JP4065136B2 - 球状化黒鉛粒子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内部が褶曲した積層構造を有する球状化黒鉛粒子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
黒鉛粒子は、リチウム二次電池用の負極材料、あるいは燃料電池用セパレータ用の材料等として用途が拡大している。
【0003】
これらに用いる黒鉛は、天然黒鉛と人造黒鉛とに大別できる。
【0004】
天然黒鉛を粉砕して得られる黒鉛粒子は、粒子形状が鱗片状(板状)であり、その結晶構造に起因した顕著な異方性を有している。
【0005】
即ち、天然黒鉛の結晶構造は、大きく広がったAB面がC軸方向に多数積層した構造になっている。天然黒鉛粒子は、AB面の広がりに対して積層の厚みが薄いために全体として鱗片状をなしている。
【0006】
一方、人造黒鉛は、その製造方法によって球状に近い形状の粒子とすることが可能である。同時に、結晶構造に異方性の少ない粒子とすることも可能である。
【0007】
例えば、半径の異なる複数の円板状黒鉛をAB面を平行に配向させて積層した球状の粒子や、半径の同一な複数の円板状黒鉛をAB面を平行にして積層した円柱状の粒子を作ることができる。
【0008】
しかし、このような人造黒鉛粒子は、一般に高価である上、結晶化度が低いものである。結晶化度を高くした人造黒鉛は、その性状が天然黒鉛の性状に近いものになる。従って、結晶化度の高い人造黒鉛を粉砕して粒子とした場合には、天然黒鉛と同様に鱗片状の粒子形状を示す。
【0009】
リチウム二次電池の負極は、銅箔等の集電体の表面に薄い黒鉛層を形成したものが一般的である。
【0010】
リチウム二次電池の充放電容量を大きくするためには、黒鉛層の密度は高いほうが好ましい。このため、通常プレスや圧延等により黒鉛層を圧縮してその密度を高めている。
【0011】
しかし、天然黒鉛粒子や結晶化度の高い人造黒鉛粒子の黒鉛層をプレスや圧延等により圧縮すると、黒鉛粒子は圧縮力を受ける黒鉛粒子の板面(AB面)が圧縮面と平行になるように配向する。これは、天然黒鉛粒子等の形状が薄い鱗片状であるためである。
【0012】
即ち、黒鉛層を形成する個々の鱗片状の黒鉛粒子は、そのAB面が集電体の表面と平行となるように配向する。以下、黒鉛層等の成型体中における黒鉛粒子のこのような配向を、単に「配向」と称する。
【0013】
電池の黒鉛層において、黒鉛粒子が配向を生ずることは好ましくない。その理由は、電解液は黒鉛のAB面を通過できないので、黒鉛層の内部に電解液が浸透し難くなる。その結果、黒鉛と電解液との接触箇所が黒鉛層の表面付近に偏ることになる。
【0014】
また、黒鉛層における電気の流れは厚み方向である。この方向は配向した黒鉛粒子のC軸方向になる。黒鉛結晶の導電性は、AB面の方向に大きく、C軸方向に小さい。このため、黒鉛層の電気抵抗が大きくなり、結果として電池の充放電容量が小さくなる。
【0015】
一方、結晶化度の低い人造黒鉛粒子をリチウム二次電池の負極材料として用いる場合、黒鉛の単位質量当たりの充放電容量が小さくなるので好ましくない。
【0016】
燃料電池用のセパレータは、黒鉛粒子と樹脂とを混合して、プレスすることにより板状に成型している。
【0017】
セパレータの主な役割は、燃料ガスと酸素含有ガスとが混合しないようにガスの流れを仕切ることにある。同時に集電体としての役割もあり、この場合電気の流れはセパレータの厚みの方向である。
【0018】
従って、リチウム二次電池用の負極材料の場合と同様の理由で、セパレータに用いる黒鉛粒子が配向を生ずることは好ましくない。
【0019】
また、結晶化度の低い黒鉛をセパレータの材料として用いる場合、導電性が低いので好ましくない。
【0020】
その他、多くの黒鉛電極についても、同様に黒鉛粒子の配向の問題を伴うことが多い。
【0021】
本発明者らは、結晶構造に起因する異方性の少ない高結晶性黒鉛粒子を得るために、数多くの粉砕機を用いて高結晶性黒鉛の粉砕方法を検討した。
【0022】
平均粒子径100μm以上の黒鉛粒子を得るための粗粉砕機としては、ジョウクラッシャー、ジャイレイトリークラッシャー、ロールクラッシャー等がある。
【0023】
平均粒子径100μm以下の黒鉛粒子を得るための微粉砕機としては、ローラーミル、回転ディスクミル、パンミル、リングロールミル、インパクトクラッシャー、振動ロッドミル、振動ディスクミル、振動ボールミル、ボールミル、ジェットミル等がある。
【0024】
これらの粉砕機は、何れも黒鉛に対して強力な剪断力、圧縮力、衝撃力を与えるので、黒鉛を短時間で粉砕できる。しかし、多くの場合、粉砕して得た黒鉛粒子の粒子形状は鱗片状である。
【0025】
元来、高結晶性の黒鉛は、炭素原子が網目構造を形成して平面状に広がるAB面が、多数積層することにより厚みを増し、塊状に成長したものである。
【0026】
積層したAB面相互間の結合力(C軸方向の結合力)は、AB面の面内方向の結合力に比べて遥かに小さい。このため、特別の工夫がない限り、結合力の弱いAB面間の剥離が優先して起こり、得られる黒鉛粒子の形状は鱗片状になる。
【0027】
黒鉛粒子の内部組織を電子顕微鏡で観察すると、特に黒鉛のAB面に垂直な断面に積層構造を示す筋状の線を観察することができる。
【0028】
また、電子顕微鏡観察によれば、鱗片状の黒鉛粒子の内部組織は単純である。AB面に垂直な断面を観察すると、積層構造を示す筋状の線は常に直線状であって、平板状の黒鉛層が積層したものであることが解る。以下、このような黒鉛層が積層した構造を「積層構造」と称する。
【0029】
本発明者らは、黒鉛の微粉砕において、振動ロッドミル、振動ディスクミル、又は振動ボールミルを用いる場合は、例外的に紡錘状の黒鉛粒子が得られることを見出した。
【0030】
これは、粉砕と共に圧縮成型が行われるためであり、特に振動ロッドミルを使用した場合にこの傾向は顕著である。
【0031】
しかし、紡錘状となった黒鉛粒子においても、その内部組織を電子顕微鏡観察すると直線状の積層構造が観察され、かつ、AB面は粒子の長軸にほぼ平行である。
【0032】
即ち、外観上は鱗片状から紡錘状に変化させることが出来るが、内部組織については変化が見られない。
【0033】
従って、紡錘状の黒鉛粒子は、鱗片状の黒鉛粒子よりも配向を起こし難いものの、前述の課題を解決するには不十分である。
【0034】
本発明者らは、更に種々の粉砕機を用いて、粉砕方法を変えて高結晶性黒鉛の粉砕を行い、その際生じる黒鉛粒子の内部組織の変化について検討した。
【0035】
その結果、比較的粉砕力の小さい衝撃式粉砕機を用いる場合は、黒鉛の内部組織が変化することを発見した。即ち、直線状の積層構造が曲線状の積層構造に変化することを発見した。
【0036】
また、原料黒鉛を気流と共に粉砕機に供給する場合、この曲線状の積層構造に変化する作用が顕著になることを発見した。
【0037】
更に、この粉砕方法を繰り返し行うことにより、黒鉛粒子が球状化することを発見した。
【0038】
球状化した黒鉛粒子の各種特性についてデータを集積した結果、この黒鉛粒子が当初の目的を達成し得るものであることを確認し、先に特許出願を行った(特願2001−158801号)。
【0039】
しかし、この処理方法の実用化には、解決すべき問題が残されていた。
【0040】
原料黒鉛は、気流と共に供給されるので、粉砕機内における滞留時間は極めて短く、十分に球状化を行うためには10回以上の繰り返し処理が必要である。
【0041】
バッチ処理で10回以上の繰り返し処理を行うことは、非常に煩雑であり、多大な処理時間を必要とするので実用上問題がある。
【0042】
連続処理は可能であるが、繰り返し処理回数をバッチ処理回数以上にする必要がある。繰り返し回数を多くすると黒鉛粒子の粒度分布は幅広くなり、球状化の程度にもバラツキが多くなる。
【0043】
粒度分布のバラツキについては、篩により選別することにより解決できるが、製品収率が低下する。また、球状化の程度については個々の粒子を選別することができないので対処できず、従って製品の品質が低下する。
【0044】
従って、品質の高い球状化黒鉛粒子を、高い収率で、安定して大量に製造することができる製造方法が必要である。
【0045】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、結晶構造に起因する異方性の少ない球状化黒鉛粒子を、高い収率で、安定して大量に製造することができる球状化黒鉛粒子の製造方法を提供することにある。
【0046】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは研究を重ねた結果、従来の衝撃式微粉砕機を用いて、その内部を通常とは逆の方向に気流と共に原料黒鉛粒子を通過させることにより、黒鉛粒子の滞留時間を長くすることが可能であることを見出した。
【0047】
また、予め微粉砕した原料黒鉛を上記の方法で処理することにより、原料黒鉛粒子の粉砕が抑制され球状化が優先しておこること、その結果球状化黒鉛粒子が効率よく得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0048】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0049】
〔1〕 ケーシング内で軸心を中心として高速回転する衝撃部材を備えた処理装置に、衝撃部材の回転軌跡の外側から気流と共に原料黒鉛粒子を供給して回転軌跡の内側から球状化黒鉛粒子を取り出すことを特徴とする球状化黒鉛粒子の製造方法。
【0050】
〔2〕 球状化黒鉛粒子の内部が褶曲した積層構造を有する〔1〕に記載の製造方法。
【0051】
〔3〕 原料黒鉛粒子の黒鉛格子定数Co(002)が、0.670〜0.672nmである〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
【0052】
〔4〕 原料黒鉛粒子のAB面の平均粒子径が7〜300μmである〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載の製造方法。
【0053】
〔5〕 衝撃部材がピン型衝撃部材である〔1〕乃至〔4〕の何れかに記載の製造方法。
【0054】
〔6〕 衝撃部材の線速度が50〜200m/秒である〔1〕乃至〔5〕の何れかに記載の製造方法。
【0055】
〔7〕 原料黒鉛粒子を気流で搬送して処理装置内に供給する〔1〕乃至〔6〕の何れかに記載の製造方法。
【0056】
本発明による1回の処理は、従来の方法の20〜50回の繰り返し処理に相当する。従って、大量の黒鉛粒子の球状化処理を安定して行うことが可能である。
【0057】
また、本発明の製造方法は原料黒鉛粒子の粉砕を抑制して球状化処理するものである。各粒子は、体積を変えないで、形状のみを鱗片状から球状に変化させる。
【0058】
従って、球状化黒鉛粒子の粒度のバラツキが低減し、粒度のそろった品質の高い球状化黒鉛を高い収率で得ることが可能である。
【0059】
【発明の実施の形態】
従来使用している衝撃式微粉砕機の側面断面図を図5に示す。
【0060】
衝撃式粉砕機は、略円筒形のケーシング10の内部に、回転軸40によって高速回転する衝撃部材70を備えている。
【0061】
回転軸40の上方のケーシング10には処理物の供給口50が、ケーシング10の周壁部20には排出口60が設けられている。
【0062】
供給口50からケーシング10内に導入された処理物は、衝撃部材70の回転軌跡内で高速回転する衝撃部材70に衝突し、遠心力で回転軌跡の外側に放出される。
【0063】
放出された処理物は、ケーシングの周壁部20に衝突して跳ね返り、回転軌跡内に戻り、再び衝撃部材70に衝突する。
【0064】
即ち、処理物は、ケーシング内で衝撃部材70と周壁部20に衝突することにより繰り返し衝撃力を受けた後、排出口60から排出される。
【0065】
このように、従来の衝撃式微粉砕機のケーシング内における処理物の流れの方向は、衝撃部材70の回転軌跡内を内側から外側に向かう方向である。また、この方向は衝撃部材70により生じる遠心力の方向と同じ方向である。このため、処理物はケーシング内に長時間滞留することができない。特に気流と共に処理物を微粉砕機に供給した場合には、滞留時間が極めて短くなる。
【0066】
本発明で用いる処理装置の二つの例を図1及び2に示す。図1は側面断面図で、図2は一部切欠側面図である。
【0067】
図1に示すように、略円筒形のケーシング11の内部に、回転軸41によって高速回転する衝撃部材71を備えている点は、従来の微粉砕機と同じである。
【0068】
しかし、本発明で用いる図1の処理装置は、ケーシング11の周壁部21に処理物の供給口51を設け、回転軸41の上方に黒鉛粒子の排出口61を設けることにより、黒鉛粒子の流れを従来の微粉砕機とは逆向きとした点に特徴がある。
【0069】
ケーシング内における黒鉛粒子の流れ方向は、衝撃部材71の回転軌跡に対して外側から軸心に向かう方向であり、衝撃部材71により生じる遠心力と逆の方向である。
【0070】
黒鉛粒子は、気流の流れに基づく推進力と衝撃部材による推進力と逆方向の遠心力とを受ける。このように、推進力と遠心力とを拮抗させることにより、黒鉛粒子をケーシング内に長時間滞留させ、処理効率を向上させることが可能である。
【0071】
図1は、回転軸41が垂直軸である場合を示すが、図2は回転軸42が水平軸である場合を示す。本発明で用いる処理装置の回転軸はこれらに限定されず、任意の角度を有していてもよい。
【0072】
図1に示す供給口51は、処理物を回転軌跡の外側に供給できることが必要であるが、その取り付け位置は、ケーシング11の側壁部31よりも周壁部21の方が好ましい。
【0073】
また、供給口を周壁部21に設ける場合、供給口51の流路方向は回転軸に向かう方向(半径方向)とするよりも図2に示す供給口52のように回転軌跡の周の接線方向とすることが好ましい。
【0074】
図1及び図2は、衝撃部材がプレート型の場合を示すが、本発明はこれに限定されず、ハンマー型、ピン型等としてもよい。衝撃部材がピン型の場合の処理装置の一例を図3及び図4に示す。
【0075】
図3においては、回転軸43と共に回転する回転円盤80に回転ピン73を、ケーシング13の側壁部33には固定ピン74を取り付ける。
【0076】
回転ピン73及び固定ピン74は、それぞれ同一円周上に複数個配列することが好ましい。また、それぞれを複数列設けて、図3に示すように、回転ピン73の列と固定ピン74の列とが交互に並ぶように配列することが好ましい。
【0077】
黒鉛粒子を、回転ピン73の回転軌跡に対して外側から軸心に向かって通過させると、黒鉛粒子は回転ピン73及び固定ピン74に衝突して衝撃力を受ける。
【0078】
図4においては、軸心を一致させて二つの回転軸44及び45を設け、それぞれ回転円盤81及び82を固定している。回転円盤81には回転ピン75を取り付ける。回転ピン76は、回転円盤82及び83に取り付けてある。回転円盤83には更に回転ピン77を取り付ける。
【0079】
回転ピン75、76及び77は、それぞれ同一円周上に複数個配列される。また、回転ピン75、77を複数列設けて、断面を見たときに、75の列と77の列が交互に並ぶように配列することが好ましい。
【0080】
黒鉛粒子を、回転ピン75、76及び77の回転軌跡に対して外側から軸心に向かって通過させ、その際処理物は回転ピン75、76及び77に衝突して衝撃力を受ける。
【0081】
回転軸44及び45の回転方向を、互いに逆方向とすることにより、図3の場合と比べて処理効率を高めることができる。
【0082】
図3及び図4は、回転軸が垂直軸である場合を示すが、水平軸としてもよく、更に任意の角度を有していてもよい。
【0083】
図3及び図4の場合も、供給口は、黒鉛粒子を回転軌跡の外側に供給できることが必要であるが、その取り付け位置は、ケーシングの側壁部よりも周壁部の方が好ましい。
【0084】
また、図3で供給口を周壁部23に設ける場合、供給口53の流路は回転軸に向かう方向(半径方向)とするよりも回転軌跡の周の接線方向とすることが好ましい。
【0085】
図4に示す処理装置は、供給口54を周壁部24に設けたが、供給口の流路は回転軸に向かう方向(半径方向)としても回転軌跡の周に対して接線方向としても処理効果に大差はない。
【0086】
本発明の製造方法は、上述の処理装置を用いた簡単なシステムで行うことができる。処理フローの一例を図6に示す。
【0087】
ホッパー1に準備された原料黒鉛粒子は、定量供給機2により連続的に切り出され、制御弁3から導入される空気により搬送されて処理装置4に供給される。
【0088】
処理装置4は、電動機5によって高速回転する衝撃部材(不図示)を備えており、処理装置内で黒鉛粒子は繰り返し衝撃力を受けることにより球状化する。
【0089】
球状化した黒鉛粒子は、空気と共に排出されサイクロン6及びバッグフィルター7によって分離回収される。
【0090】
バッグフィルター7の後流にはブロア8が設けられており、これによって制御弁3から所定量の空気を吸引する。
【0091】
空気の流量は、黒鉛粒子が処理装置4で受ける遠心力や、得られる球状化黒鉛粒子の品質等を考慮して、適宜決定する。
【0092】
粉砕作用を抑制して球状化処理を行うために、回転する衝撃部材の回転速度は通常の粉砕の場合よりも遅いほうが好ましい。即ち、その線速度は400m/秒以下が好ましく、50〜200m/秒がより好ましい。
【0093】
また、得られる球状化黒鉛粒子は、1回の処理で十分な品質とすることができる。1回の処理における処理装置内の黒鉛の平均滞留時間は0.1〜5秒、好ましくは0.5〜3秒である。従って、本発明によれば、粒度分布の狭い高品質球状化黒鉛粒子を、安定して大量に処理することが可能である。
【0094】
本発明で使用する原料黒鉛としては、天然黒鉛でもよいし、人造黒鉛でもよい。本発明により得られる球状化黒鉛粒子は、高結晶性黒鉛が持つ機能を活かすことを目的とするものであるから、人造黒鉛を用いる場合も原料黒鉛としては結晶化度の高いものが好ましい。結晶化度の高い人造黒鉛としては、例えば、2600℃以上の温度で黒鉛化処理がなされた黒鉛、又は硼素等を添加することにより黒鉛化を促進して得られた黒鉛が好ましい。
【0095】
原料黒鉛の結晶性を示す黒鉛格子定数Co(002)の値としては、0.670〜0.672nmが好ましい。
【0096】
本発明の製造方法は、比較的小さな衝撃力によって原料黒鉛を加工するものであるから、その結晶性は全く損なわれることがない。球状化処理後においても黒鉛格子定数Co(002)の値は0.670〜0.672に維持される。
【0097】
本発明の製造方法は、上記の処理装置を用いて鱗片状の黒鉛粒子に衝撃力を加えることにより、塊状または略球状の黒鉛粒子とする方法である。衝撃力は、鱗片状黒鉛粒子に対しては、主にAB面方向の圧縮力として作用する。従って、繰り返し衝撃力を受けることにより、鱗片状の粒子は折り畳まれ、丸め込まれて球状化される。
【0098】
実際に上記処理装置により処理した球状化黒鉛粒子を観察すると、その外観は球状に近いものである。
【0099】
また、その内部組織を電子顕微鏡で観察すると、積層構造を示す筋状の線は曲線状のものが多く、著しく複雑な積層構造になっていることが認められる。
【0100】
更に、粒子の内部には空隙も多く認められる。
【0101】
特徴的なことは、不作為に選んだ断面であっても、粒子の表面近傍には必ず積層構造の存在を観察でき、粒子表面から中心方向に向けて粒子表面の丸みに沿った曲線状の積層構造が観察できることである。即ち、黒鉛粒子の表面は黒鉛結晶のAB面となっている。
【0102】
以下、このように元々直線状であった積層構造が圧縮力によって曲線状に変化することを「褶曲」と称する。
【0103】
本発明の製造方法により得られる球状化黒鉛粒子は、その内部に圧縮力により褶曲した積層構造を有することを特徴とする。また、粒子の表面付近は褶曲した黒鉛のAB面が積層した構造を有する。
【0104】
また、比較的小さな衝撃力によって加工することにより、予め所定の粒径範囲に粉砕した原料黒鉛粒子が大きな衝撃力によって更に微粉砕されることを抑制し、球状化処理を行うことができる。
【0105】
粉砕作用を抑制する結果、処理の前後において、各黒鉛粒子の体積はほとんど変化しない。従って、鱗片状である原料黒鉛粒子のAB面の平均粒子径とC軸方向の平均厚みを測定して平均体積を計算することにより、得られる球状化黒鉛粒子の平均粒子径を予測することができる。
【0106】
また、通常の鱗片状黒鉛粒子はそのAB面の粒子径に対するC軸方向の厚みの割合がほぼ一定になる場合が多いので、そのAB面の平均粒子径から得られる球状化黒鉛粒子の平均粒子径を予測することができる。
【0107】
即ち、得られる球状化黒鉛粒子の平均粒子径は、多くの場合、原料のAB面の平均粒子径の0.3〜0.7倍となる。
【0108】
本発明の方法で得られる球状化黒鉛粒子を、リチウムイオン二次電池用負極材料、又は燃料電池用セパレータの材料として用いる場合、その平均粒子径は5〜100μmが好ましい。
【0109】
従って、原料黒鉛粒子のAB面の平均粒子径としては、7〜300μmが好ましく、10〜100μmが更に好ましい。
【0110】
このように、原料黒鉛粒子のAB面の粒子径を予め調整しておくことにより、確実に、必要とする粒子径を備えた球状化黒鉛粒子を得ることができる。
【0111】
即ち、本発明の製造方法により得られる球状化黒鉛粒子の粒度分布は非常にシャープであり、篩い分けをほとんど必要としない。従って、本発明によれば、高い収率で球状化黒鉛粒子を得ることができる。
【0112】
本発明の製造方法により得られた黒鉛粒子の球状化の程度は、長軸と短軸の比で表すことができる。
【0113】
即ち、黒鉛粒子の任意の断面において、断面重心で直交する軸線のうち長軸/短軸の比が最大となるものを選んだときに、この長軸/短軸の比が1に近い程、真球に近いことになる。
【0114】
本発明の製造方法によれば、1回の処理で黒鉛粒子の長軸/短軸の比を容易に4以下(1〜4)とすることができる。更に、処理装置での滞留時間を長くすることにより、長軸/短軸の比を2以下(1〜2)とすることができる。
【0115】
黒鉛粒子のタップ密度は、球状化することにより飛躍的に大きくなる。
【0116】
鱗片状黒鉛粒子のタップ密度が0.4〜0.7g/cc程度であるのに対して、本発明の方法で処理することにより、タップ密度を0.6〜1.4g/ccにまで高めることができる。
【0117】
また、黒鉛粒子をプレスして成型体を得、この成型体にプレス方向に電気を流して比抵抗を測定すると、鱗片状の黒鉛粒子を用いた成型体の比抵抗に対して本発明の方法で処理した黒鉛粒子をプレスした成型体の比抵抗は1/2乃至1/5である。
【0118】
このように、本発明の製造方法によれば、原料黒鉛粒子の結晶構造に起因する異方性が大幅に低減された球状化黒鉛粒子を得ることができる。従って、本発明の方法で得られる球状化黒鉛粒子は、リチウムイオン二次電池用負極材料、又は燃料電池用セパレータの材料として使用する際の異方性の問題を解決した黒鉛粒子である。
【0119】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。各物性値は、以下の方法で測定した。
【0120】
〔電気比抵抗〕
断面積2cm2の塩化ビニル製パイプに銅製底蓋を取り付けて、約1gの黒鉛粒子試料をパイプ内に入れ、上方から銅製のシリンダーを挿入し、30MPaの圧力で前記試料をプレスした。
【0121】
次に、プレスした試料の厚み(t)をノギスで測定すると共に、試料の抵抗値(R)をアデックス社製 電気抵抗測定装置AX−115Aで測定した。
【0122】
電気比抵抗(SR)は、次式を用いて算出した。
SR=2R/t(Ω・cm)
【0123】
〔格子定数Co(002)〕
(株)東芝製 X線回折装置XC−40Hを用い、Cu−Kα線をNiで単色化し、高純度シリコンを標準物質として学振法により測定した。
【0124】
〔タップ密度〕
100mlのガラス製メスシリンダーに試料を入れてタッピングし、試料の容積が変化しなくなったところで試料容積を測定し、試料質量を試料容積で除した値をタップ密度とした。
【0125】
〔平均粒子径〕
(株)島津製作所製 レーザー回折式粒度測定装置SALD1000を用いて球状化黒鉛粒子の平均粒子径を測定した。
【0126】
〔外部形状及び長軸/短軸比〕
日本電子(株)製 走査型電子顕微鏡で試料外部形状を観察し、球状化黒鉛粒子の長軸/短軸比、鱗片状黒鉛粒子の厚み及びAB面の平均粒子径を求めた。
【0127】
〔粒子の内部組織〕
ポリエステル樹脂に埋め込んだ試料を定法により研磨し、表面を薄くAuコーティングした後、(株)日立製作所製 電界放射型走査型電子顕微鏡S−4300で観察した。
【0128】
実施例1
平均粒子径3.3mmの中国産黒鉛粒子を遠心ミルで粉砕したものを原料黒鉛粒子とした。原料黒鉛粒子のAB面の平均粒子径は25.6μm、平均厚みは4.1μmであり、粒子の形状を円盤状として計算により求めた平均体積は2100μm3であった。
【0129】
黒鉛粒子の球状化を行う処理装置は、三井鉱山(株)製 MP−2型を用いた。この処理装置の衝撃部材はピン型であり、3列の回転ピンと3列の固定ピンを備え、回転ピンの最外周は直径190mmである。
【0130】
この処理装置は図6に示す構成であり、ローターの回転数が10000rpm(線速度100m/秒)に達した後、原料黒鉛粒子を10 l/秒の空気流に乗せて毎分200g供給した。
【0131】
得られた黒鉛粒子の物性値は次の通りであった。
平均粒子径 : 15.2μm
タップ密度 : 1.18g/cc
格子定数Co(002) : 0.6707nm
電気比抵抗 : 0.0034Ω・cm
【0132】
得られた黒鉛粒子の外部形状を観察すると、図7に示すように球状化されていた。長軸/短軸の比は2以下であり、平均値は1.26であった。
【0133】
また、内部組織を観察して得られた電子顕微鏡写真を図8に示す。この写真から、黒鉛粒子が褶曲した積層構造を有すること、及び概ね黒鉛粒子の表面は黒鉛結晶のAB面と一致していることが確認された。
【0134】
なお、粒子形状を球として平均粒子径から計算により求めた平均体積は1800μm3であり、粉砕が抑制された球状化処理であることが確認された。
【0135】
比較例1
実施例1で使用した平均粒子径3.3mmの中国産黒鉛粒子を、ジェットミルを用いて粉砕した。
【0136】
得られた黒鉛粒子は鱗片状であり、その物性値は次の通りであった。
平均粒子径(AB面) : 8.7μm
平均厚み(C軸方向) : 1.3μm
タップ密度 : 0.47g/cc
格子定数Co(002) : 0.6707nm
電気比抵抗 : 0.0135Ω・cm
【0137】
応用例1
実施例1及び比較例1で得られた黒鉛粒子を用いて下記の条件で電極を作成し、リチウムイオン二次電池用負極材料としての評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0138】
セル : 2極(対照極金属リチウム)
試料量 : 30mg
電極面積 : 2.5cm2
バインダー : PVDF 9質量%
黒鉛スラリー調製溶媒 : 1−メチル−2−ピロリドン
乾燥条件 : 130℃、5時間(真空中)
電解質、濃度 : LiPF6、1mol/l
溶媒/組成 : EC/DMC=1/2(vol)
定電流充電時
電流 : 1mA
電流密度 : 0.4mA/cm2
定電圧充電時
電圧 : 1mV
時間 : 1hr
放電容量計測
範囲 : 1mV〜1.5V
【0139】
【表1】
【0140】
負荷特性は、放電速度を変えたときの放電容量で示した。0.2C、1.0C、2.0C、3.0Cは、それぞれ、5時間、1時間、30分、20分で放電したことを示す。
【0141】
実施例1の黒鉛粒子は、その内部組織観察から、積層構造が褶曲していることが確認され、個々の粒子の異方性が少なくなっている。また、外部形状の観察、タップ密度が高いこと、更に長軸/短軸の比が小さいことから、球状化されていることが認められる。
従って、本発明の球状化した黒鉛粒子を用いて形成した成型体は、配向を生じ難い。
【0142】
実際、上記のように、実施例1でプレスした黒鉛粒子の電気比抵抗値は、比較例1でプレスした鱗片状黒鉛粒子の電気比抵抗値の1/3以下である。
【0143】
更に、球状化した黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材料として使用した場合には、高速放電の場合でも放電容量の低下が少ない。
【0144】
これは、負極に形成した黒鉛層の異方性が少なくなり、黒鉛層の厚さ方向の導電性が高くなったことを示す。
【0145】
応用例2
実施例1及び比較例1で得られた黒鉛粒子を用いて燃料電池セパレータ用成型体を試作し、両者の比較試験を行った。
【0146】
黒鉛粒子400gと、群栄科学工業社製ノボラック型フェノール樹脂200g(溶融開始温度95℃)を、三井鉱山(株)製ヘンシェルミキサー10B型に投入し、攪拌翼を3200rpmで10分間回転させ、混合及び混練を行った。
【0147】
この間に、試料温度は室温から120℃まで上昇した。
【0148】
その後、冷却すると共にミキサーの回転数を1600rpmまで下げて、110℃で2分間攪拌することにより、平均粒子径約100μmの造粒物を得た。
【0149】
この造粒物を小平製作所社製 プレス機PY−50EAを用いて、200℃、10MPaで成型し、120×100×1mmの燃料電池用セパレータ用成型体を得た。
得られた成型体の物性値は次の通りであった。
【0150】
【表2】
【0151】
上記曲げ強度は、JIS K6911−1979法による3点曲げ強度である。また、接触抵抗は、成型体を電極で挟んで通電したときの、単位断面積当たりの抵抗値を示し、電極との接触抵抗を含む厚み方向の抵抗値である。
【0152】
これらの測定値を比較すると、本発明の方法により製造した球状化黒鉛粒子を用いて燃料電池セパレータ用成型体を製造した場合には、この成型体は高い成型体密度と曲げ強度、及びガスシールド性を保ちつつ、高い電気導電性を有することが示される。
【0153】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、黒鉛粒子のAB面が褶曲した積層構造を有する球状化黒鉛粒子を安定して大量に得ることができる。原料黒鉛粒子の粒子径を予め調整しておくことにより、所望の粒子径を有する球状化黒鉛粒子とすることができる。本発明により得られる球状化黒鉛粒子の粒度分布は非常にシャープであり、篩い分けをほとんど必要とせず、高い収率で球状化黒鉛粒子を得ることができる。更に、本発明の製造方法により得られた球状化黒鉛粒子は、高結晶性でしかも結晶構造に起因する異方性が少ないので、リチウム二次電池用の負極材料及び燃料電池用のセパレータ材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 衝撃部材がプレート型の処理装置の一例を示す側面断面図である。
【図2】 衝撃部材がプレート型の処理装置の他の例を示す一部切欠側面図である。
【図3】 衝撃部材がピン型の処理装置の一例を示す側面断面図である。
【図4】 衝撃部材がピン型の処理装置の他の例を示す側面断面図である。
【図5】 従来の衝撃式微粉砕機の一例を示す側面断面図である。
【図6】 本発明の球状化黒鉛粒子の製造方法に用いる製造装置の一例を示す説明図である。
【図7】 実施例1で得られた球状化黒鉛粒子の外部形状を示す図面代用走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】 実施例1で得られた球状化黒鉛粒子の内部組織を示す図面代用走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 ホッパー
2 定量供給機
3 制御弁
4 処理装置
5 電動機
6 サイクロン
7 バッグフィルター
8 ブロア
10、11、12、13、14 ケーシング
20、21、22、23、24 周壁部
30、31、32、33、34 側壁部
40、41、42、43、44、45 回転軸
50、51,52、53、54 供給口
60、61、62、63、64 排出口
70、71、72 衝撃部材
73、75、76、77 回転ピン
74 固定ピン
80、81、82 回転円盤
Claims (7)
- ケーシング内で軸心を中心として高速回転する衝撃部材を備えた処理装置に、衝撃部材の回転軌跡の外側から気流と共に原料黒鉛粒子を供給して回転軌跡の内側から球状化黒鉛粒子を取り出すことを特徴とする球状化黒鉛粒子の製造方法。
- 球状化黒鉛粒子の内部が褶曲した積層構造を有する請求項1に記載の製造方法。
- 原料黒鉛粒子の黒鉛格子定数Co(002)が、0.670〜0.672nmである請求項1又は2に記載の製造方法。
- 原料黒鉛粒子のAB面の平均粒子径が7〜300μmである請求項1乃至3の何れかに記載の製造方法。
- 衝撃部材がピン型衝撃部材である請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法。
- 衝撃部材の線速度が50〜200m/秒である請求項1乃至5の何れかに記載の製造方法。
- 原料黒鉛粒子を気流で搬送して処理装置内に供給する請求項1乃至6の何れかに記載の製造方法。
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