JP4075081B2 - 形質転換されたユーカリ属植物を作出する方法 - Google Patents

形質転換されたユーカリ属植物を作出する方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アグロバクテリウム菌を用いて形質転換されたユーカリ属植物を作出する方法に関し、さらに詳しくは、従来のアグロバクテリウム菌による形質転換方法によっては形質転換植物が得られなかったユーカリ属植物に対して、有効な形質転換植物の作出方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
植物育種技術として、従来より選抜あるいは交雑といった方法が広く利用されている。これらの方法は植物の遺伝子を大きな単位として扱う広義の遺伝子導入であると考えることができる。一方、遺伝子操作技術の進歩によって、特定の遺伝子の単離、その遺伝子の改変、及び植物への導入がいくつかの植物種で可能になってきている。これらの遺伝子操作技術を応用することによって、タバコ、イネ、トマト等の草本性植物において、実用性の高い育種が達成されつつある。しかしながら、一方では多くの植物において、遺伝子操作による植物育種が困難であり、その大きな理由として形質転換技術が未完成であることが考えられる。
【0003】
植物の形質転換技術は、(1)アグロバクテリウム菌を介して遺伝子を導入する生物的方法、(2)植物細胞に対して物理的あるいは化学的処理を行い、遺伝子を直接的に導入する方法に大別される。両方法は、対象とする植物の再分化系によって、使い分ける必要がある。すなわち、生物的方法を用いる場合は、組織からの形質転換植物の再分化を行う必要があり、また直接的方法の場合は、プロトプラストから再分化を行う必要がある。このような状況において、再分化系の確立されていない植物の場合、組織からの再分化系を確立することは、プロトプラストから再分化系を確立することより容易であることを考え合わせると、生物的方法によって形質転換する方が適用範囲が広いために、産業上有益であると考えられる。
【0004】
これまで、組織培養が困難であると考えられてきた木本性植物でも、アグロバクテリウム菌を用いる生物学的方法によって、ロブロリーパイン(Sederoff et al. Bio/Technology 4 : 647-649(1986))、ポプラ(Fillatti et al. Mol.Gen.Genet. 206 : 192-199(1987))、ウォールナット(McGranahan et al. Bio/Technology 6 : 800-804(1988))、リンゴ(James et al. Plant Cell Rep. 7 : 658-661(1989))、プラム(Mante et al. Bio/Technology 9 : 853-857(1991) )等で形質転換植物の作製に成功したことが報告されている。これらの木本性植物で形質転換植物の作製に成功した要因は、組織からの再分化系が確立されていることに起因していると考えられるが、これら以外の新たな植物種で再分化系を確立することは依然として困難である。
【0005】
一方、本発明者らは、ユーカリ属植物のプロトプラストからコロニーを経て植物体を再生する方法を既に提案している(特開平2−12631号公報)。さらに、そのプロトプラストに対して、エレクトロポレーション法によって遺伝子を導入した形質転換植物の作出法も提案している(特開平4−53429号公報)。しかしながら、これらの新規で有効な方法であっても、植物種が異なれば、新たにプロトプラストからの再分化系を確立しなければならない。さらに形質転換植物を得るまでに長期間を要するばかりでなく、形質転換植物が得られる頻度が低い等の点で改良の余地が残されていた。
【0006】
本発明者らは、苗条原基にアグロバクテリウム菌を感染させる形質転換法についても提案している(特開平2−138966号公報)。しかしながら、ユーカリ属植物ではアグロバクテリウム菌の苗条原基に対する感染性が低いため、アグロバクテリウム菌の感染材料として優れた組織の検討、あるいは感染性を向上させる要因を発見する必要が生じた。さらに固体培地上ではユーカリ属植物カルスからの再分化が困難である等の点で改良の余地が残されていた。
【0007】
そこで、本発明者らは、ユーカリ属植物の様々な組織に対してアグロバクテリウム菌の感染を行い、組織間での形質転換率を調べるとともに、最適組織における形質転換率を向上させる要因について検討した。さらに、アグロバクテリウム菌の感染によって形質転換された組織片を、感染処理後に抗生物質を含む培地で竪型回転培養することで、非形質転換細胞から区別するとともに、効率的に形質転換苗条原基を形成する本方法を完成した。このようにして得られた形質転換苗条原基からは容易に形質転換植物が再生される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アグロバクテリウム菌の感染性が低いユーカリ属植物を効率よく形質転換し、その形質転換細胞から効率よく形質転換植物を作出する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ユーカリ属植物の子葉あるいは胚軸からなる組織片をガラクトース及びアセトシリンゴンを添加した感染培地中で液体静置培養又は固体培養により感染培養してアグロバクテリウム菌に感染させた後、感染した組織片を抗生物質を添加した液体除菌培地中で型回転培養することによって除菌し、次に感染した組織片を抗生物質を添加した選抜培地中で型回転培養することによって形質転換細胞集塊を選抜し、選抜によって得られた細胞集塊をさらに光照射下で型回転培養することによって形質転換された苗条原基を作出し、得られた苗条原基を介して形質転換されたユーカリ属植物を作出することを特徴とする形質転換されたユーカリ属植物の作出方法に存する。
【0010】
また、本発明は、ユーカリ属植物の組織片として子葉或いは胚軸を使用することを特徴とする方法、その感染培地中にガラクトース及びアセトシリンゴンを添加することを特徴とする方法、感染培養が液体静置培養、又は固体培養であることを特徴とする方法及び除菌培養が液体回転培養であることを特徴とする方法にも存する。 以下、本発明の形質転換されたユーカリ属植物の作出方法について詳しく説明する。
【0011】
(アグロバクテリウム菌を感染させるための子葉、胚軸):
形質転換することを目的とするユーカリ属植物の子葉及び胚軸は種子を殺菌した後、植物の組織培養培地、例えばB5培地あるいはMS培地等の寒天培地上に置床して発芽させ、ピンセットとナイフを用いて無菌的に摘出したものを用いる。
【0012】
(アグロバクテリウム菌の調整):
アグロバクテリウム菌は、そのTiプラスミドを無毒化したもの、あるいは無毒化していない菌株を用意する。導入する遺伝子は、植物細胞内で発現するように改良した後に、Tiプラスミドベクターあるいはバイナリーベクターに結合し、アグロバクテリウム菌に形質転換して使用する(M−D,Chilton et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77 : 4060-4064(1980))、(L.Herrera-Estrella et al. Nature 303 : 209-213(1983))。上記の方法で得たアグロバクテリウム菌を、ベクターの適正量の選抜抗生物質を添加したL−液体培地(Miller Experiments in Molecular Genetics (1972) 10g/1 Bact-tryptone, 5g/1 Bact-yeast extract,5g/1 NaCl) にて、30℃、一晩でO.D.600 が0.8以上まで培養する。
【0013】
(アグロバクテリウム菌の感染):
子葉、胚軸の植物組織を、0.1%の界面活性剤(Tween-20) で洗浄処理した後、ナイフで2〜10mmの大きさに切断し、アグロバクテリウム菌感染培地、例えばWPM(Loyd & McCown Proc.Int.Plant Prop.Soc. 30 : 421-427(1980))、B5(Gamborg et al. Exp.Cell Res. 50 : 151-158(1968))、MS(Murashige & Skoog Physiol.Plant 15 : 473-497(1962)) 培地等に、植物ホルモンであるサイトカイニン類として1−(2−クロル−4−ピリジル)−3−フェニル尿素(4−PU)、ベンジルアデニン(BA)あるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてナフタレン酢酸(NAA)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)あるいはインドール酢酸(IAA)等と、ショ糖、ガラクトース、アセトシリンゴン及びアグロバクテリウム菌を添加した液体培地に植え付ける。さらに好ましくは、植物組織片をアグロバクテリウム菌培養液に漬けた後に、アグロバクテリウム菌以外を含有する固体培地に着床する。これを20〜30℃の温度、遮光条件下で1〜2日間静置培養し、アグロバクテリウム菌を感染させる。
【0014】
(アグロバクテリウム菌の除菌):
アグロバクテリウム菌を感染させた植物組織片を除菌培地、例えばWPM、B5、MS培地等に、植物ホルモンであるサイトカイニン類として4−PU、BAあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4−DあるいはIAA等と、アグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質、例えばカルベニシリン、バンコマイシン、クラフォラン等とショ糖を添加した液体培地に植え付ける。これを25℃の温度、0〜2000ルクスの照度下で3〜14日間竪型回転培養し、アグロバクテリウム菌の除菌を行う。
【0015】
(形質転換された苗条原基の形成):
アグロバクテリウム菌を完全に除菌した植物組織片を、基本培地として、例えばWPM、B5、MS培地等に、植物ホルモンであるサイトカイニン類として4PU、BAあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4−DあるいはIAA等と、炭素源、さらに形質転換された細胞集塊を選抜するために、目的導入遺伝子と同時に導入される選抜遺伝子に対応する抗生物質を添加した液体培地の中で竪型回転培養を行う。培養条件は1〜10rpmの回転速度、最高2,000〜20,000ルクスの照度、20〜30℃の温度とする。14〜40日間隔で新鮮培地へ継代して培養を継続すると、形質転換された細胞の選抜を始めてから1ケ月程度で、植物組織片中に黄白色の形質転換したカルス形成が認められる。得られたカルスを植物組織片からナイフによって切り離し、さらに竪型回転培養を継続することによって、光照射下で竪型回転培養をはじめてから40〜120日で形質転換された苗条原基が得られる。
【0016】
(形質転換植物の再生):
回転培養して得られた形質転換された苗条原基を、苗条を再生するための培地、例えば、B5培地、MS培地等に植物ホルモン類として、例えばNAA、2,4−D、IAA等のオーキシン類、BA、4−PU、カイネチン、ゼアチン、チジアズロン等のサイトカイニン類及び炭素源、さらに形質転換された細胞集塊を選抜するための抗生物質を添加した培地で培養する。培養は20〜30℃の温度、2,000〜3,000ルクスの照度で約60日間行って苗条を再生させ、さらに、発根させて完全な形質転換植物を得ることができる。
【0017】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
供試植物
ユーカリ属植物としてユーカリ・カマルドレンシス(Eucalyptus camaldulensis) を使用した。
(子葉、胚軸の作出):
ユーカリ・カマルドレンシスの種子を、10倍に希釈したアンチホルミンで1時間殺菌し、さらに、無菌的に70%の濃度のエタノールに15秒間、及び5倍に希釈したアンチホルミンに20分間浸漬して殺菌した。これを植物の組織培養培地であるB5寒天培地上で無菌的に発芽させた。発芽した植物から子葉及び胚軸をピンセットとナイフを用いて無菌的に摘出し実験材料とした。
【0018】
(アグロバクテリウム菌の調整):
アグロバクテリウム菌は、そのTiプラスミドを無毒化したLBA4404株(M.W.Bevan et al.Nucleic Acids Res. 12 : 8711-8721(1984) ) を使用した。導入遺伝子としてはいかなる遺伝子であろうとも、そのプロモーターを植物用のプロモーターに置換することによって発現させ得る。ここでは、市販品として入手可能なβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子をバイナリーベクターpBI121に結合し、アグロバクテリウム菌に形質転換して使用した(R.A.Jefferson et al.EMBO J. 6 : 3901-3907(1987) ) 。上記のβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を保有するアグロバクテリウム菌LBA4404/pBI121を、抗生物質であるカナマイシンを100μg/mlの濃度で含有するL−液体培地にて、一晩30℃で培養した。
【0019】
(アグロバクテリウム菌のユーカリ属植物組織への感染):
B5基本培地に3%のショ糖を加え、植物ホルモンとして0.02mg/l
NAAと0.2mg/l 4−PUを、さらに10mM ガラクトースと1μMアセトシリンゴンを添加し、さらに1%の濃度になるように前記の方法で調整したアグロバクテリウム菌LBA4404/pBI121の培養液を添加した感染培地を作製した。この培地に、ユーカリ属植物の子葉、胚軸の各組織片を0.1%の界面活性剤(Tween-20) で洗浄処理した後、ナイフで2〜10mmの大きさに切断して移植し、26℃の温度、遮光条件下で2日間静置培養して、アグロバクテリウム菌を感染させた。
【0020】
(アグロバクテリウム菌の除菌):
アグロバクテリウム菌を感染させた組織片より、アグロバクテリウム菌を除くために、B5基本培地に3%のショ糖を加え、植物ホルモンとして0.02mg/l NAAと0.2mg/l 4−PUを、さらにアグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質として、250μg/ml カルベニシリン、100μg/ml バンコマイシンを添加した除菌培地に移植した。これを25℃の温度、遮光条件下、2rpmの回転速度で7日間竪型回転培養して、アグロバクテリウム菌の除菌を行った。
【0021】
(形質転換された苗条原基の形成):
アグロバクテリウム菌を完全に除菌した組織片を、B5基本培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l 4−PU、3%ショ糖、および抗生物質ジェネチィシン(G418)を30μg/mlで添加した液体培地に、1本の試験管に対し3片の割合で植え付けた。25℃の温度、遮光条件下で7日間、さらに下辺が200ルクス上辺が20000ルクスの光照射下、2rpmの回転速度で1か月間竪型回転培養することによって、組織片中に黄白色で2〜3mmの形質転換したカルス形成が認められた。得られたカルスを14〜40日間隔で新鮮培地へ継代して培養を継続した。光照射下で竪型回転培養をはじめてから40〜120日で形質転換された苗条原基が得られた。
【0022】
(形質転換植物の再生):
回転培養して得られた形質転換された苗条原基より、形質転換された苗条を再生させるためにB5培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l BA、1% ショ糖、0.2% ゲランガム(和光純薬)及び30μg/ml G418を添加した固形培地に5mm程度の大きさに調整した苗条原基を移植した。そして、25℃の温度、照度4000ルクス、16時間光照射下で培養した結果、移植後1か月後には苗条の再生が認められた。得られた苗条はB5培地に0.01mg/l NAA、1% ショ糖、0.15% ゲランガム及び30μg/ml G418を添加した発根培地に移植することによって、1か月後には発根が認められ完全な植物体となった。すなわち、本方法の場合、植物組織片への感染から形質転換植物の作出まで5〜12か月を要した。
【0023】
(形質転換植物における導入遺伝子の存在確認):
抗生物質による選抜によって得られていた4個体について、サザンハイブリダイゼーション法を用いて導入遺伝子の存在を確認したところ、全個体において少なくとも1個以上、多い場合は数個の遺伝子が導入されていることが確認された。このことより本方法によるユーカリ属植物の形質転換が有効であることが証明された。
【0024】
(形質転換植物における導入遺伝子の発現確認):
サザンハイブリダイゼーションによって導入遺伝子の存在が確認された個体について、GUS遺伝子の発現を組織染色(S.Kosugi et al. Plant Science 70 : 133-140(1990)) によって調べたところ、葉の周囲、根端及び根毛において強いGUS遺伝子の発現が確認された。
【0025】
実施例2
ユーカリ・カマルドレンシスを無菌播種後、子葉、胚軸、根、及び成葉、野外植物の成葉に対して、実施例1と同様の感染培地を用いてアグロバクテリウム菌を感染させた後、実施例1と同様の方法によって形質転換カルスの作出を行った。そして、材料の違いによるアグロバクテリウム菌の感染率を形質転換カルス形成率で比較した。その結果、実験に用いた子葉断片の9.9%、胚軸断片の11.3%に形質転換カルスの形成がみられたのに対し、根断片では0%であった。またアグロバクテリウム菌による形質転換で一般的に使用される成葉を感染材料に用いた場合、アグロバクテリウム菌との共存培養によって葉色の褐変、あるいは、非形質転換細胞が生育する傾向にあり、形質転換カルスを得るのは困難であることが明らかになった。
【0026】
実施例3
ユーカリ・カマルドレンシスの子葉片とアグロバクテリウム菌との感染培養を行う時、感染培地中にガラクトースとアセトシリンゴンを添加しないこと以外は、実施例1と同じ方法で形質転換を行い、形質転換カルスの形成率でガラクトースとアセトシリンゴンの添加が形質転換率に与える影響を調べた。その結果、無添加の場合供試した20子葉片のうち1片に形質転換カルスが得られた。一方、添加した場合20子葉のうち3片に形質転換カルスが得られ、ガラクトースとアセトシリンゴンの添加がユーカリ属植物の形質転換率の向上に効果があることが明らかになった。
【0027】
実施例4
アグロバクテリウム菌の感染培養方法と除菌培養方法が形質転換率に与える影響を検討した。具体的には、実施例1と同様の方法によって調整したユーカリ・カマルドレンシスの子葉片をアグロバクテリウム菌に感染させる際、その感染培養と除菌培養において、寒天の有無以外実施例1と同じ成分を有する固体培地あるいは液体培地の静置培養又は回転培養を行うことによって、形質転換したカルスの数を調べた。その結果、表1に示したようにアグロバクテリウム菌の感染培養は液体静置培養、さらに好ましくは、固体培養で行い、除菌培養については液体回転培養で行うことで効率よく形質転換できることが明らかになった。
【0028】
【表1】
Figure 0004075081
【0029】
実施例5
実施例1と同様の方法でアグロバクテリウム菌感染を行ったユーカリ・カマルドレンシスの子葉片を除菌期間以外は実施例1と同じ方法で形質転換し、その除菌期間による形質転換率に与える影響を調べた。アグロバクテリウム菌感染直後に除菌を行った場合、形質転換カルスの形成率は0%であったのに対して、2日間では30%、7日間では43%に向上し、さらに14日間では40%の子葉片にカルスの形成が観察された。このことから、アグロバクテリウム菌の除菌に要する期間は7日間が好ましいことが明らかになった。
【0030】
比較例1
太田らが提案した方法(特開平4−53429号公報)に従い、ユーカリ・カマルドレンシスのプロトプラストに実施例1と同様に調整した遺伝子をエレクトロポレーション法で導入して形質転換植物を作出したが、これには約2年間を要した。
一方、アグロバクテリウム法による形質転換植物の作出は、感染から約5〜12か月で形質転換植物の作出ができる。このことからアグロバクテリウム法はエレクトロポレーション法よりも短期間で形質転換植物を作出することができることが明らかになった。
【0031】
比較例2
ユーカリ属植物の苗条原基に対して、実施例1と同様の感染培地を用いてアグロバクテリウム菌を感染させた後、実施例1と同様の方法によって形質転換カルスの作出を行った。その結果、形質転換したカルスの形成はなかった。
【0032】
比較例3
実施例1と同様の方法でアグロバクテリウム菌の感染を行ったユーカリ・カマルドレンシスの子葉を、除菌以降の過程で静置培養する以外は実施例1と同じ方法によって形質転換を行った。その結果、実施例1と同様に形質転換したカルスは得られたが、苗化培地に置床しても苗条は得られずカルスのまま増殖し、やがて枯死した。
【0033】
実施例6
(供試植物):
ユーカリ属植物としてユーカリ・グロブラス(Eucalyptus globulus)を使用した。
(子葉、胚軸の作出及びアグロバクテリウム菌の調整):
ユーカリ・グロブラスについても、実施例1と同様の方法によって行った。
(アグロバクテリウム菌のユーカリ属植物組織への感染):
実施例1と同様の方法によって、B5基本培地に3%のショ糖を加え、植物ホルモンとして0.02mg/l NAAと0.2mg/l 4−PUを、さらに10mM ガラクトースと1μM アセトシリンゴンを添加し、さらに1%になるようにアグロバクテリウム菌LBA4404/pBI121の培養液を添加したアグロバクテリウム菌の感染培地を作製した。この培地に、ユーカリ属植物の子葉、胚軸のそれぞれの組織片を、0.1%の界面活性剤(Tween-20) で洗浄処理した後、ナイフで2〜10mmの大きさに切断した組織片を移植し、26℃の温度、遮光条件下で2日間静置培養して、アグロバクテリウム菌を感染させた。
【0034】
(アグロバクテリウム菌の除菌):
アグロバクテリウム菌を感染させたユーカリ属植物組織より、アグロバクテリウム菌を除くために、植物組織片を除菌培地、B5基本培地に3%のショ糖を加え、植物ホルモンとして0.02mg/l NAAと0.2mg/l 4−PUを、さらにアグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質、250μg/mlカルベニシリン、100μg/ml バンコマイシンを添加した除菌培地に移植した。これを25℃の温度、遮光条件下、2rpmの回転速度で7日間竪型回転培養して、アグロバクテリウム菌の除菌を行った。
【0035】
(形質転換された苗条原基の形成):
アグロバクテリウム菌を完全に除菌した組織片を、B5基本培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l 4−PU、3% ショ糖、及び30μg/ml G418を添加した選抜培地に、1本の試験管に対し3片の割合で植え付けた。25℃の温度、遮光条件下で7日間、さらに下辺が2000ルクス上辺が20000ルクスの光照射下、2rpmの回転速度で1か月間竪型回転培養することによって、組織中に黄白色で2〜3mmのカルス形成が認められた。得られたカルスを14〜40日間隔で新鮮培地へ継代して培養を継続した。光照射下で竪型回転培養をはじめてから40〜120日で形質転換された苗条原基が得られた。
【0036】
(形質転換植物の再生):
回転培養して得られた形質転換された苗条原基より、形質転換された苗条を再生させるためにB5培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l BA、1% ショ糖、0.2% ゲランガム及び30μg/ml G418を添加した固形培地に5mm程度の大きさに調整した苗条原基を移植した。そして、25℃の温度、照度4000ルクス、16時間光照射下で培養した結果、移植後1か月後には苗条の再生が認められた。得られた苗条はB5培地に0.01mg/lNAA、1% ショ糖、0.15% ゲランガム及び30μg/ml G418を添加した発根培地に移植することによって、1か月後には発根が認められ完全な植物体となった。
【0037】
(形質転換植物における導入遺伝子の存在確認と発現確認):
形質転換によって得られた個体について、実施例1と同様にサザンハイブリダイゼーション法によって、導入遺伝子の存在確認を行ったところ、全個体において少なくとも1個以上、多い場合は数個の遺伝子が導入されていることが確認された。さらに、GUS遺伝子の発現を組織染色によって確認した。
【0038】
【発明の効果】
本発明によって、これまで形質転換植物の作出が困難であったユーカリ属植物においても、効率よく安定的にしかも短期間に形質転換植物の作出が可能になった。さらに、有用遺伝子導入によって、ユーカリ属植物の優良新品種を作出し、その新品種を形質転換過程で得られる苗条原基を用いることによって、短期間にしかもより安価に有用遺伝形質をもつ苗木を供給することが可能になった。

Claims (1)

  1. ユーカリ属植物の子葉あるいは胚軸からなる組織片をガラクトース及びアセトシリンゴンを添加した感染培地中で液体静置培養又は固体培養により感染培養してアグロバクテリウム菌に感染させた後、感染した組織片を抗生物質を添加した液体除菌培地中で型回転培養することによって除菌し、次に感染した組織片を抗生物質を添加した選抜培地中で型回転培養することによって形質転換細胞集塊を選抜し、選抜によって得られた細胞集塊をさらに光照射下で型回転培養することによって形質転換された苗条原基を作出し、得られた苗条原基を介して形質転換されたユーカリ属植物を作出することを特徴とする形質転換されたユーカリ属植物を作出する方法。
JP02305094A 1994-01-25 1994-01-25 形質転換されたユーカリ属植物を作出する方法 Expired - Lifetime JP4075081B2 (ja)

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