JP4076216B2 - アクリル系プラスチゾル組成物からなる自動車シール材の塗布方法 - Google Patents

アクリル系プラスチゾル組成物からなる自動車シール材の塗布方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はプラスチゾル組成物を用いた自動車シール材の塗布方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車の製造工程は、プレス工程→溶接工程→塗装工程→組立工程をこの順で有し、これらの工程を経て自動車が完成される。プレス、溶接は車体工場で行われ、溶接が終了した車体は塗装工場に移送され、塗装工場にて塗装が行われる。塗装工程は、特許文献1に開示されているように、洗浄・電着→シーラー塗布・床裏材料塗布・制振材料塗布→中塗り→上塗り、の各工程をこの順で有する。これが、従来の確立された塗装工程である。
【0003】
しかし、従来の自動車車体の塗装方法にはつぎの問題がある。電着塗装した上に床裏材料、制振材料を塗布するので、防錆性が過剰であり、電着塗料の使用量の増大、コストアップを招いている。床裏材料・制振材料・シーラーの塗布工程は、人ないしロボットが作業しており、塗装不良の多くを占めるブツの発生工程になっている。シーラー・床裏材料・制振材料の塗布工程が中塗り工程の直前にあるので、中塗り・上塗りでブツなどの塗装不良を完全になくすことは難しい。床裏材料・制振材料・シーラーの塗布工程での発塵が中塗り、上塗り工程で塗装不良を発生することを減少させるため、従来は、中塗り工程の前に大がかりな除塵装置を設けたり人が車体をワイピングして、車体をクリーンにした後、中塗り、上塗りを行っている。除塵装置を設けた場合は設備費が増加し、人が車体をワイピングする場合は人件費の増加を招く。
【0004】
そこで、特許文献2では、シール材の塗布工程を洗浄・電着工程よりも前に置いた自動車車体の塗装方法が提案されている。すなわちブツなどの塗装不良発生の原因となりやすいシール材塗布を中塗り、上塗り工程よりももっと初期の段階で行うことにより、除塵工程を設けることなく中塗り・上塗り工程での塗装不良発生を軽減することができ、かつ電着塗料の使用量を低減することを可能にするものである。
【0005】
しかしながら実際には、現在一般的に用いられているシール材を、洗浄・電着工程よりも前の段階で塗布しようとすると幾つかの不具合が発生するため使用が困難であった。具体的には、
I.車体が塗装工程にて加熱硬化されるまでの間の移動中や洗浄中など、塗布されたシール材が垂れたり変形したりしないよう簡単なプレヒート処理による仮硬化によって車体に仮接着させる必要があるが、従来のシール材では低温・短時間のプレヒート処理では仮硬化できない;
II.電着塗装を焼き付けるための加熱炉が高温であるため、従来のシール材ではここで熱劣化を起こしてしまう。これを回避しようとすると、熱安定剤などを多量に添加した高価なシール材を用いなけらばならず、また作業性も低下する;
といった点である。
【0006】
これらの不具合は、従来のシール材が塩化ビニル系重合体を用いたプラスチゾル組成物(塩ビゾル組成物)から成っているためと考えられる。塩化ビニル系重合体は、分子間に作用する強い凝集力により強靱な機械的特性を有しているものの、逆にそれが原因となって低温・短時間のプレヒートによって仮硬化させることができない。また塩化ビニル系重合体は本質的に耐熱性が低く、過度の加熱により褐色〜黒褐色に変色し、機械的特性も低下する。このように、従来のシール材を用いている限り、特許文献2に提案されるような塗装方法を現状の高い生産性を維持したまま実現するのは不可能である。
【0007】
一方、特許文献3では、塩化ビニル系重合体に代わりアクリル系重合体を用いたプラスチゾル組成物(アクリルゾル組成物)が提案されている。しかしながらアクリルゾル組成物を自動車用シール材として用いた場合、常温での十分な材料強度と、低温での十分な伸度とを両立するのが困難という点である。アクリル系重合体の特性として、分子間の凝集力(すなわち材料強度)を重視した場合には重合体のガラス転移温度(Tg)が上昇し、低温での伸びが低下する。逆に低温での伸びを重視してガラス転移温度を低く設定した場合、分子間の凝集力が低下するため、常温での材料強度が低下する。このようにアクリルゾル組成物を用いた場合には常温での強度と低温での伸度との両立という点で課題が残る。
【0008】
以上のように、塗装工程よりも前に塗布できる適当なシール材が提案されておらず、したがって塗装工程よりも前にシール材を塗布するという塗装方法を実現することができないのが現状であった。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−10694号公報
【特許文献2】
特開2001−137774号公報
【特許文献3】
国際公開第00/01748号パンフレット
【0010】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題をまとめると、
▲1▼ごく短時間のプレヒートで硬化し得ること
▲2▼電着塗装の焼付け条件において十分な耐熱性を有すること
▲3▼シール材の伸度が低温でも十分に得られること
▲4▼シール材の強度が十分に得られること
を満足するシール材を自動車の塗装工程よりも前の車体工程において塗布することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討を行い、アクリル系重合体を用いたプラスチゾル組成物を利用すれば上記▲1▼及び▲2▼については解決できること、また上記▲3▼については硬化後のシール材のゲル分率を十分に高くすること、さらに上記▲4▼については加熱硬化時に熱変性によって重合体自身のガラス転移温度及び溶解度パラメータが大きく変化するアクリル系重合体を用いることで、上記課題が達成できることを見出した。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明では、シール材を構成する素材としてアクリル系重合体微粒子を用いたプラスチゾル組成物を用いることが必要である。これは1つには、塩化ビニル系重合体微粒子と比較して、アクリル系重合体微粒子のほうが分子間の凝集力が弱いため、低温・短時間の加熱でも容易に可塑剤が侵入してゲル化し、垂れたり変形したりしない程度に仮硬化できる為である。例えば、塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、完全にゲル化が完了するためには120〜140℃以上の加熱を必要とするが、アクリル系プラスチゾル組成物の場合には80〜100℃程度の加熱があれば十分である。したがって本発明で必要な低温・短時間のプレヒートによる仮硬化が可能である。
【0014】
またもう1つの理由は、アクリル系重合体微粒子が耐熱性に優れるためである。一般的に塩化ビニル系重合体微粒子を用いた場合、130℃以上あたりから着色が始まり、さらに温度が高くなると褐色に変色し、それにつれて材料強度も脆くなっていく。これに対してアクリル系重合体の場合、200℃以上の高温では解重合により分解するが、それ以下の温度では安定であり劣化がきわめて少ない。したがって電着塗装を焼き付けるための条件である160℃前後の加熱では十分に安定であり、本発明が必要とする耐熱性は十分に有している。
【0015】
本発明では、エポキシ基を含有し、かつ可塑剤に相溶しないアクリル系重合体微粒子(以下、重合体Rという)を用いることが必要である。ここで言う可塑剤に相溶しないとは、重合体R中のエポキシ基がカルボキシル基含有化合物と化学反応する前の段階でのことを言う。本発明では、重合体R中のエポキシ基が、加熱硬化時にカルボキシル基含有化合物Aによる付加反応を受けることで、重合体Rの溶解度パラメーターが変化し、これによってはじめて可塑剤Pと重合体Rが相溶するようになることを特徴としている。重合体が可塑剤に相溶しない場合、プラスチゾル組成物のポットライフはたいへん長期にわたって維持できる。逆に重合体が常態ですでに可塑剤に相溶する場合はプラスチゾル組成物のポットライフはきわめて短く、あるいはちょっとした温度上昇(40〜50℃程度)によってゲル化が始まってしまう。通常、エポキシ基とカルボキシル基との定量的な反応には最低でも100℃以上が必要であるため、本発明の場合それよりも低い温度では重合体Rは可塑剤に対して相溶しないため、ポットライフを維持する上ではきわめて有利である。
【0016】
本発明で用いる重合体Rに含有されるエポキシ基の量については特に限定しないが、重合体Rを与える全モノマー中での組成比率に関して、その下限値については5モル%以上であるのが好ましく、上限値は50モル%以下が好ましい。エポキシ基の量がこれよりも少ない場合、カルボキシル基含有化合物が付加しても重合体Rの溶解度パラメーターが十分に変化せず、したがって重合体が可塑剤に相溶しないままであるため可塑剤がブリードアウトしたりシール材の低温伸度が十分に得られないといった問題が生ずる。エポキシ基の量がこれよりも多い場合には重合体の合成そのものが困難になる。
【0017】
本発明で用いるカルボキシル基含有化合物Aは特に限定しないが、例えば各種の脂肪酸類、具体的にはオレイン酸、オクチル酸(2−エチルヘキシル酸等)、ノニル酸(3,3,5−トリメチルヘキシル酸等)、等が挙げられる。これらは用いる可塑剤の種類に応じて、重合体Rが相溶化されるような種類のものを選択すれば良い。例えば可塑剤がフタル酸ジイソノニル(DINP)の場合にはオレイン酸など長鎖の脂肪酸を選択し、可塑剤がポリプロピレングリコール(PPG)の場合にはノニル酸やオクチル酸やそれ以下の短鎖の脂肪酸を選択できる。ただし脂肪酸が加熱時に揮発しやすいとシール材としての耐熱性が失われるため炭素数8以上の脂肪酸が好ましい。
【0018】
カルボキシル基含有化合物Aの添加量は特に限定しないが、重合体Rに含有されるエポキシ基の量に対して10〜200モル%が好ましい。重合体R中のエポキシ基の量にもよるが、配合比に換算するとおおよそ重合体Rに対して1〜50質量部程度である。これよりもカルボキシル基含有化合物の量が少ないと付加反応後の重合体の溶解度パラメーターの変化が小さく、重合体が可塑剤と良好に相溶しないため可塑剤がブリードアウトしたり、シール材の低温での伸度が十分に得られないといった問題が生ずる。これよりも添加量が多い場合、未反応のカルボキシル基含有化合物がシール材中に残存して強度を低下させる等の問題を生ずる。
【0019】
エポキシ基にカルボキシル基を付加させる反応においては、反応を促進するための触媒を添加することが好ましい。触媒の種類は特に限定されないが、テトラブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等のアンモニウム塩、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の3級アミン類、オクチル酸亜鉛等の亜鉛化合物、トリブチル錫オクタノエート等の錫化合物、トリフェニルホスフィン等のリン化合物、塩化リチウム等のリチウム化合物等が挙げられる。中でもハロゲン原子を含有しないものが好ましく、さらに好ましくはイミダゾール系触媒、とりわけ1,2−ジメチルイミダゾールが好ましく、他の触媒の場合よりも短時間・低温で反応を行わせることができるからである。
【0020】
なお本発明で利用しているエポキシ基とカルボキシル基との付加反応は、アクリル系重合体の可塑剤に対する相溶性を変化させることが目的であり、したがって用いるカルボキシル基含有化合物は単官能である。すなわち、ジカルボン酸など多官能のカルボキシル基をエポキシ基に付加させて重合体どうしの架橋反応を積極的に意図したものではない。このような架橋の形成を目的としたエポキシ基の利用はすでに公知の技術であるが、本発明におけるエポキシ基の利用はこれらの公知技術における目的とは明確に異なっている。
【0021】
本発明で用いる可塑剤Pは特に限定しないが、カルボキシル基含有化合物がエポキシ基に付加反応する以前の状態では重合体Rに対して相溶しないものであることが必要である。これは重合体の組成に応じて選択すればよく、利用可能な可塑剤の例としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸ジアルキル系、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸アルキルベンジル系、フタル酸アルキルアリール系、フタル酸ジベンジル系、フタル酸ジアリール系、あるいはリン酸トリクレシル等のリン酸トリアリール系、リン酸トリアルキル系、リン酸アルキルアリール系、さらにはアジピン酸エステル系、ポリエーテル系、ポリエステル系、エポキシ化大豆油等の大豆油系等が挙げられる。これらの可塑剤は1種を単独で用いるだけでなく、2種以上の可塑剤を混合して用いることも可能である。
【0022】
可塑剤Pの配合量は特に限定しないが、重合体R100質量部に対して60〜300質量部が好ましく、これよりも可塑剤量が少ないとプラスチゾルの粘度が高すぎて塗布作業が著しく困難になり、これよりも可塑剤量が多いとプラスチゾルの流動性が上がりすぎて塗布後のシール材が垂れてしまったり加熱硬化後のシール材の強度が十分に得られない等の問題が生ずる。
【0023】
本発明のシール材は、加熱硬化後のアセトン不溶分が20%以上であることが必要である。これはシール材の常温における強度を維持するために必要である。塩化ビニル系重合体と異なり、アクリル系重合体の場合には低温での伸びを得ようとしてガラス転移温度を低く設定すると、分子間の凝集力が不足するために常温での強度が低下する。
【0024】
本発明の場合、重合体R中のエポキシ基にカルボキシル基含有化合物が付加して可塑剤に相溶することで、重合体Rが可塑化され、シール材としてのガラス転移温度が著しく低下している。そのためシール材の低温での伸びは十分に高いものであるが、ただそれだけでは常温での強度が低下してしまうため、重合体Rに架橋等によるゲル成分を導入し、シール材としての強度を得ることが必要である。ゲル成分の量の指標としてアセトン不溶分が利用できる。ここで言うアセトン不溶分とは、自動車に塗布する際の加熱条件と同じ条件で加熱されたシール材を24時間アセトン中に浸漬した後にこれを取り出して十分に乾燥させた後の乾燥質量を、アセトンに浸漬する前の乾燥質量に対する質量パーセントで表したものである。
【0025】
シール材のアセトン不溶分が20%よりも小さい場合、シール材の常温(25℃)での強度が低下し、シール材としての機能を満足することができない。
【0026】
シール材のアセトン不溶分を20%以上にするための手段は特に限定しないが、以下のような手法が考えられ、いずれも有効である。例えば、アクリル系重合体それ自身にあらかじめ架橋性モノマーによるゲル成分を導入しておく手法、アクリル系重合体に熱架橋性モノマーを共重合しておき、シール材を加熱硬化させる時に同時にこれを架橋せしめる手法、プラスチゾル組成物中に架橋してゲルを形成し得る化合物を配合しておき、シール材を加熱硬化させる時に同時にこれを架橋せしめる手法、等である。あるいは、可塑剤としてプロピレングリコール等の水酸基を含有する化合物を用い、プラスチゾル組成物中にこれと反応し得る化合物、例えばブロックイソシアネート等を配合し、加熱によりこれをゲル化せしめる手法、等も有効である。
【0027】
本発明で用いる重合体Rを得るためのモノマーは特に限定しないが、使用可能なモノマーとして以下のものを例示できる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコ−ルの(メタ)アクリレート類、あるいはシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコ−ルの(メタ)アクリレート類。
【0028】
また官能基を含有するモノマーも利用でき、その例として、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸、2−サクシノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリル酸、2−マレイノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、メタクリル酸、2−フタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリル酸、2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有モノマー、アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、2−(メタ)アクリロイキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート類、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0029】
また重合体を架橋する目的で、以下の多官能モノマーを用いることも可能である。(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類。
【0030】
さらにその他のモノマーとして、アクリルアミド及びその誘導体として例えばジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等、さらにはスチレン及びその誘導体、酢酸ビニル、ウレタン変性アクリレート類、エポキシ変性アクリレート類、シリコーン変性アクリレート類も必要に応じて用いることができる。
【0031】
本発明で用いる重合体Rを製造する方法は特に限定せず、乳化重合法、ソープフリー重合法、縣濁重合法、微細縣濁重合法、分散重合法、等が挙げられる。ただし好ましくは乳化重合法あるいはソープフリー重合法であり、これによりプラスチゾルとして好ましい粒子径を有する重合体が容易に工業レベルで得ることができるためである。
【0032】
本発明で用いる重合体Rは、その粒子構造については特に限定せず、特に粒子構造を持たない均一の粒子であっても構わないが、好ましい粒子構造の例としては、組成が異なる複数の樹脂層からなるコアシェル構造または多段構造、あるいは樹脂組成が連続的に変化するグラディエント型構造が挙げられる。これらの粒子構造を用いることにより、必要に応じてさらに付加的な物性を導入することができる。
【0033】
本発明に用いる重合体Rは、本発明の必要構成要件を満たす限り、その粉体としての性状や構造は問わない。例えば重合で得られた一次粒子が多数集合して凝集粒子(二次粒子)を形成していても構わないし、またそれ以上の高次構造も可能である。ただしこのような凝集構造の場合、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態が好ましく、これにより可塑剤中での一次粒子の微細で均一な分散が達成される為である。
【0034】
本発明の自動車シール材には必要に応じてさらに種々の充填材を配合することが可能である。充填材の例としては炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、パーライト、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム、フライアッシュ、シラスバルーンなどが挙げられる。充填材の目的は樹脂と分散媒だけでは実現できない物性を実現するためであり、例えば硬度の付与である。また安価な充填材を配合することによりコストを抑えることも可能である。充填材の配合比率は限定しないが、重合体100質量部に対して50〜1000質量部が適当である。充填材の配合比率が50より少ない場合には、シール材が柔らかくなりすぎる。充填材の配合比率が1000より多い場合には重合体比率が低下するためシール材の強度や伸度が低下する傾向にある。
【0035】
本発明では更に必要に応じて、発泡剤、接着剤、カーボンブラック等の顔料、さらにミネラルターペン、ミネラルスピリット等の希釈剤、さらに消泡剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、等を自由に配合することが可能である。
【0036】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を表を用いて説明する。
【0037】
[重合体ラテックス(L1)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した500mlの4つ口フラスコに純水100gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、メチルメタクリレート2.0g、n−ブチルアクリレート1.0gを入れ、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、5.0gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.05gを一度に添加し、ソープフリー重合を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続した。
【0038】
引き続き、モノマー(メチルメタクリレート72g、n−ブチルメタクリレート14g、グリシジルメタクリレート14g)と乳化剤(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムをモノマー100gあたり1.0g)を均一に溶解した混合液を、20g/hrの速度で滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体ラテックス(L1)を得た。
【0039】
[重合体ラテックス(L2)、(L4)の調製]
重合体ラテックス(L1)と同様にして、重合体ラテックス(L2)及び(L4)を得た。ただし使用したモノマーは(L2)の場合がメチルメタクリレート60g、n−ブチルメタクリレート20g,グリシジルメタクリレート20g、であり、(L4)の場合がメチルメタクリレート86g、n−ブチルメタクリレート14gである。
【0040】
[重合体ラテックス(L3)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した500mlの4つ口フラスコに純水100gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、メチルメタクリレート2.0g、n−ブチルアクリレート1.0gを入れ、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、5.0gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.05gを一度に添加し、ソープフリー重合を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続した。
【0041】
引き続き、第1滴下としてモノマー(メチルメタクリレート39.5g、n−ブチルメタクリレート10g、エチレングリコールメタクリレート0.5g)と乳化剤(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムをモノマー100gあたり1.0g)を均一に溶解した混合液を、20g/hrの速度で滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体ラテックスを得た。
【0042】
引き続き、第2滴下としてモノマー(メチルメタクリレート30g、n−ブチルメタクリレート10g、グリシジルメタクリレート10g)と乳化剤(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムをモノマー100gあたり1.0g)を均一に溶解した混合液を、20g/hrの速度で滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体ラテックス(L3)を得た。
【0043】
[重合体ラテックス(L5)の調製]
重合体ラテックス(L3)と同様にして、重合体ラテックス(L5)を得た。ただし使用したモノマーは第1滴下がメチルメタクリレート20g、n−ブチルメタクリレート30gであり、第2滴下がメチルメタクリレート43g、n−ブチルメタクリレート7gである。
【0044】
[重合体粒子(A1)〜(A5)の調製]
得られた重合体ラテックス(L1)〜(L5)を室温まで冷却した後、スプレードライヤー(大河原化工機(株)L8型)を用いて、入口温度150℃、出口温度65℃、アトマイザ回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、それぞれのラテックスより重合体粒子(A1)〜(A5)を得た。
【0045】
[プラスチゾル組成物の調製]
表1に記載の配合処方に従って、重合体粒子、可塑剤、充填材、カルボキシル基含有化合物、及び触媒やその他の添加剤を計量し、真空ミキサー((株)シンキー製ARV−200)にて脱泡攪拌(10秒間大気圧で混合した後、20mmHgに減圧して50秒間混合)を行い、実施例1〜6および比較例1〜3の均一なプラスチゾル組成物を得た。
【0046】
【表1】
Figure 0004076216
【0047】
なお、表1において、PPGはポリプロピレングリコール(旭電化工業(株)製、アデカポリエーテルP−700)、DINPはジイソノニルフタレート、ノニル酸は3,5,5−トリメチルヘキサン酸(協和発酵(株)製、キョーワノイックN)、オレイン酸はカーク(株)製オレイン酸、TBABrはテトラブチルアンモニウムブロマイド、1,2−DMZは1,2−ジメチルイミダゾール、ソフトンは炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、ソフトン1000(表面未処理品))、ライトンは炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、ライトンUー26(表面未処理品))であった。また、無水マレイン酸にはカーク(株)製無水マレイン酸、ブロックイソシアネートには芳香族ブロックイソシアネートプレポリマー(旭電化工業(株)製、アデカレジンQR−9327)、ポリアミドアミンには変性ポリアミドアミン(旭電化工業(株)製、アデカハードナーQH−7039)をそれぞれ用いた。
【0048】
実施例1〜6および比較例1〜3のプラスチゾル組成物について、常温強度、低温伸度、貯蔵安定性、アセトン不溶分、耐熱性、ブリードアウトおよびプレヒート硬化性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
Figure 0004076216
【0050】
また、以下に測定方法および評価基準を説明する。
【0051】
[貯蔵安定性]
プラスチゾル組成物を35℃の恒温槽にて保温し、1週間後に取り出して再び粘度を測定した。プラスチゾルの増粘率を以下のようにして計算し貯蔵安定性を評価した。(単位:%)
{(貯蔵後の粘度/初期の粘度)−1}×100(%)
○ 30%以下
× 30%より大
粘度は、Brookfield型粘度計(東機産業(株)製、EH型粘度計)を用いて、測定温度25℃、回転数5rpmにおいて測定した。なお、初期の粘度は、プラスチゾル組成物を調製してから1時間以内に、測定した。
【0052】
[プレヒート硬化性]
低温・短時間での硬化を確認するため、プラスチゾル組成物をアルミ皿に5g入れ、100℃のギヤーオーブンで5分間加熱して取り出した。室温に冷却後、指で触って流動性が消失しているかどうか確認した。
○ 流動しない。
× 流動して変形する。
【0053】
[耐熱性]
プラスチゾル組成物を約10g程度正確に秤量し、180℃のギヤーオーブンで60分間加熱し、取り出した後、外観を観察した。
○ 白色〜やや黄色
× 褐色〜暗褐色
【0054】
[アセトン不溶分]
プラスチゾル組成物10.0gを180℃のギヤーオーブンで30分間加熱してゲル化させた。冷却し乾燥質量を測定後、常温で24時間アセトン中に浸漬した。アセトンから取り出し、十分に乾燥させた後の乾燥質量を測定した。アセトン不溶分は、アセトンに浸漬前の乾燥質量に対する、アセトンに浸漬後の乾燥質量の質量パーセントで示したものである。
○ 20%以上
× 20%未満
【0055】
[試験片の作成]
プラスチゾル組成物を離型紙を貼付したガラス板上にウエット厚2mmになるようにキャストし、これを180℃のギヤーオーブンで20分間加熱してゲル化させた。得られた塗膜を剥離した後、JIS K−7113記載の手法に従いダンベル形状2号型に裁断して試験片とした。
【0056】
[常温での強度]
試験片の常温での強度測定は、テンシロン測定器により引張試験時の破断点の強度を測定した。試験速度は50mm/分、ロードセル定格980N、測定した時の環境温度は25℃で行った。
【0057】
[低温での伸度]
試験片の低温での伸度測定は、テンシロン測定器により引張試験時の破断点の伸度を測定した。試験速度は50mm/分、ロードセル定格980N、測定した時の環境温度は−30℃で行った。
【0058】
[ブリードアウト]
可塑剤のブリードアウトの有無は、試験片を50℃の恒温槽にて5日間保管した後の、試験片表面への可塑剤の滲出を触感で判断した。
○ 可塑剤が殆ど表面に滲出していない
× 可塑剤がガーゼで拭き取れるほど滲出している
【0059】
[各例の考察]
<実施例1>
実施例1はエポキシ基を含有する重合体(A1)に対して炭素数9の脂肪酸であるノニル酸(3,3,5−トリメチルヘキサン酸)を付加させた例である。ここでは触媒としてアンモニウム塩系のテトラブチルアンモニウムブロマイド(TBABr)を使用している。この場合、重合体そのものは可塑剤であるポリプロピレングリコール(PPG)に相溶しないが、ノニル酸が付加することにより相溶性へと変化する。これにより低温伸度と貯蔵安定性がともに十分に得られた。またノニル酸との付加反応に寄与しなかったエポキシ基の一部が自己架橋し、アセトン不溶分も20%以上であり、これにより常温強度も満足できるものであった。
【0060】
<実施例2>
実施例2では触媒としてTBABrに代わりイミダゾール系の1,2−ジメチルイミダゾールを用いた例であるが、この場合にもエポキシ基とノニル酸との反応は速やかに進行する。なおここではブロックイソシアネートとポリアミドアミンとを添加することで、積極的に架橋反応を進めており、常温強度がより向上している。
【0061】
<実施例3>
実施例3では無水マレイン酸を配合することによりアセトン不溶分が増加し、常温での強度がさらに向上している。
【0062】
<実施例4>
実施例4ではエポキシ基を含有する重合体(A2)に対して炭素数18の脂肪酸であるオレイン酸を付加させた例である。この場合、重合体そのものは可塑剤であるジイソノニルフタレート(DINP)に相溶しないが、オレイン酸が付加することにより相溶性へと変化する。これにより低温伸度と貯蔵安定性がともに十分に得られた。
【0063】
<実施例5>
実施例5は実施例4にさらに無水マレイン酸を配合することによりアセトン不溶分が増加し、常温での強度がさらに向上している。
【0064】
<実施例6>
実施例6はエポキシ基を含有する重合体(A3)に対して炭素数18の脂肪酸であるオレイン酸を付加させた例である。この場合、重合体そのものは可塑剤であるジイソノニルフタレート(DINP)に相溶しないが、オレイン酸が付加することにより相溶性へと変化する。これにより低温伸度と貯蔵安定性がともに十分に得られた。なお重合体(A3)はコアシエル構造をしておりコア重合体はあらかじめ架橋性モノマーにより架橋されたゲル化構造をしている。したがってアセトン不溶分が20%以上であり、常温強度を十分に得ることができる。
【0065】
<比較例1>
比較例1は実施例1と同じ重合体粒子(A1)を用いながら、カルボキシル基含有化合物を配合しなかった場合である。この場合には重合体は加熱しても可塑剤であるPPGに相溶しないため、可塑剤はブリードアウトした。したがって重合体は十分に可塑化されておらず、シール材は硬く、低温伸度はきわめて低いものであった。
【0066】
<比較例2>
比較例2はエポキシ基を含有しない重合体粒子(A4)を用いた例であり、重合体自体は可塑剤であるPPGに対して相溶しない。ここではノニル酸を配合してはいるが、重合体はこれと反応することがないため、加熱後も可塑剤に対して相溶せず、可塑剤がブリードアウトする。重合体は可塑化されておらず、シール材は硬く、低温伸度はきわめて低いものであった。
【0067】
<比較例3>
比較例3はエポキシ基を含有しない重合体粒子(A5)を用いた例であり、重合体自体はもともと可塑剤であるPPGに対して相溶する。したがって貯蔵中に増粘してゲル化してしまい、ポットライフがきわめて短い。加熱により柔軟なシール材を与えるため低温伸度には優れるが、アセトン不溶分が少なすぎるため、常温強度が得られない。
【0068】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の自動車ボディー用シール材の塗布方法によれば、これまでは塗装工程の中で塗布されていたシール材を塗装工程の前にて塗布することができ、自動車の塗装作業における塗装効率などを飛躍的に向上できる。
【0069】
以上、本発明の工業的意義および地球環境保全にもたらす効果は著大である。

Claims (5)

  1. 可塑剤(P)と、エポキシ基を含有しかつ該可塑剤と相溶しないアクリル系重合体微粒子(R)と、加熱により前記エポキシ基と付加反応することで前記アクリル系重合体微粒子を前記可塑剤と相溶化させることが可能なカルボキシル基を含有する化合物(A)と、を必須成分とする自動車シール材を塗装行程よりも前の行程において塗布することを特徴とする自動車シール材の塗布方法。
  2. 前記自動車シール材は、さらに、前記付加反応を促進するための触媒を含有する請求項1記載の自動車シール材の塗布方法。
  3. 前記自動車シール材は、さらに、充填材を含有する請求項1または2記載の自動車シール材の塗布方法。
  4. 前記自動車シール材は、さらに、発泡剤、接着剤、顔料、希釈剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、およびレベリング剤の少なくとも1種を含有する請求項1,2または3に記載の自動車シール材の塗布方法。
  5. 前記加熱後のアセトン不溶分が、20%以上である請求項1記載の自動車シール材の塗布方法。
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