JP4074489B2 - 亜鉛基合金の酸化物除去方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、亜鉛基合金の表層に形成された酸化物を除去する亜鉛基合金の酸化物除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、Zn−Al−Cu−Mg系合金(所謂、ZAS合金)等の亜鉛基合金は、低融点であるとともに、強度および硬度が低いという性質を有している。このため、亜鉛基合金を鋳造材料として使用し、試作用の金型の他、複雑形状の鍵や鍵シリンダ等が製造されている。
【0003】
この種の亜鉛基合金の表層には、数μm程度の酸化膜(酸化物)が形成されている場合が多い。これにより、亜鉛基合金自体が低融点であることと相俟って、接合性や溶接性が低下するとともに、表面処理が困難なものとなってしまい、適用される範囲が相当に限定されている。従って、亜鉛基合金の表層に形成された酸化膜を除去することが望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、酸化膜の融点が1700℃付近であるのに対して、亜鉛基合金の融点が380℃程度である。このため、単純に加熱処理すると、酸化膜が溶融する前に、亜鉛基合金がフューム(蒸発気)化してしまうという問題が指摘されている。
【0005】
その際、科学的に酸化膜を除去する方法として、アルカリ洗浄や酸洗浄等が用いられており、めっきではこの種の方法が実際に行われている。ところが、めっきの性質上、湿式では対処することができないという不具合がある。また、イオンエッチング等による酸化膜の除去方法が知られているが、比較的大面積では、コストおよび処理効率の問題から好ましくないという問題がある。
【0006】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、亜鉛基合金の表層から酸化物を容易かつ確実に除去するとともに、前記表層に所望の硬度や強度を付与することが可能な亜鉛基合金の酸化物除去方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る亜鉛基合金の酸化物除去方法では、炭化水素化合物の粉末と、マグネシウム、アルミニウムまたはマンガンの少なくとも1種の金属粉末、あるいはマグネシウム合金、アルミニウム合金またはマンガン合金の少なくとも1種の合金粉末とが、有機溶媒中に分散されて粉末分散材が得られる。次いで、亜鉛基合金の表面に粉末分散材が塗布された後、前記亜鉛基合金が加熱処理されて酸化物が除去されるとともに、該亜鉛基合金の表層に合金層が形成される。
【0008】
一般的に、酸化物を還元して元の金属に戻す際には、水素による還元が効果的であることが知られている。ところが、水素還元では特殊な専用設備が必要となり、設備費が相当に高騰してしまう。このため、専用設備を用いずに酸化物の還元を効果的に行うことができ、その直後に合金化が図られれば、経済的であるとともに、酸化物が再び形成されることがなく、極めて実用的なものとなる。
【0009】
そこで、本発明では、炭素が酸素と結合する反応を利用して酸化物を除去することにより、上記の課題を解決するものである。
【0010】
具体的には、まず、炭素源として、溶媒に分散させた樹脂類を使用する。樹脂類は、必要な領域を効率的に還元し得るように、必要部に確実に塗布されるとともに、塗布した面に均一に薄い被膜状に展開されることが望ましい。これらの要件と、合金化させるための金属を分散させることが可能であるという要件とを加味すると、使用される樹脂類は、ニトロセルロースを含むセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリビニル、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂またはスチレン樹脂等が挙げられる。
【0011】
上記の樹脂類を溶媒に数%〜10%程度の割合でよく溶かし、金属粉末とともに分散液(分散材)を形成する。溶媒は、アセトン、トルエンまたはシンナー等を用いるとともに、必要に応じて展開剤等が配される。
【0012】
また、炭素による還元は、亜鉛基合金の融点以下の温度、すなわち、250℃〜350℃程度までに制限される。このため、低温でも還元反応が行われるように、樹脂分子の分子連鎖があまり大きくないものを選択することが望ましく、可能であれば重合前のモノマーがよい。
【0013】
上記の還元反応による還元効率が100%とはならないため、酸素が過少に残存する際にも合金化の進行が可能な合金組成を選択する。この合金組成は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)またはマンガン(Mn)の少なくとも1種から選択される。これらは、亜鉛より酸素との結びつきが大きく、前記亜鉛が再度酸化されることを有効に阻止することができるからである。
【0014】
さらに、上記の金属の少なくとも1種は、酸素の拡散がより迅速な金属と混合されると好適である。この種の金属としては、ニッケル(Ni)、錫(Sn)または銅(Cu)等から選択される少なくとも1種であり、混合乃至合金化して粉末状に形成されることが望ましい。この種の金属は、250℃〜350℃の温度範囲でその金属中の酸素の拡散が桁違いに速く、合金化効率および合金化進度を大きく向上させることが可能になる。そして、合金化が進行すれば、融点も上昇し、350℃以上の加熱が進行して合金化がさらに促進される。
【0015】
亜鉛基合金の表層に形成される合金は、真鍮、青銅、アルミニウム青銅等が挙げられる。その中、真鍮は、強度や耐摩耗性および耐蝕性等を向上させることができるため、好適である。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態に係る亜鉛基合金の酸化物除去方法の工程を示す説明図である。
【0017】
母材10は、亜鉛または亜鉛合金で構成されており、具体的にはZn、Zn−Al、Zn−Sn、またはZn−Al−Sn系合金が使用される。この母材10には、加工機12による加工処理が施されて加工面14が形成される。
【0018】
次いで、加工面14には、粉末分散材16が塗布機18を介して塗布される。この粉末分散材16は、炭化水素化合物の粉末と、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)またはマンガン(Mn)の少なくとも1種の金属粉末、あるいはマグネシウム合金、アルミニウム合金またはマンガン合金の少なくとも1種の合金粉末とを、有機溶媒中に分散させて構成されている。
【0019】
炭化水素化合物は、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニル、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂またはスチレン樹脂の少なくとも1種である。合金化に使用される金属としては、ニッケル(Ni)、錫(Sn)または銅(Cu)が挙げられる。
【0020】
粉末分散材16が塗布された母材10は、加熱装置20に配置される。この加熱装置20は、バーナーやヒーター等の加熱源22を備えており、母材10が前記加熱装置20内で不活性雰囲気、例えば、窒素ガス(N2ガス)雰囲気下で加熱処理される。その際、加熱温度は、母材10の融点以下の温度である250℃〜350℃の温度範囲内に設定される。これにより、母材10の表層には、この母材10よりも硬質な合金層30が設けられる。
【0021】
この場合、本実施形態では、母材10の表面に炭化水素化合物の粉末を含む粉末分散材16が塗布された後、この粉末分散材16が250℃〜350℃の温度範囲内で加熱される。このため、母材10の表層に酸化膜(酸化物)が形成されていると、この酸化膜が炭化水素化合物中の炭素によって還元されるとともに、前記母材10がフューム化することがない。
【0022】
従って、水素による還元のように特別な専用設備を用いる必要がなく、簡単な構成および工程で、母材10に形成された酸化膜を有効かつ確実に除去することができるという効果が得られる。
【0023】
さらに、本実施形態では、粉末分散材16が母材10の構成材料である亜鉛よりも酸素との結びつきが大きなマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)またはマンガン(Mn)の少なくとも1種の金属粉末、あるいは、それぞれの合金粉末を含有している。これにより、母材10の表層に、再度、酸化膜が形成されることを阻止することができ、以後の合金化が円滑に遂行される。
【0024】
さらにまた、酸化膜が除去された母材10の表層には、ニッケル(Ni)、錫(Sn)または銅(Cu)を含む合金層30が設けられる。このため、母材10では、実際に使用される表面の融点、強度および耐熱性は、亜鉛または亜鉛合金に比べて相当に高くなり、耐摩耗性、耐熱性および耐衝撃性等の物性の向上が確実に図られる。
【0025】
【実施例】
亜鉛合金として、Zn−Al−Cu−Mg系合金(ZAS材)製の母材10が用意された。この母材10の表面を加工して加工面14が形成されるとともに、その加工面14を、表面粗さで1.6S〜3.2Sに仕上げた後に、脱脂処理が施された。
【0026】
粉末分散材16は、ニトロセルロースを5%、アセトンを80%、エタノールを10%およびエチルセルソルブを5%に調整した溶液に、粒度が5μm以下のMn−Cu合金粉末(Mn:Cuが40:60)を25%だけ分散させた。
【0027】
次いで、母材10の加工面14の全面に、粉末分散材16を1.0mmの厚さになるように塗布した後、1昼夜室温に放置して乾燥させた。その後、母材10の加工面14は、窒素雰囲気で加熱された。この加熱条件は、10℃/minの速度で昇温した後、250℃で30minだけ保持した。さらに、340℃〜350℃まで1時間をかけて昇温した後、炉冷した。冷却された母材10は、中央部で切断され、鏡面仕上げが施されるとともに、組織観察および硬度測定が行われた。
【0028】
その結果、加工面14に塗布された1.0mmの塗布物は、その厚さが約0.3mmに減少していた。塗布した際の金属密度が40%〜50%であり、加熱中に緻密化したが、想定される厚さよりも薄いことから、その金属成分が母材10の内部に浸透拡散したものと推定される。
【0029】
母材10の表面から1.5mm程度までの表層は、黄色乃至黄金色に変色しており、真鍮層が確実に形成されていた。この表層では、結晶がデンドライドから立方晶や等軸晶等に変化しており、結晶粒は1.0mm〜1.5mmから30μm〜40μm程度に小さくなっていた。
【0030】
上記の表層よりも下の層は、ZAS材の結晶組織とは明らかに異なっていた。すなわち、デンドライドが部分的に存在するものの、これを取り囲む部位が変化していた。この部位は、EPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer )分析の結果、Zn−Mn合金と判明し、その厚さが約50mmであった。
【0031】
この硬度分布が、図2に示されている。これにより、母材10の表層は、ZAS材成分に比べて硬度が良好に向上していた。さらに、母材10の表層には、境界部分が殆ど認識されず、酸化膜が効果的に除去されて合金化が進展したことが確認された。
【0032】
【発明の効果】
本発明に係る亜鉛基合金の酸化物除去方法では、亜鉛基合金の表面に炭化水素化合物の粉末を含む粉末分散材が塗布された後、この粉末分散材が加熱されるため、前記亜鉛基合金の表層に形成されている酸化物が、前記炭化水素化合物中の炭素によって還元される。従って、水素による還元のように特別な専用設備を用いる必要がなく、簡単な構成および工程で、亜鉛基合金の表層に形成された酸化膜を有効かつ確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る亜鉛基合金の酸化物除去方法の工程を示す説明図である。
【図2】母材の表面から内方における硬度分布を示す説明図である。
【符号の説明】
10…母材 12…加工機
14…加工面 16…粉末分散材
18…塗布機 20…加熱装置
22…加熱源 30…合金層

Claims (4)

  1. 亜鉛基合金の表層に形成された酸化物を除去する亜鉛基合金の酸化物除去方法であって、
    炭化水素化合物の粉末と、マグネシウム、アルミニウムまたはマンガンの少なくとも1種の金属粉末、あるいはマグネシウム合金、アルミニウム合金またはマンガン合金の少なくとも1種の合金粉末とを、有機溶媒中に分散させて粉末分散材を得る工程と、
    前記亜鉛基合金の表面に前記粉末分散材を塗布する工程と、
    前記亜鉛基合金を加熱処理して前記酸化物を除去するとともに、該亜鉛基合金の表層に合金層を形成する工程と、
    を有することを特徴とする亜鉛基合金の酸化物除去方法。
  2. 請求項1記載の酸化物除去方法において、前記炭化水素化合物は、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニル、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂またはスチレン樹脂の少なくとも1種であることを特徴とする亜鉛基合金の酸化物除去方法。
  3. 請求項1又は2記載の酸化物除去方法において、前記亜鉛基合金は、250℃〜350℃の温度範囲内で加熱処理されることを特徴とする亜鉛基合金の酸化物除去方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物除去方法において、前記亜鉛基合金としてZAS合金を使用することを特徴とする亜鉛基合金の酸化物除去方法。
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