JP4072845B2 - 走査型電子顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えばX線分析装置と組み合わせて用いられる走査型電子顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
エネルギー分散型X線マイクロアナライザの一つに、走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)と、このSEMに取り付けられた半導体X線検出器からの信号を処理するエネルギー分散型のX線分析装置(以下、EDXという)とを一体的に組み合わせたものがある。このようなエネルギー分散型X線マイクロアナライザは、数μmという微小領域の元素分析を行う装置で、SEMによる像観察と同時に、EDXによって観察している部分の「定性分析」、「定量分析」、「X線像による元素分布の分析」などを行うことができるところから、従来より金属、セラミックス、半導体などの材料の研究に利用されているが、近年では、製品のトラブル解析など品質管理の分野などにおいても利用されるようになってきている。
【0003】
ところで、従来のエネルギー分散型X線マイクロアナライザにおいては、前記分析を行う場合、分析箇所を設定し、この設定された箇所に対してSEMによって電子線を照射させ、そのとき得られる特性X線をエネルギー分散型半導体X線検出器(以下、単にX線検出器という)で検出する。
【0004】
そして、従来のSEMにおいては、図4に示すように、X線検出器41を試料42よりも上方に配置して、試料42の上面42aに電子線43を照射したときに試料42において生ずる特性X線44をX線検出器41によって検出し、試料42の表面および/または内部情報を得るようにしていた。なお、図4において、45は試料42に向けて照射される電子線43を収斂・走査するための上部ポールピースであり、46は試料42を透過した電子線43を適宜発散・走査するための下部ポールピースである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のSEMのように、試料42を上部、下部のポールピース45,46に保持するインレンズタイプで、しかも、X線検出器41を試料42よりも上方に配置したものにおいては、試料42の上面42aに電子線43を照射するところから、電子線照射によるコンタミネーション47が前記上面42a上に生じて堆積し、特に、試料42の厚みが0.1μm以下というような薄膜分析においては、高倍率、大ビーム電流といった条件下で分析を行うため、前記コンタミネーション47の堆積により、精度の高いX線分析を行うことが困難になる。
【0006】
また、前記薄膜分析を行う場合、試料42に向けて照射された電子線43の一部または試料42を透過した電子線43の一部が下部ポールピース46に当たったり、あるいは、試料42に向けて照射された電子線43の一部が試料42を保持する試料ホルダー(図示していない)に当たると、これらにおいてシステムピーク48が生じ、この生じたシステムピーク48がX線検出器41の検出素子41aに入射することがあり、このシステムピーク48は、試料42からの特性X線44の検出においてノイズとなる。なお、試料42が電子線照射方向においてある程度の厚みを有するバルク試料であるときは、バルク試料からの特性X線のエネルギー量が大きく、前記システムピーク48が特性X線の測定においてノイズとなることはほとんどない。
【0007】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、第1の目的は、薄膜試料のX線分析を精度よく行うことのできるSEMを提供することであり、第2の目的は、薄膜試料およびバルク試料のいずれにおいてもX線分析を精度よく行うことのできるSEMを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記第1の目的を達成するため、この発明では、試料の下面側に下部ポールピースを備え、電子線源からの電子線を試料に対して上面側から照射したときに試料において生ずる特性X線をX線検出器によって検出するようにした走査型電子顕微鏡において、薄膜状試料の下面側から出射する特性X線を検出できるように、前記X線検出器を試料の下面側に配置するとともに、前記X線検出器をそのX線窓が、前記下部ポールピースの電子線衝突によりシステムピークを発生する部位より上方に位置し、かつ、前記薄膜状試料に対する電子線照射側の斜め上方に向くように構成している(請求項1)。
【0009】
また、前記第2の目的を達成するため、この発明では、前記X線検出器の他にさらに、バルク状試料の上面側から出射する特性X線を検出する上部X線検出器が設けられている(請求項2)。
【0010】
前記請求項1に記載の発明においては、X線検出器が試料の下面側から出射する特性X線を検出できるように試料の下面側に配置されているので、試料が薄膜状である場合、当該薄膜試料の上面側に電子線の入射に起因してコンタミネーションが生じたとしても、X線検出器に入射される特性X線にはその影響が及ぼされることがない。そして、前記X線検出器は、その受光面であるX線窓が下部ポールピースのシステムピース発生部位よりも上方に位置し、かつ、薄膜状試料に対する電子線照射側の斜め上方に向けられているので、下部ポールピースに電子線が入射して生ずるシステムピークがX線検出器のX線窓から内部に入射するということがなくなる。また、試料を載置するための試料ホルダに電子線が入射して試料周辺の試料ホルダにおいて生ずるシステムピークがX線検出器のX線窓から内部に入射するということがなくなる。したがって、請求項1に記載の発明によれば、薄膜試料のX線分析を高精度に行うことができる。
【0011】
また、前記請求項2に記載の発明においては、薄膜状試料であるかバルク状試料であるかによって、二つのX線検出器を使い分けするようにしている。すなわち、薄膜状試料のX線分析に際しては、当該試料の下面側に設けられた下部X線検出器によって特性X線を検出するので、上記請求項1に記載の発明と同様の作用効果を奏する。そして、バルク状試料のX線分析に際しては、当該試料の上面側に設けられた上部X線検出器によって特性X線を検出するようにしており、この場合、前記コンタミネーションやシステムピークの問題は生じないので、X線分析を高精度に行うことができる。したがって、請求項2に記載の発明によれば、薄膜状試料であってもバルク状試料であっても所望のX線分析を高精度に行うことができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の詳細を、図を参照しながら説明する。図1および図2は、この発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は、この発明のSEMの光学部分の構成の一例を概略的に示し、図2は、その要部の構成の一例を概略的に示している。
【0013】
まず、図1において、1は鉄製の試料室2の内部上方に設けられる電子線源で、例えば電子銃よりなり、電子線3を下方に発する。4は試料5を載置・保持するための試料ホルダで、その斜め上方および斜め下方には、それぞれ、試料5に対して電子線3を収束させるための上部ポールピース6および下部ポールピース7が設けられており、所謂インレンズ系に構成されている。8はX線検出器で、この実施の形態においては、試料5の下面より下方側に設けられており、電子線3を試料5に照射したときに試料5の下面側において生ずる特性X線9を検出するものである。
【0014】
図2は、前記X線検出器8近傍を拡大して示す図で、この図において、10はエンドキャップで、その一端側には斜め上方に向けられた、例えばベリリウム箔よりなるX線窓11が形成され、内部には、例えば高純度のSiウェハからなるX線検出素子12およびその出力を取り出す低雑音FETユニット13が設けられている。そして、X線窓11の外方には、反射電子防止用のマグネットコリメータ14が設けられている。なお、図示していないが、エンドキャップ10の他端側は、液体窒素等による冷熱部と熱的に結合されており、X線検出素子12および低雑音FETユニット13が所定の低温状態になるように構成されている。また、低雑音FETユニット13は、信号線(図示していない)によって外部の信号処理部と接続されている。
【0015】
上記構成のSEMにおいては、薄膜状の試料5をX線分析する場合、この試料5を試料ホルダ4にセットし、電子線源1から電子線3を試料5に照射する。この照射により、試料5の上面からも特性X線が生ずるが、試料5の下面側から特性X線9が生ずる。そして、試料5の下面側には、X線検出器8がその受光面であるX線窓11を試料5の下面に向かうようにして設けられているので、試料5の下面側から発せられる特性X線9は、マグネットコリメータ14およびX線窓11を経てX線検出素子12に入射する。この入射により、低雑音FETユニット13から信号が出力され、この出力信号は適宜信号処理され、試料5のX線スペクトルが得られる。
【0016】
この場合、前記電子線3の試料5への照射により試料5の上面側にはコンタミネーション15が生ずるが、試料5の下面側にはコンタミネーション15がほとんど生じない。したがって、コンタミネーション15の影響を受けることなく所望のX線分析を行うことができる。また、試料5へ照射される電子線3のうち、一部は試料5を透過して下部ポールピース7に衝突し、この衝突によりシステムピーク16が発生するが、図2に示すように、X線検出器8のX線窓11が斜め上方に向いているので、前記システムピーク16がX線窓11を経てX線検出器8内に入射することはない。そして、X線窓11の入射側にはマグネットコリメータ14が設けられているので、前記システムピーク16は、このマグネットコリメータ14によってもX線窓11への入射がブロックされ、X線窓11を経てX線検出器8内に入射することはないのである。さらに、試料5に照射される電子線3のうち、一部は試料5を保持する試料ホルダ4に入射し、図2に示すように、試料5周辺の試料ホルダ4においてシステムピーク16Aが生ずるが、X線検出器8は試料5の下面側に配置されており、しかも、そのX線窓11が斜め上方に向いているので、前記システムピーク16AがX線窓11を経てX線検出器8内に入射することはない。
【0017】
上記第1の実施の形態のように、X線検出器8を試料5の下面側に配置しているので、試料5が薄膜状である場合、この試料5への電子線3照射に起因するコンタミネーション15の悪影響を受けることなく、所定のX線分析を行うことができる。そして、試料載置位置より下方に下部ポールピース7を設けたインレンズタイプに構成してあるSEMにおいては、前記作用効果に加えて、試料5を透過した電子線3の下部ポールピース7への衝突によって生ずるシステムピーク16がX線検出器8に入射することがないといった作用効果を奏するとともに、試料ホルダ4において生ずるシステムピーク16AのX線検出器8へ入射することもない。
【0018】
ところで、高分解能SEMにおいては、マグネットコリメータ14をX線検出器8に装着すると、SEM像に障害を生ずることがあるので、マグネットコリメータ14を装着しない場合がある。この場合、反射電子がX線検出器8に入射し、X線スペクトルが乱れることがある。しかしながら、上記実施の形態のように、X線検出器8を試料5の下方側に設けることにより、像障害を生ずることなくマグネットコリメータ14をX線検出器8に装着することができる。
【0019】
上述の第1の実施の形態における構成は、試料が薄膜状である場合にきわめて有用な効果を奏するものであるが、以下に述べる第2の実施の形態の構成は、薄膜試料およびバルク試料の双方にそれぞれ有用な効果を奏するものである。以下、図3を参照しながら第2の実施の形態を説明する。
【0020】
図3は、この発明の第2の実施の形態を示すもので、この実施の形態においては、2つのX線検出器8A,8Bを設け、これらのX線検出器8A,8Bを薄膜試料およびバルク試料のそれぞれに使い分けるようにしている。すなわち、図3に示すように、2つのX線検出器8A,8Bは、前記第1の実施の形態におけるX線検出器8と構成は同じものであり、一方のX線検出器8Aは、第1の実施の形態におけるX線検出器8と同様に、試料5の下面側に設けられ、他方のX線検出器8Bは、試料5の上面側に位置するように設けられている。そして、図示例では、下方のX線検出器(下部X線検出器)8Aは、そのX線窓11が試料5に向かうように、斜め上方に向けて設けられ、上方のX線検出器(上部X線検出器)8Bは、そのX線窓11が試料5に向かうように、斜め下方に向けて設けられている。
【0021】
上記構成のSEMにおいては、試料5が薄膜状である場合には、この試料5への電子線3の照射によって生ずる試料下面側において生ずる特性X線9Aを下部X線検出器8Aによって検出し、試料5がバルク状である場合には、この試料5への電子線3の照射によって試料上面側において生ずる特性X線9Bを上部X線検出器8Bによって検出するのである。この場合、一方のX線検出器8A(または8B)を使用しているとき、他方のX線検出器8B(または8A)に対する動作電源の供給はオフしておく。
【0022】
そして、試料5が薄膜状であるときの動作については、前記第1の実施の形態において詳しく説明しているので、その説明は省略するが、試料5がバルク状であるときは、この試料5を試料ホルダ4にセットし、電子線源1から電子線3を試料5に照射する。この照射により、試料5の上面から特性X線9Bが生じ、この特性X線9Bを上部X線検出器8Bで検出するのである。すなわち、試料5の上面側には、上部X線検出器8Bがその受光面であるX線窓11を試料5の上面に向かうようにして設けられているので、試料5の上面側から発せられる特性X線9Bは、マグネットコリメータ14およびX線窓11を経てX線検出素子12に入射する。この入射により、低雑音FETユニット13から信号が出力され、この出力信号は適宜信号処理され、試料5のX線スペクトルが得られる。
【0023】
この場合、前記電子線3の試料5への照射により試料5の上面側にはコンタミネーションはほとんど生ずることがなく、したがって、コンタミネーションの影響を受けることなく所望のX線分析を行うことができる。また、試料5へ照射される電子線3が試料5を透過して下方にいくことがないので、試料5の下方に下部ポールピース7が設けられていても、これへの電子線3の衝突はなく、したがって、システムピーク16が発生することはないのである。
【0024】
上記SEMにおいては、試料5が薄膜状であるときとバルク状であるときにおいて、試料5において生ずる特性X線の検出を、その検出を最適の状態で行うことができるように、二つのX線検出器8A,8Bを使い分けるようにしているので、X線分析を最良の状態で行うことができる。
【0025】
そして、上述の実施の形態においては、二つのX線検出器8A,8Bを対角線上に設けているが、X線検出器8A,8Bを試料載置位置を通る水平線を中心して線対称の位置に設けるようにしてもよい。すなわち、この発明では、二つのX線検出器8A,8Bを試料5の上下に分けて配置することにより、バルク用および薄膜用として前記X線検出器8A,8Bを最適な状態で配置することができる。したがって、薄膜状の試料5を測定するときであっても、下部ポールピース7や試料ホルダ4からのからのシステムピーク16,16Aの影響を受けることなく、所望のX線分析を行うことができる。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載のSEMによれば、薄膜試料を最適の状態でX線分析することができる。そして、請求項2に記載のSEMによれば、試料が薄膜状であってもバルク状であってもこれらを最適の状態でX線分析することができる。
【0027】
また、本発明は、請求項3に記載のように、前記薄膜状試料の下面側に配置されたX線検出器のX線窓の外方にマグネットコリメータを装着する場合においても、X線検出器を試料の下方側に設けているので、SEM像の像障害を発生させることがない。また、システムピークが、このマグネットコリメータによってX線窓から入射されるのをブロックし、X線窓を経てX線検出器内に入射することを上手く防止でき、もって最適の状態でX線分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の第1の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡の光学部分の構成の一例を概略的に示す図である。
【図2】 前記光学部分の要部の構成を拡大して示す図である。
【図3】 この発明の第2の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡の光学部分の要部の構成を拡大して示す図である。
【図4】 従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
1…電子線源、3…電子線、5…試料、8,8A,8B…X線検出器、9,9A,9B…特性X線。
Claims (3)
- 試料の下面側に下部ポールピースを備え、電子線源からの電子線を試料に対して上面側から照射したときに試料において生ずる特性X線をX線検出器によって検出するようにした走査型電子顕微鏡において、薄膜状試料の下面側から出射する特性X線を検出できるように、前記X線検出器を試料の下面側に配置するとともに、前記X線検出器をそのX線窓が、前記下部ポールピースの電子線衝突によりシステムピークを発生する部位より上方に位置し、かつ、前記薄膜状試料に対する電子線照射側の斜め上方に向くように構成したことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
- 前記X線検出器の他にさらに、バルク状試料の上面側から出射する特性X線を検出する上部X線検出器が設けられている請求項1記載の走査型電子顕微鏡。
- 前記薄膜状試料の下面側に配置されたX線検出器のX線窓の外方にはマグネットコリメータが装着されている請求項1又は2のいずれかに記載の走査型電子顕微鏡。
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