JP4083085B2 - 磁粉探傷用シートおよび磁気探傷装置 - Google Patents

磁粉探傷用シートおよび磁気探傷装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、検査対象物の表面状態を検査するための磁粉探傷用シートおよびそれを用いた磁気探傷装置に関する。より詳細には、本発明は、検査対象物表面または表面直下の異常(例えば、欠陥、傷)や余盛り部分等を、磁束を印加することによって形成した磁粉形成パターンから検出する磁粉探傷用シートおよびそれを用いた磁気探傷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガスプラント設備、各種配管、建築物、航空機等の検査において、検査対象物が外部から確認できない箇所や目視では検査困難な箇所に対して、非破壊検査が行われている。非破壊検査は、設備を解体/復元することなく検査対象物を迅速かつ容易に検査することができるので、分解等をともなう一般の検査方法と比較して、コスト的および時間的に有利であり、各産業界からの需要も大きい。
【0003】
このような非破壊検査のひとつに、磁気探傷方法(Magnetic Particle Testing;MT)が知られている。磁気探傷方法は、検査対象物が鉄鋼等の磁性材料である場合、その検査対象物に磁束を印加し、磁束分布の乱れにより、検査対象物表面または表面直下の異常(例えば、欠陥、傷)や余盛り部分等を検出する方法である。
【0004】
これまでの磁気探傷方法では、検査対象物に直接磁粉を吹き付け、その状態で検査対象物に磁束を印加して磁粉の形成パターンを読み取る方法が行われていた。しかし、このような方法は、磁粉が露出しているため外部からの影響を受け易く、検査の信頼性が劣る。また、磁粉の回収がほとんど不可能なためコストが掛かり、さらには、回収不能となった磁粉が汚染の原因となるため環境に対する負荷も大きいという問題があった。そこで、最近では、磁粉を含む材料を薄いシート内に密封して磁粉探傷用シートとし、この磁粉探傷用シートを検査対象物上に配置し、次いで、この磁粉探傷用シートとともに検査対象物に磁束を印加することによって探傷を行う磁気探傷方法が主流となっている。このような方法では、検査対象物に磁束を印加すると、検査対象物表面または表面直下の異常や余盛り部分等の箇所から漏れ出してきた漏洩磁束に磁粉が吸い寄せられて磁粉形成パターン(指示模様)を形成し、この磁粉形成パターンは、当該異常や余盛り部分等の箇所の大きさの数十倍の大きさの模様となって現れるので、この性質を利用して検査対象物表面または表面直下の異常や余盛り部分等を容易に見つけ出すことができる。
【0005】
ところで、従来、磁粉探傷用シートを用いた装置として、水中の検査対象物の表面欠陥を検査する磁気探傷法実施装置があった(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の装置は、柔軟な素材からなる底面を有した検査カセット(磁粉探傷用シートに相当)の内部に検査液と検査用磁粉との懸濁物を充填し、検査カセットの底面を水中の検査対象物に接触させた状態で検査対象物に磁束を作用させ、漏洩磁束によって検査用磁粉が磁粉形成パターンを形成するように構成されている。
【0006】
また、上記のような磁粉探傷用シートにおいては、磁束の作用によって磁粉が自由に移動できるように、磁粉探傷用シート中にスペーサ等を設けてシート中に磁粉の移動空間を維持することも知られている。
【0007】
【特許文献1】
特開昭56−40752号公報(第2図)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特許文献1に記載される装置は、水中の物体の検査のみを想定した磁気探傷装置である。このような水中専用の装置である特許文献1では、検査カセットに充填される検査液が蒸発して減少することを考慮する必要がない。つまり、特許文献1のように磁気探傷装置を水中で用いる限りは、検査カセット内部の検査液の量が減少するという課題はもともと生じていなかった。
【0009】
しかし、このような磁気探傷装置を陸上でも使用したいという要望は当然存在する。むしろ、水中であろうが陸上であろうが、その置かれる環境を問わず、いかなる状況でも磁気探傷の実施が可能な装置を実現することが求められる。しかしながら、特許文献1の装置を長期間においてそのまま通常の実施(すなわち、陸上での磁気探傷法の使用)に供すると、検査カセットに充填される検査液が検査カセットの表面等を透過して蒸発し、その結果、検査液の減少により検査カセットの内部空間が収縮してしまうおそれがある。また、検査液の減少は、懸濁液中の検査用磁粉の相対的な濃度の上昇につながる。このような問題が起こると、検査カセット中における検査用磁粉の移動性が低下し、探傷時の磁粉のパターン形成に悪影響を及ぼす。
【0010】
また、特許文献1の装置では、検査カセット(容器)中に流体と磁粉とを密封しているため、検査カセットの製造段階で空気やゴミ等の不純物が不意に混入すると、探傷時の磁粉形成パターンの読み取りに支障をきたすおそれがある。
【0011】
さらに、特許文献1は、流体と磁粉とを収容する検査カセット(容器)がどのような外観的特徴を有しているかということについては一切開示していないが、検査カセットの外観は、磁粉の形成パターンの確認のため、透明であることが通常である。ところが、このような通常の検査カセットを使用して探傷を行うと、検査対象物の表面状態(塗装、錆など)によっては、磁粉形成パターンを確認し難いことがある。
【0012】
従って、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、検査対象物表面または表面直下の異常(例えば、欠陥、傷)や余盛り部分等に対し、磁束を印加することによって形成した磁粉形成パターンからその異常や余盛り部分等を検出することが可能な磁粉探傷用シートにおいて、いかなる状況であっても検出精度の高い鮮明な磁粉形成パターンを得ることが可能な磁粉探傷シートを提供し、さらには、そのような磁粉探傷用シートを用いた磁気探傷装置を提供することを目的とする。
【0013】
具体的には、陸上または水中などの環境を問わず常に良好な磁粉形成パターンを得るためにシート内部の流体が蒸発等によって減少することを抑制し、製造段階で容器(シート)中に不意に空気やゴミなどの不純物が混入しても磁気探傷時の磁粉形成パターンに悪影響を及ぼすことがなく、さらには、検査対象物の表面がいかなる状態(塗装、錆など)であっても磁粉形成パターンの確認が容易である高検出精度の磁粉探傷用シート、および、それを用いた磁気探傷装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る磁粉探傷用シートは、光透過性を有する表面材と、前記表面材と閉空間を規定するように、少なくとも周縁部が前記表面材と貼り合わされた裏面材と、前記閉空間に封入された磁粉と流体との混合物と、前記磁粉の移動が可能となるように、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成され、前記閉空間に設けられた空間維持手段とを備え、前記表面材および前記裏面材の少なくとも一方は、前記閉空間から前記流体が放出されることを防止するバリア層を含む点に特徴を有する。
【0015】
本構成の磁粉探傷用シートは、表面材および裏面材の少なくとも一方は、閉空間から流体が放出されることを防止するバリア層を含むので、このバリア層が比較的緻密な分子構造を有していることから、磁粉探傷用シートの閉空間からの流体の放出(例えば、蒸発等)による減少を阻止し、これにより、流体の減少に起因する磁粉の移動性の低下を抑えることができる。従って、本構成によれば、磁気探傷時において、常に鮮明な磁粉形成パターンを得ることができる。
また、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成された空間維持手段が磁粉探傷用シート中に存在するため、磁粉の自由な移動を許容し、かつ、磁粉を磁粉探傷用シートの内部空間全体に分散させることができる。従って、検査対象物表面の異常や余盛り部分等に起因して生じた漏洩磁束が、磁粉探傷用シート上のいかなる場所にあっても、鮮明な磁粉形成パターンを形成し、検出精度を上げることが可能となる。
【0016】
本発明の磁粉探傷用シートは、前記バリア層の流体放出量は、0.3g/m・日以下とすることも可能である。
【0017】
本構成であれば、バリア層の流体放出量は、0.3g/m・日以下と非常に少ないので、長期保存に十分耐え得る磁粉探傷用シートを提供することができる。
【0018】
本発明の磁粉探傷用シートは、前記バリア層は、ケイ素、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、塩化鉛、およびケイ酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種から構成されることも可能である。
【0019】
本構成であれば、バリア層は、ケイ素、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、塩化鉛、およびケイ酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種から構成されるので、バリア層を、例えば、メッキ法、再結晶法、蒸着法等の公知の方法で形成することができる。従って、本発明では複雑な製造工程を導入する必要はなく、製造コストを抑えることができる。
【0020】
また、本発明に係る磁粉探傷用シートは、光透過性を有する表面材と、前記表面材と閉空間を規定するように、少なくとも周縁部が前記表面材と貼り合わされた裏面材と、前記閉空間に封入された磁粉と流体との混合物と、前記磁粉の移動が可能となるように、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成され、前記閉空間に設けられた空間維持手段とを備え、前記閉空間は隣接する少なくとも2つの空間部から構成され、前記空間部のそれぞれは、隣合う空間部と連通路を介して互いに連通していることに特徴を有する。
【0021】
本構成の磁粉探傷用シートは、閉空間は隣接する少なくとも2つの空間部(例えば、主室および副室)から構成され、空間部のそれぞれは、隣合う空間部と連通路を介して互いに連通しているので、例えば、副室に磁粉探傷用シートの製造時に不意に混入した空気や不純物、または余剰磁粉等を集めておくと、主室での磁粉の形成パターンをより鮮明で見やすいものにすることができる。また、主室と副室とは連通路を介して連通しているので、上記のように副室に空気、不純物、または余剰磁粉等を集めた状態で前記連通路を熱融着等で閉鎖すると、副室に入れたものが主室に逆戻りしないようにすることができる。さらに、この状態では、副室を主室から切り離すこともできる。また、副室に空気、不純物、または余剰磁粉等を集めた状態で前記連通路をクリップ等の物理的手段で一時的に留めると、空気および不純物を常に副室に閉じ込めておくことが可能である一方で、磁粉を必要に応じた量だけ主室に戻すことも可能である。従って、検査対象物の大きさ、形状、印加する磁束の強度等に応じて、主室に入れる磁粉の量を適宜調節することにより、さらにより鮮明な磁粉形成パターンを得ることが可能となる。
また、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成された空間維持手段が磁粉探傷用シート中に存在するため、磁粉の自由な移動を許容し、かつ、磁粉を磁粉探傷用シートの内部空間全体に分散させることができる。従って、検査対象物表面の異常や余盛り部分等に起因して生じた漏洩磁束が、磁粉探傷用シート上のいかなる場所にあっても、鮮明な磁粉形成パターンを形成し、検出精度を上げることが可能となる。
【0022】
また、本発明に係る磁粉探傷用シートは、光透過性を有する表面材と、前記表面材と閉空間を規定するように、少なくとも周縁部が前記表面材と貼り合わされた裏面材と、前記閉空間に封入された磁粉と流体との混合物と、前記磁粉の移動が可能となるように、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成され、前記閉空間に設けられた空間維持手段とを備え、前記裏面材は、光透過性を有する第1状態と光透過性を有さない第2状態との間で可逆的に変化可能である点に特徴を有する。
【0023】
本構成の磁粉探傷用シートは、裏面材は、光透過性を有する第1状態と光透過性を有さない第2状態との間で可逆的に変化可能であるので、例えば、本構成の磁粉探傷用シートを用いた磁気探傷装置で検査対象物の表面が錆びている箇所を探傷する場合では裏面材を光透過性を有さない第2状態(例えば、白色に着色した状態)にし、また、磁気探傷装置を検査対象物の表面が塗装されている箇所に移動させて探傷を行う場合には裏面材を光透過性を有する第1状態(透明な状態)にすることで、それぞれの状況に応じて磁粉形成パターンをより鮮明に観察することができる。このように、本構成の磁粉探傷用シートは、検査対象物の表面状態を問わず、同じ磁粉探傷用シートを用いて探傷を行うことができるので、効率よく探傷作業を行うことができる。
また、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成された空間維持手段が磁粉探傷用シート中に存在するため、磁粉の自由な移動を許容し、かつ、磁粉を磁粉探傷用シートの内部空間全体に分散させることができる。従って、検査対象物表面の異常や余盛り部分等に起因して生じた漏洩磁束が、磁粉探傷用シート上のいかなる場所にあっても、鮮明な磁粉形成パターンを形成し、検出精度を上げることが可能となる。
【0026】
また、本発明の磁粉探傷用シートは、包装材料でパッキングされた状態で提供されることも可能である。
【0027】
本構成であれば、製品形態を包装材料でパッキングした磁粉探傷用シートとすることができるので、実際に使用に供するまで磁粉探傷用シートをクリーンな状態に保つことができるとともに、長期保存時の磁粉探傷用シート中の流体の蒸発等による減少をさらに抑えることができる。
【0028】
また、本発明に係る磁気探傷装置は、磁気を利用して検査対象物の表面状態を検査するものであって、前記検査対象物上に載置するための磁粉と流体との混合物を封入した上記の磁粉探傷用シートと、前記磁粉探傷用シートに密着状態で押圧する柔軟で変形可能な押圧手段と、前記磁粉探傷用シートを跨ぐ位置に配置された2つの磁極を有する電磁石と、前記電磁石に電力を供給する電源とを備え、前記磁粉探傷用シートは前記押圧手段よりも大きい投影面積を有しており、磁気探傷時において、前記磁粉探傷用シートはその周縁部が前記押圧手段の側に折り曲げられ、前記押圧手段の側面の少なくとも一部を保護するように構成されている点に特徴を有する。
【0029】
本構成の磁気探傷装置は、上記の磁粉探傷用シートの作用効果に加え、磁粉探傷用シートの周縁部が押圧手段の側に折り曲げられ、押圧手段の側面の少なくとも一部を保護するように構成されているので、検査中に、押圧手段に錆、不純物、埃等が付着し、押圧手段が汚染されることを防止することができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施の形態および図面に記載される構成に限定されるものではなく、当業者が実施し得る範囲において、あらゆる変更が可能である。
【0031】
[実施形態1]
図1は、本発明の磁粉探傷用シートS1を用いる磁気探傷装置100を簡潔に示した斜視図である。また、図2は、図1の磁気探傷装置100の側面図である。
【0032】
磁気探傷装置100は、検査対象物1の表面に接触させる磁粉探傷用シートS1と、この磁粉探傷用シートS1を検査対象物1に対して圧着させる押圧手段Pと、検査対象物1に磁束を作用させる磁気発生部Nとを備えている。磁気探傷装置100は、本発明の磁粉探傷用シートS1を使用して探傷を実施する構成の一例である。磁気探傷装置100は、磁性体(例えば、鉄)を検査対象物1としている。磁気探傷装置100は、検査対象物1の表面を検査し、異常(例えば、図2に示される鉄製の配管の局面部分の欠陥(クラック等の傷)C)や鉄板材の溶接箇所の余盛り部分(例えば、図2の1A)を検出することができる。
【0033】
図3は、磁粉探傷用シートS1の一例を示す。図3の(a)は磁粉探傷用シートS1の断面図、(b)は磁粉探傷用シートS1の一部切欠き平面図である。
【0034】
磁粉探傷用シートS1は、表面材10と、裏面材11と、磁粉13と流体14との混合物Mと、空間維持手段Dとを備えている。
【0035】
表面材10は光透過性を有しており、例えば、可視光を透過する透明な可撓性樹脂フィルムで構成することができる。裏面材11は、少なくともその周縁部が表面材10と貼り合わされて、表面材10との間に閉空間を規定する。表面材10と裏面材11との貼り合わせは、接着剤や熱融着によって行うことができる。この閉空間には磁粉13と流体14との混合物Mが封入され、さらに、空間維持手段Dが設けられて所定の厚みdを維持している。流体14は、磁粉13、空間維持手段D、および、磁粉探傷用シートS1の素材と反応しない物質であれば任意の物質が使用可能であり、一例として、水、灯油等が挙げられる。空間維持手段Dは、例えば、織物、編物、不織布、または紙で構成される。空間維持手段Dの厚みdは、通常、磁粉13の粒子径よりも十分に大きいので、混合物M中の磁粉13は、磁粉探傷用シートS1の閉空間中で自由に移動することができる。つまり、空間維持手段Dは、磁粉13の自由な移動を許容し、かつ、磁粉13を磁粉探傷用シートS1の内部空間全体に分散させるように機能する。従って、検査対象物1表面の異常や余盛り部分等に起因して生じた漏洩磁束の発生箇所が、磁粉探傷用シートS1上のいかなる場所にあっても、磁粉探傷用シートS1中の磁粉13は、鮮明な磁粉形成パターンを形成することができる。このように、本実施形態の磁粉探傷用シートS1を用いると、検査対象物1表面の異常や余盛り部分等の検出精度を上げることが可能となる。特に、空間維持手段Dが編物である場合は、磁粉13が編物の繊維構造の間をスムーズに移動することができるので、より鮮明な磁粉形成パターンが得られ、検出精度がさらに良好となる。また、空間維持手段Dの色は、磁粉13(これは、一般に黒色である)を識別できる色であれば、任意の色のものを用いることができる。例えば、白色、赤色、蛍光色等であれば、磁粉13の色とのコントラストがより明瞭になるので好ましい。
【0036】
表面材10および裏面材11の厚みは、0.02〜0.5mm程度のものが好ましく使用される。表面材10は、シート内部の磁粉13の形成パターンを読み取るために光透過性を有することが必須であるが、全くの無色透明である必要はなく、磁粉形成パターンの読み取りに支障がなければ多少着色していてもよい。裏面材11は、光透過性であってもよいし、光透過性でなくてもよい。すなわち、裏面材11は、透明または着色樹脂フィルムを用いることができる。表面材10および裏面材11の材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等を採用することができる。また、裏面材11は、樹脂フィルムに代えて、例えば、難磁性のオーステナイトステンレス鋼の箔を使用することも可能である。
【0037】
空間維持手段Dは、図3では、素線16の直径が0.01〜1mm程度のナイロン繊維等の合成繊維を縦糸と横糸に用いて、一辺が0.1〜10mm程度となるサイズのメッシュ(開口)を形成し、かつ、厚みが0.01〜3mm程度の織物を、磁粉探傷用シートS1の閉空間と略同一サイズに裁断して使用している。
【0038】
磁粉13は、粒子径が0.1〜100μmとなる磁性体を採用している。ここで、磁性体は、鉄、ニッケル、マグネタイト、ガンマ・ヘクタイト等を用いることができる。また、検査対象物1から漏洩した磁束によって形成する磁粉形成パターンを容易に認識することができるように、磁粉13には蛍光物質がコーティングされていてもよい。また、磁粉13の形状は球形に限らず、非球形であってもよい。磁粉13が非球形である場合、その粒子径は、最大寸法となる部位のサイズを示す。
【0039】
流体14は、それと接触する表面材10、裏面材11、空間維持手段D、および磁粉13と反応しない物質であれば任意の物質を用いることができる。流体14は、一般に、水、灯油等を用いることができる。
【0040】
押圧手段Pは、図2に示すように、柔軟で透明な樹脂フィルムとして0.1〜0.5mm程度のフィルム厚のポリエチレンフィルムやポリビニルフィルムを袋状に成型したバッグ20Aに対して、ポリビニルアルコールと硼砂とを混合してなるゲル状(スライム状)物質または水20Bを充填した充填バッグ、あるいは、ゲル状物質(例えば、ポリエチレンとスチレンとを共重合させた網状物質を油でゲル化させたもの)で柔軟に変形し得る性質となる圧着部材20と、透明なガラス板、あるいは、良好な透明性を得やすいアクリル樹脂等の素材の樹脂板を平坦に成型してなる圧着板21とで構成されている。
【0041】
磁気発生部Nは、検査対象物1に接触する一対の磁極30P、30Qを有する鉄心30に銅合金等の良導体のコイル31を巻回してなる電磁石と、この電磁石のコイル31に電力を供給する電源32とで構成されている。
【0042】
次に、この磁粉探傷用シートS1を用いて検査対象物1を検査するための磁気探傷装置100の一使用例について説明する。なお、検査対象物1の例としては、ガスを貯留するガスホルダや、石油等を貯留するタンク類を構成する鋼板の溶接箇所、または、橋梁等を構成する鋼板の溶接箇所等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
図2に示す検査対象物1では、溶接箇所の余盛り1Aの部位に欠陥Cが存在するものとして想定しており、この検査対象物1の探傷を行う場合には、同図に示すように、探傷を行うべき部位に磁粉探傷用シートS1を載置し、この上面に対して押圧手段P(圧着部材20および圧着板21)を重ねて載置する。ここで、磁粉探傷用シートS1を検査対象物1に確実に密着させるために、磁粉探傷用シートS1に押圧手段Pを載置した後、任意の方法(例えば、圧着板21上にウェイトを載せる等)で圧着板21を磁粉探傷用シートS1側に付勢することが好ましい。このように載置した状態では、同図に示すように、溶接部分において余盛り1Aが存在しても、その余盛り1Aの部分に沿う形状に磁粉探傷用シートS1が変形して磁粉探傷用シートS1の下面の全面が検査対象物1の上面に密着し、この磁粉探傷用シートS1の上面の形状に沿うように圧着部材20の下面が変形して均一の圧力を作用させ、この結果、圧着部材20の上面が圧着板21の下面に沿って平坦化する。また、このとき、磁粉探傷用シートS1を押圧手段P(圧着部材20)の投影面積よりも大きくしておくと、上記工程時に、図4のように磁粉探傷用シートS1の周縁部分を押圧手段Pの側面に向けて折り曲げてスカート60を形成することができる。このスカート60によって、前記押圧手段Pの側面の少なくとも一部を保護するようにすれば、検査中において、押圧手段Pに錆、不純物、埃等が付着して汚染されることを防止することができる。なお、上記磁粉探傷用シートS1の周縁部分を折り曲げて形成するスカート60は、周縁部分全体が押圧手段Pの側面に向けて折り曲げられる構成としてもよいし、必要に応じて磁粉探傷用シートS1の周縁部分の一部が折り曲げられる構成としてもよい。
【0044】
このようにセッティングした後、磁粉探傷用シートS1を跨ぐ位置に磁極30P、30Qを配置する状態で電磁石の姿勢を決め、磁極30P、30Qを検査対象物1に接触させる。次に、コイル31に対して電源32から電力を供給して電磁石からの磁界を検査対象物1に作用させることにより、鉄心30からの磁束が検査対象物1の内部に導かれ、鉄心30と検査対象物1との間に磁気回路が形成される。この磁気回路中に欠陥Cが存在すると、その欠陥Cの部分での磁束の漏洩量が増大して磁粉探傷用シートS1中の磁粉13に作用し、その結果、この漏洩した磁束の方向に沿って、磁粉13が列をなす磁粉形成パターンが発現する。この磁粉形成パターンと磁束の漏洩量の少ない部分のパターンとを比較することにより、欠陥Cの有無を視覚的に、または、カメラで撮影した場合には映像的に把握することができる。
【0045】
また、本実施形態では、磁粉探傷用シートS1に、空間維持手段Dとしてシートの全面に略等しいサイズの織物を、表面材10と裏面材11とによって規定された閉空間中に配置し、表面材10と裏面材11との間隔をシート全体にわたって一定にかつ比較的小さく維持している。これにより、磁粉探傷用シートS1中の磁粉13は、シート全体にわたって自由に移動することが可能となり、従って、検査対象物1に磁束を作用させた場合に、磁粉13が形成する磁粉形成パターンを磁粉探傷用シートS1の表面材10の側から精度良く観察することができる。特に、本実施形態では、柔軟なシート状に形成された磁粉探傷用シートS1と、柔軟に変形自在であるが圧力を伝え得るように構成された圧力部材20と、殆ど変形しない圧着板21とを組み合わせることで、磁粉探傷用シートS1を検査対象物1の表面に隙間なく密着させているので、検査の精度を向上させることが可能である。
【0046】
[実施形態2]
本実施形態は、磁粉探傷用シートの内部の流体が経時的に蒸発して減少することを防止する目的で構成されるものである。
【0047】
本実施形態の磁粉探傷用シートS2は、上記実施形態1で説明した磁粉探傷用シートS1と類似の構成とすることができるが、表面材10および裏面材11の少なくとも一方が、磁粉探傷用シートS2の閉空間から流体が放出されることを防止するバリア層80を含むように構成されている点が異なる。このバリア層は比較的緻密な分子構造を有しているので、磁粉探傷用シートの閉空間からの流体の放出(例えば、蒸発等)による減少を阻止し、これにより、流体の減少に起因する磁粉の移動性の低下を抑えることができる。このような構成とすれば、磁気探傷時において、常に鮮明な磁粉形成パターンを得ることができる。
【0048】
また、このバリア層80の流体放出量は、0.3g/m・日以下とすることが好ましい。上記流体放出量であれば、長期保存(例えば2〜3年)に十分耐え得る磁粉探傷用シートとすることができるからである。なお、この流体放出量については、後述する実施例2の加速蒸発試験で詳細に説明する。
【0049】
さらにこのバリア層80は、例えば、ケイ素、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、塩化鉛、およびケイ酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種から構成することができる。このような構成であれば、例えば、メッキ法、再結晶法、蒸着法等の公知の方法により形成することができるので、複雑な製造工程を導入する必要はなく、製造コストを抑えることができる。
【0050】
バリア層80は、単層構造であってもよいし、複数種のバリア層からなる複層構造であってもよい。また、バリア層80は、表面材10または裏面材11の内部に形成されたいわゆるサンドイッチ構造であってもよいし、表面材10または裏面材11の表面にコーティングされてもよい。一例として、図5に、表面材10および裏面材11の各表面にバリア層80がコーティングされた磁粉探傷用シートS2を示す。
【0051】
(実施例1)
次に、バリア層による流体の蒸発防止の効果を確かめるために、流体を含む磁粉探傷用シートについて、室温による蒸発試験を行った。この試験では、表面にシリカコーティング(一般汎用シリカコーティング:MOS−TO、および、ハイバリアシリカコーティング:MOS−TH)を行うことによってバリア層を形成した磁粉探傷用シート、ならびに、表面にコーティング処理を施していない磁粉探傷用シートを、それぞれ露出またはアルミ袋中で保管し、重量減少の経時変化を199日間にわたって追跡した。表1に、室温蒸発試験に使用した磁粉探傷用シートの諸条件および試験結果をまとめる。
【0052】
【表1】
Figure 0004083085
(注記)LDPE:低密度ポリエチレン、PET:ポリエチレンテレフタレート、ON:延伸ナイロン、CPP:未延伸ポリプロピレン、EVA:エチレンビニルアセテートポリマー
【0053】
また、図6に、蒸発試験期間中の各磁粉探傷用シート(表1のシートNo.1〜8)の重量変化のグラフを示す。
【0054】
表1および図6の結果より、特にPETおよびCPPから構成されるシートにMOS−THをコーティングすると、露出状態であっても内部の流体の蒸発を抑える顕著な効果があることが分かった(シートNo.6)。これは、シートをアルミ袋中で保管した場合と同等またはそれ以上の効果といえる。
【0055】
(実施例2)
さらに、上記実施例1と同じ磁粉探傷用シートを用いて、加速蒸発試験についても行った。この試験では、表面にシリカコーティング(ハイバリアシリカコーティング:MOS−TH)およびアルミナ(アルミニウム酸化物)コーティング(GX)を行うことによってバリア層を形成した磁粉探傷用シート、ならびに、表面にコーティング処理を施していない磁粉探傷用シートを、それぞれ露出またはアルミ袋中で70℃の高温槽中に保管し、重量減少の経時変化を76日間にわたって追跡した。また、アルミナコーティングを施した磁粉探傷用シートについては、対照として、露出状態で室温で保管する条件についても試験を行った。なお、この加速蒸発試験では、加速蒸発係数を所定の計算より約30倍と見積もった。つまり、本加速蒸発試験では、37日が常温での約3年に相当する。表2に、加速蒸発試験に使用した磁粉探傷用シートの諸条件をまとめる。
【0056】
【表2】
Figure 0004083085
(注記)LDPE:低密度ポリエチレン、PET:ポリエチレンテレフタレート、ON:延伸ナイロン、CPP:未延伸ポリプロピレン、EVA:エチレンビニルアセテートポリマー
【0057】
また、図7に、加速蒸発試験期間中の各磁粉探傷用シート(表2のシートNo.9〜17)の重量変化のグラフを示す。
【0058】
表2および図7の結果より、本加速蒸発試験においても実施例1の結果と同様に、特にPETおよびCPPから構成されるシートにMOS−THをコーティングすると、露出状態であっても内部の流体の蒸発を抑える顕著な効果があることが分かった(シートNo.13)。これは、シートをアルミ袋中で保管した場合(例えば、シートNo.14)と同等またはそれ以上の効果といえる。なお、シートNo.13および14における流体放出量を所定の計算により求めたところ、0.3g/m・日以下に相当することが分かった。従って、流体放出量が特にこのような値(0.3g/m・日以下)となるようにバリア層を設計し、バリア層付きの磁粉探傷用シートとすれば、長期保存(例えば2〜3年)に十分耐え得る磁粉探傷用シートを得ることができる。
【0059】
また、上記のPETおよびCPPから構成されるシート以外のシートであっても、本発明のシリカコーティングまたはアルミナコーティングを施したものは、品質保証期限として望ましい約2〜3年間の保管に十分耐え得る性能を有しているといえる。
【0060】
このように、実施例1および実施例2の結果から明らかなように、磁粉探傷用シートがバリア層80を含む構成とすると、磁粉探傷用シートS2内の流体14の蒸発を阻止することが可能となる。従って、本実施形態の構成を用いると、流体14の経時的な蒸発による減少に起因する磁粉13の移動性の低下を防止することができるので、磁気探傷において常に鮮明な磁粉形成パターンを得ることができる。
【0061】
[実施形態3]
本実施形態は、磁粉探傷用シートの製造段階で、万一シート中に空気やゴミなどの不純物が不意に混入したとしても、探傷時の磁粉形成パターンに悪影響を与えないようにすることを目的として構成されるものである。
【0062】
本実施形態の磁粉探傷用シートS3は、上記実施形態1で説明した磁粉探傷用シートS1と類似の構成とすることができるが、表面材10と裏面材11との間に規定される閉空間が隣接する少なくとも2つの空間部から構成され、空間部のそれぞれは、隣合う空間部と連通路を介して互いに連通するように構成されている点が異なる。ここで、一例として、磁粉探傷用シートS3の閉空間が2つの空間部から構成される場合について説明する。
【0063】
図8は、閉空間が連通路43で結ばれた2つの空間部(主室40および副室41)で構成される磁粉探傷用シートS3の概略平面図である。
【0064】
磁粉探傷用シートS3の主室40および副室41は、例えば、表面材10と裏面材11とを貼り合わせる際に、同時に形成することができる。貼り合わせに接着剤を用いる場合では、接着を行う表面材10および裏面材11の周縁部のある箇所(例えば、図8(a)中のKで示す部分)から、内側に向けて接着領域を延長させると、両者を貼り合わせると同時に前記延長した接着領域がパーティション42を形成し、表面材10と裏面材11とによって形成される閉空間を、連通路43で結ばれた主室40および副室41に分割することができる(図8(a))。また、表面材10と裏面材11とを熱融着によって貼り合わせる場合では、熱融着処理と同時にまたはその処理後に、周縁部のある箇所(同様に、例えば、図8(a)中のKで示す部分)から内部に伸びるパーティション42を熱融着処理によって設け、これにより、主室40および副室41を形成することができる(図8(a))。
【0065】
このような主室40および副室41を有する磁粉探傷用シートS3では、例えば、空気、不純物、または余剰磁粉等(図8(b)中のV)を副室41に集めておくと、主室40での磁粉13の形成パターンをより鮮明で見やすいものにすることができる。また、主室40と副室41とは連通路43を介して連通しているので、上記のように副室41に空気、不純物、または余剰磁粉等を集めた状態で前記連通路43をシーラー等で熱封着すると(図8(c))、副室41に入れたものが主室40に逆戻りしないようにすることができる。さらに、この状態では、副室41を主室40から切り離すこともできる。また、副室41に空気、不純物、または余剰磁粉等を集めた状態で前記連通路43をクリップ等の物理的手段で一時的に留めると、空気および不純物を常に副室41に閉じ込めておくことが可能である一方で、磁粉を必要に応じた量だけ主室40に戻すことも可能である。従って、検査対象物の大きさ、形状、印加する磁束の強度等に応じて、主室40に入れる磁粉13の量を適宜調節することにより、さらにより鮮明な磁粉形成パターンを得ることが可能となる。
【0066】
なお、上記実施形態3では、磁粉探傷用シートS3の閉空間が2つの空間部から構成される例について説明したが、前記閉空間は少なくとも2つ以上の空間部に分割されていればよい。例えば、磁粉探傷用シートS3の閉空間を3つの空間部に分割して、1つの主室および2つの副室とすることもできる。この場合、2つの副室のうちの一方に空気や不純物を入れて連通路を熱封着し、他方に余剰磁粉をいれてクリップ等の物理的手段で留めるような構成とすれば、磁粉を必要に応じて主室に戻す際に、空気や不純物も不意に一緒に戻ってきてしまうという不具合を確実に防止することができるので、磁粉探傷用シートS3の取り扱いがより容易になるとともに、磁粉形成パターンをさらに鮮明にすることができる。
【0067】
[実施形態4]
本実施形態は、検査対象物の表面状態を問わず、磁粉探傷用シート中の磁粉が形成する磁粉形成パターンの確認が容易となるようにすることを目的として構成されるものである。
【0068】
本実施形態の磁粉探傷用シートS4は、上記実施形態1で説明した磁粉探傷用シートS1と類似の構成とすることができるが、裏面材11が、光透過性を有する第1状態(透明な状態)と光透過性を有さない第2状態(例えば、白色に着色した状態)との間で可逆的に変化可能であるように構成されている点が異なる。このような特徴を有する磁粉探傷用シートS4を用いた磁気探傷装置の構成例を、以下に図面を参照しながら説明する。
【0069】
図9は、本実施形態の磁粉探傷用シートS4を用いた磁気探傷装置200を示す概略図である。
【0070】
磁気探傷装置200は、図2の磁気探傷装置100と同様の構成とすることができるが、磁粉探傷用シートS4を照射するための紫外線ランプ70および紫外線ランプ70に電力を供給する電源71が設けられている。また、磁粉探傷用シートS4は、図10に示すように、裏面材11に紫外線感受性フィルム層50を含んでいる。この紫外線感受性フィルム層50は、紫外線を照射することにより、状態を可逆的に変化させることができる。例えば、紫外線感受性フィルム層50は、紫外線が照射されると透明状態から白色状態に変化し、紫外線の照射をやめると白色状態からもとの透明状態に戻る。このような特性を利用して、例えば、磁気探傷装置200で検査対象物1の表面が錆びている箇所を探傷する場合は、紫外線感受性フィルム層50を含む裏面材11に紫外線を照射して白色状態にし、また、磁気探傷装置200を検査対象物1の表面が塗装されている箇所に移動させて探傷を行う場合は、裏面材11への紫外線の照射を止めて透明状態にすることで、それぞれの状況に応じて、磁粉13の形成パターンをより鮮明に観察することができる。
【0071】
このように、本実施形態の磁粉探傷用シートS4は、検査対象物1の表面状態を問わず、同じ磁粉探傷用シートS4を用いて探傷を行うことができるので、効率よく探傷作業を行うことができる。
【0072】
なお、裏面材11が、光透過性を有する第1状態と光透過性を有さない第2状態との間で可逆的に変化可能である構成は、上記で説明したような紫外線による状態変化を利用するものに限定されず、例えば、裏面材の少なくとも一部に液晶材料を採用し、当該液晶材料に電圧を印加することによって透明状態と有色状態とを切り換えるような構成としてもよい。
【0073】
[実施形態5]
本実施形態では、これまで説明してきた本発明の磁粉探傷用シートおよび磁気探傷方法を用いて、実際に探傷検査を実施するための具体的な磁気探傷装置をより詳しく説明する。
【0074】
図11は、探傷検査を行う際に用いる磁気探傷装置300の全体斜視図である。図12は、図11の磁気探傷装置300の分解斜視図である。図13は、図11の磁気探傷装置300の一部切欠き側面図である。
【0075】
図11〜図13に示すように、本体部302の両端部に磁極303を形成することにより「コ」字状となる磁気発生機構Eに対して、付勢機構Fを介して透明な圧着体304を支持し、この圧着体304に対して押圧手段Gと磁気探傷シートHとを重ね合わせた状態で支持することにより携帯型の磁気探傷装置300が構成されている。
【0076】
なお、上記構成は、本発明の代表的な構成であり、本実施形態では鉄を代表とする磁性体を検査対象物301としている。具体的には鉄板材の溶接箇所の余盛り部分301Aや、鉄製の配管の曲面部分の欠陥301C(クラック等の傷)の検査を行う際に、作業者が磁気探傷装置300を片手で操作することで、この検査を実現するものである。なお、この余盛り部分301Aとして、幅10mm程度で、被検査対象1から4mm程度の盛り上がり高さを有した一般的な形態のものを想定している。
【0077】
前記磁気発生機構Eは、図15の磁気探傷装置の制御系を示すブロック回路図に示すように、磁性体で成る本体部302に対して銅合金等の良導体のコイル305を巻回することにより電磁石として機能するものであり、本体部302にはコイル305に対して電源部306からの電流を供給するケーブル307を備え、本体部302には電源スイッチ308と、撮像機構としてのCCD型のカメラ309と、撮影スイッチ310と発光ダイオード(発光体の一例)で成る照明機構311を備えている。
【0078】
同図には発光ダイオードで成る照明機構311を示しているが、照明機構311として蛍光灯やハロゲンランプを用いることが可能であり、その他に、例えば、電源部306やこの近傍に配置した光源からの光線を磁気発生機構Eの部位まで導く光ファイバーで照明機構311を構成することも可能である。そして、照明機構311として光ファイバーを用いた場合には、磁気発生機構Eの近傍にランプ類を備えずに済み、電力ケーブルを形成しなくて済むので、装置の大型化を抑制できるものとなる。
【0079】
前記電源スイッチ308は作業者が本体部302を握って操作する際に指先で押し操作できる位置に配置されている。前記カメラ309は磁粉探傷シートHの磁粉のパターンを撮影するよう構図が設定され、前記撮影スイッチ310はカメラ309で画像を取り込む際に操作できるよう、指先で押し操作できる位置に配置されている。前記照明機構311は、光線を前記圧着板304を通過させて前記磁気探傷シートHを照明する位置に配置されている。
【0080】
前記電源部306は商用電源からの電流の周波数を高めて(180Hz程度・240Hzが上限)前記コイルに供給するようインバータ回路(図示せず)を備えるとともに、電源スイッチ308を操作することにより前記コイル305に対して交流電流を供給し、この交流電流の供給と同時に照明機構311に対して電流を供給するよう機能する。このように電流の周波数を高める理由は、磁性体に対して交番磁界が作用する場合には、周波数が高いほど表面近くに磁界が強く作用することが知られており(表皮効果)、この現象を利用して被検査対象301の表面近くの欠陥を発見しやすくするためである。
【0081】
また、前記カメラ309で撮影した画像を表示するモニタ312と、カメラ309で撮影した画像を保存する半導体メモリやハードディスクで成る記録装置313(記録手段の一例)とを備え、撮影スイッチ310を操作した場合には、カメラ309で撮影を行い、この画像をモニタ312に表示すると共に、記録装置313に画像を保存するよう撮影系が構成されている。
【0082】
前記電源部306は、商用電源の周波数で商用電源の周波数から前述した240Hzの範囲内の周波数の電流を供給するものであれば、実用上の不都合は無く、供給する電圧は500V以下であることが望ましい。また、前記カメラ309は静止画像を撮影するスチルカメラであっても、動画を撮影するムービカメラであってもよい。
【0083】
図11〜図13に示すように、前記一対の磁極303の基端側に、透明なアクリル樹脂製の支持体320を配置するとともに、この支持体320を金属製のブラケット321と、支持体320に螺合するビス322とにより固定している。この支持体320に対して前記付勢機構Fを介して前記磁極303の端部側に透明なアクリル樹脂製で板状となる前記圧着体304を配置し、この圧着体304の下面側に透明で柔軟に変形する前記押圧手段Gと、前記磁気探傷シートHとを重ね合わせ状態で支持している。なお、支持体320は金属で形成することも可能であるが、金属を用いた場合には、磁気発生機構Eで発生する交流磁界の作用により金属内に誘導電流が発生して発熱することもあり、この発熱を回避し、しかも、軽量化と視認性を向上させるために透明なアクリル樹脂を使用している。
【0084】
前記圧着体304は前記磁極303の形成方向(図11、図12では上下方向)に沿って移動自在となるよう前記付勢機構Fに支持され、図13に示すように非使用状態では、一対の磁極303とを結ぶ仮想直線と、磁気探傷シートHの底面との間に距離Sを設定している。なお、付勢機構Fと、圧着体304と、押圧手段Gとで圧力付与手段が構成されている。
【0085】
この磁気探傷装置では、前記ビス322を取り外すことによって、支持体320とともに、付勢機構F、圧着体304、および、圧着体304に支持された押圧手段G、磁気探傷シートHそれぞれを、磁気発生機構Eから分離できるよう構成され、この分離を行うことによって、磁気発生機構Eを旧来からの磁気探傷方法として、被検査対象に対して磁粉を吹き付ける形態で検査を行う際に磁気を作用させる手段として用いることも可能である。さらに、磁気発生機構Eに対して支持体320を更に容易に取り外すために、ビス322に代えて蝶ネジを用いることも考えられる。
【0086】
前記付勢機構Fは、前記支持体320に形成した4つ貫通孔と、前記圧着体304に形成した4つの貫通孔とに挿通するロッド325と、それぞれのロッド325に外嵌した圧縮コイルバネ326とを備えて成り、図13に示す非使用状態においては4本のロッド325によって圧着体304を吊り下げ状態で支持する形態となる。なお、この付勢機構Fでは圧縮コイルバネ326に限らず、弾性的に変形することにより付勢力を得るゴム、あるいは、ガス圧を利用するガススプリングも使用できる。
【0087】
前記押圧手段Gは、柔軟で透明な樹脂フィルムとして0.1〜0.5mm程度のフィルム厚のポリエチレンフィルムやポリビニルフィルムを袋状に成型したバッグ330に対して、ポリビニルアルコールと硼砂とを混合して成る透明なゲル状(スライム状)物質331(水でも良い)、または、例えば、ポリエチレンとスチレンを共重合させた網状物質を油でゲル化したものを封入したもの、あるいは、バック330を使用せずに前記ゲル化したものを直接貼り付けものであり、全体として透明で柔軟に変形し得るよう構成され、磁気探傷シートHが変形した状態にあっても、圧着体304から作用する圧力を均一な圧力で磁気探傷シートHに作用させるよう機能する。
【0088】
前記磁気探傷シートHは、図16に示すように、柔軟で透明な樹脂フィルムで成る上面側の表面材335と、柔軟な樹脂フィルムで成る下面側の裏面材336とを重ね合わせ、それぞれの素材同士の間に繊維をメッシュ状に配置して成るスペーサ337を介在させることで20〜30μm程度の隙間dと成る空間を形成した柔軟なシート状に成形しており、この空間に対して磁性体で0.1μm程度以上で、前記隙間の値(20〜30μm程度)より充分に小さい粒径となる粒子状の磁粉338(感磁体の一例)と、分散媒として水や灯油等の流体339(気体であっても良い)とを封入し、表面材335と裏面材336との外周部を熱溶着の技術や接着剤を用いて接合した密封構造を有している。
【0089】
具体的に説明すると、表面材335と裏面材336とのフィルム厚が0.02〜0.5mm程度のものが使用されており、容器の表面材335は透明であることが必須であるが、全くの無色透明である必要はなく、磁粉形成パターンの読み取りに支障がなければ多少着色していてもよい。裏面材336は透明である必要は無く、着色した樹脂を用いることも可能である。この表面材335と裏面材336としてポリエチレン(PE)やポリビニル(PV)やポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の使用が可能であり、また、裏面材336として樹脂フィルムに代えて、例えば、軟磁性のオーステナイトステンレス鋼の箔を使用することも可能である。さらに、前記磁粉338の材料として、鉄やニッケルばかりで無く、マグネタイト、ガンマ・ヘクタイトの使用が可能である。
【0090】
また、スペーサ337として、前記隙間dと等しい粒径の粒子状のものを表面材335と裏面材336との間に分散させる形態で用いることや、表面材335と裏面材336との間に亘って前記隙間dを形成し得る複数の柱状の部材を用いることも考えられる。
【0091】
そして、圧着体304に対して押圧手段Gと磁気探傷シートHを支持する際には、圧着体304の底面側に押圧手段Gと磁気探傷シートHとを重ね合わせ、この磁気探傷シートHの端部を圧着体304の上面まで引き込み、この磁気探傷シートHに対して適度の張力を作用させた状態で、この磁気探傷シートHの端部を固定板340で圧着し、ビス341で固定している。
【0092】
この磁気探傷装置300では、被検査対象301として、石油等を貯留するタンク類を構成する鋼板の溶接箇所、あるいは、橋梁等を構成する鋼板の溶接箇所を想定しており、これらの部位の探傷を行う場合には以下のように作業が行われる。例えば、溶接箇所の余盛り301Aの部位の探傷を行う場合には、図13に示すように、余盛り301Aの部位を跨ぐ位置に磁極303を配置し、かつ、探傷を行うべき部位を覆う位置に磁気探傷シートHを配置した状態で、電源スイッチ308を操作することにより、電源部306からの電流がコイル305に供給されることになり、このコイル305が磁気を発生させて磁極303が被検査対象301に吸着する。このように磁極303が被検査対象301に吸着した場合には、図14に示すように一対の磁極303とを結ぶ仮想直線と、磁気探傷シートHの底面との間に前記距離S(図13を参照)に相当するだけ磁極303が圧着体304に対して相対移動することになるので、付勢機構Fの圧縮コイルバネ326を圧縮して、この圧縮コイルバネ326からの付勢力を圧着体304に作用させ、さらに、この圧着体304からの押圧力を押圧手段Gから磁気探傷シートHに作用させ、この磁気探傷シートHを被検査対象に密着させるものとなる。
【0093】
この密着状態では、溶接部分において余盛り301Aが存在しても、その余盛り301Aの部分に沿う形状に磁気探傷シートHが変形し、この変形に従うように押圧手段Gが変形して、圧着体304から圧力を均一の圧力として磁気探傷シートHに作用させる形態となるので、磁気探傷シートGの底面(裏面材336の外面)の全面が被検査対象301の上面に対して隙間なく密着するものとなる。そして、このように磁気探傷シートHが被検査対象301に密着した状態で一対の磁極303と被検査対象301との間で磁気回路が形成されることになるので、それぞれの磁極303同士を結ぶ方向に磁力線が形成され、余盛り301Aの部位に欠陥301Cが存在する場合には、その欠陥301Cの部分で磁束が漏洩して磁気探傷シートHの磁粉338に作用する結果、この漏洩した磁束の方向に沿って磁粉338が列を成すパターンを作り出し、欠陥301Cを視覚的に、あるいは、カメラ309で撮影した場合には撮影した画像から把握できるものとなる。
【0094】
このように本実施形態では、柔軟なシート状に形成された磁気探傷シートHと、柔軟に変形自在であるが圧力を伝え得るよう構成された押圧手段Gと、殆ど変形しない圧着体304とを一体化して、磁気発生機構Eに対して付勢機構Fからの付勢力を作用させ得る状態で支持しているので、被検査対象301の検査を行う場合に、作業者が磁気探傷シートHを人為的にセットする操作を行わずに済み、作業性を向上させるものとなり、しかも、探傷を行う際には電源スイッチ308を操作するだけで磁力によって磁極303を被検査対象301に吸着させ、この吸着により付勢機構Fからの付勢力を圧着体304に作用させ、この圧着体304と被検査対象301との間に押圧手段Gと磁気探傷シートHとを挟み込む形態にして、被検査対象301に対して磁気探傷シートHを隙間なく密着させて、高感度で高い精度の検査を行えるものにしているのである。
【0095】
この磁気探傷装置は比較的小型で扱いやすく構成されているので、縦壁状となる被検査対象や、天井壁状のものでも楽に作業を行えるものとなっている。特に、磁気発生装置Eに対して照明機器311を備えたので、夜間や照明が存在しない屋内でも、磁気探傷シートHの感磁体が作り出すパターンを明瞭に観察できるものにしている。
【0096】
[実施形態6]
これまで、本発明の磁粉探傷用シートを、シート単独で提供する形態について説明してきた。しかし、本発明は、このような形態に限定されることを意図しない。例えば、上記の実施形態で説明したような本発明の磁粉探傷用シートは、包装材料(例えば、ジッパー付の樹脂製袋等)でパッキングされた状態で提供することも可能である。
【0097】
このような構成であれば、製品形態を包装材料でパッキングした磁粉探傷用シートとすることができるので、実際に使用に供するまで磁粉探傷用シートをクリーンな状態に保つことができるとともに、流体の蒸発による減少をさらに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁粉探傷用シートを用いる磁気探傷装置を簡潔に示した斜視図
【図2】図1の磁気探傷装置の側面図
【図3】磁粉探傷用シートの一例を示す図
【図4】磁粉探傷用シートの周縁部分を押圧手段の側面に向けて折り曲げた様子を示す図
【図5】表面材および裏面材がバリア層を含む磁粉探傷用シートを示す図
【図6】蒸発試験期間中の各磁粉探傷用シートの重量変化のグラフ
【図7】加速蒸発試験期間中の各磁粉探傷用シートの重量変化のグラフ
【図8】閉空間が連通路で結ばれた2つの空間部(主室および副室)で構成される磁粉探傷用シートの概略平面図
【図9】磁粉探傷用シートを用いた磁気探傷装置を示す概略図
【図10】裏面材に紫外線感受性フィルム層を含む磁粉探傷用シートを示す図
【図11】探傷作業を行う際に用いる磁気探傷装置の全体斜視図
【図12】図11の磁気探傷装置の分解斜視図
【図13】図11の磁気探傷装置の一部切欠き側面図
【図14】図11の磁気探傷装置の探傷時における一部切欠き側面図
【図15】図11の磁気探傷装置の制御系を示すブロック回路図
【図16】図11の磁気探傷装置に用いる磁粉探傷シートの縦断面図および横断面図
【符号の説明】
1 検査対象物
10 表面材
11 裏面材
13 磁粉
14 流体
16 素線
20 圧着部材
21 圧着板
30 鉄心
31 コイル
32 電源
40 主室
41 副室
42 パーティション
43 連通路
50 紫外線感受性フィルム層
60 スカート
70 紫外線ランプ
80 バリア層
100、200 磁気探傷装置

Claims (7)

  1. 光透過性を有する表面材と、
    前記表面材と閉空間を規定するように、少なくとも周縁部が前記表面材と貼り合わされた裏面材と、
    前記閉空間に封入された磁粉と流体との混合物と、
    前記磁粉の移動が可能となるように、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成され、前記閉空間に設けられた空間維持手段と
    を備え、前記表面材および前記裏面材の少なくとも一方は、前記閉空間から前記流体が放出されることを防止するバリア層を含む磁粉探傷用シート。
  2. 前記バリア層の流体放出量は、0.3g/m2・日以下である請求項1に記載の磁粉探傷用シート。
  3. 前記バリア層は、ケイ素、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、塩化鉛、およびケイ酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種から構成される請求項1または2に記載の磁粉探傷用シート。
  4. 光透過性を有する表面材と、
    前記表面材と閉空間を規定するように、少なくとも周縁部が前記表面材と貼り合わされた裏面材と、
    前記閉空間に封入された磁粉と流体との混合物と、
    前記磁粉の移動が可能となるように、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成され、前記閉空間に設けられた空間維持手段と
    を備え、前記閉空間は隣接する少なくとも2つの空間部から構成され、前記空間部のそれぞれは、隣合う空間部と連通路を介して互いに連通している磁粉探傷用シート。
  5. 光透過性を有する表面材と、
    前記表面材と閉空間を規定するように、少なくとも周縁部が前記表面材と貼り合わされた裏面材と、
    前記閉空間に封入された磁粉と流体との混合物と、
    前記磁粉の移動が可能となるように、メッシュを有した織物、編物、不織布、または紙で構成され、前記閉空間に設けられた空間維持手段と
    を備え、前記裏面材は、光透過性を有する第1状態と光透過性を有さない第2状態との間で可逆的に変化可能である磁粉探傷用シート。
  6. 包装材料でパッキングされた状態で提供される請求項1〜のいずれか1項に記載の磁粉探傷用シート。
  7. 磁気を利用して検査対象物の表面状態を検査する磁気探傷装置であって、
    前記検査対象物上に載置するための磁粉と流体との混合物を封入した請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁粉探傷用シートと、
    前記磁粉探傷用シートに密着状態で押圧する柔軟で変形可能な押圧手段と、
    前記磁粉探傷用シートを跨ぐ位置に配置された2つの磁極を有する電磁石と、
    前記電磁石に電力を供給する電源と
    を備え、前記磁粉探傷用シートは前記押圧手段よりも大きい投影面積を有しており、磁気探傷時において、前記磁粉探傷用シートはその周縁部が前記押圧手段の側に折り曲げられ、前記押圧手段の側面の少なくとも一部を保護するように構成されている磁気探傷装置。
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