JP4071549B2 - 多段増幅器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、マイクロ波、ミリ波帯多段増幅器に関し、各段のゲートまたはドレインバイアス端子同士を直流的には無損失で、RF的には損失を持って接続することで、端子間の結合による増幅器の発振を抑圧しながら、一括して電源を印加できることを特徴とする増幅器である。
【0002】
【従来の技術】
多段増幅器では、多数のトランジスタが用いられているため、バイアス端子の共通化により一度にバイアスを印加できることが望まれている。また、組み立て時において、電源端子と多段増幅器の結線作業を軽減することが望まれている。しかしながら、バイアス端子同士を直接結合すると帰還回路が形成されるため、ゲートバイアス端子またはドレインバイアス端子を介して多段増幅器の各段のトランジスタのゲートとドレインが結合し、動作が不安定となったり、発振を起こす可能性がある。
【0003】
そこで、結合による増幅器の発振を防止するために、各段のゲートバイアス印加端子およびドレインバイアス印加端子が分離されるようにアイソレーション抵抗からなるバイアス共通化回路を介して接続する方法がある。アイソレーション抵抗を介して端子間を接続する方法の従来例として、図6に示す回路を挙げる。図中、101は多段増幅器、102はトランジスタ、103は直流阻止コンデンサ、104は入力端子、105は出力端子、106はゲートバイアス端子、107はドレインバイアス端子、108はゲートバイアス供給線路、109はドレインバイアス供給線路、110はメイン線路、111はアイソレーション抵抗、112は信号短絡用コンデンサ、113は整合回路、114はバイアス共通化回路である。
【0004】
図6の構成について簡単に説明する。入力端子104から入力された信号は、トランジスタ102によって増幅され、次段のトランジスタ102に導かれる。そして、出力端子105へ導かれる。トランジスタ102には、ゲートバイアス供給線路108やドレインバイアス供給線路109を介して電源が供給されており、これらの電源供給線路はメイン線路110につながれている。ゲートバイアス供給線路108やドレインバイアス供給線路109は信号短絡用コンデンサ112によって交流的に短絡されている。
【0005】
従来例に係る多段増幅器の動作について説明する。ゲートバイアス供給端子106の共通化もドレインバイアス端子107の共通化も動作は同じであるので、ここではドレインバイアス端子107を共通化した場合について述べる。ドレインバイアス供給線路109は、信号短絡用コンデンサ112によって交流的に短絡されているため、理想的にはアイソレーションが確保される。
【0006】
しかしながら、信号短絡用コンデンサ112の大きさやコンデンサの自己共振周波数などの電気的制約により、信号短絡用コンデンサ112の容量は無限大とすることはできない。そのため、すべての周波数に渡って理想的な短絡状態を実現できているわけではない。その結果、メイン線路110につながれたドレインバイアス供給線路109からわずかではあるが信号が漏洩する。この信号はアイソレーション抵抗111からなるバイアス共通化回路によって減衰され、さらに、前段のトランジスタのドレインバイアス供給端子および直流阻止コンデンサによって減衰させられた後、再びもとの単位増幅器の入力側に戻される。このように、バイアス回路を共通化することによって、帰還回路が形成される。
【0007】
ここで、トランジスタによる増幅率が、バイアス供給線路や直流阻止コンデンサ等によって与えられた損失を上回った場合、増幅器やバイアス供給線路や直流阻止コンデンサ等によって形成されるループ利得が1を越えるため、発振が起こる場合がある。発振が起こるのは、電力条件(ループ利得が1を越える)、位相条件(ループ利得が1を超える周波数において、ループの通過位相が0degとなる)の2つの条件が同時に満たされる場合である。
【0008】
よって、発振を起こさないためには、電力条件、位相条件のいずれか少なくとも一方が条件を満足させないようにすればよい。そこで、従来例では、抵抗値の大きなアイソレーション抵抗111を用いることで、信号を減衰させ、電力条件を満足しないようにしている。信号周波数だけでなく、すべての周波数において発振させないためには、十分な減衰量をアイソレーション抵抗111によって与える必要がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来例で述べられているバイアス共通化回路では、構成が簡単であるため、容易に構成することができる利点を有するものの、すべての周波数において、十分な減衰量をアイソレーション抵抗111によって与えるために、高抵抗が使われる。ここで、トランジスタ102のゲートやドレインに電流が流れる場合、アイソレーション抵抗111での電圧降下や電力損失が問題となる。特に、ドレインバイアス端子107では大電流が流れるため、アイソレーション抵抗111での電力損失は深刻な問題となる。
【0010】
この発明は上述した点に鑑みてなされたもので、高周波に対するアイソレーションを稼ぎつつ、電力損失のないバイアス共通化回路を実現することができる多段増幅器を得ることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る多段増幅器は、多段の増幅器を構成する多数のトランジスタのバイアス端子を共通化し、そのバイアス供給線路を交流的に短絡すると共に、各段の段間を直流阻止する構成とし、かつ各段のトランジスタのゲートバイアス印加端子およびドレインバイアス印加端子が分離されるようにアイソレーション抵抗からなるバイアス共通化回路を介して接続されてなる多段増幅器において、前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗にインダクタを並列接続して構成し、前記インダクタのインダクタンスL[H]は、前記アイソレーション抵抗の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数[Hz]がfの時、L>R/(2πf)となるように決定することを特徴とするものである。
【0012】
また、前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗に線路を並列接続して構成し、前記線路の電気長L[m]は、前記アイソレーション抵抗の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数の波長λ[m]の時、|tan(2πL/λ)|>Rとなるように決定することを特徴とするものである。
【0013】
また、前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗にワイヤを並列接続して構成し、前記ワイヤをインダクタとして用い、前記ワイヤのインダクタンスL[H]は、前記アイソレーション抵抗の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数[Hz]がfの時、L>R/(2πf)となるように決定することを特徴とするものである。
【0014】
また、前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗に2本のワイヤの直列接続体を並列接続し、2本のワイヤが接続された中間点からバイアスを印加する構成としたことを特徴とするものである。
【0015】
さらに、抵抗とコンデンサの並列接続体でなり、高周波では低損失、低周波では高損失となるような周波数選択性を有する損失回路を、増幅器の入力側の整合回路と直列に接続したことを特徴とするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。図中、101〜114は、図6に示す従来例と同じ部品を示す。新たな符号として、115はインダクタである。図1に示す構成では、基本的には図6に示す従来例と同じであるが、バイアス共通化回路がインダクタ115と抵抗111が並列に接続されている回路で構成される点が異なる。
【0017】
次に、実施の形態1における動作について説明する。実施の形態1のバイアス共通化回路では、インダクタ115と抵抗111を並列に接続することで、信号に対するアイソレーションを稼ぎつつ、インダクタ115により電力損失のない構成を実現している。インダクタ115のインピーダンスは周波数に比例して増加するので、高周波では、抵抗111よりもインダクタ115の方が高インピーダンスとなる。そのため、信号は、主に抵抗111を通過し、損失が与えられる。
【0018】
一方、直流電流では、インダクタ115のインピーダンスは0となるため、損失の大きい抵抗111は通過せず、インダクタ115を通過する。その結果、高周波信号に対するアイソレーションを稼ぎつつ、電力損失のないバイアス共通化回路を実現できる。
【0019】
ここで、バイアス共通化回路の抵抗111の値は、ドレインバイアス供給端子107またはゲートバイアス供給端子106の端子間のアイソレーションが悪化する周波数において、十分な損失が得られるように決定する。また、インダクタ115のインダクタンスL[H]は、抵抗111の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数がf[Hz]の時、L>R/(2πf)となるように決定することで、端子間のアイソレーションを確保することができる。
【0020】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。図中、101〜114は、図6に示す従来例と同じ部品を示す。新たな符号として、116は線路である。図2に示す構成では、基本的には図6に示す従来例と同じであるが、バイアス共通化回路が線路116と抵抗111が並列に接続されている回路で構成される点が異なる。
【0021】
次に、実施の形態2における動作について説明する。実施の形態2のバイアス共通化回路では、抵抗111と線路116を並列に接続することで、信号に対するアイソレーションを稼ぎつつ、電力損失のない構成を実現している。ワイヤの両端は、バイアス供給線路に接続されたコンデンサ112により交流的に短絡状態となっているので、線路116のいずれの端から見ても、線路116はリアクタンス素子として振る舞う。アイソレーションが悪化する周波数において抵抗111よりも高インピーダンスとなるように線路長を決定することで、信号は、主に抵抗111を通過し、損失が与えられる。
【0022】
一方、直流電流では線路116のインピーダンスは0となるため、損失の大きい抵抗は通過せず、線路を通過する。その結果、高周波信号に対するアイソレーションを稼ぎつつ、電力損失のない構成を実現できる。
【0023】
ここで、バイアス共通化回路の抵抗111の値は、ドレインバイアス供給端子107またはゲートバイアス供給端子106の端子間のアイソレーションが悪化する周波数において、十分な損失が得られるように決定する。また、線路116の電気長L[メートル]は、抵抗111の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数の波長λ[メートル]の時、|tan(2πL/λ)|>Rとなるように決定することで、端子間のアイソレーションを確保することができる。
【0024】
実施の形態3.
図3は、この発明の実施の形態3に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。図中、101〜114は、図6に示す従来例と同じ部品を示す。新たな符号として、117はワイヤである。基本的な構成は図6に示す従来例と同じであるが、バイアス共通化回路がワイヤ117と抵抗111が並列に接続されている回路で構成される点が異なる。実施の形態1に対して、ワイヤ117をインダクタとして用いることで、より簡単にバイアス共通化回路を実現することができ、バイアス共通化回路の小型化を図ることができる。
【0025】
実施の形態4.
図4は、この発明の実施の形態4に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。図中、101〜114、117は、図6に示す従来例および図3に示す実施の形態3と同じ部品を示す。基本的な構成は図6に示す従来例と同じであるが、バイアス共通化回路が直列接続された2本のワイヤ117と抵抗111が並列に接続される回路で構成され、2本のワイヤ117が互いに接触する点からバイアスを印加する点が異なる。実施の形態3に対して、端子間が2本のワイヤを介して接続されるため、より大きなインダクタンスを得ることができ、アイソレーション量を大きくできる。
【0026】
さらに、2本のワイヤ117が互いに接触する点にコンデンサを接続することで、端子間は2本のワイヤおよびコンデンサから構成されるT型ローパスフィルタを介して接続されることになるので、一層大きなアイソレーション量を確保することができる。
【0027】
実施の形態5.
図5は、この発明の実施の形態5に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。図中、101〜114は、図6に示す従来例と同じ部品を示す。新たな符号として、118は周波数選択性を有する損失回路である。基本的な構成は実施の形態1と同じであるが、高周波では低損失、低周波では高損失となるような周波数選択性を有する損失回路を増幅器の入力側の整合回路113と直列に接続した点が異なる。
【0028】
トランジスタ102の増幅率が、バイアス供給線路や直流阻止コンデンサ等によって与えられる損失を上回った場合、ループ利得が1を越えるため、発振が起こる場合がある。そこで、周波数選択性を有する損失回路118によって、低域や高域でトランジスタ102の利得を低下させることで、ループ利得を1以下とする。
【0029】
これにより、バイアス回路を共通化したことに伴う発振を防止することができる。さらに、低域や高域でのトランジスタの利得が低下することで、要求されるバイアス回路のアイソレーション量が少なくてよくなるため、バイアス共通化回路114で用いる抵抗値が小さくて済み、実施の形態1のインダクタ115の小型化、実施の形態2の線路116の短縮を図ることができる。
【0030】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、高周波に対するアイソレーションを稼ぎつつ、電力損失のないバイアス共通化回路を実現することができる。
【0031】
また、低域や高域でのトランジスタの利得が低下させることで、要求されるバイアス回路のアイソレーション量が少なくして、バイアス共通化回路を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。
【図2】 この発明の実施の形態2に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。
【図3】 この発明の実施の形態3に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。
【図4】 この発明の実施の形態4に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。
【図5】 この発明の実施の形態5に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。
【図6】 従来例に係る多段増幅器の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
101 多段増幅器、102 トランジスタ、103 直流阻止コンデンサ、104 入力端子、105 出力端子、106 ゲートバイアス端子、107 ドレインバイアス端子、108 ゲートバイアス供給線路、109 ドレインバイアス供給線路、110 メイン線路、111 アイソレーション抵抗、112信号短絡用コンデンサ、113 整合回路、114 バイアス共通化回路、115 インダクタ、116 線路、117 ワイヤ、118 損失回路。
Claims (5)
- 多段の増幅器を構成する多数のトランジスタのバイアス端子を共通化し、そのバイアス供給線路を交流的に短絡すると共に、各段の段間を直流阻止する構成とし、かつ各段のトランジスタのゲートバイアス印加端子およびドレインバイアス印加端子が分離されるようにアイソレーション抵抗からなるバイアス共通化回路を介して接続されてなる多段増幅器において、
前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗にインダクタを並列接続して構成し、
前記インダクタのインダクタンスL[H]は、前記アイソレーション抵抗の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数[Hz]がfの時、L>R/(2πf)となるように決定する
ことを特徴とする多段増幅器。 - 多段の増幅器を構成する多数のトランジスタのバイアス端子を共通化し、そのバイアス供給線路を交流的に短絡すると共に、各段の段間を直流阻止する構成とし、かつ各段のトランジスタのゲートバイアス印加端子およびドレインバイアス印加端子が分離されるようにアイソレーション抵抗からなるバイアス共通化回路を介して接続されてなる多段増幅器において、
前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗に線路を並列接続して構成し、
前記線路の電気長L[m]は、前記アイソレーション抵抗の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数の波長λ[m]の時、|tan(2πL/λ)|>Rとなるように決定する
ことを特徴とする多段増幅器。 - 多段の増幅器を構成する多数のトランジスタのバイアス端子を共通化し、そのバイアス供給線路を交流的に短絡すると共に、各段の段間を直流阻止する構成とし、かつ各段のトランジスタのゲートバイアス印加端子およびドレインバイアス印加端子が分離されるようにアイソレーション抵抗からなるバイアス共通化回路を介して接続されてなる多段増幅器において、
前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗にワイヤを並列接続して構成し、
前記ワイヤをインダクタとして用い、前記ワイヤのインダクタンスL[H]は、前記アイソレーション抵抗の抵抗値がR[Ω]、アイソレーションが悪化する周波数[Hz]がfの時、L>R/(2πf)となるように決定する
ことを特徴とする多段増幅器。 - 多段の増幅器を構成する多数のトランジスタのバイアス端子を共通化し、そのバイアス供給線路を交流的に短絡すると共に、各段の段間を直流阻止する構成とし、かつ各段のトランジスタのゲートバイアス印加端子およびドレインバイアス印加端子が分離されるようにアイソレーション抵抗からなるバイアス共通化回路を介して接続されてなる多段増幅器において、
前記バイアス共通化回路として、前記アイソレーション抵抗に2本のワイヤの直列接続体を並列接続し、2本のワイヤが接続された中間点からバイアスを印加する構成とした
ことを特徴とする多段増幅器。 - 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の多段増幅器において、
抵抗とコンデンサの並列接続体でなり、高周波では低損失、低周波では高損失となるような周波数選択性を有する損失回路を、増幅器の入力側の整合回路と直列に接続した
ことを特徴とする多段増幅器。
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