[第1実施例]
図3は、図1のシリコン基板1上に非常に薄いベース酸化膜2を、酸窒化膜2Aを含めて形成するための、本発明の第1実施例による基板処理装置20の概略的構成を示す。
図3を参照するに、基板処理装置20は、ヒータ22Aを備えプロセス位置と基板搬入・搬出位置との間を上下動自在に設けられた基板保持台22を収納し、前記基板保持台22と共にプロセス空間21Bを画成する処理容器21を備えており、前記基板保持台22は駆動機構22Cにより回動される。なお、前記処理容器21の内壁面は石英ガラスよりなる内部ライナ21Gにより覆われており、これにより、露出金属面からの被処理基板の金属汚染を1×1010原子/cm2以下のレベルに抑制している。
また前記基板保持台22と駆動機構22Cとの結合部には磁気シール28が形成され、磁気シール28は真空環境に保持される磁気シール室22Bと大気環境中に形成される駆動機構22Cとを分離している。磁気シール28は液体であるため、前記基板保持台22は回動自在に保持される。
図示の状態では、前記基板保持台22はプロセス位置にあり、下側に被処理基板の搬入・搬出のための搬入・搬出室21Cが形成されている。前記処理容器21はゲートバルブ27Aを介して基板搬送ユニット27に結合されており、前記基板保持台22が搬入・搬出21C中に下降した状態において、前記ゲートバルブ27Aを介して基板搬送ユニット27から被処理基板Wが基板保持台22上に搬送され、また処理済みの基板Wが基板保持台22から基板搬送ユニット27に搬送される。
図3の基板処理装置20では、前記処理容器21のゲートバルブ27Aに近い部分に排気口21Aが形成されており、前記排気口21Aにはバルブ23AおよびAPC(自動圧力制御装置)24Bを介してターボ分子ポンプ23Bが結合されている。前記ターボ分子ポンプ23Bには、さらにドライポンプおよびメカニカルブースターポンプを結合して構成したポンプ24がバルブ23Cを介して結合されており、前記ターボ分子ポンプ23Bおよびドライポンプ24を駆動することにより、前記プロセス空間21Bの圧力を1.33×10-1〜1.33×10-4Pa(10-3〜10-6Torr)まで減圧することが可能になる
一方、前記排気口21Aはバルブ24AおよびAPC24Bを介して直接にもポンプ24に結合されており、前記バルブ24Aを開放することにより、前記プロセス空間は、前記ポンプ24により1.33Pa〜1.33kPa(0.01〜10Torr)の圧力まで減圧される。
前記処理容器21には、被処理基板Wを隔てて前記排気口21Aと対向する側に酸素ガスを供給される処理ガス供給ノズル21Dが設けられており、前記処理ガス供給ノズル21Dに供給された酸素ガスは、前記プロセス空間21B中を前記被処理基板Wの表面に沿って流れ、前記排気口21Aから排気される。
このように前記処理ガス供給ノズル21Dから供給された処理ガスを活性化し酸素ラジカルを生成させるため、図3の基板処理装置20では前記処理容器21上,前記処理ガス供給ノズル21Dと被処理基板Wとの間の領域に対応して石英窓25Aを有する紫外光源25が設けられる。すなわち前記紫外光源25を駆動することにより前記処理ガス供給ノズル21Dからプロセス空間21Bに導入された酸素ガスが活性化され、その結果形成された酸素ラジカルが前記被処理基板Wの表面に沿って流れる。これにより、前記被処理基板Wの表面に、1nm以下の膜厚の、特に2〜3原子層分の厚さに相当する約0.4nmの膜厚のラジカル酸化膜を形成することが可能になる。
また前記処理容器21には前記被処理基板Wに対して排気口21Aと対向する側にリモートプラズマ源26が形成されている。そこで前記リモートプラズマ源26にArなどの不活性ガスと共に窒素ガスを供給し、これをプラズマにより活性化することにより、窒素ラジカルを形成することが可能である。このようにして形成された窒素ラジカルは前記被処理基板Wの表面に沿って流れ、基板表面を窒化する。なお、リモートプラズマ源26に窒素の代わりに酸素を導入することで、基板表面を酸化することも可能である。
図3の基板処理装置20では、さらに前記搬入・搬出室21Cを窒素ガスによりパージするパージライン21cが設けられ、さらに前記磁気シール室22Bを窒素ガスによりパージするパージライン22bおよびその排気ライン22cが設けられている。
より詳細に説明すると、前記排気ライン22cにはバルブ29Aを介してターボ分子ポンプ29Bが結合され、前記ターボ分子ポンプ29Bはバルブ29Cを介してポンプ24に結合されている。また、前記排気ライン22cはポンプ24とバルブ29Dを介しても直接に結合されており、これにより磁気シール室22Bを様々な圧力に保持することが可能になる。
前記搬入・搬出室21Cはポンプ24によりバルブ24Cを介して排気され、あるいはターボ分子ポンプ23Bによりバルブ23Dを介して排気される。前記プロセス空間21B中において汚染が生じるのを回避するために、前記搬入・搬出室21Cはプロセス空間21Bよりも低圧に維持され、また前記磁気シール室22Bは差動排気されることで前記搬入・搬出室21Cよりもさらに低圧に維持される。
以下に、図3の基板処理装置20を使って行う被処理基板W表面の紫外光ラジカル酸化処理、およびその後に行われるリモートプラズマラジカル窒化処理について説明する。
紫外光ラジカル酸化(UV−O 2 )処理
図4(A),(B)は、それぞれ図3の基板処理装置20を使って被処理基板Wのラジカル酸化を行う場合を示す側面図および平面図である。
図4(A)を参照するに、前記プロセス空間21B中には処理ガス供給ノズル21Dから酸素ガスが供給され、被処理基板Wの表面に沿って流れた後、排気口21A,APC23D,ターボ分子ポンプ23Bおよびポンプ24を通って排気される。ターボ分子ポンプ23BおよびAPC23Dを使うことにより、前記プロセス空間21Bの到達真空度が、基板Wの酸素ラジカルによる酸化に必要な10-3〜10-6Torrの範囲に設定される。
これと同時に、好ましくは172nmの波長の紫外光を発生する紫外光源25を駆動することにより、このようにして形成された酸素ガス流中に酸素ラジカルが形成される。形成された酸素ラジカルは前記被処理基板Wの表面に沿って流れる際に、回動している基板表面を酸化する。このような被処理基板Wの紫外光励起酸素ラジカルによる酸化(以下UV−O2処理)により、シリコン基板表面に1nm以下の膜厚の非常に薄い酸化膜、特に2〜3原子層に相当する約0.4nmの膜厚の酸化膜を、安定に再現性良く形成することが可能になる。
図4(B)は図4(A)の構成の平面図を示す。
図4(B)を参照するに、紫外光源25は酸素ガス流の方向に交差する方向に延在する管状の光源であり、ターボ分子ポンプ23Bが排気口21Aを介してプロセス空間21Bを排気するのがわかる。一方、前記排気口21Aから直接にポンプ24に至る、図4(B)中に点線で示した排気経路は、バルブ24Aを閉鎖することにより遮断されている。
図4(B)の平面図よりわかるように、ターボ分子ポンプ23Bは、基板搬送ユニット27を避けて、処理容器21の横に突出するような形で配置されている。
図5は、図3の基板処理装置20において図4(A),(B)の工程によりシリコン基板表面にシリコン酸化膜を、基板温度を450℃に設定し、紫外光照射強度および酸素ガス流量あるいは酸素分圧を様々に変化させながら形成した場合の、膜厚と酸化時間との関係を示す。ただし図5の実験ではラジカル酸化に先立ってシリコン基板表面の自然酸化膜を除去し、また場合によっては基板表面に残留する炭素を紫外光励起窒素ラジカル中において除去し、さらにAr雰囲気中、約950℃における高温熱処理を行うことにより、基板表面を平坦化している。また前記紫外光源24Bとしては、波長が172nmのエキシマランプを使った。
図5を参照するに、系列1のデータは、紫外光照射パワーを紫外光源24Bの窓面における基準パワー(50mW/cm2)の5%に設定し、プロセス圧を665mPa(5mTorr),酸素ガス流量を30SCCMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を、系列2のデータは紫外光パワーをゼロに設定し、プロセス圧を133Pa(1Torr),酸素ガス流量を3SLMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を示す。
また系列3のデータは紫外光パワーをゼロに設定し、プロセス圧を2.66Pa(20mTorr),酸素ガス流量を150SCCMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を示し、系列4のデータは紫外光照射パワーを100%、すなわち前記基準パワーに設定し、プロセス圧を2.66Pa(20mTorr),酸素ガス流量を150SCCMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を示す。
さらに系列5のデータは紫外光照射パワーを基準パワーの20%に設定し、プロセス圧を2.66Pa(20mTorr),酸素ガス流量を150SCCMに設定した場合の酸化時間と酸化膜圧との関係を示し、系列6のデータは、紫外光照射パワーを基準照射パワーの20%に設定し、プロセス圧を約67Pa(0.5Torr)、酸素ガス流量を0.5SLMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を示す。
さらに系列7のデータは、紫外光照射パワーを基準パワーの20%に設定し、プロセス圧を665Pa(5Torr)に、酸素ガス流量を2SLMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を、系列8のデータは、紫外光照射パワーを基準パワーの5%に設定し、プロセス圧を2.66Pa(20mTorr),酸素ガス流量を150SCCMに設定した場合の酸化時間と酸化膜厚との関係を示す。
図5の実験において、酸化膜の膜厚はXPS法により求めているが、このように1nmを下回る非常に薄い酸化膜の膜厚を求める統一された方法は、現時点では存在しない。
そこで本発明の発明者は、図6に示す観測されたSi2p軌道のXPSスペクトルに対してバックグラウンド補正および3/2と1/2スピン状態の分離補正を行い、その結果得られた図7に示すSi2p 3/2XPSスペクトルをもとに、Lu他(Z. H. Lu, et al., Appl. Phys, Lett. 71 (1997), pp.2764)の教示に従って、式(1)に示す式および係数を使って酸化膜の膜厚dを求めた。
d=λsinα・ln[IX+/(βI0+)+1] (1)
λ=2.96
β=0.75
ただし式(1)においてαは図6に示すXPSスペクトルの検出角であり、図示の例では30°に設定されている。また数1中、IX+は酸化膜に対応するスペクトルピークの積分強度(I1++I2++I3++I4+)であり、図7中、102〜104eVのエネルギ領域において見られるピークに対応している。一方、I0+は100eV近傍のエネルギ領域に対応した、シリコン基板に起因するスペクトルピークの積分強度に対応する。
再び図5を参照するに、紫外光照射パワー、従って形成される酸素ラジカル密度が小さい場合(系列1,2,3,8)には、最初は酸化膜の酸化膜厚が0nmであったものが、酸化時間と共に酸化膜厚が徐々に増加し続けるのに対し、紫外光照射パワーを基準パワーの20%以上に設定した系列4,5,6,7では、図8に概略的に示すように酸化膜成長が成長開始後、およそ0.4nmの膜厚に到達した時点で停留し、ある程度の停留時間が経過した後、急激に成長が再開されるのが認められる。
図5あるいは図8の関係は、シリコン基板表面の酸化処理において、0.4nm前後の膜厚の非常に薄い酸化膜を、安定して形成できることを意味している。また、図5に見られるように、かかる停留時間がある程度継続することから、形成される酸化膜は、一様な厚さを有することがわかる。すなわち、本発明によれば、約0.4nmの厚さの酸化膜をシリコン基板上に、一様な厚さに形成することが可能になる。
図9(A),(B)は、かかるシリコン基板上への薄い酸化膜の形成過程を概略的に示す。これらの図では、シリコン(100)基板上の構造を極めて単純化していることに注意すべきである。
図9(A)を参照するに、シリコン基板表面には、シリコン原子1個あたり2個の酸素原子が結合し、1原子層の酸素層が形成されている。この代表的な状態では、基板表面のシリコン原子は基板内部の2つのシリコン原子と基板表面の二つの酸素原子により配位され、サブオキサイドを形成している。
これに対し、図9(B)の状態ではシリコン基板最上部のシリコン原子は4つの酸素原子により配位されており、安定なSi4+の状態をとる。これが理由で、図9(A)の状態では速やかに酸化が進み、図9(B)の状態になって酸化が停留するものと考えられる。図9(B)の状態における酸化膜の厚さは約0.4nmであり、これは図5において観測される停留状態における酸化膜厚と良く一致する。
図7のXPSスペクトルにおいて、酸化膜厚が0.1nmあるいは0.2nmの場合に101〜104eVのエネルギ範囲において見られる低いピークが図9(A)のサブオキサイドに対応し、酸化膜厚が0.3nmを超えた場合にこのエネルギ領域に表れるピークがSi4+に起因するもので、1原子層を超える酸化膜の形成を表しているものと考えられる。
図75(A)は、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の生XPSスペクトルおよびそのケミカルシフトを、一方図75(B)は、シリコン酸化膜のXPS膜厚、すなわちXPS分析により求められた膜厚と、図74(A)のケミカルシフトとの関係を示す。
図75(A),(B)を参照するに、XPS膜厚の値が増加するにつれてケミカルシフトの大きさも増大するが、XPS膜厚が0.3nmから0.4nmの間に到達したところでケミカルシフトの値がシリコン酸化膜本来の値である4eVに到達し、この点でケミカルシフトに飽和が始まるのがわかる。先にも述べたように、このように非常に薄い酸化膜の膜厚は測定装置の違い、あるいは先の式(1)で使われる定数λあるいはβの値により変化する可能性がある。そこで、本発明で以上に説明してきた0.4nmの膜厚を、図75(A),(B)の関係から、酸化膜のケミカルシフトが約4eVとなる最小の停留膜厚と定義することも可能である。
このような0.4nmの膜厚における酸化膜厚の停留現象は、図4(A),(B)のUV−O2ラジカル酸化プロセスに限定されるものではなく、同様に薄い酸化膜が精度よく形成できる酸化膜形成方法であれば、同じように見られるものであると考えられる。
図9(B)の状態からさらに酸化を継続すると、酸化膜の厚さは再び増大する。
図10は、このように図3の基板処理装置を使った図4(A),(B)のUV−O2酸化プロセスにより形成された酸化膜上に厚さが0.4nmのZrSiOx膜と電極膜とを形成し(後で説明する図11(B)を参照)、得られた積層構造に対して求めた熱酸化膜換算膜厚Teqとリーク電流Igとの関係を示す。ただし、図10のリーク電流特性は、前記電極膜とシリコン基板との間にフラットバンド電圧Vfbを基準に、Vfb−0.8Vの電圧を印加した状態で測定している。比較のため、図10中には熱酸化膜のリーク電流特性をも示してある。また図示している換算膜厚は、酸化膜とZrSiOx膜を合わせた構造についてのものである。
図10を参照するに、酸化膜を省略した場合、すなわち酸化膜の膜厚が0nmの場合にはリーク電流密度が熱酸化膜のリーク電流密度を超えており、また熱酸化膜換算膜厚Teqも約1.7nm程度の比較的大きな値になることがわかる。
これに対し、酸化膜の膜厚を0nmから0.4nmまで増大させると、熱酸化膜換算膜厚Teqの値が減少をはじめるのがわかる。このような状態では酸化膜がシリコン基板とZrSiOx膜との間に介在することになり、物理膜厚は実際には増大するはずなのに換算膜厚Teqは減少しているが、これはシリコン基板上にZrSiOx膜を直接に形成した場合、図11(A)に示すようにZrのシリコン基板中への拡散あるいはSiのZrSiOx膜中への拡散が大規模に生じ、シリコン基板とZrSiOx膜との間に厚い界面層が形成されていることを示唆している。これに対し、図11(B)に示すように厚さが0.4nmの酸化膜を介在させることにより、このような界面層の形成が抑制され、結果として換算膜厚が減少するものと考えられる。これに伴って、リーク電流の値も酸化膜の厚さと共に減少するのがわかる。ただし図11(A),(B)は、このようにして形成された試料の概略的な断面を示しており、シリコン基板41上に酸化膜42が形成され、酸化膜42上にZrSiOx膜43が形成されている構造を示している。
一方、前記酸化膜の膜厚が0.4nmを超えると、熱酸化膜換算膜厚の値は再び増大をはじめる。酸化膜の膜厚が0.4nmを超えた範囲においては、膜厚の増大と共にリーク電流の値も減少しており、換算膜厚の増大は酸化膜の物理膜厚の増大に起因するものであると考えられる。
このように、図5で観測された酸化膜の成長が停留する0.4nm付近の膜厚は、酸化膜と高誘電体膜とよりなる系の換算膜厚の最小値に対応しており、図9(B)に示す安定な酸化膜により、Zr等の金属元素のシリコン基板中への拡散が効果的に阻止されること、またこれ以上酸化膜の厚さを増大させても、金属元素の拡散阻止効果はそれほど高まらないことがわかる。
さらに0.4nmの厚さの酸化膜を使った場合のリーク電流の値は、対応する厚さの熱酸化膜のリーク電流値よりも二桁ほど小さく、このような構造の絶縁膜をMOSトランジスタのゲート絶縁膜に使うことにより、ゲートリーク電流を最小化できることがわかる。
また、図5あるいは図8で説明した酸化膜成長の0.4nmにおける停留現象の結果、図12(A)に示すようにシリコン基板41上に形成された酸化膜42に当初膜厚の変化ないし凹凸が存在していても、酸化膜成長の際に膜厚の増大が図12(B)に示すように0.4nmの近傍において停留するため、停留期間内で酸化膜成長を継続することにより、図12(C)に示す非常に平坦な、一様な膜厚の酸化膜42を得ることができる。
先にも説明したように、非常に薄い酸化膜に対しては、現状では統一された膜厚測定方法が存在しない。このため、図12(C)の酸化膜42の膜厚値自体は、測定方法で異なる可能性がある。しかし、先に説明した理由から、酸化膜成長に停留が生じる厚さは、2原子層分の厚さであることがわかっており、従って、好ましい酸化膜42の膜厚は、約2原子層分の厚さであると考えられる。この好ましい厚さには、2原子層分の厚さが酸化膜42全体にわたり確保されるように、部分的に3原子層分の厚さの領域が形成されている場合も含まれる。すなわち、好ましい酸化膜42の厚さは、実際には2〜3原子層の範囲であると考えられる。
リモートプラズマラジカル窒化(RF−N 2 )処理
図13は、図3の基板処理装置20において使われるリモートプラズマ源26の構成を示す。
図13を参照するに、リモートプラズマ源26は、内部にガス循環通路26aとこれに連通したガス入り口26bおよびガス出口26cを形成された、典型的にはアルミニウムよりなるブロック26Aを含み、前記ブロック26Aの一部にはフェライトコア26Bが形成されている。
前記ガス循環通路26aおよびガス入り口26b、ガス出口26cの内面にはフッ素樹脂コーティング26dが施され、前記フェライトコア26Bに巻回されたコイルに垂直に周波数が400kHzの高周波(RF)パワーを供給することにより、前記ガス循環通路26a内にプラズマ26Cが形成される。
プラズマ26Cの励起に伴って、前記ガス循環通路26a中には窒素ラジカルおよび窒素イオンが形成されるが、直進性の強い窒素イオンは前記循環通路26aを循環する際に消滅し、前記ガス出口26cからは主に窒素ラジカルN2*が放出される。さらに図13の構成では前記ガス出口26cに接地されたイオンフィルタ26eを設けることにより、窒素イオンをはじめとする荷電粒子が除去され、前記処理空間21Bには窒素ラジカルのみが供給される。また、前記イオンフィルタ26eを接地させない場合においても、前記イオンフィルタ26eの構造は拡散板として作用するため、十分に窒素イオンをはじめとする荷電粒子を除去することができる。なお、大量のN2ラジカルを必要とするプロセスを実行する場合においては、イオンフィルタ26eでのN2ラジカルの衝突による消滅を防ぐため、イオンフィルタ26eを取り外す場合もある。
図14(A)は、図13のリモートプラズマ源26により形成されるイオンの数と電子エネルギの関係を、図14(B)に示す標準的な高周波プラズマ源および図14(C)に示す標準的なマイクロ波プラズマ源の場合と比較して示す。
図14(A)を参照するに、マイクロ波によりプラズマを励起した場合には窒素分子のイオン化が促進され、多量の窒素イオンが形成されることになる。これに対し500kHz以下の高周波(RF)パワーによりプラズマを励起した場合には、形成される窒素イオンの数が大幅に減少する。
しかし、高周波プラズマの場合、電子エネルギの高いイオンの比率が大きくなるため、基板にダメージを生じさせる欠点がある。しかし、図13のような構成にすると、直進性の強い窒素イオンはガス循環通路26a内で消滅し、N2ラジカルのみを選択的に処理容器中に導入することが可能になる。
なお、先にも説明したように、図14(B),14(C)はそれぞれ標準的な高周波プラズマ源および標準的なマイクロ波プラズマ源の構成を示す。
図14(B)を参照するに、石英ライナ426dで覆われたプラズマ室426D中には上部のガス導入口426bよりプロセスガスを導入し、これを高周波励起することにより前記プラズマ室426D中にプラズマ426Cを形成する。
前記プラズマ426Cに伴って形成された窒素イオンおよび窒素ラジカルは下側の処理室に導入され、プラズマ窒化が行われる。しかし、このような構成のプラズマ源では、直進性の強い窒素イオンを完全に除去するのは、トラップ426cを設けたとしても、困難である。
図14(C)のマイクロ波プラズマ源も同様であり、プラズマ励起にマイクロ波が使われる点が相違しているだけである。従って、図14(C)のマイクロ波プラズマ源においても、直進性の強い窒素イオンをラジカルから分離して除去するのはトラップを設けたとしても、困難である。
このように、図13に示すラジカル源を使うことにより、図14(A)に点線で示すイオン分布が得られ、イオン数を減らした理想的なリモートプラズマ窒化を行うことが可能になる。
マイクロ波によりプラズマ処理を行う場合には、図15に示すように1.33×10-3〜1.33×10-6Pa(10-1〜10-4Torr)の高真空が必要になるが、高周波プラズマ処理は、13.3Pa〜1.33kPa(0.1〜10Torr)の比較的高い圧力で実行可能である。
次に、リモートプラズマプロセスに適当なプラズマ励起周波数およびプロセス圧について考察する。
図73は、プラズマ励起周波数とプラズマ着火圧力範囲との関係を示す。
図73を参照するに、プラズマ着火圧力範囲は使われるプラズマ励起周波数により変化し、例えばプラズマ励起周波数が400kHzの場合、1.33Pa〜1.33kPa(0.01〜10Torr)の範囲に、またプラズマ励起周波数が2.45GHzの場合、13.3mPa〜1.33kPa(0.1mTorr〜0.01Torr)の範囲になることがわかる。
ここで好ましいプロセス圧について考察するに、プロセス圧が低すぎると処理容器中に導入された窒素ラジカルは拡散してしまい、例えば図3の基板処理装置20において基板Wを回転させてもラジカル源に近い基板周辺部のみが窒化される等、窒化処理に不均一が生じる。このようなことから、図3の基板処理装置20において図13のリモートラジカル源26を使った場合、均一な窒化処理を行うためにはラジカル流をある程度制御できる必要があり、このためには処理容器21中における処理圧を、図73中にラインAで示す0.01Torr(1.33Pa)以上の値に制御する必要がある。一方、前記処理容器21中における処理圧が高過ぎると窒素ラジカルは衝突により消滅してしまうため、前記処理容器21中における処理圧は、図73中にラインBで示す3Torr(399Pa)以下の値に制御する必要がある。
次に好ましいプラズマ励起周波数について考察するに、プラズマ励起周波数がラインCで示す4kHz未満になるとイオンが大きく加速され、高エネルギイオンによる基板のダメージが増大するため、プラズマ励起周波数は4kHz以上に設定するのが好ましい。一方、プラズマ励起周波数が図73中ラインDで示す13.56MHzを超えると大流量でのプラズマ処理が困難になるため、プラズマ励起周波数は13.56MHzを超えないように設定するのが好ましい。
結局、図3の基板処理装置20において図13のラジカル源26を使って行うラジカル窒化処理においては、プロセス圧と周波数を、図73中、ラインA〜Dで画成される斜線で示した領域内に設定するのが好ましい。本発明では代表的なプラズマ励起周波数として約400kHzの周波数を使うが、これは上記の範囲を含むものである。特に40kHz〜4MHzの範囲では、実質的の同一なプラズマプロセスが実現できる。
以下の表1は、マイクロ波によりプラズマを励起する場合と、高周波(RF)パワーによりプラズマを励起する場合との間での、イオン化エネルギ変換効率、放電可能圧力範囲、プラズマ消費電力、プロセスガス流量の比較を示す。
表1を参照するに、イオン化エネルギ変換効率は、マイクロ波励起の場合に約1×10
-2程度であるのに対し、RF励起の場合、約1×10
-7まで減少しており、また放電可能圧力はマイクロ波励起の場合0.1mTorr〜0.1Torr(133mPa〜13.3Pa)程度であるのに対し、RF励起の場合には、0.1〜100Torr(13.3Pa〜13.3kPa)程度であることがわかる。これに伴い、プラズマ消費電力はRF励起の場合の方がマイクロ波励起の場合よりも大きく、プロセスガス流量は、RF励起の場合の方がマイクロ波励起の場合よりもはるかに大きくなっている。
図3の基板処理装置では、酸化膜の窒化処理を窒素イオンではなく窒素ラジカルN2*で行っており、このため励起される窒素イオンの数は少ない方が好ましい。また被処理基板に加えられるダメージを最小化する観点からも、励起される窒素イオンの数は少ないのが好ましい。さらに図3の基板処理装置では、励起される窒素ラジカルの数も少なく、高誘電体ゲート絶縁膜下の非常に薄い、せいぜい2〜3原子層程度の厚さしかないベース酸化膜を窒化するのに好適である。このような高周波プラズマ励起窒素ラジカルを使って行う酸化膜の窒化処理を、以下ではRF−N2処理と称する。
先にも説明したように、図13のリモートプラズマラジカル源26を使うことにより、図3の基板処理装置20において大流量のプロセスガスを処理容器21中に導入することが可能になるため、このようなRF−N2処理では結果的に基板表面における窒素濃度分布が均一な優れた窒化処理が可能になる。
プロセスガス流量を増大させた場合、窒化される領域はプロセスガス流量が少ない場合と異なり、図3におけるプラズマ源26と排気口21Aを結ぶ基板中心軸近傍の領域に限定され、しかもArガスと窒素ガスの流量を合計したプロセスガス流量を制御することにより、基板上での前記窒化領域の、前記排気口21Aの方向への延在量を調整することができる。そこで前記延在量を最適化した上で被処理基板Wを回転させることにより、基板表面上における窒素濃度の均一性が向上する。なお、図3の構成ではArガスを窒素ガスに添加していることで窒素ラジカルの寿命が長くなっている効果も考えられ、Arガスの添加が本発明のRF−N2処理における面内均一性を向上させている可能性もある。
またマイクロ波プラズマを使った窒化処理においても、大きなガス流量での窒化処理が可能であれば、リモートプラズマ窒化処理において到達される面内均一性と同程度の面内均一性を実現できる可能性がある。
図16(A),(B)は、それぞれ図3の基板処理装置20を使って被処理基板Wのラジカル窒化(RF−N2処理)を行う場合を示す側面図および平面図である。
図16(A),(B)を参照するに、リモートプラズマラジカル源26にはArガスと窒素ガスが供給され、プラズマを数100kHzの周波数で高周波励起することにより窒素ラジカルが形成される。形成された窒素ラジカルは前記被処理基板Wの表面に沿って流れ、前記排気口21Aおよびポンプ24を介して排気される。その結果前記プロセス空間21Bは、基板Wのラジカル窒化に適当な、1.33Pa〜1.33kPa(0.01〜10Torr)の範囲のプロセス圧に設定される。特に6.65〜133Pa(0.05〜1.0Torr)の圧力範囲を使うのが好ましい。このようにして形成された窒素ラジカルは、前記被処理基板Wの表面に沿って流れる際に、被処理基板Wの表面を窒化する。
図16(A),(B)の窒化工程では、窒化工程に先立つパージ工程では前記バルブ23Aおよび23Cが開放され、バルブ24Aが閉鎖されることで前記処理空間21Bの圧力が1.33×10-1〜1.33×10-4Paの圧力まで減圧され、処理空間21B中に残留している酸素や水分がパージされるが、その後の窒化処理ではバルブ23Aおよび23Cは閉鎖され、ターボ分子ポンプ23Bはプロセス空間21Bの排気経路には含まれない。
このように、図3の基板処理装置20を使うことにより、被処理基板Wの表面に非常に薄い酸化膜を形成し、その酸化膜表面をさらに窒化することが可能になる。
図17(A)は、図3の基板処理装置20によりシリコン基板上に熱酸化処理により2.0nmの厚さに形成された酸化膜を、図13のRFリモートプラズマ源26を使って、表2に示す条件でRF−N2処理を行った場合の前記酸化膜中における窒素濃度分布を示し、図17(B)は、同じ酸化膜中における窒素濃度分布と酸素濃度分布との関係を示す。
表2を参照するに、基板処理装置20を使ったRF−N
2処理の際には、前記処理空間21B中に窒素を50SCCMの流量で、またArを2SLMの流量で供給し、窒化処理は1Torr(133Pa)の圧力下で行われるが、窒化処理開始前に一旦処理空間21Bの内圧を10
-6Torr(1.33×10
-4Pa)程度まで減圧し、内部に残留している酸素あるいは水分を十分にパージしている。このため、前記1Torr程度の圧力で行われる窒化処理(RF−N
2処理)の際には、前記処理空間21B中において残留酸素はArおよび窒素により希釈されており、残留酸素濃度、従って残留酸素の熱力学的な活動度は非常に小さくなっている。
これに対し、マイクロ波プラズマを使った窒化処理では、窒化処理の際の処理圧力がパージ圧と同程度であり、従ってプラズマ雰囲気中において残留酸素は高い熱力学的な活動度を有するものと考えられる。
図17(A)を参照するに、マイクロ波励起プラズマにより窒化した場合には酸化膜中に導入される窒素の濃度は限られており、酸化膜の窒化は実質的に進行していないことがわかる。これに対し本実施例のようにRF励起プラズマにより窒化した場合には、酸化膜中において窒素濃度が深さと共に直線的に変化し、表面近傍では20%近い濃度に達していることがわかる。
図18は、XPS(X線分光スペクトル)を使って行う図17(A)の測定の原理を示す。
図18を参照するに、シリコン基板11上に酸化膜12を形成された試料には所定の角度で斜めにX線が照射され、励起されたX線スペクトルを検出器DET1,DET2により、様々な角度で検出する。その際、例えば90°の深い検出角に設定された検出器DET1では励起X線の酸化膜12内における行路が短く、従って前記検出器DET1で検出されるX線スペクトルには酸化膜12の下部の情報を多く含まれるに対し、浅い検出角に設定された検出器DET2では、励起X線の酸化膜12中における行路が長く、従って、検出器DET2は主に酸化膜12の表面近傍の情報を検出する。
図17(B)は、前記酸化膜中における窒素濃度と酸素濃度との関係を示す。ただし図17(B)中、酸素濃度はO1s軌道に対応するX線強度により表されている。
図17(B)を参照するに、酸化膜の窒化を本発明のようにRFリモートプラズマを使ったRF−N2処理で行った場合には、窒素濃度の増大に伴って酸素濃度が減少しており、酸化膜中において窒素原子が酸素原子を置換えていることがわかる。これに対し、酸化膜の窒化をマイクロ波プラズマで行った場合には、このような置換関係は見られず、窒素濃度と共に酸素濃度が低下する関係は見られない。また特に図17(B)においては、マイクロ波窒化により5〜6%の窒素を導入した例においては酸素濃度の増加が見られており、これは窒化と共に酸化膜の増膜が起こることを示唆している。このようなマイクロ波窒化に伴う酸素濃度の増加は、マイクロ波窒化が高真空中において行われ、従って処理空間中に残留する酸素あるいは水分が高周波リモートプラズマ窒化の場合のようにArガスや窒素ガスにより希釈されることがなく、雰囲気中において高い活動度を有することによるものと考えられる。
図19は、図3の基板処理装置20において酸化膜を4Å(0.4nm)および7Å(0.7nm)の厚さに形成し、これを前記リモートプラズマ源26を使った図16(A),(B)のRF−N2処理により窒化した場合の窒化時間と膜中の窒素濃度との関係を示す。また図20は、図19の窒化処理に伴う窒素の酸化膜膜表面への偏析の様子を示す。なお図19,20には、酸化膜を急速熱酸化処理により5Å(0.5nm)および7Å(0.7nm)の厚さに形成した場合をも示している。
図19を参照するに、膜中の窒素濃度は、いずれの酸化膜であっても窒化処理時間と共に上昇するが、特にUV−O2酸化により形成された2原子層分に対応する0.4nmの膜厚を有する酸化膜の場合に、あるいはこれに近い0.5nmの膜厚を有する熱酸化膜の場合には、酸化膜が薄いため、同一の成膜条件において窒素濃度が高くなる。
図20は図18において検出器DET1およびDET2をそれぞれ30°および90°の検出角に設定して窒素濃度を検出した結果を示す。
図20よりわかるように、図20の縦軸は30°の検出角で得られる膜表面に偏析している窒素原子からのX線スペクトル強度を、90°の検出角で得られる膜全体に分散している窒素原子からのX線スペクトル強度の値で割ったものになっており、これを窒素偏析率と定義する。この値が1以上の場合には、表面への窒素の偏析が生じている。
図20を参照するに、酸化膜が前記UV−O2処理により7Åの膜厚に形成されたものの場合,窒素偏析率が1以上となり、窒素原子は当初表面に偏析し、図1の酸窒化膜12Aのような状態が実現されているものと考えられる。また、90秒間のRF−N2処理を行った後では、膜中にほぼ一様に分布していることがわかる。また他の膜でも、90秒間のRF−N2処理で、窒素原子の膜中の分布はほぼ一様になることがわかる。
図21の実験では、図3の基板処理装置20において、前記UV−O2処理および以下RF−N2処理を、10枚のウェハ(ウェハ#1〜ウェハ#10)について繰り返し実行した。
図21は、このようにして得られた酸窒化膜のウェハ毎の膜厚変動を示す。ただし図21の結果は、図3の構成において前記紫外光源25を駆動して行うUV−O2酸化処理の際、XPS測定により求めた酸化膜の膜厚が0.4nmになるように酸化膜を形成し、次いでこのようにして形成された酸化膜を、前記リモートプラズマ源26を駆動して行うRF−N2処理により、窒素原子を約4%含む酸窒化膜に変換した場合についてのものである。
図21を参照するに、縦軸は、このようにして得られた酸窒化膜についてエリプソメトリにより求めた膜厚を示すが、図21よりわかるように得られた膜厚はほぼ8Å(0.8nm)で、一定していることがわかる。
図22は、図3の基板処理装置20により膜厚が0.4nmの酸化膜をシリコン基板上に紫外光源25を使ったUV−O2処理により形成した後、これをリモートプラズマ源26によりRF−N2処理した場合の、窒化による膜厚増を調べた結果を示す。
図22を参照するに、当初(RF−N2処理を行う前)膜厚が約0.38nmであった酸化膜は、前記RF−N2処理により4〜7%の窒素原子を導入された時点で膜厚が約0.5nmまで増大しているのがわかる。一方、RF−N2処理により窒素原子を約15%導入した場合には膜厚は約1.3nmまで増大しており、この場合には導入された窒素原子が酸化膜を通過してシリコン基板中に侵入し、窒化膜を形成しているものと考えられる。
図22中には、厚さが0.4nmの酸化膜中に窒素を一層分だけ導入した理想的なモデル構造についての窒素濃度と膜厚との関係を▲で示している。
図22を参照するに、この理想的なモデル構造では、窒素原子導入後の膜厚が約0.5nmとなり、その場合の膜厚の増加は約0.1nm,窒素濃度は約12%となる。
このモデルを基準とすると、図3の基板処理装置20により酸化膜の窒化を行う場合、膜厚増は同程度の0.1〜0.2nmに抑制するのが好ましいことが結論される。またその際に膜中に取り込まれる窒素原子の量は、最大で12%程度になると見積もられる。
図23(A),(B)は、図3の基板処理装置20によりシリコン基板W上に酸化膜を、シリコン基板Wを駆動機構22Cにより回転させながら2nmの厚さに形成し、形成された酸窒化膜の窒素濃度分布および膜厚分布を測定した結果を示す。ただし図23(A),(B)の実験は、2nmの厚さに酸化膜を形成されたシリコン基板を回転させながら、133Paの圧力下、450℃の基板温度でArガスを2SLM、窒素ガスを50sccmの流量供給しながら行っている。図23(A)中、基板表面のうち窒素が濃集している部分が明るく示されている。また図23(B)には、エリプソメトリで求めた酸窒化膜の膜厚とXPS分析で求めた窒素濃度とが示されている。
図23(A),(B)の結果は、図3の基板処理装置20においてこのように基板Wを回転させ、さらにArガスおよび窒素ガスの流量を最適化することにより、非対称なラジカル流が生じる基板処理装置20においても、基板Wの表面全体にわたり、ほぼ一様な窒素分布を実現することができることを示している。
図24は先に説明した図22に対応する図であり、図25のフローチャートに示すようなUV−O2処理(ステップS1)により形成された酸化膜に対してRF−N2処理(ステップS2)を行って得られた酸窒化膜中の窒素濃度とXPS法により測定した膜厚との関係を示す。ただし図24では、前記RF−N2処理に先立つ酸化膜の初期膜厚を様々に変化させている。
図24を参照するに、●は、酸化膜初期膜厚が0.4nmである場合のXPS膜厚と膜中窒素濃度との関係を示し、前記図22中に●で示した場合に対応するが、図24の実験では、このようにして得られた酸窒化膜中の窒素濃度は、膜厚が約0.8nmまでの範囲であれば、XPS膜厚と共に直線的に増大することがわかる。
これに対し、図中■で示した例は、酸化膜初期膜厚を0.3nmとした場合に対応するが、やはり得られた酸窒化膜中に窒素濃度はXPS膜厚と共に、酸化膜初期膜厚が0.4nmの場合とほぼ同一の勾配で、直線的に増大することがわかる。
そこで、このような酸窒化膜を先に図1で示したような高誘電体ゲート絶縁膜3下のベース酸化膜2として使う場合、前記ベース酸化膜2中に窒素を導入することでシリコン基板1の酸化は抑制されるものの、図24の関係から、窒素濃度が高すぎると、得られた酸窒化膜の物理膜厚が増大してしまい、高誘電体ゲート絶縁膜3を使う効果が相殺されてしまうことがわかる。
そこで、このようにUV−O2処理により形成された酸化膜(以下UV−O2酸化膜と称する)をRF−N2処理して形成された酸窒化膜中に20%以上の濃度で窒素を導入しようとすると、前記UV−O2酸化膜の初期膜厚は0.4nmよりも小であるのが必要であることがわかる。すなわち、このように高濃度の窒素を導入した酸窒化膜を高誘電体ゲート絶縁膜のベース酸化膜として使う場合には、前記UV−O2酸化膜の初期膜厚を0.4nmよりも小さく設定する必要がある。
図26(A)〜(C)は、UV−O2処理によりシリコン基板1上に酸化膜2を形成し、さらに形成された酸化膜2上に高誘電体膜3としてHfO2膜を形成した場合の、Si基板1上に形成された構造についてXPS法により求められたSi2p軌道のスペクトルを示す。ただし図26(A)は前記酸化膜2を形成した状態でのスペクトルを、図26(B)は前記酸化膜2上にHfO2膜を形成した状態でのスペクトルを、さらに図26(C)は、このようにして形成されたHfO2膜を熱処理した場合のスペクトルを示す。また図26(A)〜(C)の各々に対して対応する概略的素子構造を示す。ただし図26(A)〜(C)中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図26(A)〜(C)を参照するに、図26(A)の状態でSi2p軌道のスペクトルピークAの他に、ケミカルシフトしたSi2p軌道の低いスペクトルピークBが観測されるが、図26(B)の状態でピークBの強度は増大し、特に図26(C)の熱処理を行った後の状態では、ピークBの強度はピークAの強度に匹敵するまで増大するのがわかる。
前記ピークBに対応するケミカルシフトは、基板1や酸化膜2中のSi原子がHfO2膜からの酸素原子と結合することで生じるものであり、Si2p軌道スペクトルのケミカルシフトの原因が全てシリコン基板1の界面反応にあると仮定すると、前記ピークBの面積から、図26(C)の熱処理工程に伴う酸化膜2の増膜の程度を見積もることができる。
図27は、様々な初期膜厚の酸化膜上にHfO2膜を形成し、さらに熱処理を行った場合について、HfO2膜形成前と熱処理後で酸化膜2の膜厚の変化を評価した結果を示す。ただし図27中、横軸は図26(A)に対応するHfO2膜形成前の酸化膜初期膜厚を、縦軸は図26(C)に対応する熱処理後の酸化膜膜厚を示す。
図27より、例えばUV−O2酸化膜の初期膜厚が0.4nmを超えたところで最終膜厚の減少あるいは停留が起こっているのがわかる。そこで、この増膜の停留がシリコン基板表面における界面反応の抑制に対応すると考えると、ZrSiO4膜を形成する先の実施例では酸化膜2の膜厚が0.4nmの場合に膜形成が停留するためこの膜厚が最適となっていたが、高誘電体膜を熱処理する場合、このようなシリコン基板表面における界面反応の抑制の観点から、酸化膜2の最適値が0.4nmよりもさらに厚いところに存在している可能性もある。
このように、界面反応の程度は高誘電体膜の種類あるいはその反応性、後続の熱処理の程度などで変化するため、界面反応を抑制するためには、界面膜とし0.4nmよりも厚い膜が必要になる場合もある。勿論、高誘電体ゲート絶縁膜全体のプロセスは、界面反応が最小になるように設計すべきであり、またベース酸化膜2の膜厚は、理想的には0.4nmであるべきである。結論として、ベース酸化膜2は、2〜4原子層の範囲の膜厚を有するのが好ましく、2〜3原子層の範囲の膜厚を有するのがより好ましく、2原子層の膜厚を有するのが最も好ましい。
[第2実施例]
図28(A)は、図3の基板処理装置20を使って行う、本発明の第2実施例によるシリコン基板表面への酸窒化膜の形成工程を示すフローチャート、図28(B)は、図3の基板処理装置20においてシリコン基板表面に酸化膜を形成した後、基板を大気中に取り出し、さらに基板を前記基板処理装置20の処理容器21に戻し、前記酸化膜をRF−N2処理して酸窒化膜を形成する、図28(A)の工程に対する比較例による酸窒化膜の形成工程を示すフローチャートである。
最初に図28(B)の比較例を参照するに、ステップ21において図3の基板処理装置20中において被処理基板W表面に、先に説明したUV−O2処理工程により紫外光励起酸素ラジカルを使ってシリコン酸化膜を形成し、次にステップ22において前記被処理基板Wを処理容器21の外にいったん搬出した後、前記処理容器21内部を高真空状態に排気し、再び被処理基板Wを処理容器21中に戻す。さらにステップ23において先に説明したRF励起窒素ラジカルを使ったRF−N2処理を行い、前記シリコン酸化膜をシリコン酸窒化膜に変換する。
図28(B)の工程では、ステップ22において前記処理容器21内部が高真空状態に排気されるため、ステップ23におけるRF−N2処理工程において酸素による汚染がなく、酸化による酸窒化膜の増膜が最小限に抑制されると考えられる。
これに対し図28(A)の工程では、基板処理スループットを向上させるためステップ21に対応するステップ11のUV−O2処理工程を終えた被処理基板Wは、そのまま前記処理容器21中に保持され、ステップ12のパージ工程の後、ステップ23に対応したRF励起窒素ラジカルを使ったRF−N2処理工程13により、前記シリコン酸化膜がシリコン酸窒化膜に変換される。
図29(A)は、図28(A)の工程により形成された酸窒化膜のXPS法により求められた膜厚と、図28(B)の工程により形成された酸窒化膜のXPS法により求められた膜厚とを比較して示す。ただし図29(A)中、横軸は図28(A)のステップ13あるいは図28(B)のステップ23における窒化時間を示している。図29(A)中、■は図28(A)のプロセスを、◆は図28(B)のプロセスを表す。
図29(A)を参照するに、窒化処理の進行と共に酸窒化膜の膜厚も増大するが、図28(A)のプロセスと図28(B)のプロセスとで実質的な差は認められず、図28(A)の工程においても、十分な酸素パージが実現されていることがわかる。
図29(B)は、このようにして酸窒化膜中に取り込まれた窒素原子の濃度を、図28(A)のプロセスと図28(B)のプロセスとで比較して示す。ただし図29(B)中、横軸は図28(A)のステップ13あるいは図28(B)のステップ23における窒化時間を示している。図29(B)中、■は図28(A)のプロセスを、◆は図28(B)のプロセスを示す。
図29(B)を参照するに、酸窒化膜中に取り込まれる窒素原子の濃度は図28(A)のプロセスでも図28(B)のプロセスでも実質的に差がなく、図29(A)に見られる増膜は、酸窒化膜中への窒素の導入に起因するものであると解釈される。
次に本発明の発明者は図3の基板処理装置20を使い、紫外光源25の代わりにリモートプラズマ源26により酸素ラジカルを発生させて酸化膜を形成し(以下、RF−O2処理と称する)、RF−O2処理により形成された酸化膜を前記リモートプラズマ源26により発生された窒素ラジカルを使ったRF−N2処理により窒化することにより酸窒化膜を形成する実験を行った。
図30(A)の実験ではステップ31において前記リモートプラズマ源26にArガスと酸素ガスを導入してRF−O2処理を行ない、ステップ32において前記処理容器21を高真空状態にパージした後、Arで処理容器21を4回パージし、さらにステップ33において前記リモートプラズマ源26を使ったRF−N2処理を行っている。
これに対し、図30(B)の実験ではステップ41において前記ステップ31と同様に前記リモートプラズマ源26にArとO2を導入してRF−O2処理を行ない、その後ステップ42において被処理基板Wを処理容器21の外に搬出する。この状態で前記処理容器21内部を高真空状態に排気した後、被処理基板Wを処理容器21に戻し、さらにステップ43において前記ステップ33と同様なRF−N2処理を行う。
図31(A)は、このようにして図30(A)のプロセスにより形成された酸窒化膜のXPS法で求めた膜厚を、図30(B)のプロセスにより形成された酸窒化膜のXPS法で求めた膜厚と比較して示す。ただし図31(A)中、■は図30(A)のプロセスに対応し、◆は図30(B)のプロセスに対応する。
図31(A)を参照するに、被処理基板W上に前記酸化膜を前記リモートプラズマ源26によるRF−O2処理により形成した場合には、図30(A)のプロセスを使うと実質的な増膜が生じることがわかる。
図31(B)は、図30(A)のプロセスにより形成された酸窒化膜中の窒素原子の濃度を、図30(B)のプロセスにより形成された酸窒化膜中の窒素原子の濃度と比較して示す。ただし図31(B)中、■は図30(A)のプロセスに対応し、◆は図30(B)のプロセスに対応する。
図31(B)を参照するに、図30(A)のプロセスにより形成された酸窒化膜中の窒素濃度は図30(B)のプロセスにより形成された酸窒化膜中の窒素濃度よりも低く、図31(A)に見られる図30(A)のプロセスにおいて生じる増膜は、主に残留酸素により生じていることがわかる。かかる残留酸素はおそらく前記リモートラジカル源26中に存在し、図30(A)の窒化処理ステップ33において窒素ラジカルが形成されると同時に酸素ラジカルを形成し、酸窒化膜の酸化反応を促進するものであると考えられる。
このようなことから、図25のフローチャートに示すように被処理基板表面に非常に薄い酸化膜を形成し、これをRF−N2処理して酸窒化膜を形成する場合には、図3で説明した基板処理装置20を使い、しかも最初の酸化膜の形成を、紫外光励起された酸素ラジカルを使ったUV−O2処理により行うのが好ましいことがわかる。
[第3実施例]
図32は、本発明の第3実施例による酸窒化膜の形成工程を示すフローチャートである。ただし図32中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図32を参照するに、本実施例による酸窒化膜の形成工程は先に図28(A)で説明した工程と類似しているが、ステップ12における処理容器21のパージ工程におけるArガスを使ったパージ回数を0〜4回の間で様々に変化させている。各々のArパージ処理は、前記処理容器21中にArガスを流す工程と、さらに処理容器21を高真空状態に排気する工程とにより構成される。
図33(A)は、図32のステップ12の工程において行ったArパージ処理の回数と、ステップ13の工程で得られた酸窒化膜のエリプソメトリにより求められた膜厚との関係を示す。
図33(A)を参照するに、酸窒化膜の膜厚はArパージの回数にかかわらず、約1.4nmで、一定であることがわかる。
これに対し図33(B)は、図30(A)の工程において、ステップ32のArパージ処理の回数を様々に変化させた場合に得られた酸窒化膜の膜厚を示す。
図33(B)を参照するに、酸窒化膜の膜厚はパージ回数と共にわずかではあるが減少しており、ステップ32のパージ処理が酸窒化膜の酸化による増膜を抑制するのに必要であることを示している。
図33(A),(B)の結果は、図30(A)のプロセスによる酸窒化膜の形成を行う場合、ステップ12のパージ工程は必ずしも必要でなく、またこの工程を省略しても、得られる酸窒化膜に増膜は実質的に生じないことを意味している。
[第4実施例]
ところで先にも説明したように、図24よりUV−O2酸化膜のRF−N2処理による窒化を行った場合には、窒素濃度が20%の場合、得られる酸窒化膜の膜厚は0.8nm程度になるのが避けられない。これよりも酸窒化膜の膜厚を減少させようとすると、UV−O2酸化膜から出発する限り、初期膜厚を0.2あるいは0.1nm程度、あるいはそれ以下まで減少させる必要がある。
本実施例では初期膜として、先に説明したUV−O2酸化膜の代わりに図3の基板処理装置20において前記ガスノズル21DからNOガスを導入し、紫外光励起を行うことにより原子状酸素と原子状窒素を励起し、励起された原子状酸素と原子状窒素とにより酸窒化処理(以下UV−NO処理と称する)を行う。このようにして得られた酸窒化膜、すなわちUV−NO膜は、初期状態ですでに窒素を含んでおり、これをさらにRF−N2処理することにより、膜厚を最小限に抑制しつつ、高い濃度の窒素を膜中に導入することができる。
図34は、NO分子の様々な励起状態におけるポテンシャルカーブを示す(例えばJ.S.Chang他、「電離気体の原子・分子過程」東京電機大学出版局,1982年を参照)。
NO分子の紫外光による光遷移では、基底状態から励起状態A2Σ+,B2Πr,C2Π,D2Σ+,E2Σ+への遷移に伴う吸収帯の存在が知られており、それぞれ227nm,218nm,192nm,188nm,165nm以下の光波長で遷移が可能である。
一方、原子状酸素(O3P)と原子状窒素(N4S0)を励起可能な波長域は、図34から192nmと145nmの間であることがわかる。すなわち、145nm以上の光波長でNO分子を励起することにより、原子状酸素と原子状の窒素とを発生させることが可能である。一方、光波長が前記145nmよりも短くなるとラジカル酸素(O1D)が励起されはじめるので、基板処理の際に酸化反応が主体になると考えられる。
このような事情で、図3の基板処理装置20において前記紫外光源25として波長が192〜145nmの範囲の紫外光源を使うことにより、所望のUV−NO膜を初期膜として形成することができる。
図35は、このようなUV−NO処理に引き続きRF−N2処理を行う本実施例による基板処理工程の概要を示す。
図35を参照するに、ステップ51においてシリコン基板表面が前記UV−NO処理により窒化され、酸窒化膜が形成される。
さらにステップ52において前記酸窒化膜がRF−N2処理され、先に形成された酸窒化膜がさらに窒化され、高い窒素濃度の酸窒化膜が得られる。
以下の表3は、図35のステップ51および52について処理条件の例を示す。ただし表3中、ステップ51については、先に説明したUV−O2処理(図25のステップ1)の条件も、合わせて示す。
さらに以下の表4は、前記ステップS51およびS52の許容プロセス条件を示す。表3と同様に、表4においても、ステップS51においては前記UV−O
2処理とUV−NO処理の双方について許容プロセス条件を示している。
表3および表4より、前記UV−O
2処理は0.02〜5Torr(0.0266〜665Pa)の圧力範囲で300〜750℃の温度範囲において、また前記UV−NO処理は0.01〜5Torr(0.0133〜665Pa)の圧力範囲で300〜750℃の温度範囲において行うことができる。
一方、前記RF窒化処理は、10-3〜10Torr(0.133Pa〜1.33kPa)の圧力範囲で、300〜700℃の温度範囲において行うことができる。特に0.67Pa〜13.3kPaの範囲が好ましい。
ここで再び先に説明した図24を参照するに、図中▲および▼は、図35のプロセスにより形成した酸窒化膜中の窒素濃度の膜厚との関係を示す。
図24を参照するに、酸窒化膜は前記UV−NO処理により形成された直後においても10%程度の窒素を含んでおり、従ってこれに対して図35のステップS52のRF−N2処理工程を行うことにより、より高い窒素濃度の酸窒化膜を形成することができる。その際、図中▲で示したデータはUV−NO処理による成膜直後の膜厚が0.5nmの場合を、また▼で示したデータをUV−NO処理による成膜直後の膜厚が0.4nmの場合を示しているが、特に▼で示した膜の場合には、RF−N2処理を行うことにより、XPS法で測定した膜厚が0.6nm以下であっても20%の窒素濃度を実現できることがわかる。
図36は、先の実施例においてUV−O2処理に引き続きRF−N2処理を行って得られた酸窒化膜に対して、膜中の窒素原子の1s状態での束縛エネルギをXPS法により求めた結果を、先に説明したUV−NO処理を行って形成した酸窒化膜に対する結果、およびその他の方法により形成された酸窒化膜に対する結果と共に示す。ただし図36中、縦軸はXPSスペクトルの半値幅(FWHM)を、横軸はN1s原子の束縛エネルギを示す。
図36を参照するに、特に高い束縛エネルギを有する酸窒化膜は、図37(A)に示すような窒素原子の最隣接位置をSi原子が占有し、また窒素原子の第2隣接位置を酸素が占有する場合に対応し、一方、低い束縛エネルギを有する酸窒化膜は、図37(B)に示すような、窒素原子の最隣接位置をSi原子が占有し、第2隣接位置もSi原子が占有する場合に対応すると考えられる。なお、両者の束縛エネルギの差は0.6eV程度であり、図36の横軸の分布と一致する。
図37(A)を参照するに、この状態では窒素原子は酸化膜内に含まれており、例えば図1に示すように、酸化膜の内部あるいは表面近傍に窒素原子が存在している状態に対応する。これに対し図37(B)において点線で囲んだ一または複数の席のSiが図中に矢印で示すように酸素により置換された状態が、酸窒化膜中においてシリコン基板と酸窒化膜との界面近傍に窒素原子が濃集した状態に対応する。
図36を見ると、UV−O2酸化膜をRF−N2処理した酸窒化膜では、束縛エネルギは比較的低エネルギ側にある約397.6eVから高エネルギ側である約398.1eVまで広範囲に分散しており、またピーク半値幅の値も大きいことから、膜中において図37(A)の状態と図37(B)の状態とが混合していることが推定される。
一方、UV−NO処理のみを行った酸窒化膜では、束縛エネルギは約397.5eVから約397.9eVの低エネルギ側に分散しており、またピーク半値幅の値もより小さくなっていることから、膜中において図37(A)の状態と図37(B)の状態とが混合していることは同じであるが、図37(B)の状態が多少優勢になっていると推定される。すなわち、この場合には酸窒化膜中における窒素原子の分布は、よりシリコン基板に近い側にシフトしていると考えられる。
図36中には、さらに熱酸化膜をRF−N2処理して形成した酸窒化膜(RTO/RFN)、熱酸化膜をマイクロ波プラズマ窒化処理して形成した酸窒化膜(SPA)およびシリコン基板を熱酸窒化処理して形成した酸窒化膜(RTNO)についての結果が示されている。
酸窒化膜RTO/RFNおよびSPAについては、観測されるN1s状態の束縛エネルギが比較的大きく、図37(A)の状態が優勢になっていると考えられる。これに対し、酸窒化膜RTNOにおいては観測されるN1s状態の束縛エネルギは397.4eV近傍に集中しており、これは酸窒化膜中の窒素原子がシリコン基板との界面近傍に濃集していることを示していると考えられる。
このように、本発明によるUV−O2酸化膜をRF−N2処理する酸窒化膜の形成方法によれば、酸窒化膜中に、膜表面の側により濃集した、しかし比較的一様な窒素原子の分布を実現することが可能である。一方、既存の酸化膜をRF窒化処理した場合、図36中のUVO2/RFNあるいはRTO/RFN、あるいはSPAの結果からもわかるように窒素原子は主に膜の表面付近に分布すると考えられる。このことから、図36に示すUV−NO処理を行って形成した酸窒化膜をさらにRF窒化処理した場合には、窒素原子を酸窒化膜のシリコン基板との界面から表面までの間に、ほぼ一様に分布させることが可能になると考えられる。
[第5実施例]
ところで、図1の高誘電体ゲート絶縁膜を有する半導体装置を製造する場合には、このような基板処理装置20で形成されたベース酸化膜2上に高誘電体膜3を形成する必要がある。
高誘電体膜3は典型的にはCVD法により形成され、例えばZrO2膜を形成する場合にはZrCl4やその他のZrを含む気相原料を使い、これを酸化することによりZrO2膜を堆積させる。
このような高誘電体膜3の形成は、図16(A),(B)のラジカル酸化膜の窒化工程に引き続いて、被処理基板を外気に触れさせることなく行うことが好ましく、このため図3の基板処理装置20はCVD室を含んだクラスタ型の基板処理装置中に組み込むのが望ましい。
図38は、本発明の第5実施例によるこのようなクラスタ型基板処理装置30の概略的な構成を示す。
図38を参照するに、クラスタ型基板処理装置30は、被処理基板Wを出し入れするカセットモジュール31A,31Bと、前記カセットモジュール31A,31Bにそれぞれのゲートバルブを介して結合された基板搬送室32とを含み、前記基板搬送室32には、さらに基板洗浄室33,ベース膜形成室34,CVD室35および熱処理室36が結合される。
そこでカセットモジュール31Aあるいは31Bから基板搬送室32に導入された被処理基板Wはまず基板洗浄室33に送られ、自然酸化膜および有機物汚染を除去される。次いで被処理基板Wは基板搬送室32を介してベース酸化膜形成室34に送られ、前記ベース酸化膜12および窒化膜12Aが形成される。
その後、被処理基板Wは基板搬送室32を通ってCVD室35に送られて高誘電体膜13が形成され、さらに熱処理室36に送られて結晶化および酸素欠損補償がなされる。熱処理室36における処理の後、被処理基板Wは基板搬送室32を通ってカセットモジュール31Aあるいは31Bに送られる。
ところで、各々の処理室33〜36には協働する様々な装置類が設けられており、その結果、処理室はそれ自体の他に、図38中に破線で示す面積を必要とする。その際、処理室のうち、基板搬送室32に面する側の部分は、他の処理室との間隔が狭く、利用可能なスペースが限られていることがわかる。
そこで、このようなクラスタ型の基板処理装置30において図3の基板処理装置20を使おうとすると、処理容器21が基板搬送ユニット27の代わりに基板搬送室32に結合されることになるが、その場合、図4(B)あるいは図16(B)に示されている、処理容器21の基板搬送室32に近い側において側方に突出するターボ分子ポンプ23Bが隣接する処理室と干渉してしまう問題が生じる。
ターボ分子ポンプ23Bは処理容器21の減圧を速やかに行うために排気口21Aの近傍に設ける必要があるが、基板搬送室32の下には搬送ロボットなど、様々な装置が設けられており、これに利用できるスペースは存在しない。また、処理容器21の下には基板回転機構22Cをはじめとする様々な装置が設けられており、やはりターボ分子ポンプ23Bを設けるスペースは得られない。
図39(A),(B)は、本発明の第5実施例による基板処理装置40の構成を示す、それぞれ側面図および平面図である。ただし図39(A),(B)中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図39(A),(B)を参照するに、基板処理装置40はターボ分子ポンプ23Bを、図38のようなクラスタ型基板処理装置を構成した場合にスペースの余裕が得られる処理容器21の外側、すなわち前記基板搬送ユニット27と反対の側に配置する。これに伴い、前記処理容器21には前記ターボ分子ポンプ23Bに協働する排気口21Eが、前記基板搬送室と反対の側に形成される。さらに酸素ラジカルが前記被処理基板Wの表面を通って前記排気口21Eに流れるように、酸素を導入する処理ガスノズル21Dおよび紫外光源25が、被処理基板Wよりも前記基板搬送室27に近い側に設けられる。
前記ターボ分子ポンプ23Bは前記処理容器21の下部に垂直な向きで、すなわち吸気口と排気口とが上下に配列するような向きで、バルブ23Aを介して結合されており、前記ターボ分子ポンプ23Bの排気口は、前記処理容器21の排気口21Aからバルブ24Aを経て前記ポンプ24に至る排気ラインに、バルブ24Aの後ろで結合されている。
基板処理装置40はターボ分子ポンプ23Bが外側、すなわち基板搬送ユニット27と反対の側に形成配置されるため、図38のようなクラスタ型の基板処理装置を構成しても、ターボ分子ポンプ23Bが隣接する処理室と干渉する問題は生じない。
図40(A),(B)は、前記基板処理装置40を使ってベース酸化膜12を形成する工程を示す。
図40(A),(B)を参照するに、ベース酸化膜形成工程ではバルブ23Aおよび23Cが開放され、バルブ24Aが閉鎖される。その結果、前記プロセス空間23Bは前記排気口21Eにおいてターボ分子ポンプ23Bにより1.33×10-1〜1.33×10-4Pa(10-3〜10-6Torr)の高真空状態に減圧され、この状態で前記処理ガスノズル21Dから酸素ガスがプロセス空間21Bに導入される。さらに前記被処理基板Wを基板回転機構22Cにより回転させながら紫外光源25を適当なエネルギで駆動することにより、形成された酸素ラジカルが基板表面に沿って排気口21Eへと流れ、基板表面を一様に酸化する。これにより、1nm以下、特に2〜3原子層の膜厚に対応する約0.4nmの膜厚を有する非常に薄いシリコン酸化膜を、シリコン基板表面に一様に再現性良く安定に形成することが可能になる。もちろん、厚さが1nmを超えるシリコン酸化膜を形成することも可能である。
図41(A),(B)は、本実施例の基板処理装置40を使い、図40(A),(B)の工程の後、形成されたベース酸化膜2の表面を窒化し、酸窒化膜2Aを形成する工程を示す。
図41(A),(B)を参照するに、窒化工程では前記バルブ23Aおよび23Cが閉鎖され、バルブ24Aが開放される。これによりターボ分子ポンプ23Bは排気系から遮断され、前記プロセス空間21Bは前記ポンプ24により、直接に排気され、1.33Pa〜1.33kPa(0.01〜10Torr)の圧力に減圧される。
この状態で前記リモートプラズマ源26にArガスと窒素ガスとを供給し、さらにこれを高周波励起することにより、窒素ラジカルが形成される。形成された窒素ラジカルは、前記被処理基板Wの表面に沿って排気口21Aへと流れ、その際に回転している被処理基板Wの表面を一様に窒化する。このような窒化により、図1に示すベース酸化膜2の表面は酸窒化膜2Aに変換される。
本実施例の基板処理装置40を、図38に示すクラスタ型基板処理装置において処理室34に使うことにより、このようにして形成された酸窒化膜2Aを含むベース酸化膜2上に、引き続いてZrO2,HfO2,Ta2O5,ZrSiO4,HfSiO4,Al2O3などの高誘電体膜13を形成することが可能になる。
なお以上の説明では、基板処理装置40を使って非常に薄いベース酸化膜を形成する例を説明したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、シリコン基板あるいはシリコン層上に高品質の酸化膜、窒化膜あるいは酸窒化膜を、所望の膜厚に形成するのに適用することが可能である。
[第6実施例]
以上の実施例では、図3の基板処理装置20を使って図1に示す半導体装置100におけるベース酸化膜2を0.4nm前後の膜厚に形成し、しかもその表面に酸窒化膜2Aを形成する技術を説明したが、前記基板処理装置20により厚い酸窒化膜を形成し、これにより図42に示す半導体装置200のように、ゲート絶縁膜3Aを形成することも可能である。
図42を参照するに、半導体装置200では図1の高誘電体膜ゲート絶縁膜3は使われず、ゲート絶縁膜3A上に直接にゲート電極4が形成される。図42中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図42の半導体装置200では高誘電体膜3を使う必要がなく、従来の半導体プロセス技術で扱われている酸窒化膜によりゲート絶縁膜が形成できるため、半導体装置の製造が容易になる。一方、図42の半導体装置200では、先に図3で説明した基板処理装置20を使って酸窒化膜よりなる前記ゲート絶縁膜3Aを、酸化膜換算膜厚にして1.0nm程度もしくはそれ以上の膜厚、すなわち1.6nm程度の物理膜厚に形成する必要がある。
図43は、本実施例による厚い酸窒化膜の形成工程を示す図である。
図43を参照するに、ステップ61において紫外光励起酸素ラジカルによるシリコン基板表面のUV−O2処理を行った後、形成された酸化膜がステップ62においてRF−N2処理により窒化処理され、酸窒化膜が形成されるが、本実施例においてはステップ61および62の工程を750℃の比較的高い温度で実行し、所望の膜厚を実現している。なおステップ61とステップ62の間のパージ工程は、先の図32の実験の結果に鑑み、省略している。
図44は、図43のステップ61におけるUV−O2処理工程で得られたシリコン酸化膜の、シリコン基板表面における膜厚分布を示す。ただし図44の膜厚は、分光エリプソメトリにより測定している。
図44を参照するに、シリコン酸化膜は400Pa(3Torr)の圧力下、750℃の基板温度において基板を回転させながら形成されており、膜厚の分散値σが0.72%の、非常に均一な酸化膜が形成されているのがわかる。
図45(A)〜(C)は、図44の酸化膜を図43のステップ62におけるリモートプラズマ窒化処理工程の処理条件と、得られた酸窒化膜の膜厚分布を示す。
図45(A)を参照するに、プラズマ窒化処理は26.6kPa(200mTorr)の圧力下、750℃の基板温度で、窒素ガス流量とArガス流量とを図示の範囲で変化させることで実行された。図45(A)中、ラインAはプラズマが着火する窒素ガス流量の上限を、またラインBおよびCは、図3の基板処理装置20の圧力制御可能範囲を示す。
図45(B)の中央に示すように、Arガス流量と窒素ガス流量をラインD上に乗るように選択した場合、膜中の窒素濃度分布、すなわち酸窒化膜の膜厚分布は一様で、膜厚の分散値σとして非常に小さい、0.7%程度の値を達成できることがわかる。
これに対し、Arガス流量と窒素ガス流量とを前記ラインDから外れた位置に設定した場合、図45(B)の左側に示すように基板の周辺部において窒素濃度が増大する、あるいは図45(B)の右側に示すように基板の中央部において窒素濃度が増大する分布が生じ、膜厚分布の分散値σが増大するのがわかる。
すなわち、図45(A)のラインDの右側と左側で酸窒化膜中の窒素濃度分布、従って膜厚分布がそれぞれ凸と凹になるのに対し、窒素ガス流量とArガス流量とを前記ラインD上に乗るように選択した場合、平坦な酸窒化膜の膜厚分布が得られる。
図74は、基板温度750℃における前記RF−N2処理の均一性とプロセス圧との関係を示す。ただし図74中、横軸はRF−N2処理の際のプロセス圧を、縦軸が、窒化処理した酸窒化膜の基板中心部での膜厚を、基板周辺部での膜厚で割り算した値を示す。従って、図74中の縦軸が1の場合に優れた面内均一性が達成されている。また図74中の縦軸が1より大の場合には得られた酸窒化膜は凸の膜厚分布を、1より小の場合には凹の膜厚分布を有している。
図74中、▲はArガス流量を800SCCMに、また窒素ガス流量を1150SCCMに設定した場合を、■はArガス流量を1150SCCMに、また窒素ガス流量を1150SCCMに設定した場合を、◆はArガス流量を1600SCCMに、また窒素ガス流量を1400SCCMに設定した場合を示す。従って、Arガス流量と窒素ガス流量とを合計したプロセスガスの総流量は▲,■,◆の順で増大する。
図74を参照するに、総流量を固定した条件下で圧力を変化させると、低圧側で膜厚分布が凹から凸に変化し、さらに凹に戻ることがわかる。また、いずれの総流量においても、均一な膜厚の酸窒化膜が得られるプロセス圧が2箇所存在することがわかる。また総流量が増大するにつれて、図74の曲線は高圧力側に移動するのがわかる。このように、本発明のRF−N2処理において処理の均一性を実現するには、Arガスと窒素ガスの総流量を調節する方法の他に、プロセス圧を調整する方法も可能である。
先の図45(A)におけるラインDは図74における▲の点に対応するが、図74の関係から存在が推測されるもう一つの最適点は圧力が低すぎるため、実際には存在しない。この最適点を使う場合には、大きな排気負荷に対応した能力の大きいポンプを使う必要がある。
図45(C)は、図45(A)の前記ラインD上にArガス流量および窒素ガス流量を制御した場合の、様々なArガス流量と得られる酸窒化膜の膜厚との関係を示す。図45(C)においても、分光エリプソメトリにより測定した膜厚を示している。
図45(C)を参照するに、Arガス流量、従って窒素ガス流量が増大するにつれて酸窒化膜の膜厚が増大しており、これは図45(A)あるいは図45(B)に示した酸窒化膜の膜厚が、膜中の窒素濃度を反映したものであることを示している。
図46(A)〜(D)は、温度750℃,圧力200mTorrの条件下で行った、図44の酸化膜のRF−N2処理における窒化過程のカイネティックスを示す。ただし図46(A)はXPS法で求めた酸窒化膜の膜厚と窒化処理時間の関係を、図46(B)は酸窒化膜中に取り込まれる窒素原子の濃度と窒化処理時間の関係を、図46(C)はXPS法で求めた酸窒化膜におけるO1s信号ピークの面積と窒化処理時間の関係を、さらに図46(D)はXPS法で求めた酸窒化膜由来のSi2p信号のピーク面積と窒化処理時間の関係を、初期酸化膜の膜厚を単色光エリプソメータで測定した値で1.0nmに設定した場合、1.2nmに設定した場合、および1.3nmに設定した場合について示す。ただしXPSによる測定値ではそれぞれ0.8nm,1.0nm,1.3nm程度の値になっている。
図46(A)〜(D)を参照するに、酸窒化膜の膜厚や窒素濃度は、初期膜厚が上記のいずれであっても窒化時間と共に増大する傾向を示すが、O1s信号およびSi2p信号の窒化処理時間に対する変化は、酸化膜の初期膜厚により異なっているのがわかる。
より具体的には、初期膜厚が1.3nmの酸化膜のRF−N2処理では、O1s信号が窒化処理時間と共に減少しており、窒化の過程で酸素が脱離していることを示している。一方、初期膜厚が1.0nmの酸化膜のRF−N2処理では、観測されるO1s信号の強度が余り変化してない。これは、窒素原子の導入により離脱した酸素原子が、膜厚が1.0nm程度の薄い酸化膜では膜内を拡散し、シリコン基板との界面に析出し、かかる界面において酸化膜の再成長を生じていることを示唆している。
また初期膜厚が1.3nmの酸化膜のRF−N2処理では、酸化膜の初期膜厚が大きいため、脱離した酸素原子がシリコン基板と酸化膜との界面に到達できず、酸窒化膜の外に逃げているものと考えられる。
図46(D)のSi2p信号について見ると、Si2p信号は初期膜厚が1.3nmの酸化膜では窒化処理開始後30秒まで余り変化しないのがわかる。これは、酸化膜中に導入された窒素原子が膜内で酸素原子と置換しており、酸化膜とシリコン基板との界面までは到達していないことを示していると考えられる。一方、初期膜厚が1.0nmの酸化膜では窒化処理の開始と共にSi2p信号が増加しており、先に述べたシリコン基板と酸化膜との界面における酸素の析出、およびこれに伴う酸化膜の再成長が生じていると考えられる。
図47(A)〜(D)は図43のプロセスにおいて、均一性を犠牲にしてより窒化反応が促進される条件で酸化膜のRF−N2処理を行った場合の結果を示す。より具体的には、図47(A)〜(D)の実験では処理圧を400mTorrに設定した。窒化反応の促進と均一性を両立させるためには、より大きな排気負荷のとれる大きなポンプをポンプ24として使用し、またより出力大きいラジカル源をリモートラジカル源26として使用する必要がある。これは、先に説明したプロセス圧を制御する場合と本質的に同じことである。
図47(A)〜(D)を参照するに、このように処理圧を増大させ窒化処理を促進するように設定された条件下では、初期膜厚が1.0nmの薄い酸化膜であってもRF−N2処理の開始と共に図47(C)よりわかるようにO1s信号の強度が減少しており、また図47(D)よりわかるように、初期膜厚が1.3nmの酸化膜でもSi2p信号の強度が窒化処理の最初から単調に増加しているのがわかる。これは図47(A)〜(D)の実験では窒化処理が促進されるため、短時間で図44(A)〜(D)の場合の窒化濃度に相当する量の窒素を導入され、窒素原子が酸化膜とシリコン基板との界面に到達していることを示している。このように窒化処理が促進される条件で窒化処理を行うと、窒化処理時間を短縮できる反面、窒化時間を最適に制御しないと導入された窒素原子が界面に届いてしまう可能性がある。
図48(A)は、図46(A)〜(D)および図47(A)〜(D)の結果より推測される、酸化膜のRF−N2プロセスによる窒化工程のメカニズムを概略的に示した図である。ただし図48(A)中、図42に対応した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図48(A)を参照するに、RF−N2処理の条件が適当であれば、導入される窒素原子は酸化膜の表面近傍に濃集し、窒素原子がシリコン基板1と酸窒化膜3Aとの界面近傍に侵入して界面準位を形成する問題が抑制できる。Watanabe, K., et al., J. Appl. Phys. 90 pp.4701 (2001) を参照。
一方、かかるRF−N2処理の条件が不適当で窒化反応が進行しすぎると、図48(B)に示すように窒素原子がシリコン基板1と酸窒化膜3Aとの界面にまで到達してしまい、界面準位が発生する恐れがある。このため、図43のステップ62の工程は、30秒以内に終了させることが望ましい。
そこで、本実施例では図3の基板処理装置20において、被処理基板Wの毎分当たりの回転数を20回に設定し、基板Wが30秒間のRF−N2処理の間に10回転させている。
図49(A),(B)は、このようにして初期膜厚が1.0nmのUV−O2酸化膜を回転させながら30秒間窒化処理した場合の、基板の中心部(C),中間部(M)および周辺部(E)におけるSi,NおよびO原子の深さ方向への濃度プロファイルをSIMS分析により求めた結果を示す。ただし図49(B)は図49(A)の酸窒化膜表面近傍を拡大して示す図である。
図49(A),(B)を参照するに、窒素濃度のピークは酸窒化膜13Aの表面から0.5nm程度の深さに位置しており、また優れた面内均一性が達成されていることがわかる。シリコン基板1と酸窒化膜3Aとの界面近傍における窒素原子の濃集は認められない。
図50(A),(B)は、初期膜厚が1.3nmのUV−O2酸化膜を同様にしてRF−N2処理により窒化した場合の、膜中におけるSi,NおよびO原子の深さ方向への濃度プロファイルを示す。
この場合にも、図49(A),(B)と同様な結果が得られているのがわかる。
[第7実施例]
図51は、本発明の第7実施例による基板処理装置320の構成を示す。
図51を参照するに、基板処理装置320は被処理基板322を保持する保持台321Aを有する処理容器321を含み、前記処理容器321中には前記保持台321A上の被処理基板322に対向して石英等の紫外光を透過させる材料よりなるシャワーヘッド321Bが設けられる。前記処理容器321は排気口321Cを介して排気され、一方前記シャワーヘッド321Bに外部のガス源から酸素などの酸化性ガスが供給される。
前記処理容器321にはさらに前記シャワーヘッド321Bの上方に前記シャワーヘッド321Bおよびその下の被処理基板322を露出するように、石英などの紫外線を透過する材料よりなる光学窓321Dが形成されている。前記保持台321A中には前記被処理基板322を加熱するヒータ321aが設けられている。
さらに前記処理容器321上には、前記光学窓321Dに対応して設けられた結合部323を介して紫外光露光装置324が設けられている。
前記紫外光露光装置324は、前記光学窓321Dに対応した石英光学窓324Aと、前記石英光学窓324Aおよび光学窓321Dを介して紫外光を前記被処理基板322上に照射する紫外光源324Bとを含み、前記紫外光源324Bはロボット324Cにより図51中に矢印で示すように、前記光学窓324Aに平行な方向に移動が可能に保持されている。図示の例では、前記紫外光源324Bは、前記移動方向に対して略直角に延在するように設けられた線状の光源よりなる。かかる線状の光源としては、例えば波長が172nmのエキシマランプを使うことができる。
また図51の構成では、前記紫外光源324Bにより形成された紫外線が前記光学窓321Dを介して前記処理容器321中に導入されるに先立って空気中の酸素により吸収されてしまうのを回避するため、前記結合部323には外部のガス源(図示せず)よりN2などの不活性ガスがライン323Aを介して供給され、前記不活性ガスは前記紫外光露光装置324の光学窓324Aの取り付け部に形成された隙間を通って前記紫外光露光装置324中の空間324Dに流入する。
さらに前記紫外光源の駆動に伴い、前記紫外光源324Bの直下に大気中の酸素が巻き込まれ流入するのを抑制するため、紫外光源324Bの両側面に遮蔽板324Fを設け、さらに前記遮蔽板324Fの下において、前記紫外光源324Bに対向する光学窓324Aと遮蔽板324Fとの間に形成される高さがせいぜい1mm程度の狭い領域に、ライン324bを介してN2などの不活性ガスが供給される。この領域には、前記ライン323Aからの不活性ガスも供給され、その結果、この領域において紫外光を吸収する酸素が効果的に排除される。
前記遮蔽板324F下の領域を通過した不活性ガスは前記空間324Dに流れ出し、さらに前記紫外光露光装置324中に形成された排気口324Eを通って外部に排出される。
図51の基板処理装置では、前記紫外光露光装置324において前記ロボット324Cにより前記紫外光源324Bの移動・走査を制御することができ、その結果、前記被処理基板322の表面にUV−O2処理により酸化膜を形成する際に、紫外線露光照射量を制御することにより膜厚の分布を制御することが可能になる。前記ロボット324Cはコンピュータなどの制御装置325により制御される。また、前記制御装置325は前記紫外光源324Bの駆動をも制御する。
図52(A)〜(C)は図51の基板処理装置320を使い、様々な条件下で酸化膜をシリコン基板上に形成した場合の、得られた酸化膜のエリプソメトリにより求めた膜厚分布をÅ単位で示す。ただし図52(A)〜(C)において、被処理基板322としては8インチのシリコン基板が、表面自然酸化膜を後で説明する表面前処理工程により除去した状態で使われている。また図52(A)〜(C)の各々において、前記処理容器331中の内圧は約0.7kPa(5Torr)に設定され、基板温度は300°Cに設定されている。
図示の結果は、前記処理容器321中に酸素ガスを1SLMの流量で5分間供給した場合のもので、図52(A)は紫外光の照射を行わなかった場合を、また図52(B),(C)は前記紫外光源324Bにより、光源直下で30mW/cm2の照度の紫外光を照射した場合を示す。図52(B)は、前記紫外光源324Bを410mmの範囲で、すなわち前記被処理基板322の全面が一様に露光されるように一様に走査した場合を示す。
図52(A)を参照するに、紫外光照射を行わなかった場合はシリコン基板表面に形成される酸化膜の厚さは0.2〜0.3nm程度であり、実質的な膜形成は生じていないのに対し、図52(B)の場合には前記シリコン基板表面に約0.8nmの酸化膜が形成されているのがわかる。さらに図52(B)の場合には、前記紫外光源24Bを400mmの範囲で一様に走査したにもかかわらず、前記8インチシリコン基板322の中央部において形成された酸化膜の膜厚が減少しているのがわかる。その結果、前記シリコン基板上に形成された酸化膜の膜厚変動は分散値で2.72%と比較的大きい値になっているが、これは使用した基板処理装置320に固有の特性を反映しているものと考えられる。
これに対し図52(C)は、前記シリコン基板322の中央部付近で100mmの限られた範囲で前記紫外光源324Bを走査した場合の酸化膜の膜厚分布を示す。
図52(C)を参照するに、このようにして形成された酸化膜の膜厚は0.92〜0.93nmの範囲に収まり、膜厚変動は分散値で1.35%まで減少しているのがわかる。
図53は、図52(A)〜(C)の実験において、前記処理容器321中に導入される酸素ガスの流量を様々に変化させた場合について、紫外線露光時間と形成される酸化膜の厚さとの関係を求めた結果を示す。
図53よりわかるように、形成される酸化膜の膜厚は酸素ガス流量にはほとんど依存せず、1分間を経過すると約1nmの値で飽和することがわかる。一方、露光時間が1分間より短い場合には、膜厚は露光時間共に増大する。図53は、図51の基板処理装置320を使ったシリコン基板表面へのベース酸化膜となる薄い酸化膜の形成工程はごく短時間で十分であることを示している。
図54(A)〜(E)は図51の基板処理装置320中において前記処理容器内圧を約0.7kPa(5Torr)、基板温度を450°Cに設定し、酸素ガスを1SLMの流量で供給しながら前記紫外光源24Bを100mmの範囲で走査した場合に得られる酸化膜の膜厚分布をÅ単位で示す。簡単のため、シリコン基板は矩形形状で示してある。
このうち図54(A)は前記走査を、基板中心を基点に、±50mmの範囲で行った場合を示すが、図54(A)の例では基板中心からy軸方向上上方に向かって、またx軸方向上右方に向かって前記酸化膜の膜厚が増大する傾向が存在するのがわかる。この場合の酸化膜の膜厚変動は分散値で3.73%となっている。
これに対して図54(B)は、前記走査の基点を基板中心からy軸方向上下方に向かって12.5mmずらした場合の酸化膜の膜厚分布を、同じくÅ単位で示す。図54(B)よりわかるように、酸化膜の膜厚変動は分散値で3.07%まで減少している。
さらに図54(C)は、前記走査の基点を基板中心からy軸方向下方に25.0mmずらした場合の酸化膜の膜厚分布をÅ単位で示す。図54(C)よりわかるように、酸化膜の膜厚変動は図54(B)の場合と同じで3.07%となっている。
これに対し、図54(D)は、前記走査の基点を基板中心からy軸方向下方に37.5mmずらした場合の酸化膜の膜厚分布をÅ単位で示す。図54(D)よりわかるように、この場合酸化膜の膜厚変動は2.70%まで減少している。
一方、図54(E)に示すように前記走査の基点を基板中心からy軸方向下方に50.0mmずらした場合には、前記酸化膜の膜厚変動は5.08%まで増大している。
このことから、図51の基板処理装置320においては、前記紫外線源324Bの走査の基点を基板に対して最適化することでも、被処理基板322上に形成される酸化膜の膜厚変動を最小化できることが結論される。
次に図55(A)〜(E)は、図51の基板処理装置320において前記紫外線源324Bの走査距離を100mmとし、走査の基点を被処理基板322の中心からy軸方向下方に37.5mmずらした位置に設定し、照度をそれぞれ3mW/cm2、6mW/cm2、12mW/cm2、18mW/cm2および24mW/cm2に設定して酸化膜を形成した場合の膜厚分布をÅ単位で示している。
図55(A)〜(E)を参照するに、膜厚のばらつきは図55(A)の照射量を3mW/cm2に設定した場合が最も小さく、照射量が増大するにつれて膜厚のばらつきも増大しているのがわかる。
図55(A)〜(E)の結果は、図51の基板処理装置320において、紫外線源324Bの照度を最適化することによっても、得られる酸化膜の膜厚のばらつきを最小化できることを示している。
図56(A),(B)は比較対照例を示し、図56(A)は図55(A)〜(E)と同一条件下において、紫外光照射を行わずに酸化膜を形成した場合を、また図56(B)は従来の急速熱酸化(RTO)処理により酸化膜を形成した場合を示すが、このいずれの場合においても4%を超える膜厚変動が観測されることがわかる。
図57,58は、上記の結果を踏まえた、図51の基板処理装置320における基板処理方法の最適条件を探索するフローチャートである。このうち、図57は最適走査領域の探索を行うフローチャートであり、図58は最適照度の探索を行うフローチャートである。
図57を参照するに、最初にステップ71において被処理基板上の任意の領域が指定され、次にステップ72において前記基板処理装置320中に被処理基板322を導入し、前記紫外光源324Bを前記被処理基板322上の指定された領域において走査させ、酸化膜を形成する。さらに、前記ステップ71およびステップ72を繰り返すことにより、各繰り返し毎に、新たな被処理基板322上に前記領域をずらした状態で酸化膜を形成する。
さらにステップ73において各実験で得られた酸化膜の膜厚分布を評価し、ステップ74において膜厚変動が最小となる最適走査領域を見出す。
図57の最適走査条件を探索の後、図58に示す最適照射条件の探索が行われる。
図58を参照するに、最初にステップ81において図57の手順により探索された最適走査領域が指定され、次にステップ82において紫外光源224Bの駆動エネルギが指定される。さらにステップ83において前記基板処理装置320中に被処理基板322を導入し、前記紫外光源324Bを前記被処理基板322上の指定された最適領域において、ステップ312により指定された駆動エネルギで走査させ、酸化膜を形成する。さらに、前記ステップ312およびステップ313を繰り返すことにより、各繰り返し毎に、新たな被処理基板322上に前記駆動エネルギをずらした状態で酸化膜を形成する。
さらにステップ314において各実験で得られた酸化膜の膜厚分布を評価し、膜厚変動が最小となる紫外光源324Bの最適駆動エネルギを見出す。さらにステップ315において、かかる最適駆動エネルギにおいて膜形成がなされるように、前記基板処理装置320の紫外光源324Bを制御するプログラムを決定する。
このようにして決定されたプログラムに従って前記制御装置325は前記ロボット324Cおよび紫外光源324Bを動作させ、その結果、前記紫外光源324Bは最適な基板領域を最適な駆動エネルギで走査し、その結果、前記前記被処理基板324上に0.3〜1.5nm、好ましくは1nm以下、より好ましくは0.8nm以下、例えば0.4nmの厚さの、非常に薄い、しかも膜厚の一様なラジカル酸化膜が、先の実施例と同様にして形成される。
先に説明したのと同様に、このような図51の基板処理装置320を使ったUV−O2処理によるシリコン基板表面上への酸化膜の形成の際においても、形成された酸化膜の膜厚が0.4nmあるいは2〜3原子層の範囲において膜成長の停留減少が生じ、このため、この厚さのシリコン酸化膜は安定に、再現性良く形成することができる。そこで、このようにして形成された酸化膜を高誘電体膜と組み合わせることにより、ゲート絶縁膜の実効的な膜厚が薄く、非常に微細化された高速MOSトランジスタを実現することが可能になる。
なお、本実施例では酸化膜はUV−O2処理により形成された酸化膜としたが、酸化膜はこのような酸化膜に限定されるものではなく、低いラジカル密度で精密に酸化を行える酸化方法で形成された酸化膜であれば、どのようなものであってもよい。
[第8実施例]
図59は、本発明の第8実施例によるMOSトランジスタ340の構成を示す。
図59を参照するに、シリコン基板341上には2〜3原子層分の厚さのシリコン酸化膜よりなるベース酸化膜342が形成されており、前記ベース酸化膜342上にはZrO2,HfO2,Ta2O5,Al2O3,ZrSiO4,HfSiO4などの、いわゆる高誘電体膜343が形成されている。さらに前記高誘電体膜343上には、ポリシリコンあるいはその他の金属よりなるゲート電極344が形成されている。また、図示は省略するが、前記シリコン基板341中には、前記ゲート電極344の両側に拡散領域が形成されている。
図60は、図59のMOSトランジスタを製造するのに使われるクラスタ型の基板処理システム350の構成を示す。
図60を参照するに、前記基板処理システム350はクラスタ型の処理装置であり、基板搬入/搬出のためのロードロック室351と、基板表面の自然酸化膜および炭素汚染を除去する前処理室352と、図51の基板処理装置320よりなるUV−O2処理室353と、基板上にTa2O5、Al2O3,ZrO2、HfO2,ZrSiO4,HfSiO4等の高誘電体膜を堆積堆積するCVD処理室354と、基板を冷却する冷却室355とを真空搬送室356で連結した構成を有し、前記真空搬送室356中には搬送アーム(図示せず)が設けられている。
動作時には、前記ロードロック室351に導入された被処理基板は経路(1)に沿って前記前処理室352に導入され、自然酸化膜および炭素汚染が除去される。前記前処理室352で自然酸化膜を除去された被処理基板352は経路(2)に沿って前記UV−O2処理室353に導入され、図51の基板処理装置320により、図59に示すベース酸化膜342が、2〜3原子層の一様な膜厚に形成される。
さらに、前記UV−O2処理室353においてベース酸化膜342を形成された被処理基板は経路(3)に沿ってCVD処理室354に導入され、前記ベース酸化膜上に図59に示す高誘電体ゲート絶縁膜344が形成される。
さらに前記被処理基板は前記CVD処理室354から経路(4)に沿って冷却室355に移され、前記冷却室355で冷却された後、経路(5)に沿ってロードロック室351に戻され、外部に搬出される。
なお、図60の基板処理システム350において、さらにシリコン基板の平坦化処理を、Ar雰囲気中、高温熱処理により行う前処理室を別に設けてもよい。
図61は、UV−O2処理室53において行われるラジカル酸化処理の条件を説明する図である。
図61を参照するに、横軸は図51の処理容器321中に紫外光源324Bにより励起される酸素ラジカルのTorr単位で表した分圧を対数スケールで示し、一方縦軸は、プロセス開始後、図8に示す停留現象が生じるようになるまでのプロセス時間、および停留現象が消滅するまでのプロセス時間を、同じく対数スケールで示す。横軸の酸素ラジカル分圧は酸素ラジカル密度に対応しており、前記紫外光源324Bの駆動パワーないし紫外光照射強度と紫外光波長とにより決定される。
以下に、紫外光照射強度とラジカル密度との関係を、172nmの紫外光波長を使った場合の例について説明する。
図51の基板処理装置320、すなわち図60の基板処理システム350の処理室353において、100%駆動状態で窓面直下の紫外光照度が50mW/cm2となる紫外光源を前記紫外光源324Bとして使い、プロセス圧を0.02Torr(2.66Pa)に維持したまま150SCCMの流量の酸素ガスを処理容器321中に流した場合、紫外光源324Bは4.34×1016/cm2・秒のフォトンフラックスを形成する。前記光源23が幅2cm幅の管状ランプであり、このランプにより20cm径のシリコンウェハを照射した場合を考えると、シリコンウェハ表面における平均的なフォトンフラックスの値は、前記フォトンフラックス値の約1/10の、4.34×1015cm-2となる。
一方、波長が172nmの紫外光に対する酸素分子の吸収断面積は6×10-19cm2であることが知られているので、式I/I0=exp(−σnx)で与えられるプロセス雰囲気中における紫外光の透過率は、0.9916と求められる。ただし、ここでプロセス圧力は0.02Torr(2.66Pa)とし、プロセス雰囲気中における気体分子密度nは7.05×1014cm-3、紫外光は処理容器23中を、20cmの距離を進むものとした。
そこで、紫外光が処理容器321中において20cmの距離を進む間にプロセス雰囲気により吸収される量に対応するラジカル量は、単位面積単位時間あたり、前記フォトンフラックス値4.34×1015/cm2に比率0.0084を乗じて、3.65×1013/cm2・秒となり、これと同じ割合で、酸素ラジカルが処理容器23中に形成される。
一方、処理容器321中における酸素ガスのフラックスは、シャワーヘッド21Bの面積を314cm2とすると、標準状態体積換算で7.98×10-3cc/cm2・秒となる。これは分子数に換算すると、2.138×1017/cm2・秒となる。そこで、フラックス比の値、3.65×1013/2.138×1017=1.71×10-4から、0.02Torr(2.66Pa)のプロセス圧の下で発生する酸素ラジカルの分圧は、3.42×10-6Torr(=1.71×10-4×0.02)となる。
このように、光強度100%、酸素ガス流量150SCCM,プロセス圧(=処理容器内圧)0.02Torr(2.66Pa)の場合に前記処理容器321中に形成される酸素ラジカル濃度は、約3.42×10-6Torr(4.54×10-4Pa)となることがわかる。同様な手続により、他の様々な条件について、ラジカル密度を計算することが可能である。
図61はラジカル密度、すなわちラジカル分圧と、基板処理開始後、先に説明した図5の停留現象が生じる期間との関係を示す。
図61を参照するに、処理容器321中のラジカル密度が高い場合、図5の場合と同様に停留現象はプロセス開始後すぐに発生するのに対し、ラジカル密度が低い場合には、プロセス開始後、長い時間が経過した後で生じる。これは、ラジカル密度が高い場合、酸化膜の成膜速度が大きく、短時間で0.4nmの停留膜厚に達するのに対し、ラジカル密度が低い場合、酸化膜の成膜速度が小さく、0.4nmの停留膜厚に達するのに長い時間を要する事情に対応している。
同様に、停留現象が発生してから消滅するまでの停留時間もラジカル密度によって変化し、ラジカル密度が高い場合には停留時間も減少し、一方ラジカル密度が低い場合には停留時間は増大する。
実際の半導体装置の製造工程を考えると、停留現象が発生するまでのプロセス時間が長すぎると半導体装置の製造スループットが低下するので、ラジカル密度にはおのずから下限が存在する。また停留現象が継続する時間が短すぎると、2〜3あるいは2〜4原子層の好ましい膜厚の酸化膜を安定に形成できなくなるため、ラジカル密度には、おのずから上限が存在する。
図61は、ラジカル酸化処理を172nmの波長の紫外光を使い、基板酸化を450℃で行う場合についての例を示しているが、この関係から、ラジカル分圧の下限は許容プロセス時間を5分間(300秒)以下として、1×10-4mTorr(133×10-7Pa)、ラジカル分圧の上限は、必要停留時間をおよそ100秒間以上として、1mTorr(133×10-3Pa)になることがわかる。また、これに対応した紫外光照射パワーは、光源23の窓直下において5〜50mW/cm2となる。
図61では、停留現象の発生と消滅とを表す二本の直線の間隔は、ラジカル分圧が増大するにつれて増大しているように見えるが、図61の縦軸および横軸は対数でプロットされているため、前記間隔に対応した停留時間の値は、ラジカル分圧と共に実際には減少している。
上記UV−O2処理の際、酸素ガス分圧は6.65×10-3Pa〜133Pa(0.05〜1000mTorr)、より好ましくは1.33〜13.3Pa(10〜100mTorr)の範囲に設定するのが好ましい。
なお図51の基板処理装置320を使ったラジカル酸化を、他の波長の紫外光を使って行うことも可能である。この場合、雰囲気ガスによる紫外光の吸収を考えると、基板処理装置320の処理容器321内において前記1×10-4mTorr(1.33×10-2mPa)以上1mTorr(133mPa)以下のラジカル密度を実現しようとすると、紫外光源324Bの駆動エネルギあるいは雰囲気ガス組成を変化させる必要がある。
例えば波長が146nmの紫外光源を前記紫外光源324Bとして使う場合には、波長が172nmの場合よりも25倍大きい光吸収を考慮して、雰囲気中の酸素分圧を0.05〜50mTorr(6.7mPa〜6.7Pa)の範囲に設定する。
なお、このようにして形成された2〜3原子層分の厚さの酸化膜を窒素ラジカルにより窒化し、酸窒化膜に変換することも可能である。このようにして形成された酸窒化膜は比誘電率がシリコン酸化膜よりも大きいため、MOSトランジスタのゲート絶縁膜の熱酸化膜換算膜厚をさらに減少させることが可能になる。
[第9実施例]
以下、本発明の第9実施例について説明する。
本実施例においては図51の基板処理装置320を使い、シリコン基板表面に、先に説明したのと同様なUV−NOラジカル処理により、直接に酸窒化膜を形成する。なお、同様な結果は、先に説明した図3の基板処理装置20においても得られる。
図62(A)は、図51の基板処理装置320を使ってシリコン基板上に0.4nmの厚さに形成した酸化膜を、引き続き図51の基板処理装置320において、前記シャワーヘッド321BにNOガスを供給することにより酸窒化した場合の、エリプソメトリにより求めた膜厚分布を示す。また以下の表5は、図62(A)の基板において中心部および周辺部の実際の膜厚を、先に説明したXPS法において検出角を90°に設定し分解能を下げた測定でSiO+とSi4+に相当するピークの比から簡便に求めた結果を示す。ただし酸窒化処理は、NOガスを前記シャワーヘッド321Bに200SCCMの流量で供給し、前記処理容器321の内圧を3.99Pa(0.03Torr)に維持しながら、紫外光源24Bを前記基準強度で3分間駆動することにより、行っている。基板温度は450℃に設定している。
図62(A)および表5を参照するに、酸窒化処理後における膜厚は、基板中心部および周辺部のいずれにおいても0.43〜0.49nmであり、当初の膜厚である約0.4nmからほとんど変化していないことがわかる。また、このようにして処理された酸化膜について、XPS分析により窒素の検出を試みたが、窒素原子からのシグナルは検出されなかった。これは、上記の酸窒化処理では、前記酸化膜の窒化は全く進行していないことを意味している。
図62(B)は、同様な条件でシリコン基板表面に酸化膜を0.7nmの厚さに形成した場合の、エリプソメトリで求めた酸窒化処理後の膜厚分布を、また以下の表6は、XPS法で検出角を90°に設定して求めた実際の膜厚を、基板中心部および周辺部について示す。
図62(B)および表6を参照するに、この場合にも酸窒化処理後における膜厚は、基板中心部および周辺部のいずれにおいても0.69〜0.68nmであり、当初の膜厚である約0.7nmからほとんど変化していないことがわかる。このようにして処理された酸化膜について、XPS分析により窒素の検出を試みたが、窒素原子からのシグナルは検出されなかった。
表6の結果および先の表5の結果から、シリコン基板表面に既に形成されている酸化膜のUVラジカルNO処理による酸窒化処理では、酸化膜の膜厚がいかに小さくても、膜中に窒素を導入することはできないことがわかる。
これに対し、図63(A)は、図51の基板処理装置320において、自然酸化膜を除去したシリコン基板を直接にUVラジカルNO処理した場合にシリコン基板表面に形成された膜について、エリプソメトリにより求めた膜厚分布を、また表3は、このようにして得られた膜の、基板中心部および周辺部における膜厚を、XPS法により検出角を90°に設定して求めた結果を示す。ただし図63(A)の実験では、図51の基板処理装置320においてシャワーヘッド321BにNOガスを200SCCMの流量で供給し、処理容器321の内圧を先の場合と同様に3.99Pa(0.03Torr)に維持しながら、紫外光源324Bを前記基準強度で3分間駆動することにより、行っている。基板温度は450℃に設定している。
図63(A)を参照するに、シリコン基板表面にはほぼ一様な膜厚の膜が形成されており、表7より、その膜厚は、基板中心部においても周辺部においても、約0.5nm程度であることがわかる。
また図63(B)は、前記酸窒化処理を、NOガスの流量を1SLMに設定し、665Pa(5Torr)の圧力下、紫外光源24Bを前記基準強度で1分間駆動して行った場合の、エリプソメトリによる膜厚分布を示す。さらに以下の表8は、このようにして得られた膜について、基板中心部および周辺部において、検出角を90°に設定して行なったXPS法による膜厚測定の結果を示す。
図63(B)を参照するに、この場合にも基板表面における形成された膜の膜厚分布はほぼ一様であることがわかり、表8より、その膜厚は、基板中心部においても周辺部においても、約0.5nmであることがわかる。
以下の表9は、図63(A)の実験により得られた膜について、XPS法により元素分析を行なった結果を示す。
表9を参照するに、このようにして形成された膜では、O
1s軌道に対応するシグナル、N
1s軌道に対応するシグナル、およびSi
2p軌道に対応するシグナルが観測され、検出角を90°に設定した測定では、基板中心部において酸素原子濃度が67.23%、窒素原子濃度が11.18%、シリコン原子濃度が21.59%であることが確認された。また基板周辺部においても、酸素原子濃度が66.88%、窒素原子濃度が9.13%,シリコン原子濃度が24.23%であるのが確認された。すなわち、このようにして形成された膜は、窒素を含んだ酸窒化膜であることが確認された。
同様に、以下の表10は、図63(B)の実験により得られた膜について、XPS法により元素分析を行なった結果を示す。
表10を参照するに、このようにして形成された膜においても、O
1s軌道に対応するシグナル、N
1s起動に対応するシグナル、およびSi
2p軌道に対応するシグナルが観測され、検出角を90°に設定した測定では、基板中心部において酸素原子濃度が67.3%、窒素原子濃度が11.66%、シリコン原子濃度が21.24%であることが確認された。また基板周辺部においても、酸素原子濃度が67.2%、窒素原子濃度が11.44%,シリコン原子濃度が21.37%であり、膜中の組成が先の表5の場合よりも均一になっているのが確認された。すなわち、この場合にも組成が一様な酸窒化膜がシリコン基板表面に形成されている。
ところで前記表10においてXPSスペクトルの検出角を30°に設定して行なった測定では、基板中心部および周辺部とも、窒素濃度が90°の検出角で測定した場合よりもやや減少しているのが見られる。検出角を浅く設定した測定では、酸窒化膜の下部において放出された光電子によるシグナルは膜中を斜めに通過する際に減衰を受けるので、主に膜上部の組成が検出されると考えられる。従って、この表10の結果は、このようにして形成された酸窒化膜中において、窒素原子は、シリコン基板との界面近傍において比較的濃集していることを示している。同様な傾向は、表9の基板中心部での分析結果においても見られている。
次に、このようなシリコン基板表面のUV−NO処理による酸窒化膜形成のカイネティックスについて説明する。
図64(A),(B)は、図3の基板処理装置320において、前記シャワーヘッド321BにNOガスを200SCCMの流量で供給し、処理圧力を3.99Pa(20mTorr)に維持しながら450℃において前記紫外光源324Bを前記基準パワーで駆動し、駆動時間を様々に変化させた場合における、酸窒化膜の膜厚および膜中の窒素濃度をそれぞれ示す。
図64(A)を参照するに、前記酸窒化膜の膜厚は時間とともに増大するが、約0.5nmの膜厚に達した時点で、先に図5および8で説明したのと同様な膜成長の停留現象が生じていることがわかる。また図64(A)中には、このような窒化処理の際に前記紫外光源324Bを駆動しなかった場合をも記号○示している。この場合には、図64(A)からわかるように、酸窒化膜の成長は全く生じていない。
一方、図64(B)からは、酸窒化処理を開始した直後においてはXPS分析の検出角を30°に設定した場合の窒素濃度が、検出角を90°に設定した場合よりも小さく現れ、窒素原子は酸窒化膜とシリコン基板との界面近傍に濃集していることがわかる。また図64(B)からは、酸窒化処理を継続することにより、この膜厚方向における窒素分布の不均一は徐々に解消することがわかる。
図64(B)の結果は、窒化処理開始直後には窒素濃度の高い酸窒化膜が形成されるが、時間とともに膜中の窒素濃度が減少しており、膜成長機構が時間と共に、徐々に酸化反応主体に移行していることがわかる。処理開始から約200秒後には、窒素濃度の膜厚方向への不均一は解消している。
図65(A),(B)は、それぞれ図64(A),(B)に対応する図であり、前記酸窒化処理を、前記紫外光源324Bの駆動パワーを前記基準パワーの20%に設定して行なった場合を示すが、先の図64(A),(B)と同様な結果が得られている。すなわち、膜成長の停留現象が、酸窒化膜の膜厚が約0.5nmに達した時点で生じており、また膜成長の初期には高い窒素濃度の酸窒化膜が形成され、窒素原子が酸窒化膜とシリコン基板との界面近傍に濃集していることがわかる。
これに対し図66(A),(B)は、シリコン基板表面の同様な酸窒化処理を、基板温度を550℃に設定して実行した場合の膜厚と処理時間の関係、および膜中における窒素濃度の分布と処理時間の関係とをそれぞれ示す。
まず図66(B)を参照するに、XPS分析の際の検出角を90°に設定した場合でも30°に設定した場合でも、膜中に取り込まれている窒素原子の濃度は図64(B)あるいは図65(B)の場合よりも実質的に少なく、従って形成されている酸窒化膜は、より酸化膜に近い組成を有していることがわかる。これは、おそらく酸窒化処理の際の基板温度を550℃に設定したため、処理容器321中に残存する酸素による酸化作用が促進されたことに起因するものと考えられる。
また図66(A)では形成された酸窒化膜が酸化膜により近い組成を有しているため、膜成長の停留が、図5および図8で説明した酸化膜の膜成長停留現象が生じる0.4nmにより近い、0.46nm前後の膜厚において生じているものと考えられる。
なお、本実施例では酸窒化膜の膜厚を、先に説明した式(1)およびこれに付随するパラメータを使って求めているが、これは酸化膜について導かれた式であり、酸窒化膜の場合、光電子の脱出深さの効果により、膜厚値が多少大きく算出されている可能性がある。いずれにせよ、本発明で形成される酸窒化膜は、2原子層程度に制御された膜厚を有するものと考えられる。
図51の基板処理装置320をシリコン基板の酸窒化処理に適用する場合には、紫外光源324Bとしては、先に図34で行ったのと同様な考察から、192〜145nmの波長範囲の紫外光を形成できる光源を使うのが好ましい。
図51の基板処理装置320を枚葉式の半導体製造プロセスに適用することを考えると、このような光源324Bは随時点灯および消灯が可能なものであるのが好ましい。現在、このような随時点灯および消灯が可能で、しかも鋭いスペクトルを有する紫外光源として、波長が308nm、222nm、172nm、146nm、および126nmのエキシマランプが、商業的に入手可能である。このうち、上記の条件を満たすランプは波長が172nmのものと146nmのものに限られる。このうち、波長が146nmのエキシマランプは13nm程度の半値幅を有し、このためスペクトルの一部が145nm以下となり、ランプの状態や個体差如何によっては、酸素ラジカルの励起が生じないとも限らない。このようなことから、図51の基板処理装置320にて紫外光源324Bとして市販のエキシマランプを使う場合には、172nmの波長のものを使うのが好ましい。
図67は、このような172nmの紫外光を発生するエキシマランプ(誘電体バリア放電管)341の概略的構成を示す(特開平7−196303号公報あるいは特開平8−85861号公報を参照)。
図67を参照するにエキシマランプ341は、内側石英管342と外側石英管343とを含む二重円筒形容器を有し、前記内側石英管342と外側石英管343との間の空間347には、Xeガスが33.25kPa(250Torr)の圧力で封入されている。さらに前記内側石英管342の内側面にはアルミニウム薄膜電極345が形成されており、さらに前記外側石英管345の外側にはメッシュ状の電極344が形成されている。また前記空間347の軸方向端部にはゲッタ室348が形成されており、前記ゲッタ室348にはゲッタ346が設けられている。前記エキシマランプ341は、前記電極344と電極345との間に電源350により交流電圧を印加することにより、自在に点灯・消灯を制御することができる。
このようなエキシマランプとしては、例えばウシオ電機より市販されている形式UER20−172のもの、あるいはホヤ・ショットより市販されている形式HES1703Sのものを使うことができる。
勿論、前記紫外光源は上記のエキシマランプに限定されるものではなく、他に低圧水銀ランプや、場合によってはエキシマレーザを使うことも可能である。
[第10実施例]
次に、本発明の第10実施例となるUV−NO処理による酸窒化膜のウェハ面内均一成膜処理について説明する。
先の表7を再び参照するに、処理圧3.99pa(0.03torr)、UV光パワー100%の条件下で成膜された酸窒化膜では、膜厚はウェハ中心と周辺でほぼ同じ値を示すものの、表9に示した窒素濃度には2at%程度の差が存在し、窒素濃度分布が不均一であることを示している。表9の結果は、UV−NO処理による酸窒化膜形成においては膜厚と窒素濃度の均一性を両立させる事が重要な課題であることを示している。
図68(A)は、上に述べた条件と同一条件で、ただし酸窒化時間を1分30秒に設定して形成した酸窒化膜について、エリプソメータによる測定で得た膜厚分布を示す。一方図68(B)は、酸窒化膜を全く同じ条件で、ただし紫外線ランプを往復運動させながら形成した場合の膜厚分布を示す。図68(A),(B)では、ウェハ面内の測定点数が17点に増やされている。なお、図68(B)の実験における紫外線ランプの往復運動は、紫外線ランプを一方のウェハ端から200mm離れた他方のウェハ端まで、60mm/秒の速度で移動させ、折り返し点で0.1秒間停止させ、さらにウェハ中央でも1秒間停止させるシーケンスで行っている。
図68(A)と図68(B)を比較するに、図68(B)の実験では前述の紫外線ランプの往復運動シーケンスを採用することにより、図68(A)の実験よりも膜厚分布がより均一になっていることが認められる。
正確を期するため、図68(A)および68(B)の試料についてXPS法により膜厚を測定した結果を、それぞれ表11および表12に示す。ただし表11および表12において周辺部の測定は2点で行っている。また窒素濃度についても図68(A)の試料に対応する測定結果を表13に、また図68(B)の試料に対応する測定結果を表14に示している。
これらの結果を比較すると、紫外線ランプを往復運動させることにより、ウェハ中心部と周辺部とで均一な膜厚での成膜が可能になり、また窒素濃度についても均一な分布が実現できていることがわかる。以上の結果は、紫外線ランプを往復運動させることにより、ウェハ面内での紫外線照射量が均一化されることを示している。
[第11実施例]
図69(A)は、本発明の第9〜10実施例で使われるNOガスの導入シーケンスを、温度プロファイルTと共に示す。
図69(A)を参照するに、被処理基板322の処理容器321への搬入と同時に基板322の昇温が開始されるが、このシーケンスでは、昇温の初期段階においては処理容器321中に窒素ガスが導入されており、所定の保持温度に達した段階でNOガスに切替えられる。さらに前記処理容器321中において前記NOガスの濃度が所定値に達した状態で紫外光源324Bが所定時間駆動され、先に説明したUV−NO処理が行われる。
その後、前記紫外光源324Bはオフされ、さらにNOガスの供給が遮断され、基板温度Tが室温まで降下した段階で基板322が前記処理容器321から搬出される。
これに対し図69(B)は、図69(A)のシーケンスに代わって図51の基板処理装置320において使われる、本発明の第11実施例によるNOガス導入シーケンスを示す。
図69(B)を参照するに、本実施例においても被処理基板322の処理容器321への搬入と同時に基板322の昇温が開始されるが、本実施例においては前記基板322の搬入と同時にNOガスの導入が開始され、基板温度Tが所定値に達した時点で前記紫外光源324Bが所定時間駆動され、所望のUV−NO処理が行われる。
その後、前記紫外光源324Bはオフされ、さらにNOガスの供給が遮断され、基板温度Tが室温まで降下した段階で基板322が前記処理容器321から搬出される。
図70(A)および(B)は、図69(A)および(B)のNOガス導入シーケンスを使った場合の、それぞれ処理温度と酸窒化膜厚および処理温度と酸窒化膜中の窒素濃度の関係を示す。ただし図70(A),(B)中、●は図69(A)のNO導入シーケンスを使った場合を、○は図69(B)のNO導入シーケンスを使った場合を示す。
図70(A)を参照するに、基板処理温度が500℃以下の場合には図69(B)のNO導入シーケンスを使っても、また図69(B)のNO導入シーケンスを使っても、形成される酸窒化膜の膜厚に実質的な差は生じないが、基板処理温度が500℃を超えると、図69(B)のシーケンスを使った場合に得られる酸窒化膜の膜厚が増大することがわかる。
この結果を図70(B)の膜中窒素濃度の値と比較すると、基板処理温度が500℃を超えた場合、図69(B)のNO導入シーケンスを使うことで膜中の窒素原子濃度が大幅に増大しており、図70(A)に見られる酸窒化膜の膜厚増大は、主に酸窒化膜中に導入された窒素原子により生じるものであることがわかる。
このように、処理に先立って処理容器中にNOガスを導入することで、UV−NO処理により多量の窒素原子を酸窒化膜中に導入することが可能になる。
なお、図69(A),(B)のNOガス導入シーケンスは、図3の基板処理装置20においても使うことができ、同様な効果が得られる。
[第12実施例]
図71(A)〜図72(E)は、本発明の第12実施例による半導体装置の製造工程を示す。
図71(A)を参照するに、不純物元素をイオン注入して形成された拡散領域331aおよび331bを有するシリコン基板331の表面331cが、絶縁膜335および336に形成された開口部337において露出される。
前記露出表面331cは自然酸化膜を除去され、さらに図51の基板処理装置320中において、先に説明した条件下において、波長が172nmの紫外光によりUV−NO処理を施される。その結果図71(B)に示すように前記シリコン基板331の表面には、先に説明した成膜停留現象により、膜厚が約0.5nmのSiON膜332が一様に形成される。
次に図71(C)の工程において前記SiON膜332上にはCVD法により、ZrSiOxやHfSiOx,あるいはZrO2やHfO2,Ta2O5、Al2O3などの高誘電体膜333が堆積される。
さらに図72(D)の工程においてこのようにして形成された高誘電体膜333上に金属電極層334を堆積し、これを図72(E)の工程においてエッチバックすることにより金属ゲート電極334Gを形成する。
本実施例において、図71(A)のUV−NO酸窒化工程は、550℃を超えない温度で行なうのが好ましく、その際の処理圧力は1.33〜1.33×103Paの範囲に設定するのが好ましい。
[第13実施例]
ところで、エリプソメトリによりウェハ表面に形成された非常に薄い膜の膜厚を測定する場合には、測定中にウェハ表面に吸着する有機分子などにより、見かけ上大きな膜厚値が得られてしまうことがある。特に多点測定においては、測定が終了するまでにこのような事情で測定値が変化しやすく、正確な均一性を出す事が困難である。
このような事情に鑑み、本発明の発明者は膜厚の均一性について正確を期するため膜厚測定方法の改善を行った。
より具体的に説明すると、本発明者による改善では、成膜装置の基板搬入口から、エリプソメータのウェハ載置部までの経路の全体を、有機分子を取り除くケミカルフィルターのダウン・フロー下に配置した。このような構成を使うと、測定に使われる雰囲気下にウェハを3時間放置しても、膜厚の見かけの増加は0.02nm(0.2Å)程度に抑える事が可能である。
このようなエリプソメータを使った場合、ウェハ面上の49点において膜厚測定を行うのに要する測定時間は約10分であり、この間の見かけの膜厚増加は0.001nm(0.01Å)程度と見積もられている。また測定装置の能力は、定点での繰り返し測定の際の再現性で見ると、分散値σにして0.006nm(0.06Å)であることが確認されている。
図76は、このような測定環境下において、上記の成膜条件で径が200mmのウェハ上に、先に説明したUV−NO処理により成膜した、膜厚が0.5nmの酸窒化膜の膜厚を49点測定した結果を示す。
図76を参照するに、面内膜厚の分散値σは0.65%、すなわち膜厚に換算すれば0.0065nm(0.065Å)程度であり、膜厚のばらつきは、測定限界に匹敵する程度まで減少していることがわかる。これは、径が200mmウェハの面内で実質的に全く一様な酸窒化膜が得られていることを示している。
また、先に述べたUV−O2処理による酸化膜で同様な測定を行うと、膜厚が0.4nmの酸化膜の場合で膜厚の分散値σが0.7%程度の、非常に優れた均一性が得られていることが確認されている。
以上、本発明を好ましい実施例について説明したが、本発明は上記の特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。