JP4078062B2 - 沸騰水型原子炉用燃料集合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は沸騰水型原子炉に用いる燃料集合体に関し、特に、部分長燃料棒と太径水ロッドを配した10×10格子配列の燃料集合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
沸騰水型原子炉における燃料集合体の設計分野においては、より経済性の高い燃料集合体の開発が進められている。一般に、燃料経済性を高めるには1サイクル運転当たりの新燃料集合体の取替体数を減らすことが最も直接的な方法である。これには、炉心により多くの核分裂性物質を装荷できればよく、代表的には以下の方法がある。
1)高燃焼度化:燃料集合体の平均濃縮度を上げ反応度を高める。結果として平均取出燃焼度が増大する。
2)高インベントリ化:燃料集合体1体当たりのウラン装荷量を増やす。
【0003】
現在、製造工程における臨界安全上の観点から取り扱うことのできるウラン濃縮度は5wt%以下である。燃料集合体の平均濃縮度を高める技術は既に充分に検討されており、燃料集合体の平均濃縮度は約4.5wt%程度のものも提案されている。これは、平均取出燃焼度として約55GWd/t(13ヶ月運転を想定した場合)を超える性能にも匹敵するが、これ以上の高濃縮度化によって高燃焼度化を図ることは、取り扱いウラン濃縮度が5wt%以下である限りかなり困難である。そこで、もう一つの案として、2)の高インベントリ化による経済性向上が期待される。
【0004】
日本国内の沸騰水型原子炉においては、現在、9×9燃料集合体が主流であり、今後、格子数を増やした10×10燃料集合体の開発が進められている。10×10燃料集合体は9×9燃料よりも燃料集合体当たりの燃料棒本数が20%程度増えるため、単位長さ当たりの発熱量が減る分平均線出力密度が低減し、結果として最大線出力密度の低減が期待できる。また、燃料棒表面積を多くすることも可能であり、沸騰遷移に至る限界出力の低減も可能である。さらに、燃料棒本数の増加は核設計の自由度を高める利点もある。
【0005】
現在のところ両燃料集合体の寸法諸元は次の表1の通りとなっている。9×9燃料集合体は日本国内の商業用沸騰水型原子炉に実際に装荷されているものの代表値、10×10燃料集合体は開発段階の従来例である。また、この10×10燃料集合体の概念図を図14に示す。
【0006】
【表1】
【0007】
一般には、燃料棒本数が増えると、流路面積が小さくなり摩擦圧損は増大する方向となる。圧損の高い燃料集合体が炉心に装荷された場合には、冷却材を供給する再循環ポンプヘの負担が高まり、最悪の場合には定格炉心流量が確保できないこともある。また、取替燃料集合体は、炉内で先行燃料集合体と共存が強いられる。この場合、圧損の高い燃料集合体には、冷却水が配分されにくくなり、除熱が不足したり、或いは、チャンネル安定性の悪化といった不具合を招く。このため、両者の炉心圧損は同等となるように設計することが要求される(±1%程度の範囲内)。
【0008】
10×10燃料集合体では、部分長燃料棒の採用、燃料棒の細径化、太径水ロッド面積の縮小といった方法により9×9燃料集合体と圧損を同等としている。何れの方法も摩擦抵抗の緩和に寄与している。
【0009】
また、平均濃縮度を同じとした場合、10×10燃料集合体は9×9燃料集合体に比べて、負のボイド係数の絶対値は若干大きくなる。これは水対燃料体積比が小さいこと(ウラン量が増えた割に非沸騰領域が小さい)が主な理由である。
【0010】
10×10燃料集合体の安定性への影響は、まず、チャンネル安定性については、部分長燃料棒の採用により気液二相部での摩擦圧損が低下し、相対的に単相部の圧損割合が増えるため大幅に安定化する方向に作用する。一方、燃料棒の細径化に伴い熱応答が早まり、また、ボイド係数の絶対値の増大により反応度フィードバックが促進される結果、炉心安定性は悪化する方向となる。なお、領域安定性については、チャンネル安定性と炉心安定性のもつ方向性によって相殺されるため大きな影響はない。以上のように、従来例の10×10燃料集合体については、ボイド係数(絶対値)は許容できる範囲にあるが、これ以上大きくすることは、安全上好ましくない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、10×10燃料集合体を用いて経済性向上を達成するためには、前述のとおり高燃焼度化よりも高インベントリ化に主眼を置いた方がよい。このための最も有効な手段は、燃料棒直径を増加する方法である。ウラン重量を3%増加させることができれば、燃料集合体取替体数は3%低減し、燃料集合体の成型加工費の経済効果もおよそ3%程度となるため、高インベントリ化は極めて有効な手段となる。
【0012】
しかし、経済性の観点から燃料棒直径を増大しウラン重量の増加を図る方法は、熱水力的あるいは核的な影響を十分に検討しておく必要がある。特に、ボイド係数への影響には特別な配慮が必要である。
【0013】
本発明は、熱水力的あるいは核的な特性を悪化させることなく安全性を確保しつつ、ウラン重量の増加を実現することで経済性を高めることのできる沸騰水型原子炉用燃料集合体を得ることを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、 核燃料物質として二酸化ウランペレットを被覆管内に充填した燃料棒群が10行10列の正方格子配列に規則正しく配置され、
前記正方格子配列内には前記燃料棒複数本相当の領域を占める太径水ロッドが配置されている沸騰水型原子炉用燃料集合体であって、
前記燃料棒は、
前記燃料集合体の燃料有効長と等しい燃料有効長を持つ標準燃料棒と、
標準燃料棒を24ノード分割したとき14乃至16ノード分の部分長燃料棒とに分けられ、
部分長燃料棒の本数(N)を12〜14本、燃料棒直径(D)を10.23mm以上、10.33mm以下、最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数(Nc)を1本以上とし、
前記燃料集合体ウラン重量(W)が 174 kgよりも大きく、
太径水ロッドは燃料棒9本分相当の領域を占めるとき、
次の数2に示す(1) 式及び(2) 式を同時に満たすことを特徴とするものである。
【0015】
【数2】
{3.93Nc+1.85Ns+1.26Nw+0.64(N−Nc−Ns−Nw)}×(1−α)−3.81+35.0(12.95−P)−0.7(W−174)−15.7(e−4.5)≧0.0 …(1) 式
(D−10.1)×5.7+(12.95−P)×14.0≦3.0 …(2) 式
ここで、
N :部分長燃料棒の本数、
Nc:最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数、
Ns:コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数、
Nw:太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数、
α :標準燃料棒の燃料有効長に対する部分長燃料棒の燃料有効長の上端相対位置、
D :燃料棒直径(mm)、
P :燃料棒ピッチ(mm)、
W :燃料集合体ウラン重量(kg)、
e :集合体平均ウラン濃縮度(wt%)
【0016】
請求項2に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、請求項1に記載の部分長燃料棒の本数(N)が12本、燃料棒直径(D)が10.23mm以上10.28mm以下であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項3に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、請求項2に記載の(2) 式の右辺が2.0であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、請求項1に記載の部分長燃料棒の本数(N)が14本、燃料棒直径(D)が10.26mm以上10.33mm以下であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、請求項1〜4の何れか1項に記載の燃料集合体ウラン重量(W)が、 179kg以上、尚且つ、集合体平均ウラン濃縮度が 4.5wt%以上であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項6に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、請求項1に記載の部分長燃料棒の本数(N)が12本、最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数(Nc)が2本、コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数(Ns)が4本、太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数(Nw)が4本、燃料棒直径(D)が10.23mm以上10.28mm以下、燃料棒ピッチ(P)が12.80mm以上12.95mm以下であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項7に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、請求項1に記載の部分長燃料棒の本数(N)が14本、最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数(Nc)が2本、コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数(Ns)が8本、太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数(Nw)が4本、燃料棒直径(D)が10.26mm以上10.33mm以下、燃料棒ピッチ(P)が12.85mm以上12.95mm以下であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項8に記載された発明に係る沸騰水型原子炉用燃料集合体は、全ての部分長燃料棒同士の中心間距離が、燃料棒ピッチの2倍以上であることを特徴とするものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下では、先の表1及び図14に示す10×10燃料集合体を代表的な従来例(以下、単に従来例という)として捉え、これを基準に本発明の説明をする。まず、従来例から燃料棒直径を増加させ燃料集合体のウラン重量を3%以上、この場合、約5kg以上つまりウラン重量を179kg以上に高めることを目標とする。これに伴う悪影響は、本発明により全て回避されるか解決される。本発明では、ウラン重量以外の設計パラメータとしては以下を考える。
(1) 燃料棒直径(但し、全燃料棒同一)
(2) 部分長燃料棒の本数
(3) 部分長燃料棒の配置
(4) 燃料棒ピッチ(但し、全ての燃料棒間で等ピッチ)
【0026】
設計パラメータとしては、この他にも、部分長燃料棒の長さ、太径水ロッドの面積、燃料棒内の諸元(燃料被覆管(以下、被覆管という。)の厚さ、ペレット−被覆管間隙)、その他の熱水力特性に影響を与える部材などが考えられるが、ここでは、以下の合理的理由により設計パラメータから除いている。
【0027】
(1) その他の設計パラメータ
(a)部分長燃料棒の長さ:
部分長燃料棒の燃料有効長が長すぎると停止余裕の悪化、短すぎると下部出力ピーキングの増大が懸念される。本発明では、従来例に従い部分長燃料棒の燃料有効長上端位置は、標準燃料棒燃料有効長に対する相対量(α)は約2/3とする。この際、24ノード分割したとき14乃至16ノード分、すなわち0.58≦α≦0.67が好適である。
【0028】
(b)太径水ロッドの面積:
太径水ロッドの面積を大きくするとボイド係数は緩和されるが、燃料集合体の圧損を高めるため燃料棒直径の増大を阻害し、ウラン重量の増加が困難となる。従って、太径水ロッドの面積を必要以上に大きくすることは得策ではない。
【0029】
一方、太径水ロッドの面積を小さくした場合、燃料集合体の圧損は小さくなり、この分燃料棒径の増加が期待できる。しかし、ボイド係数絶対値の増加という不具合をもたらす。例えば、太径水ロッドの面積を約5%減少させた場合(これは角管状の太径水ロッドの外幅35mmから33mmとした場合に相当する)、燃料集合体の圧損は約3%低減する。一方、ボイド係数の絶対値は約3%増大してしまう。なお、局所ピーキング係数の増大は0.2%と僅かな上昇に留まるため、燃料集合体内半径方向での燃料相対出力が不均一になる懸念は生じない。
【0030】
本発明構成では、太径水ロッドの面積の設計変更によらないボイド係数の緩和のための具体的な対策を提案している。本発明の燃料集合体は、後述するように、ウラン重量を従来よりも増大した場合であっても、ボイド係数の絶対値をさらに低減することができる。このため、本発明構成によってボイド係数が緩和した分は、太径水ロッドの面積を縮小することが可能である。つまり、ボイド係数の増大を回避しつつ太径水ロッドの面積を縮小し、燃料集合体の圧損を低減できる。太径水ロッドの面積に関する設計変更は、本発明構成を講じた後、必要があれば別途実施すれば良い。以上の理由から、本発明においては、太径水ロッドの面積は設計パラメータより除いている。
【0031】
(c)燃料棒被覆管厚さ、ペレット−被覆管間隙及びペレット密度:
これらのパラメータは、燃料棒の熱機械設計における安全余裕に伴い決定すれば良く、燃料棒直径が定まった後検討できる。何れにしても燃料棒直径の増加はウラン重量の増加に直接対応できるため、もっとも代表的なパラメータとなる。なお、本発明検討では、ウラン重量増加に伴うボイド係数の増大は、まさに、ウラン重量そのものをパラメータとして捉えており、例えばペレット密度を上げてウラン重量を高めた場合であっても、その影響は本発明の中に内包される。
【0032】
(d)その他の熱水力特性に影響を与える部材:
熱水力特性に影響を与える部材としては、代表的には、スペーサや上下部タイプレートが挙げられる。現在までの知見に従えば、炉心圧損にして3%程度の増減であれば、これらの部材の設計変更により吸収できる。例えば、ジルカロイ製の変わりにインコネル製のスペーサを使えば、板材を薄くしても強度が確保でき、この場合、スペーサによる局所圧損を低減できる。これらの知見を勘案し、ここでは3%までの炉心圧損増加を許容上限とする。
【0033】
本発明者は、前述の4つの設計パラメータ(燃料棒直径、部分長燃料棒の本数、部分長燃料棒の配置、燃料棒ピッチ)をパラメータとして設計変更をした場合、熱水力的あるいは核的な影響を検討し、有効にウラン重量を高めることのできる包括的な最適条件とこれを満たす燃料集合体の具体的な形状を見出した。以下、その詳細を順を追って説明する。
【0034】
(2) 熱水力的観点からの最適範囲の決定
(a)圧損への影響
図1は10×10燃料集合体について燃料棒直径の変更に伴う炉心圧損の変化割合を部分長燃料棒本数のパラメータごとに示した線図である。ここでは、従来例の圧損を基準としている。圧損増大の許容上限を先に説明した3%とすると、部分長燃料棒を12本のままとしたとき、燃料棒直径は10.28mm(図中*1)以上にはできない。部分長燃料棒を14本とすれば、燃料棒直径は10.33mm(図中*2)まで高められる。
【0035】
また、部分長燃料棒を16本とすれば、燃料棒直径はさらに大きくできるが、後述するように、燃料棒表面積が大きく減少するため、ここでは想定から除いた。つまり、本発明における部分長燃料棒の最適範囲は12乃至14本である。
【0036】
(b)沸騰遷移に至る限界出力への影響
燃料棒の沸騰遷移は燃料集合体の上部側で起こりやすい。上部領域の燃料棒の総表面積は大きい方が、単位面積あたりの伝熱量が減り、沸騰遷移に至る限界出力は大きくなる。図2は10×10燃料集合体について燃料棒直径の変更に伴う上部燃料棒の表面積の変化割合を部分長燃料棒本数のパラメータごとに示した線図である。ここでは、従来例の面積を基準としている。部分長燃料棒が12本の場合、燃料棒直径を大きくしても、当然ながら燃料棒表面は従来例を下まわることはない。つまり、限界出力の悪化の心配がない。一方、部分長燃料棒が14本の場合、燃料棒直径はある程度大きくしないと従来例の表面積を確保できない。ここでは、限界出力への影響を考慮し、表面積の縮小が1%以下となる、燃料棒直径10.26mm(図中*3)を、部分長燃料棒が14本の場合の下限とした。
【0037】
(c)ウラン重量の増加
図3は10×10燃料集合体について燃料棒直径の変更に伴うウラン重量の増加を部分長燃料棒本数のパラメータごとに示した線図である。ここでは、従来例のウラン重量(約174kg)を基準としている。評価の際、燃料棒直径の増加分は全て燃料ペレットの増加に割り当てた。従来例からのウラン重量の増加目標は3%(約5kg)以上である。この条件を満たす燃料棒直径の下限は、部分長燃料棒12本の場合10.23mm(図中*4)、また、14本の場合、10.26mm(図中*5)である。
【0038】
(d)燃料棒直径の最適範囲
以上、圧損と沸騰遷移及び経済性の観点より燃料棒直径の最適範囲を定めることができる。参考としてこの範囲を図3に示した。ウラン重量は5〜8kgまでの増加が可能である。
部分長燃料棒本数 燃料棒直径Dの範囲
12本の場合 10.23≦D≦10.28mm
14本の場合 10.26≦D≦10.33mm
以上までが、主に熱水力的観点からの最適範囲の決定である。
【0039】
(3) 核的要素からの最適範囲の決定
以下、核的な要素を踏まえての最適性について示す。燃料棒直径を大きくしウラン重量を増加させたとき、水対燃料体積比が小さくなる結果、中性子スペクトルは硬化し、特に対策を講じない場合には、ボイド係数の絶対値は増大する(より負となる)。図4はウラン重量の増分とボイド係数の変化の関係を示す線図である。ウラン重量5乃至8kgの増加でボイド係数はおよそ3乃至6%増大する。本図より、従来例のウラン重量を基準としたとき、ウラン重量の増加に伴うボイド係数への影響は、次式で与えられる。
(ボイド係数絶対値の低減量 %)=−0.7×(W−174)
W :燃料集合体ウラン重量(kg)、
【0040】
尚、ウラン重量を増加させる方法には、燃料棒直径と共に燃料ペレットを大きくする以外に、燃料ペレットのみを大きくしたり、燃料ペレットの焼結密度を高める方法などが考えられる。いずれの場合もボイド係数の変化はウラン重量の増加に伴う影響と捉えることができ、上式は概ね適用できる。
【0041】
本発明では、ウラン重量増加に伴うボイド係数の増大を回避するか、それ以上の改善を達成できる。その詳細を以下に示す。
【0042】
(a)ボイド係数の緩和の方策
比較的簡単な形状変更によりボイド係数を緩和させる従来技術として、部分長燃料棒の利用と狭い燃料棒ピッチの利用がある。まず、部分長燃料棒を利用した場合、燃料有効部がなくなった上部領域において水対燃料比を大きくする効果があり、中性子スペクトルが軟らかくなるため、ボイド係数の絶対値を低減する効果がある。効果の程度は、部分長燃料棒の配置により異なり、通常(最外周コーナ部)>(最外周中間部付近)>(水ロッド隣接位置)>(その他の位置)の順である。
【0043】
従来例での部分長燃料棒によるボイド係数絶対値の低減量は、その配置(水ロッド隣接が4本、その他8本)と部分長燃料棒の有効長を考慮して、
(1.26×4+0.64×8)×(1−15/24)=3.81%
と見積もられる。
【0044】
よって、従来例の部分長燃料棒位置を基準としたとき、配置の変更に伴うボイド係数への影響は、次式で与えられる。
(ボイド係数絶対値の低減量%)
={3.93Nc+1.85Ns+1.26Nw+0.64(N−Nc−Ns−Nw)}×(1−α)−3.81
N :部分長燃料棒の本数、
Nc:最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数、
Ns:コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数、
Nw:太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数、
α :標準燃料棒の燃料有効長に対する部分長燃料棒の燃料有効長の上端相対位置、即ち、下端が同端である部分長燃料棒の上端位置の標準燃料棒の燃料有効長に対する比率、
【0045】
この様子を図5に示す。この図5は部分長燃料棒の配置と本数の変更に伴うボイド係数への影響を示す線図である。尚、部分長燃料棒の燃料有効長が標準燃料棒の約2/3であることを考慮し、燃料全長当たりに換算した実効値として示している。本図は標準燃料棒の燃料有効長に対する部分長燃料棒の燃料有効長の上端相対位置(α)が 0.625の場合の結果である。最外周コーナ部は、他の位置に比べ特に改善効果が大きいことに留意したい。
【0046】
次に、燃料棒ピッチについては、縮め幅に略比例してボイド係数の絶対値は低減する、すなわち、ボイド係数は緩和する。図6は燃料棒ピッチの縮幅に対するボイド係数の低減割合を示す線図である。本図は従来例の燃料棒ピッチ 12.95mmを基準として示している。変動させるパラメータの基準が異なるため直接比較できるものではないが、燃料棒ピッチの変更は燃料有効長全長に亘って作用することもあり、部分長燃料棒の利用の場合よりもボイド係数緩和への寄与が大きい。従来例の燃料棒ピッチを基準としたとき、燃料棒ピッチの変更に伴うボイド係数への影響は、次式で与えられる。
(ボイド係数絶対値の低減量 %)=+35.0×(12.95−P)
P :燃料棒ピッチ(mm)、
【0047】
最後に、燃料集合体の平均濃縮度とボイド係数の関係を考慮した。図7は燃料集合体の平均濃縮度の増加割合に対するボイド係数の低減割合を示す線図である。図に示す通り、平均濃縮度の増加に伴う中性子スペクトルの硬化により、ボイド係数の絶対値は大きくなる。従来例の平均濃縮度を基準としたとき、平均濃縮度の変更に伴うボイド係数への影響は、次式で与えられる。
(ボイド係数絶対値の低減量 %)=−15.7×(e−4.5)
e :集合体平均ウラン濃縮度(wt%)
【0048】
これまでに示したボイド係数の絶対値の変化量の総和を0%以上にとどめることができれば、つまり(1) 式が成立すれば、ボイド係数の絶対値を回避してウラン重量の増加が可能な、好適な燃料集合体の構成を提供できる。
【0049】
また、本発明は、ボイド係数の絶対値を従来例よりも同等かそれ以下とすることができるため、炉心安定性が向上することに加え、以下の改善が期待できる。即ち、最小限界出力比の運転制限値は、プラントの異常な過渡変化を想定した場合の最小限界出力比の低下を考慮して定められる。ボイド係数の絶対値の減少は、負荷の喪失などボイドが潰れる事象において最小限界出力比の低下を緩和させることができる。さらに、燃料棒直径の増加に伴い、燃料ペレット量を増加させた場合には、これもプラント過渡応答を緩和させるため、最小限界出力比の低下は緩和する。これらの作用により、本発明では、最小限界出力比の運転制限値はより小さな値とすることができ、最小限界出力比の運転余裕を拡大できる。
【0050】
(4) ボイド係数以外の核的特性についての検討
さらに、本発明では、以上のような構成要素が持つ得失について、ボイド係数以外の核的特性についても検討し、これらの検討要素をも満足させることのできる好適な条件を提供する。以下に詳細を示す。
【0051】
(a)最大線出力密度への影響
沸騰水型原子炉の場合、燃料集合体の出力が大きくなるとボイドの発生が増える。このため、出力の高い燃料集合体の出力分布は下部ピークの様相を呈する。これに伴い、運転中の最大線出力密度が大きくなるのは軸方向下部側である。また、最大線出力密度は、燃料棒の局所ピーキング係数が増大するとこれに比例して大きくなる。
【0052】
以上のことから、最大線出力密度の上昇を回避するためには、燃料集合体の下部側の断面に対して局所ピーキング係数の増大を最小限に抑える必要がある。特に、スペクトルが軟らかく中性子の減速が活発な最外周に位置する燃料棒は、出力が特に大きくなる傾向があり、この傾向は燃料集合体の平均濃縮度が高いほど顕著である。
【0053】
燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮小は、局所ピーキング係数を変化させる。図8は燃料棒直径の増加及び燃料棒ピッチの縮小に対する局所ピーキング係数の上昇を示す線図である。本図は、燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮幅を変化させたときの、局所ピーキング係数の増大を示したものである。局所ピーキング係数の変化は、変化量が大きい最外周燃料棒に着目した。本発明構成おける燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮小は、下部側断面で局所ピーキング係数を増大させる方向に作用し、つまりは、最大線出力密度を増大させる。燃料棒本数の多い10×10燃料集合体は、線出力密度に余裕があるというものの、従来例においても、高濃縮度化を図った場合、運転制限値からの余裕は高々10%程度である。本発明では、最大線出力密度の上昇は3%以下、望ましくは2%以下に留めるよう燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮小幅に制限を持たせることで、最大線出力密度の運転余裕の低下を最小限とする。
【0054】
図9は従来例を基準として最大線出力密度の上昇を2%若しくは3%以下に留めるための、燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮小幅との関係を示す線図である。本図は、図7及び図8の結果に基づいて作成した。本図より、燃料棒直径と燃料棒ピッチの許容範囲は(2) 式で与えられる。なお、最大線出力密度の上昇を2%以下とする場合、(2) 式の右辺は 2.0となる。
【0055】
本発明構成の場合、ボイド係数の絶対値は従来例よりも小さくすることも可能であるため、軸方向出力分布の下部ピークは緩和する方向となり、ひいては、最大線出力密度の低減につながる。安全側に設定する観点から(2) 式ではこの効果を含めていない。
【0056】
(b)最小限界出力比への影響
最小限界出力比の運転余裕は沸騰遷移に至る限界出力が大きくなれば拡大できる。先の説明では、沸騰遷移が起こる燃料集合体上部側の燃料棒表面積を従来例程度に抑えることで、限界出力の悪化を防止するための条件を提案した。
【0057】
限界出力は、また、燃料棒の相対出力とも強く関係し、一般には、燃料棒の相対出力が大きく、しかも、その周りに出力の高い燃料棒が隣接した場合、この燃料棒の限界出力は小さくなる。先の最大線出力密度に関する検討で、燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮幅を変化させたとき最外周の燃料棒の相対出力が大きくなることを示したが、これは、当然上部断面にもあてはまる。
【0058】
また、部分長燃料棒の配置もまた燃料棒の相対出力に影響を及ぼすため、限界出力への配慮が必要である。つまり、部分長燃料棒の上部は燃料棒がなく、冷却水が多くなるため、スペクトルが軟らかくなり、中性子の減速が促進され、この近傍の燃料棒は出力が高まりやすくなる。この結果、核特性の観点からすれば、一般に、部分長燃料棒の近傍の燃料棒は、相対出力が高まりやすく沸騰遷移に至る限界出力特性の悪化が懸念される。燃料棒相対出力の上昇は、部分長燃料棒を非沸騰領域の近傍に配したとき顕著であり、最外周、特に、コーナ燃料棒を部分長燃料棒とした場合、縦横に隣接する最外周燃料棒の出力はおよそ10%大きくなる。
【0059】
以上のような燃料棒相対出力の上昇は、最大線出力密度の場合とは状況が異なる。つまり、限界出力特性への影響は以下のような燃料棒相対出力以外の要因が複合して現れるため、燃料棒相対出力の上昇が必ずしも限界出力特性の直接的な悪化にはつながらないか、その防止が可能である。
【0060】
(イ) チャンネルボックスや太径水ロッドに隣接した燃料棒は、全ての方向で燃料棒に囲まれることがなく、つまりその一部は非沸騰水に近接している。このため、チャンネルボックスや太径水ロッドに隣接した燃料棒の周りは冷却水が流れやすくなるため冷却効果が高く、同一の燃料棒出力を持つ他の燃料棒と比べた場合、もともと限界出力は大きい。
【0061】
(ロ) 部分長燃料棒に近接する燃料棒は、この近傍の抵抗が少ないことから冷却水が多く流れ、冷却効果は高まること、また、部分長燃料棒の存在は、燃料棒の一部が非発熱体である水に取って代わる。これは、周辺の出力が下がることに対応し、部分長燃料棒に隣接する燃料棒の限界出力は向上する。以上の熱水力的作用により部分長燃料棒に近接する燃料棒は、相対出力の上昇分ほど限界出力が低下することはない。
【0062】
(ハ) また、平均濃縮度の高い燃料集合体では、最外周燃料棒も高濃縮度であるため、特に、最外周に位置する燃料棒の出力が高まりやすい。これに伴う限界出力の悪化に対しては、
−中心部にある太径水ロッドの近傍の燃料棒を部分長燃料棒とすると、燃料断面の中心部では、水ロッドの減速効果に加え、中性子の減速が促進され、外周側の燃料棒の出力を相対的に小さくする、
−燃料棒ピッチを縮めることで、結果的にはチャンネルボックスと最外周燃料棒の間隙が広がり、この領域に冷却水を流れやすくする、
ことができるので限界出力特性の悪化を緩和することができる。
【0063】
(ニ) さらに、限界出力はスペーサ構造にも強く依存する。スペーサ設計により、冷却水の流れを制御し、最外周や水ロッド周りに配された燃料棒に冷却水をより多く供給する技術を用いれば、問題を改善することができる。
【0064】
以上のことから、本発明は沸騰遷移に至る限界出力を低下させることがないか、その低下を最小化することができる。
【0065】
(c)制御棒価値
一般に、燃料集合体の特性として制御棒価値は大きい方が望ましい。出力運転状態では、運転中使用制御棒本数が少なくてすむとともに、緊急停止時でのスクラム価値も高まり、また、低温停止状態では未臨界度が大きくなる。
【0066】
一般的には、制御棒の近傍に減速材が多く存在した方が、熱中性子が制御棒に吸収されやすく制御棒価値は高まる。これは、燃料棒ピッチを縮めたり、部分長燃料棒を制御棒近傍(つまりは、制御棒側最外周)に配した場合に相当し、この場合、制御棒価値は増大するため問題は生じない。一方、燃料棒直径を増大させた場合、実効的に制御棒の近傍の減速材が少なくなるため、制御棒価値は低下する。本発明の燃料集合体の場合、燃料棒直径の増大は、従来例と比べて最大でも0.23mmである。この場合、高温時の制御棒価値の低下は、高々0.3%△k/kである。
【0067】
なお、本発明の構成では、燃料棒ピッチを縮めたり、部分長燃料棒を最外周に配することができ、これは制御棒価値を高める。この構成と組み合わせた場合の制御棒価値は、従来例よりもむしろ向上させることすらできる。
【0068】
(d)反応度特性
出力運転中、炉心は過剰な反応度を制御棒挿入量と炉心流量を調整することで臨界を維持して運転がなされる。反応度寿命、つまりは経済性の観点からは、出力運転状態における無限増倍率は制御可能な範囲内でより大きい方が望ましい。
【0069】
燃料棒直径を大きくし、ウラン量を増やすと水対ウラン体積比が小さくなり、通常、減速不足の出力運転状態においては更に減速不足となり、反応度はより低下する。また、燃料棒ピッチを狭くした場合、燃料棒が密にある領域では冷却材による中性子の減速が鈍り燃料ペレット内での中性子の吸収が増える一方、集合体の周辺部や太径水ロッド近傍の領域では、中性子の減速が促進される。結果的に燃料棒ピツチの変化が無限増倍率に与える影響は小さい。
【0070】
一方、部分長燃料棒の採用は、水対ウラン比を大きくし、反応度を高める効果がある。しかし、同じ本数の部分長燃料棒を用いた場合、部分長燃料棒を最外周や水ロッドにより多く隣接させた方が反応度の向上は小さい。これは、もともとこれらの位置、特に、最外周のコーナ位置は中性子の減速が良く、反応度が高まりやすい位置であることによる。この観点より、従来技術においては、反応度ロスの大きい最外周のコーナ位置は、部分長燃料棒を用いない例がある。
【0071】
ところで、中性子の減速状態の良いコーナ位置に部分長燃料棒を配さないようにすることは、反応度向上につながる一方、もともとこの位置は、局所ピーキングが高まり易い位置であるため、熱的運転余裕を確保する観点から、通常は、その断面で最低濃縮度のペレットが配置される。既に述べたとおり、取り扱いウラン濃縮度には5%以下の制限があるため、燃料集合体の平均濃縮度は容易には高められない。コーナ燃料棒を部分長燃料棒とした場合、それ以外の位置に部分長燃料棒を配するよりも、上部側断面の平均濃縮度を高めることができる。つまり、実際の設計では平均濃縮度の増加によって補われるため、コーナ燃料棒における反応度ロスはさほど大きくない。
【0072】
従って、本発明では、ボイド係数絶対値の低減効果が大きいことから、可能な限り最外周コーナ位置を部分長燃料棒とすることを薦める。ここで、可能な限りとは例えば次のことを意味する。沸騰水型原子炉では反制御棒側には、計装管があり原子炉出力を監視している。反制御棒側コーナ位置の燃料棒の出力は、計装管の信号を出力に換算する際に重要であり、監視精度を確保するためには、特別な配慮が必要となる場合もある。こうした、背景を勘案して、本発明では、反制御棒側コーナの燃料棒は部分長燃料棒としない方がよい。さらに、燃料集合体の核熱水力的対称性を確保するためには、制御棒側コーナの燃料棒についても部分長燃料棒としない方がよい。反制御棒側及び制御棒側を除く2つの最外周コーナについては、部分長燃料棒としても上記の如き問題は生じない。
【0073】
次に、低温停止状態における反応度特性については、停止余裕の観点からは反応度はより小さい方が望ましい。まず、燃料棒直径の増加は、水対ウラン比の減少をもたらし、通常、減速過多の状態である低温状態においては、冷却材による熱中性子の吸収が減り、反応度は高まる方向性を持つ。一方、ペレット直径の増加はウラン238等による共鳴吸収を増加させ、反応度を下げる方向に作用する。結果として、本発明の範囲であればペレット直径の増加を伴う燃料棒直径の増加は、冷温時の無限増倍率にほとんど影響を与えない。
【0074】
次に、燃料棒ピッチを縮めた場合、部分長燃料棒を最外周や太径水ロッド隣接位置に配した場合、部分長燃料棒の存在により、燃料上部側は、ギャップ水及び/又は太径水ロッドと共に大きな非沸騰領域が形成され、これは、広い熱中性子吸収領域を形成する部分となる。一般に、この吸収領域は広い方が入射した熱中性子は、漏れ出る確率が少なく次の核分裂に寄与しにくくなるため反応度は低下する。
【0075】
以上より、本発明の燃料集合体は、燃料棒ピッチを縮めた場合や部分長燃料棒を最外周に多く配した場合、いずれの場合も低温停止状態での反応度は低減するという良好な特性を示す。
【0076】
(e)停止運転反応度差
既に述べたとおり、本発明の燃料集合体は出力運転状態、低温停止状態共に、従来例に比べて反応度が低下する。高温時の反応度の向上による経済性と冷温時の反応度低減による停止余裕の向上は、下式に示す運転停止反応度差によって最も適切に評価できる。
【0077】
(停止運転反応度差)
=(低温停止状態における無限増倍率)−(出力運転状態における無限増倍率)
【0078】
すなわち、経済性が良く停止余裕が大きい燃料集合体では、出力運転状態における無限増倍率が大きく、また、低温状態における無限増倍率は小さくなる。すなわち、停止運転反応度差は小さくなる。
【0079】
発明の燃料集合体の場合、従来例を基準にしたとき、出力運転状態における無限増倍率の低下分よりも、低温状態における無限増倍率の低下分が勝るため、停止運転反応度差はより小さくなる。この結果は、すぐに、高温時の経済性の悪化と停止余裕の向上と結び付かない。以下の従来技術によって停止余裕が向上した分を高温時の反応度向上に振り分けることも容易であるからである。
【0080】
例えば、燃料集合体の核設計においては、通常、上部領域にもある程度の濃度を持つガドリニアを添加している。これは、サイクル末期においても毒物効果を残留させ、停止余裕を確保するためである。毒物効果の残留は、高温時の反応度ロスとなるため、停止余裕が確保できる範囲内で、できるだけ低い濃度のガドリアを添加するのが望ましい。本発明の燃料集合体は、停止余裕が向上した分、上部のガドリニア濃度を低減し、反応度の向上に振り分けることができる。
【0081】
なお、本発明に係る検討の基準は表1に示す10×10燃料集合体の従来例である。これは、ウラン重量の増加のための好適な条件を表現するため、好適とされている従来例を基準としたに過ぎない。言い換えれば、本発明はウラン重量の増加を可能にする好適な燃料集合体そのものである。従って、発明の燃料集合体の形状は、必ずしも基準とした従来例の延長である必要はない。例えば、太径水ロッドは複数本であれば、燃料棒9本分相当の領域を占める必要はなく、また、その形状も、例えば丸形であってもよい。
【0082】
さらに、本発明では、全ての部分長燃料棒どうしの中心間距離は、燃料棒ピッチの2倍以上となるよう配置することができる。つまり、部分長燃料棒を燃料集合体内で分散して配置できる。この場合、半径方向でのスペーサ強度の均一化、燃料集合体上部における冷却材流れの均一化、核設計の単純化が期待でき、ひいては、製造コストの削減につながる。
【0083】
【実施例】
以下に4つの実施例を示す。具体的に設定した設計パラメータの値と期待できる効果を次の表2にまとめた。本表は従来例から変更した部分について示している。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例1)
図10に第1の実施例である実施例1における部分長燃料棒配置を示す。部分長燃料棒の本数は従来例と同じ12としているが、その配置を変更している。つまり、従来例では2層目に配置した8本の部分長燃料棒のうち、2本を最外周コーナ位置、また、4本を最外周の辺に配した。この際、部分長燃料棒はなるべく幾何学的対称性を維持させるように配置した。また、実施例1では、全ての部分長燃料棒どうしの中心間距離は、燃料棒ピッチの2倍以上となるよう配置している。つまり、部分長燃料棒は分散して配置されている。
【0086】
また、実施例1では、燃料棒直径は従来より0.15mm増大させ 10.25mmとした。これは、燃料棒直径は圧損の許容範囲とウラン量確保の観点より定めた範囲(10.23≦D≦10.28mm)である。一方、燃料棒ピッチは従来と同じ 12.95mmのままとしている。
【0087】
燃料棒直径の増加に伴い燃料ペレットの直径を増加させるとウラン重量は 180kg程度となり、従来よりも6kgの増加が見込める。また、平均濃縮度は従来例に同じ 4.5wt%としたとき、(1) 式の左辺は0.08%であり正値を維持できる。つまり、ボイド係数の絶対値の増大を回避できる。さらに、最大線出力密度の上昇の指標となる(2) 式の左辺も0.85%に留まり目標値2〜3%以下を十分に満足する。
【0088】
本実施例の場合、ウラン重量の増加に伴い、燃料集合体の成型加工費としてはその上昇分にあたる約 3.5%、燃料サイクルコストとしては約1%の経済性の向上が期待できる。このとき、ボイド係数は従来例とほとんど変わらず、また、最大線出力密度の上昇も1%以下に留まる。
【0089】
なお、部分長燃料棒の配置と燃料棒ピッチを変えない場合、これ以上燃料棒直径を増大することは、ボイド係数の絶対値が従来よりも増大してしまうため好ましくないことは(1) 式より明らかである。
【0090】
(第2の実施例)
実施例2では、実施例1よりもウラン重量の増大を図ったものである。つまり、実施例2では部分長燃料棒配置を変えず燃料棒直径を上限である 10.28mmまで増やした。さらに、ウラン重量の増大に伴うボイド係数の絶対値の増加を補償するため、燃料棒ピッチを 0.1mm縮め 12.85mmとした。
【0091】
この場合、ペレット直径の増大によりウラン重量は 181kgまで高められ、約7kgのウラン重量増加が期待できる。また、(1) 式の左辺は 2.7%となり、この分のボイド係数の緩和が期待できる。さらに、(2) 式の左辺は、 2.4%に増大するが3%以下を満足する。
【0092】
なお、緩和したボイド係数は安定性、特に炉心安定性の向上と、出力分布の平坦化に寄与する。あるいは緩和したボイド係数分は、燃料ペレットの密度を高めてウラン重量を更に増加させたり、平均濃縮度の増加に振り分けても良い。
【0093】
(第3の実施例)
図11に第3の実施例である実施例3における部分長燃料棒配置を示す。チャンネル安定性の向上を主目的とし、部分長燃料棒の本数は従来例より2本増やし14本とした。ここでは、全ての部分長燃料棒は全て非沸騰水に隣接するよう配置した。つまり、最外周コーナ位置に2本、最外周の辺部に8本、太径水ロッドに4本の部分長燃料棒を配した。この場合も先の実施例と同様、部分長燃料棒はなるべく幾何学的対称性を維持させるように配置すると共に、分散して配置した。また、最外周コーナ部については、計装管の監視精度を確保するため反制御棒側の最外周コーナ位置に部分長燃料棒を配していない。この配慮に伴う対称性の観点より、制御棒側コーナについても部分長燃料棒を配していない。
【0094】
本実施例では、燃料棒直径を上限である10.33mmとし、燃料棒ピッチは12.95mmのままである。このとき、ウラン重量は約181.7kgとなり実施例1又は2よりもウラン重量はさらに増加し、従来例に比べ7.7kgの増加が期待できる。平均濃縮度は従来例に同じ4.5wt%としたとき、本実施例での(1)式の左辺は約1.2%となり正値を維持できる。また、(2)式の左辺は1.2%に留まる。
【0095】
(第4の実施例)
第4の実施例である実施例4では、ボイド係数の絶対値をより小さくするため、実施例3よりも燃料棒ピッチを縮め 12.85mmとした。この場合、(1) 式の左辺は 4.7%となりボイド係数はさらに緩和される。この場合でも(2) 式の左辺については 2.7%となり3%以下に留めることができる。このようにボイド係数が低減した分は、以下の設計変更に振り分けてもよい。
【0096】
例えば、角管状の太径水ロッドの外幅35mmから33mmと小さくすると、太径水ロッドの外幅変更に伴いボイド係数は約3%増大する方向となるが、本発明構成による緩和量である 4.7%分を考えあわせると、ボイド係数の絶対値の増大はなく、依然問題とならない。一方、角管状の太径水ロッドの外幅35mmから33mmと小さくすると燃料集合体の圧損は約3%低減する。つまり、スペーサ等のその他の構造材に対し低圧損対策を施すことなく、本実施例において増大した圧損(図1の *1に対応する3%の増大)を相殺することができる。この際、また、太径水ロッドの外幅変更に伴う最大線出力密度の上昇も高々 0.2%であり、本実施例による上昇分とあわせても3%以下を維持できる。つまり、このような構成により、燃料集合体の圧損の増加とボイド係数の増大を回避しつつ、最大線出力密度の上昇を最小限に抑えた上で、ウラン重量の増加を達成できる。
【0097】
また、その他にも例えば、核設計の高度化によりにより平均濃縮度を 0.1wt%高めることができた結果、平均濃縮度が 4.6wt%となり、さらに製造技術の発達によりウランペレットの焼結密度を97%から99%まで高められることができた結果、ウラン重量が 185.4kg程度まで高められたとしても、(1) 式の左辺は0.54%に留まるため問題は生じない。つまり、緩和したボイド係数分は、更なるウラン重量の増大と高濃縮度化に振り分けることもできる。
【0098】
以上の実施例に対し、ボイド係数の緩和と局所ピーキング係数の上昇が期待通りの範囲に留まることを、別途燃料集合体核計算を実施することで確認した。評価結果を次の表3に示す。本表は、燃料集合体核計算の計算結果を基準としたとき、(1) 式及び(2) 式による評価値のずれ(差分)を示している。本表から分かるとおり、両者の一致は極めて良好であり、(1) 式及び(2) 式による記述は妥当である。
【0099】
【表3】
【0100】
また、制御棒価値及び反応度特性などの核的特性についても、従来例よりも向上することを確認した。図12は従来例を基準としたときの運転中及び低温停止時における制御棒価値の変化を示している。本図より明らかなように、何れの実施例においても制御棒価値は高くなる。
【0101】
図13は反応度特性について示す。同図は従来例を基準としたときの、出力運転中及び低温停止時の反応度、並びに停止運転反応度差の変化をしている。本図より、無限増倍率すなわち反応度は、実施例の方が従来例よりも小さく、その程度は運転中よりも低温停止時で顕著である。結果として、停止運転反応度差については実施例の方が従来例よりも小さくなっており、つまり、本実施例の燃料集合体は従来例よりも、経済性が良く停止余裕が大きい燃料集合体であることが分かる。
【0102】
以上のように、本発明によれば、熱水力的あるいは核的な特性を悪化させることなく安全性を確保しつつ、ウラン重量を増加して経済性を高めることのできる沸騰水型原子炉用燃料集合体が提供できる。具体的には、最小限界出力比の運転余裕を確保し、最大線出力密度の上昇を最小限に抑え、炉心圧損を先行燃料と同等としつつ、出力運転状態及び低温停止状態における反応度の改善を図ると共に、ボイド係数の絶対値を先行燃料よりも小さくすることができ、ひいては、炉心安定性の悪化を回避した上で、 179kg以上のウラン重量を確保できる、経済性の高い燃料集合体を得ることができるため、本産業の発展に大いに貢献する。
【0103】
【発明の効果】
本発明は以上説明した通り、熱水力的あるいは核的な特性を悪化させることなく安全性を確保しつつ、ウラン重量の増加を実現することで経済性を高めることのできる沸騰水型原子炉用燃料集合体を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】10×10燃料集合体について燃料棒直径の変更に伴う炉心圧損の変化割合を部分長燃料棒本数のパラメータごとに示した線図である。
【図2】10×10燃料集合体について燃料棒直径の変更に伴う上部燃料棒の表面積の変化割合を部分長燃料棒本数のパラメータごとに示した線図である。
【図3】10×10燃料集合体について燃料棒直径の変更に伴うウラン重量の増加を部分長燃料棒本数のパラメータごとに示した線図である。
【図4】ウラン重量の増分とボイド係数の変化の関係を示す線図である。
【図5】部分長燃料棒の配置と本数の変更に伴うボイド係数への影響を示す線図である。
【図6】燃料棒ピッチの縮幅に対するボイド係数の低減割合を示す線図である。
【図7】燃料集合体の平均濃縮度の増加割合に対するボイド係数の低減割合を示す線図である。
【図8】燃料棒直径の増加及び燃料棒ピッチの縮小に対する局所ピーキング係数の上昇を示す線図である。
【図9】燃料棒直径の増加と燃料棒ピッチの縮小幅との関係を示す線図である。
【図10】第1の実施例の部分長燃料棒を含む燃料集合体の燃料棒配置を示す説明図である。
【図11】第3の実施例の部分長燃料棒を含む燃料集合体の燃料棒配置を示す説明図である。
【図12】運転中及び低温停止時における制御棒価値の変化を示した線図である。
【図13】運転中及び低温停止時における反応度特性を示した線図である。
【図14】10×10燃料集合体の構成を示す説明図である。
Claims (8)
- 核燃料物質として二酸化ウランペレットを被覆管内に充填した燃料棒群が10行10列の正方格子配列に規則正しく配置され、
前記正方格子配列内には前記燃料棒複数本相当の領域を占める太径水ロッドが配置されている沸騰水型原子炉用燃料集合体であって、
前記燃料棒は、
前記燃料集合体の燃料有効長と等しい燃料有効長を持つ標準燃料棒と、
標準燃料棒を24ノード分割したとき14乃至16ノード分の部分長燃料棒とに分けられ、
部分長燃料棒の本数(N)を12〜14本、燃料棒直径(D)を10.23mm以上、10.33mm以下、最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数(Nc)を1本以上とし、
前記燃料集合体ウラン重量(W)が 174 kgよりも大きく、
太径水ロッドは燃料棒9本分相当の領域を占めるとき、
次の数1に示す(1) 式及び(2) 式を同時に満たすことを特徴とする沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【数1】
{3.93Nc+1.85Ns+1.26Nw+0.64(N−Nc−Ns−Nw)}×(1−α)−3.81+35.0(12.95−P)−0.7(W−174)−15.7(e−4.5)≧0.0 …(1) 式
(D−10.1)×5.7+(12.95−P)×14.0≦3.0 …(2) 式
ここで、
N :部分長燃料棒の本数、
Nc:最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数、
Ns:コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数、
Nw:太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数、
α :標準燃料棒の燃料有効長に対する部分長燃料棒の燃料有効長の上端相対位置、
D :燃料棒直径(mm)、
P :燃料棒ピッチ(mm)、
W :燃料集合体ウラン重量(kg)、
e :集合体平均ウラン濃縮度(wt%) - 前記部分長燃料棒の本数(N)が12本、燃料棒直径(D)が10.23mm以上10.28mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
- 前記(2) 式の右辺が2.0であることを特徴とする請求項2に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
- 前記部分長燃料棒の本数(N)が14本、燃料棒直径(D)が10.26mm以上10.33mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
- 前記燃料集合体ウラン重量(W)が、 179kg以上、尚且つ、集合体平均ウラン濃縮度が 4.5wt%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
- 前記部分長燃料棒の本数(N)が12本、最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数(Nc)が2本、コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数(Ns)が4本、太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数(Nw)が4本、燃料棒直径(D)が10.23mm以上10.28mm以下、燃料棒ピッチ(P)が12.80mm以上12.95mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
- 前記部分長燃料棒の本数(N)が14本、最外周コーナ部に配置された部分長燃料棒の本数(Nc)が2本、コーナ部を除く最外周に配置された部分長燃料棒の本数(Ns)が8本、太径水ロッドに隣接して配置された部分長燃料棒の本数(Nw)が4本、燃料棒直径(D)が10.26mm以上10.33mm以下、燃料棒ピッチ(P)が12.85mm以上12.95mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
- 全ての部分長燃料棒同士の中心間距離が、燃料棒ピッチの2倍以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
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