JP4066518B2 - 圧電結晶薄膜とその製造方法、および圧電体素子 - Google Patents

圧電結晶薄膜とその製造方法、および圧電体素子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧電アクチュエータ、圧電センサー、焦電センサー、誘電体素子、コンデンサー等に使用することができる、基板上に形成されたPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系圧電結晶薄膜に関するものであり、詳しくは、基板の上にスパッタリング法でPZT薄膜を形成し、その上に水熱合成法でPZT系薄膜を形成することを特徴とする圧電結晶薄膜とその製造方法、および圧電体素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、通信機器、情報処理機器、AV、家電製品等の高性能化と小型化が進むのと並行して、それらの機器を構成する電子部品の小型化、軽量化が検討されており、薄膜化による性能向上が試みられている。
【0003】
しかしながら、従来のセラミックス研磨法による薄膜化では、所望の密度や組成は得られるものの、目的とする厚み(3〜50μm)に形成するためには歩留まりが悪く極度のコストアップとなるという課題があり、また、曲面状等の自由な形状に圧電結晶膜を形成するには適していない。
【0004】
また、スパッタリング法、CVD法等の真空プロセス、ゾルゲル法などを用いて薄膜化することもできるが、これらの方法の場合、膜厚を厚くする場合の量産性に乏しいという課題がある。
【0005】
前記課題を解決する手段として、水熱法によるPZT系圧電結晶膜が開発された。水熱法によるPZT系圧電結晶膜は、大きさや形状の制限が少なく、膜形成時点で分極しており、さらにチタン含有化合物の表面に優先的に結晶成長することを利用したパターニングが可能等の特性を有しており、電子材料として幅広い応用分野を有している。
【0006】
しかし、従来のチタン基板上に水熱合成する場合には、水熱合成の極く初期において、チタン基板近傍は溶出したチタンイオンの濃度が極めて高いため、チタン基板表面にはまずチタン酸鉛結晶が生成する。さらに、反応が進むとチタン基板からのチタンイオンの溶出が抑制されチタン酸鉛とジルコン酸鉛が生成するようになる。このため、初期結晶層は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛結晶の混合物層となり、チタン基板に近づくにつれてチタン酸鉛結晶が多く存在している構造になる。
【0007】
このようなことから、水熱合成で初期結晶層を形成し、この上にPZTを成長させた場合には、圧電性を示さないジルコン酸鉛や圧電特性の劣るチタン酸鉛が存在するため、PZT系圧電結晶膜全体としての特性が悪くなり、特に誘電率、誘電損失、圧電定数等の電気特性の点で未だ十分ではなく、その改善が種々検討されている。
【0008】
特開平9−298324号公報には、微細なパターニングの可能な圧電体薄膜の形成方法が開示されており、その一つの方法として、Si基板上に形成したPt電極の上にスパッタリング法によりアモルファスのPZT膜を形成し、熱処理により微細なPZT種晶に変え、その上に水熱合成法により1μm以下のPZT結晶を成長させる方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、この方法では、スパッタリング法でアモルファスPZT膜を製膜しているため、この膜を酸化雰囲気中で750℃で1時間、熱処理する必要があり、基板には耐酸化性が要求され、材料が限定される。また、開示されているシリコン基板は、水熱合成時の条件では非常に溶出し易く、結晶成長の時には、十分に他の安定な材料で保護される必要がある。
【0010】
さらに、圧電セラミックスの圧電定数は粒径が大きくなるにつれて大きくなるが、同公報に記載の方法では、粒径が1μm以下と小さく、PZT結晶の圧電特性を十分に発揮しにくくなっており、例えば圧電定数d31も100pC/Nに達しない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、スパッタリング法、CVD法、ゾルゲル法などでは容易に形成できない膜厚で、従来の水熱合成法にくらべ電気特性になどに優れ、結晶化のための処理と高温を必要とせず、製造が容易な、圧電体薄膜とその製造方法、および圧電体素子を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板上に反応性スパッタリング法でPZT結晶薄膜を直接形成し、その上に水熱合成法によりPZT系結晶薄膜を形成することを特徴とする圧電結晶薄膜の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、基板がTiまたはNiからなることを特徴とする前記圧電結晶薄膜の製造方法に関する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明のPZT系圧電結晶膜は、反応性スパッタリング法により初期PZT結晶層を直接形成する第1工程を行った後に、ついで水熱法により結晶成長をさせる第2工程行うことにより得られる。
【0017】
まず、スパッタリング用原料の組成をaPbO+bZr+cTiと表した場合、a/(a+b+c)の値が0.25〜0.5となるように調整した原料を用いて、アルゴンと酸素との混合ガスの圧力が20mtorr以下、酸素/アルゴン流量比が0.005〜0.10、基板温度が400℃〜600℃の条件でスパッタリングを行い、基板上に初期PZT結晶層を形成する第1工程、および、0.1mol/l〜8.0mol/lのアルカリ溶液中、鉛含有原料化合物が50mmol/l〜500mmol/l、ジルコニウム含有原料化合物が10mmol/l〜500mmol/lおよびチタン含有原料化合物が10mmol/l〜500mmol/lの条件で80℃〜200℃、好ましくは100℃〜160℃、さらに好ましくは120℃〜160℃で1分以上、好ましくは10分以上反応させ、結晶成長層を形成する第2工程とからPZT系圧電結晶膜が製造される。また、第2工程の成長反応を繰り返し行うことにより成長膜の厚さを制御できる。
【0018】
上記のようにして、誘電率、誘電損失、圧電定数等の電気特性の高いPZT系圧電結晶膜が得られる。
【0019】
本発明で使用される基板は素子とした場合の電極となる金属、あるいは、表面に金属を有する材料であれば、特に限定されない。また、反応性スパッタリングの条件は、アルゴンと酸素との混合ガスの圧力が20mtorr以下、酸素/アルゴン流量比が0.005〜0.10、基板温度が400〜600℃であることから、基板には特に、耐熱性、耐酸化性に優れた金属を使用する必要はなく、Ti,Ni,Ag,Pt,Au,Fe,ステンレスなども使用できる。特にTi、Niは、耐アルカリ性、耐食性、価格の点から好ましい。Siは、水熱合成時にアルカリ水溶液中に溶け出してしまうため、そのための保護膜の形成などの対策が必要であり、好ましくない。
【0020】
本発明のスパッタリング法で形成されるPZT層の厚さは、基板面に結晶層が形成される限り、特に限定されないが、経済性を考慮すると、薄い方が好ましい。
【0021】
水熱反応により形成されるPZT層の粒子径は、過度に小さいと圧電定数が小さくなり、過度に大きいと製造が難しくなるので、1μmより大きく10μm以下が好ましく、特に、2μm以上10μm以下が好ましい。
【0022】
本発明において水熱反応に使用される鉛、ジルコニウム、およびチタンの構成元素を含有する原料化合物としては塩化物、オキシ塩化物、硝酸塩、水酸化物酸化物等が好ましい。
【0023】
また、水熱反応において使用されるアルカリ化合物として、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を挙げることができる。
【0024】
本発明の製造方法の具体例を以下に詳述する。基板としてチタン基板あるいはニッケル基板を用い、前記基板上にまずスパッタリング法により初期PZT結晶層を直接形成し、ついで水熱法により、誘電率、誘電損失、圧電定数等の電気特性の改善されたPZT系圧電結晶膜を製造する。
【0025】
まず、スパッタリング用ターゲットの組成をaPbO+bZr+cTiと表した場合、a/(a+b+c)の値が0.25〜0.5、b/(b+c)の値が0.46〜0.58となるように調整したターゲットを用いて、アルゴンと酸素との混合ガスの圧力が20mtorr以下、酸素/アルゴン流量比が0.005〜0.10、基板温度が400℃〜600℃の条件でスパッタリングを行い、基板上に初期PZT結晶層を形成する。このときの初期PZT結晶層の厚みは0.05μm〜2.0μmとなっている。
【0026】
次に、結晶を成長させるため、Pb(NO水溶液50mmol/l〜500mmol/l、ZrOCl水溶液10mmol/l〜500mmol/l、TiCl水溶液10mmol/l〜500mmol/lおよびKOH水溶液0.1mol/l〜8.0mol/lの混合溶液中に、前記の初期PZT結晶層が形成された基板を任意の場所に設置固定し、80℃〜200℃、好ましくは100℃〜160℃、さらに好ましくは120℃〜160℃で1分以上、好ましくは10分以上水熱処理を行う。これより基板上にPZT系圧電結晶膜が形成される。水熱処理における加熱方法は油浴や電気炉等による。その後、一般的な洗浄を行う。例えば、純水中で超音波洗浄を行い、100℃〜200℃で2時間以上乾燥させる。洗浄には酢酸等の有機酸、硝酸、硫酸等の使用もできる。
【0027】
こうして形成されたPZT系圧電結晶膜の組成は、第1工程による初期PZT結晶層、および初期PZT結晶層の上に成長した結晶成長層共にPbZrTi1−x(ただし、0<x<1である。)からなっている。
【0028】
本発明で得られるPZT系圧電結晶膜を素子化する場合に使用される電極としては、特に限定されないが、コストや量産性を考慮し、最適なものが選定される。例えば、無電解メッキ法によるニッケル、焼き付けタイプの銀等がある。その他、蒸着法によるアルミニウム、スパッタリング法による白金、ニッケル、金等も用いられる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例についてさらに詳述する。
【0030】
実施例1
スパッタリング用ターゲットの組成をaPbO+bZr+cTiと表した場合、a/(a+b+c)の値が0.3、b/(b+c)の値が0.5となるようにPbO粉末、Zr粉末、Ti粉末を混合調整して作製したターゲットを用いて、アルゴンと酸素との混合ガスの圧力が10mtorr、酸素/アルゴン流量比が0.021、基板温度が450℃の条件でTi基板上にスパッタリングを行った。この第1工程で生成した初期PZT結晶層は組成がPbZrTi1−x(但し、0<x<1である。)のペロブスカイト相からなる膜厚0.3μmの均一な結晶膜であった。スパッタリング法で形成したPZT膜の表面のSEM写真を図2に、このX線回折パターンを図3に示す。図3から結晶性のPZT薄膜が形成されていることがわかる。
【0031】
このようにして得られた第1工程の初期PZT結晶層に結晶成長のために第2工程の反応原料投入量をPb(NO水溶液330mmol/l、ZrOCl水溶液150mmol/l、TiCl水溶液150mmol/l、およびKOH水溶液5.06mol/lとし、該混合溶液中に初期PZT結晶膜層を形成したチタン基板を設置固定して通常の撹拌操作の下、130℃で4時間の水熱処理を行い、PbZrTi1−x(但し、0<x<1である。)の膜を形成した。この第2工程を3回繰り返して膜厚を10μmとした。その後、純水中で超音波洗浄を3分間×2回行い、100℃で12時間乾燥を行った。このようにして得られたPZT膜の表面のSEM写真を図1に示す。図1から緻密な膜が形成されているのがわかる。
【0032】
得られたPZT系圧電結晶膜にスパッタリング法により、金電極を付与し、バイモルフ素子の構成で、分極処理を施すことなく電圧を印加したところ変位を示し、分極方向が揃っていることが電気的に確認された。この膜の比誘電率は約900、誘電損失は約0.01、圧電定数は約115pC/Nであった。
【0033】
実施例2
基板としてTiの代わりにNiを用いた以外は、実施例1と同様な方法でスパッタリングおよび水熱合成を行ないPZTの薄膜を形成した。
第1工程で生成した初期PZT結晶層は組成がPbZrTi1−x(但し、0<x<1である。)のペロブスカイト相からなる膜厚0.3μmの均一な結晶膜であった。この上に水熱合成し、10μmのPZT膜を得た。
【0034】
得られたPZT系圧電結晶膜にスパッタリング法により、金電極を付与し、バイモルフ素子の構成で、分極処理を施すことなく電圧を印加したところ変位を示し、分極方向が揃っていることが電気的に確認された。この膜の比誘電率は約900、誘電損失は約0.01、圧電定数は約105pC/Nであった。
【0035】
実施例3
水熱合成のKOHの濃度を2.06mol/lとし、反応時間を12時間とした以外は、実施例1と同様な方法でPZT膜を形成した。水熱合成で得られた膜厚は、10μmであった。
【0036】
得られたPZT系圧電結晶膜にスパッタリング法により、金電極を付与し、バイモルフ素子の構成で、分極処理を施すことなく電圧を印加したところ変位を示し、分極方向が揃っていることが電気的に確認された。この膜の比誘電率は約1000、誘電損失は約0.01、圧電定数は約110pC/Nであった。
【0037】
実施例4
スパッタリング時の基板温度を500℃とした以外は、実施例1と同様な方法でPZT膜を形成した。スパッタ後のPZTの膜厚は、0.5μmであり、水熱後の膜厚は、10μmであった。
【0038】
得られたPZT系圧電結晶膜にスパッタリング法により、金電極を付与し、バイモルフ素子の構成で、分極処理を施すことなく電圧を印加したところ変位を示し、分極方向が揃っていることが電気的に確認された。この膜の比誘電率は約900、誘電損失は約0.01、圧電定数は約100pC/Nであった。
【0039】
実施例5
スパッタリング用ターゲットの組成をaPbO+bZr+cTiと表した場合、a/(a+b+c)の値を0.4とした以外実施例4と同様な方法でPZT膜の形成を行なった。スパッタ後のPZTの膜厚は、0.5μmであり、水熱後の膜厚は、10μmであった。
【0040】
得られたPZT系圧電結晶膜にスパッタリング法により、金電極を付与し、バイモルフ素子の構成で、分極処理を施すことなく電圧を印加したところ変位を示し、分極方向が揃っていることが電気的に確認された。この膜の誘電率は約900、誘電損失は約0.01、圧電定数は約105pC/Nであった。
【0041】
比較例1
基板上にスパッタリング法でPZT結晶膜を形成せず、直接水熱合成で膜を形成した場合の比較例を示す。
【0042】
第1工程の初期結晶相の形成を水熱法により行った。第1工程の反応原料投入量をPb(NO水溶液300mmol/l、ZrOCl水溶液100mmol/l、およびKOH水溶液3.8mol/lとし、該混合液中にチタン基板を設置固定して通常の撹拌操作の下、160℃で12時間の水熱処理を行った。この第1工程で生成した膜の組成はPbZrTi1−x(但し、0<x<1である。)であり、膜厚は5.0μmであった。ただし、該初期結晶層は基板表面にはPbTiO系の結晶が存在し、徐々にPbZrO系の結晶を多く含む層に変化していた。
【0043】
このようにして得られた第1工程の初期結晶層に結晶成長のために第2工程の反応原料投入量をPb(NO水溶液330mmol/l、ZrOCl水溶液150mmol/l、TiCl水溶液150mmol/l、およびKOH水溶液5.06mol/lとし、該混合溶液中に初期PZT結晶膜層を形成したチタン基板を設置固定して通常の撹拌操作の下、130℃で4時間の水熱処理を行い、PbZrTi1−x(但し、0<x<1である。)の膜を形成した。この第2工程を2回繰り返して膜厚を10μmとした。その後、純水中で超音波洗浄を3分間×2回行い、100℃で12時間乾燥を行った。
【0044】
得られたPZT系圧電結晶膜にスパッタリング法により、金電極を付与し、バイモルフ素子の構成で、分極処理を施すことなく電圧を印加したところ変位を示し、分極方向が揃っていることが電気的に確認された。この膜の誘電率は約800、誘電損失は約0.05、圧電定数は約50pC/Nであった。
【0045】
このように、基板の表面にスパッタリング法でPZT結晶膜を形成しない場合は、好ましい電気的特性は得られなかった。
【0046】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、スパッタリング法、CVD法、ゾルゲル法などでは容易に形成できない膜厚で、従来の水熱合成法にくらべ誘電率、誘電損失、圧電定数等の電気特性に優れた圧電体薄膜を、結晶化のための処理と高温を必要とせず、基板のアルカリ溶液への溶解を気にすること無く、容易に形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の反応性スパッタリング法で直接形成したPZT結晶薄膜上に、水熱合成法で形成したPZT結晶薄膜の表面状態を示す図面に代わる写真図である。
【図2】実施例1のTi基板上に反応性スパッタリング法で直接形成したPZT結晶薄膜の表面状態を示す図面に代わる写真図である。
【図3】実施例1のTi基板上に反応性スパッタリング法で直接形成したPZT結晶薄膜のX線回折パターンを示す図である。

Claims (2)

  1. 基板上に反応性スパッタリング法でPZT結晶薄膜を直接形成し、その上に水熱合成法によりPZT系結晶薄膜を形成することを特徴とする圧電結晶薄膜の製造方法。
  2. 基板がTiまたはNiからなることを特徴とする請求項記載の圧電結晶薄膜の製造方法
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