JP4084651B2 - 浮桟橋装置及び浮桟橋の退避方法 - Google Patents

浮桟橋装置及び浮桟橋の退避方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レジャーボートやヨット等の船舶を海上及び陸上相互間で移動させる船舶格納着水装置を陸上から海上へ突出させて設けたマリーナの前記船舶格納着水装置下方の海上に浮桟橋を浮かべる浮桟橋装置と、暴風時に浮桟橋を容易かつ安全に退避させる浮桟橋の退避方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マリーナには、図13及び図14に見られるように、レジャーボートやヨット等の船舶36を海上Mから陸上Lへ、又は陸上Lから海上Mへ移動させる設備である船舶格納着水装置(以下、ガーダ9と呼ぶ)がマリーナの陸上L側に、そして浮桟橋(ポンツーン)1がマリーナの海上M側に設置されている。通常、浮桟橋1は自由度の高い浮体構造物で、多くは海底に基礎を有さず、海上に浮かんでいるだけなので、波の影響を受けやすい。こうした浮桟橋1は、船舶36への乗降船に際する足場になるため、できるだけ波の影響を受けないことが望ましい。このようなことから、従来の浮桟橋1には、波の影響を抑制又は低減する手段が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1は、岸壁に対して揺動自在にした浮桟橋に岸壁から延びるシリンダを連結し、シンリダに対するピストン・ロッドの進退を揺動に対抗させることで、結果として浮桟橋の波による影響を低減する。特許文献2は、浮桟橋底面に設けた複数のフィンにより消波を図り、浮桟橋の波による影響を抑制する。特許文献3は、浮桟橋底面に鉛直方向の抵抗板を設けることで、波の影響による浮桟橋の揺動運動自体を抑制する。特許文献4は、平面視略長方形の浮桟橋に対し、横揺れ(短手方向の揺れ、ローリング)を防止するため、喫水線以下に張り出し部を設けている。このように、従来の浮桟橋における波の影響対策は、波による運動を抑制又は低減する手段を浮桟橋自身に付与するものが多かった。
【0004】
【特許文献1】
実全昭62-085510号公報(第4〜7頁、第1図)
【特許文献2】
特開平04-071988号公報(第2〜3頁、第1図)
【特許文献3】
特開平07-279125号公報(第2〜3頁、第1〜3図)
【特許文献4】
特開2002-145170号公報(第4〜5頁、第1図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
常態として浮桟橋の波の影響を抑制又は低減することは、浮桟橋を船舶への乗降船に利用する観点から必要である。しかし、浮桟橋に対する波の影響で最も看過し得ないのは、暴風時等、波のうねりが大きくなる場合である。こうした状態では、前記船舶への乗降船における浮桟橋の揺動抑制又は低減だけでは対処しがたく、波の上下動のままに浮桟橋が揺動し、破損することがあった。上述のようなフィンや抵抗板を浮桟橋底面に設けると、大きくうねる波に対して浮桟橋の揺動が逆向きに働き、かえって逆効果になることも少なくなかった。浮桟橋は、船舶への乗降船に応じて必要な設備で、破損した場合は修理が必要となるが、この修理費は非常に高く、新品に交換ともなればより経費が嵩むことになった。
【0006】
このため、暴風時等における浮桟橋の波浪対策は、上述のような揺動抑制又は低減対策のほかに設けなければならない。この点、従来より、浮桟橋より沖合に防波堤やテトラポット等を設置し、外洋からの波の影響を予め低減又は防止する手段が用いられている。しかし、広範囲にわたって防波堤等を設置する必要があり、当然設備として大掛かりなものになるため、設備費が莫大になる欠点がある。しかも、こうした防波堤やテトラポット等の設備も抜本的な波浪対策になっているわけではない。すなわち、現在のところ、暴風時等に対する浮桟橋の波浪対策は、万全でないことになる。
【0007】
そこで、特に暴風時等における浮桟橋の破損防止を目標として、浮桟橋自身に構造又は構成的な改善を試みると共に、従来から用いられている浮桟橋にも適用できる波浪対策手段を開発することとして、検討した。
【0008】
【課題を解決するための手段】
検討の結果開発したものが、レジャーボートやヨット等の船舶を海上及び陸上相互間で移動させる船舶格納着水装置を陸上から海上へ突出させて設けたマリーナの前記船舶格納着水装置下方の海上に浮桟橋を浮かべる浮桟橋装置であって、浮桟橋、昇降ガイド及び吊上装置とからなり、浮桟橋はマリーナの岸壁又は海底から立設した昇降ガイドに水平方向で係合し、かつ該昇降ガイドに案内されて垂直方向へ昇降自在にしてなる浮桟橋装置において、浮桟橋上方の船舶格納着水装置に吊上装置を付設し、前記吊上装置の吊り上げによって浮桟橋を昇降自在とし、前記吊上装置の吊り上げにより海面から離水した高さまで上昇させた浮桟橋を下方から圧接させるストッパ部を昇降ガイドに設けた浮桟橋装置である。
【0009】
本発明の浮桟橋装置は、吊上装置により浮桟橋を吊り上げて海面から離水させ、前記昇降ガイドのストッパ部に圧接させた段階で浮桟橋の吊り上げを停止して、吊り上げによる引っ張り力と、ストッパ部からの反力及び浮桟橋の自重の合力とが均衡する弾支状態で浮桟橋を位置保持して、この浮桟橋を海面から一時退避させる。浮桟橋は、海上で既に昇降ガイドにより水平方向に位置拘束されている。ストッパ部に圧接させた段階で吊り上げを停止した浮桟橋は、前記水平方向の位置拘束に加え、(1)海面から離水させることで波の影響を避け、更に(2)吊り上げによる引っ張り力と、ストッパ部からの反力及び浮桟橋の自重の合力との均衡によって、吊り上げを停止させた高さで垂直方向の位置拘束を図っている。
【0010】
ここで、本発明の浮桟橋は、昇降ガイドとの係合部位や、吊上装置との連結解除部位等を付設する点から、従来の浮桟橋と微少な相違点がある。しかし、前記係合部位に相当する構造は従来の浮桟橋にもあり、また前記連結解除部位は別途付設しなくても吊上装置側で連結解除の相当機能を構成することもできるので、本発明の浮桟橋として従来の浮桟橋をそのまま用いてもよい。
【0011】
昇降ガイドは、(a)海面から離水した浮桟橋に水平方向で係合し、かつ(b)海面から離水した浮桟橋を垂直方向へ昇降自在に案内する構成であれば、特に構造に制約はない。具体的な昇降ガイドとしては、マリーナの岸壁又は海底から立設した垂直レールや、マリーナの岸壁又は海底から立設した垂直ポールがある。前記垂直レール又は垂直ポールは、それぞれ単独で利用できるほか、組み合わせて利用できる。垂直レールを昇降ガイドとした場合、浮桟橋は前記垂直レールに係合するガイドローラにより水平方向で係合し、この昇降ガイドに案内されて垂直方向へ昇降自在にする。また、垂直ポールを昇降ガイドとした場合、浮桟橋は前記垂直ポールに嵌合するガイドリングにより水平方向で係合し、この昇降ガイドに案内されて垂直方向へ昇降自在にする。
【0012】
吊上装置は、浮桟橋が昇降ガイドに水平方向で係合しながら浮桟橋を海面から離水させて吊り上げる構成要素であり、海上にある浮桟橋の水平位置関係から、浮桟橋上方に位置する船舶格納着水装置のガーダに付設する。この場合、前記吊上装置はガーダが有する船舶格納着水用のホイストとは異なり、浮桟橋専用装置として付設することになる。この吊上装置に対する浮桟橋の連結解除部位は、吊上装置から繰り出される巻上用ワイヤ又は吊りビームから垂らす連結ベルトが有するフックが係合する浮桟橋係合環として構成できる。浮桟橋上方のガーダに付設した吊上装置は、浮桟橋の平面視形状に合わせて水平位置を決定できるため、この吊上装置から繰り出される巻上用ワイヤ又は吊りビームから垂らす連結ベルトが有するフックは、直接的に浮桟橋の係合環と連結しやすい。
【0013】
ここで、浮桟橋係合環は、通常鈎状部材であるフックに対する環状部材を意味するが、必ずしも閉じた構造のみならず、フックを係合できる構造であれば特定しない。同様に、フックは、浮桟橋係合環の対となる部材で、前述の通り鈎状部材を意味するが、浮桟橋係合環と係合関係となる構造であれば特定しない。前記浮桟橋係合環は、浮桟橋の海上から露出している外面に設けることになる。これにより、巻上用ワイヤ又は連結ベルトと浮桟橋係合環とを手作業により連結しやすくできるが、通常浮桟橋上面は歩行路となるから、浮桟橋上面から出没自在な浮桟橋係合環を構成するとよい。
【0014】
吊上装置は、ガーダに別途付設するのではなく、ガーダが有する船舶格納着水用のホイストそのものを利用することもできる。この場合、前記船舶格納着水用のホイストは、本来浮桟橋に挟まれる位置関係及び大きさの船舶を吊り上げるためのものであるから、浮桟橋を直接連結して吊り上げることには適さない場合が多い。そこで、浮桟橋は、平面視形状がこの浮桟橋と相似な枠体からなる吊り本体を介して巻上用ワイヤ又は吊りビームから垂らす連結ベルトに連結してなり、吊り本体には巻上用ワイヤ又は連結ベルトが有するフックが係合する吊り本体係合環と、浮桟橋に向けて垂らす連結ワイヤとを設け、浮桟橋には前記連結ワイヤが有するフックが係合する浮桟橋係合環を設けるとよい。ここにいう吊り本体係合環及びフックも、上述の浮桟橋係合環及びフックと同様、係合関係にある一対の部材であれば特に構造を特定しない。
【0015】
上記吊り本体は、ガーダが有する船舶格納着水用のホイストと浮桟橋との水平位置関係のずれを吸収し、前記ホイストで浮桟橋を吊り上げる場合の不安定さと破損の虞を回避する補助具である。また、例えば浮桟橋として従来の浮桟橋をそのまま利用する際、ガーダが有する船舶格納着水用のホイストで前記浮桟橋を吊り上げることができるようにする媒介具にもなる。この場合、例えば吊り本体と吊りビームとを結ぶ連結ベルトの開きがあまり大きくならず、また連結する浮桟橋に負荷を与えないようにする観点から、吊り本体は平面視形状が浮桟橋より小さい、好ましくは一回り小さい程度の浮桟橋外形の相似形とし、前記相似形外縁に沿って連結ワイヤを設ける。
【0016】
更に、浮桟橋係合環と連結ワイヤが有するフックとを連結する作業性を考慮すると、吊り本体は、平面視形状が浮桟橋より小さなこの浮桟橋外形の相似形に組まれた枠体がよい。これにより、吊り本体の軽量化を図ることができ、不使用時の吊り本体単体の取り扱い(移動、保管)が容易になる。浮桟橋外形の相似形に組まれた枠体は、部分的に補強材を掛け渡すことで、大きな吊り本体でも浮桟橋を吊り上げる際の剛性を確保できる。
【0017】
退避した浮桟橋は、吊り上げによる引っ張り力と、ストッパ部から生ずる反力と浮桟橋の自重の合力との均衡により、吊り上げを停止させた高さで垂直方向に位置拘束する。ここで、ストッパ部が剛性体であると、前記反力は引っ張り力の反作用のみから形成されるため、引っ張り力の変動が垂直方向での位置拘束の変動を招き、浮桟橋をがたつかせて破損を招く虞がある。そこで、昇降ガイドの側面法線方向に突出して浮桟橋に上方から当接する弾性体でストッパ部を構成し、引っ張り力の変動に伴う浮桟橋のガタツキをストッパ部で吸収するとよい。弾性体であるストッパ部は、昇降ガイドに外嵌し、主として垂直方向へ圧縮又は伸長自在なゴムリング、コイルスプリング又はその他各種スプリングから構成する。
【0018】
本発明による具体的な浮桟橋の退避は、次のような退避方法による。すなわち、レジャーボートやヨット等の船舶を海上及び陸上相互間で移動させる船舶格納着水装置を陸上から海上へ突出させて設けたマリーナの前記船舶格納着水装置下方の海上に浮かべる浮桟橋を、暴風時等の必要時に海面から一時退避させるに際し、(1)マリーナの岸壁又は海底から立設し、浮桟橋に水平方向で係合する昇降ガイドで案内しながら、浮桟橋上方の船舶格納着水装置に付設した吊上装置により該浮桟橋を吊り上げて海面から完全に離水させ、(2)前記昇降ガイドに設けた弾性を有するストッパ部に浮桟橋を下方から圧接させた段階で浮桟橋の吊り上げを停止させ、(3)前記吊上装置の吊り上げによる引っ張り力と、ストッパ部からの反力及び浮桟橋の自重の合力とが均衡する弾支状態で海面から離水した高さまで上昇させた該浮桟橋を位置保持して、該浮桟橋を海面から一時退避させる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明に基づく浮桟橋装置の一例を表すマリーナの側面図、図2は本例の浮桟橋装置における浮桟橋1及び吊り本体2の連結状態を表した平面図、図3は同浮桟橋1、吊り本体2及び吊りビーム31の連結状態を表した側面図、図4は同浮桟橋1、吊り本体2及び吊りビーム31の連結状態を表した正面図、図5はゴムリング3から構成したストッパ部4を表した部分断面図、図6は同ストッパ部4の浮桟橋1圧接時を表した部分断面図、図7はコイルスプリング5から構成したストッパ部4を表した部分断面図、図8は同ストッパ部4の浮桟橋1圧接時を表した部分断面図であり、図9は垂直レール7からなる昇降ガイド8を立設した浮桟橋装置の別例を表すマリーナの図1相当側面図である。
【0020】
本例は、図1に見られるように、吊り本体2を介してガーダ(船舶格納着水装置)9に沿って横行するホイスト10により浮桟橋1を吊り上げる構成であり、吊上装置としてガーダ9が有する船舶格納着水用のホイスト10を利用している。吊り本体2は、浮桟橋1の退避時に使用するのみで、通常は浮桟橋1のみを海上Mに浮かべて使用する。本例の浮桟橋1は、船舶(図13及び図14参照)を囲むようにコの字状に延びる乗降船部11(図2参照)と、乗降船部11に隣接して岸壁12から降ろしたタラップ13を接地するタラップ部14(図2参照)とからなる平面視形状で、乗降船部11及びタラップ部14には下面側に多数のフロート15を並設している。浮桟橋の構造に特定はないので、乗降船部のみの構成でもよいし、乗降船部及びタラップ部とフロートとを一体にした構成でもよい。また、波の影響を抑制又は低減する抵抗板やフラップを設けた既知の浮桟橋にも本発明は適用できる。
【0021】
本例の浮桟橋1は、図2〜図4に見られるように、乗降船部11先端部、乗降船部11後端側部及びタラップ部14側部のそれぞれに設けた計4基のガイドリング16を、海底(図示略)から立設した垂直ポール17からなる昇降ガイド8に水平方向で係合させ、垂直方向へ昇降自在にしている。ガイドリング16は、断面円形の垂直ポール17に三方から支持ローラ18,18,18を宛う構成で、上面に当接リング19を固着している。各ガイドリング16は、前記当接リング19を各昇降ガイド8上端に設けたストッパ部4に下方から圧接する。この海底から立設した垂直ポール17からなる昇降ガイド8は、使用状態(海上に浮かんでいる状態)の浮桟橋1を、潮の干満や波に従って水平位置固定で昇降させる働きも有している。
【0022】
昇降ガイド8上端に設けたストッパ部4は、図5に見られるように、昇降ガイド8上端に固着した基準板20を支持基礎とし、この基準板20の下方にゴムリング3を昇降ガイド8に外嵌し、このゴムリング3の下縁に受けリング21を固着した構成である。ゴムリング3は、基準板20に固着すると落下することがなくなる。受けリング21は、上記各ガイドリング16の当接リング19に対向して接面し、ゴムリング3が直接ガイドリング16に接触しないように保護している。このストッパ部4は、浮桟橋1を吊り上げて当接リング19が受けリング21に圧接すると、図6に見られるようにゴムリング3が垂直方向に撓んで変形し、ゴムリング3から下向きの反力(図6中黒塗矢印)が発生する。そして、4基のストッパ部4から生ずる各反力と浮桟橋1の自重との合力が、浮桟橋1を吊り上げる引っ張り力(図6中白抜矢印)と均衡することにより、浮桟橋1が弾支状態で位置保持される。
【0023】
ストッパ部4は、引っ張り力の反作用ではなく、自律的に反力を発生させればよく、例えば図7に見られるように、上記ゴムリング3に代えてコイルスプリング5を用いることもできる。このストッパ部4は、昇降ガイド8上端に固着した基準板20を支持基礎とし、この基準板20の下方でコイルスプリング5を昇降ガイド8に外嵌し、このコイルスプリング5の下縁に受けリング21を固着した構成で、コイルスプリング5全体を保護カバー6で覆い、コイルスプリング5の耐候性を高めている。コイルスプリング5は、前記保護カバー6により支持される受けリング21と基準板20とに挟持されるため、前記受けリング21及び基準板20に挟むだけでもよいが、落下を防ぐには上記ゴムリング3と同様、基準板20に固着しておくとよい。このストッパ部4も、浮桟橋1を吊り上げて当接リング19が受けリング21に圧接すると、図8に見られるようにコイルスプリング5が垂直方向に圧縮し、コイルスプリング5から下向きの反力(図8中黒塗矢印)が発生する。そして、4基のストッパ部4から生ずる各反力と浮桟橋1の自重との合力が、浮桟橋1を吊り上げる引っ張り力(図8中白抜矢印)と均衡することにより、浮桟橋1が弾支状態で位置保持される。
【0024】
昇降ガイド8は、上記垂直ポール17のみで構成するのではなく、図9に見られるように、例えば岸壁12に添って立設した(通常岸壁12に添設した)垂直レール7と上記垂直ポール17との組み合わせで構成してもよい。この垂直レール7からなる昇降ガイド8では、浮桟橋1は前記垂直レール7に係合するガイドローラ22により水平方向で係合させ、垂直方向へ昇降自在にする。この岸壁12に添って立設した垂直レール7からなる昇降ガイド8は、上記垂直ポール17からなる昇降ガイド8と同様、使用状態(海上に浮かんでいる状態)の浮桟橋1を、潮の干満や波に従って水平位置固定で昇降させる働きのほか、岸壁12に対する浮桟橋1の相対位置(相対的な水平位置)を固定する働きも有している。
【0025】
また、垂直レール7からなる昇降ガイド8に対するストッパ部4は、垂直ポール17からなる昇降ガイド8に設けたストッパ部4の半割外観の構成となり、上述のようなコイルスプリング5を用いたストッパ部4は構成しにくい(図7及び図9参照)。この場合、複数の小さなコイルスプリングを用いることも考えられるが、構造が複雑になることから、ゴムリングを半割した弾性体を用いてストッパ部4を構成するとよい。
【0026】
浮桟橋1には、図2〜図4に見られるように、吊り本体2から降ろされる連結ワイヤ23が有する鈎状部材のフック24を係合する環状部材の浮桟橋係合環25を、乗降船部11及びタラップ部14上面へ出没自在に設けている。この浮桟橋係合環25は2基1組を単位として、乗降船部11の延在方向に沿って複数組、タラップ部14には少し間隔を広げて2組配している。連結ワイヤ23は吊り本体2の挿通環26から2本ずつ降ろし、各連結ワイヤ23端に設けたフック24を同一組の浮桟橋係合環25それぞれに係合する。これにより、吊り本体2及び浮桟橋1を結ぶ連結ワイヤ23の実質的な本数が多くなり、各連結ワイヤ23に掛かる負荷を小さくできる。また、同じ挿通環26から降ろした各連結ワイヤ23が互いに逆向きに引き合うため、浮桟橋1に対する吊り本体2の水平方向位置、すなわち相対的に吊り本体2に対する浮桟橋1の水平方向位置が拘束され、自由状態で吊り本体2により吊り上げられる浮桟橋1の不用意な揺動を防止できる。
【0027】
吊り本体2は、金属製H型材及びアングル材からなる枠体構造で、浮桟橋1の乗降船部11の中心線に沿う主フレーム部27と、タラップ部14の相似形で主フレーム部27から突出する副フレーム部28とを一体に構成している。吊り本体2は、枠体構造にすると軽量化を図ることができるほか、主フレーム部27及び副フレーム部28下面に設けた挿通環26から降ろした連結ワイヤ23が有するフック24を浮桟橋1の各浮桟橋係合環25に連結する作業を容易にする。これは、吊り本体2を補助具として用いながら既存の浮桟橋を吊り上げる場合、適当な連結部位がない既存の浮桟橋に対する吊り本体2の連結作業の自由度を高め、例えば船舶係留具に対する連結ワイヤ23の連結を容易にできる。
【0028】
この吊り本体2の平面視形状は浮桟橋1外形の略相似形で、主フレーム部27及び副フレーム部28を構成する金属製H型材がそれぞれ乗降船部11又はタラップ部14の中心線に沿っている。このように、安定した浮桟橋1の吊り上げのため、連結ワイヤ23を降ろす挿通環26が乗降船部11又はタラップ部14の中心線上に並ぶように、吊り本体2は浮桟橋1外形に相似な平面視形状がよい。加えて、上述のように、同一の挿通環26から降ろす一対の連結ワイヤ23を互いに逆向きに引き合わせるため、主フレーム部27及び副フレーム部28を構成する金属製H型材がそれぞれ乗降船部11又はタラップ部14の中心線に沿う大きさにするとよい。
【0029】
主フレーム部27及び副フレーム部28は、それぞれの各角部に角部補強材29を架設し、更に主フレーム部27の対向部材間に主フレーム部補強材30を架設して枠体構造を構成し、吊り本体2全体としての剛性を高めている。吊り本体2には、浮桟橋1に引っ張り力を与えるために負荷が掛かることから、挿通環26は角部補強材29又は主フレーム部補強材30に近い位置に設けるとよい。
【0030】
吊り本体2は、吊りビーム31及び浮桟橋1の間に介装して、吊りビーム31によって直接浮桟橋1を吊り上げる場合の位置関係のずれを吸収する。このようなことから、吊り本体2上面には、吊りビーム31から垂下する連結ベルト32を連結しやすい位置に、吊り本体係合環33を設ければよい。本例の吊り本体係合環33は単なる環状部材ではなく、フランジ間へ挿入した連結ベルト32のアイ部をこの連結ベルト32が有するフック34とし、前記アイ部に係止ピンを貫通させて係合し、連結ベルト32と連結する構造である。この場合、連結ベルト32と吊り本体係合環33とは、係止ピンを抜くことで連結解除できる。ここで、連結ベルト32によって吊り本体2と連結する吊りビーム31は、ガーダ9に使用される船舶玉掛け用でもよいし、浮桟橋専用でもよい。前述のように、吊りビーム31と浮桟橋1との位置関係のずれは吊り本体2が吸収するので、吊りビーム31は特定されない。
【0031】
図10〜図12は、海面から離水させて浮桟橋1を一時退避させる手順を説明するガーダ9設置箇所におけるマリーナの側面図であり、図10はガーダ9に沿って横行するホイスト10から巻上用ワイヤ35を繰り出して吊りビーム31から吊り下げた吊り本体2を浮桟橋1に向けて下降させ、連結ワイヤ23により浮桟橋1と吊り本体2とを連結するA手順、図11はガーダ9に沿って横行するホイスト10から巻上用ワイヤ35を繰り出して吊りビーム31を浮桟橋1に向けて下降させ、連結ベルト32により浮桟橋1と吊りビーム31とを直接連結するA'手順、図12は各ホイスト10の巻上用ワイヤ35を巻き取って浮桟橋1及び吊り本体2を一体に吊り上げ、各ガイドリング16をストッパ部4に圧接して弾支状態で浮桟橋1を位置保持しているB手順をそれぞれ表している。
【0032】
浮桟橋1の退避作業は、事前準備として次の作業が必要である。第1に、浮桟橋1のタラップ部14に接地するタラップ13は、浮桟橋1の吊り上げに際して邪魔になるため、例えば90度水平旋回させて陸置きにする(図14参照)か、別途取り外しておく。第2に、吊り本体2は、陸上L側でガーダ9下方まで運搬し、ガーダ9に沿って横行する各ホイスト10のフックブロックに取り付けた吊りビーム31に連結する。前記連結は、吊りビーム31から垂らした連結ベルト32端に設けたフック34を吊り本体係合環33に係合させることにより行う。吊り本体2の運搬は、例えば吊り本体2に陸上移動用の車輪を設けておくと、容易になる。この車輪は、吊り本体2から垂らす連結ワイヤ23と浮桟橋1とを連結した際の前記連結ワイヤ23の垂直長さよりも短く、主フレーム部27及び副フレーム部28から突出していれば、浮桟橋1を吊り上げる際の邪魔にはならない。
【0033】
こうして事前準備を終えた後、まずA手順として、図10に見られるように、ガーダ9に沿って横行するホイスト10に吊り下げた吊りビーム31に連結した吊り本体2を、浮桟橋1上方にまで移動させる。その後、浮桟橋1に向けて吊り本体2を下降させ、連結ワイヤ23が有するフック24を浮桟橋1の浮桟橋係合環25に連結する。また、吊り本体2を用いず、吊りビーム31から垂らす連結ベルト32を直接浮桟橋1に連結する場合、図11に見られるように、吊りビーム31を浮桟橋1上方にまで移動させた後、浮桟橋1に向けて吊りビーム31を下降させ、連結ベルト32が有するフック34を浮桟橋1の浮桟橋係合環25に直接連結する。
【0034】
ここで、浮桟橋1に対する吊り本体2の水平方向の位置決めは、吊り本体2の挿通環26から降ろした連結ワイヤ23が有するフック24が対応する浮桟橋係合環25に連結できる範囲にあれば、正確でなくてもよい。下降させた吊り本体2と浮桟橋1との垂直距離を短くすれば連結ワイヤ23にゆとりが生じるので、浮桟橋係合環25に対する連結ワイヤ23が有するフック24の連結は比較的容易にできるから、連結作業に際する浮桟橋1に対する吊り本体2の水平方向の位置合わせは緩やかでよい。本例は、人手により、挿通環26から降ろした連結ワイヤ23が有するフック24を、浮桟橋係合環25に係合する態様で連結作業を実施する。既存の浮桟橋を本発明に基づいて一時退避させる場合、吊り本体2から垂らした連結ワイヤ23は、例えば既存の浮桟橋が備える船舶係留具等に係合し、連結するとよい。
【0035】
吊り本体2と浮桟橋1との連結を終えれば、図12に見られるように、B手順として各ホイスト10で吊りビーム31及び吊り本体2を吊り上げれば、この吊り本体2と一体となった浮桟橋1が海面から引き上げられ、離水する。このとき、吊り本体2に従う浮桟橋1の上昇方向が昇降ガイド8と平行になることが好ましい。なぜなら、浮桟橋1の吊り上げを円滑にすることのほか、特に吊り上げを停止した際に生ずる各ストッパ部4からの反力を略均一にすることが、安定した浮桟橋1の位置保持に必要だからである。このB手順では、既に吊り本体2と浮桟橋1との連結は終わっているので、仮に前記上昇方向と昇降ガイド8とが平行ではない場合、ガーダ9に対してホイスト10を必要量横行させて微調整するとよい。
【0036】
こうして、各ガイドリング16が昇降ガイド8のストッパ部4に下方から圧接する高さまで浮桟橋1が上昇したら、浮桟橋1の吊り上げを停止する。浮桟橋1には、吊りビーム31及び吊り本体2を介して上方へ吊り上げようとする上方への引っ張り力が加えられている。これに対し、各ガイドリング16が圧接したストッパ部4は、ゴムリング3の撓み(図6参照)又はコイルスプリング5の圧縮(図8参照)に基づく下方への反力を浮桟橋1に加えている。この引っ張り力が、ストッパ部4からの反力と浮桟橋1の自重との合力に均衡して、浮桟橋1は海面から離水した高さで弾支状態に位置保持される。これにより、当然波の影響を受けないばかりか、暴風によるガタツキも前記弾支状態により緩和又は吸収され、安定した状態で浮桟橋1を離水させておくことができる。暴風が去った後、浮桟橋1を設置状態(海上に浮かべた状態)に戻すには、上述までの手順A及び手順Bを逆に実施すればよい(手順B→手順A)ので、説明は省略する。
【0037】
【発明の効果】
本発明により、特に暴風時等における浮桟橋の破損防止を図る対策として、浮桟橋を海面から離水させる一時退避を容易に実現できるようになる。従来見られる浮桟橋に対する波の影響抑制又は低減ではなく、破損をもたらす暴風又は波浪から浮桟橋を完全に隔離(海面から離水)し、しかもガタツキを吸収する弾支状態で位置固定できるので、暴風時等における波浪対策としては必要十分である。
【0038】
浮桟橋及び吊り本体は、いずれも簡素な構造であり、とりわけ浮桟橋は海上から露出する外面に連結ワイヤに対応する専用の浮桟橋係合環を設けたのみだから、実質既存の浮桟橋と変わらない。すなわち、既存の浮桟橋でも、連結ベルト又は連結ワイヤに対する浮桟橋係合環を設ければ、本発明を適用できる。
【0039】
本発明は、できる限り既存の設備を利用して(例えば、吊上装置としてガーダのホイストを利用する等)、簡易な浮桟橋の一時退避を実現する。これは、本発明を利用するための費用が低廉であることを意味する。また、この一時退避は、浮桟橋を海面から離水させるだけであり、復帰も容易でありながら、暴風又は波浪から確実に浮桟橋を保護することができる。このように、本発明は、費用及び手間が少ないながら、確実な浮桟橋の一時退避を実現する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく浮桟橋装置の一例を表すマリーナの側面図である。
【図2】本例の浮桟橋装置における浮桟橋及び吊り本体の連結状態を表した平面図である。
【図3】同浮桟橋、吊り本体及び吊りビームの連結状態を表した側面図である。
【図4】同浮桟橋、吊り本体及び吊りビームの連結状態を表した正面図である。
【図5】ゴムリングから構成したストッパ部を表した部分断面図である。
【図6】同ストッパ部の浮桟橋圧接時を表した部分断面図である。
【図7】コイルスプリングから構成したストッパ部を表した部分断面図である。
【図8】同ストッパ部の浮桟橋圧接時を表した部分断面図である。
【図9】垂直レールからなる昇降ガイドを立設した浮桟橋装置の別例を表すマリーナの図1相当側面図である。
【図10】連結ワイヤにより浮桟橋と吊り本体とを連結するA手順を説明するガーダ設置箇所におけるマリーナの側面図である。
【図11】連結ベルトにより浮桟橋と吊りビームとを直接連結するA'手順を説明するガーダ設置箇所におけるマリーナの側面図である。
【図12】各ガイドリングをストッパ部に圧接して弾支状態で浮桟橋を位置保持しているB手順を説明するガーダ設置箇所におけるマリーナの側面図である。
【図13】ガーダ設置箇所におけるマリーナの側面図である。
【図14】ガーダ設置箇所におけるマリーナの平面図である。
【符号の説明】
1 浮桟橋
2 吊り本体
4 ストッパ部
8 昇降ガイド
9 ガーダ(船舶格納着水装置)
10 ホイスト
23 連結ワイヤ
31 吊りビーム
32 連結ベルト
35 巻上用ワイヤ
M 海上
L 陸上

Claims (8)

  1. レジャーボートやヨット等の船舶を海上及び陸上相互間で移動させる船舶格納着水装置を陸上から海上へ突出させて設けたマリーナの前記船舶格納着水装置下方の海上に浮桟橋を浮かべる浮桟橋装置であって、浮桟橋、昇降ガイド及び吊上装置とからなり、浮桟橋はマリーナの岸壁又は海底から立設した昇降ガイドに水平方向で係合し、かつ該昇降ガイドに案内されて垂直方向へ昇降自在にしてなる浮桟橋装置において、浮桟橋上方の船舶格納着水装置に吊上装置を付設し、前記吊上装置の吊り上げによって浮桟橋を昇降自在とし、前記吊上装置の吊り上げにより海面から離水した高さまで上昇させた該浮桟橋を下方から圧接させるストッパ部を昇降ガイドに設けたことを特徴とする浮桟橋装置。
  2. 昇降ガイドは、マリーナの岸壁又は海底から立設した垂直レールであり、浮桟橋は前記垂直レールに係合するガイドローラにより水平方向で係合し、該昇降ガイドに案内されて垂直方向へ昇降自在にする請求項1記載の浮桟橋装置。
  3. 昇降ガイドは、マリーナの岸壁又は海底から立設した垂直ポールであり、浮桟橋は前記垂直ポールに嵌合するガイドリングにより水平方向で係合し、該昇降ガイドに案内されて垂直方向へ昇降自在にする請求項1記載の浮桟橋装置。
  4. 吊上装置は、浮桟橋上方へ移動自在な船舶格納着水装置のホイストである請求項1記載の浮桟橋装置。
  5. 浮桟橋には、吊上装置から繰り出される巻上用ワイヤ又は吊りビームから垂らす連結ベルトが有するフックが係合する浮桟橋係合環を設けた請求項1記載の浮桟橋装置。
  6. 浮桟橋は、平面視形状が該浮桟橋と相似な枠体からなる吊り本体を介して巻上用ワイヤ又は吊りビームから垂らす連結ベルトに連結してなり、吊り本体には巻上用ワイヤ又は連結ベルトが有するフックが係合する吊り本体係合環と、浮桟橋に向けて垂らす連結ワイヤとを設け、浮桟橋には前記連結ワイヤが有するフックが係合する浮桟橋係合環を設けた請求項5記載の浮桟橋装置。
  7. ストッパ部は、昇降ガイドの側面法線方向に突出して浮桟橋に上方から当接する弾性体である請求項1記載の浮桟橋装置。
  8. レジャーボートやヨット等の船舶を海上及び陸上相互間で移動させる船舶格納着水装置を陸上から海上へ突出させて設けたマリーナの前記船舶格納着水装置下方の海上に浮かべる浮桟橋を、暴風時等の必要時に海面から一時退避させるに際し、マリーナの岸壁又は海底から立設し、浮桟橋に水平方向で係合する昇降ガイドで案内しながら、浮桟橋上方の船舶格納着水装置に付設した吊上装置により該浮桟橋を吊り上げて海面から完全に離水させ、前記昇降ガイドに設けた弾性を有するストッパ部に浮桟橋を下方から圧接させた段階で浮桟橋の吊り上げを停止させ、前記吊上装置の吊り上げによる引っ張り力と、ストッパ部からの反力及び浮桟橋の自重の合力とが均衡する弾支状態で海面から離水した高さまで上昇させた該浮桟橋を位置保持して、該浮桟橋を海面から一時退避させる浮桟橋の退避方法。
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