加すると介在物が多くなり、延靭性が低下する。従って、sol.Alの含有量は0.003〜0.07%の範囲とする。
【0029】
(9)N:0.01%以下
Nは、AlNとして析出して結晶粒を微細化するが、0.01%を超えて添加すると溶接部靭性が低下し、Ti添加の効果が損なわれる。従って、N含有量は0.01%以下、好ましくは0.006%以下とする。
【0030】
以上が本発明の基本成分組成であり、基本成分が上記組成範囲内であれば目的とする性能は十分に得られるが、更にその特性を向上させるため、V,Nb,Cr,Cu,Ni,Ca,Mg,REMのうちの1種または2種以上を添加することが可能である。
【0031】
(10)V:0.01〜0.10%
Vは、析出強化に寄与して常温強度、高温強度を上昇させるため、0.01%以上添加する。特に、Mo,Tiとの複合添加により、Ti−Mo−V系複合炭化物が微細析出し、顕著な効果が得られる。一方、0.1%を超えて添加すると硬化し、更に溶接性が劣化する。従って、Vを添加する場合、その含有量は0.01〜0.10%の範囲とする。
【0032】
(11)Nb:0.005〜0.03%
Nbは、析出強化に寄与して常温強度、高温強度を上昇させるため、0.005%以上添加する。特に、Mo,Ti,Vとの複合添加により、複合炭化物が微細に析出し、顕著な効果が得られる。一方、0.10%を超えて添加すると硬化し、更に溶接性が劣化する。従って、Nbを添加する場合、その含有量は0.005〜0.03%の範囲とする。
【0033】
(12)Cr:0.03〜0.5%
Crは、固溶強化に寄与して常温強度、高温強度を上昇させるため、0.03%以上添加する。特に、Mo,Ti,Nbとの複合添加により、複合炭化物が微細析出し、顕著な効果が得られる。一方、0.5%を超えて添加すると硬化し、更に溶接性が劣化する。従って、Crを添加する場合、その含有量は0.03〜0.5%の範囲とする。
【0034】
(13)Cu:0.03〜0.5%
Cuは、固溶強化に寄与して常温強度を上昇させるため、0.03%以上添加する。一方、0.5%を超えて添加すると硬化し、鋼板表面疵を生じる。従って、Cuを添加する場合、その含有量は0.003〜0.5%の範囲とする。
【0035】
(14)Ni:0.03〜0.5%
Niは、低温靭性、強度を向上させるため、0.03%以上添加する。一方、0.5%を超えて添加すると硬化し、生産原価を上昇させる。従って、Niを添加する場合、その含有量は0.03〜0.5%の範囲とする。
【0036】
(15)Ca,Mg,REM
Ca,Mg,REMの元素は、介在物の形態制御やS等の不純物元素の固定により靭性を向上させる。添加する場合は、その含有量をCa:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.005%、REM:0.0005〜0.02%の範囲とする。
【0037】
(16)高温耐火時の析出物
本発明鋼を600〜700℃の高温に加熱すると、微細なTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物が析出して高い高温強度を示す。これらの析出物は高温耐火時に多量に析出するため、結果的に、高い高温強度/常温強度比となる。
【0038】
(i)ビッカース硬度Hv10
本発明の目的である650℃YS/常温YS≧0.5、700℃YS/常温YS≧0.4を満足するためには、高温加熱時に一定量以上のTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物を析出させる必要がある。
【0039】
このためには、650℃から700℃の温度範囲に10分から30分加熱保持した後に室温まで冷却したときの硬さを、ビッカース硬度Hv10で、加熱前より10以上高くする。Hv10の差が10未満である場合、高温加熱時に析出するTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物の量が不足し、上記特性が得られない恐れがある。
ここで、ビッカース硬度Hv10とは、圧子の荷重条件を10kgとして測定したときの硬さ指数をいう。なお、硬さの差は、同一鋼板の加熱前後にける板厚方向1/4tの位置における常温硬度の値の差とする。
【0040】
(ii)Δ[CasTiC]+Δ[CasMoC]
Δ[CasTiC]+Δ[CasMoC]+Δ[CasVC]
高温加熱時に析出するTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物は下記の組成、析出量を有することが望ましい。
【0041】
650℃から700℃の温度範囲に10分から30分保持した場合に、新たに析出する析出物は(Ti−Mo)Cの複合炭化物であり、その析出量は、下記(1)’式で表される炭化物炭素当量値で、50ppm以上であることが好ましい。Moは通常Mo2Cとして析出するが、透過型電子顕微鏡による観察と抽出浅さの分析結果から、本発明鋼では(Ti−Mo)Cとして析出し、この複合炭化物が高温強度向上に寄与していることが判明した。析出量が炭化物炭素当量値で50ppm未満の場合、所望の高温強度が得られない恐れがある。
【0042】
なお、十分な高温強度を得るためには炭化物炭素当量値を70ppm以上とすることがさらに好ましい。また、炭化物炭素当量値の上限は、溶接性および靭性を劣化させない観点から、300ppmとすることが望ましい。よって、最も好ましい範囲としては炭化物炭素当量値を70〜300ppmとする。
Δ[CasTiC]+Δ[CasMoC]…(1)’。
【0043】
なお、Vを添加した場合には、(Ti−Mo−V)Cの複合炭化物が形成され、さらに高温強度は向上する。この場合、その析出量は、下記(1)式で表される炭化物炭素当量値で、50ppm以上であることが好ましい。
Δ[CasTiC]+Δ[CasMoC]+Δ[CasVC]…(1)。
【0044】
ここで、上記Δ[CasTiC]、Δ[CasMoC]、Δ[CasVC]は、それぞれ以下のように求められる。
Δ[CasTiC]=12/48×{(高温保持後のTi炭化物析出量)−(高温保持前のTi炭化物析出量)}
Δ[CasMoC]=12/96×{(高温保持後のMo炭化物析出量)−(高温保持前のMo炭化物析出量)}
Δ[CasVC]=12/51×{(高温保持後のV炭化物析出量)−(高温保持前のV炭化物析出量)}
但し、Δ[CasTiC]、Δ[CasMoC]、Δ[CasVC]は、高温保持した時に、それぞれTi炭化物、Mo炭化物、V炭化物が組織中に新たに析出する際に消費される炭素量を示す。なお、各金属元素の析出量は、10%アセチルアセトン−メタノール電解抽出により鋼中から抽出した残渣をICP発光分析法により求める。
【0045】
(iii)Δ[CasMoC]/(Δ[CasTiC]+Δ[CasVC])
Ti−Mo系複合炭化物またはTi−Mo−V系複合炭化物中の金属元素の比が下記式(2)を満足すると、析出物が非常に小さく且つ安定であり、他の析出物に比べて高温強度向上に非常に有効である。この下記(2)式の範囲外では、析出物サイズが大きくなり、高温強度への寄与が不十分となる恐れがある。
0.9≦Δ[CasMoC]/(Δ[CasTiC]+Δ[CasVC])≦2.0…(2)
但し、V無添加の場合は、Δ[CasVC]=0である。
【0046】
(製造方法)
(17)スラブ加熱温度:1000℃以上
スラブ加熱温度は、Ti,Nb,Vを固溶させ、Mo,Tiの複合添加による高温強度向上効果を得るため、JISに規定されているSN490材の規格強度を満足するためには1000℃以上とする。
【0047】
(18)圧延終了温度:800〜1000℃
圧延終了温度は、800℃未満では高温強度が低下し、1000℃を超えると結晶粒が粗大化して焼入れ性が向上し、常温強度が高くなりすぎるため、JISに規定されているSN490材の規格強度を満足するためには800〜1000℃の温度範囲とする。
【0048】
【実施例】
供試鋼A〜Wを用いて、種々の製造条件により鋼板を製造した。表1に、用いた供試鋼A〜Wの化学成分を示す。鋼A〜Cは本発明範囲内の成分組成を有する発明鋼であり、鋼D〜Nは参考鋼であり、鋼O〜Wは本発明範囲外の成分組成を有する比較鋼である。
【0049】
また、表2に、製造条件として、供試鋼の鋼種、鋼板の板厚(mm)、発明製造プロセス、製造プロセス、圧延時の加熱温度(℃)、圧延終了温度(℃)および冷却条件を示す。なお、発明製造プロセスの表示は請求項7記載の方法に従った場合には、○とし、それ以外の場合には、×と示した。
【0050】
得られた鋼板について、常温引張試験および高温引張試験をそれぞれ行った。常温引張特性として、降伏強度YS(N/mm2)、引張強度TS(N/mm2)および降伏比YR(%)を求め、高温引張特性として、試験温度600℃、650℃、700℃での降伏強度YS(N/mm2)を求めた。また、各試験温度での高温YSと常温YSの比(高温YS/常温YS)をYS比(%)として求めた。これらの結果を表2に併記する。なお、常温引張試験はJIS Z 2241、高温引張試験はJIS G 0567に準じて行った。
【0051】
ここで、常温強度はJIS G 3136に規定されているように、YS:235〜355N/mm2(板厚50mmの鋼板については215〜335N/mm2)、TS:400〜510N/mm2を満足するものをSN400材とし、YS:325〜445N/mm2(板厚50mmの鋼板については295〜415N/mm2)、TS:490〜610N/mm2を満足するものをSN490材として、これらの規格強度範囲を満たしていないものを本発明範囲外とした。
【0052】
高温強度は、SN400材としては、600℃でYS≧157N/mm2(板厚50mmの鋼板については143N/mm2)(SN400の常温YS規格下限の2/3)、650℃でYS≧138N/mm2(板厚50mmの鋼板については126N/mm2)、700℃でYS≧118N/mm2(板厚50mmの鋼板については108N/mm2)(SN400の常温YS規格下限の1/2)を基準値とし、SN490材としては、600℃でYS≧217N/mm2(板厚50mmの鋼板については197N/mm2)(SN490の常温YS規格下限の2/3)、650℃でYS≧190N/mm2(板厚50mmの鋼板については173N/mm2)、700℃でYS≧163N/mm2(板厚50mmの鋼板については148N/mm2)(SN490の常温YS規格下限の1/2)を基準値として、これを満たしていないものを本発明範囲外とした。
【0053】
なお、発明製造プロセスが本発明範囲から外れる比較例1〜3の鋼板については、SN490材として基準値を設けた。
【0054】
さらに、溶接性および靭性の評価を行った。溶接性の評価としては、Y割れ試験を行い、靭性の評価としては、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーを測定した。これらの結果も表2に併記する。ここで、溶接性は、割れ防止予熱温度(Y割れ停止温度)が0℃を超えるものを本発明範囲外とし、靭性は、シャルピー吸収エネルギーvE0≧100Jを基準値として、これを満たしていないものを本発明範囲外とした。
【0055】
また、実施例1,5,6、参考例1および比較例1,3の鋼板については、700℃加熱保持前後の硬さの評価と析出物の形態分析を行った。硬さの評価としては、700℃に加熱する前の試験片と、700℃に加熱し、約30分間保持した後、常温まで冷却した試験片とを用い、これら試験片につき荷重10kgのビッカース硬度を測定し、加熱前後におけるビッカース硬度差を求めた。
【0056】
また、析出物の形態分析としては、700℃加熱保持前後の試験片のTi,Mo,V析出量(抽出金属量)を測定し、Δ[CasTiC]、Δ[CasMoC]、Δ[CasVC]を求めた。この結果から析出物の炭化物炭素当量値および金属比:Δ[CasMoC]/(Δ[CasTiC]+Δ[CasVC])を求めた。なお、各金属元素の析出量は、10%アセチルアセトン−メタノール電解抽出により鋼中から残渣を抽出し、抽出残渣を用いてICP発光分析法により抽出金属量として定量した。これらの結果を表3に示す。
【0057】
表2に示すように、本発明鋼A〜C及び参考鋼D〜Nを用い、本発明に従って製造した実施例1〜7及び参考例1〜11の鋼板は、常温強度がJISで規定するSN490の規格を満たし、600℃、650℃および700℃でのYSがすべて基準値を満足した。また、600℃でのYS比≧61%、650℃でのYS比≧55%、700℃でのYS比≧47%と優れた値が得られた。さらに、Y割れ防止温度は0℃以下、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーは100J以上と優れた値が得られた。
【0058】
一方、本発明鋼Aを用いたが、スラブ加熱温度が1000℃未満と本発明範囲から外れて低かった比較例1の鋼板は、SN490材として、常温強度がJIS規格よりも低く、高温強度YSも低かった。なお、SN400材としては、JISに規定されている常温強度の規格を満足し、また、高温強度YSの基準値も満たしていた。
【0059】
同様に、本発明鋼Aを用いたが、圧延終了温度が1000℃を超えて高かった比較例2の鋼板は、SN490材として、常温強度がJIS規格を超えていた。
【0060】
同様に、本発明鋼Aを用いたが、圧延終了温度が800℃未満と本発明範囲を外れて低かった比較例3の鋼板は、SN490材として、高温強度YSが低かった。
【0061】
Mn量が0.5%を超えて高く、Ti無添加で、(Mo+Ti)/Mnが1未満のO鋼を用いた比較例4〜7の鋼板はいずれの条件においても、SN490材として、高温強度が低く、また、Y割れ防止温度も25℃と高かった。
【0062】
Mn量が1%を超えて高く、(Mo+Ti)/Mnが1未満のP鋼,Q鋼,R鋼を用いた比較例8〜10の鋼板は、常温強度がJISで規定されているSN490材の規格を超え、Y割れ防止温度も高かった。
【0063】
Mo量が0.3%未満と低く、(Mo+Ti)/Mnが1未満のS鋼を用いた比較例11の鋼板は、常温強度はJISで規定されているSN400材及び490材の規格をともに満たすが、高温強度はSN400材として見ても低かった。
【0064】
Mo量が1.3%を超えて高いT鋼を用いた比較例12の鋼板は、常温強度がJISで規定されているSN490材の規格を超えるとともに、Y割れ防止温度が25℃と高く、さらに靭性が劣化していた。
【0065】
Ti量が0.03%未満と低いU鋼を用いた比較例13の鋼板は、SN490材の製造プロセスを用いたにもかかわらず、SN400材の常温強度止まりであった。さらに、高温強度はSN400材の基準値をも下回っていた。
【0066】
Ti量が0.1%を超えて高いV鋼を用いた比較例14の鋼板は、SN490材として、高温強度YS比が低く、Y割れ防止温度が50℃と高く、さらに靭性が劣化していた。
【0067】
C量が0.13%を超えて高いW鋼を用いた比較例15の鋼板は、SN490材として、Y割れ防止温度が50℃と高かった。
【0068】
また、表3に示されるように、本発明鋼A,B及び参考鋼Dを用い、本発明範囲内にある製造条件で製造した実施例1,5,6及び参考例1の鋼板は、700℃加熱保持後の硬度が、加熱保持前よりもビッカース硬度Hv10で10以上上昇していた。また、Ti−Mo系複合炭化物またはTi−Mo−V系複合炭化物の析出量も炭化物炭素当量値換算で50ppm以上であり、金属比も0.9〜2.0の範囲内にあった。この結果、表2に示すように高温強度に優れていた。
【0069】
一方、本発明鋼Aを用いたが、圧延時の加熱温度が低かった比較例1、圧延終了温度が低かった比較例3の鋼板は、加熱保持前後の硬度差がHv10で10未満と低く、析出物の量も50ppm未満と少なかった。さらに、比較例1の鋼板については、金属比が2.0を超えて高かった。この結果、表2に示すように実施例の鋼板に比べ高温強度が劣っていた。
【0070】
このように、本発明範囲内の成分組成を有し、本発明に従って製造された鋼板は、高温強度に優れている。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2−1】
【0073】
【表2−2】
【表3】
【0074】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、JISに規定されたSN400またはSN490の規格強度を満足し、さらに650℃YS/常温YS≧0.5、700℃YS/常温YS≧0.4の関係を満たす高温強度を確保し、且つ優れた溶接性(Y割れ停止温度0℃以下)を満足する生産原価の低い鋼およびその製造方法を提供することができ、産業上極めて有用である。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.01〜0.13%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.5%、Mo:0.3〜1.3%、Ti:0.03〜0.1%、sol.Al:0.003〜0.07%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高温耐火特性および溶接性に優れた建築用耐火鋼材。
- Mo、TiおよびMnの含有量が、質量%で、(Mo+Ti)/Mn≧1を満足することを特徴とする請求項1記載の高温耐火特性および溶接性に優れた建築用耐火鋼材。
- 650℃から700℃の温度範囲に10分から30分加熱保持した後に室温まで冷却したときの硬さが、ビッカース硬度Hv10で、加熱前よりも10以上高いことを特徴とする請求項1または2のいずれか一方に記載の高温耐火特性および溶接性に優れた建築用耐火鋼材。
- 650℃から700℃の温度範囲に10分から30分加熱保持したときに析出するTi−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物の析出量が、下記(1)式で定義される炭化物炭素当量値で50ppm以上であることを特徴とする請求項1ないし3のうちのいずれか1項に記載の高温耐火特性および溶接性に優れた建築用耐火鋼材。
Δ[CasTiC]+Δ[CasMoC]+Δ[CasVC]…(1)
ここで、Δ[CasTiC]=12/48×{(高温保持後のTi炭化物析出量)−(高温保持前のTi炭化物析出量)}
Δ[CasMoC]=12/96×{(高温保持後のMo炭化物析出量)−(高温保持前のMo炭化物析出量)}
Δ[CasVC]=12/51×{(高温保持後のV炭化物析出量)−(高温保持前のV炭化物析出量)}
但し、V無添加の場合は、Δ[CasVC]=0 - 前記Ti−Mo系炭化物またはTi−Mo−V系炭化物の析出量が、さらに下記(2)式を満足することを特徴とする請求項4に記載の高温耐火特性および溶接性に優れた建築用耐火鋼材。
0.9≦Δ[CasMoC]/(Δ[CasTiC]+Δ[CasVC])≦2.0…(2)
但し、V無添加の場合は、Δ[CasVC]=0 - 請求項1または2のいずれか一方に記載の組成を有する鋼を1000℃以上に加熱した後、圧延終了温度を800℃から1000℃までの範囲とする熱間圧延を行うことを特徴とする高温耐火特性および溶接性に優れた490N/mm 2 級建築用耐火鋼材の製造方法。
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