JP4073366B2 - 一体型多層分析要素 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性液体試料中の被検出物質(検体)分析用の、改良された一体型多層分析要素に関する。更に詳しくは、例えば、血液(全血、血漿、血清)、髄液、リンパ液、唾液、尿、赤血球、ビリルビン等の様な生物体液中の検体、あるいはその他の水性試料中の検体を定量的に分析するのに適する、乾式操作可能な改良された一体型多層分析要素に関する。このような一体型多層分析要素は、臨床血液検査において特に有用である。
【0002】
【従来の技術】
乾式分析要素の例として、透明支持体の上に、呈色反応試薬と親水性ポリマーバインダーを含む吸水性の試薬層と、最外層に多孔性展開層(以下、単に展開層ともいう)を設けた、一体型多層分析要素(以下、単に多層分析要素ともいう)が、多数提案されている。多層分析要素の展開層は、その上側(透明支持体から遠い側)表面に点着供給された水性液体試薬(例えば、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、唾液、髄液、尿等の生物体液、飲料水、酒類、河川水、工場排水等)を、液体試料中に含有されている成分を実質的に偏在させることなしに、横方向(展開層に沿う平面方向)に拡げ、単位面積当たり実質的に一定容量の割合で、親水性ポリマーバインダーを含む吸水性の試薬層又は親水性ポリマーバインダーを含む吸水性層に供給する作用(メーターリング作用)をする層である。
【0003】
従来、以下のような多孔性展開層が知られている。
(1) 織物布地展開層(例えば、特許文献1及び2)
(2) 編物布地展開層(例えば、特許文献3)
(3) 有機ポリマー繊維パルプ含有抄造紙展開層(例えば、特許文献4)
(4) 繊維と親水性ポリマーの分散液を塗布して形成した展開層等の繊維質多孔性展開層(例えば、特許文献5)
(5) メンブランフィルター層(ブラッシュポリマー層)(例えば、特許文献6及び7)
(6) ポリマーミクロビーズがポリマー接着層で点接触状に接着されてなる連続空隙含有等方的多孔性層(三次元格子状粒子構造物層)のような、非繊維等方的多孔性展開層(例えば、特許文献8)。
【0004】
乾式分析要素の別の一形態として、光反射性又は不透明支持体の上に、呈色反応試薬と吸水して溶解又はゾル化する親水性ポリマーバインダーを含む試薬層と、その上に多孔性検出層を設けた多層分析要素が知られている(例えば、特許文献9)。この形態の多層分析要素の多孔性検出層としては、前記の展開層と同様の素材を用いることができる。以下では、特に断らない限り、展開層についての記述には、多孔性検出層をも含めるものとする。
【0005】
一方、血中ヘモグロビン濃度やビリルビン濃度を測定する場合には、水不透過性の支持体上に、呈色反応試薬を含まない親水性ポリマー層(バインダー層)、多孔性展開層が積層された一体型多層分析要素が用いられる(例えば、特許文献10)。この場合には、これらの検体を含む試料を展開層に供給して、展開された検体の濃度(例えばヘモグロビンの赤色)を光学的に測定する。
【0006】
これらの展開層の中で、織物布地又は編物布地からなる展開層(布展開層)は、液体試料として血液を用いる場合に、全血、血漿、血清のいずれをも良好に展開することができ、かつ多層分析要素の製造の容易さ、要素の堅固さ等の種々の観点で優れている。
【0007】
ところで、展開層は、水性液体試料中の水を実質的に吸収保持しないで、単に展開することが好ましい。従って、布展開層に用いる繊維は、疎水性有機ポリマー繊維が好ましい。しかし、疎水性有機ポリマー繊維からなる布を、上記特許文献1又は特許文献3に記載のように、薄いゼラチン接着層を介して、親水性の試薬層の上に接着ラミネートした多層分析要素においては、展開層の接着力が弱くて、下側の試薬層又は接着層との接着が一様になりにくく、そのために展開精度が低く、十分な分析精度が得られない。
【0008】
この問題を解決する手段として、グロー放電、コロナ放電等で処理した布地を展開層として用いることが試みられたが、新たな欠点が生じることが判明した(例えば、特許文献11、第2頁右下欄1〜20行)。従って、特許文献11においては、多孔性展開層として表面に微細凹凸が設けられた繊維を含む糸からなる布地を用いて、問題を解決している(同、第3頁右上欄11行〜左下欄4行)。
【0009】
しかしながら、近年、例えば臨床血液検査分野において乾式分析要素が広く用いられ、これに伴い、より高精度の検査結果が得られる乾式分析要素が求められており、従来の展開層では応え難くなっている。
【0010】
【特許文献1】
特開昭55−164356号公報
【特許文献2】
特開昭57−66359号公報
【特許文献3】
特開昭60−222769号公報
【特許文献4】
特開昭57−148250号公報
【特許文献5】
特開昭57−125847号公報
【特許文献6】
特公昭53−21677号公報
【特許文献7】
米国特許3992158号明細書
【特許文献8】
特開昭55−90859号公報
【特許文献9】
特開昭60−14141号公報
【特許文献10】
特公平1−33782号公報
【特許文献11】
特開平1−172753号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来よりも精度の高い検査結果が得られる一体型多層乾式分析要素を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題は、多層分析要素の展開層として、単位面積当たりの検体保持量を均一にし、更に保持量を上げた織物又は編物を用いることにより達成された。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る多層分析要素について詳細に説明する。多層分析要素は、一般的には、光透過性で水不透過性支持体、又は光反射性又は光不透過性で水不透過性支持体の上に、少なくとも親水性ポリマーバインダーを含む吸水層及び繊維質の布地からなる多孔性展開層をこの順に設けた形態である。なお、以下の説明においては、血液検査に用いられる一体型乾式分析要素を例として挙げるが、本発明に係る多層分析要素は、他の分野においても利用可能である。
【0014】
上記光透過性で水不透過性支持体としては、従来公知の多層分析要素に使用されている支持体を用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ビスフェノールAのポリカルボネート、ポリスチレン、セルロースエステル(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート等)のポリマーからなる、厚さ約50μm〜約1mm、好ましくは約80μm〜約300μmの範囲の、透明な、例えば波長約200nm〜約900nmの範囲内の少なくとも一部の波長範囲の電磁波輻射線を透過させる、フィルム(シート)又は平板を、支持体として用いることができる。支持体の表面には、必要に応じて、公知の下塗り層又は接着層を設けて、支持体の上に設けられる吸水層又は試薬層等と支持体との接着を強固にすることができる。支持体には、二酸化チタンや硫酸バリウムの微粒子等を少量分散含有させて、半透明又は半乳白色にして、光学的性能を調節することができる。
【0015】
光反射性又は光不透過性で水不透過性支持体としては、前記の透明ポリマー支持体に、不透明となる量の二酸化チタンや硫酸バリウムの微粒子を含有させたもの、前記の透明ポリマー支持体に用いられるのと同様なポリマーを含浸又は表面にコーティングした紙、セラミックスシート、乳白色ガラスシート等を用いることができる。これらの内で、前記透明ポリマー支持体に不透明になる量の二酸化チタンや硫酸バリウムの微粒子を分散含有させた支持体が好ましい。厚さは、上記と同様、約50μm〜約1mm、好ましくは約80μm〜約300μmの範囲である。
【0016】
吸水層は、水を吸収して膨潤する親水性ポリマーを主成分とする層で、吸水層の界面に到達又は浸透した水性液体試料の水を吸収できる層であり、その上の層(展開層に近い側の層)から供給される水性液体試料を吸収すると共に、その下の層への浸透を促進する作用を有する。吸水層は、検体を検出するための輻射線を透過させる(即ち透明である)ことが好ましい。
【0017】
吸水層の形成に用いられる親水性ポリマーバインダーは、水吸収時の膨潤率が30℃で約150%〜約2000%、好ましくは約250%〜約1500%の範囲のポリマーである。具体的には、酸処理ゼラチン、脱イオンゼラチン等のゼラチン及びフタル化ゼラチン、ヒドロキシアクリレートグラフトゼラチン等のゼラチン誘導体(特開昭59−171864号公報、特開昭60−115859号公報等に記載)、アガロース、プルラン、プルラン誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(特開昭59−171864号公報、特開昭60−115859号公報等に記載)等がある。これらの親水性ポリマーは単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。吸水層には、一般的にはゼラチン又はゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド、又は/及びポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。乾燥時の吸水層の厚さは、約3μm〜約100μm、好ましくは約5μm〜約30μmの範囲であり、被覆量では約3g/m2〜約100g/m2、好ましくは約5g/m2〜約30g/m2の範囲である。
【0018】
吸水層の上に設けられる展開層は、既述の様にメーターリング作用を有し、高精度の検査結果を得るために重要な役割を果たしている。一般的に、優れたメーターリング作用を得るためには、空隙率の高い布地等の使用が好ましいと考えられる。しかし、通常の繊維で作成した布地の空隙率を、例えばガーゼの様に高めると、取扱い性が低下して実質的に製造工程に乗せることができない。
【0019】
本発明においては、この高い空隙率と取扱いの安定性という、布地に対する相反する課題を、溶解性部と非溶解性部を有する繊維を用いて織物又は編物布地を形成した後に、溶解性部を溶解して得られた布地、あるいは溶解性繊維と非溶解性繊維を混成編製織した後に、溶解性繊維の一部を溶解して得られた布地を用いることにより解決した。このような布地の内部には、均一かつ有効な空隙が存在する。
【0020】
このような繊維や布地の製造方法の詳細は、例えば特開2001−123350号公報、特開2000−234214号公報等に記載されているが、以下概略を説明する。
【0021】
繊維は、長繊維、短繊維のいずれでも良い。素材としては、綿、ウール等の天然素材でも、レーヨン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の化学繊維のいずれでも良い。
【0022】
本発明に於いて、溶解性部(溶解性繊維)とは、後述する所定の処理を施すことにより、元の重量に較べて約10%以下になるまで溶解する部分(繊維)をいう。一方、非溶解性部(繊維)とは、同様の処理を施したときに、元の重量に較べて約80%以上残る部分(繊維)をいう。
【0023】
所定の処理は、溶解性部と非溶解性部の組み合わせにより決まり、例えば、ポリエステルとレーヨンの場合はアルカリによる処理、ナイロンとポリプロピレンでは酸による処理、ビニロンとポリエステルでは熱水による処理が挙げられる。更に、溶解性の異なる同一素材を組み合わせることもできる。例えば、ポリエステルの場合は、変性度の高低によりアルカリに対する溶解性が異なり、高変性度のポリエステルを溶解性部として、低変性度のポリエステルを非溶解性部として使用できる。
【0024】
前記所定の処理前の繊維における溶解性部と非溶解性部の比率、あるいは所定の処理前の布地における溶解性繊維と非溶解性繊維の比率は、布地の加工性、有効で且つ均一な空隙の作成の観点から、重量比で2:8〜6:4の範囲が好ましい。非溶解性部(繊維)が多すぎると空隙ができにくく、溶解性部(繊維)が多すぎると、溶解性部(繊維)を溶解した後の布地の取扱い性や空隙の均一性が悪化する。
【0025】
溶解性を有する部分と非溶解性を有する部分を布地内に成編製織する方法としては、それぞれ単独の糸を用いて交編織する、両者を糸の段階で予め混繊し、その糸を用いて成編製織する、溶解部と非溶解部からなる芯鞘構造の糸を形成して(いずれを芯とするかは任意である)、その糸を用いて成編製織する、のいずれの方法も使用できるが、均一性の観点からは、溶解部と非溶解部からなる芯鞘構造の糸を形成して、その糸を用いて成編製織する方が好ましく、また、糸の段階で予め混織等する方が次いで好ましい。混繊の方法としては、長繊維では、紡糸混繊、交撚、エア加工等が挙げられ、短繊維では、混綿紡績、交撚等が挙げられる。
【0026】
このような、均一性が高く空隙も高い比率で有する布を多層分析要素の展開層として使用すると、平織布でも高空隙率が得られ、多層分析要素に供給する液量の許容幅が広がるという効果が得られる。この際、透明支持体を通して反応結果を光学的に検出する型の多層分析要素では、展開層によって反射される光が増えて感度が高まるので、織編密度がより高い方が好ましい。一方、展開層の下の、呈色反応試薬と吸水して溶解又はゾル化する親水性ポリマーバインダーを含む試薬層中で反応を起こさせて、展開層側から光学的に検出する型では、織編密度がより低くても使用できる。
【0027】
なお、原理的には布地の構造は問わず、諸種の構造の布地を用いることができるが、織物布地では平織物(例えば、ブロード布地、ポプリン布地)が好ましい。編物布地としても諸種の構造の布地を用いることができるが、経緯ともメリヤス編みの布地が好ましい。このような編物布地は、特開平1−172753号公報の7頁右上欄16行〜左下欄2行に詳しく記載されている。
【0028】
布地には、特開昭55−164356号公報、特開昭57−66359号公報、特開昭57−148250号公報等に記載の界面活性剤、好ましくはノニオン性界面活性剤水溶液の含浸、塗布又はスプレー等の処理、特願昭61−164570号公報に記載の親水性ポリマー水溶液の含浸、塗布又はスプレー等の処理、特開昭60−222770号公報に記載の親水性セルロース誘導体とHLB値10以上のノニオン性界面活性剤の水溶液の含浸、塗布又はスプレー等の処理、及びこれらの2種以上の処理を組み合わせて処理することができる。これらのいずれかの処理により、下側の層との接着の強化、メーターリング作用、又は検体のヘマトクリット値対応のメーターリング作用等をコントロールすることができる。
【0029】
前記支持体と吸水層の間には、検体に応じて種々の層を設けることができ、更に、支持体以外の層中に、種々の、検体と反応して検出可能な反応を起こす試薬を含有させることもできる。以下、血液等の中に存在する検体を例として、種々の層を設けた一体型多層分析要素について概略を説明する。
【0030】
検体がヘモグロビンやビリルビンである場合には、これらが本来的に有する色の濃度を測定することにより、試料中の検体濃度を定量測定することが可能である。この場合には、支持体/吸水層/展開層の層構成の、試薬を全く含まない一体型多層分析要素を使用できる。なお、各層の間に、接着性の向上等を目的として、補助的な層を設けてもよい。
【0031】
検体がGGT、Amy等の場合には、試薬を展開層中に含有させるのが好ましい。一方、GOT、GPT等の場合には、試薬を展開層中及び吸水層等の展開層の下に設けられる層中に含有させるのが好ましい。
【0032】
検体がGlu、UA等の場合には、展開層より下にある層中にのみ試薬を含有させるのが好ましい。
【0033】
これらの検体の検出に使用する一体型多層分析要素の層構成及び検出反応に必要な試薬については、公知資料を参照して、当業者が適宜選択できるので、概略のみ記す。
【0034】
吸水層の下には、目的に応じて、試薬層、検出層、更に吸水層等を設けることができ、これらの層の間に、接着性の向上のための接着層や、種々の輻射線測定技術による検体の検出のための輻射線反射及び/又は遮蔽層等を設けることもできる。
【0035】
試薬層は、水性液体試料中の検体と反応して検出可能な変化を生じさせる少なくとも一種の化学成分、生化学成分又は免疫化学成分を含む試薬組成物が、親水性ポリマーバインダー中に実質的に一様に分散されている吸水性又は水浸透性の層、又は前記の試薬組成物が含有される微多孔性で水浸透性の層である。検出可能な変化とは、主として光化学的測定法により検出できる変化を意味し、例えば、色変化、発色(呈色)、蛍光発生、紫外線領域における吸収波長の変化、混濁発生等である。
【0036】
検出層は、上述の試薬層で生成した検出可能物質に対して透過性で、検出可能物質を受容又は捕捉することができる層である。検出層は、検出可能物質を検出するための輻射線を透過させ(透明)、検出可能物質に対して浸透性で、検出可能物質を受容又は捕捉するために、分析操作時に供給される水性液体試料中の水により膨潤可能な親水性ポリマーバインダーを含み、更に検出可能物質を受容又は捕捉して固定する成分を含有する。
【0037】
吸水層、試薬層、検出層等に用いられる親水性ポリマーは、架橋剤を用いて適宜に架橋硬化された中間層とすることができる。架橋剤の例として、ゼラチンに対する1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテル等の公知のビニルスルホン系架橋剤、及びアルデヒド等、メタリルアルコールコポリマーに対するアルデヒド、2個のグリシジル基含有エポキシ化合物等がある。
【0038】
これらの層の中には、水性液体試料を点着しての分析操作実施時の環境pH値を、約2.0〜約12.0の範囲の、所望の値に緩衝できる公知のpH緩衝剤から、適宜選択して含有させることが好ましい。pH緩衝剤は、多孔性展開層、試薬層、吸水層、接着層等のいずれか少なくとも一層に含有させる。
【0039】
更に、例えばヘモグロビンの色相の安定化、浸透、拡散、析出防止等を目的として、各種の添加剤を加えることもできる。これらの添加剤としては、ノニオン、カチオン、又はアニオン系界面活性剤、可塑剤、無機塩、有機酸塩、pH緩衝剤、顔料、色素、固体微粒子繊維、酸化剤、還元剤、酸、アルカリ等の低分子又は高分子の化合物がある。
【0040】
展開層、試薬層等に含有させる試薬組成物は、水性液体試料中の検体を分析するために選択した生化学反応又は化学反応によって決まり、選択した反応が2種以上の試薬成分が関与する反応の場合には、それらの試薬成分を含む試薬組成物を一つの試薬層に混合して含有させることもできるし、必要に応じて、試薬組成物を2つ以上の別個の層に分けて含有させることもできる。これらの試薬組成物としては、公知の分析試薬組成物又は臨床診断試薬組成物があり、検出すべき検体に対応する試薬組成物を当業者が適宜選択できる。
【0041】
展開層より下側の層にpH緩衝剤組成物、多孔性展開層に試薬組成物とともに親水性ポリマー、ノニオン性界面活性剤を含有させる方法として、特願昭61−164570号公報、特願昭61−168091号公報等に記載されたように、pH緩衝剤組成物を含有する層をpH緩衝剤組成物と親水性バインダーポリマーを含む水溶液から塗布乾燥して設け、その後展開層を積層し、最後に試薬組成物とともに親水性ポリマー、ノニオン性界面活性剤をエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等の有機溶剤に溶解又は分散させて展開層の上から塗布又は噴霧し、乾燥させて展開層に含有させる方法がある。
【0042】
本発明の多層分析要素は、既述の明細書に記載された公知の方法により調製することができる。最終形態としては、一辺約8mm〜30mmの正方形、長方形、ほぼ同サイズの円形等に裁断し、特公昭57−23881号公報、実開昭56−142454号公報、特開昭57−63452号公報、実開昭58−32350号公報、特表昭58−501144号公報等に記載のスライド枠に収めて化学分析スライドとして用いることが、製造、包装、輸送、保存、測定操作等諸種の観点で好ましい。使用目的によっては、長いテープ状でカセット又はマガジンに収めて用いること、又は小片を開口のあるカードに貼付又は収めて用いることなどもできる。
【0043】
本発明の多層分析要素を用いて、既述の諸明細書等に記載の操作により、液体試料中の検体の分析を実施できる。例えば、約5μl〜約30μl、好ましくは約6μl〜約15μlの範囲の全血、血漿、血清、尿等の水性液体試料滴を展開層に点着し、1分から10分の範囲で、約20℃〜約40℃の範囲の実質的に一定の温度で、好ましくは37℃近傍の実質的に一定の温度でインクベーションし、要素内の発色又は変色を可視光の吸収極大波長又はその近傍の波長の光を用いて透明支持体側から反射測光し、予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により、液体試料中の検体の含有量を求めることができる。点着する液体試料の量、インクベーション時間及び温度を一定にすることにより、検体の定量分析を高精度で実施できる。光反射性又は不透明支持体を用いる態様においては、要素内の発色又は変色等を展開層側から反射測光する。測定は、特開昭60−125543号公報、特開昭60−220862号公報、特開昭61−294367号公報、特開昭58−161867号公報等に記載の化学分析装置により、極めて容易な操作で高精度の定量分析を実施できる。
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
【実施例】
実施例1 評価用スライド1の作成と評価
1)布の作成
溶解性繊維として、ポリビニルアルコール系長繊維56デシテックス12フィラメント、非溶解性繊維としてポリエステル長繊維84デシテックス36フィラメントを混繊した糸条を作成した。この糸条を用いてカバーファクター60%からなる平織生地を製織した。この生地を、95℃の熱水で30分処理して、ポリビニルアルコール系長繊維を溶脱して、重量が38%軽減した生地を得た。その生地は、生地の端と中央の経密度の差が0.3%、緯密度の差が0.1%と性量のバラツキが極めて小さかった。ここで、織物のカバーファクターは、糸の直径÷糸間隔×100(%)で表され、生地のカバーファクターは、経方向のカバーファクターと緯方向のカバーファクターの平均値として定義される。
【0046】
2)スライドの作成
厚さ180μmの無色透明PETフィルム(支持体)上に、下記の成分の水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整した後、乾燥後に下記被覆量になるように塗布乾燥した。
脱イオンゼラチン 27g/m2
ホウ酸 0.057g/m2
塩化カリウム 0.057g/m2
ロイコ色素 0.51g/m2
ウリカーゼ 977単位/m2
ペルオキシダーゼ 24909単位/m2
ノニルフェニルグリシドール(N=10)エーテル 0.48g/m2
*:ロイコ色素:2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)−4−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−5−フェネチルイミダゾール
【0047】
乾燥させた面に30g/m2の割合で水を供給して湿潤させた後に、上記(1)で作成した布を圧着(ラミネート)して展開層を設けた。その後45℃で3日間保管して硬膜させた。その上に検体が均一に展開するように、
ポリビニルピロリドン(コリドンK90) 0.05g/m2
ポリオキシエチレン(N=10)ノニルフェニルエーテル 0.01g/m2
のアルコール溶液を塗布し乾燥した。次ぎに、これを1.5×1.5cmの正方形に切断し、特開昭57−63452号公報記載されたマウントに収めて、実施例1の評価用スライド1を作成した。
【0048】
比較例1、比較例2 評価用スライド2及び3の作成と評価
展開層として下記布を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例の評価用スライド2及び3を作成した。
評価用スライド2:特開昭60−222769号公報に記載されている、56デシテックス36フィラメントポリエチレンテレフタレート繊維を40ゲージ(口径30インチ)丸編機で成編したスムース編物、
評価用スライド3:綿番60番手のポリエステルで織られたブロード織物
これを1.5×1.5cmの正方形に切断し、特開昭57−63452号公報に記載されたマウントに収めて、比較例1及び比較例2の、評価用スライド2及び評価用スライド3を作成した。
【0049】
次ぎに、富士フイルム社製,『富士ドライケムコントロール QP−L』に尿酸を添加して、それぞれ2、6、10、16mg/dlになるように調整した。
【0050】
上記液をそれぞれ10ml/dlずつ評価用スライド1、評価用スライド2及び評価用スライド3に点着して、37℃で4分間インクベーションを行ったのち、波長640nmにおいて反射光学濃度を測定し、検量線を作成した。
【0051】
点着液量が正確度に及ぼす影響を評価するため、以下の実験を行った。6mg/dlの濃度の標準液を、上記評価用スライド1〜3のそれぞれに、量を7μlから15μlまで変化させて点着して、37℃で4分間インクベーションした後、640nmで反射濃度を測定し、上記各スライドについての検量線から、それぞれ尿酸の濃度に換算した。この値を、点着量が10μlの時を基準として比較した。結果を表1に示す。各数値は、(それぞれの点着液量時の発色濃度から換算した濃度)÷(10μl点着時の発色濃度から換算した濃度)である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から、本発明によるスライドでは、正確度の点着液量依存性が小さいこと、及び従来の展開層を用いた比較用スライドでは正確度の点着量依存性が大きいことが判る。
【0054】
繰り返し再現性に及ぼす影響を評価するため、以下の実験を行った。上記評価用スライド1〜3のそれぞれに、6mg/dlの濃度の標準液を8μl、10μl、12μlと量を変えて、それぞれ10回点着した。37℃で4分間インクベーションした後、640nmで反射濃度を測定し、それぞれ検量線を用いて濃度換算を行い、標準偏差、平均値からCVを計算して繰り返し再現性を確認した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2から、本発明になるスライドは、どの点着液量においてもバラツキが小さく、かつ点着液量による変動が小さいこと、及び従来の展開層を用いた比較用スライドではバラツキが大きく、かつ点着液量による変動が大きいことが判る。
【0057】
実施例2 評価用スライド4の作成と評価
厚さ180μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(支持体)の上に下記の被覆量になるように水溶液から塗布、乾燥した。
アクリルアミド−N−ビニル−2−ピロリドン−メタリルアルコール3元ポリマー(モノマー比58:38:4) 58g/m2
ノニルフェニルグリシドール(N=10)エーテル 0.07g/m2
30%ホルムアルデヒド溶液 2g/m2
【0058】
乾燥させた面に30g/m2の割合で水を供給して湿潤させた後に上記実施例1で作成した布を圧着(ラミネート)して展開層を設けた。その後70℃で3日間保管して硬膜した。その上に、乾燥後の含有量が下記処方となる反応試薬を塗布した。
ポリビニルピロリドン(コリドンK90) 8.3g/m2
ブロモクレゾールグリーン 0.69g/m2
林檎酸 13.3g/m2
ポリエチレン(N=7)オレイルエーテル 3.2g/m2
次ぎに、これを1.2×1.3cmの正方形に切断し、特開昭57−63452号公報に記載されたマウントに収めて、実施例2の評価用スライド4を作成した。
【0059】
比較例3 評価用スライド5の作成と評価
展開層として、下記布を使用した以外は実施例2と同様にして、比較例3の評価用スライド5を作成した。
評価用スライド5:特開昭60−222769号公報に記載されている、56デシテックス36フィラメントポリエチレンテレフタレート繊維を40ゲージ(口径30インチ)丸編機でニット状に編んだ編物
次ぎに、これを1.2×1.3cmの正方形に切断し、特開昭57−63452号公報に記載されたマウントに収めて、比較例3の評価用スライド5を作成した。
【0060】
次ぎに、生理食塩水に牛アルブミンを溶解して濃度2,4,6g/dlの液を作成し、実施例2の評価用スライド4及び比較例3の評価用スライド5に、各10μlを点着し、37℃で4分間インクベーションした。その後、各スライドについて波長640nmで展開層側から反射濃度を測定し、検量線を作成した。
【0061】
点着液量が正確度に及ぼす影響を評価するため、以下の実験を行った。実施例1で作成した6mg/dlの濃度の液を、液量7μlから15μlまで変化させて評価用スライド4及び5に点着した。37℃で4分間インクベーションした後、波長640nmで展開層側から反射濃度を測定し、それぞれの検量線から濃度換算して10μl点着時の値と比較した。結果を表3に示す。なお、各数値の意味は、上記実施例1と同じである。
【0062】
【表3】
【0063】
表3から、本発明によるスライド4では、正確度の点着液量依存性が小さいこと、及び従来の展開層を用いた比較用スライド5では正確度の点着量依存性が大きいことが判る。
【0064】
次ぎに、繰り返し再現性への影響を評価するため、以下の実験を行った。6mg/dlの濃度の液を、評価用スライド4及び5に、液量8μl、10μl、12μlでそれぞれ10回点着した。37℃で4分間インクベーションした後、波長640nmで展開層側から反射濃度を測定し、それぞれについての検量線で濃度換算を行い、標準偏差、平均値からCVを計算して繰り返し再現性を確認した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
表4から、本発明になるスライドは、どの点着液量においてもバラツキが小さく、かつ点着液量による変動が小さいこと、及び従来の展開層を用いた比較用スライドではバラツキが大きく、かつ点着液量による変動が大きいことが判る。
【0067】
実施例3 評価用スライド6の作成と評価
下記の工程で布を作成した。溶解性部として、変性度の大きいポリエステルA、非溶解性部として変性度の小さいポリエステルB(AはBに較べて、アルカリ性溶液に対して40倍加水分解速度が大きい)を、重量比50:50の構成で、芯部に非溶解性部B、鞘部に溶解性部Aを配した芯鞘型コンジュゲート糸84デシテックス24フィラメントを作成した。この糸条を用いて、32ゲージ(口径30インチ)の丸編機を用いて、カバーファクター70%のスムース生地を成編した。この生地を80℃の10%水酸化ナトリウム溶液にて20分処理して鞘部を溶脱し、重量が49%軽減した生地を得た。その生地は、端と中央の経密度の差が0.4%、緯密度の差が0.2%と性量のバラツキが極めて少なかった。この布を用いて、実施例1と同様の方法で評価用スライド6を作成し、同様の評価を行ったところ、同様の良好な結果を得た。ここで、編物のカバーファクターは、ウェール数×コース数×1ループあたりの糸長×糸の直径×100(%)で定義される。
【0068】
【発明の効果】
本発明により、測定値の正確度の点着液量依存性が小さく、かつバラツキ及びバラツキの変動の点着液量に対する依存性が小さい、一体型多層分析要素が得られる。
Claims (6)
- 水不透過性支持体の上に、少なくとも親水性ポリマーバインダーを含む吸水層及び繊維質の布地からなる多孔性展開層がこの順に積層一体化されてなる一体型多層分析要素において、前記布地が、溶解性部と非溶解性部を有する繊維を成編製織した後に、前記溶解性部を溶解して得られた布地である一体型多層分析要素。
- 水不透過性支持体の上に、少なくとも親水性ポリマーバインダーを含む吸水層及び繊維質の布地からなる多孔性展開層がこの順に積層一体化されてなる一体型多層分析要素において、前記布地が、溶解性繊維と非溶解性繊維を混成編製織した後に、前記溶解性繊維を溶解して得られた布地である一体型多層分析要素。
- 前記溶解性部と前記非溶解性部の重量比、又は前記溶解性繊維と非溶解性繊維の重量比が、2:8〜6:4の範囲である請求項1又は2に記載の一体型多層分析要素。
- 前記非溶解性部、又は前記非溶解性繊維がポリエステルまたはポリプロピレンである請求項1〜3のいずれかに記載の一体型多層分析要素。
- 前記非溶解性部、又は前記非溶解性繊維が変性度の低いポリエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の一体型多層分析要素。
- 前記溶解性部と非溶解性部を有する繊維が、溶解性部と非溶解性部が芯鞘構造を有して一体となって形成されている請求項1に記載の一体型多層分析要素。
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