JP4069409B2 - 車両用制御装置及び制御パラメータの算出方法 - Google Patents

車両用制御装置及び制御パラメータの算出方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、3個以上のパラメータを有するマップを用いて、特定の制御パラメータを算出する車両用制御装置及び制御パラメータの算出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の電子制御化が進んだ車両においては、制御又は検出の対象となるパラメータとして、例えば、吸入空気量、吸気圧力、エンジン回転速度、冷却水温、吸気温、大気圧、吸気/排気バルブタイミング等の多数のパラメータが存在し、今後、このパラメータの数が益々増加するものと予想される。これらのパラメータは、相互に影響を及ぼし合いながら変動するため、例えば、吸気圧力の検出値(吸気圧力センサの出力値)から筒内に充填される吸入空気量を推定してスロットル開度を制御するシステムでは、吸気圧力、エンジン回転速度、冷却水温、吸気温、大気圧、吸気/排気バルブタイミング等をパラメータとする多数の多次元マップを予め作成して車載コンピュータのメモリに記憶しておき、エンジン運転中に、車載コンピュータがメモリに記憶されている多数の多次元マップを検索して吸気圧力等から吸入空気量を算出するようにしている。
【0003】
更に、エンジン運転中は、上記とは反対に、吸入空気量等から吸気圧力を算出する必要もある。例えば、バキュームリミッタ制御(筒内のエンジンオイルの吸い上げ等を防止するための吸気圧力下限値の制御)を行う際に、吸気圧力→吸入空気量への変換の他に、それとは逆方向の吸入空気量→吸気圧力への変換も必要になってくる。吸気圧力→吸入空気量、吸入空気量→吸気圧力のいずれの方向に変換する場合でも、エンジン回転速度、冷却水温、吸気温、大気圧、吸気/排気バルブタイミング等のパラメータの影響を考慮する必要があるため、吸気圧力→吸入空気量への変換(以下「正変換」という)を行う際に用いる多次元の正変換マップの他に、それとは逆方向の吸入空気量→吸気圧力への変換(以下「逆変換」という)を行う際に用いる多次元の逆変換マップも必要となってくる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、多次元の正変換マップの他に、多次元の逆変換マップが必要になってくる理由を説明する。正変換マップは、吸気圧力の他に、エンジン回転速度、冷却水温、吸気温、大気圧、吸気/排気バルブタイミング等をパラメータとするため、パラメータの数が3個以上の3次元以上のマップとなる。3個以上のパラメータを有する3次元以上のマップは、3個以上のパラメータから特定の制御パラメータを算出する“正方向のマップ検索”は可能であるが、それとは逆に、特定の制御パラメータから3個以上のパラメータのいずれかを算出する“逆方向のマップ検索”を行うことは不可能である(この理由については後で更に詳しく説明する)。このため、多次元の正変換マップの他に、多次元の逆変換マップも必要になってくる。
【0005】
一般に、多数のパラメータを有する多次元マップを精度良く作成するには、多くの適合工数が必要となるため、多次元の正変換マップを作成するだけでも多くの適合工数がかかるのに、更に、多次元の逆変換マップも作成するとなると、非常に多くの適合工数が必要となり、適合作業性が悪いという欠点がある。しかも、多数の多次元マップのデータを記憶するために車載コンピュータのメモリ容量を拡張する必要があり、コストアップを招くという欠点がある。更に、多次元マップの枚数が非常に多いため、車載コンピュータのCPU演算負荷も大きくなり、演算速度が低下して制御の応答性が低下したり、或は、それを避けるために高性能のCPUに取り替える必要が生じたりするという欠点もある。
【0006】
本発明はこれらの事情を考慮してなされたものであり、その目的は、正変換マップと逆変換マップとの共用化を可能にすることで、車両設計開発段階で技術者が作成するマップの枚数を減らして、マップ作成のための適合工数を大幅に削減することできると共に、マップデータを記憶するのメモリ容量の節約とCPU演算負荷軽減を実現することができる車両用制御装置及び制御パラメータの算出方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、N個(但しNは3以上の整数)のパラメータから特定の制御パラメータを算出するためのN次元の基礎マップを記憶手段に記憶しておき、車両の運転中に、所定の演算周期で前記N個のパラメータの中からN−1個又はN−2個のパラメータを、前記特定の制御パラメータを算出するための1次元又は2次元の仮想マップを作成する直前に検出した最新の値に固定してそれ以外のパラメータ(以下「非固定パラメータ」という)から前記1次元又は2次元の仮想マップを前記N次元の基礎マップに基づいて作成する処理を仮想マップ作成手段によって実行する。その後、制御パラメータ算出手段により、仮想マップを検索して前記非固定パラメータから前記特定の制御パラメータを算出する。
【0008】
このようにすれば、車載コンピュータに、仮想マップ作成手段として機能するプログラムを組み込むことで、車両の運転中に車載コンピュータによって自動的に仮想マップを作成することができる。しかも、仮想マップの次元数を1次元又は2次元にすることで、非固定パラメータが2個以下となるため、この仮想マップを逆方向に検索して特定の制御パラメータから非固定パラメータを算出することが可能となる。従って、仮想マップの次元数を2次元以下にすれば、その仮想マップを正逆両方向のマップとして共用することができて、従来システムで必要であった多次元の逆変換マップが不要となる。その結果、車両設計開発段階で技術者が作成するマップの枚数を大幅に減らすことができて、マップ作成のための適合工数を大幅に削減することでき、車両設計開発期間を短くすることができる。しかも、マップデータを記憶するためのメモリ容量が少なくて済むと共に、検索するマップ枚数を大幅に少なくすることができるので、CPU演算負荷も軽減することができる。
【0009】
この場合、N次元の基礎マップから1次元又は2次元の仮想マップを作成する際に、最新の値に固定するN−1個又はN−2個のパラメータは、それ以外のパラメータ(非固定パラメータ)と比較して変化の少ないパラメータを選択するようにすると良い。変化の少ないパラメータは、最新の値(直前の値)に固定しても、誤差が小さく、精度の良い仮想マップを作成することができる。
【0010】
ところで、仮想マップを作成する基となるN次元の基礎マップは、車両設計開発段階で技術者自身が作成しなければならないため、基礎マップの作成枚数を減らして、マップ作成のための適合工数をできるだけ少なくするのが望ましく、そのためには、基礎マップの次元数をできるだけ低次元化する必要がある。
【0011】
基礎マップを低次元化する手段として、物理補正式を導入すると良い。具体的には、車両の制御又は検出の対象となるパラメータの総数をN+K個(但しKは1以上の整数)とした場合に、N次元の基礎マップに用いるN個のパラメータ以外のK個のパラメータ(以下「非マップパラメータ」という)を標準値に固定した標準状態で測定したデータに基づいてN次元の基礎マップを作成して記憶手段に記憶しておき、車両の運転中に、制御パラメータ算出手段(車載コンピュータ)により、実際の環境下における前記非固定パラメータの値を物理補正式により前記標準状態における値に補正し、補正後の非固定パラメータを用いて前記仮想マップから前記標準状態における前記特定の制御パラメータを算出し、当該標準状態における特定の制御パラメータの値を物理補正式により実際の環境下における値に補正するようにすると良い。このように、物理補正式を導入することで、基礎マップを低次元化することが可能となり、基礎マップの作成枚数を減らして、マップ作成のための適合工数を少なくすることができる。
【0012】
この場合、吸気温や大気圧を非マップパラメータとして標準値に固定して基礎マップを作成すれば良く、物理補正式を気体の状態方程式から導き出すようにすれば良い。これにより、精度の良い物理補正式を導き出すことができる。
【0013】
また、最新の値に固定するパラメータを、少なくともエンジン回転速度と可変バルブタイミングとし、非固定パラメータを吸気圧力とし、特定の制御パラメータを吸入空気量とすると良い。これにより、吸気圧力から吸入空気量を精度良く算出することができる。そして、この吸入空気量から目標スロットル開度を算出してスロットルバルブを駆動すれば、応答良くスロットル開度を制御することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を吸気/排気可変バルブタイミング機構付きのエンジンに適用した一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側には、吸入空気量を検出する熱式のエアフロメータ14と、吸気温Tair を検出する吸気温センサ33が設けられている。また、エアフロメータ14の下流側には、モータ31で駆動されるスロットルバルブ15と、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ16が設けられている。
【0016】
更に、スロットルバルブ15の下流側には、サージタンク17が設けられ、このサージタンク17に、吸気圧力Pm を検出する吸気圧力センサ18が設けられている。また、サージタンク17には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド19が設けられ、各気筒の吸気マニホールド19の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁20が取り付けられている。
【0017】
エンジン11の吸気バルブ25と排気バルブ26は、それぞれ可変バルブタイミング機構28,29によって駆動され、エンジン運転状態に応じて吸気/排気バルブタイミング(イカ「吸気/排気VVT」と表記する)が調整される。尚、可変バルブタイミング機構28,29は、油圧駆動式、電磁駆動式のいずれの方式であっても良い。
【0018】
一方、エンジン11の排気管21の途中には、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒22が設置されている。この触媒22の上流側には、排出ガスの空燃比(又は酸素濃度)を検出する空燃比センサ(又は酸素センサ)23が設けられている。また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ24と、エンジン回転速度Ne を検出するクランク角センサ25等が設けられている。更に、車両の所定位置に大気圧Patm を検出する大気圧センサ32が設けられている。
【0019】
これら各種のセンサ出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)30に入力される。このECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶手段)に記憶された図8のトルク制御ルーチンを実行することで、要求トルクを演算し、この要求トルクを要求吸入空気量に変換して、その要求吸入空気量に応じた目標スロットル開度を算出する。
【0020】
この際、要求トルクは、アクセル操作量(アクセル開度)、トランスミッション、クルーズコントロール、ABS、トラクションコントロール等からの各種の要求トルクを合計したトルクに設定される。更に、要求トルクを正確に実現するために、トルク補償制御を実施する。
【0021】
このトルク補償制御は、定常運転時には、エアフロメータ14の出力(スロットル通過空気量)と吸気圧力センサ18の出力(吸気圧力Pm )とに基づいて筒内に充填される実吸入空気量Gn を算出し、この実吸入空気量Gn を要求トルクから算出される要求吸入空気量と比較して、要求吸入空気量を実現するようにスロットル開度を補償する。
【0022】
一方、過渡運転時には、エアフロメータ14の応答遅れの影響を無視できないため、応答性の良い吸気圧力センサ18の出力(吸気圧力Pm )に基づいて筒内に充填される実吸入空気量Gn を算出する。吸気圧力Pm から実吸入空気量Gn を算出する場合は、クランク角センサ25の出力(エンジン回転速度Ne )、大気圧センサ32の出力(大気圧Patm )、吸気温センサ33の出力(吸気温Tair )、冷却水温センサ24の出力(冷却水温Thw)、吸気VVT、排気VVTを考慮する必要がある。
従来は、これら7個のパラメータから実吸入空気量Gn を算出する際に、7次元マップを用いる。
【0023】
また、要求吸入空気量の下限値は、吸気圧力Pm の下限ガード値(エンジンオイルの吸い上げや燃焼性悪化等を防止するためのバキュームリミット圧力)によって制限されるため、バキュームリミット圧力に相当する吸入空気量下限値を算出し、もし、この要求吸入空気量がバキュームリミット圧力に相当する吸入空気量下限値よりも低くなっていれば、要求吸入空気量をバキュームリミット圧力に相当する吸入空気量下限値で制限する。
【0024】
一方、要求吸入空気量の上限値は、吸気圧力Pm の上限値である大気圧Patm によって制限されるため、吸気圧力Pm が大気圧Patm になったときの吸入空気量を吸入空気量上限値として算出して、もし、要求吸入空気量が吸入空気量上限値よりも多くなっていれば、要求吸入空気量を吸入空気量上限値で制限する。
【0025】
従来は、バキュームリミット圧力や大気圧Patm (吸気圧力Pm の上限値)から吸入空気量下限値・上限値を算出する際にも、吸気圧力Pm から実吸入空気量Gn を算出する7次元マップを用いる。
【0026】
更に、エンジン運転中は、要求吸入空気量から要求吸気圧力を算出して、実際の吸気圧力Pm が要求吸気圧力に一致するように制御する。従来は、要求吸入空気量から要求吸気圧力を算出する際に、7次元の逆マップを用いる。
【0027】
エンジン運転中は、吸気圧力Pm から吸入空気量Gn への変換と、吸入空気量Gn から吸気圧力Pm への変換を所定周期(例えば4ms周期)で行う必要がある。しかし、従来のように、これら2方向の変換を別々の7次元マップを用いて行うようにすると、車両設計開発段階で技術者が作成するマップの枚数が非常に多くなるため、膨大な適合工数が必要となり、生産性が悪いばかりか、多数の7次元マップのデータを記憶するためにECU30のROMのメモリ容量を拡張する必要があり、コストアップを招くという欠点がある。しかも、7次元マップの枚数が非常に多いため、ECU30のCPU演算負荷も大きくなり、演算速度が低下して制御の応答性が低下したり、或は、それを避けるために高性能のCPUに取り替える必要が生じたりするという欠点もある。
【0028】
そこで、本実施形態では、▲1▼物理補正式によるマップの低次元化と、▲2▼2次元以下の仮想マップによるマップの正逆共用化とによって上記の問題点を解消する。以下、この制御仕様について図2乃至図4を用いて具体的に説明する。
【0029】
吸気圧力から吸入空気量を算出する際に、考慮すべきパラメータを、吸気圧力Pm 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT、大気圧Patm 、吸気温Tair 、冷却水温Thwの7個のパラメータとした場合に、大気圧Patm 、吸気温Tair 、冷却水温Thwの3個のパラメータ(以下「非マップパラメータ」という)を標準値に固定した標準状態で測定したデータに基づいて、標準状態における吸気圧力Pmnorm 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVTの4個のパラメータから、標準状態における吸入空気量Gnnorm を算出する4次元の基礎マップを作成してECU30のROMに記憶しておく。
【0030】
そして、図2に示すように、エンジン運転中に、ECU30により、実際の環境下における吸気圧力Pm を物理補正式により前記標準状態における値Pmnorm に補正(標準化)し、補正後の吸気圧力Pmnorm を後述する仮想マップにより前記標準状態における吸入空気量Gnnorm に変換し、当該標準状態における吸入空気量Gnnorm を物理補正式により実際の環境下における値(実環境値)Gn に補正する。
【0031】
ここで、物理補正式は、吸気系の空気の流れに気体の状態方程式を適用して求められた下記の充填効率式(1)から導き出される。
Gn =ηv ×Pm ×Vc /(2×R×Tair ) ……(1)
Gn :筒内に吸入される吸入空気量[g/rev]
ηv :体積効率
Pm :吸気圧力[hPa]
Vc :全シリンダ容積[m
R :気体定数
Tair :吸気温[K]
【0032】
ここで、非マップパラメータである大気圧Patm の標準値を1013[hPa]、吸気温Tair の標準値を293.15[K]とすると、実際に検出した吸気圧力Pm を標準状態における吸気圧力Pmnorm に補正する物理補正式は、大気圧標準値(1013[hPa])と実際の大気圧Patm を用いて次式のように表される。
Pmnorm =Pm ×1013/Patm ……(2)
【0033】
従って、標準状態における吸入空気量Gnnorm は、上記(1)式、(2)式の関係から導き出した次式で算出される。
Figure 0004069409
【0034】
後述する仮想マップから算出した標準状態における吸入空気量Gnnorm を、実際の環境下における吸入空気量Gn に補正する物理補正式は、上記(1)式、(3)式の関係から次のように表される。
Figure 0004069409
【0035】
上記(2)式、(4)式は、吸気圧力Pm を吸入空気量Gn に変換する際に用いる物理補正式であるが、これとは逆に、吸入空気量Gn を吸気圧力Pm に変換する際に用いる物理補正式は、次の(5)式、(6)式で表される。
Figure 0004069409
【0036】
本実施形態では、大気圧Patm の標準値=1013[hPa]、吸気温Tair の標準値=293.15[K]としたが、要は、後述する4次元の基礎マップを作成するためのデータを測定する際に設定した非マップパラメータ(大気圧、吸気温、冷却水温)の固定値を標準値とすれば良い。
【0037】
尚、上記物理補正式(4)、(5)は、冷却水温の影響が無視されているが、吸気温と冷却水温の両方の影響を総合的に評価する温度補正係数を用いて、上記物理補正式(4)、(5)を次のように変更しても良い。
Gn =Gnnorm ×(Patm /1013)×温度補正係数 ……(7)
Gnnorm =Gn ×(1013/Patm )/温度補正係数 ……(8)
【0038】
以上説明した物理補正式を導入することで、従来の7次元マップを4次元の基礎マップに低次元化することがてきる。
【0039】
ところで、マップの次元数が3次元以上(パラメータが3個以上)である場合は、3個以上のパラメータから特定の制御パラメータを算出する“正方向のマップ検索”は可能であるが、それとは逆に、特定の制御パラメータから3個以上のパラメータのいずれかを算出する“逆方向のマップ検索”を行うことができないため、逆方向のマップ検索が必要となる場合は、逆方向のマップも作成する必要がある。
【0040】
この問題点を図3を用いて具体的に説明する。図3(a)は、吸気圧力Pm 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVTの3個のパラメータから吸入空気量Gn を算出する3次元マップを概念的に示したものである。この3次元マップを用いて、吸気圧力Pm を吸入空気量Gn に変換する場合は、現在の吸気VVT位置に隣接する2つの吸気VVT位置(例えば0℃A,20℃A)における吸入空気量A,Bを4点補間により算出する。
【0041】
A=4点補間(Pm ,Ne ,A11,A12,A21,A22)
B=4点補間(Pm ,Ne ,B11,B12,B21,B22)
ここで、A11,A12,A21,A22,B11,B12,B21,B22は、吸入空気量のマップデータである。
【0042】
そして、最終的に求める吸入空気量Gn は、2つの吸気VVT位置(例えば0℃A,20℃A)における吸入空気量A,Bを現在の吸気VVT位置で2点補間して求められる。
Gn =2点補間(A,B,吸気VVT位置)
【0043】
一方、図3(b)に示すように、この3次元マップを逆方向に検索して、吸入空気量Gn を吸気圧力Pm に変換しようとすると、現在の吸気VVT位置(例えば10℃A)に隣接する2つの吸気VVT位置(例えば0℃A,20℃A)における2つの吸入空気量A,Bが必要となる。しかし、現在の吸気VVT位置(例えば10℃A)における吸入空気量Gn からは、2つの吸気VVT位置(例えば0℃A,20℃A)における2つの吸入空気量A,Bを一義的に決定することができないため、3次元マップを逆方向に検索して吸入空気量Gn を吸気圧力Pm に変換することは不可能である。そのため、3次元マップの逆方向の検索が必要となる場合は、逆方向の3次元マップも作成する必要がある。
【0044】
そこで、本実施形態(1)では、マップの正逆共用化を実現するために、4次元の基礎マップから図4に示す1次元の仮想マップをECU30で作成する。以下、この仮想マップの作成方法を説明する。
【0045】
4次元の基礎マップの4個のパラメータ(標準状態における吸気圧力Pmnorm 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT)のうち、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVTは、吸気圧力Pm と吸入空気量Gn との変換処理に要する時間(例えば1ms)ではほとんど変化しないため、これらのほとんど変化しない3個のパラメータ(エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT)を最新の値に固定し、非固定パラメータを吸気圧力Pmnorm のみとすることで、4次元の基礎マップから、吸気圧力Pmnorm と吸入空気量Gnnorm との関係を検索して図4に示す1次元の仮想マップを作成する。この仮想マップは、要求される変換処理周期(例えば4ms)で更新される。
【0046】
尚、4次元の基礎マップの4個のパラメータのうちの2個のパラメータのみを最新の値に固定し、非固定パラメータを2個とすることで、4次元の基礎マップから2次元の仮想マップを作成するようにしても良く、この場合でも、マップの正逆共用化が可能である。
【0047】
一般に、基礎マップの次元数をN次元(但しNは3以上の整数)とすると、マップの正逆共用化を可能とするためには、基礎マップのN個のパラメータの中から、変化の少ないN−1個又はN−2個のパラメータを最新の値に固定して、非固定パラメータを1個又は2個とすることで、N次元の基礎マップから1次元又は2次元の仮想マップを作成するようにすれば良い。マップの正逆共用化が必要でない場合は、3次元以上の仮想マップを作成するようにしても良い。
以上説明したマップ検索処理は、ECU30によって図5乃至図7の各ルーチンに従って実行される。以下、これら各ルーチンの処理内容を説明する。
【0048】
図5の吸入空気量算出ルーチンは、所定周期(例えば4ms)で起動され、吸気圧力Pm 等から吸入空気量Gn を算出するルーチンであり、特許請求の範囲でいう制御パラメータ算出手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ101で、各センサの出力を読み込んで現在の運転条件(吸気圧力Pm 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT、大気圧Patm 、吸気温Tair 、冷却水温Thw)を検出した後、ステップ102に進み、下記の物理補正式により、実際に検出した吸気圧力Pm を標準状態における吸気圧力Pmnorm に補正(標準化)する。
Pmnorm =Pm ×1013/Patm
【0049】
この後、ステップ103に進み、後述する図6の仮想マップ作成ルーチンによって作成された1次元の仮想マップを検索して、標準状態における吸気圧力Pmnorm を標準状態における吸入空気量Gnnorm に変換する。この後、ステップ104に進み、下記の物理補正式により、標準状態における吸入空気量Gnnorm を実環境下における値(実環境値)Gn に補正する。
Gn =Gnnorm ×(Patm /1013)×(293.15/Tair )
【0050】
その後、ステップ105に進み、この吸入空気量Gn を出力して本ルーチンを終了する。
尚、吸気圧力Pm の他に、空気量への変換が必要な各種圧力(例えばバキュームリミット圧力、大気圧Patm )についても、ステップ102で、同様の物理補正式により、標準状態における圧力に補正し、次のステップ103で、1次元の仮想マップを検索して、標準状態における圧力を標準状態における空気量に変換し、続くステップ104で、同様の物理補正式により、標準状態における空気量を実環境値に補正するようにすれば良い。
【0051】
一方、図6の仮想マップ作成ルーチンは、図5の吸入空気量算出ルーチンを実行する直前に起動され、特許請求の範囲でいう仮想マップ作成手段としての役割を果たす。
【0052】
本ルーチンが起動されると、まずステップ201で、4次元の基礎マップの4個のパラメータ(標準状態における吸気圧力Pmnorm 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT)のうち、短時間ではほとんど変化しない3個のパラメータ(エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT)を最新の値(直前に検出した値)に固定して、非固定パラメータを吸気圧力Pmnorm のみとする。
【0053】
この後、ステップ202に進み、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVTを最新の値に固定した条件で、4次元の基礎マップから、吸気圧力Pmnorm と吸入空気量Gnnorm との関係を検索して図4に示す1次元の仮想マップを作成する。
【0054】
以上のようにして作成した1次元の仮想マップは、図5の吸入空気量算出ルーチンのステップ103で、吸入空気量Gnnorm を算出する正マップとして使用される他に、図7の吸気圧力算出ルーチンのステップ303で、吸気圧力Pmnorm を算出する逆マップとしても使用される。
【0055】
図7の吸気圧力算出ルーチンは、所定周期(例えば4ms)で起動され、1次元の仮想マップを逆方向に検索して、吸入空気量Gn 等から吸気圧力Pm を算出するルーチンであり、特許請求の範囲でいう制御パラメータ算出手段としての役割を果たす。
【0056】
本ルーチンが起動されると、まずステップ301で、各センサの出力を読み込んで現在の運転条件(吸入空気量Gn 、エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT、大気圧Patm 、吸気温Tair 、冷却水温Thw)を検出した後、ステップ302に進み、下記の物理補正式により、実際に検出した吸入空気量Gn を標準状態における吸入空気量Gnnorm に補正する。
Gnnorm =Gn ×(1013/Patm )×(Tair /293.15)
【0057】
この後、ステップ303に進み、前記図6の仮想マップ作成ルーチンによって作成された1次元の仮想マップを逆方向に検索して、標準状態における吸入空気量Gnnorm を標準状態における吸気圧力Pmnorm に変換する。このステップ303の処理が特許請求の範囲でいう逆マップ検索手段としての役割を果たす。この後、ステップ304に進み、下記の物理補正式により、標準状態における吸気圧力Pmnorm を実環境下における値(実環境値)Pm に補正する。
Pm =Pmnorm ×(Patm /1013)
【0058】
その後、ステップ305に進み、この吸気圧力Pm を出力して本ルーチンを終了する。
尚、吸入空気量Gn の他に、圧力への変換が必要な空気量(例えば要求吸入空気量)についても、ステップ302で、同様の物理補正式により、標準状態における空気量に補正し、次のステップ303で、1次元の仮想マップを逆方向に検索して標準状態における空気量を標準状態における圧力に変換し、続くステップ304で、同様の物理補正式により、標準状態における圧力を実環境値に補正するようにすれば良い。
【0059】
ECU30は、以上説明した図5乃至図7の各ルーチンを所定周期(例えば4ms周期)で実行しながら、特許請求の範囲でいう制御手段として機能する図8のトルク制御ルーチンを所定周期(例えば8ms周期)で実行して、次のようにしてトルク制御を実行する。
【0060】
図8のトルク制御ルーチンが起動されると、まずステップ401で、アクセル操作量(アクセル開度)、トランスミッション、クルーズコントロール、ABS、トラクションコントロール等からの各種の要求トルクを合計して、最終的な要求トルクを求める。この後、ステップ402に進み、要求トルクを要求吸入空気量に変換した後、ステップ403に進み、現在の運転状態に応じてバキュームリミット圧力(吸気圧力Pm の下限ガード値)を算出する。
【0061】
そして、次のステップ404で、前記図5及び図6の各ルーチンによって、バキュームリミット圧力を吸入空気量下限値に変換する。この後、ステップ405に進み、要求吸入空気量が吸入空気量下限値以上であるか否かを判定し、要求吸入空気量が吸入空気量下限値以上であれば、その要求吸入空気量をそのまま用いるが、もし、要求吸入空気量が吸入空気量下限値よりも少なければ、ステップ406に進み、吸入空気量下限値を要求吸入空気量とする。
【0062】
この後、ステップ407に進み、要求吸入空気量を目標スロットル開度に変換する。このステップ407の処理が特許請求の範囲でいう目標スロットル開度算出手段としての役割を果たす。そして、次のステップ408で、実スロットル開度を目標スロットル開度に一致させるようにスロットルバルブ15をモータ31により駆動する。このステップ408の処理が特許請求の範囲でいうスロットル制御手段としての役割を果たす。
【0063】
以上説明した本実施形態によれば、従来の7次元マップを物理補正式によって4次元の基礎マップに低次元化した上で、その基礎マップのパラメータの中から、短時間ではほとんど変化しないパラメータ(エンジン回転速度Ne 、吸気VVT、排気VVT)を最新の値に固定し、非固定パラメータを吸気圧力のみとすることで、4次元の基礎マップから1次元の仮想マップを作成するようにしたので、マップの低次元化とマップの正逆共用化の要求を同時に満たすことができて、車両設計開発段階で技術者が作成するマップの枚数を大幅に減らすことができる。これにより、マップ作成のための適合工数を大幅に削減することができ、生産性を向上できると共に、マップデータを記憶するためのメモリ容量が少なくて済み、低コスト化の要求を満たすことができる。しかも、マップの低次元化によりECU30のCPU演算負荷を軽減することができて、演算速度ひいては制御の応答性を向上することができる。
【0064】
尚、本実施形態では、制御・検出の対象となるパラメータの数を7個としたが、これよりも多くても少なくても良く、同様に、基礎マップの次元数も4次元に限定されず、3次元又は5次元以上であっても良い。また、基礎マップから仮想マップを作成する際に固定するパラメータの数も3個に限定されないことは言うまでもない。
【0065】
また、本発明の仮想マップで算出する制御パラメータは、エンジン制御パラメータに限定されず、例えば、自動変速機の制御パラメータ、車両統合制御用のパラメータ等、車両の各種のシステムの制御パラメータを算出する場合にも本発明を適用して実施することができる。
その他、本発明を適用可能なエンジンは、吸気ポート噴射式のエンジンに限定されず、筒内噴射式のエンジンにも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示すエンジン制御システム全体の概略構成図
【図2】吸気圧力Pm と吸入空気量Gn との間のマップ検索方法を説明する図
【図3】(a)は3次元マップの正方向のマップ検索を説明する図、(b)は3次元マップの逆方向のマップ検索が不可能であることを説明する図
【図4】1次元仮想マップを概念的に示す図
【図5】吸入空気量算出ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図6】仮想マップ作成ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図7】吸気圧力算出ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図8】トルク制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【符号の説明】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、14…エアフローメータ、15…スロットルバルブ、18…吸気圧力センサ、20…燃料噴射弁、21…排気管、25…吸気バルブ、26…排気バルブ、28,29…可変バルブタイミング機構、30…ECU(仮想マップ作成手段,制御パラメータ算出手段,逆マップ検索手段,目標スロットル開度算出手段,制御手段,スロットル制御手段)、31…モータ、32…大気圧センサ、33…吸気温センサ。

Claims (9)

  1. N個(但しNは3以上の整数)のパラメータから特定の制御パラメータを算出するためのN次元の基礎マップを記憶する記憶手段と、
    車両の運転中に所定の演算周期で前記N個のパラメータの中から一部のパラメータを最新の値に固定してそれ以外のパラメータ(以下「非固定パラメータ」という)から前記特定の制御パラメータを算出するための仮想マップを前記N次元の基礎マップに基づいて作成する仮想マップ作成手段と、
    前記仮想マップを検索して前記非固定パラメータから前記特定の制御パラメータを算出する制御パラメータ算出手段と、
    前記特定の制御パラメータに基づいて車両の制御対象を制御する制御手段とを備え、
    前記仮想マップ作成手段は、前記N個のパラメータの中からN−1個又はN−2個のパラメータを前記仮想マップを作成する直前に検出した最新の値に固定して前記N次元の基礎マップに基づいて前記仮想マップを1次元又は2次元の仮想マップとして作成することを特徴とする車両用制御装置。
  2. 前記最新の値に固定するN−1個又はN−2個のパラメータは、それ以外の前記非固定パラメータと比較して変化の少ないパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
  3. 前記制御パラメータ算出手段は、前記1次元又は2次元の仮想マップを前記特定の制御パラメータから前記非固定パラメータを算出するための逆マップとして兼用し、該仮想マップを逆方向に検索して前記特定の制御パラメータから前記非固定パラメータを算出する逆マップ検索手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
  4. 車両の制御又は検出の対象となるパラメータの総数は、N+K個(但しKは1以上の整数)であり、
    前記N次元の基礎マップは、該基礎マップに用いるN個のパラメータ以外のK個のパラメータ(以下「非マップパラメータ」という)を標準値に固定した標準状態で測定したデータに基づいて作成され、
    前記制御パラメータ算出手段は、実際の環境下における前記非固定パラメータの値を物理補正式により前記標準状態における値に補正し、補正後の非固定パラメータを用いて前記仮想マップから前記標準状態における前記特定の制御パラメータを算出し、当該標準状態における特定の制御パラメータの値を物理補正式により実際の環境下における値に補正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用制御装置。
  5. 前記非マップパラメータは、少なくとも吸気温と大気圧を含む2個以上のパラメータからなり、
    前記物理補正式は、気体の状態方程式から導き出されていることを特徴とする請求項4に記載の車両用制御装置。
  6. 前記最新の値に固定するパラメータを、少なくともエンジン回転速度と可変バルブタイミングを含む2個以上のパラメータとし、前記非固定パラメータを吸気圧力とし、前記特定の制御パラメータを吸入空気量とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用制御装置。
  7. 前記制御手段は、前記特定の制御パラメータとして算出された吸入空気量から目標スロットル開度を算出する目標スロットル開度算出手段と、前記目標スロットル開度に基づいてスロットルバルブを駆動するスロットル制御手段とを備えていることを特徴とする請求項6に記載の車両用制御装置。
  8. N個(但しNは3以上の整数)のパラメータから特定の制御パラメータを算出するためのN次元の基礎マップを用いて前記特定の制御パラメータを算出する制御パラメータの算出方法において、
    車両の運転中に、所定の演算周期で前記N個のパラメータの中から変化の少ないN−1個又はN−2個のパラメータを、前記特定の制御パラメータを算出するための1次元又は2次元の仮想マップを作成する直前に検出した最新の値に固定してそれ以外のパラメータ(以下「非固定パラメータ」という)から前記1次元又は2次元の仮想マップを前記N次元の基礎マップに基づいて作成し、
    その後、前記仮想マップを検索して前記非固定パラメータから前記特定の制御パラメータを算出し、
    更に、前記仮想マップを前記特定の制御パラメータから前記非固定パラメータを算出するための逆マップとして兼用することを特徴とする制御パラメータの算出方法。
  9. 車両の制御又は検出の対象となるパラメータの総数は、N+K個(但しKは1以上の整数)であり、
    前記N次元の基礎マップは、該基礎マップに用いるN個のパラメータ以外のK個のパラメータ(以下「非マップパラメータ」という)を標準値に固定した標準状態で測定したデータに基づいて作成され、
    車両の運転中に、実際の環境下における前記非固定パラメータの値を物理補正式により前記標準状態における値に補正し、補正後の非固定パラメータを用いて前記仮想マップから前記標準状態における前記特定の制御パラメータを算出し、当該標準状態における特定の制御パラメータの値を物理補正式により実際の環境下における値に補正することを特徴とする請求項8に記載の制御パラメータの算出方法。
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