JP4085157B2 - リパーゼcs2遺伝子 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、酵母由来のリパーゼCS2遺伝子に関するものである。更に詳細には、本発明は、リパーゼCS2のアミノ酸配列、それをコードする遺伝子DNAの塩基配列の決定にも成功したものである。これらの配列は、いずれも従来未知の新規配列であり、本発明は、これらの配列が明らかにされたことによって、組み換えDNA技術の利用が可能となり、その結果、脂質分解だけではなく、バイオディーゼル燃料の生産、ポリ乳酸等プラスチックの分解といった各種のしかも新規な工業用途を有するリパーゼCS2の大量生産を可能とするものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは、酵母、クリプトコッカス エスピー.S−2(Cryptococcus sp.S−2)の培養物から新規リパーゼCS2を製造する技術を先に開発したところである(特開2001−252072)。
【0003】
本酵素は、油脂分解能が高いだけでなく有機溶媒に安定であるという特性を有しているため、薬品、飲食品、化粧品、洗剤等従来からのリパーゼの用途に加え、有機溶媒存在下でのエステル交換やエステル合成といった分解の逆反応である合成反応への利用も可能であって、例えば、植物油など天然の再生産可能な原料から作られ、しかもクリーンな燃料であるバイオディーゼル燃料の生産に用いることも本発明者らによって提案されている。
【0004】
更にまた、本酵素はすぐれたプラスチック分解能を有し、例えば、農業用フィルムや包装フィルムその他各種用途に広く利用されているポリ乳酸(PLA)を効率的に分解することができ、環境汚染防止にきわめて有効であることも、本発明者らによって新たに見出された。
しかしながら、本酵素をコードする遺伝子については、従来何も報告されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したように数多くのしかも非常にすぐれた用途を有するリパーゼCS2について、組換えDNA技術による工業的大量生産等に資するため、その遺伝子を解明する目的でなされたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
リパーゼCS2は、本発明者らによって開発された新規酵素であって、下記の理化学的性質を有し、クリプトコッカス属に属する酵母、例えばクリプトコッカス エスピー.S−2(Cryptococcus sp. S−2)(FERM P−15155)の培養物から分離、採取することができる(特開2001−252072)。
【0007】
本酵素の理化学的性質は、次のとおりである。
【0008】
(1)作用
油脂分解性を有し、トリグリセリドに作用して、グリセリンと脂肪酸に加水分解する。
【0009】
(2)基質特異性
トリプチリン、トリカプリリン、トリパルミチン、トリオレインをよく分解する。トリアセチン、トリカプリン、トリラウリンは中程度に分解する。トリミリスチン、トリステアリンに対する分解力は弱い。
【0010】
(3)位置特異性
トリオレインに作用せしめると、オレイン酸と少量の1,2(2,3)−ジオレインが生成し、1,3−ジオレインとモノオレインは検出されない。
【0011】
(4)至適pH及び安定pH範囲
至適pH:7.0
安定pH範囲:5〜9
【0012】
(5)反応最適温度及び温度による失活の条件
反応最適温度:37℃
温度による失活の条件:温度上昇による活性の失活は緩やかであり、60℃、30分の熱処理においても活性を維持している。
【0013】
(6)有機溶媒に対する安定性、活性化
有機溶媒に安定であり、更に、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテルによって活性が上昇する。
【0014】
(7)分子量
22kDa(SDS−PAGE)
【0015】
本発明は、前記目的を達成するためになされたものであって、鋭意研究の結果、上記したリパーゼCS2をコードする遺伝子のクローニング及びその塩基配列の決定にも成功し、本発明の完成に至ったものである。
以下、本発明について詳述する。
【0016】
精製したリパーゼCS2をタンパク質分解酵素(リシルエンドペプチダーゼ)で処理し断片化した後、そのいくつかの断片につきアミノ酸配列を決定した。そのいくつかの断片につきアミノ酸配列を決定したその部分配列をもとにDNAプライマー(混合プライマー)を設計し、リパーゼCS2遺伝子の内部配列の決定に用いた。
【0017】
リパーゼCS2遺伝子をクローニングするために、先ず、液体培養したCryptococcus sp.S−2の菌体よりmRNAを調整し、逆転写によりcDNAの合成を行った。このcDNAをテンプレートに、上記プライマーを用いてリパーゼCS2遺伝子の内部配列(約180塩基)をまず決定した。その決定した内部配列を利用し新たなプライマーを設計し、それを用いて3’−及び5’−RACE法によりリパーゼCS2遺伝子のcDNA配列を決定した。このようにして決定したリパーゼCS2遺伝子の全塩基配列を配列番号2(図1)に示し、この塩基配列から推定されるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1(図1)に示す。
【0018】
上記のように、Cryptococcus sp.S−2より本酵素のcDNAを取得後、クローニングを行った。そのDNA配列から推定アミノ酸配列が決定できた。なお、上記に取得したcDNAをSaccharomyces cerevisiae用発現ベクターpG−1(GPDプロモータ、PGKターミネータ、TRP1マーカー)のBamHIクローニングサイトに挿入して組換えベクターを作製した。得られた組換えベクターは、CS2Lipase cDNA*pG−1と命名し、これを独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−18939として寄託した。
【0019】
上記に取得した組換えプラスミドCS2Lipase cDNA*pG−1(FERM P−18939)を、Saccharomyces cerevisiae YPH499株に形質転換したところ、トリブチレンを1%濃度で懸濁させたYPD(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%)プレート上で、形質転換株はトリブチレン分解により生じるハローを形成した。このことで取得したcDNAが確かに目的のリパーゼCS2をコードするものであり、しかもS.cerevisiaeにより活性のあるものとして発現、分泌されることを確認した。
【0020】
本発明に係るクリプトコッカス属由来のリパーゼCS2は、油脂分解に利用できることはもちろんのこと、試薬、医薬成分、特定保健用飲食品成分、洗剤、化粧品その他広範囲な用途に利用することができ、また、特に有機溶媒に安定であるという特質から、エステル交換反応やエステル合成にも利用でき、バイオディーゼル燃料の合成も可能とするものであり、そして更に、本発明者らの最近の研究により、プラスチック、特にポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)等の生分解性プラスチックを効率的に分解することがはじめて見出され、このような有益な用途に各種利用することができるものであるが、今回、本酵素遺伝子、アミノ酸配列が明らかになったことにより、これらを利用した組換えDNA技術によって、本酵素を効率的に工業生産することができる。
【0021】
以下、本発明の実施例について述べる。
【0022】
【実施例1】
(1)酵母エキス0.5%、KH2PO4 1%、MgSO4・7H2O、トリオレイン1%、ラクトース0.5%を含む液体培地に前培養した酵母S−2菌(FERM P−15155)を1%(v/v)接種し、25℃、100rpmの振とう培養を行った。得られた菌体からmRNAを抽出し、このmRNAをもとにcDNAライブラリーを構築した。
【0023】
(2)なお、酵素の精製は次のようにして行った。上記により液体培養した培養物から酵母菌体を除いて培養液を得た。このようにして得た培養液を8,000rpm、10min遠心分離し、0.45μmのメンブランフィルターにて濾過後、限外濾過により濃縮した。陽イオン交換樹脂TSK−gel SP−5PWカラムによる高速液体クロマトグラフ(pH7.0リン酸バッファ、およびそれに0.5%NaCl添加したものによるグラジエント溶出)によってリパーゼを精製した。活性は17.1倍、収量は11.4%であった。SDS−PAGE上で単バンドとなり、分子量はSDS−PAGEにより22kダルトンであることが判明した。
【0024】
(3)精製したリパーゼCS2をタンパク質分解酵素(リシルエンドペプチダーゼ)で処理し断片化した後、そのいくつかの断片につきそのアミノ酸配列を決定した。その部分配列をもとにDNAプライマー(混合プライマー)を設計し、リパーゼCS2遺伝子の内部配列の決定に用いた。
【0025】
(4)リパーゼCS2遺伝子をクローニングするために、先ず、液体培養したCryptococcus sp.S−2の菌体よりmRNAを調整し、逆転写によりcDNAの合成を行った。上記プライマーを用いてリパーゼCS2遺伝子の内部配列(約180塩基)をまず決定した。その決定した内部配列を利用し新たなプライマーを設計し、それを用いて3’−及び5’−RACE法によりリパーゼCS2遺伝子のcDNA配列を決定した。このようにして決定したリパーゼCS2遺伝子の全塩基配列を配列番号2(図1)に示し、この塩基配列から推定されるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1(図1)に示す。
【0026】
(5)上記に取得したcDNAをSaccharomyces cerevisiae用発現ベクターpG−1(GPDプロモータ、PGKターミネータ、TRP1マーカー)のBamHIクローニングサイトに挿入して、組換えプラスミドCS2Lipase cDNA*pG−1(FERM P−18939)を作成した。
【0027】
(6)上記に取得した組換えプラスミドを用いてSaccharomyces cerevisiae YPH499株を形質転換した。得られた形質転換株は、トリブチレンを1%濃度で懸濁させたYPD(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%)プレート上で、トリブチレン分解により生じるハローを形成した。このことで取得したcDNAが確かに目的のリパーゼCS2をコードするものであり、しかもS.cerevisiaeにより活性のあるものとして発現、分泌されることを確認した。
【0028】
(7)上記のとおり、リパーゼCS2遺伝子の全塩基配列(1の位置(ATG)〜720の位置(TAA)まで)を決定した(配列番号2:図1)。また、この塩基配列から推定されるタンパク質は、239残基であることが明らかとなった。
【0029】
(8)このようにして、DNA配列からリパーゼCS2の推定アミノ酸配列(配列番号1:図1)が決定された。このアミノ酸配列より計算される分子量は、本精製酵素のSDS−PAGE解析による結果と矛盾しないものであった。本酵素のアミノ酸配列と既知のタンパク質配列データベースとの相同性をBLASTを用いて解析した結果、脂質分解酵素であるリパーゼの1種であるクチナーゼとの類似性が確認され、本発明に係るリパーゼCS2は、既述の理化学的性質を有し、また、アミノ酸配列より、クチナーゼであることも確認された。また、今回決定された本発明酵素のアミノ酸配列及び塩基配列は、従来知られておらず、全く新規であることも判明した。
【0030】
【発明の効果】
本発明によって、リパーゼCS2について、遺伝子レベルでの解析が行われ、そのアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子のDNA配列がはじめて明らかにされた。これらの配列はいずれも新規であるが、そのアミノ酸配列を解析したところ、本酵素は、クチナーゼとの類似性が確認され、クチナーゼの1種であることが判った。
【0031】
また、本発明に係るリパーゼCS2(すなわち、クチナーゼ)遺伝子のDNAは、その酵素のアミノ酸配列及び/又はその理化学的性質(作用も包含する)が変化しないようにその塩基配列の塩基を置換することも可能であるし、その塩基配列の一部について、塩基の置換、削除、挿入、転移の少なくともひとつを行ってもよい。
【0032】
本発明によってリパーゼCS2(クチナーゼ)について、遺伝子の解析、それを含む組換えベクター及び形質転換体の作成にはじめて成功したので、組換えDNA技術による本酵素の効率的工業生産に途が拓け、その結果、薬品、飲食品、洗剤といった油脂分解能に基づく従来からのリパーゼとしての用途のほか、エステル交換やエステル合成作用に基づくバイオディーゼル燃料の工業的製造、更には、本発明者らがはじめて発見したクチナーゼとしての作用に基づくポリ乳酸等のプラスチック、特に従来リパーゼでは分解できなかった生分解性プラスチックの分解剤への用途といった数多くの有用な用途に広く利用することができる。
【0033】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】リパーゼCS2のアミノ酸配列(下段)及びそれをコードするDNAの塩基配列(上段)を示す。
Claims (1)
- 配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子のDNAであって、その塩基配列が配列番号2の塩基配列であることを特徴とするDNA。
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