以下、本発明による磁気ヘッドの製造方法、並びに、ヘッドサスペンションアセンブリ及び磁気ディスク装置について、図面を参照して説明する。
[第1の磁気ヘッド]
図1は、第1の磁気ヘッドを模式的に示す概略斜視図である。図2は、図1に示す磁気ヘッドのTMR素子2及び誘導型磁気変換素子3の部分を模式的に示す拡大断面図である。図3は、図2中のA−A’矢視概略図である。図4は、図2中のTMR素子2付近を更に拡大した拡大図である。図5は、図3中のTMR素子2付近を更に拡大した拡大図である。理解を容易にするため、図1乃至図5に示すように、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を定義する(後述する図についても同様である。)。また、Z軸方向のうち矢印の向きを+Z方向又は+Z側、その反対の向きを−Z方向又は−Z側と呼び、X軸方向及びY軸方向についても同様とする。X軸方向が磁気記録媒体の移動方向と一致している。Z軸方向がTMR素子2のトラック幅方向と一致している。
第1の磁気ヘッドは、図1に示すように、基体としてのスライダ1と、再生用磁気ヘッド素子として用いられる磁気抵抗効果素子としてのTMR素子2と、記録用磁気ヘッド素子としての誘導型磁気変換素子3と、保護膜4aとを備え、複合型磁気ヘッドとして構成されている。もっとも、例えば、TMR素子2のみを備えていてもよい。また、第1の磁気ヘッドでは、素子2,3はそれぞれ1個ずつ設けられているが、その数は何ら限定されるものではない。
スライダ1は磁気記録媒体対向面側にレール部11,12を有し、レール部11、12の表面がABS(エアベアリング面)を構成している。図1に示す例では、レール部11、12の数は2本であるが、これに限らない。例えば、1〜3本のレール部を有してもよいし、ABSはレール部を持たない平面であってもよい。また、浮上特性改善等のために、ABSに種々の幾何学的形状が付されることもある。本発明による製造方法により製造される磁気ヘッドは、いずれのタイプのスライダを有していてもよい。
第1の磁気ヘッドでは、保護膜4aはレール部11,12の表面にのみ設けられ、保護膜4aの表面がABSを構成している。もっとも、保護膜4aは、スライダ1の磁気記録媒体対向面の全面に設けてもよい。この保護膜4aについては、後に詳述する。
TMR素子2及び誘導型磁気変換素子3は、図1に示すように、レール部11、12の空気流出端部TRの側に設けられている。記録媒体移動方向は、図中のX軸方向と一致しており、磁気記録媒体が高速移動した時に動く空気の流出方向と一致する。空気は流入端部LEから入り、流出端部TRから流出する。スライダ1の空気流出端部TRの端面には、TMR素子2に接続されたボンディングパッド5a,5b及び誘導型磁気変換素子3に接続されたボンディングパッド5c,5dが設けられている。
TMR素子2及び誘導型磁気変換素子3は、図2及び図3に示すように、スライダ1を構成するセラミック基体15の上に設けられた下地層16の上に、積層されている。セラミック基体15は、通常、アルチック(Al2O3−TiC)又はSiC等で構成される。Al2O3−TiCを用いる場合、これは導電性があるので、下地層16として、例えばAl2O3からなる絶縁膜が用いられる。下地層16は、場合によっては設けなくてもよい。
TMR素子2は、図4及び図5に示すように、下地層16上に形成された下部電極21と、下部電極21の上側(基体15と反対側)に形成された上部電極31と、電極21,31間に下部電極21側から順に積層された、下部金属層22、ピン層24、ピンド層25、トンネルバリア層26、フリー層27、保護膜となる上部金属層(キャップ層)28、及び、上部電極31の下地層としての上部金属層29と、を備えている。ピン層24、ピンド層25、トンネルバリア層26及びフリー層27が、磁気抵抗効果層を構成している。実際のTMR素子2は、図示されたような層数の膜構造ではなく、より多層の膜構造を有するのが一般的であるが、図に示す磁気ヘッドでは、説明の簡略化のため、TMR素子2の基本動作に必要な最少膜構造を示してある。
第1の磁気ヘッドでは、下部電極21及び上部電極31は、下部磁気シールド及び上部磁気シールドとしてそれぞれ兼用されている。電極21,31は、例えば、NiFeなどの磁性材料で形成されている。図面には示していないが、これらの電極21,31は、前述したボンディングパッド5a,5bにそれぞれ電気的に接続されている。なお、下部電極21及び上部電極31とは別に、下部磁気シールド及び上部磁気シールドを設けてもよいことは、言うまでもない。
下部金属層22は、導電体となっており、例えば、下側のTa層と上側のNiFe層とからなる2層膜などで構成される。本例では、下部金属層22は、電極21上に広く延在しているが、磁気抵抗効果層の部分のみに形成してもよい。
ピン層24は、反強磁性層で構成され、例えば、PtMn、IrMn、RuRhMn、FeMn、NiMn、PdPtMn、RhMn又はCrMnPtなどのMn系合金で形成することが好ましい。ピンド層25及びフリー層27は、それぞれ強磁性層で構成され、例えば、Fe、Co、Ni、FeCo、NiFe又はFeCoNiなどの材料で形成される。ピンド層25は、ピン層24との間の交換結合バイアス磁界によってその磁化方向が所定方向に固定されている。一方、フリー層27は、基本的に磁気情報である外部磁場に応答して自由に磁化の向きが変わるようになっている。ピンド層25及びフリー層27としては、単層に限定されるものではなく、例えば、反強磁性型磁気結合をしている一対の磁性層と、その間に挟まれた非磁性金属層との組み合わせからなる積層体を用いてもよい。このような積層体として、例えば、CoFe/Ru/CoFeの3層積層体からなる強磁性層が挙げられる。なお、第1の磁気ヘッドでは、下部電極21側からピン層24、ピンド層25、トンネルバリア層26、フリー層27の順に配置されているが、下部電極21側からフリー層27、トンネルバリア層26、ピンド層25、ピン層24の順に配置し、上部金属層28をピン層24に接するように形成してもよい。トンネルバリア層26は、例えば、Al2O3、NiO、GdO、MgO、Ta2O5、MoO2、TiO2又はWO2などの酸化物で形成され、酸化物層を構成している。
上部金属層28は、例えば、Ta、Rh、Ru、Os、W、Pd、Pt又はAuの単体、又は、これらのいずれか2種以上の組み合わせからなる合金、を用いた、単層膜又は複層膜で形成される。
上部電極31の下地層となる上部金属層29は、導電体となっており、Taなどの非磁性金属材料で形成される。本例では、上部金属層29は、磁気シールドギャップ(電極21,31間のギャップ)を所望の間隔に保つために、設けられている。もっとも、必ずしも上部金属層29を設ける必要はない。
図3及び図5に示すように、前記磁気抵抗効果層のZ軸方向の両側には、フリー層27に磁区制御のためのバイアス磁界を付与する縦バイアス層(磁区制御層)32が形成されている。縦バイアス層32は、例えば、Cr/CoPt(コバルト白金合金)、Cr/CoCrPt(コバルトクロム白金合金)、TiW/CoPt、TiW/CoCrPtなどの硬磁性材料で形成される。あるいは、縦バイアス層32は、例えば、軟磁性層と反強磁性層を積層し交換結合を使った層でもよい。縦バイアス層32の下側には、絶縁層34が形成されている。絶縁層34は、縦バイアス層32と層24〜28の+Z側及び−Z側の端面との間にも介在し、層24〜28が縦バイアス層32によって電気的に短絡しないようになっている。また、層32,34が形成されていない領域には、下部金属層22と上部金属層29間において、絶縁層30が形成されている。絶縁層30は、層24〜28の−Y側の端面を覆っている。絶縁層34,30は、Al2O3又はSiO2等で構成されている。もっとも、絶縁層34,30の両方又はいずれか一方を、AlNなどの窒化物等で構成してもよい。
なお、層24〜28は実質的にちょうど重なっており、これらの重なり領域が、前記磁気抵抗効果層における磁気検出に有効に関与する有効領域(第1の磁気ヘッドでは、磁気抵抗効果層において膜面の略々垂直な方向に電流が流れる領域)となっている。
誘導型磁気変換素子3は、図2及び図3に示すように、当該素子3に対する下部磁性層としても兼用される前記上部電極31、上部磁性層36、コイル層37、アルミナ等からなるライトギャップ層38、熱硬化性のフォトレジスト(例えば、ノボラック樹脂等の有機樹脂)で構成された絶縁層39及びアルミナ等からなる保護層40などを有している。上部磁性層36の材質としては、例えば、NiFe、FeN、FeCo又はCoFeNiなどが用いられる。下部磁性層としても兼用された上部電極31及び上部磁性層36の先端部は、微小厚みのアルミナなどのライトギャップ層38を隔てて対向する下部ポール部31a及び上部ポール部36aとなっており、下部ポール部31a及び上部ポール部36aにおいて磁気記録媒体に対して情報の書き込みを行なう。下部磁性層としても兼用された上部電極31及び上部磁性層36は、そのヨーク部が下部ポール部31a及び上部ポール部36aとは反対側にある結合部41において、磁気回路を完成するように互いに結合されている。絶縁層39の内部には、ヨーク部の結合部41のまわりを渦巻状にまわるように、コイル層37が形成されている。コイル層37の両端は、前述したボンディングパッド5c,5dに電気的に接続されている。コイル層37の巻数及び層数は任意である。また、誘導型磁気変換素子3の構造も任意でよい。上部電極31は、誘導型磁気変換素子3の下部磁性層とTMR素子2の上部電極の役割を分けるために、Al2O3、SiO2などの絶縁層を挟んで2層に分けても良い。
前述した保護膜4aは、図1乃至図4に示すように、各層16,21,22,24〜29,31,32,34,36,40のABS側の端面及びセラミック基体15のABS側の面を、下地層4b及び層4cを介して覆うように形成されている。ここでは、説明の便宜上、層4cを変化低減層と呼ぶ。下地層4bは保護膜4aの直下に形成され、変化低減層4cは、下地層4bと各層16,21,22,24〜29,31,32,34,36,40のABS側の端面及びセラミック基体15のABS側の面との間に介在され、これらの面に接している。第1の磁気ヘッドでは、変化低減層4cは、保護膜4a及びその下地層4bとちょうど重なるように形成されているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、トンネルバリア層26のABS側の端面のみを覆う領域に形成してもよい。また、変化低減層4cと下地層4bとの間に、1つ以上の層を形成してもよい。
第1の磁気ヘッドでは、保護膜4aとしてDLC膜が形成されているが、他の材料の膜を保護膜4aとして用いることも可能である。下地層4bは酸化物ではない材料で構成され、変化低減層4cは金属又は半導体の酸化物で構成されている。第1の磁気ヘッドでは、変化低減層4cはそのいずれの部分においても同一の材料で構成されている。具体的には、例えば、下地層4bはSi又はSiCで構成され、変化低減層4cは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWからなる群より選ばれた材料の酸化物で構成される。
ここで、第1の磁気ヘッドと比較される比較例の磁気ヘッドについて、図7を参照して説明する。図7は、この比較例の磁気ヘッドの要部を模式的に示す拡大断面図であり、図4に対応している。図7において、図4中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
図7に示す比較例による磁気ヘッドが前記第1の磁気ヘッドと異なる所は、変化低減層4cが形成されておらず、下地層4bが、各層16,21,22,24〜29,31,32,34,36,40のABS側の端面及びセラミック基体15のABS側の面に接している点のみである。この比較例では、下地層4bはSiで構成されている。
この比較例による磁気ヘッドでは、当該磁気ヘッドを高温環境に置いた後のTMR素子2の抵抗値が、高温環境に置く前のTMR素子2の抵抗値に比べて、比較的大きく減少する。これに対して、前記第1の磁気ヘッドでは、当該磁気ヘッドを高温環境に置いた後のTMR素子2の抵抗値が、高温環境に置く前のTMR素子2の抵抗値に比べて、さほど変化しない。これらは、後述する実験により確認された。
その理由は次の通りであると考えられる。すなわち、比較例による磁気ヘッドでは、酸素との結合能力の比較的高いSiからなる下地層4bが、酸化物層であるトンネルバリア層26のABS側の端面と接しているため、当該磁気ヘッドを高温環境下に置くと、図8に示すように、トンネルバリア層26中に存在していた酸素が下地層4bへ移動してしまい、それによりトンネルバリア層26中の酸素が少なくなってトンネルバリア層26の抵抗値が低下し、その結果、TMR素子2全体の抵抗値が低下することで、TMR素子2の抵抗値の変化が比較的大きくなっているものと考えられる。これに対し、前記第1の磁気ヘッドでは、既に酸素を結合している金属又は半導体(すなわち、金属又は半導体の酸化物)で構成された変化低減層4cがトンネルバリア層26のABS側の端面に接しているため、当該磁気ヘッドを高温環境下に置いても、図6に示すように、トンネルバリア層26中に存在している酸素がトンネルバリア層26から出て行き難くなってトンネルバリア層26内に留まることになり、トンネルバリア層26の抵抗値がさほど低下せずに、TMR素子2の抵抗値の変化が少なくなるものと考えられる。
なお、図6は、前記第1の磁気ヘッドの、高温環境下におけるトンネルバリア層26中の酸素の様子を模式的に示す図である。図8は、図7に示す比較例による磁気ヘッドの、高温環境下におけるトンネルバリア層26中の酸素の様子を模式的に示す図である。
[第2の磁気ヘッド製造方法]
本発明の一実施の形態である第2の磁気ヘッド製造方法について、説明する。この磁気ヘッド製造方法は、前記第1の磁気ヘッドを製造する方法である。
まず、ウエハ工程を行う。すなわち、基体15となるべきAl2O3−TiC又はSiC等のウエハ101を用意し、薄膜形成技術等を用いて、ウエハ101上のマトリクス状の多数の磁気ヘッドの形成領域にそれぞれ、前述した各層を前述した構造となるように形成する。
このウエハ工程の概要について、図9乃至図12を参照して説明する。図9乃至図12はウエハ工程を構成する各工程を模式的に示す図であり、図9(a)、図10(a)、図11(a)及び図12(a)はそれぞれ概略平面図である。図9(b)は図9(a)中のC−D線に沿った概略断面図、図10(b)は図10(a)中のC−D線に沿った概略断面図、図11(b)は図11(a)中のE−F線に沿った概略断面図、図12(b)は図12(a)中のE−F線に沿った概略断面図である。なお、図10(a)において、TWはTMR素子2が規定するトラック幅を示している。
ウエハ工程では、まず、ウエハ101上に、下地層16、下部電極21、下部金属層22、ピン層24、ピンド層25、トンネルバリア層26、フリー層27及びキャップ層28を、順次積層する(図9)。このとき、下部電極21は例えばめっき法により形成し、他の層は例えばスパッタ法で形成する。その後、この状態の基板が一旦大気中に置かれる。このとき、キャップ層28の上面に酸化膜(図示せず)が形成されることになる。
次に、第1のイオンミリングにより、ピン層24、ピンド層25、トンネルバリア層26、フリー層27、キャップ層28及びキャップ層28上の前記酸化膜を、部分的に除去してパターニングする。次いで、この除去した部分に、リフトオフ法により、絶縁層34及び縦バイアス層32を形成する(図10)。
次に、第2のイオンミリングにより、TMR素子2のハイト方向に関して必要な幅(Y軸方向の幅)を持つとともに所定長さだけZ軸方向に延びる帯状部分を残して、ピン層24、ピンド層25、トンネルバリア層26、フリー層27、キャップ層28、キャップ層28の上面の前記酸化膜(図示せず)、絶縁層34及び縦バイアス層32を、部分的に除去してパターニングする。次に、この除去した部分に、リフトオフ法により、絶縁膜30を形成する(図11)。
次に、上部金属層29を形成するのと同じ真空装置内で、スパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行うことにより、キャップ層28の上面に形成された酸化膜を除去するクリーニングを行う。
その後、上部金属層29がスパッタ法等により形成され、更に、メッキ法等により上部電極31を形成する(図12)。
最後に、ライトギャップ層38、コイル層37、絶縁層39、上部磁性層36及び保護膜40を形成し、更に電極5a〜5d等を形成する。これにより、ウエハ工程が完了する。
このウエハ工程が完了したウエハ101を、図13(a)に示す。ただし、図13(a)では、ウエハ101に形成された要素は省略し、個々の磁気ヘッドの領域Rのみを示している。
ウエハ工程の後に、図13(a)に示すウエハ101を切断して、複数の磁気ヘッドの部分が一列状に配列された各バー(バー状磁気ヘッド集合体)102をダイヤモンドカッター等で切り出す。図13(b)はこのバー102を示している。このバー102の図13(b)のXZ平面に平行な上面はABS側の面であり、この面には、各層16,21,22,24〜29,31,32,34,36,40の端面などが現れ、また、図13(b)中のYZ平面に平行で手前に見えている面には図1中の電極5a〜5d等が現れるが、図13(b)ではそれらの図示は省略している。なお、図13は、ウエハ工程後のバー102の切り出し工程を模式的に示す概略斜視図である。
次いで、図13(b)に示すバー102に対して、TMR素子2の高さ(MRハイト)等を規定するために、そのABS側にラッピング処理(機械的な研磨)を施す。この処理では、例えば、バー102を固定治具にセットして、定盤に押し当てダイヤモンド砥粒を含む懸濁液を滴下し、定盤を回転してABS側の面を研磨する。
このラッピング処理後のバー102を図14に示す。図14は、ラッピング処理後のバー102を模式的に示す、XY平面と平行な面に沿った概略断面図である。図14に示すラッピング処理後のバー102のABS側の面(図14中の左側端面)には、通常、スメア(研磨時に生じた金属片など)が生ずる。ただし、図14では、そのスメアの図示を省略している。
その後、前記スメアを除去するため、ラッピング処理後のバー102のABS側の面をエッチングする。このエッチングとして、例えば、スパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。ただし、前記スメアがTMR素子2の特性に影響しないレベルの場合は、上記エッチングは必ずしも必要ない。
次に、バー102を一旦大気中に出した後に、最終的に変化低減層4cとなるべき金属又は半導体の層を成膜するのと同じ真空装置内で、表面酸化物層(バー102を一旦大気中に置くことによりABS側の面に形成された酸化物層)の除去及び表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。第2の磁気ヘッド製造方法では、このエッチングは、前記表面酸化物層を完全に除去するように行う。ただし、このエッチングは、前記表面酸化物層を完全には除去せずに前記表面酸化物層が残るように行ってもよい。この場合、後述する第4の磁気ヘッドと同様に、前記表面酸化物層が磁気抵抗効果素子のABS側の端面と接する層となる。
次いで、変化低減層4cとなるべき金属又は半導体(例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta又はW)の層を、スパッタ法等により、バー102のABS側の面に成膜する。
その後、このバー102を大気中に置いて、バー102のABS側の面に成膜した金属又は半導体を自然酸化により酸化させることで、金属又は半導体の酸化物からなる変化低減層4cを形成する(図15)。
次に、下地層4b及び保護膜4cを成膜するのと同じ真空装置内で、表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。次いで、例えばSiからなる下地層4bをスパッタ法等により変化低減層4c上に成膜し、更に下地層4b上に、保護膜4aとしてのDLC膜をプラズマCVD法等により成膜する。
その後、バー102のABS側の面のレール部11,12の領域以外の領域を選択的にエッチングして、レール部11,12を形成する。最後に、機械加工により切断してバー102を個々の磁気ヘッドに分離する。これにより、図1乃至図5に示す前記第1の磁気ヘッドが完成する。
前記第1の磁気ヘッドであっても、製造途中でTMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着するような製造方法を採用してしまえば、製造後の磁気ヘッドを高温環境下に置くと、当該過剰な酸素がトンネルバリア層26中へ移動し、それによりTMR素子2の抵抗値が上昇することで当該抵抗値が比較的大きく変化してしまう。
これに対し、前記第2の磁気ヘッド製造方法では、前述したように、TMR素子2のABS側の端面上に、変化低減層4cとなるべき金属又は半導体の層を成膜した後に、当該金属又は半導体の層を酸化させることで、変化低減層4cを形成するので、TMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着してしまうような状況を防止することができる。したがって、前記第2の磁気ヘッド製造方法により製造した磁気ヘッドでは、使用時に高温環境下に置かれても、TMR素子2の抵抗値の低下による抵抗値の変化を抑制することができるのみならず、TMR素子2の抵抗値の上昇による抵抗値の変化も抑制することができる。
本発明では、第2の磁気ヘッド製造方法を、以下に説明するように変形してもよい。また、以下に説明する各変形内容は、適宜任意に組み合わせて前記第2の磁気ヘッド製造方法に適用することができる。
第1に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと、変化低減層4cとなるべき金属又は半導体の層を成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングとを、別々に行うのではなく、両者を兼ねたドライエッチングを行ってもよい。
第2に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと変化低減層4cとなるべき金属又は半導体の層の成膜とを、同一真空装置内で行い、両者の間で一旦大気中に出さなくてもよい。
第3に、変化低減層4cとなるべき金属又は半導体の層を成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第4に、変化低減層4cとなるべき金属又は半導体の層の酸化は、自然酸化に限定されるものではなく、例えば、プラズマ酸化、ラジカル酸化、イオンビーム酸化、オゾンに晒すなどの強制酸化を行ってもよい。このような強制酸化は、下地層4bの成膜と同一の真空装置内で行ってもよいし、強制酸化の後でかつ下地層4bの成膜前に一旦大気に出してもよい。
第5に、下地層4bを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第6に、保護膜4の成膜後に、当該磁気ヘッドの実使用環境上限以上の温度において熱処理を行ってもよい。このように予め積極的に熱処理を行うと、実使用時に、実使用の温度範囲において、トンネルバリア層26に対する酸素の出入りがより抑えられ、TMR素子2の抵抗値の変化がより少なくなるので、好ましい。
[第3の磁気ヘッド製造方法]
本発明の一実施の形態である第3の磁気ヘッド製造方法について、説明する。この磁気ヘッド製造方法も、前記第1の磁気ヘッドを製造する方法である。
第3の磁気ヘッド製造方法が前記第2の磁気ヘッド製造方法と異なる所は、以下に説明する点のみであり、重複する説明は省略する。
第3の磁気ヘッド製造方法も、スメアを除去するためにラッピング処理後のバー102のABS側の面をエッチングするまでの工程は、前記第2の磁気ヘッド製造方法と同一である。ただし、スメアがTMR素子2の特性に影響しないレベルの場合は、スメア除去のためのエッチングは必ずしも必要ない。
第3の磁気ヘッド製造方法では、その後、バー102を一旦大気中に出した後に、変化低減層4cを成膜するのと同じ真空装置内で、表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。
次いで、金属又は半導体(例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta又はW)の酸化物をターゲットとして用い、プロセスガスに酸素を用いることなくイオンビームデポジション又はスパッタを行うことで、バー102のABS側の面に変化低減層4cを成膜する。
次に、変化低減層4cを成膜したのと同じ真空装置内で、表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行った後、例えばSiからなる下地層4bをスパッタ法等により変化低減層4c上に成膜し、更に下地層4b上に、保護膜4aとしてのDLC膜をプラズマCVD法等により成膜する。
その後、バー102のABS側の面のレール部11,12の領域以外の領域を選択的にエッチングして、レール部11,12を形成する。最後に、機械加工により切断してバー102を個々の磁気ヘッドに分離する。これにより、図1乃至図5に示す前記第1の磁気ヘッドが完成する。
前記第3の磁気ヘッド製造方法では、前述したように、金属又は半導体の酸化物をターゲットとして用いてプロセスガスに酸素を用いることなくイオンビームデポジション又はスパッタを行うことで、変化低減層4cを成膜するので、TMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着してしまうような状況を防止することができる。したがって、前記第3の磁気ヘッド製造方法により製造した磁気ヘッドでは、使用時に高温環境下に置かれても、TMR素子2の抵抗値の低下による抵抗値の変化を抑制することができるのみならず、TMR素子2の抵抗値の上昇による抵抗値の変化も抑制することができる。また、前記第2の磁気ヘッド製造方法では、変化低減層4cを形成するために、金属又は半導体の層を成膜した後にこの層を酸化させる工程を要するのに対し、前記第3の磁気ヘッド製造方法では、特別な酸化工程が不要であるため、製造が容易となりコストを低減することができる。
本発明では、第3の磁気ヘッド製造方法を、以下に説明するように変形してもよい。また、以下に説明する各変形内容は、適宜任意に組み合わせて前記第3の磁気ヘッド製造方法に適用することができる。
第1に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと、変化低減層4cを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングとを、別々に行うのではなく、両者を兼ねたドライエッチングを行ってもよい。
第2に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと変化低減層4cの成膜とを、同一真空装置内で行い、両者の間で一旦大気中に出さなくてもよい。
第3に、変化低減層4cを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第4に、変化低減層4cの成膜後でかつ下地層4bの成膜前に、バー102を一旦大気に出してもよい。
第5に、下地層4bを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第6に、保護膜4aの成膜後に、当該磁気ヘッドの実使用環境上限以上の温度において熱処理を行ってもよい。このように予め積極的に熱処理を行うと、実使用時に、実使用の温度範囲において、トンネルバリア層26に対する酸素の出入りがより抑えられ、TMR素子2の抵抗値の変化がより少なくなるので、好ましい。
[第4の磁気ヘッド]
図16は、本発明の第4の磁気ヘッドの要部を模式的に示す拡大断面図であり、図4に対応している。図16において、図4中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
第4の磁気ヘッドが前記第1の磁気ヘッドと異なる所は、変化低減層4cの構成のみである。前記第1の磁気ヘッドでは、変化低減層4cがそのいずれの部分においても同一の材料で構成されているのに対し、第4の磁気ヘッドでは、変化低減層4cにおける層21,22,24〜29,31をそれぞれ覆う各部分21a,22a,24a〜29a,31aは、当該部分が覆っているTMR素子2の構成層の材料に応じて定まる材料でそれぞれ構成されている。すなわち、変化低減層4cにおけるトンネルバリア層26のABS側の端面を覆う部分26aは、トンネルバリア層26を構成する元素と同じ元素で構成され、金属又は半導体の酸化物で構成されている。変化低減層4cにおけるピンド層25のABS側の端面を覆う部分25aは、ピンド層25を構成する金属と同じ金属の酸化物で構成されている。同様に、変化低減層4cにおける層21,22,24,27〜29,31をそれぞれ覆う各部分21a,22a,24a,27a〜29a,31aは、当該部分が覆っているTMR素子2の構成層を構成する金属と同じ金属の酸化物で構成されている。
第4の磁気ヘッドによっても、前記第1の磁気ヘッドと同様の利点が得られる。
[第5の磁気ヘッド製造方法]
本発明の第5の磁気ヘッド製造方法について、説明する。この磁気ヘッド製造方法は、前記第4の磁気ヘッドを製造する方法である。
第5の磁気ヘッド製造方法が前記第2の磁気ヘッド製造方法と異なる所は、以下に説明する点のみであり、重複する説明は省略する。
第5の磁気ヘッド製造方法も、スメアを除去するためにラッピング処理後のバー102のABS側の面をエッチングするまでの工程は、前記第2の磁気ヘッド製造方法と同一である。
第5の磁気ヘッド製造方法では、その後、バー102を大気中に置いて、バー102のABS側の面を自然酸化により酸化させることで、前記第4の磁気ヘッドに関して説明した変化低減層4cを、ABS側の表面酸化物層として形成する。バー102のABS側の面を酸化させることにより、TMR素子2を構成するべく形成された各層のABS側の端部が酸化されることになる。
次いで、下地層4bを成膜するのと同じ真空装置内で、表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。第5の磁気ヘッド製造方法では、このエッチングは、前記表面酸化物層(第5の磁気ヘッド製造方法では、変化低減層4c)が残るように行う。
次に、例えばSiからなる下地層4bをスパッタ法等により変化低減層4c上に成膜し、更に下地層4b上に、保護膜4aとしてのDLC膜をプラズマCVD法等により成膜する。
その後、バー102のABS側の面のレール部11,12の領域以外の領域を選択的にエッチングして、レール部11,12を形成する。最後に、機械加工により切断してバー102を個々の磁気ヘッドに分離する。これにより、図16に示す第4の磁気ヘッドが完成する。
前記第5の磁気ヘッド製造方法では、前述したように、バー102のABS側の面を酸化させることで変化低減層4cを形成することから、TMR素子2のABS側の端面は表面酸化の進行が停止した面となるので、TMR素子2の酸化物層(トンネルバリア層26)中の酸素が下地層4bへ移動し難くなり、かつTMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着してしまうような状況を防止することができる。したがって、前記第5の磁気ヘッド製造方法により製造した磁気ヘッドでは、使用時に高温環境下に置かれても、TMR素子2の抵抗値の低下による抵抗値の変化を抑制することができるのみならず、TMR素子2の抵抗値の上昇による抵抗値の変化も抑制することができる。また、前記第2及び第3の磁気ヘッド製造方法では、変化低減層4cを形成するために、TMR素子2を構成するべく形成された層に対して外部から所定材料を付加する工程を要するのに対し、前記第5の磁気ヘッド製造方法では、このような工程が不要であるため、製造が容易となりコストを低減することができる。
本発明では、第5の磁気ヘッド製造方法を、以下に説明するように変形してもよい。また、以下に説明する各変形内容は、適宜任意に組み合わせて前記第5の磁気ヘッド製造方法に適用することができる。
第1に、前述したスメア除去のためのドライエッチングは、必ずしも行わなくてもよい。
第2に、変化低減層4cを形成するためのバー102のABS側の面の酸化は、自然酸化に限定されるものではなく、例えば、プラズマ酸化、ラジカル酸化、イオンビーム酸化、オゾンに晒すなどの強制酸化を行ってもよい。このような強制酸化は、下地層4bの成膜と同一の真空装置内で行ってもよいし、強制酸化の後でかつ下地層4bの成膜前に一旦大気に出してもよい。
第3に、下地層4bを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第4に、保護膜4aの成膜後に、当該磁気ヘッドの実使用環境上限以上の温度において熱処理を行ってもよい。このように予め積極的に熱処理を行うと、実使用時に、実使用の温度範囲において、トンネルバリア層26に対する酸素の出入りがより抑えられ、TMR素子2の抵抗値の変化がより少なくなるので、好ましい。
第5に、下地層4bを形成せずに、変化低減層4c上に直接に保護膜4aを形成してもよい。
[第6の磁気ヘッド製造方法]
本発明の一実施の形態である第6の磁気ヘッド製造方法について、説明する。この磁気ヘッド製造方法は、前述した図7に示す比較例による磁気ヘッドを変形した磁気ヘッドを製造する方法である。
第6の磁気ヘッド製造方法により製造される磁気ヘッドが、図7に示す比較例による磁気ヘッドと異なる所は、下地層4bが金属又は半導体の酸化物(例えば、SiO2、Al2O3など)で構成されている点のみである。したがって、この磁気ヘッドでは、下地層4bが、前記第1の磁気ヘッドにおける変化低減層4cと同様に、金属又は半導体の酸化物で構成されており、下地層4bが変化低減層4cと同じ機能を果たす。よって、この磁気ヘッドでは、前記第1の磁気ヘッドと同様に、当該磁気ヘッドを高温環境下に置いても、図6に示すように、トンネルバリア層26中に存在している酸素がトンネルバリア層26から出て行き難くなってトンネルバリア層26内に留まることになり、トンネルバリア層26の抵抗値がさほど低下せずに、TMR素子2の抵抗値の変化が少なくなる。
ところが、このような磁気ヘッドであっても、製造途中でTMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着するような製造方法を採用してしまえば、製造後の磁気ヘッドを高温環境下に置くと、当該過剰な酸素がトンネルバリア層26中へ移動し、それによりTMR素子2の抵抗値が上昇することで当該抵抗値が比較的大きく変化してしまう。
第6の磁気ヘッド製造方法では、前記第2の磁気ヘッド製造方法を次のように変形したものである。
すなわち、第6の磁気ヘッド製造方法も、スメアを除去するためにラッピング処理後のバー102のABS側の面をエッチングするまでの工程は、前記第2の磁気ヘッド製造方法と同一である。ただし、スメアがTMR素子2の特性に影響しないレベルの場合は、スメア除去のためのエッチングは必ずしも必要ない。
次に、バー102を一旦大気中に出した後に、最終的に下地層4bとなるべき金属又は半導体の層を成膜するのと同じ真空装置内で、表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。
次いで、下地層4bとなるべき金属又は半導体(例えば、Al、Si等)の層を、スパッタ法等により、バー102のABS側の面に成膜する。
その後、このバー102を大気中に置いて、バー102のABS側の面に成膜した金属又は半導体を自然酸化により酸化させることで、金属又は半導体の酸化物からなる下地層4bを形成する。次に、下地層4b上に、保護膜4aとしてのDLC膜をプラズマCVD法等により成膜する。
その後、バー102のABS側の面のレール部11,12の領域以外の領域を選択的にエッチングして、レール部11,12を形成する。最後に、機械加工により切断してバー102を個々の磁気ヘッドに分離する。これにより、前述した磁気ヘッドが完成する。
前記第6の磁気ヘッド製造方法では、前述したように、TMR素子2のABS側の端面上に、下地層4bとなるべき金属又は半導体の層を成膜した後に、当該金属又は半導体の層を酸化させることで、下地層4bを形成するので、TMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着してしまうような状況を防止することができる。したがって、前記第6の磁気ヘッド製造方法より製造した磁気ヘッドでは、使用時に高温環境下に置かれても、TMR素子2の抵抗値の低下による抵抗値の変化を抑制することができるのみならず、TMR素子2の抵抗値の上昇による抵抗値の変化も抑制することができる。
本発明では、第6の磁気ヘッド製造方法を、以下に説明するように変形してもよい。また、以下に説明する各変形内容は、適宜任意に組み合わせて前記第6の磁気ヘッド製造方法に適用することができる。
第1に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと、下地層4bとなるべき金属又は半導体の層を成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングとを、別々に行うのではなく、両者を兼ねたドライエッチングを行ってもよい。
第2に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと下地層4bとなるべき金属又は半導体の層の成膜とを、同一真空装置内で行い、両者の間で一旦大気中に出さなくてもよい。
第3に、下地層4bとなるべき金属又は半導体の層を成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第4に、下地層4bとなるべき金属又は半導体の層の酸化は、自然酸化に限定されるものではなく、例えば、プラズマ酸化、ラジカル酸化、イオンビーム酸化、オゾンに晒すなどの強制酸化を行ってもよい。このような強制酸化は、保護膜4aの成膜と同一の真空装置内で行ってもよいし、強制酸化の後でかつ保護膜4aの成膜前に一旦大気に出してもよい。
第5に、保護膜4aの成膜後に、当該磁気ヘッドの実使用環境上限以上の温度において熱処理を行ってもよい。このように予め積極的に熱処理を行うと、実使用時に、実使用の温度範囲において、トンネルバリア層26に対する酸素の出入りがより抑えられ、TMR素子2の抵抗値の変化がより少なくなるので、好ましい。
[第7の磁気ヘッド製造方法]
本発明の一実施の形態である第7の磁気ヘッド製造方法について、説明する。この磁気ヘッド製造方法は、第6の磁気ヘッド製造方法により製造される磁気ヘッドと同じ磁気ヘッドを製造する製造方法である。
第7の磁気ヘッド製造方法では、前記第3の磁気ヘッド製造方法を次のように変形したものである。
すなわち、第7の磁気ヘッド製造方法も、スメアを除去するためにラッピング処理後のバー102のABS側の面をエッチングするまでの工程は、前記第2の磁気ヘッド製造方法と同一である。ただし、スメアがTMR素子2の特性に影響しないレベルの場合は、スメア除去のためのエッチングは必ずしも必要ない。
第7の磁気ヘッド製造方法では、その後、バー102を一旦大気中に出した後に、下地層4bを成膜するのと同じ真空装置内で、表面清浄化等のためのスパッタエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを行う。
次いで、金属又は半導体(例えば、Al、Si等)の酸化物をターゲットとして用い、プロセスガスに酸素を用いることなくイオンビームデポジション又はスパッタを行うことで、バー102のABS側の面に下地層4bを成膜する。次に、下地層4b上に、保護膜4aとしてのDLC膜をプラズマCVD法等により成膜する。
その後、バー102のABS側の面のレール部11,12の領域以外の領域を選択的にエッチングして、レール部11,12を形成する。最後に、機械加工により切断してバー102を個々の磁気ヘッドに分離する。これにより、前述した磁気ヘッドが完成する。
前記第7の磁気ヘッド製造方法では、前述したように、金属又は半導体の酸化物をターゲットとして用いてプロセスガスに酸素を用いることなくイオンビームデポジション又はスパッタを行うことで、下地層4bを成膜するので、TMR素子2のABS側の端面に過剰に酸素が付着してしまうような状況を防止することができる。したがって、前記第7の磁気ヘッド製造方法により製造した磁気ヘッドでは、使用時に高温環境下に置かれても、TMR素子2の抵抗値の低下による抵抗値の変化を抑制することができるのみならず、TMR素子2の抵抗値の上昇による抵抗値の変化も抑制することができる。また、前記第6の磁気ヘッド製造方法では、下地層4bを形成するために、金属又は半導体の層を成膜した後にこの層を酸化させる工程を要するのに対し、前記第7の磁気ヘッド製造方法では、特別な酸化工程が不要であるため、製造が容易となりコストを低減することができる。
本発明では、第7の磁気ヘッド製造方法を、以下に説明するように変形してもよい。また、以下に説明する各変形内容は、適宜任意に組み合わせて前記第7の磁気ヘッド製造方法に適用することができる。
第1に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと、下地層4bを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングとを、別々に行うのではなく、両者を兼ねたドライエッチングを行ってもよい。
第2に、前述したスメア除去のためのドライエッチングと下地層4bの成膜とを、同一真空装置内で行い、両者の間で一旦大気中に出さなくてもよい。
第3に、下地層4bを成膜する前の表面清浄化等のためのドライエッチングは、行わなくてもよい。
第4に、下地層4bの成膜後でかつ保護膜4aの成膜前に、バー102を一旦大気に出してもよい。
第5に、保護膜4aの成膜後に、当該磁気ヘッドの実使用環境上限以上の温度において熱処理を行ってもよい。このように予め積極的に熱処理を行うと、実使用時に、実使用の温度範囲において、トンネルバリア層26に対する酸素の出入りがより抑えられ、TMR素子2の抵抗値の変化がより少なくなるので、好ましい。
[第8の磁気ヘッド]
図17は、第8の磁気ヘッドのGMR素子50及び誘導型磁気変換素子3の部分を模式的に示す拡大断面図である。図18は、図17中のB−B’矢視概略図である。図19は、図18中のGMR素子50付近を更に拡大した拡大図である。図17乃至図19は、図2、図3及び図5にそれぞれ対応している。図17乃至図19において、図1乃至5中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
第8の磁気ヘッドは、基本的に特許文献6に開示された磁気ヘッドと同様に、磁気抵抗効果層が電流経路制御層53を含むCPP−GMRヘッドとして構成しつつ、前記第1の磁気ヘッドと同じく、変化低減層4cを採用したものである。
第8の磁気ヘッドが第1の磁気ヘッドと異なる所は、以下に説明する点のみである。
第8の磁気ヘッドでは、図17乃至図19に示すように、TMR素子2に代えて、GMR素子50が形成されている。GMR素子50がTMR素子2と異なる所は、トンネルバリア層26に代えて非磁性金属層51,52が形成されるとともに、非磁性金属層51と非磁性金属層52との間に電流経路制御層53が形成されている。下側から順に形成されたピン層24、ピンド層25、非磁性金属層51、電流経路制御層53、非磁性金属層52及びフリー層27が、磁気抵抗効果層(第8の磁気ヘッドでは、いわゆるスピンバルブ膜)を構成している。非磁性金属層51,52は、例えば、Cu、Au又はAgなどの材料で形成される。
第8の磁気ヘッドでは、ピンド層25、非磁性金属層51,52、電流経路制御層53、フリー層27及びキャップ層28が実質的にちょうど重なっており、これらの重なり領域が、前記磁気抵抗効果層における磁気検出に有効に関与する有効領域(第8の磁気ヘッドでは、磁気抵抗効果層において膜面の略々垂直な方向に電流が流れる領域)となっている。第8の磁気ヘッドでは、前記第1の磁気ヘッドと異なり、ピン層24は、図17乃至図19に示すように、前記有効領域と重なる領域以外にも広く延在している。ピン層24の下面は、全面的に、下部金属層22,23を介して電極21の上面に電気的に接触している。なお、ピン層24の幅はフリー層27の幅と同じにしてもよい。
第8の磁気ヘッドでは、電流経路制御層53は、例えば、Ta、Al、Co、Fe、Niなどの酸化物からなる絶縁領域中に部分的に金属領域を有する層であり、酸化物層となっている。電流経路制御層53の厚さは、例えば、2nm以下にすることができる。電流経路制御層53は、絶縁領域中に金属領域が部分的に形成されているので、上部金属層27とフリー層26との間に流れるセンス電流のパスの面積を実効的に低減させ、前記有効領域の面積を実際には狭めることなく、前記有効領域の面積を狭めたのと同様の効果が得られる。なお、電流経路制御層53は、例えば、層24,25間、層25,51間、層52,27間、及び、層27,28間のうちの、いずれか1箇所以上に形成してもよい。また、例えば、層24,25,27のいずれかが複数層(複数の構成層)を積層したものである場合には、電流経路制御層53は、当該複数の構成層のうちの2つの層間に形成してもよい。
なお、前記第1の磁気ヘッドでは、上部電極31の下地層として上部金属層29が形成されていたが、第8の磁気ヘッドでは、上部金属層29は形成されていない。
第8の磁気ヘッドは、前記第2又は第3の磁気ヘッド製造方法と同様の製造方法によって製造することができる。
第8の磁気ヘッドでは、前記第1の磁気ヘッドと同様に、金属又は半導体の酸化物で構成された変化低減層4cが酸化物層からなる電流経路制御層53のABS側の端面に接しているため、当該磁気ヘッドを高温環境下に置いても、電流経路制御層53中に存在している酸素が電流経路制御層53から出て行き難くなって電流経路制御層53内に留まることになり、電流経路制御層53の抵抗値がさほど低下せずに、GMR素子50の抵抗値の変化が少なくなり、高温環境に対する特性の安定性が高まる。
なお、前記第1の磁気ヘッドを変形して前記第4の磁気ヘッドを得たのと同様の変形を、前記第8の磁気ヘッドに適用してもよい。この磁気ヘッドは、前記第5の磁気ヘッド製造方法と同様の製造方法により製造することができる。
[第9の磁気ディスク装置]
図20は、第9の磁気ディスク装置の要部の構成を示す概略斜視図である。
第9の磁気ディスク装置は、軸70の回りに回転可能に設けられた磁気ディスク71と、磁気ディスク71に対して情報の記録及び再生を行う磁気ヘッド72と、磁気ヘッド72を磁気ディスク71のトラック上に位置決めするためのアッセンブリキャリッジ装置73と、を備えている。
アセンブリキャリッジ装置73は、軸74を中心にして回動可能なキャリッジ75と、このキャリッジ75を回動駆動する例えばボイスコイルモータ(VCM)からなるアクチュエータ76とから主として構成されている。
キャリッジ75には、軸74の方向にスタックされた複数の駆動アーム77の基部が取り付けられており、各駆動アーム77の先端部には、磁気ヘッド72を搭載したヘッドサスペンションアッセンブリ78が固着されている。各ヘッドサスペンションアセンブリ78は、その先端部に有する磁気ヘッド72が、各磁気ディスク71の表面に対して対向するように駆動アーム77の先端部に設けられている。
第9の磁気ディスク装置では、磁気ヘッド72として、前述した第1、第4又は第8の磁気ヘッド、あるいは、前記第2、第3、第5、第6又は第7の磁気ヘッド製造方法により製造された磁気ヘッドが、搭載されている。したがって、第9の磁気ディスク装置によれば、環境温度に対する特性の安定性が高まる。
変化低減層4cを形成しない点を除き前述した第2及び第3の磁気ヘッド製造方法と同じ工程で、サンプル14の磁気ヘッドを製造した。サンプル14は、変化低減層4cを有しておらず、前記図7に示す比較例による磁気ヘッドに相当している。
第2の磁気ヘッド製造方法と同じ工程で、サンプル1〜8の磁気ヘッドを製造した。また、第3の磁気ヘッド製造方法と同じ工程で、サンプル9〜12を製造した。さらに、第5の磁気ヘッド製造方法と同じ工程で、サンプル13を製造した。サンプル1〜12の磁気ヘッドは第1の磁気ヘッドに相当し、サンプル13の磁気ヘッドは第4の磁気ヘッドに相当している。
サンプル14を製造する際には、変化低減層4cを形成せず、サンプル1〜8を製造する際には、表2に示す通りに材料及び膜厚を変えた金属又は半導体の層を成膜した後に自然酸化することで変化低減層4cを形成し、サンプル9〜12を製造する際には、表2に示す通りの材料をターゲットとして用いプロセスガスに酸素を用いることなくイオンビームデポジションを行うことで表2に示す通りの材料・膜厚を有する変化低減層4cを形成し、サンプル13を製造する際には、表2に示す通りバー102の表面(したがって、TMR素子2を構成するべく形成された各層のABS側の端部)を自然酸化させることで変化低減層4cを形成したが、その他の条件は、サンプル1〜14のいずれも同一とした。サンプル1〜14の主要な各層の構成は、下記の表1の通りとした。
サンプル1〜8の製造時において、変化低減層4cを形成する際の自然酸化は、バー102を30分間大気中に置くことにより行った。
また、サンプル9〜12の製造時において、変化低減層4cを成膜するイオンビームデポジションの条件は、次の通りとした。すなわち、イオンビームデポジション装置を用い、チャンバー内を残留ガス圧1×10−5Paまで真空引きし、ガス導入管からターゲット照射用イオンガンへArガスを8sccmの流量で導入し、チャンバー内にプロセスガスとして酸素を導入せず、ターゲット照射用イオンガンについては、加速電圧を1500V、加速電流を400mA、ニュートラライザーの電流を600mAとした。
さらに、サンプル13の製造時において、変化低減層4cを形成する際の、TMR素子2を構成するべく形成された各層の自然酸化は、バー102を30分間大気中に置くことにより行った。
そして、各サンプル1〜14について、125℃の環境下に240時間置く高温試験を行い、その高温試験の前後でTMR素子2の抵抗値を測定した。各サンプル1〜14について、測定した高温試験の前後の抵抗値から算出した抵抗変化率を、表2に示す。抵抗変化率は、下記の式に従って算出した。
抵抗変化率={(高温試験後の抵抗値−高温試験前の抵抗値)/高温試験前の抵抗値}×100 [%]
表2からわかるように、比較例のサンプル14では、抵抗変化率が−3.8%であり、高温試験後にTMR素子2の抵抗値が比較的大きく低下している。これに対し、第1の磁気ヘッドに相当するサンプル1〜12及び第4の磁気ヘッドに相当するサンプル13では、抵抗変化率が絶対値で1.1%以下であり、高温試験の前後のTMR素子2の抵抗値の変化が抑えられている。
なお、サンプル1〜13の変化低減層4cは、TMR素子2の動作に何ら支障を来さない程度の絶縁性を有していた。
なお、変化低減層4cに関する膜厚が表2に示す例に限定されるものではないことは、言うまでもない。
以上、本発明の各実施の形態等について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。