JP4078782B2 - 高品質シリコン単結晶の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、半導体材料として使用されるシリコンウェーハ用単結晶の、より詳しくはチョクラルスキー法(以下CZ法という)により育成するウェーハ用シリコン単結晶の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体材料のシリコンウェーハに用いるシリコン単結晶の製造に、最も広く採用されている方法がCZ法による単結晶の引き上げ育成方法である。
【0003】
CZ法は、石英るつぼ内の溶融したシリコンに種結晶を浸けて引き上げ、単結晶を成長させるものであるが、このシリコン単結晶の引き上げ育成技術の進歩により、欠陥の少ない大型単結晶が製造されるようになってきている。半導体デバイスは、単結晶から得られたウェーハを基板とし、数百のプロセスを経過して製品化される。その過程で基板には数多くの物理的処理、化学的処理、さらには熱的処理が施され、中には1000℃以上での高温処理など、過酷な熱的環境での処理も含まれる。このため、単結晶の成長過程にてその原因が導入されており、特にデバイスの製造過程で顕在化してその性能を低下させる結果となる微小欠陥、すなわちGrown-in欠陥が問題になる。
【0004】
これら微少欠陥の代表的なものの分布は、たとえば図1のように観察される。これは、成長直後の単結晶からウェーハを切り出し、硝酸銅水溶液に浸けてCuを付着させ、熱処理後、X線トポグラフ法により微小欠陥分布の観察をおこなった結果を模式的に示した図である。すなわち、このウェーハは、外径の約2/3の位置に、リング状に分布した酸化誘起積層欠陥―以下OSF(Oxidation induced Stacking Fault)という―が現れたものであるが、そのリングの内側部分には赤外線散乱体欠陥(COPあるいはFPDともいわれるがいずれも同じSiが欠損した状態の欠陥)が見出される。また、リング状OSFに接してすぐ外側には酸素析出促進領域があり、ここでは酸素析出物が現れやすい。そしてウェーハの周辺部は転位クラスター欠陥の発生しやすい部分となっている。この赤外線散乱体欠陥および転位クラスター欠陥がGrown-in欠陥といわれるものである。
【0005】
上記の欠陥の発生位置は、通常単結晶引き上げの際の引き上げ速度に大きく影響される。健全な単結晶を得る引き上げ速度の範囲内にて、引き上げ速度を変えて成長させた単結晶について、結晶中心の引き上げ軸に沿って縦方向に切断された面での各種の欠陥の分布を調べると、図2のような結果が得られる。単結晶引き上げ軸に対し垂直に切り出した円盤状のウェーハ面でみる場合、ショルダー部を形成させ所要の単結晶径とした後、引き上げ速度を下げていくと、結晶周辺部からリング状OSFが現れる。周辺部に現れたこのリング状OSFは、引き上げ速度の低下にともない、その径が次第に小さくなり、やがてはなくなって、ウェーハ全面がリング状OSFの外側部分に相当するものになってしまう。すなわち図1は、図2における単結晶のAの引き上げ軸に垂直な断面、またはその引き上げ速度で育成した単結晶のウェーハを示したもので、リング状OSF発生の位置を基準にすれば、引き上げ速度の速い場合はリング状OSFの内側領域に相当する高速育成単結晶となり、遅い場合は外側領域の低速育成単結晶となる。
【0006】
シリコン単結晶の転位は、その上に形成されるデバイスの特性を劣化させる原因になることはよく知られている。また、OSFはリーク電流増大など電気特性を劣化させるが、リング状OSFにはこれが高密度に存在する。そこで、現在通常のLSI用には、リング状OSFが単結晶の最外周に分布するような、比較的高速の引き上げ速度で単結晶が育成されている。それによって、ウェーハの大部分をリング状OSFの内側部分、すなわち高速育成単結晶として、転位クラスターを回避する。これは、リング状OSFの内側部分は、デバイスの製造過程にて発生する重金属汚染に対するゲッタリング作用が、外側部分よりも大きいことにもよっている。
【0007】
近年LSIの集積度増大にともない、ゲート酸化膜が薄膜化されて、デバイス製造工程での温度が低温化してきている。このため、高温処理で発生しやすいOSFが低減され、結晶の低酸素化もあってリング状OSFなどのOSFは、デバイス特性を劣化させる因子としての問題が少なくなってきた。しかし、高速育成単結晶中に主として存在する赤外線散乱体欠陥の存在は、薄膜化したゲート酸化膜の耐圧特性を大きく劣化させることが明らかになっており、特にデバイスのパターンが微細化してくると、その影響が大きくなって高集積度化への対応が困難になるとされている。
【0008】
図1に示した欠陥分布において、リング状OSFのすぐ外側には酸素析出が生じやすい領域、すなわち酸素析出促進領域があり、その外側の最も外周に近い部分には、転位クラスターなどの欠陥の発生しやすい領域がある。そして酸素析出促進領域のすぐ外側に、転位クラスター欠陥が検出されない無欠陥領域が存在する。また、リング状OSFの内側にも、リングに接して赤外線散乱体の検出できない無欠陥領域がわずかに存在している。
【0009】
この無欠陥領域を拡大できれば、欠陥のきわめて少ないウエーハ、ないしは単結晶の得られる可能性がある。たとえば、特開平8-330316号公報では、単結晶育成時の引き上げ速度をV(mm/min)、融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配をG(℃/mm)とするとき、結晶中心部より外周から30mmまでの内部位置ではV/Gを0.20〜0.22とし、結晶外周に向かってはこれを漸次増加させるよう温度勾配を制御して、転位クラスターを生成させることなく、リング状OSFの外側部分の無欠陥領域のみをウェーハ全面さらには単結晶全体に広げる方法の発明が提示されている。この場合、るつぼとヒーターの位置、育成単結晶の周囲に設置されたカーボンからなる半円錐形状の熱輻射体の位置、ヒーター周囲の断熱体構造等の種々条件を総合伝熱計算によって検討し、上記条件の温度条件になるように設定し育成をおこなうとしている。
【0010】
また、特開平11-79889号公報には、単結晶育成中の固液界面の形状が単結晶の周辺5mmを除き、固液界面の平均位置に対し±5mm以内となるようにして引き上げること、そして1420℃から1350℃まで、または融点から1400℃までの引き上げ軸方向の結晶内温度勾配を結晶中心部分ではGc、結晶周辺部分ではGeとしたとき、この二つの温度勾配の差ΔG(=Ge−Gc)が5℃/cm以内であるように炉内温度を制御することによる製造方法の発明が開示されている。要するに、育成中の固液界面をできるだけ平坦に保ち、かつ単結晶内部の固液界面からの温度勾配をできるだけ均一な状態に保つという製造方法である。このような条件下で単結晶育成をおこなえば、上記無欠陥領域を拡大でき、さらに2000G以上の水平磁場を融液に印加すれば、Grown-in欠陥の少ない単結晶をより容易に得ることができるとしている。しかしながら、固液界面を±5mm以内になるようにする手段、およびΔGを5℃/cm以内であるようにする手段など、この発明の効果を得るために不可欠な、凝固直後の結晶周辺において上記の状態を実現するための具体的手段は、シリコン溶融液の液面直上にシリコン単結晶を囲繞するように固液界面断熱材を、液面から3〜5cm離して設置することだけのように思われる。
【0011】
赤外線散乱体欠陥を低減するために、単結晶引き上げ直後の冷却過程を種々変える製造方法が幾つか提案されている。たとえば、特開平8-2993号公報には、融点から1200℃までの高温域を通過する時間を200分以上とし、かつ、1200℃から1000℃までの低温域を通過する時間を150分以下とする方法の発明が開示されている。また、特開平11-43396号公報には、融液面近くに単結晶シリコン単結晶を取り囲むように冷却部を配置して、引き上げ直後の単結晶を冷却勾配2℃/mm以上で一旦冷却し、1150℃以下になる前に加熱して1200℃以上の温度にて数時間以上保持する方法およびその装置の発明が提示されている。しかしながら、引き上げ直後の融点から1200℃程度までの温度域で、単結晶を急冷したり加熱したりあるいは高温保持するだけでは、単結晶の引き上げ軸に垂直な断面に対応するウェーハの全面において、この赤外線散乱体欠陥を大幅に低減することは容易でないと思われる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、CZ法にて転位クラスターや赤外線散乱体のようなGrown−in欠陥をできるだけ少なくしたウェーハを採取できる、大径長尺の高品質単結晶を安定して製造し得るシリコン単結晶製造方法の提供にある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
図1に示したリング状OSFと酸素析出促進領域には、赤外線散乱体や転位クラスター欠陥は見出されない。そして前述のように、デバイス製造工程が低温化し結晶が低酸素化することによって、OSFおよび酸素析出の悪影響の問題は低減されてきており、リング状OSFの存在は以前ほど重要ではなくなっている。したがって、この無欠陥領域と、リング状OSFおよび酸素析出促進領域を加えた部分の拡大が可能なら、赤外線散乱体および転位クラスター欠陥の両Grown-in欠陥を低減させた単結晶ないしはウェーハが得られる。すなわち図2において引き上げ速度にともなうリング状OSFの、V字形分布状況の上開きの角度をできるだけ拡大させ、可能なら水平に近い状態にすれば、引き上げ速度の選定により酸素析出促進領域と無欠陥領域とを拡大させた、Grown-in欠陥のない単結晶が得られるのではないかと推測された。
【0014】
そこで、この図2に示されるような、リング状OSFのV字形分布が発生する理由を考えてみる。
【0015】
単結晶育成の引き上げ時の融液が凝固して固体結晶に変化していく際には、ランダムな原子配列の液相から原子が規則正しく整列する固相に移行するため、固液界面近傍の固相には、有るべき原子の欠けた空孔や、余分のSi原子が原子の結晶格子配列の間に入り込んだ格子間原子が大量に存在する。この凝固直後には、格子間原子よりも原子が欠けた状態の空孔の方が多い。そして、引き上げにより凝固して単結晶になった部分が固液界面から離れるにつれ、空孔や格子間原子は移動や拡散、あるいは合体などによって消失し、整然とした原子配列となっていくが、さらに引き上げられて温度が低下してくると移動や拡散の速度が減退し、多少は残存することになる。
【0016】
凝固の過程で取り込まれた空孔と格子間原子とは、高温の間かなり自由に結晶内を動き回ることができ、その移動速度または拡散速度は、一般的に空孔の方が格子間原子より速い。そして、上述のように凝固直後では空孔の数の方が格子間原子の数より多い。ここで、高温の結晶中に存在し得る空孔や格子間原子の飽和限界濃度は、いずれも温度が低いほど低下する。このため、これらはそれぞれ同じ量存在していたとしても、温度の低い方が実質的な濃度、すなわち化学ポテンシャルは高く、温度の高い方が濃度は低いことになる。
【0017】
育成中の単結晶には垂直方向に温度勾配があり、通常は表面から熱が放散されるので、図3(a)に模式的に示すように、結晶中心部より周辺部の方が温度が低い温度分布になっている。これを垂直方向の一定距離を隔てた二つの位置での温度差、すなわち垂直方向の平均温度勾配として比較すれば、中心部の温度勾配(Gc)の方が周辺部の温度勾配(Gs)より小さい。このような垂直引き上げ軸方向の温度勾配の状態は、ホットゾーンすなわち引き上げ中の単結晶の冷却部分周辺の構造が同じであれば、引き上げ速度が多少変わっても、ほとんど変化しない。
【0018】
結晶内における温度差ないしは温度勾配は、上述のように空孔や格子間原子に対して実質的濃度差をもたらすため、低温側から高温側への、育成されつつある単結晶の上方から固液界面方向への、温度の低下に逆行する空孔や格子間原子の拡散が起きていると考えられる。この温度勾配による拡散を以下坂道拡散と言うことにする。
【0019】
また、空孔や格子間原子は結晶表面に到達すると消失するので、周辺部分の濃度が低く坂道拡散に加えて表面方向への拡散も起きている。したがって、引き上げ軸に垂直なウェーハ相当面でみると、空孔や格子間原子の濃度は単結晶の中心部が高く、周辺部は低い分布を示す。さらに、空孔は結晶格子を構成する原子が欠け、格子間原子は原子が余分に存在する状態なので、この二つがぶつかればお互いに相補い合体して消失し、完全な結晶格子となることも同時に起きている。凝固点(1412℃)から1250℃前後までの温度範囲にて、空孔および格子間原子の拡散が特に活発に進行し、それ以下の温度では速度が遅くなる。
【0020】
以上のように、単結晶引き上げ中の高温下における空孔および格子間原子のウェーハ相当面での濃度分布は、図4(a)に示す模式図のようになっていると推測される。通常の育成条件の場合、上述のように坂道拡散と結晶表面への拡散とにより、空孔および格子間原子の濃度は表面に近づくほど低くなる分布をする。しかし、空孔の方が拡散速度は速いので、その濃度分布は格子間原子のそれよりも大きく湾曲している。凝固直後は空孔の方が格子間原子よりも多いため、育成速度が比較的速い場合、引き上げ軸に垂直なウェーハ相当面でのこれらの濃度分布は、図4(a)-(1)のように全面にわたって空孔の多い状態になっている。このままの状態で冷却が進むと、格子間原子に比して過剰の空孔が取り残されたまま温度が低下していき、表面への拡散や合体による消失がさらに多少進んだとしても、これが結晶内に痕跡を残す結果となり、赤外線散乱体が発生する原因となる。すなわちこれは図2に示した高速育成単結晶部分に相当する。
【0021】
一方、育成速度が比較的遅い場合、坂道拡散や表面への拡散が活発に進行する状態に長く置かれるため、空孔は格子間原子と結合するよりも早く拡散消失していき、図4(a)-(3)のように全面にわたって空孔が少なくなっていて、拡散が不活発になる温度に達したときは、格子間原子が過剰な状態となって残り、ウェーハ相当面全面が転位クラスターの発生しやすい、図2の低速育成単結晶部分となってしまう。
【0022】
しかし、その中間の引き上げ速度の場合、空孔の濃度と格子間原子の濃度が接近した状態で温度が低下するが、それぞれの濃度分布の形が異なるので、図4(a)-(2)に示すように、単結晶中心部では格子間原子に対して空孔が過剰となり、単結晶表面に近い部分では空孔が不足する状態となる。この状態で冷却が進むと、図1に示した中心部には赤外線散乱体欠陥、外周の表面近くには転位クラスター欠陥が主として分布した結果になる。そして周辺部と中心部との中間の、空孔と格子間原子の数がバランスする部分では、冷却が進むにつれてこの二つが合体し消失してしまうため、高速育成単結晶部分、または低速育成単結晶部分に発生するGrown-in欠陥の、いずれも存在しない無欠陥領域ができる。
【0023】
これとほぼ同じ場所の、若干空孔が残存するところに偏った部分へリング状OSFが現れる。OSF生成の原因は、酸素析出物が核になるためとされており、リング状OSFや酸素析出促進領域には、赤外線散乱体や転位クラスターなどのGrown-in欠陥は存在しない。酸素析出物がこの位置に析出する理由については明らかではないが、空孔と格子間原子との相互作用により、丁度両者がバランスする位置よりやや空孔が過剰になる位置に、酸素原子が析出してOSFの核となる酸素析出物ができやすくなっているものと思われる。リング状OSFないしはそれに隣接した酸素析出促進領域や無欠陥領域は、引き上げ速度が速ければウェーハの外周に近づき、遅ければ中心に向かうことからも、この空孔と格子間原子の濃度がバランスする部位が存在することを示している。
【0024】
以上のように、欠陥のない領域が空孔と格子間原子との濃度のバランスによって生じるとするなら、単結晶のウェーハ相当面におけるこれら二つの濃度の分布を全面でほぼ等しくすれば、赤外線散乱体欠陥も転位クラスター欠陥もない単結晶が得られる筈である。そのためには、図4(b)に示すように、相対的に拡散速度が速い空孔の濃度分布を、拡散速度の遅い格子間原子の濃度分布に近づけ、その上で引き上げ速度を選定すればよいと考えられる。すなわち、図4(b)のように空孔濃度分布の湾曲を小さくするには、中心部に対し周辺部の空孔の濃度低下が抑止できればよい。
【0025】
空孔や格子間原子の、結晶表面への拡散は避けがたいが、坂道拡散は温度差を小さくすれば低減できる。これは図3(b)のように、凝固直後の拡散や移動が活発に進行する温度域にて、中心部より周辺部の温度が高い状態、ないしは垂直方向の温度勾配がGc>Gsの状態になればよいと考えられた。
【0026】
空孔や格子間原子の拡散や合体が活発におこなわれるのは、凝固から1250℃位までの温度域にあるときであり、この温度域で、単結晶内の中心部の温度を低く周辺部の温度を高くする必要がある。そこで表面において、凝固から1250℃までの高温部分ではるつぼ壁や融液面からの熱輻射を十分受けるようにし、1250℃を下回る主として1200〜1000℃の低温部では冷却を強くすることを試みた。
【0027】
熱遮蔽体の活用によりこれを実現する手段を種々比較検討した結果、まず、熱遮蔽体を融液表面から特定の間隔を置いて設置すると、凝固から1250℃位までの単結晶表面の温度降下を熱輻射によって緩和できることが確認された。次に、1250℃を下回る部分の冷却の強化には、この熱輻射を十分遮断することが望ましく、そのためには熱遮蔽体にある程度の厚さが必要であり、より有効に作用させるには、単結晶に近接して配置しなければならないことがわかった。しかし、熱遮蔽体の単結晶に面する内面側を円筒状として単結晶に近づけると、るつぼ壁や融液面からの輻射は遮断できても、単結晶表面からの熱放散を抑制するため、温度が低下するほど保温効果が増し、冷却の強化とは逆の結果をもたらすことも明らかになった。
【0028】
これに対しては、熱遮蔽体内面の形状として、下端部は単結晶に最も接近させるが、そこから上方に行くほど単結晶表面から離れていく逆円錐台面とするのが好ましいことがわかった。すなわち熱遮蔽体を単結晶の引き上げ軸と同軸の回転体とし、たとえば外形を円柱状とするときは、その軸に平行な断面の形状は底辺が垂辺より短い直角三角形状とすればよい。ただし内面の逆円錐台面は、必ずしも下端から直ちに始まる必要はなく、下方の一部が単結晶面に平行な円筒面で、途中から逆円錐台面に変わっていても同様な効果が得られることが確認された。
【0029】
図5により、本発明の効果を模式的に説明する。これは、引き上げ中単結晶における中心部および周辺部の、融液面から垂直方向の距離と温度の関係を示している。図5(a)は通常の引き上げ、あるいは単結晶の周囲に逆円錐台形状の熱遮蔽体を設置した引き上げの場合である。熱遮蔽体を単結晶の周囲に置く場合、るつぼや融液面からの高温の熱輻射を遮り、それとともにるつぼの融液面に供給されるアルゴンなどのキャリヤガスを単結晶と熱遮蔽体との間に流すことによって、通常の場合に比し単結晶の温度が下げられ、引き上げ速度を増すことができる。しかしながら熱遮蔽体の有無に関わらず表面から熱が放散されるので、単結晶の垂直方向のどの位置においても中心部より周辺部の方が温度が低くなっている。
【0030】
これに対し、熱遮蔽体の下端部を広くかつ厚くし、引き上げ軸方向に厚みを薄くした形状の熱遮蔽体を、その下端部と融液面との間に適当な間隙を空けて設置すると、引き上げ直後の単結晶内部の温度分布は周辺部が中心部より高い、図5(b)に示したような温度分布が実現できることがわかった。これは、引き上げ中単結晶の熱遮蔽体の下端から融液までの間が、表面部は融液面やるつぼ壁からの輻射により積極的に温められる一方、中心部はすぐその上にある熱遮蔽体のために温度が低くなった部分からの熱伝導による冷却で、相対的に温度が低下して得られたものと思われた。単結晶の周辺部の方が中心部より温度が高くなることは、前出の図3(b)の状態が実現されており、Gc>Gsの状態を示すもので、Grown-in欠陥のない単結晶を製造できることを意味している。
【0031】
このような結果から、諸条件の限界を明らかにし、本発明を完成させた。本発明の要旨は次のとおりである。
(1)引き上げられるシリコン単結晶を囲繞して引き上げ軸と同軸に熱遮蔽体が配置された融液からの単結晶の製造装置において、該熱遮蔽体は単結晶に面する内面が上方ほど内径の大きくなる逆円錐台面であり、単結晶の直径をDcとするとき
(A)最小内径は1.2Dc〜2.0Dc
(B)下端部の半径方向の幅は0.25Dc〜1.20Dcで、るつぼ内に挿入される部分はるつぼ内径より小とし、
その下端が融液面より50〜130mmの範囲の高さに位置するように配置されているシリコン単結晶製造装置を用いて、
引き上げ中の単結晶における凝固から1250℃までの部分は、融液面から垂直方向の同一距離における周辺部の温度が中心部の温度よりも高い状態にて引き上げ、1250℃を下回る部分は、周辺部の温度が中心部の温度以下の状態にて引き上げることを特徴とするシリコン単結晶製造方法。
(2)前記熱遮蔽体の内面が、下部は引き上げ軸に平行な円筒面、上部は上方ほど内径が大きくなる逆円錐台面であり、円筒面の長さが150mm以内であることを特徴とする上記(1)のシリコン単結晶製造方法。
(3)前記熱遮蔽体の内面の逆円錐台面が垂直方向に対し10〜45°傾斜していることを特徴とする上記(1)または(2)のシリコン単結晶製造方法。
【0032】
【発明の実施の形態】
本発明の装置を、るつぼの周辺のみ模式的に示した図6の例で説明する。この図において石英製のるつぼ1は、その外側の有底円筒状黒鉛製の保持容器1a に嵌合され、このるつぼ1は、所要の速度で回転でき上下に動かせる支持軸1b に支持される。るつぼ等の外側には円筒状ヒーター2が同心位置に配設されている。るつぼ1の中心軸上方には引き上げ棒あるいはワイヤー等からなる回転できる引き上げ軸4が配設され、その下部先端にはシードチャック5が取り付けられている。単結晶を引き上げ成長させるときは、るつぼ1の内部にヒーター2により加熱溶融した原料シリコンの溶融液3を充填し、引き上げ軸のシードチャック5に装着された種結晶を、始めに溶融液3の表面に接触させる。次いで支持軸1b により回転されるるつぼと同方向、または逆方向に引き上げ軸を回転させながら、種結晶を引き上げて、その先端に溶融液3を凝固成長させていくことによって単結晶を育成する。ここまでは、通常のCZ法による単結晶引き上げ装置の場合と同様である。
【0033】
本発明の装置では、この単結晶の引き上げ装置に、単結晶6を囲繞して、固定用治具などを除く有効部分が引き上げ軸と同軸の回転体形状をした熱遮蔽体7を設置する。熱遮蔽体7の外径は、少なくともるつぼ1内に挿入される部分においては、るつぼ内径より小さいこととする。これは、るつぼ内に設置されることがあるからである。
【0034】
熱遮蔽体の単結晶側の内面形状は、下端部で単結晶表面に最も近づいており、上方に行くほど単結晶表面から離れていく逆円錐台形状であることが好ましい。この下端部の最も単結晶に接近する部分の径Sを1.2Dc〜2.0Dcの範囲とする。これは熱遮蔽体の最小径Sが1.2Dcを下回ると、引き上げ中の単結晶が熱遮蔽体に接触するおそれがあるためであり、2.0Dcを超えると、輻射熱の遮蔽が不十分になり1250℃を下回る低温部分まで加熱されてしまうからである。
熱遮蔽体の下端部の半径方向の幅Wは、単結晶直径をDcとすると、0.25Dc〜1.20Dcであることとする。これは、0.25Dcよりも小さければ輻射熱遮蔽の効果が小さくなってしまうためであり、1.20Dcを超えて大きくしても飽和してそれ以上の効果は得られないからである。
【0035】
熱遮蔽体の下端面は融液面と平行な平面でよいが、高温領域への熱輻射を阻害しない範囲で、単結晶側からるつぼ壁側に向けて上または下向きに傾斜していてもよい。
【0036】
単結晶に面した熱遮蔽体内面の逆円錐台面の傾きαは、引き上げ軸に平行な垂直方向に対し、10〜45°であることが望ましい。10°未満では引き上げ軸方向にすべて垂直面である場合と差がなくなり、熱遮蔽体によって覆われた単結晶の上方の部分の冷却が不十分になって、引き上げ中の高温部分の中心部を相対的に低くできなくなる。また傾きαが45°を超えると、輻射熱の遮蔽効果が減退し、望ましい単結晶内の温度分布が十分得られないからである。
【0037】
この熱遮蔽体の内面の逆円錐台形状は、必ずしも下端部から直ちに始まっている必要はなく、図7に一例を示す熱遮蔽体8のように、下端部が部分的に単結晶面に平行な円筒面で、それから逆円錐台面となっていてもよい。ただしこの場合、円筒面部分の長さLは150mm以下としなければならない。これは、150mmを超えると熱遮蔽体内面を円筒面とした場合と同様になり、単結晶内部におけるGc>Gsの状態が得られなくなるからである。
【0038】
熱遮蔽体は、融液面からその下端部までの高さHが50〜130mmの範囲である位置に設置する。50mmより低い位置に設置すると、1250℃を超える高温領域の単結晶部分を冷却することになり、上述のGc>Gsの状態が実現できなくなる。また、130mmより高い位置に設置すると、1250℃を下回る部分も加熱され、結晶全体の温度勾配が小さくなって引き上げ速度を速めることができず、生産性が低下する。
【0039】
熱遮蔽体7または8は、たとえばるつぼなどに用いられる高密度高純度の黒鉛を用いればよいが、外側にこのような黒鉛材を用い内部にフェルトのような熱伝導率が低く、断熱性にすぐれた材料を充填してもよい。特にシリコン融液に近づけて用いるので、融液の汚染を防止するため、外側は高純度の材料とし、表面にはSiCなどの耐熱コーティングを施すことが好ましい。
【0040】
なお、上述した本発明の装置を用いてGrown-in欠陥のない単結晶を製造するためには、一旦、Grown-in欠陥の発生しない最適な引き上げ速度範囲を決定する必要がある。すなわち引き上げ速度は、るつぼやヒーターの構造、形状、位置等により少しづつ影響を受けその速度が異なってくるため、引き上げ速度を種々変更して単結晶の引き上げをおこない、欠陥のない領域が得られる引き上げ速度範囲を選定する。これにより見いだされた最適引き上げ速度で単結晶を製造する限りは、Grown-in欠陥のない単結晶を安定的に製造することができる。
【0041】
【実施例】
〔実施例1〕
図6に模式的に示した構造の装置にて、直径200mmのシリコン単結晶の引き上げをおこなった。るつぼ1の内径が550mmであるので、熱遮蔽体7のるつぼ内に入る部分の外径は480mmとし、内径の最小部分Sが270mm(1.35Dc)とした。すなわち単結晶表面と熱遮蔽体との間隔は最小で35mmで、半径方向の幅Wは105mm(0.525Dc)である。熱遮蔽体7は最下端部が最小の内径で、その内面は下端部から始まる逆円錐台面とし、その垂直方向に対する傾きαは21°とした。この熱遮蔽体7は壁厚さ約10mmの黒鉛で外殻を作り、内部に黒鉛フェルトを充填したものを用いた。熱遮蔽体下端の融液面からの高さHは80mmとした。
【0042】
るつぼ内に高純度シリコンの多結晶を120kg装入し、単結晶の電気抵抗が約10Ωcmになるようp型ドーパントのBを添加した。装置内を減圧アルゴン雰囲気とし、加熱してシリコンを溶融後加熱電力を調整し、種結晶を融液に浸漬してるつぼおよび引き上げ軸を回転させながら引き上げをおこなった。ネック、ショルダーと移行し、直径を200mmのボディとしてからさらに定常状態となるよう調整し、単結晶長さが200mmに達したときに引き上げ速度を0.6mm/minとした。次いで、引き上げ速度を連続的に徐々に低下させていき、単結晶長さが800mmに達したとき0.3mm/minになるようにした。その後1000mmになるまで引き上げ速度は0.3mm/minのままとし、それからテイル絞りに移行して結晶引き上げを終了した。伝熱解析シミュレーション計算をおこなった結果では、融点から1250℃までの間の垂直方向温度勾配は、単結晶中心部で2.9〜2.7℃/mm、周辺部で2.2〜2.0℃/mmであって、引き上げ速度を変えてもほぼ一定であった。
【0043】
得られた単結晶は縦割り加工し、中心部の引き上げ中心軸を含む断面に平行に厚さ約1.4mmのスライス片を採取し、16重量%の硝酸銅水溶液に浸漬してCuを付着させ、900℃にて20分間加熱し冷却後、X線トポグラフ法によりOSFリングの位置や各欠陥領域の分布を観察した。また、このスライス片について赤外線散乱体欠陥の密度を赤外線トモグラフ法、転位クラスター欠陥の密度をSeccoエッチング法にてそれぞれ調査した。
【0044】
欠陥分布の調査結果を、引き上げ速度に対応させて模式的に示すと、図7のようになった。通常の単結晶の引き上げ方法にて、同様に引き上げ速度を変えて、中心軸を含む縦方向断面での欠陥分布を調査した図2の結果と比較すると、V字形状に分布していたリング状OSFやその周辺の無欠陥領域などが、水平に近い状態になっていることがわかる。この場合、引き上げ速度が0.44mm/minになったとき、リング状OSFが消滅しており、0.42mm/minを下回るようになると転位クラスター欠陥が現れている。したがって0.42〜0.44mm/minに引き上げ速度を選定すれば、単結晶全体をGrown-in欠陥のない状態にできると推測された。
【0045】
次に同じ装置を用い、同様にシリコンを溶融し、単結晶引き上げをおこなったが、その場合、引き上げ速度を単結晶長さが200mmに達したとき、0.45mm/minとなるようにしてから、徐々に引き上げ速度を低下させていき、800mmに達したときに、0.42mm/minとなるようにした。この0.42mm/minの引き上げ速度にてさらに1000mmまで引き上げをおこない、それからテイル絞りをおこなって引き上げを終了した。
【0046】
得られた単結晶を縦割りし、欠陥分布を調査した結果、単結晶ボディの頂部から240mmのところでリング状OSFがウェーハ中心から消失し、酸素析出促進領域または無欠陥領域となり、760mmより下の部分になって、転位クラスターが見出されるようになった。このように、熱遮蔽体の形状を改善した装置を用い、熱遮蔽体の位置を最適位置に設定することにより、特定引き上げ速度範囲においてGrown-in欠陥のない状態にすることができた。さらに引き上げ速度を限定すれば単結晶のほぼ全長にわたって、Grown-in欠陥を無くすことが可能である。このGrown-in欠陥のない領域から採取したウェーハについて、25nmの酸化膜厚における初期酸化膜耐圧特性(TZDB)を調べた結果、ウェーハ当たりの良品率は97%を超えるものであった。
【0047】
〔実施例2〕
図7に模式的に示す熱遮蔽体8の形状を変えた構成の引き上げ装置を用い、直径200mmのシリコン単結晶の引き上げをおこなった。熱遮蔽体8は、るつぼ内に入る部分の外径を480mm、下方の内径最小部は直径Sが310mmで単結晶面と平行な高さLが85mmの円柱面とし、そこから上はαが21°の逆円錐台面で上方ほど径が大きくなっている。熱遮蔽体下端の融液面からの高さHは80mmとし、他は全て実施例1と同様である。
【0048】
単結晶6の引き上げは、まず直径を200mmのボディとしてから定常状態となるよう調整し、単結晶長さが200mmに達したときの引き上げ速度を0.6mm/minとした。次いで、引き上げ速度を連続的に徐々に低下させていき、単結晶長さが800mmmに達したとき0.3mm/minにし、その後1000mmになるまで引き上げ速度は0.3mm/minのままで、それからテイル絞りに移行して結晶引き上げを終了した。伝熱解析シュミレーション計算をおこなった結果では、融点から1250℃までの間の垂直方向温度勾配は、単結晶中心部で2.7〜2.5℃/mm、周辺部で2.1〜1.9℃/mmであって、引き上げ速度を変えてもほぼ一定であった。
【0049】
得られた単結晶は縦割り加工し、欠陥分布を調査した結果、引き上げ速度が0.425mm/minに達したときにリング状OSFが消失し、0.400mm/minを下回るようになると、転位クラスター欠陥が現れた。すなわち最適引き上げ速度は0.40〜0.43mm/minの範囲であった。
【0050】
同じ装置を用いた単結晶の引き上げは、引き上げ速度を単結晶長さが200mmに達したとき0.44mm/minとし、それから徐々に速度を低下させていき、800mmに達したときに、0.40mm/minとなるようにして、その速度でさらに1000mmまで引き上げをおこない、それからテイル絞りをおこなって引き上げを終了した。
【0051】
この単結晶の各欠陥を調査した結果、ボディ長220mmの位置からリング状OSFはなくなり、820mmの位置から転位クラスターが見出された。
【0052】
【発明の効果】
本発明のシリコン単結晶製造方法によれば、シリコン単結晶の引き上げの際、単結晶内の垂直方向の温度勾配について中心部より周辺部の方を小さくすることができ、引き上げ速度を適宜選ぶことにより、デバイスの高集積度化ないしは微細化に対応できる、Grown−in欠陥のきわめて少ない単結晶を容易に製造し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】シリコンウェーハで観察される典型的な欠陥分布の例を模式的に示した図である。
【図2】単結晶引き上げ時の、引き上げ速度と結晶欠陥の発生位置との一般的な関係を、模式的に説明した図である。
【図3】単結晶引き上げ時の、単結晶内の直径方向の温度分布を模式的に示した図である。
【図4】単結晶内の、引き上げ軸方向温度勾配の中心部と表面部との相違による、空孔または格子間原子の濃度分布差を説明する概念図である。
【図5】単結晶引き上げ時の、融液面からの距離による中心部と周辺部の温度の変化を説明する図である。
【図6】本発明のシリコン単結晶製造装置の具体例を模式的に示した図である。
【図7】本発明のシリコン単結晶製造装置の具体例を模式的に示した図である。
【図8】本発明の装置を用い、引き上げ速度を広い範囲で連続的に変えて製造した単結晶の、縦方向断面における欠陥の分布を模式的に示した図である。
【符号の説明】
1.るつぼ
1a.るつぼ保持容器
1b.るつぼ支持軸
2.ヒーター
3.シリコン溶融液
4.引き上げ軸
5.シードチャック
6.単結晶
7.熱遮蔽体
8.熱遮蔽体
Claims (3)
- 引き上げられるシリコン単結晶を囲繞して引き上げ軸と同軸に熱遮蔽体が配置された融液からの単結晶の製造装置において、該熱遮蔽体は単結晶に面する内面が上方ほど内径の大きくなる逆円錐台面であり、単結晶の直径をDcとするとき
(A)最小内径は1.2Dc〜2.0Dc
(B)下端部の半径方向の幅は0.25Dc〜1.20Dcで、るつぼ内に挿入される部分はるつぼ内径より小とし、
その下端が融液面より50〜130mmの範囲の高さに位置するように配置されているシリコン単結晶製造装置を用いて、
引き上げ中の単結晶における凝固から1250℃までの部分は、融液面から垂直方向の同一距離における周辺部の温度が中心部の温度よりも高い状態にて引き上げ、1250℃を下回る部分は、周辺部の温度が中心部の温度以下の状態にて引き上げることを特徴とするシリコン単結晶製造方法。 - 前記熱遮蔽体の内面が、下部は引き上げ軸に平行な円筒面、上部は上方ほど内径が大きくなる逆円錐台面であり、円筒面の長さが150mm以内であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶製造方法。
- 前記熱遮蔽体の内面の逆円錐台面が垂直方向に対し10〜45°傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン単結晶製造方法。
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