JP4065187B2 - 磁界解析方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 - Google Patents

磁界解析方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁界解析方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関し、特に、二次元磁気特性のモデリングにおいて高精度な磁界解析を行うために用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
近年では、コンピュータ技術の発達と共に有限要素法等の磁界解析技術が発展し、コンピュータによる磁界解析の結果を利用して機器設計等がなされるようになっている。機器内部の磁気特性を局所的に正確に把握することができるようになれば、磁性材料を用いた電機機器類を設計する際に、より高効率な設計を行うことができ、省エネルギー化に大きく貢献することができると考えられる。
【0003】
従来までの磁気特性は単板磁気試験法やエプスタイン試験法等によって測定されてきた。これらの測定法は、一方向励磁による一次元測定であり、本来ベクトル量であるはずの磁束密度Bと磁界強度Hの関係を無視し測定方向(磁化容易軸方向)への写像量をスカラー値として測定していたに過ぎない。
【0004】
しかしながら、異方性を有する磁性材料に磁化容易軸方向に対して傾きをもって磁界を印加した場合や、回転磁界下においては磁束密度と磁界強度ベクトルの間に方向の差が生じる。この磁気特性を正確に把握するために、両者の関係をベクトル量として直接測定しようという試みから、近年、二次元磁気測定法が考案された。この測定法で得られた磁気特性は二次元磁気特性と呼ばれる。
【0005】
二次元磁気特性は試料全体の磁界強度と磁束密度をベクトル量として把握できるため材料の絶対的評価法として位置付けられる。これに対して、従来のスカラー磁気測定はある方向での材料の相対的評価法として位置付けられる。この二次元磁気測定法により任意方向の磁気特性及び回転磁束条件下における鉄損評価等が可能となる。
【0006】
磁界解析においても、従来までの磁気測定法がスカラー特性であったことから、磁界強度と磁束密度の関係はベクトル量としてモデリングされていない。磁界解析に二次元磁気特性を導入することができれば、より正確で詳細な結果を得ることが可能となる。そのため磁界解析の際に有効な二次元磁気特性のモデリングが用いられるようになってきた。ベクトル磁気特性のモデリングとして、詳しくは後述するが、ベクトル磁気特性を考慮した交番及び回転ヒステリシスが表現可能なE&Sモデリングが提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来はベクトル磁気特性が磁束密度を正弦波に制御して行われている点と、商用周波数である50Hz一定で行われていた点から、磁束の歪みの考慮ができていない。正弦波電圧を印加しても電気機器鉄心内の磁束波形は歪み波となり、変圧器では第3高調波、電動機では第15高調波以上の高調波が含まれることが多い。また、機器の高効率運転のためのインバータ駆動などにより、印加電圧も正弦波ではなく、歪み波となる傾向がある。
【0008】
ここで、本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、鉄損は励磁周波数に依存することを見出した。鉄損は磁性体固有の損失であり、ヒステリシス損失と渦電流損失からなる。励磁周波数が変化した場合の鉄損は、電力計等による直接測定の結果、図11のように示され、鉄損、特に渦電流損失が励磁周波数に依存していることが分かる。したがって、周波数を考慮した磁気特性のモデリングが重要であると考えられる。
【0009】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、鉄損の周波数依存性を考慮したモデリングを用いた磁界解析を可能とすることを目的する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁界解析方法は、磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析方法であって、該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手順と、該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(a)
【数21】
Figure 0004065187
で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(a)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、を有することを特徴とする。
本発明の別の磁界解析方法は、磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析方法であって、該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手順と、該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(b)
【数22】
Figure 0004065187
で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(b)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の磁界解析装置は、磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析装置であって、該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手段と、該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(a)
【数23】
Figure 0004065187
で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(a)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、を備えた特徴とする。
本発明の別の磁界解析装置は、磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析装置であって、該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手段と、該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(b)
【数24】
Figure 0004065187
で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(b)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明のコンピュータプログラムは、磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる処理と、該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(a)
【数25】
Figure 0004065187
で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(a)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
本発明の別のコンピュータプログラムは、磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる処理と、該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(b)
【数26】
Figure 0004065187
で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(b)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0013】
本発明のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、本発明のコンピュータプログラムを格納した点に特徴を有する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の磁界解析方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態の磁界解析装置を構成可能なハードウェア構成の一例を示す図である。同図に示すように本実施の形態の磁界解析装置650は、CPU651と、ROM652と、RAM653と、キーボード(KB)659のキーボードコントローラ(KBC)655と、表示部としてのディスプレイ(CRT)660のディスプレイコントローラ(CRTC)656と、ハードディスク(HD)661及びフレキシブルディスク(FD)662のディスクコントローラ(DKC)657と、ネットワー670との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ(NIC)658とが、システムバス654を介して互いに通信可能に接続されて構成されている。
【0016】
CPU651は、ROM652或いはハードディスク661に記憶されたソフトウェア、或いはFD662より供給されるソフトウェアを実行することで、システムバス654に接続された各構成部を総括的に制御する。すなわち、CPU651は、所定の処理シーケンスに従った処理プログラムを、ROM652、或いはハードディスク661、或いはフレキシブルディスク662から読み出して実行することで、上記本実施の形態での動作を実現するための制御を行う。
【0017】
RAM653は、CPU651の主メモリ或いはワークエリア等として機能する。
【0018】
キーボードコントローラKBC655は、キーボードKB659や図示していないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。
【0019】
ディスプレイコントローラ656は、ディスプレイ660の表示を制御する。
【0020】
ディスクコントローラ657は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施の形態における所定の処理プログラム等を記憶するハードディスク661及びフレキシブルディスク662とのアクセスを制御する。
【0021】
ネットワークインターフェースコントローラ658は、ネットワーク670上の装置或いはシステムと双方向にデータをやりとりする。
【0022】
上記のように構成された磁界解析装置650において、CPU651、ROM652、及びRAM653により本実施の形態における演算手段600が構成される。
【0023】
(E&Sモデリングの概要)
以下、磁界解析について説明する。まず、本発明の背景技術となる磁気測定について説明する。本実施の形態で利用可能な磁気測定に関しては、磁性材料のベクトル的磁気測定を行うことのできるベクトル磁気測定装置が提案されている。これにより、磁性材料内の詳細な磁場の振る舞いが明らかになり、スカラー表現では磁気現象を正確に解くことができないことが分かってきた。
【0024】
そして現在、磁気特性のモデリング(モデル化)に関して様々な取り組みがなされており、その一つに交番及び回転磁束条件下におけるヒステリシス現象の取り扱いに有効なモデルとして、E&Sモデリング(Enokizono and Soda Method)がある。このモデリングはベクトル磁気特性の磁束密度の大きさと傾き角における非線形性を考慮し、かつ交番及び回転ヒステリシスが表現可能である。ヒステリシス特性を含むE&Sモデリングは、電気機器鉄心内の鉄損解析の際に有効である。また、その精度を高めることは交流電気機器の最適設計技術に必要不可欠である。
【0025】
ここで、E&Sモデリングの概要について説明する。異方性を有する磁性材料に対して容易軸方向と異なる方向に励磁した場合、磁界強度Hと磁束密度Bは同じ方向を取らず、両者の間に空間的位相差が生じてくる。このような磁性材料のベクトル磁気特性は磁束密度の大きさとその傾き角における非線形性を持つ。そのため、従来の磁界解析では、交番磁束条件下における任意方向のベクトル磁気特性は磁気抵抗率テンソルを用いた下式(1)、(2)のように表してきた。
【0026】
【数3】
Figure 0004065187
【0027】
上式(2)にも示すように、磁気抵抗率νx、νyは、磁束密度の大きさBとその傾き角θBの関数である。しかしながら、テンソルモデルで交番磁束条件下におけるヒステリシスを表現することはできない。なぜならば、完全な交番磁束条件下においては、磁束密度Bx、Byが共に零になる瞬間が存在するが、その瞬間に磁界強度Hx、Hyは交番ヒステリシスのため零にはならない。しかし、上式(1)を用いてこの状態を表現した場合、磁界強度Hx、Hyは零になってしまう。また、図2に示すように、増加中である点Qと減少中である点Pは磁束密度において瞬間的には同じ値であるため、磁束密度Bの関数だけで表現するのは困難である。
【0028】
ヒステリシスを考慮した交番及び回転磁束条件下における磁気特性を表現するために、磁束密度Bの時間的な変化を示すBの時間微分項を加えて表現するモデリングが提案されている。そのようなモデリングをE&Sモデリングといい、下式(3)のように定義される。
【0029】
【数4】
Figure 0004065187
【0030】
ここで、νxr、νyrは磁気抵抗率係数、νxi、νyiは磁気ヒステリシス係数であり、ベクトル磁気測定の結果から以下のようにして求められる。
【0031】
ベクトル磁気測定では二次元励磁により任意方向に対する交番及び回転磁束条件を作り出すため、磁束密度が完全な正弦波形になるように波形制御される。これによりHとBは一意的にその関係が定まり、磁束密度のx成分とy成分は下式(4)のように表される。ここで、Bxm及びBymはそれぞれ磁束成分Bx及び磁束成分Byの最大値である。
【0032】
【数5】
Figure 0004065187
【0033】
また、上式(4)を微分して下式(5)が得られる。
【0034】
【数6】
Figure 0004065187
【0035】
x方向成分のみについて考えると、上式(4)、(5)から下式(6)に示す関係が得られる。
【0036】
【数7】
Figure 0004065187
【0037】
ここで、C1、C2、C3は下式(7)に示す関係となる。
【0038】
【数8】
Figure 0004065187
【0039】
そこで、上式(3)のx成分に上式(4)、(5)のx成分を代入して、上式(7)を用いてまとめると下式(8)になる。
【0040】
【数9】
Figure 0004065187
【0041】
このとき第3高調波まで考慮した磁界強度のx成分とy成分を、下式(9)のように近似する。ここで、A1、A2、B1、B2、α1、α2、β1、β2は測定データから得られる同一磁束条件下で一定の値である。
【0042】
【数10】
Figure 0004065187
【0043】
また、上式(9)のx成分を下式(10)のように書き直す。
【0044】
【数11】
Figure 0004065187
【0045】
ここで、P及びQは下式(11)のようになる。
【0046】
【数12】
Figure 0004065187
【0047】
上式(8)と上式(10)を比較することにより、磁気抵抗率νxr、磁気ヒステリシス係数νxiは下式(12)のように求められる。
【0048】
【数13】
Figure 0004065187
【0049】
ここで、各係数は測定データから求められる。また、y成分の磁気抵抗率νyr、磁気ヒステリシス係数νyiも、x成分と同様に下式(13)のように求められる。
【0050】
【数14】
Figure 0004065187
【0051】
このモデリングを用いて計算したヒステリシス曲線とベクトル磁気特性により得られたヒステリシス曲線との比較及び位相差波形の比較すると、計算値と測定値は良好な一致を示していることが分かる。
【0052】
二次元磁気特性を有限要素磁界解析に適用する際、上述したE&Sモデリングは交番及び回転ヒステリシスを考慮することができ有効である。しかし、従来のモデリングでは、周波数の影響を考慮することができない。E&Sモデリングは上式(3)で示されるが、一見すると時間微分項を含んでいるため、この項において周波数の影響を表現できそうであるが、この項ではその影響を表現できない。
【0053】
二次元磁気特性を考慮した磁界解析において、磁束密度の各成分は上式(3)で与えられる。図3には、異なる周波数での磁束密度波形の概形を示す。同図において、2つの波形は周波数が約2倍違うが、従来のE&Sモデリングではこの違いを表現することができない。これは二次元磁気特性が磁束密度の1周期を測定していることに起因する。つまり、このモデリングで時間微分項は、点が1周期の中でどの位置にあるかという座標的な意味を持っているが、図中aからbへの変化と、cからdへの変化を同じものとして表現してしまう。
【0054】
従来のE&Sモデリングでは、1周期の磁束密度波形の増加減少を考慮しているため、交番及び回転ヒステリシスを考慮することはできるが、波形の時間軸の違いを考慮できないため、周波数が変化した場合の渦電流の影響を考慮した鉄損を表現できない。
【0055】
(周波数依存性を考慮したモデリング)
磁界解析において渦電流の影響を考慮するためには、周波数の影響を考慮できる磁気特性のモデリングが必要となる。鉄損、特に渦電流損失は図11で示したように、磁束の時間的変化が大きいほど大きくなる。E&Sモデリングでは1周期という枠の中での時間的変化は表現できたが、周波数が変化してもその違いを表現できない。
【0056】
それは、二次元磁気特性が50Hz一定で行われていたためであるので、励磁周波数が変化した場合の特性をそのまま50Hzと同じ手順でモデリングを行い、E&Sモデリングを適用すれば当然周波数の変化を表現できるが、磁界解析を行う際に必要な周波数をあらかじめ測定しなければならなくなり、係数を作るためのデータ量も膨大となり、そのデータを磁界解析に用いる際の計算時間も大幅に増大してしまう。
【0057】
そこで、本発明では、50Hzでの磁気的損失は、ヒステリシス損失と50Hzでの渦電流損失を含んでいると考え、渦電流は周波数の変化分だけ増加すると捉えて、磁界解析に要する計算時間の短縮のため、基準とする周波数を50Hzとし、そのデータを基にそれ以外の周波数での磁場の振る舞いを表現することを目的とした。
【0058】
上述したように渦電流損失は磁束の時間的変化に依存しているので、図11において各点の場所を示す座標的な情報だけでなく点から点に移るスピードも考慮する必要がある。そこで、周波数依存性を考慮し改良したE&Sモデリングを下式(14)のように定義する。
【0059】
【数15】
Figure 0004065187
【0060】
ここで、簡単のため、下式(15)のように展開する。
【0061】
【数16】
Figure 0004065187
【0062】
図4〜7には、無方向性ケイ素鋼板(図4、5)と一方向性ケイ素鋼板(図6、7)での任意の磁束条件において、新しいモデリングを用いて計算し求めたヒステリシスループ(点線)と測定によるループ(実線)との比較を示す。この比較から、計算値は周波数の増加によりその面積を拡げており、測定値と良好な一致を示す。
【0063】
ここで、一方向性の磁化困難軸方向であるy方向のループに関して若干のずれが生じているが、これは磁気抵抗率係数νxr、νyr及び磁気ヒステリシス係数νxi、νyiを算出する際に測定による磁界強度波形の第3高調波までを考慮したためで、これ以降の高調波を考慮すれば、精度も上がるが同時に計算時間も増大するので、今回は第3高調波までとした。
【0064】
このモデリングにおいて、従来のE&Sモデリングでは表現出来なかった周波数の変化による特性を表現できているといえる。このモデリングにおいて、右辺第二項目までの部分は従来のE&Sモデリングと同じ扱いであり、用いる磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyiは従来のE&Sモデリングと同じである。
【0065】
従来用いられていた時間微分項の表現は1周期中であるということを強調するためθとしたが意味的には従来のモデリングと変わらない。新たに加わった項は従来のモデリングでは表現できなかった微分項の周波数による変化を表現するものである。
【0066】
また、磁界解析に要する時間の短縮のため、50Hzのデータを基にそれ以外の周波数での磁場の振る舞いを表現することを目的とし、基準の周波数を50Hzとしてこの周波数からの変化分をΔfとした。
【0067】
新たな係数であるκは各周波数における鉄損の測定による結果と新しいモデリングによる計算結果を比較し決定する。算出方法は、測定による周波数と1サイクルの鉄損特性に対する新しいモデリングによる同様の特性がほぼ平行になるときのκをその条件での係数とした。つまり、周波数による鉄損の変化が測定と最も近くなるように算出した。このときの任意の条件での鉄損の比較を図8に示す。係数を測定値とのフィッティングで求めているため、当然両者の周波数による変化は良好な一致を示す。
【0068】
図9に無方向性ケイ素鋼板での新しい係数κの各励磁条件での分布を示す。この図から低磁束密度領域では多少のばらつきがあるが、ある程度磁束密度が大きくなると一定の値を示す。
【0069】
同様に、図10に一方向性ケイ素鋼板における係数κの分布を示す。一方向性ケイ素鋼板は方向により磁化特性が著しく異なるので、x方向とy方向での係数は区別すべきであるが、鉄損に与える影響はヒステリシスの面積から見ても明らかにy方向の方が大きく、各方向を別個に計算した場合、係数の計算時間及びデータの容量は大幅に増大する。そこで、x方向とy方向において同様の係数を用いた。無方向性ケイ素鋼板と同様に低磁束密度領域でのばらつきが見られるばかりでなく、係数の分布全般に一意性があるとは言い難い。このため、鋼板につき一定の定数として用いることはできない。このため、係数を求める際には各励磁条件下において線形補間を行って算出する。
【0070】
以上述べたように、従来用いられていたE&Sモデリングは1周期という枠の中での磁束密度の大きさの場所的変化を表現していたので、50Hzにおける渦電流を含んだヒステリシスは考慮できたが、周波数が変化した場合の対応はできない点に鑑みて、渦電流は磁束の変化によって増減することから、この影響を表現すべく改良モデリングを定義した。この改良モデリングでは、50Hzでの渦電流の影響を含んだヒステリシスの部分を1周期という意味でθを用いて表現し、新たに周波数の変化分を加えることにより、それによる渦電流の影響を表現している。
【0071】
改良モデリングを用いて描いたヒステリシスループの面積は周波数の増加とともに増加し、測定値と良好な一致を示した。また、この傾向は渦電流の影響であると考えられ、これにより改良モデリングが周波数の影響を表現していると思われる。
【0072】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態の機能を実現するべく各種のデバイスを動作させるように、該各種デバイスと接続された装置或いはシステム内のコンピュータに対し、上記実施の形態の機能を実現するためのソフトウェアのプログラムコードを供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(CPU或いはMPU)に格納されたプログラムに従って上記各種デバイスを動作させることによって実施したものも、本発明の範疇に含まれる。
【0073】
また、この場合、上記ソフトウェアのプログラムコード自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体は本発明を構成する。そのプログラムコードの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワーク(LAN、インターネット等のWAN、無線通信ネットワーク等)システムにおける通信媒体(光ファイバ等の有線回線や無線回線等)を用いることができる。
【0074】
さらに、上記プログラムコードをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムコードを格納した記録媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0075】
なお、上記実施の形態において示した各部の形状及び構造は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。すなわち、本発明はその精神、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0076】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、鉄損の周波数依存性を考慮した二次元磁気特性のモデリングを提供することができ、基準とする周波数(例えば商用周波数である50Hz)のデータを基にそれ以外の周波数での磁場の振る舞いを表現することができる。したがって、励磁周波数が変化した場合の特性を繰り返し同じ手順でモデリングを行うような必要がなくなり、磁界解析に要する計算時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態の磁界解析装置を構成可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
【図2】交番磁束条件下における測定データを示す図である。
【図3】異なる周波数での磁束密度波形の概形を示す図である。
【図4】無方向性ケイ素鋼板での、新しいモデリングを用いて計算し求めたヒステリシスループと測定によるループとの比較を示す図である。
【図5】無方向性ケイ素鋼板での、新しいモデリングを用いて計算し求めたヒステリシスループと測定によるループとの比較を示す図である。
【図6】一方向性ケイ素鋼板での、新しいモデリングを用いて計算し求めたヒステリシスループと測定によるループとの比較を示す図である。
【図7】一無方向性ケイ素鋼板での、新しいモデリングを用いて計算し求めたヒステリシスループと測定によるループとの比較を示す図である。
【図8】測定と改良モデリングを用いた磁界解析との鉄損を比較したグラフを示す図である。
【図9】無方向性ケイ素鋼板での係数κの各励磁条件での分布を示す図である。
【図10】一方向性ケイ素鋼板での係数κの各励磁条件での分布を示す図である。
【図11】励磁周波数と鉄損との特性を示す図である。
【符号の説明】
600 演算手段
650 磁界解析装置
651 CPU
652 ROM
653 RAM
654 システムバス
655 キーボードコントローラ(KBC)
656 ディスプレイコントローラ(CRTC)
657 ディスクコントローラ(DKC)
658 ネットワークインターフェースコントローラ(NIC)
659 キーボード
660 ディスプレイ
661 ハードディスク
662 フレキシブルディスク
670 ネットワーク

Claims (9)

  1. 磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析方法であって、
    該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手順と、
    該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(a)
    Figure 0004065187
    で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、
    該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(a)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、を有することを特徴とする磁界解析方法。
  2. 磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析方法であって、
    該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手順と、
    該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(b)
    Figure 0004065187
    で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、
    該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(b)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手順と、を有することを特徴とする磁界解析方法。
  3. 前記基準周波数は50Hzであることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁界解析方法。
  4. 磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析装置であって、
    該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手段と、
    該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(a)
    Figure 0004065187
    で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、
    該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(a)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、を備えた特徴とする磁界解析装置。
  5. 磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析装置であって、
    該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる手段と、
    該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(b)
    Figure 0004065187
    で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、
    該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(b)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる手段と、を備えたことを特徴とする磁界解析装置。
  6. 前記基準周波数は50Hzであることを特徴とする請求項4又は5に記載の磁界解析装置。
  7. 磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
    該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる処理と、
    該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(a)
    Figure 0004065187
    で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、
    該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(a)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
  8. 磁性材料を所定の周波数で交流励磁する磁気解析における、該磁性材料内の該磁束密度の増加減少を表す過渡解析を用いた磁界解析処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
    該磁性材料の磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データを所定の記憶装置に記憶させる処理と、
    該所定の周波数と基準周波数からの変化分Δf、及び該磁界強度のx成分Hx、y成分Hyと磁束密度のx成分Bx、y成分Byとの時系列データより、θを角周波数と時間の積として、下式(b)
    Figure 0004065187
    で定義される磁気抵抗率係数νxr、νyr、磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、所定の係数κx、κyを算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、
    該過渡解析における微小時間増分に対する該磁束密度の増加減少分を、該磁気抵抗率係数νxr、νyr、該磁気ヒステリシス係数νxi、νyi、該所定の係数κx、κyを用いて式(b)から算出し、該磁束密度の増加減少分を前記所定の周波数に対する1周期分算出し、所定の記憶装置に記憶させる処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
  9. 請求項7又は8に記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
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